【恋ってね! 武藤編  -07-】
 
「宮城先輩、どうもすみませんでした」
「……すみませんでした」
 東雲と二人で宮城先輩に謝りに行った。俺と宮城先輩がたんなる仲の良い先輩後輩に過ぎず、誤解だったことをようやく納得した東雲は、自分から謝りに行きたいと言ってきた。
 自分の非を認めて謝罪しようっていう心意気は褒めてあげてもいい。でも、「武藤も付いてきて……」って、同行を頼むのはどうかと思うよ。トイレまで一緒に行こうとする女子中学生や女子高生じゃないんだから。
 萩原先輩が怖いっていう東雲の気持ちも分からなくもなかったから、今回は特別に付いてきてあげたけどね。
 宮城先輩はにっこり笑って許してくれたけど、萩原先輩はまだ怒っていたみたいだ。東雲の顔を見て、じろりと睨んできた。怯えた東雲は、わたわたと俺の後ろに隠れる。
 ……だから俺を盾にするなっつーの。
 呆れた顔で東雲を見ると、東雲はてへへと誤魔化すように笑った。上目遣いで俺の顔を見上げている。
 ……可愛いんだけど。可愛いんだけどさ。……やっぱむかつく。なんてゆうか、あざといんだよ。自分の可愛さを知った上での無意識の計算が見え隠れするってゆーか。俺以外の男に、そんな風に媚びるのは許さないから。
「あ、そうだ。武藤も東雲くんも、今日の放課後、時間ある? ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
 宮城先輩は柔らかな笑みを浮べたまま、俺たち二人の顔を交互に見ながら言った。
「聞きたいこと、ですか?」
 ……聞きたいこと? なんだろう??
 俺は不思議に思って首を傾げた。
「うん。ダメ?」
「俺は大丈夫ですけど……。東雲、お前は?」
「ん。俺もへーき」
「良かった! じゃあまた放課後にね!」
 俺たちの返事を聞いて、宮城先輩はほっとしたように笑った。
 放課後、二年の教室まで宮城先輩を迎えに行った。萩原先輩は今日はバイトがあるらしく、すでに帰った後だった。東雲は露骨にほっとした顔をしていた。
 それから喫茶店『B-ALICE』に三人で向かった。席に着いてからも宮城先輩は、なかなか話を切り出そうとはしなかった。
「先輩、話って?」
 俺が話を促すと、宮城先輩は頬を染め、恥ずかしそうにおずおずと口を開いた。
「うん……実はね、あの、ヤリ方を教えて欲しいんだけど……」
 宮城先輩の顔は真っ赤だった。いつも穏やかで大人然としている宮城先輩のこんな表情は珍しい。年上の人に失礼だと思うけど、可愛い人だと思ってしまう。
「ヤり方って、なんの?」
 東雲は宮城先輩の言葉の意味が、すぐに理解できなかったようだ。きょとんとした顔で無邪気に聞き返している。可哀相に宮城先輩は、ますます顔を赤くしてしまった。
 ……東雲……。察してやれよ……。
 俺は溜息を一つつき、宮城先輩に助け舟を出すことにした。
「男同士のセックスの方法、でしょ」
 俺がはっきりとその単語を口に出すと、宮城先輩だけでなく東雲も顔を赤くした。
 ……今更、照れるなよ。昨日はあんなに大胆に俺の上で動いてたっていうのに。
 東雲の頭を俺は軽く小突いた。
「……その……昨日……萩原と……最後までヤろうとしたんだけど……俺も、萩原も、初めてで……と、途中まではイイ感じだったんだけど……えっと……すごく痛くて……」
「そうだよね! 最初のときって痛いよね! ……じゃなくって、痛いですよね!」
 宮城先輩の言葉に東雲は力いっぱい同意した。俺は苦笑した。
 確かに東雲は、初めてのときはさぞかし痛かったことだろう。終わったあとは、東雲の裂けたアソコから溢れ出たおびただしい血が床を汚していた。
 一度も男を受け入れたことがない東雲の後ろに俺は無理やりペニスを捻じ込み、容赦なく犯した。
 萩原先輩は宮城先輩に、そんな乱暴な真似は出来なかったというわけだ。宮城先輩に傷をつけるぐらいなら、萩原先輩は自分の欲望を抑え込むことを選ぶに違いない。
 俺は苦い笑いを口元に浮べた。
 萩原先輩に比べて自分がいかに劣っているか、また思い知らされた。
「そりゃ、先輩、濡らさないままヤったら痛いよ」
 俺が自分の考えに沈んでいる間、東雲は熱心に宮城先輩にレクチャーしていた。
 東雲はずいぶんと宮城先輩に懐いたみたいだ。末っ子で甘ったれの東雲は、優しいお兄さんタイプの宮城先輩と一緒にいて安心できるのだろう。
 宮城先輩は東雲の説明を、真剣な顔で聞いている。
「濡らすって……?」
「だからあ、女のアソコと違って濡れないわけじゃん? だからなんかクリームみたいなの使うとか、舐めてもらうとかして濡らしておくの」
「舐めるって……東雲くんも、その、舐めて貰ってるの……?」
 宮城先輩の言葉に東雲は顔を真っ赤にして、俺の顔を見上げてきた。きわどい話題なので、どこまで話していいものなのか迷っているみたいだ。
 興味本位ならともかく宮城先輩は切羽詰った状況で、俺たちに藁をも掴む思いで聞いてきたわけだから、出来る限り答えてあげればいいと思う。
 俺は東雲に向かって軽く頷いて見せた。
 東雲も頷き返し、宮城先輩の質問に丁寧に答えた。
「うん……。潤滑剤とか使うことも多いんだけど……む、武藤に、舐めてもらったりとかもたまにするよ」
 顔を赤くしたまま東雲は、しどろもどろで説明を続けた。
「あ、あと先輩、ナマのまま入れさせるのはやめたほうがいいよ!」
「え? どーして?」
「中出しされると後始末が面倒だし、放っておくとお腹痛くなって下痢になっちゃうんだ」
「そうなんだ!? 分かった。気をつけるよ」
 宮城先輩は生真面目な顔で頷いた。
「それと、入れるときは濡らすだけじゃなく、十分ほぐしてからじゃないとすげぇ痛い」
「ほぐすって?」
「え。えーと、指で弄ってもらうとか……。その、アソコって狭いから、広げないとダメなんだよ」
「……そうなんだ……」
 その後も延々と宮城先輩は、東雲から根掘り葉掘り聞きだしていた。
 尊敬する先輩のためだとはいえ、ここまで細々と聞かれるとさすがに照れる。聞きたいことを全て聞き終えた宮城先輩の満足そうな笑みを見て、まあいいかなって思ったけど。
「そろそろお店でようか?」
 宮城先輩が言った。
「あ。その前に俺、トイレ行ってくる」
 東雲は慌てた様子でトイレへと立ち去った。
 二人っきりになったところで、宮城先輩は写真を一枚テーブルの上に出してきた。
「可愛かったからつい買っちゃったんだけど、そしたら萩原が焼きもち焼いちゃってさ。申し訳ないんだけど、受け取ってもらえるかな?」
「うわ。恥ずかしいなあ。宮城先輩、この写真、買ったんですか?」
 宮城先輩が差し出してきたのは、赤頭巾ちゃんの格好をした俺が映っている写真だった。文化祭のときに撮られたものだ。
 赤頭巾の役に推薦されたのは、俺だけじゃなく東雲もだったんだけど、東雲の女装姿を他の男の前に晒すのがイヤだったんだよね。だから俺が引き受けた。
 極力、隠しておきたいって思うほど、俺は東雲のことが好きなんだ。あいつは俺が不本意ながら赤頭巾の役を引き受けた理由を、よく理解していなかったようだが。
「それじゃあお返しに、俺からはこっちの写真をプレゼントしますよ。俺が持ってると東雲が妬くんで、正当な持ち主にお渡しします」
 俺は生徒手帳に挟んでいた、萩原先輩の写真を取り出した。王子様の格好をした萩原先輩は、夢のようにカッコよかった。このカッコよさに俺は惚れた。好きだった。恋人になりたかった。
 でも、それはもう、過去のことなんだ。
 萩原先輩のカッコよさに憧れはするけど、もう恋人になりたいとは思わない。
 ……さよなら。俺の初恋。
 この写真は、宮城先輩が持っているべきものだろう。
 宮城先輩は写真の萩原先輩を見て、嬉しそうに愛しそうに微笑んだ。
 見ているだけで心が温かくなるような笑みだった。宮城先輩がどれほど萩原先輩のことを愛しているのか伝わってきた。
 俺も東雲の写真を見つめるとき、あんな表情をするのだろうか?
 今度は東雲の写真を持ち歩こうかと思った。
「嬉しい。ありがとね、武藤」
 宮城先輩は華のような笑顔を浮べた。
 キレイな笑みにどきりとした。
 美しすぎて、宮城先輩の笑みは心臓に悪い。
「……宮城先輩の美貌って犯罪的ですよね」
「ええー。そんな大げさな……」
「宮城先輩ってほんと自覚ない。そこが先輩のいいところでもあるんですけど……」
 相変わらず自分が『綺麗』だということを自覚していない宮城先輩に、俺は溜息をついたのだった。



「あのね、武藤。今日、宮城先輩と廊下で会ったんだけどね。こっそり「上手くいったよ」って教えてくれたの。それでね、今度、一緒にケーキでも食べに行こうかって約束したの。奢ってくれるって」
「……ふーん」
 東雲はすっかり宮城先輩のファンになってしまった。宮城先輩のほうも、東雲のことをけっこう可愛がっているみたいだ。宮城先輩は年下から慕われるタイプだし、東雲は年上ウケがいいから予想通りといえば予想通りなんだけど。……でもちょっと面白くないかも。宮城先輩と東雲との間になにかあるとは思っちゃいないけどね。
「宮城先輩って綺麗だよね〜。頭もいいんだよね〜。優しいし、すげぇステキだよね〜」
 ……お前、宮城先輩をブス扱いしていたくせに……。
 たいした豹変振りである。東雲は宮城先輩の熱狂的な信者と化していた。萩原先輩のことは相変わらず苦手みたいだけど。
 俺は東雲のおしゃべりと止めるために、東雲の唇を唇で塞いだ。
 場所は東雲の部屋。
 今日は合気道の稽古はない日だ。
 このごろはずっと、俺の家じゃなくて東雲の家を使うことが多い。あまり遅い時間に東雲を帰すのが心配だからだ。
「ん。武藤……」
 東雲はキスだけでその気になったみたいで、股間を探るとすでに固くなっていた。俺は当たり前のように東雲をベッドに誘(いざな)った。
 ……さあてと。今日はどうやって抱こうかな?
 俺は東雲の体から服を取り除きながら悩んだ。
 ……よし。今日はぎりぎりまで焦らしてやろう。
 唇や手を使って東雲の体を丁寧に愛撫したが、俺は東雲の肝心な部分にはけっして触れなかった。足の間で震える肉茎や、ひくひくと収縮を繰り返す淫らな蕾がなにを望んでいるか知っていたが、俺は無視した。
「東雲、可愛いよ」
 俺は東雲を背後から抱きしめ、耳たぶを甘く噛みながら、両方の乳首を指で摘んだり捏(こ)ね回したりした。
 胸の突起が赤くなるまで弄ってから、手を下方にずらしていく。わき腹、下腹部を撫で、性器には触らず飛ばして内股に手を這わす。
「〜〜〜〜武藤〜〜」
 東雲はもどかしそうに俺の名前を読んだ。顔が見たくて俺は東雲を正面から抱き締め直した。ベッドの上で、横向きに抱き合うような格好だ。
 俺のモノと東雲のモノが腹の間でぶつかりあって、東雲は甘い息を吐いた。
「んっ……あっ……」
 ぬるい愛撫に耐えられなくなった東雲は、腰を俺に押し付けながら、自分のモノと俺のモノが擦り合うように動かした。だが前だけの刺激では物足りないみたいでもの言いたげに俺の顔を見つめてきた。
「どうしたの?」
 分かっているくせに、俺は分からないフリをした。
「え。あの……え、ええと……だから……」
「東雲、可愛いよ」
 俺はにっこり微笑み、東雲の体の上に伸し掛かってキスをした。そして自分のモノと東雲のモノを右手で握りこんで擦り合わせた。
 後ろにはまだ触れてあげない。
「気持ちイイ?」
「気持ちイイけど……でも、あの……」
「……ヨくないの?」
 俺は哀しい顔をわざと作った。
 東雲がなにを言いたいかなんて、ほんとは知っているんだけどね。
「い、イイけど! でも、後ろ……」
「後ろが、なに?」
「〜〜〜〜っ」
 東雲は泣きそうな顔になった。
 ……そうなんだよね。俺、この顔好きなんだよね。泣く一歩手前の顔……。
 俺は東雲の唇にちゅっとキスをした。
 でも、一番東雲が望んでいることは、してあげない。
「東雲、好きだよ……」
 俺は手の動きを早め、とうとう東雲の腹の上に白濁した液を零した。
 東雲もほとんど同時にイった。東雲の白い腹の上で、二人の精液が混ざり合う。
 俺はソレを東雲の体に塗りたくった。
 東雲はもどかしげに足を自分からゆるく開いた。
「む、武藤、ここ、触って……」
「ここ?」
 俺はとぼけた。
「お尻の……穴……いつもみたいに……」
 東雲は切羽詰った様子で懇願してきた。俺は穏やかな笑みを浮べたまま、後ろの穴の表面だけを指で撫でた。
「こう?」
「う。な、中も……指、入れて……こ、擦って……」
 俺は望みどおり指を入れてやった。
 だが、一本だけだ。
 わざとゆっくり指を出し入れする。
「もっと、い、いっぱい動かして……お願い……」
「東雲は我儘だなあ」
 俺は呆れているフリをして言った。
「ご、ごめん……でも……」
 右手の人差し指で、俺は東雲の中をめちゃめちゃに掻き回してやった。だが東雲はこの程度の刺激じゃぜんぜん満足出来ないに違いない。指よりももっと太いものを求めて、東雲の内部はいやらしく蠢いている。
「〜〜〜武藤〜〜っ」
「なに? ちゃんと東雲の言ったとおりにしてあげているでしょ?」
 冷たく言い捨てると東雲は傷ついた顔をした。
 唇をきゅっと噛み締めシーツを掴み、ぼろぼろ涙を流し始めた。
 ……しまった。苛めすぎた。
「……なに泣いてるのさ。文句があるならさっさと言えば?」
 ……やばいなあ。可哀相だと思うんだけど……愉しい。
 実を言えば、俺のナニも限界なぐらいビンビンに立っている。けどすぐに入れちゃうのももったいなくて、俺は東雲を焦らし続けた。
「お、お願い……入れて……」
「指なら入れてあげてるでしょ?」
「指……もう……いいから……入れて……」
「入れてってなにを?」
 東雲は言葉に詰まった。
「ちゃんと言えたら望みどおりのことをしてあげる」
 俺は顔に微かな笑みを浮かべ、甘い声音で唆(そそのか)した。東雲は羞恥に唇を震わせながら、自分の望みを口にした。
「……の……を……て……」
「なに? 声が小さいよ。聞こえない」
「うっ……ひぃっく……意地悪しないで……」
「意地悪? 別にしてないでしょ? 東雲の言うこと聞いてあげるって言ってるじゃん」
 東雲は涙で顔をぐちゃぐちゃにし、唇を何度も噛み締めた。
 だが、やがて意を決して口を開いた。
「お尻の中に……武藤の……おちんちん……入れて欲しいの……。いつもみたいにいっぱい動いて……」
 東雲は足を思いっきり開いて、ソコを俺の目の前に晒した。
「ふうん。東雲、よくそんな恥ずかしいこと口に出せるね。男のペニスを入れて欲しいだなんてさ」
 自分で言わせたくせに、軽蔑したように俺は言った。
「だ、だって……」
「仕方ないから入れてあげる。約束だったからね」
 ほんとは俺もいい加減限界だったんだけど、東雲がお願いするから仕方なく入れてあげるんだというポーズを取った。
 東雲は哀しそうな顔で涙を零した。
「あ〜あ。足もこんなに開いちゃって……。東雲っていやらしいね」
「ふえぇんっ……ごめんなさい……」
 東雲はぐずぐずと泣いていたが、俺がようやくアレを挿入させると、嬉しそうに体を震わせた。「いっぱい動いて」という東雲の望みを叶えるべく、挿入してすぐに俺は腰を激しく打ちつけ始めた。俺の目論見どおり、さんざんお預けをくらわされていた東雲は、いつになく盛大に喘ぎ身悶えてくれた。
 たっぷりと東雲の中に精液を注ぎこんで、俺の性欲は十分満たされた。東雲のお尻の穴からは、俺の放った濁った白い液が溢れ出ている。
 東雲はまだ泣いていた。東雲がしゃくりあげるたびに、どろりとソコから俺のものが零れた。
「うっ…ううっ……ひぃっく……ううっ……」
「そろそろ泣くの止めなよ。鬱陶しい」
 泣かせたのは自分だというのに、俺は無責任にも言い放った。
「ごめん……なさい……うっ……ううっ……で、でも、嫌いにならないで……捨てないで……」
 東雲は泣きながら俺に縋り付いて来た。
 東雲の白い体は俺と東雲の放った精液でどろどろに汚れていた。すげぇえっちな体だと俺は思った。
「俺……我慢できなくて……き、気持ちよくて……」
「自分の恋人がこんなに淫乱だなんて思わなかったな。びっくりしたよ。すげぇショック」
「うえええええんっ。ごめんなさい。ごめんなさい……」
「俺、心配になってきたな。東雲さあ、ひょっとして俺一人だけじゃ満足できないんじゃない? 内心、俺とのセックスじゃ、物足りないって思ってるんじゃない?」
「そんなことないもん! ふえええんっ。なんでそんなこと言うんだよぅ……。俺、武藤がいればいいんだもん。他はなんにもいらないもん……」
「……そう? しょうがないから許してあげるよ。俺は優しいからね。恋人がどうしようもなくやらしい子でも我慢してあげる。俺の寛大さに感謝してもらいたいな」
「うん。する。感謝するぅ……」
 ……こいつって、ほんとバカ。少しは疑えよ……。俺の言うこと鵜呑みにするなよ……。
 俺は頭の悪い恋人に呆れ果てた。
 それと同時に、このネタは当分使えそうだと企んでいた。





 最初に用意しておいた濡れタオルとティッシュを使って体を清め、俺は制服を身に付けた。東雲はもちろん私服だ。可愛い熊がプリントされたTシャツとぶかぶかのズボンを履いた東雲の姿は、中学生か下手をすれば小学生にしか見えなかった。
 ベッドのシーツは乱れ、東雲と俺の体液で汚れていた。
「そういえば東雲、前から思ってたんだけど、このシーツどうしているの?」
 俺のベッドを使うときは、シーツを取り替えるのが面倒だから、いつも大きめのバスタオルを敷いていた。終わったあとは、さすがにそれをそのまま洗濯機の中に入れるわけにもいかないので、何枚か溜めてから簡単に手洗いして、洗濯機でもう一度洗った。タオルだけ洗うと怪しまれるので、ついでに他のものも洗濯した。
 おかげで俺は家庭内で、「洗濯好きの息子」という間違ったレッテルが貼られていた。
 急に止めるのも怪しまれると思い、今でも俺は、天気のいい日曜日の午前中には洗濯機を回していた。
 だから東雲も当然、自分でシーツを洗っていると思った。で、「いつも面倒でしょ。ごめんね」っていう意味を込めて聞いてみたんだけど……。
「え。もちろん佐東さんに洗ってもらってるよ」
「え」
 俺は一瞬、頭の中が真っ白になった。
「……なにか言われなかった?」
「別に言われないよー」
「…………そう」
 まさか気がついていないとか? シーツの洗濯物が頻繁になったことに、不審を抱かなかったんだろうか?
「あ。でもねぇ、武藤とこの部屋で初めてえっちしたとき、ベッドメイクを佐東さんに頼んだら、「おめでとうございます」ってお祝いしてもらったの〜」
「え?」
「ママも「飛鳥も大人になったわねぇ」って言ってくれて、お赤飯とケーキでお祝いしたの〜」
「……ママも?」
「うん。両想いになれて良かったねって」
「まさか……東雲のお母さん……俺たちのこと……知ってるの?」
「もちろん知ってるよー」
 ……もちろんなのか?
「でもパパとお姉ちゃんとお兄ちゃんには内緒にしておきましょうってママが言うから内緒なのー」
「…………へー」
 俺が知らないうちに、東雲の母・公認の仲になっていたらしい。
 ……東雲のお母さんも佐東さんも、もっと他に言うことがあるんじゃないか? そりゃまあ、闇雲に反対されるよりマシかもしれない。マシかもしれないけど……。
 俺は額に手を当て悩んでしまった。
 ……俺、こいつのこーゆーとこ、ちょっと嫌いかもしれない。
「武藤、どうしたの?」
 無邪気に聞いてくる恋人の顔を抓(つね)ってやろうかと思った。
 だが俺は顔を抓る代わりに、東雲の唇に軽いキスをした。
 ……仕方ない。なんだかんだ言っても、俺、こいつに惚れてるもんな。
俺は東雲の体を抱きしめながら、諦めの溜息をついたのだった……。
 

武藤編 終わり 飛鳥編へ続く  
 
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