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 こんな高級マンションが訪問販売を許すわけがない。
 そう判断した君は、とっさに口からでまかせを言うことにした。どうせこの警備員に確かめる術はないのだ。

「私はこのマンションの住人の知りあいなのですが、近くまで来たのでちょっと顔を見ようと思いまして」

 些かの動揺も不安も顔に出すことなく、君はそう言って警備員の目を見つめた。気の弱い人間ならこれだけで押しきることができる。だが、相手も警備員になるくらいなのだから、気が弱いと言うことはないようだ。
 真っ向から君の視線を受け止めると、淡々とどの程度の知りあいなのかと尋ねる。

「とても仲の良い友人と言ったところですよ」

 単なる知りあい程度では通してくれないと考え、君は親友、あるいは恋人のようにも取れる言葉を返した。警備員はどこか半信半疑なのか、数回首を揺らすと見定めるように君を頭から爪先まで見つめた。

「訪問販売じゃないんですか?」
「違いますよ」

 鋭い…。と言うより、今の自分の姿とカバンを思い出して疑われない方がおかしいことに気づいた。背広、革靴、カバン…。どこから見ても訪問販売員。とっさに嘘をついたが、失敗だったかも知れない。
 冷や汗を流す君をさらに値踏みするように、警備員は誰を訪ねてきたのかを問いただした。

(ここは正念場だ)

 本能的にそれを察知し、君はゴクリと唾を飲み込んだ。
 さて、なんと答えよう?



 「山岸マユミです」

 「碇シンジです」

 「ヒョンヒョロ下さい」






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