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 君は今、マンションの前の並木道にいる。
 よそから持ってきた木を植樹したのだろうが、それにしても大きな木だ。木の種類まではわからなかったが、ちょっと見ただけで上るのは難しそうだということがわかった。下の方に枝が全くなく、直径が60cmはありそうな幹が文字通りそびえ立っている。
 少年の時ならいざ知らず、すっかり体が重くなってしまった今の君では、たとえ周囲の目を一切気にしなくて良いとしても、登ることは難しいだろう。枝が張りだした部分にだって到達できるかどうか。
 急に肩に担いでいた荷物が重くなった。

(無理だろう…これは)

 脂肪のたっぷり付いた腹を撫でさすりながら、君はこの木を上っている自分自身の姿を想像する。どういう訳か、途中で落ちている姿しか思い浮かばない。実行する前からダメな気配が濃厚だ。
 だが、だからこそ良い写真が撮れる可能性はある。

 少しおどおどしながら周囲を見渡す。
 考えてみればここは表通りと言える。一見、人通りが少なく思えても、どこで誰が見ているかわかったものではない。だが、ざっと見たところ視線はまったく感じられない。

 のるかそるか、決断の時が来たようだ。




 木に登る。

 他の場所に移動する。

 昼飯がまだだ。腹ごなしだ。






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