どうやら、萩原が心変わりしたのって、俺の勘違いだったみたい。俺を見下ろすこの甘ったるい視線。萩原、お前、俺のこと好きだよな?
えへへ。俺もお前のこと、大好きだよ。早く自分の気持ちに気がつかなくてゴメンね。でも俺、ちゃんと間に合ったよね? 萩原が俺に愛想尽きちゃったかと思ったとき、俺、すごく辛くて苦しくて悲しかったよ。男なのに情けないと思うけど、俺、いっぱい泣いちゃった。俺に優しく触れるお前の指が、もう俺のものじゃないんだと考えただけで、死んでしまいそうなほど胸が痛かった。 でも、さ。あれだけ苦しんだから、鈍い俺でもようやく気が付くことが出来たんだ。お前のことを、誰よりも愛しいと思ってるって。 萩原の新恋人!? と思った一年生は実は武藤の恋人だった。なんていうか、武藤が『抱く側』だったのには驚いた。 だってさ、武藤って、仔犬系の愛らしさを誇る、超が付く美少年なんだよ? ……うん、でも、まあ……。性格は男っぽいというか……。けっこう攻め気な性格してるから、納得できないわけじゃないけどね。 東雲くんも、すっごく一途に武藤のこと想ってるみたいだし、お似合いの二人だよね。ふふ。二人が並んでるとこ、小動物が寄り添ってるみたいで可愛かった。微笑ましいってカンジ。もっとも、二人の関係は俺たちよりもずっと大人なんだけど……。 「あ、ちょっと待って、萩原」 「ん? どうした、十夜?」 お恥ずかしながら俺たちは、その、えっちをする直前である。 あれから俺たち、結局、授業をさぼってしまった。俺が早く二人きりになって萩原にぎゅーってして貰いたかったのと同じように、萩原も俺と二人きりになりたいって思ってくれたみたい。二人とも急ぎ足で、途中からは駆け足で、俺たちは萩原の部屋に辿りついた。やっと萩原の部屋に着いたとき、俺たちは荒い呼吸をしながら顔を見合わせ、思わずくすくすと笑ってしまった。 そしてキス。 萩原は俺をそのままベッドに押し倒そうとしたけど、俺は最初にシャワーを浴びたいって萩原に頼み込んだ。綺麗に体を洗ってから抱かれたいって言ったら、萩原にお前はどこもかしこも綺麗だと、首筋を痛いぐらいきつく吸われた。 「ん……や……。お願い、萩原……」 俺が涙目で訴えると、萩原はしぶしぶ俺の体を解放してくれた。 本当に萩原は俺に甘い。でも、一緒にシャワーを浴びることを約束させられちゃったけど。 「あ、そうだ。俺、萩原に聞きたいことある」 「なんだ?」 萩原は俺のシャツのボタンを外す手を止めないで、俺に続きを話すように促した。 「あのさあ。最近、萩原、俺のこと避けてたよね。あれってなんで? ……だから、俺、萩原が俺のこと好きじゃなくなっちゃったかと思って……」 あのときの辛い気持を思い出し、俺は止める間もなくほろりと涙を零した。 俺の泣き顔を見て萩原はうろたえた。俺の体を抱きしめながら、あやすように頭を撫で、何度も顔中に優しくキスしてくれた。 それでやっと俺は安心することが出来た。 「……あれは、お前が武藤のことを好きだと思ったから……。だから別れてやらなきゃならないって思ってた。だけど俺は意気地がなくてな。どうしても別れようと言えなくて、結果的にお前を避けるようになっちまった……」 そうかぁ。そうだったんだ。でも俺に別れようと言えるような意気地なんてないほうがいいよ。マジで。 ――それにしても、なんで萩原は俺が武藤のことを好きだと思ってたわけ? そりゃ昔は好きだったけど。でもこのごろは俺、頭ん中、萩原でいっぱいだったぞ。 「その、萩原。今だから告白するけど、俺、昔は武藤のこと好きだった。でも今は萩原のことが好きだよ。俺が抱き合いたいって思うのは萩原だけだ」 「ああ。お前の言葉を信じるよ」 萩原は生真面目な顔をして言った。真剣な眼差しをした大人な表情の萩原がめちゃめちゃカッコよくて、俺は思わず見惚れてしまった。 俺が萩原のかっこ良さにうっとりしていると、萩原はとんでもないことを口にした。 「俺も、今だから告白しよう。……すまん、十夜。俺はお前が武藤のことを好きだと知っていた。知っていて武藤の勘違いを利用して……俺はお前を恋人にした」 「…………」 ――…………………………………………えええええええええええ!? ――し、し、し、知っていたって萩原……。 「本当はすぐにお前を解放するつもりだった。ほんの少しの期間でも、俺は夢を見ていたかった。だが、お前は優しいやつだから、俺の恋人ごっこに付き合ってくれて俺を大切にしてくれた」 ちょっと待て、萩原っ! 俺は、お前が知らないと思って、お前を騙していると思って、めちゃめちゃ苦しんでいたんだぞーっ!! 「あの日、屋上でお前から別れを切り出されたとき、やっぱりって思ったよ。けれどお前を諦め切れなくて、俺はみっともなくお前にすがり付き……卑怯にも、またお前の優しさに付け込んだ」 萩原は、とても苦しい顔をしていた。 だから俺は、怒れなくなってしまった。ううん、怒るどころか……萩原は苦しんでいるのにこんなことを言うのもなんだけど……嬉しくなってしまった。 萩原はどんな手を使ってでも、俺のことを手に入れたかったんだ。なりふり構わず俺の恋人であろうとした萩原が、俺は愛しくてたまらなくなった。 「叔父さんの店から帰るとき、お前は俺に抱かれてもいいと言ってくれた。叔父さんから俺の事情を聞いていて、同情から、俺の誘いを断らなかったのだと思った。それでも構わなかった。お前の肌に触れられるのなら同情でも構わなかった」 「…………」 確かに萩原の言うとおり、叔父さんから俺のことが原因で親から勘当されていると聞き、ほだされたってとこはあったかもしれない。あの話を聞かなければ、あのときすぐにOKの返事を出せなかったかもしれない。 でもそれって、早いか遅いかだけの違い。 だからあれはただのきっかけ。 いつか俺はお前に捉まるって、あの頃から分かっていたから。 「けど、お前が武藤の写真を大切に持ち歩いているのを見て、俺は目が覚めた。お前はもともと一度だって、本当の意味では俺のものではなかった。だから今度こそお前を手放さなければいけないと。俺はお前を抱くべきじゃないと……」 目元が赤い。萩原は泣くのを堪えているようだった。 写真って、武藤の学園祭のときの写真だよね。そう言えば俺、こっそり生徒手帳に武藤の写真を入れていたような……。 萩原が誤解するのも当然かも。 でもあれは違うんだ。萩原が思っているような意味で持っているわけじゃない。写真の武藤をカワイイとは思ったけど、今の俺にはそれ以上の気持ちなんてないんだ。 「……なのに俺は、どうしても思いつかなくて。ずっと考えていたのに、どうしても、お前を諦める方法が分からなくて……!」 「もういいよ、萩原。諦める必要なんてない! 俺も、俺だって、萩原のこと、ちゃんと好きだよ」 これ以上苦しそうな萩原を見ていたくなくて、俺は萩原の体をぎゅっと抱きしめた。 ――ああ、もう、萩原。お前はなんてカワイイ男なんだよ! 俺なんてたいしたヤツじゃないだろ? なのに、どうしてそんなに、俺のことが好きなんだよ! 「写真は、ただ、赤頭巾ちゃんの格好が可愛くって、持ってただけ。別に未練があったからってわけじゃない。でも、誤解させてゴメンね? あの写真は東雲くんにでもあげることにするよ。代わりに萩原は、俺に写真を一枚くれなきゃダメだよ。今度はちゃんと……萩原の写真を持ち歩くからさ」 そっかぁ。俺も誤解してたけど、萩原も誤解してたんだね。二人とも誤解であんなに苦しんで、なんか、ばかみたい。 そういえば、恋人同士になれたのは、武藤の誤解が原因だったね。 誤解が原因でくっつくのはいいけど、誤解が原因で別れるのはイヤだな。もう二度とこんなことがないように、俺たちちゃんと気持ちを確かめ合わなくっちゃ。 言葉だけでなく、体でもね! 「萩原、シャワー浴びよう。早くお前と抱き合いたいよ」 恥ずかしかったけど、俺は服を脱ぎ捨て全裸になった。萩原のほうをちらりと伺うと、萩原は俺の体に視線が釘付けになっていた。口からは涎をたらしそうな勢いだ。 ――おいおい萩原。お前、すごくがっついた顔してるぞ。イイ男が台無しだぞ? 萩原は無言で俺の全身を、嘗め回すように眺めている。俺は再び服を身に付けたくなってしまった。だって……恥ずかしい。もう、萩原、お前、すっごく視線がすけべだぞ! 萩原は俺の体を見るのに忙しくて、すっかり自分の手はお留守になっている。 「すっげぇ、キレイ……。カンドー……」 萩原の感想に、俺は顔を赤くした。これ以上、萩原に見られているのに耐えられなくて、俺はバスルームに逃げ込んだ。 「十夜……」 物欲しげそうな、情けない萩原の声。俺は萩原に体を見られないように、ドアの隙間から顔を覗かせて言った。 「服脱いで早く来て。一緒にシャワー浴びるって、約束したでしょ?」 俺の言葉を聞いて萩原は、ものすごい勢いで服を脱ぎ始めた。 その余裕のない感じが、萩原も俺と同じ高校生なんだなーって実感できて、ほっとした。 シャワーを浴びながら、俺はどきどきしながら萩原がやって来るのをまった。 ――ひゃー。めちゃめちゃ緊張する……。 「十夜」 「萩原……」 萩原の裸をじっくり観察する間もなく、すぐに腕の中に抱きしめられた。 熱い。 萩原の体は熱かった。 耳元に萩原の荒い呼吸がかかる。 ――は、萩原っ。鼻息が荒いぞ! それに、お前の固くなったアレが、お腹んとこに当たってるんですけど……!! 「信じられねぇ。お前にこんなふうに触れるなんて……」 萩原は歓喜の声を上げ、唇と手で俺の体を弄り始めた。 ――ひっ。どこ舐めてるんだ、萩原っ! 手、手がっ! ばか、そんなとこ触るなっ!! 止める間もなく萩原は俺の体を好き勝手に貪った。萩原は俺の足の間に跪き、なんと、信じられないことに……。 うわああああああああ、き、汚いじゃん! まだシャワー浴びてないんだぞ!! そんなもん、口に含むなーっ!!! 「や、萩原っ! やだ! 離して!!」 離して欲しいと懇願したのに、萩原は離してくれなかった。獣のように血走った目で、俺の性器を乱暴にしゃぶっている。 ――やだ。怖い……。 この場所において萩原はオスで、俺は服従されるメスだった。男の欲望を剥き出しにして、俺の性器を舐める萩原に俺は恐怖を感じていた。 「ふっ……えっく……や……。そんなに乱暴にしちゃヤだ……」 ――…………………………………………………………………………。 ――…………………………………………………………なんちゃって。 秘技、泣き落とし。 別名、嘘泣きとも言う。 萩原が血気盛る高校生だってことは分かってるけど、でも、もっとロマンチックにしてくれなきゃやだ。ただでさえ、えっちするの初めてで俺、びびってんだぞ。 優しくしてくれなきゃ許さないぞ! 「お願い……。優しく、して……?」 俺は涙を溜め込んだ目で、萩原の顔を覗き込んだ。萩原は目が覚めたような顔をし、ついで顔を赤らめた。 「すまん、十夜。俺、かっこわりぃ。すげぇがっついた……」 萩原は手の甲で口元を拭い、恥ずかしそうな顔で俯いた。顔は羞恥で染まり、耳の先まで赤くなっている。 ――……萩原……カワイイ。 先ほどの恐怖も忘れ、カッコイイ男のカワイイようすに俺は心をときめかせていた。 「萩原、俺、背中ながしてあげるね」 俺はにっこり微笑み、スポンジ片手に萩原の背中を磨き始めた。筋肉の付いた逞しい背中に陶然としてしまう。背中だけじゃなくて、萩原は全体的に、バランスよく筋肉が付いている。 背中だけのつもりだったけど、面白くなって萩原の手や膝の裏も丁寧に擦った。 「十夜、前も洗ってくれないか?」 「あ、うん……」 正面に回るとイヤでも目に入るのが、萩原の股間についているご立派なイチモツ。 ――うーん。コレが俺の中に入るんだよねぇ? こんなでかいの……入るのか? 武藤、初めてのときは裂けたっつってたな……。俺もやっぱ裂けちゃうのかな……。 俺は不安になりながら、萩原の首から下を洗い始める。首、胸、腹、そして……。 ――ココもやっぱ、洗わないといけないんだよねぇ……。 「十夜……」 さすがに恥ずかしくて、躊躇っていたトコロを洗うように手で促される。 ――萩原の、えっち……。 敏感なソコをスポンジで洗うわけにはいかないので、手のひらにボディーソープを零し両手を擦り合わせて泡立て、俺はどきどきしながら萩原に触れた。俺が指を絡めると、ソレはさらに成長した。 「んっ……」 萩原が気持よさそうに目を細めて喉を鳴らした。 「萩原、気持ちイイの?」 「うん。気持ちイイ」 素直に萩原は頷いた。 ――萩原……カワイイ。 恋人の大切な部分を初めて触り、俺は力いっぱい興奮していた。 俺と萩原の身長は同じぐらい。だから俺は、苦労しないで萩原にキスすることができた。顔をわずかに傾け萩原の唇に軽く唇を重ねながら、俺は萩原のモノを右手で扱いた。 「十夜、もう……」 「うん。イっていいよ……」 萩原は端正な顔を歪め、切ない声を漏らして達した。俺は萩原の放出したものを、手のひらで受け止めた。 自分が与えた刺激で萩原がイったのかと思うと嬉しい気持ちになった。 俺は、初めて見る萩原の精液をまじまじと見詰めてしまった。左の人差し指で手のひらをつつき、粘度の高さを確認してみる。 すると萩原に真っ赤な顔で、さっさと洗い流せと言われてしまった。仕方がないのでお湯で手のひらの体液を洗い流した。 放出したばかりで萎えた萩原のモノももう一度洗い直し、足先まで綺麗に洗い終わると、今度は萩原が俺の体を洗ってくれた。萩原はスポンジを使わず、手のひらで俺の体の表面を撫でていった。 「あっ……」 萩原は迷いなく俺のモノに手を伸ばした。すでに半立ち状態だったソレは、萩原の手の中で簡単に大きくなった。 「十夜、今、お前、すごく色っぽい顔してる……」 「そんな……こと……ああっ……!」 他人に触られることに慣れていない性器は、あっさりと頂上までたどり着いた。射精の余韻に浸りながら、俺は萩原と何度もついばむようなキスをした。 「泡を流してベッドに行こうぜ。俺、また立ってきた……」 萩原が余裕のない声で囁く。 「……うん。ベッド、行こう……」 しっかり全身を萩原の手によって洗われてしまった俺は、素直にこくりと頷いた。体の水滴をバスタオルで軽く拭き取り、二人はベッドに倒れこんだ。好きだ、愛していると言いながら、萩原は俺に深い口付けを施した。 「奇跡みたいだ。信じられない。夢じゃないだろうな? お前が、裸になって、俺のベッドの上に寝そべって。……この俺に抱かれてもいいなんて……」 「夢じゃないよ。萩原、好きだよ。愛してる」 俺を組み敷きながら、不安そうなようすの萩原の頭を、俺は優しく撫でてやった。 「すげぇ……。まさか、お前を抱けるなんて……」 萩原が、出来る限り足を大きく開いて欲しいというので従った。膝を折り曲げ股をおっ広げたようすは、さぞかしみっともないに違いない。だが俺にはかっこうを気にしている余裕などなかった。萩原にもなかったに違いない。 ――とうとう、俺、萩原と繋がるんだ……。 心臓がばくばくする。今まで生きてきた中で、これほど緊張した瞬間ってあったっけ? 高校入試のときにもこれほど緊張しなかったぞ! 萩原が昂ぶりを俺の後ろに押し付けた。真剣な顔で萩原は位置を確かめている。 ――いよいよだ……。 「十夜、入れるぞ」 「うん……」 萩原がぐいっと腰を押し付けてきた。先端がぐりりと俺の中に潜り込んできた。その瞬間……。 「…………………………………………!!!!!」 ――…………………………………………………………。 ――…………………………………………………………。 ――…………………………………………………………。 ――…………………………………………………………。 ――…………………………………………………………。 ――…………………………………………………………。 ――…………………………………………………………。 ――…………………………………いってぇーっ!!!! 激痛が脳天まで付きぬけ、俺は一瞬声を失った。 ――痛いっ! めちゃめちゃ痛いっ!! 死にそうなほど痛いっ!!! 「痛いっ! 萩原、痛いっ!! ダメ! 無理! 抜いてっ!! 痛いーっ!!!」 俺の悲鳴に驚き、萩原は慌てて俺の中から引き抜いた。 「………………………………………………………」 「………………………………………………………」 そして、気まずい沈黙。 俺の悲鳴に驚いたのか、萩原のモノも萎えかけていた。俺のモノもすっかり柔らかくなっていた。 このとき俺たちは、『初体験』が失敗に終わったことを同時に悟ったのだった……。 ――こ、この期に及んで……俺って……サイテイ。 俺は泣きながら枕に顔を埋めた。自分が情けなくて、あまりにも萩原に申し訳なくて、萩原に合わせる顔がない。 でも、痛かった。ものすごく痛かった。あのまま続けられたら俺は大変なことになっていた。どうしても耐えることが出来なかった。 ――痛かった……ちょびっとしか入ってないのに痛かった……。やっぱり……萩原の、あんな太くて大きいのが、入るはずがなかったんだ……。 俺と萩原は、結ばれることのない運命なのかもしれない。 まさに土壇場で逃げた俺にさすがの萩原も愛想が尽きたはずだ。 「萩原、ゴメン……」 「十夜……」 顔を見なくても分かる。声だけで分かる。萩原は今、哀しそうな顔をしている。 ――俺のせいだ。 俺はまた萩原を傷つけてしまった。 「……俺、きっと、萩原に相応しくない……。……やっぱ、別れたほうがいいかもしれない……」 萩原ほどの男なら、男女問わずもてるだろう。俺よりもはるかに相応しい恋人がすぐに出来るに違いない。萩原のことを体でも心でも受け止めることが出来る相手がすぐに現れるに違いない。 別れたほうがいいんだ。俺より萩原のことを幸せに出来る人間は大勢いる。 哀しいけど仕方ない。 だって俺は、萩原とセックス出来なかったんだから……。 「なんでこんなことでお前と別れなきゃなんねぇんだよ!」 萩原は怒ったような口調で言った。 「……だって萩原……」 「体だけが目当てだったらとっくの昔にお前を押し倒して犯してた。そりゃ俺も男だし、ヤりてぇよ」 「…………」 「でもな、お前のこと傷つけてまでなんて、絶対に思えない。俺、お前に、めちゃめちゃ惚れてるんだ。お前が俺の傍にいてくれるなら一生童貞でも構わない。一生キヨラカに生きてやるよ」 萩原は真剣な眼差しできっぱりと言い切った。 「萩原〜っ」 俺は枕に抱きつく代わりに萩原に抱きついた。やっぱり萩原はイイ男だ。寸止めをされて怒らない男はそう多くはないだろう。だけど萩原は、セックスしなくても、変わらず俺のことを好きでいてくれると言ってくれた。土壇場で怖じ気づいた俺を許してくれた。 好きになってよかった。 俺の恋人は、こんなにもイイ男なのだ。 「と、十夜っ。その、入れなくてもいいから……口でしてくれないか?」 「……………………萩原?」 ロマンチックな気分に浸っていたところに恋人の口から即物的なことを聞かされ、夢から覚めた気持ちになった。 「わりぃ、カッコイイこと言ったけど……その、お前が裸で抱きつくから、俺、痛いぐらいに立っちまった……」 うううううううむ。 口でってことはフェラチオってやつかぁ。 ――フェラチオって、あのフェラチオかあ……。 うううううううむ。 ――…………………………………………………………。 ――やだなー。ちょっと抵抗あるな……。萩原はさっき、俺のを口ん中に入れてたけど……。 ――ここで躊躇っちゃうってことは、俺って愛が足りないってこと? むむー。口でかあ……。 でもさ、後ろを使ってのセックスはダメで口もダメってなったら、萩原、欲求不満で浮気しちゃうよぅ。それはヤダー。というかここでNOと言ったら、俺ってほんとに誠意のないヤツだよなー。萩原は俺がイヤだと言うから、あの状態で引いてくれたのに……。 ――それに、やり方なんて、当たり前だけどわかんないし。 ――けど、口なら痛くないよねぇ……。 「……俺、上手くないと思うよ。やったことないし……」 「お前がばりばり経験豊富でソープ嬢並のテクニックを持っているほうが俺はイヤだ」 それはそうかも。俺も萩原がばりばり経験豊富だったらイヤだ。 「……俺、こーゆーえっちなことするの、萩原が初めてなんだけど……萩原は……?」 「……俺も、十夜が初めてだよ。だからめちゃめちゃ余裕ない。……入れたとき十夜が痛かったの、俺のやり方が悪かったのかもしれない。今度、叔父さんにちゃんと聞いとくから……」 萩原は恥ずかしそうな顔をして言った。普段の萩原は滅多に動揺しない人間なので、こーゆー表情をすることは稀だ。今日は萩原の珍しい顔をいっぱい見ることが出来た。 ――萩原……カワイイ。 萩原のハジメテの相手が俺だと知って、俺はものすごく嬉しくなった。萩原はもてるから、絶対に経験済みだと思ってた。 だったら、入れたとき痛かったのって、仕方ないのかもしれない。男女のセックスでも初めて同士って痛いって言うし……。 ――ってことは当然、萩原に口でやってあげるのも、俺が初めてってことなんだよね……。それって嬉しいかも。 「……その、俺、どっちみち長く持ちそうにないし……。ダメか?」 「ううん、ダメじゃない」 俺はにっこり笑って、萩原の頬にキスをした。 ――俺も武藤たちに、ちゃんとやり方聞いておくからね。次こそは最後までしようね! ベッドに仰向けに寝てもらい、俺は萩原のモノにそっと唇を寄せた。まずは先の部分をぺろぺろと舐めてみる。 「ああっ……」 萩原は気持ちよさそうな色っぽい声で喘ぎ、太ももをピクリと痙攣させた。顕著な反応に気をよくして、俺は思い切って萩原の全部を口に含みいれた。喉の奥に萩原の先端が当たって少し苦しかったが我慢した。 歯を立てないように注意しながら、頭を上下にゆっくり動かし始めた。口だけでなく、指も使って萩原に奉仕した。自己申告どおり萩原は長くは持たなかった。 「十夜、もういいから……顔、離して……出る……」 萩原に促されて俺は自分の口から萩原のモノを引き抜いた。とたんに萩原のモノは、どくどくと脈打ちながら大量の液を噴出した。避け損ねて俺はソレを顔に被ってしまった。顔中が萩原の精液だらけになる。 「ゴメン、十夜!」 萩原は慌てて、ナマ暖かいシャワーを浴びて呆然としている俺の顔をタオルで拭いてくれた。 「わりぃ。へーきか? 目に入らなかったか?」 「あ、うん。へーき。びっくりしただけだから……」 最後に顔にかけられたのにはびっくりしたけど、俺のフェラチオ初体験は成功したみたいだ。 「今度は俺が舐めていいか? 俺、十夜の、舐めたい」 「……うん」 浴室で乱暴にしゃぶられ怖かったことを思い出したけど、俺は頷きさきほどの萩原と同じように仰向けに寝転んだ。今度は乱暴すぎず優しすぎず、絶妙な強弱で刺激され、気が遠くなりそうなほど気持ちが良かった。 萩原と同じように、俺も長くは持たなかった。出る直前に離してと言ったが聞き入れられず、俺は萩原の口中に射精した。驚いたことに萩原は、俺の精液を飲み干してしまった。 「……おいしいの?」 「おいしくはないけど……十夜のだから……」 萩原はちょっと照れたように笑った。 「今日は生きてきた中で一番幸せな日かもな。十夜が初めて好きだと言ってくれて、こんな風に抱き合えて」 心底幸福そうな顔で微笑みながら、萩原は言った。 「最後までできなかったのに?」 フェラチオしあっこをした後で、俺たちは裸のままベッドの中でいちゃいちゃしていた。萩原に腕枕なんてしてもらっちゃったりして。 我ながら、なんか、いかにも恋人同士っぽくていい感じって思ったね。幸せな気分なのは俺も一緒。でも、最後までイかなかったことが、ちょっとだけ心にひっかかっていた。 「そりゃ、ちょっとは残念だったけど。でも、今日一日でいっぺんに経験しちゃうのも、なんかもったいない気がするから。かえってちょうど良かったって思うぜ」 ――萩原………………健気なヤツ。 一年生二人に頭を下げてでもレクチャーしてもらい、萩原と繋がれる方法を身に付けてこなければと俺は強く思った。 一つの毛布にくるまり素肌を触れ合わせてじゃれていたら、気が付けば外はすっかり暗くなっていた。冬だから暗くなるのは早いとはいえ、もう何時間も二人でこうしていたわけだ。幸せすぎて……時間、あっという間に過ぎて行ったな〜。 「……十夜」 「なに?」 「その、擦り合わせて、いいか?」 「? どこを?」 萩原は言葉でなく実際にやって見せてくれた。俺の上に跨り、自分と俺の性器を手で掴み、ゆっくりと腰を動かし始めた。平常状態だった俺のモノも、萩原の硬いモノとぶつかり合って硬度を増やし始めた。 「どうだ? 十夜。これなら気持ちいいか?」 一回動きを止めて、萩原は怖々と俺に尋ねた。萩原は俺が嫌がることは一切しない気なのだ。 「うん。イイ……気持ち、イイよ……」 俺の言葉に萩原は嬉しそうに微笑み、萩原は動きを再開させた。 ――う……マジで……イイ……。 リズミカルに萩原と俺のモノが擦れ合って、快感はますます大きくなってくる。 たまらない。 気持ちよすぎて涙が出てきた。 「ん……。あんっ……」 「十夜……お前、すげぇ、キレイだ……」 覆いかぶさった萩原の体から滴り落ちてくる汗さえも刺激になった。俺はシーツをきつく握り締めて身悶えた。 「ああんっ……あっ……あっ……。萩原っ……イイ……」 「くっ……。可愛すぎるっ……」 萩原は俺の腹の上に欲望をぶちまけながら、噛み付くようなキスをしてきた。俺も萩原の後を追うように、すぐに解放を迎えた。濡れた下半身が気持ち悪かったけど、それよりもっと萩原と触れ合いたくて、萩原に強くしがみついた。腹の間で萩原の精液と俺のものが混ざり合う。 「十夜、好きだ」 「俺も好き」 最後までいってなくても俺は十分満足してしまった。初心者同士だったからたどたどしいところもあったけど、それはそれでよかった。 ――萩原がばり慣れてたら、そのほうがむかつくもんっ! 「俺、萩原以外とはえっちしないから、萩原もしちゃダメだからね」 「ああ、しない。俺は十夜がいればそれで幸せだから」 微笑み合って、もう一度キス。そして体液で汚れた体を一緒にシャワーを浴びて清めた。 俺が怖気づいたせいで繋がることは出来なかったけど、初めてにしては、上出来だったんじゃないでしょうかね? 残念ながら翌日は学校なので泊まるわけにもいかず、夜になってから俺は家に帰った。萩原と別れがたかったけど、仕方ない。 家に帰ると母親に叱られた。俺はどうやら、気分が悪くて早退……ということになっていたらしい。 「気分が悪い人間が、一体どこをほっつき歩いていたの!!」 「ごめんなさい……」 と、ここで神妙な顔を作らなければいけないのだけれど……思わず、にやけてしまう。顔がっ! だって俺、めちゃめちゃ幸せな気分だし! 「なにへらへら笑ってんのよ! あんた反省してないでしょ!?」 「そんなことないよ」 と言いつつ、逞しい萩原の体や初めて触れた萩原のアレとか、口に含んだ萩原の感触や舐められたときの快感などなど思い出し……。 ――キャーッ! 俺ってばスケベ!! ハズカシー!!! 「もう、いいわよっ! あんたなんか知らないっ!!」 ――………………………………あ。 俺が恋人との甘い時間の余韻に浸っていたら、お母さんはとうとうキレてしまった。 ごめんね、お母さん。今、俺の頭の中は萩原でいっぱいで、他のこと考えられないの。 反省はちゃんと明日するから。 …………………………多分ね。 |