【恋ってね! 萩原×十夜 バカップル編 -02-】
 
 
【十夜視点】

「今日こそ俺、頑張るっ!」
昨日は、そのう、勇気を出して騎乗位をしようって思ったものの、結局恥ずかしくてリタイヤしてしまった。最後のほうは萩原に思いっきり気持ち良くさせられちゃって、ワケ分かんなくなっちゃったし。……ほんとは俺が、萩原のことを気持ち良くさせてあげるはずだったのにぃっ!
途中までは上手くいってたんだよね。裸エプロン姿、萩原、喜んでくれてたみたいだし……。
だから今日も、男の人が喜んでくれそうな衣装を用意してきました! じゃじゃじゃんっ!!
えーっと、今日の衣装はなんと猫耳と尻尾っ。リボンと鈴もちゃんとセットで付いてきてるんだよ? メイド服とかセーラー服とかもカタログ見ながらいいかなーって思ったんだけど、考えて考えた末にこの衣装を購入! だって萩原、猫好きなんだもん。だからいっかなーと思って。お店で買うのはさすがに恥ずかしいから、インターネットの通販で買ったんだ。
俺は服を脱いで、さっそく頭には猫耳、首にはリボンと鈴を付けた。鏡の前でチェックして、歪まないように丁寧につける。俺、不器用だから、けっこう時間掛かっちゃった。尻尾は……。
うう。これ、かなり恥ずかしいかも……。
猫っぽい、長くてふさふさした形良い尻尾。普通の猫の尻尾より大きいけど、良く出来てて可愛いって思うよ。でも、さ……。問題はこの尻尾の付け方。一方は柔らかい毛で覆われた尻尾。もう片方はプラスチックの棒が付いてて、ちょっとえっちっぽい形をしている。
……なんか、お尻の中に入れるみたい……。
みたいっていうか、それしかないよね。
リモコンも付いてて、そのぅ、どうやらバイブレーター機能もあるみたいだ。
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……この衣装、なんだかとってもエロくない?
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…………うえええええんっ。エロいよっ!!!
……昨日の裸エプロンより、絶対絶対エロいよっ!!!
「……………………………………………………」
俺は裸に猫耳と鈴とリボンを付けただけの格好で悩んでしまった。
……でも、さ。恥ずかしいけど、よりえっちっぽい格好のほうが、萩原を喜ばせることが出来そうじゃない?
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「よし!」
俺はプラスチックの棒の部分にたっぷりとローションを垂らした。で、恥ずかしかったけど、俺はそうっとそれを自分の中に挿しこんだ。
「〜〜〜〜っ」
ローションのおかげで滑りが良くなったから、それはずぶずぶと抵抗なく俺の中に飲み込まれていった。最後まで押し込め終わり、俺はほっとため息をついた。
「ん〜っ」
違和感。
でも萩原のためだし、我慢っ!
尻尾の部分も鏡に映してチェックする。
……う。お尻から尻尾が生えてる。
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……うえええええんっ。やっぱエロいよっ!!!
「ううううう。これで萩原が喜んでくれなかったら、俺、泣いちゃうからね?」
さすがに裸のままだと風邪を引いてしまいそうなので、シャツを一枚羽織ることにした。
「? あれ?」
なんだか俺の体には大きすぎるような……。あ、このシャツ、萩原のだった。
んー。でも、ま、いっか。このまま外出するわけじゃないしさ。
萩原の白いシャツは着てみるとぶかぶかで、服の中で体が泳いでしまった。高校二年生のときは、身長、同じぐらいだったのにな。今では俺より萩原のほうが十センチ以上は高くて、横幅も俺よりあって……。萩原に抱きしめられると、包まれてるって感じで、すごく安心するんだよね。
「……萩原、早く帰ってこないかな?」
一人でこんな格好しててもバカっぽいよ。萩原に見せるために、こんな格好してみたんだからね?
シャツ一枚だけじゃ肌寒くて、俺は布団に包まって萩原を待った。そのうち眠くなった俺は、本物の猫みたいに丸くなって、うとうととし始めた。





【萩原視点】

「……………………………………………………」
……おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。
……すっげえ可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて、可愛くてたまんなくて、俺、心臓バクバクしちまってるぜ……。
……興奮のあまり手が震えてる。くそっ。なんつーカワイイ光景なんだよっ!!
家に帰ったら布団の中で十夜が眠っていた。十夜の可愛い寝顔を見ようと布団をめくったら……。
「…………………………!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
猫耳!
尻尾!!
リボンに鈴!!!
しかも身に付けているのは俺のシャツか? 十夜は素肌の上に、俺のシャツ一枚だけ着込んだ格好で、すやすやと眠っている。
シャツの裾から伸びたすらりとした白い脚が色っぽい。すっげぇエロい格好してるのに、無防備な顔で寝てるっつーのがまたソソル。「食っちゃって下さい」ってことだよな? コレ。
――ズキズキズキズキ。
下半身直撃。
俺のナニはズボンの中で元気良く立ち上がり、自己主張している。十夜のこんな姿を見せ付けられて、勃たなかったら俺じゃないって感じだが。
「イテテテテテテ」
締め付けられて痛かったので、俺は自分で自分のズボンの前を緩めた。俺のモノはこれ以上はないというほど硬くなって天を仰いでいる。
「…………」
俺は十夜の顔を覗き込んだが起きる気配はない。穏やかな顔ですやすやと眠り続けている。俺は自分の人差し指を十夜の口に咥えさせた。無意識だろうが、十夜はそれにちゅうと吸い付いてきた。まるで本物の仔猫のようだ。
……ゲロ可愛いマジ可愛い信じられないぐらい可愛い。ああ、やっぱり十夜、お前はこの世の中で一番可愛い生き物だ……。くそう。どうしようもないぐらい愛してるぜっ。
どきどきしながら俺はそっとシャツの裾をめくった。俺と十夜は恋人同士だから、別に疚しいことをしているワケではない。だが、緊張した。
……ううむ。チラリズムの極致だぜ……。
俺は十夜の尻の谷間に注目した。
いったいどんなふうに猫の尻尾がついているんだろうか。
スケベ心が疼いた。
……うおおおおおおおおおおっ!!!!! すげぇやらしぃぜっ!!!!!! 最高だぜ、十夜っ!!!!!!!!
棒をしっかりと尻の穴の中に差し込み、尻尾が生えているように見せかけている。当然、十夜は自分でコレを入れたのだろう。そのときの様子を想像するだけで体が燃える。
結合部を指でなぞると十夜はわずかに身じろぎして白い尻を揺らした。畳の上をのた打ち回りたいほど十夜は可愛くてえっちだった。
……かっわっい〜っ!!!!! つか、すげぇイヤラシイぜ。入れてえ……。けど、尻尾を取るのももったいないしな……。
俺はもうしばらく猫姿の十夜を楽しむことにした。
……俺、十夜のこの姿だけで何度でもイけそうだぜ……。
俺は我慢できずに自分のモノに右手を伸ばした。そして十夜の全身を視姦しながら、俺はゆっくりと手を上下に動かし始めた。先端からは透明な液がとめどなく流れている。俺はその液を指先ですくい取り、十夜の唇に塗りつけた。
俺の体液で濡れてテカテカと光る唇は卑猥だった。
十夜は寝ぼけた様子で、舌で口の周りを拭った。俺のモノから流れ出た液はまずかったらしい。不快そうに眉をひそめる表情が可愛かった。
……だめだだめだだめだ! これ以上、我慢できんっ!! むしろ我慢してたまるかっ!!! とりあえずは合体だ。合体するぞ!! これはもう繋がるしかないっ!!!!!
少々惜しかったが、俺は十夜の尻から尻尾を引き抜いた。また後で付け直せばいいだけのことだ。代わりに俺は、自分自身をバックから挿入させた。さきほどまで異物を入れていた十夜のソコは、柔らかく俺を受け止めてくれた。
「んっ……。あ、あれ? は、萩原っ!?」
鈍い十夜もさすがに目が覚めたようだ。いきなり俺のナニを後ろに突っ込まれ、驚いた顔をしている。
「わりぃ。十夜があんまり色っぽい格好してっから……我慢できなかった……」
寝込みを襲ったことを一応謝りつつ、俺は腰を動かした。
「あんっ……あっ……ああっ……」
猫耳のついた頭を激しく振って十夜は身悶えた。首に付けている鈴の音と、濡れた音が混じり合う。
……可愛いぜ……。十夜……。
恋人の愛らしさにうっとりしながら、俺は十夜の中に熱い体液を注ぎこんだ。



……昨日も十夜は可愛かった……。
大学の敷地内にあるベンチに座って十夜を待ちながら、俺は昨夜のことを回想していた。



「ああんっ。……イイ……イイっ……! 萩原ぁ」
十夜は俺を受け入れながら、細い腰をくねらせた。
俺のシャツを着て猫耳をつけて、俺に犯される十夜……。すげぇエロくて可愛くてステキだった。俺の身体は熱く燃え上がり、頭がくらくらした。
俺は立て続けに二回十夜の中でイったあと、一度自身を引き抜き、もう一度お願いして尻尾を付け直させてもらった。十夜の狭いアソコに棒を突き刺すと、中に出した俺モノが溢れ出て十夜の太股を伝って床に滴り落ちた。その感触に顔を真っ赤にする十夜が愛らしかった。
「?」
床に不審なものが転がっているのを発見し、拾い上げるとソレにはボタンが付いていた。
「十夜、これは? リモコン?」
「この衣装とセットだったの……」
十夜は赤い顔をしたまま言った。一瞬悩んでから、俺はこのリモコンの使い道を理解した。
どうやらこの尻尾にはバイブレーター機能が付いているらしい。よくできたオモチャだ。さっそく試してみた。
スイッチを入れた途端、十夜は盛大に善がり声を上げて体を震わせ、ぼろぼろと涙を流した。
「はあんっ。いやぁっ……!!」
内側からの激しい刺激に十夜は乱れた。びくびくと体を反応させ先端から白い不透明な液を零す十夜はエロティックでいつまでも眺めていたいと思う。
だが、この反応を引き出しているのが自分ではないことに俺は不快になった。道具にすら俺は嫉妬したのだ。俺はすぐにスイッチを止めた。
急激な快楽から解放され、十夜はほっとした顔で微かに笑った。エロイことをしている最中だというのに泣き濡れた頬のまま微笑む十夜は無垢な天使で、俺は心臓をぎゅっと掴まれたような気がした。
「……十夜。この世の中で、お前が一番カワイイ……。愛してる……」
囁きながら口付けると、十夜は嬉しそうな顔をして俺の背に腕を回してきた。何度も繰り返しキスをしているうちに、十夜の足は自然と大きく開いて俺の体を挟み込んだ。
「十夜」
「……ん。なに……?」
「猫の鳴き真似してみてくれないか?」
「…………………え?」
十夜は驚き、そして困った顔をした。
「……猫、の、鳴き真似……?」
「そう」
「〜〜〜〜〜っ」
俺の頼みに十夜は「どうしよう!」という顔をした。どうやらそうとう恥ずかしいらしい。十夜は口をはくはくさせてあたりに視線を漂わせている。
困った十夜の顔が可愛くて、俺はじっくり見下ろしてしまった。
「……………………え、えと、じゃあ、ちょっとだけね」
おずおずとした口調で十夜は言った。ようやく決心したらしい。
「…………………………………………………………にゃーっ」
十夜は恥じらいながら猫の鳴き真似をした。
………………………………………………………………っ!!!!!
………………………………………………………………っ!!!!!
………………………………………………………………っ!!!!!
………………………………………………………………っ!!!!!
……………………………くううううううううううううっ!!!!!
………………すっっっっっっっっっっっげぇカワイイぜ!!!!!
「………………………………………………………にゃーんっ」
羞恥に頬を染めながら、十夜はもう一度鳴いてみせた。そして猫のように俺の唇をぺろりと舌で舐めた。
…………………………ぐおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!
…………………お前は、可愛すぎなんだよっ。十夜っ!!!!!! またおっ立ってきちまっただろうがっ!!!!!!!!!!
「あっ……。萩原……」
下半身を密着させている状態だ。十夜は俺のブツが復活したことにすぐに気が付いた。期待を覗かせたような顔で十夜は俺を見上げてきた。
「なあ十夜。俺のモノと、コレ、どっちがいい?」
コレ、と言いながら、俺は十夜が付けている尻尾を引っ張った。十夜は再び困った顔をした。
「え、えと…………萩原のが……イイの……」
十夜の声はか細かったがなんとか聞き取ることができた。十夜の答えに満足しつつも、俺はつい意地悪してしまった。十夜が俺に、必死ですがり付いてくる姿が見たかった。
「ふうん? そのわりにはさっき、コレで気持ち良さそうに善がってたな」
俺はわざと冷たい口調で言った。
十夜は涙で目を潤ませた。
「そんなことないもんっ」
「そうか? 無理しないでもいいんだぜ?」
「無理じゃないもんっ。……俺、萩原が……欲しい……」
潤んだ目で俺を見詰めながら、十夜は俺のモノに指を淫らに絡めてきた。
…………………………………くそーっ!!!! 負けた!!!!!
……お前にそんな風に誘われたら、拒めるわけないだろうがっ!!!!!
十夜に煽られ俺のナニはカチコチに硬くなっていた。
俺は十夜の尻に、尻尾の代わりに俺自身を挿入させた。
「ああっ……! 萩原の、気持ち、イイの……」
十夜は快楽の涙を流しながら、俺の背にしっかりとしがみ付いてきた。
恋人への愛しさで胸をいっぱいにしながら俺は激しく腰を打ち付けた。途中までは十夜を悦ばせることに専念していたが、最後のほうは、俺は完全に十夜の体に溺れていた。
十夜の中で、俺は滴るほどの快楽に蕩かされていったのだった。



――ばしっ!
昨夜の思い出に浸っていたら、突然、力いっぱい後頭部を叩(はた)かれた。
振り向くとそこには、天城紗那(あまぎ しゃな)先輩が立っていた。



「よう。久しぶりだな、色男。可愛いハニーのことでも考えてたんだろ。口元が緩んでるぜ?」
指摘されて俺は慌てて顔を引き締めた。天城先輩は当たり前のように俺の隣に腰掛けた。
天城先輩は俺の学科の先輩であり、サークルの先輩でもある。滅多に大学に来ない先輩なのだが、何故か先輩は俺のことを気に入ってくれているようで、なにかと世話を焼いてくれていた。
天城先輩は黙っていると整いすぎた顔立ちゆえに冷たそうに見えるが、話してみると話題も豊富で面倒見もよく、懐が深くて尊敬に値する人だった。
あまりにも天城先輩が『完璧』でスゴイ人なので、十夜と会わせたら十夜を盗られてしまうのではないかと心配したが、天城先輩は俺と十夜の関係を尊重し、ちょうどいい距離感を保ってくれていたので、俺は天城先輩を信頼することが出来た。
十夜も天城先輩にはよく懐いていた。
「ふふん。どうやら『魔法』の効き目があったようだな。幸せオーラが取り巻いてるぜ?」
企みが成功したことを確信し、天城先輩はにんまり笑った。
「ええ。確かに効き目はありました」
俺は素直に、天城先輩が言ったとおりの効果があったことを認めた。



話は、一週間ほど前にさかのぼる。
天城先輩から一本のビデオテープを渡された。
「? なんです? このビデオテープは」
「『魔法』のためのちょっとした小道具さ」
首を傾げた俺に、天城先輩はにやりと笑いながら言った。
「魔法?」
「ああ。萩原、お前に『魔法』をかけてやるよ。恋人と熱〜い一夜を過ごせるようにな」
「……俺は今でも十分、熱い一夜を過ごしています」
俺は十夜との夜の生活には十分満足しているし、十夜だって満足してくれているはずだ。必要がないと天城先輩に俺はビデオテープを突き返そうとした。
「待てよ、萩原。今でもお前が十分恋人と満足行く時間を過ごしてるっつーのは分かってる。お前の幸せそうなツラ見りゃな。だが、今以上にっつーことだ」
「…………」
「お前の恋人の十夜ちゃんは綺麗だし可愛いし性格はいい。はっきり言って萩原、あんなステキな恋人を捕まえたお前は幸せ者だ」
「ええ、まあ、たしかに」
「が、唯一恋人に対して望むことがあるとすれば、えっちの最中、もっと積極的になって欲しい。……違うか?」
「……」
「お前のことだ。何度肌を重ねても初々しく恥らう姿がカワイイとか思っているんだろう。しかしたった一度でも、もっと大胆に自分を誘って欲しいと思ったことがないと言えるか?」
「……」
図星である。
「だーかーら。『魔法』を使ってやるっつってんのさ。カワイイ後輩のためにな」
「……で、このビデオテープをどうすればいいんですか? 見ればいいんですか?」
「いいや。お前は見る必要ねぇよ。興味あったら別に見てもいいけどな。……それをさ、家ん中に隠しておけばいいのさ。恋人が見つけられるような場所にな」
「見つけられるように? それは隠したとは言わないのでは?」
「隠したフリをしろっつーこと。ま、騙されたと思って試してみな。後悔はさせねぇよ」
天城先輩が、あまりにも自信満々な顔で言うので、結局俺はソレを箪笥の後ろに……十夜が掃除の最中でも見つけられるように隠した。
他の誰が言ってもこんなバカバカしい真似はしないが、天城先輩の言葉だったからこそ、俺は信じ、実行した。
そしてその結果は……。
十夜の色っぽい姿を思い浮かべていたら、また頭をどつかれた。
「目がやらしいぞ、萩原。お前、分かりやすい男だよな」
俺を分かりやすいなどと言うのは天城先輩ぐらいなものだ。たいがいの人間が俺のポーカーフェイスに騙される。
「……すみません。ところで、あのテープの中身はなんだったんですか?」
見つけたテープを、どうやら十夜は処分してしまったらしい。部屋の中を探してみたが、俺は見つけることが出来なかった。
「あ? なんだ、お前、見ていなかったのか」
「ええ。見損ねてしまって」
俺の言葉に天城先輩は、顎に手を当てて考えた。
やがてにっと笑って言った。
「タネを知ったら魔法じゃなくなるからな。ナイショだ」
「……はあ」
こうなると天城先輩は絶対に口を割らない。俺はビデオの中身を聞き出すことを断念した。いざとなったら十夜に聞いてみればいい。天城先輩と違って十夜なら、簡単に誘導尋問にひっかかるだろう。
「んで。そろそろ次のアイテムをキミに与えよう」
天城先輩は抱えていたでかいバッグを、俺によこした。
「? 今度はなにが入っているんですか?」
「見りゃ分かる。萩原は、さんざん十夜ちゃんに奉仕してもらったみたいだからな。今度はお前が奉仕する番だ」
「……はあ」
「っつーわけで、俺はそろそろ行く。この後、急用があってさ」
相変わらず忙しい人である。
「天城先輩?」
「あ?」
「どうしてここまで俺によくしてくれるんです?」
立ち去ろうとした、天城先輩の背中に向かって俺は尋ねた。
天城先輩は面倒見がいい。しかし、ここまで面倒を見てもらっているのは俺ぐらいなものだ。他の後輩に対しては、天城先輩は公平に接していた。だが、なぜか俺だけ特別扱いだった。
ありがたいと言えば、ありがたいのだが、不気味と言えば不気味である。
俺は上級生から可愛がられるような性格はしていない。
「ぶっちゃけた話、俺、萩原に、お願い事があんのよ」
「なんです?」
天城先輩の頼みなら、俺は大概のことなら叶えてやりたいと思うだろう。天城先輩には感謝している。
もっともそれが、十夜に関することなら事情も変わってくるが。
「お前がもっと俺に好意を持ってくれたほうが成功確率高いんで、もうちょっと経ってからにするわ」
「……? すげぇ気になるんすけど」
「はは。わりぃ。今話しても、60%の確立で、萩原は承知してくれると思うけどさ。失敗したくないんで、俺としては慎重にいきたいわけよ」
「……はあ」
本当に急いでいたらしく、天城先輩は軽やかに走りながら去っていった。
そして、手元には、天城先輩から貰った大きな鞄だけが残されたのだった。
 
 
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