019
腹が音を立てた。君の胃袋らしく、遠慮などまったく感じられない派手な音だ。苦笑しつつ、食欲を満たすために君は近くにあったコンビニエンスストアに入った。 「いらっしゃいませ」 中に入った君に…というより、開閉する扉に向かって店員がお決まりの挨拶をする。ずんぐりむっくりとした猪首の青年だ。なにかスポーツでもやっているのだろうか。いずれにしろ、見た目は愚鈍そうだ。 ただ店員の視線は君を方をじっと見ている。どうやら先ほど、君が木の前で考え込んでいたのを見ていたらしい。危ないところだったかもしれない。 (人通りが少ないと言っても、人の目はしっかりあると言うことか) そう思うと、この店員は第一印象とまるで違うのではないか。冷や汗を拭いつつ、適当におにぎりやパンなど食料品を物色しつつ君は店内を見て回る。どこともそう変わらない特徴のない店だ。強いて言うなら、やたら防虫用品が多い。 ふと興味にかられて、君は店員になんでこんなに防虫用品が多いのか聞いてみた。 「ああ、それは今埋め立て途中の沼が少し離れたところにあって、そこで蚊が大量に発生しているからなんですよ」 「なるほど」 その情報がこの先どう生きてくるかはわからないが。 いずれにせよ、話しかけたことで店員の注意を引いてしまった。木に登ることは諦めた方が良いだろう。 さてどうする? 食料品だけ買う。 虫除けスプレーも買う。 |