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 逃げても逃げられないと判断した君は、ここで相手を迎え撃つことにした。それに冷静になって考えてみれば、君は木に登ろうとして失敗しただけだ。確かに、おかしな行動だがどうとでも言い訳ができるはずだ。

(落ち着け、俺。完全数を数えるんだ。6,27だったか28だったか…。
 冷静になれば簡単に切り抜けられる)

 そうこうする内に警官は君の目前にまでやってきた。
 かなり急いできたのだろう、傍目から見ても大げさなほどに肩を大きく動かし荒い息をし続けている。それによく見れば髪の毛は白髪がかなり混じっているのが見て取れた。老骨に鞭打っての全力疾走は、察して余りある。
 こんなところで戦争の後遺症…人手不足を認識する羽目になり、少しばかり気持ちが沈む。本来ならとっくに定年を迎えたはずなのに。それが警官になる(なれる)若者の数が少ないから、彼のような老人がいまだにパトロールなどをしなければならないのだ。
 しかし、そうだとすると話は少しばかり変わってくる。
 恐らく、彼はこの近辺に詳しいだろう。自転車も使わずゆっくりと散歩するようにこの町をパトロールしていた。そんなところのはずだ。
 うまく誤解を解けば、情報を引き出すことができるかもしれない。
 逆に余計な疑惑を呼ぶかもしれない。

(いざとなったら実力ででも勝てるかもな)

 腰のホルダーに見える銀色の光…手錠を盗み見ながら君は何気ない顔をする。

 やがて落ち着いたのか、老警官は深い皺の刻まれた顔をゆがめて君を詰問をはじめた。


「はあ、はあ、はあ…いったい、君は何をしていたのかね?」

 中学時代の同級生を陵辱するためのネタを探していたんだよ!

 などと馬鹿正直に言うわけにもいかない。言えたら大したもんだ。
 それはともかく、君は静かに無表情を装って考える。逃げるのは余計な疑いを呼ぶだけで下の下の策、戦いは最後の手段…。
 さて、どう対処するべきだろう。



 戦う

 話す

 逃げる






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