翌朝登校すると、何故か東雲は不機嫌だった。
「おはよう、東雲」 「…………」 挨拶しても返事すらしない。むっとした顔でぷいっと顔を背ける。 ……態度悪。 東雲の生意気な態度に俺はむかついた。 もし俺に何か文句があるならさっさと言えばいい。無言で怒りをあらわにする東雲のご機嫌を取る気は俺にはなかった。 どうせまたくだらないことで拗ねているんだろう。ほうっておけば、そのうち向こうから俺の顔色を伺いに来るに違いない。いつものことだ。 俺はわざと冷たい表情を作って東雲から顔を反らした。 自分の席に着いてから東雲のようすを伺うと、案の定、東雲は泣きそうな顔で俯いていた。ちょっと可哀相だったかなという気もしたが、躾は大切だ。これで次の休み時間には、東雲のほうから俺に擦り寄ってくるだろう。 ところが予想に反して、東雲はその日は一日、俺のことを無視し続けた。ここまで東雲が俺に対して、反抗的な態度を取り続けるのは珍しいことだった。毎日お昼は一緒に食べていたのに、今日は真野や井ヶ田たちとさっさと食堂に行ってしまった。 仕方がないので、俺は久々に多賀たちと昼メシを食った。 「東雲、機嫌悪そうだったね。謝らなくてもいいの?」 多賀は淡々とした口調で言った。もっとも親しい友人であるこいつには、俺と東雲が付き合っているということを伝えていた。 俺がカミングアウトしたあとも多賀は冷静で、「けっこうお似合いなんじゃない?」と言っただけだった。 嫌悪されないだけマシではあるが、せめてもうちょっと驚いて欲しいと俺は思った。同性同士で付き合うことがあまり一般的でないことを、果たして多賀は理解しているんだろうか? 冷静な男であることは知っていたが、ここまでとは思わなかった。 「あのさあ、俺と東雲って男同士なんだけど、変だと思わないわけ?」 「別に。他人事だし」 多賀はあっさりと言った。 本心からの言葉なのだろう。 他人からの干渉を嫌う多賀は、自分もまた干渉しない。その点では俺と気が合っていた。 宮城先輩は俺が面倒見のいい人間だと思っているけど、それは先輩の勘違いだ。俺が面倒を見ていいと思うのは、自分が好きな人間に対してだけだ。……例えば東雲飛鳥とか。 放課後になっても東雲は俺に話しかけてこなかった。 仕方ない。こちらから行くか。 「東雲、何怒ってるの? 言ってくれなきゃわかんないよ」 「…………」 東雲は唇をきつく噛み締め、俺のことを睨んだ。 ……目に涙を溜めて睨まれても迫力ないんだけど。 「東雲?」 「武藤の、バカっ!」 ……バカ? ……バカにバカって言われたくないかも。 俺はむっとした。 「……なんで俺のことをバカって思うのか、言ってごらん?」 俺は口元だけで笑いながら、東雲に詰め寄った。俺の怒りを感じ取ったか、東雲は怯えた顔をしていた。 「だ、だって! やっぱりあの人のことが好きなんだろ! 俺、見たんだから!」 「見た?」 「とぼけたって無駄だぞ! 合気道の稽古だなんて嘘ついて、あの人と会ってたくせに!」 「……見てたの? でもあれは……」 「うわああああんっ。やっぱりそうなんだ! やっぱり浮気してたんだ! 武藤のばかあああああっ!!!!」 俺が説明するより早く、東雲は泣きながら駆け去ってしまった。追いかけるタイミングを逃し、俺が呆然と東雲の後姿を見送っていると、憮然とした表情の真野が近くに立っていた。 「おい、武藤。飛鳥、泣いてたぞ。お前、ほんとに浮気したのかよ」 「するわけないだろ。俺は単に相談に乗っていただけ」 「嘘じゃないだろうな?」 「あのねえ。宮城先輩には萩原先輩がいるだろーが。宮城先輩に手を出すほど俺は命知らずじゃない」 『帝王』の異名を持つ萩原先輩の恋人に手を出すほど、俺は頭が悪くない。どんな報復が待っているか、想像するだけで恐ろしい。 萩原先輩の強さはイヤというほど知っている。 第一、俺は東雲のことを愛しているわけだし。 例え相手が宮城先輩でも到底その気にはなれない。俺は東雲が思っているよりもはるかに東雲に夢中だった。 「問題は、武藤が絡むと飛鳥は命知らずになっちゃうってことなんだよね……」 いつの間にか井ヶ田もそばに立っていた。顔を曇らせ、深々とため息をついた。 「俺たちは、武藤が浮気してたなんて思っちゃいないけどね。でも偶然、喫茶店で武藤と『天使』さまが二人きりで話しているところを目撃しちゃって。そしたら飛鳥、キレちゃってさ……」 「あいつ、さあ……。今日の朝、宮城先輩に喧嘩を売りに行ったらしいんだ……」 真野は暗い表情をして言った。 「……え? 宮城先輩に……」 …………………………………………。 …………東雲、あいつ…………本当にバカ。 俺は背筋が凍る思いがした。 『天使』に喧嘩を売るということは、『帝王』に喧嘩を売ることと同義語だ。 死に急ぐようなものである。 「しかも……飛鳥、宮城先輩を転ばせて……顔に怪我をさせたらしいんだ……」 「真野、井ヶ田、どうして東雲を止めなかったんだ!?」 俺はきつい口調で二人を叱咤した。 『天使』の顔に、傷だって!? 俺は背筋がぞーっとした。 「う。だってよぅ。まさか飛鳥が……」 「あそこまでバカだとは思わなかったんだよ……」 真野も井ヶ田もちょっと泣きそうだった。 ……やっぱりお前たちも、東雲のことをバカだと思ってたんだな。 確かに、普通は考えないだろう。 『天使』に難癖を付けられるような人間がいるということを。 三人で顔を見合わせ、深々とため息をついた。 まずい。 これは非常にまずい。 萩原先輩の怒りを思うと、体が凍り付いてしまいそうだった。 ……でもまあ、仕方ないか。 我が校の『帝王』、萩原賢司を敵に回そうだなんて、正気の沙汰じゃない。東雲の行動はあまりにも愚かだ。だが、その愚かな行動も、俺への恋心が成したものだと思うと、バカだけど可愛いと思ってしまう。とんでもないバカだけど、愛しいと思ってしまう。 ……仕方ない。覚悟してやるよ。お前を守るために、命ぐらい張ってやるよ。 俺は苦笑した。 そして、覚悟を決めた。 何発かは殴られるかもしれない。 けど、まあ、殺されはしないだろう。萩原先輩はともかく、俺はそれなりに宮城先輩には気に入られているし。 上手くいけば、宮城先輩が止めに入ってくれるだろう。 俺はなるべく楽観的に考えることにした。 ……盾になってやる。例え『帝王』相手でも、俺はお前を守ってやるさ。 自分が傷つくほうが、東雲が傷つくより何百倍もマシだと思えるから。 思ったとおり朝のHRが始まるより早く、萩原先輩は俺たちの教室にやってきた。そして東雲を呼び出すようにドア付近にいる女子に言った。 萩原先輩は全身から怒りのオーラを漂わせていて、教室中のみんなを恐怖に陥れていた。『帝王』の迫力に、一年坊主はただびびるしかない。あの多賀瑛一でさえ無口になっていた。 俺はと言えば、正直、あまり怖いとは思わなかった。萩原先輩の目的が東雲である限り、他人事ではないけれど、腹を据えたせいか俺の気持ちは落ち着いていた。 ……萩原先輩、やっぱり、イイ男だよな。 がっしりとした体躯。男らしく整った容貌。強い腕っ節。 そして、完璧なまでに恋人を守り慈しむ男……。 俺は今の時点では、どれ一つとして萩原先輩には叶わない。 萩原先輩は今でも俺の憧れの人だ。 だが、以前のようなふわふわとした気持ちで萩原先輩を見ることは、今の俺には出来ない。 萩原先輩に対して感じる敗北感。 俺は男として、萩原先輩に嫉妬した。 おそらく俺が知る中で、最高にイイ男である萩原先輩を羨み、悔しいと思った。 ……俺もいつか、あんな男になりたい。 萩原先輩はいつの間にか、俺の『片恋の相手』から『目標』になった。 いつか萩原先輩を越えたいと俺は思った。 今はまだまだ手の届かない人だけど。 「あの……何のようですか?」 呼び出された東雲は、おずおずと萩原先輩の前に出た。俺は東雲を守るべく自分の席を立った。いつでも二人の間に割り込めるように。 萩原先輩は東雲を、射殺しそうな目で睨んだ。 そして怒りをぶつけるように、手の甲で入り口のドアを殴った。大きな音が教室に響き、みなは首をすくめた。 東雲の顔色は恐怖で青くなっていた。 ……可哀相に。 無鉄砲なところがあるくせに、東雲は臆病で小心者だ。萩原先輩を前にして、さぞかし怖い思いをしていることだろう。 「宮城十夜のことで話がある。顔を貸せ」 宮城先輩の名前を聞いて、東雲はむっとした顔をした。萩原先輩の目に殺気が宿った。 ……あー。バカ。萩原先輩の怒りに油を注いでどうするのさ。 困ったヤツだと思いながら、俺は東雲と萩原先輩の間に割り込んだ。俺は背後に東雲を庇うように立った。 萩原先輩は俺にも怒りの目を向けてきた。 俺はその目をまっすぐ見返して言った。 「萩原先輩、屋上に行きましょう」 萩原先輩は俺の言葉に軽く頷いた。ここでの言い争いは、目立ち過ぎることが分かるぐらいの理性は残っていたらしい。 「ほら、東雲もおいで。自分の撒いた種は自分で刈り取るんだよ」 東雲は行きたくなさそうな顔をした。 自分の考えなしの行動がこんな事態を招いたことを、少しは自覚しているのだろうか? 俺は萩原先輩に気付かれないように、東雲の尻をきゅっと抓った。東雲は声にならない悲鳴をあげ、俺を睨んだ。 俺は知らん振りをした。 階段を上って屋上に着くと、東雲は苦しそうに呼吸をしていた。普段は運動をしていないヤツだから、階段の昇りがキツかったのだろう。萩原先輩はぜんぜん平気そうな顔をしていた。俺も最近は体を鍛えているのでどうということもなかった。 ……ベッドの上でだったら毎日のように運動させているんだけどね。 自分で自分の下世話な思考に呆れ、俺は自分の頭を掻いた。 東雲は萩原先輩のことが相当怖いらしく、俺の後ろに隠れてかたかたと震えていた。 怯える東雲の顔は可愛いんだけど……躊躇いなく俺を盾にしているところがちょっとむかつく。こっちは自分の身を挺(てい)してまで、東雲を守ろうと悲壮な決意をしているというのに。 「武藤、どけ。邪魔をするな」 怒りを含んだ声で、萩原先輩は俺に命令した。 物騒な光を宿した瞳は、ぎらぎらと輝き美しかったが恐ろしかった。 視線だけで人を殺せそうだ。 怖い。 だが、後ろに東雲がいる。 俺は震えだしそうな足をぐっと気合を入れて踏ん張り、萩原先輩の視線をしっかりと受け止めた。ここで引いたら男の沽券にかかわるというものだ。 「申し訳ありませんが、邪魔させていただきます」 例え相手が萩原先輩であろうとも、自分の恋人に手出しされることをみすみす許す気にはなれない。 萩原先輩の視線に、より一層険しさが増した。 俺はすでにやけっぱちの心境だった。 「……武藤、お前は無関係だと思うが?」 「いえ、まったく関係がないわけでは。こいつが暴走したのは、俺にも少しばかり責任があります」 ほんっっっっっっっとーに、ほんの少しだけどと、俺は心の中で念を押した。 「ほら、東雲。ちゃんと反省しなよ? 萩原先輩が怒るのも当然なんだから」 ひょっとしたら真剣に謝れば、多少の温情をかけて貰えるかもしれないという計算があった。 だが、東雲は果てしなくバカだった。 「なんだよ、武藤。俺は別に悪くねーよっ!」 「あ、バカ。なんでそうお前はバカなわけ? 宮城先輩のあの綺麗な顔に傷を作っておいて、少しも反省してないなんてサイアク」 「んだよっ! サイアクはお前だろ! だいたいにして武藤があんなブスと浮気するのが悪いんだろっ!! ばーか、ばーかっ!!!」 ………………………………………………………………殺。 こともあろうにあの美しい宮城先輩をブス扱いとは、逝ってよし。 そもそもお前が人のことをバカ扱いする資格はない。 俺は東雲が自分の恋人である事実をしばらく忘れることにした。 「萩原先輩、やっぱりこいつ、二・三発殴っちゃってください。もう俺、止めません」 俺はうっかり東雲の体を萩原先輩の前に突き出してしまった。 ……安心しろ、東雲。骨ぐらいは拾ってやる。 東雲は半泣き状態で喚いた。怒れる猛獣の前に無防備な状態で立っているようなものなので、怯える気持ちも分からなくもない。 同情はしないけど。 「んだよ! 武藤のアホンダラっ。恋人の俺が殴られてもいいって言うのかよ!!」 「そりゃまあ、仕方ないんじゃないの? 俺はたんに宮城先輩の相談に乗っていただけなのに、勝手に誤解して勝手に宮城先輩に絡んで、宮城先輩の天使の美貌に傷をつけたのは誰だ?」 「なんだよっ! 俺は騙されねぇぞ!! あんなに綺麗な人と一緒にいて気持ちがまったくぐらつかなかったとは言わせねぇぞ!!!」 「まーねぇ。宮城先輩みたいに綺麗で優しくて頭のいい恋人がいたらサイコーだろうね」 実際に宮城先輩にぐらついたことなどなかったけれど、俺に口答えする東雲が可愛くなくて、俺は嫌味ったらしい口調で言い放った。 東雲は俺の言葉にショックを受けた。 みるみる間に、東雲の目に涙が盛り上がってきた。 「うわあああああんっ! や、や、やっぱりそうなんだっ!! 俺のこと、捨てる気なんだあっ!!」 東雲は子供のように大声で泣きながら、その場に蹲った。とても高校生の男のする泣き方とは思えない盛大な泣きっぷりだった。 「く、く、くそうっ。今までさんざん俺の体、弄(もてあそ)びやがって!」 ……むかっ。 その言い方って、すげぇむかつくんだけど? 「弄ぶだなんて人聞きの悪い。そもそも最初に人を強姦しようとしたのはお前だろ?」 俺は腰に手をやり、東雲を冷ややかに見下ろして反論した。 そりゃ、最初の頃は、東雲の体を弄んでいたと言われても文句を言えなかったけど。 でも今は違う。絶対違う。東雲が好きだから抱いているんだ。 それなのにそういう言い方をされると腹立つ。 萩原先輩の前でみっともない痴話喧嘩を繰り広げることに多少は抵抗があったが、言われたらつい反撃してしまうのが俺の性分だ。 「んだよ! あんとき逆に俺のこと強姦したの、お前じゃん! 人の手首をネクタイで縛って、俺、初めてだったのにバコバコやりやがって!! おかげであの後、トイレに行くのがめちゃめちゃ辛かったんだぞー!!!」 「お前の場合、自業自得。それにその後、性懲りもなく俺に「抱いて」って迫ってきたの誰だよ」 「俺だよ! しょうがないだろ、俺、お前のこと好きなんだもん! 体だけでも欲しかったんだもん!!」 俺は抱いて欲しいと裸で縋り付いて来た東雲の姿を思い出し、わずかに頬を緩めた。 あのときの東雲は情熱的で綺麗だった。 「お前、普段はうるさいしガキだし頭悪いけど、えっちんときはカワイイもんな」 「うっ……ひっく……。じゃ、じゃあ、体だけでもいいから……そ、傍(そば)においてよ……宮城先輩と付き合っててもいいから……愛人でいいから……」 「お前って、ほんとバカ」 恥も外聞もなく泣きじゃくり、それでも俺と一緒にいたいという東雲は、バカだけど可愛かった。 あまりのバカっぷりに、余程見捨ててやろうかと思ったが、俺は東雲が自分の恋人であるという事実を思い出すことにした。感情むき出しにして、俺と一緒にいたいと泣き喚く東雲が、とても可愛いかったから。 「東雲、最初は性欲満たしたくて、お前と付き合い始めたってのは否定しないよ。あのころ俺さ、ここにいる萩原先輩に振られてけっこうヤケになってたし。でも今はちゃんと東雲のこと好きだよ。快楽のためだけにお前とセックスしてるわけじゃない。……信じろよ」 「ふえええええんっ。武藤ぅ……」 俺は座り込んで泣き続ける東雲の傍に屈んだ。そしてバカだけど可愛い恋人を抱きしめ、俺は舌先で東雲の涙を拭った。 ……お前、ね。もっと俺のことを信じろよ。他の人間に焼もちなんか焼くなよ。今は俺、お前に結構惚れているんだからさ。 東雲は俺の体にしがみつきながら、まだぐずぐずと泣き続けていた。 俺たちの姿を見ていた萩原先輩は、溜息一つで怒りを収めた。 「……武藤、貸しにしておく」 「ありがとうございます」 萩原先輩は引き際も見事だ。 見習いたい潔さだ。 やはり萩原先輩は、最高級のイイ男だと思った。 ……それにしても宮城先輩はやっぱり勘違いしていたんだな。萩原先輩のあの激しい怒りを見れば、萩原先輩が心変わりなんかしていないことはよく分かる……。 先輩たちは放っておいても上手くいくと思うので、俺は泣き続ける恋人をどうにかすることにした。 ……いい加減、泣き止めよ。鬱陶しいなあ……。 いつまでもぐずぐずと泣く東雲に、俺は呆れた。よくもこんなにも目から涙を零すことが出来るものだ。可愛いとは思うけど、鬱陶しい。 「いい加減、泣き止めよな」 「うっ。うえぇっ……だ、だって、俺、す、捨てられるかと……。ぶ、ブスなんて言っちゃったけど……あの人、すごく綺麗で……ぜ、絶対叶わないって……俺……」 ……お前、とことん俺のことを信じていなかったんだな。 ここまで信用されていないと、いっそ清々しいかもしれない。……いや、やっぱむかつくか。 「うっ……い、痛い……む、武藤……痛い……よぅ……」 「つい」 俺は気が付くと、東雲の頬を思いっきり抓っていた。 ……俺を信用しない困ったちゃんにはお仕置きが必要だよね。 「痛い痛い痛い痛い痛い〜っ!!!!!」 俺は手を放してやった。 代わりに東雲をその場に押し倒した。 「む、む、む、武藤っ!」 東雲は慌てた。俺は東雲の上に伸し掛かりながらにっこりと微笑んだ。 「俺は東雲に信用されてないみたいだから、信用してもらえるように頑張らないとね」 「え? え? ええ?」 驚きのあまり東雲はどうやら泣き止んだようだ。 俺はにこにこと笑いながら、東雲のズボンをずり下げた。 「え? う、嘘っ。……こ、こ、ここでする気なの?」 東雲は顔を真っ赤にした。 学校でヤるのは別に初めてってわけじゃないのに、東雲は恥ずかしそうだった。 ……恥ずかしがってくれなきゃ、お仕置きにならないもんね。 「うん。ここでする気。別にいいでしょ?」 「え? だ、だって、ひ、人が来ちゃうし……」 トイレの個室や体育倉庫と違って、鍵をかけられないことが気になるらしい。屋上のドアは内側からしか閉めることが出来なかった。 「そうだね。人が来ちゃうかもね」 晴れているとはいえもう12月で屋上は寒いし、第一今は授業中だ。訪れる生徒など皆無だろう。だが、俺は東雲の羞恥を煽るように微笑みながら言った。 「じゃあここじゃなくても、トイレとか体育倉庫とか……」 「ダメ。ここでするから。早く終わらせて欲しかったら、自分で準備してみて」 俺は一分(いちぶ)の隙もない笑顔を浮べて、ポケットから潤滑剤を取り出し東雲に手渡した。 東雲は信じられないというような顔をして目を見張った。 「〜〜〜〜っ」 「俺のことを信用しない東雲が悪いんでしょ。さっさとしなよ」 笑顔を消して冷たく言い放つと、慌てて俺の下でうつ伏せになり、俺から受け取った潤滑剤を自分の後ろに塗りたくり始めた。 えぐえぐと泣きながら、内部にまで丁寧に塗っている。俺は東雲の羞恥心を煽るため、わざとソコに顔を近づけ、東雲の指が出入りする部分をじっくりと見つめた。 「やだっ。見ないで!」 「東雲のココがちゃんと解れているか、確認してあげてるんじゃん。東雲も痛いのイヤでしょ」 「い、イヤだけど……」 「そろそろ指、三本ぐらい入りそうじゃない? 東雲のココ、最初の頃と比べて柔らかくなってきたね」 「う〜〜っ」 東雲は恥ずかしそうに唸り声を上げ、挿入する指を三本に増やした。 「ふふ。広がってきたね。もっと指をいっぱい中で動かしてみなよ」 「……うん」 東雲の目がとろんとしてきた。自分で後ろを弄っている間に感じてきてしまったらしい。 「東雲、後ろを解しながら俺のも舐めてよ」 俺は東雲の上からどき、その場で胡坐をかいた。ファスナーを自分で下げて、中から少しだけ反応し始めたものを取り出した。 東雲は緩慢な動作で起き上がり、自分の後ろに指を突っ込んだまま、俺の股間に顔を埋めた。東雲の先端から垂れた液がコンクリートに染みを作った。 右手で自分のアヌスを弄り、左手で体重を支えているので指を使うことが出来ず、東雲は口だけで俺を愛撫した。最初はヤリ辛そうだったが、東雲は上手に俺のモノを咥えて舌をひちゃひちゃと動かし俺を育てた。 袋から取り出したコンドームを口に近づけると、東雲は意図を察して口でそれを受け取り、口だけを使って俺のモノに難なくそれを被せた。 慣れたものである。 「東雲、俺の上に座って」 「…………うん」 東雲は自分の後ろから指を引き抜いた。そして俺と向かい合うようにして、俺の上に腰を下ろした。後ろに俺の先端を押し当て、ゆっくりと腰を落としていく。 「ああんっ……」 東雲は俺の首に腕を回して身悶えた。俺は制服が汚れないようにコンドームを取り出し、東雲のモノに被せた。 俺が何も言わなくても、東雲は腰を激しく振り始めた。上下に動かしていたかと思うと今度は回すように腰をぐいぐいと動かす。緩急の付け方も締め付けるタイミングも見事。我ながらここら辺の仕込みは完璧だ。 「あんっ……イイ……っ。気持ち……イイのぉ……っ!!!」 ……こんなに悦んじゃって。これじゃお仕置きにならないな。 俺は内心で苦笑した。 けど、悦楽の涙をぽろぽろと零しながら淫らに腰を振る東雲は可愛くて色っぽかったので、許してあげることにする。 東雲の尻を掴んで激しく揺すると、東雲はより一層激しく啼いた。 「ひぃんっ……。イイ……イイ……イイ……」 「……東雲、好きだよ……」 「お、俺も……! 俺も、好きいぃっ……!!!」 東雲は俺をキツク締め付けながら、欲望を弾けさせた。 俺も同時にイった。 「可愛かったよ」 下半身を繋げたままの状態で、ご褒美を与えるみたいに優しく唇を吸うと、東雲は嬉しそうな顔で笑った。 「武藤……好き」 「好きだよ、東雲」 俺たちは微笑み合って、優しいキスを交わした。 東雲、もう二度と、変な焼もちなんか焼くなよ? 抱きたいって思うのは、お前だけなんだから。 俺の恋人は、東雲飛鳥、お前だけなんだからさ。 一時限目の終了のチャイムが鳴るまで、俺たちは気持ちを確かめるように、何度もキスを繰り返したのだった。 |