016


 幹をしっかりとつかみ、体を支えながら君は右足を幹に引っかけた。
 上手い具合に足は滑り落ちることなく、君の体を一歩持ち上げる。
 これならなんとかなりそうだ。

 君はほくそ笑みながらずりずりと木を登っていく。中学、高校の頃は猿のように木々に登り、女子更衣室を盗撮しまくった腕は衰えていない。が、そこに油断があったようだ。
 次の枝までもう少しと言うところまで来たとき、突如足下がなくなった。違う、摩擦の少ない革靴が滑ったのだ。

 !?

 パニックに陥った君はなにがどうなったかわからない。
 動転したまま君は枝をつかもうと手を伸ばすが、枝は無情にも君の体重を支えることができなかった。パキリと乾いた音を立てて枝はへし折れ、君の体は背中から真下に落下する。

 ドサリと重い音を立てて、君の体は枯れ葉の溜まった地面にたたき付けられる。
 息が詰まり、背骨が痛む。屈辱と苦痛で泥で汚れたであろう上着以上に、君の心と体は打ちのめされる。

 体力点を減少させよ。



 涙目になりながら、自分自身の怠惰な暮らしぶりと運動不足を痛感し、君は情けない気持ちになった。
 しかしここで泣くわけにはいかない。はっきり言って君は奇行を繰り広げてしまったのだ、周囲の耳目を集めてしまった可能性は高い。ふと少し離れたコンビニエンスストアに目を向けると、店員がこっちを見ているような気がする。

(まずい!)

 急いでこの場を離れなければ!





 木に登って身を隠す。

 とにかく走る。






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