十夜の言葉どおり素直に別れてやる気などなかった俺だが、それでも十夜から二度目の別れを切り出されたのはショックで、俺はかなり落ち込んでいた。
「萩原ー。一応、お前にも報告しておいたほうがいいと思うんだけど、昨日、宮城が一年生に絡まれてたぜ。向こうが一方的に怒ってたって感じだったけど」 一年生のときから同じクラスの春日が、朝、声を掛けてきた。春日は俺が十夜といるときは気を遣って話しかけてこないが、俺が一人でいるときにはよく話しかけてくる。俺にとって春日はそれなりに親しい友人の部類に入るのだろう。一年生のころから十夜オンリーで他に友人を作る気などまったくなかった俺だが、意識せずともいつの間にか出来ているのが人の縁というヤツだ。 「絡まれてた?」 十夜は俺と違って人から恨みを買うような性格をしていない。優しげな風貌と優しい性格に、大多数の人間が十夜には好意を抱く。 ……その十夜が、一年生に怒られていた? 一年生? ひょっとして武藤か? 「もしかして、十夜の顔の傷もそいつが付けたのか?」 俺の声は怒りのあまり震えていた。 「う? う〜ん。付けたってゆーか、その一年生がひょいっと足を出して宮城をひっかけようとして、宮城が見事にすっころんじまって。ほら、宮城って運動神経が少なめだからさ。そのときに、傷が付いちまったのかもな」 こ、こ、こ、こ、転んだ? 俺の大切な十夜が? 一年生に足をひっかけられて!? …………………………………………………………ぶっ殺す。 「……その一年生って、武藤か?」 「武藤? あのカワイイ子? ううん、違うよ」 「じゃあ、誰だ……?」 「……萩原、顔がめちゃめちゃこえぇぞ」 俺の剣呑なようすに気が付き、春日は顔を引き攣らせた。 「言えよ、誰が十夜を傷つけた?」 「う。い、言ったらお前、その一年生のこと、どうするつもりだよ」 「決まっているだろ。……………………ぶっ殺す」 冗談じゃなくてもちろん俺は本気である。十夜を傷つけた人間をのうのうと生かしてはおけない。死んで詫びてもらわなくては。 「ひぃぃぃぃっ。や、やだよ俺、殺人の片棒担ぐの! 絶対言わねぇ!」 春日は青い顔をして首を横に激しく振った。 「ふん。春日、ずいぶんとお優しい性格をしているんだな。……一年生の代わりにお前が死ぬか?」 これは冗談。 一応、春日は俺の友人だ。命まで奪う気はない。……半殺しぐらいにはするかもしれないが。 「くっ……」 春日はしばらく葛藤していた。良心と生存本能との戦いだ。 だが結局、保身が勝ったようだ。 「し、東雲飛鳥(しののめあすか)だ」 「……そうか。東雲飛鳥か。クラスは?」 「……い、一年A組だ」 おそらく春日は悪魔に魂を売るような気持ちだったのだろう。罪悪感で押し潰されそうな顔をしていた。俺の知ったことではないが。 すまん、春日よ。人間がその手の中で守れるものはそう多くない。俺は十夜を守るのに精一杯だ。お前のことまで気に掛けてやる余裕はないのだ。 「情報をありがとう、春日」 「……礼は言ってもらいたくないぜ」 春日は青褪めた顔で唇をかみ締めていた。自分の発言を後悔していることは明らかだ。 時計を見るとあと15分ほどで朝のHRが始まる時間だった。今からいけば確実に目的の相手を捉まえることが出来るだろう。 一年生の教室に着き、顔が分からなかったので、入り口の近くにいる女子に頼んで呼び出してもらう。案の定、東雲飛鳥は教室にいた。東雲は俺の顔を見て不思議そうな顔をした。東雲と俺はこれが初対面だ。どうして見知らぬ上級生から名指しされたのかと、東雲は疑問に思っていることだろう。 「あの……何の用ですか?」 ……何の用ですか、だと? 相手の呑気な様子が癪に触った。 ……人のモノに傷を付けておいて、いい度胸じゃねぇか! 俺は怒りのまま、手の甲で入り口のドアを殴った。大きな音に、教室にいた一年生が驚いた顔で振り向いた。そして俺の顔を見ると、みな一様に怯えた表情になった。 目の前の東雲も顔を白くして俺の顔を見上げている。 「宮城十夜のことで話がある。顔を貸せ」 十夜の名前を聞いたとたん、東雲は露骨にむっとした顔をした。 反省のない態度にとりあえずぶん殴っとこうかと思ったが、俺と東雲の間に武藤が立ったためそれは断念させられた。武藤は不機嫌をあらわにした俺の態度にもビビっていなかった。東雲の前に庇うように立ち、凛とした目で俺を見上げてくる。 武藤は可愛い外見とは裏腹に、案外、根性が座った男なのかもしれない。 「萩原先輩、屋上に行きましょう。このまま周囲の視線を浴び続けるのも、本位ではないでしょう? ほら、東雲もおいで。自分の撒いた種は自分で刈り取るんだよ」 同い年だというのに武藤はまるで東雲の保護者のようだ。東雲はしぶしぶ武藤の言葉に従った。無関係なはずなのに、なぜか武藤も東雲と一緒に屋上まで付いて来た。 屋上に着いてさっそく十夜の顔の傷の責任を取らせようとしたが、その前に東雲と武藤の二人は口論をし始めた。 どうやらこれは痴話げんかのようだ。 宮城と武藤の仲の良さに嫉妬した東雲が、宮城に難癖をつけてきたというのがことの真相らしい。 ……ふうん。こいつら、付き合ってるのか。 俺はしげしげと二人の容姿を観察してしまった。二人とも一般的に考えて、可愛い顔立ちをしている。身長も体格も同じぐらいで二人とも小動物という感じがする。武藤が東雲を抱いているらしいが、そのシーンを具体的に想像することが出来ない。「レズホモ」という言葉が俺の頭を過(よ)ぎる。ほんとーにそんな言葉があるかどうか知らないが。 ……それにしても武藤、経験者か……。 十夜に操を捧げたい俺は、残念ながらいまだ童貞である。武藤に先を越されたかと思うと妙に悔しい。 武藤と東雲は俺を無視して延々と口論を続けている。そしてとどめに……。 「東雲、最初は性欲満たしたくて、お前と付き合い始めたってのは否定しないよ。あのころ俺さ、ここにいる萩原先輩に振られてけっこうヤケになってたし。でも今はちゃんと東雲のこと好きだよ。快楽のためだけにお前とセックスしてるわけじゃない。……信じろよ」 「ふえええええんっ。武藤ぅ……」 一年生の恋人たちは、ラブラブモードに突入し始めた。 ……アホらしい。 俺はすっかり気がそがれていた。 「……武藤、貸しにしておく」 「ありがとうございます」 他人の痴話げんかを聞くという、世にもばかばかしいことをしてしまった俺は疲れていた。しかし武藤にすでに恋人がいるなら、俺の懸念は一つ減ることになる。十夜と武藤がくっつき俺の失恋が確定するという事態は避けられるはずだ。 俺がいかにして十夜を陥落させるか作戦を練っていると、目の前に突然十夜が現れた。 ……どうしてここに? 十夜は駆け寄ってきて、いきなり俺に抱きついてきた。 「十夜……」 「抱いて。……好き」 …………………………………………………!!!!!!!! ……なんだなんだ? これはいったいどんな奇跡だ!? 妄想しすぎて、俺は頭がヘンになっちまったのか? 十夜が、俺に、抱いて欲しいと言った? 十夜が、俺に、好きだと言った? ………………………………………………信じられない。 十夜の言葉を信じきれず、俺がまじまじと眺めていると、十夜はゆっくりと唇を近づけてきた。 …………………………………………………!!!!!!!! 十夜が、俺の唇に、唇で触れている。 ……キスだ! 俺は今、十夜にキスをされているんだ! 目もくらむような幸福感に俺は包まれる。まるで夢のようだ。幸せすぎて、これが現実なものとは思えない。 ……幸せすぎて……嘘みたいだ。 誰かが俺を、騙そうとしているんじゃないだろうな? ……騙されても構わない……。 この腕に十夜が抱けるのなら。十夜が好きだと言ってくれるなら……。 俺は十夜をしっかりと抱き直し、十夜のキスに応えた。 ……好きだ、十夜。俺はこのまま一生、絶対お前を離さない……。 十夜の告白を聞いて俺は今すぐ十夜を抱きたくなった。十夜の言葉が本当だということを、俺はしっかり体で確認したかった。十夜は恥ずかしそうな顔をしながら、それでも俺の願いを受け入れてくれた。 授業をサボって俺は十夜を自分の部屋に連れ込んだ。 ……一人暮らしでよかった。 俺は初めて、俺を家から追い出した母に感謝した。 靴を脱ぐより早く、俺は十夜の唇を荒々しく奪った。 やばい。 余裕のない男と思われる。 事実、俺にはまったく余裕なんてものはなかった。 すぐに十夜のことが欲しくて欲しくてたまらない。 ……早く、一つになりたい……! 本能のままセックスになだれ込もうとした俺に、十夜はストップを掛けた。 「萩原……お願い、シャワーを浴びさせて……」 俺は不満だった。シャワーなら終わった後に浴びればいい。十夜は汚いから恥ずかしいというが、十夜の体で汚いところなど一箇所もない。首筋をきつく吸うと十夜は甘い声で鳴いた。 可愛い。 十夜はこんなときにこんな声を出すのだ。 俺は十夜の一つ一つの反応に感動していた。 「ん……や……。お願い、萩原……」 本当は中断したくなどなかったが、十夜が涙目で訴えるからしぶしぶ俺は承知した。 俺は十夜には甘い。 仕方ない。 だって十夜は誰よりも可愛い。十夜の願い事は、すべて叶えてあげたい。俺と「別れたい」という要望を除いては。 ……幸せ過ぎる……。 可愛い十夜と今から一つになれるのだ。俺はまだ信じられないほど幸せだった。 「代わりにシャワー、俺も十夜と一緒に浴びるからな」 十夜、俺はもう一秒だってお前と離れていたくない。だから頼むから、NOと言ってくれるなよ? これが俺なりの、最大限の譲歩だ。 「…………え? …………うん」 恥ずかしそうにしていたが、それでも十夜は俺の言葉に頷いてくれた。 「あ、そうだ。俺、萩原に聞きたいことある」 「なんだ?」 十夜、まだ俺を焦らす気か? 俺は十夜に話の続きを促しながら、それでも十夜のシャツのボタンを外す手は止めなかった。少しずつ十夜の滑らかな肌があらわになってくる。色っぽくて心臓がどきどきしてアソコはビンビンに立ち上がっている。 ……早く入れてぇ。 「あのさあ。最近、萩原、俺のこと避けてたよね。あれってなんで? ……だから、俺、萩原が俺のこと好きじゃなくなっちゃったかと思って……」 十夜が哀しそうな顔をしてぼろぼろと涙を零し始めたので俺は慌てた。 ばかだな、十夜。俺がお前のことを好きじゃなくなるはずがないだろ!? 俺は十夜の体を抱きしめ、慰めるように頭を撫でながら顔中にキスをした。自分の態度のせいで十夜に哀しい思いをさせてしまったなんて、俺は自分を思いっきり殴りつけたい気分だ。 泣かないで欲しい。笑っていて欲しい。 誰よりも愛しい人だから。 「……あれは、お前が武藤のことを好きだと思ったから……。だから別れてやらなきゃならないって思ってた。だけど俺は意気地がなくてな。どうしても別れようと言えなくて、結果的にお前を避けるようになっちまった……」 本当は別れる気などこれっぽっちもなく、いざとなったら強姦して体からモノにしようとしたことは、もちろん俺は言わない。好きな人間に自分のイイ面だけ見てもらいたいというのは当たり前の欲求である。 「その、萩原。今だから告白するけど、俺、昔は武藤のこと好きだった。でも今は萩原のことが好きだよ。俺が抱き合いたいって思うのは萩原だけだ」 「ああ。お前の言葉を信じるよ」 十夜は俺と違って正直者だ。嘘をついていたらすぐ分かる。 武藤よりも誰よりも、十夜は俺のことが好きなのだ。 その事実は俺を幸せの絶頂に押し上げた。 十夜の生徒手帳に挟まれた武藤の写真を見て、地獄に突き落とされたことが遥か遠い昔のことに思える。 もう手に入らないかと思った。 けれど俺はどうしても十夜を諦めることが出来なくて、苦しかった。辛かった。 身勝手な俺は十夜の気持ちより自分の想いを優先させて、十夜を傷つけても自分のモノにしようと思った。十夜と無理やり体を繋げようとしたのは一度や二度ではない。なりふり構っていられなかった。 だが今は、十夜の気持を踏みにじって十夜を犯さなくて良かったと思う。 こうして同じ気持ちで抱き合えるのだから。 「萩原、シャワー浴びよう。早くお前と抱き合いたいよ」 ………………………………………………………………!!!!! ……と、と、と、十夜! 今のは本当にお前のセリフなのか? 十夜は恥ずかしそうに頬を染めながら、一枚一枚丁寧に服を脱いでいく。俺はその姿に釘付けになった。俺に抱かれるために十夜が自分の意思で、俺の目の前で裸になろうとしている。これは夢じゃないだろうか? 俺は十夜の姿から一分一秒でも目を離すことは出来なかった。想像以上に十夜の体のラインは綺麗だ。運動が好きではない十夜は、筋肉も贅肉もあまりついていないほっそりとした体格をしている。身長は俺より少し低い程度だが、横幅はないので俺の腕にすっぽり収まってしまう。 ……まるで妖精のようだ。 俺はすっかり十夜の裸体の美しさに魅せられていた。 この美しい生き物を組み敷いて犯していいのかと思うと、俺のペニスはすぐに弾けてしまいそうなほどかちかちに硬くなっていった。 「すっげぇ、キレイ……。カンドー……」 思わず呟くと、十夜は顔を真っ赤にしてバスルームに逃げ込んでしまった。照れ屋なところが可愛いのだが、ちょっとひどくないか? 俺はもっともっとお前の体をじっくり眺めていたい。 「十夜……」 物欲しげな声で呟くと、十夜はドアの隙間から顔を覗かせた。 「服脱いで早く来て。一緒にシャワー浴びるって、約束したでしょ?」 …………………………………………………………!!!!! 十夜の可愛いお誘いに、俺は乱暴に自分の服を脱ぎ捨てた。いまだかつてこれほど早く服を脱いだことがあっただろうか? 十夜と同じように全裸になった俺は、勢い良くバスルームに飛び込んだ。そして恥ずかしそうに視線を落とし、可憐に立ちすくんでいる十夜の体を強く抱きしめた。 ……俺、今、十夜と裸で抱き合ってるよ……。鼻血が出そうだ……。 「信じられねぇ。お前にこんなふうに触(さわ)れるなんて……」 くらくらしながら俺は十夜の肌に唇と手で触れた。十夜の股間に視線を落とすと、わずかに立ち上がったものが茂みの間から覗いていた。 ……うまそう。 俺は十夜の前で跪き、躊躇いなくソレを口に含んだ。十夜を味わいたくて舌先でソレを転がす。 「や、萩原っ! やだ! 離して!!」 制止の声を無視して俺はそのまま十夜のモノを舐め続けた。すると十夜は、えぐえぐと泣き出してしまった。 「ふっ……えっく……や……。そんなに乱暴にしちゃヤだ……」 性器から口を離して見上げると、十夜は怯えた顔をしていた。考えてみれば十夜も初心者のはずだ。いきなり乱暴にフェラチオされ、さぞかし怖かったに違いない。 ……し、しまったああああっ! 我に返った俺は、十夜の涙に慌てた。 「お願い……。優しく、して……?」 「すまん、十夜。俺、かっこわりぃ。すげぇがっついた……」 ……俺ってみっともないぜ……。 夢にまで見た十夜の裸体を前に、俺の頭はすっかりぶっ飛んでいた。スマートに決めたいと思うのだが、自分の中のケダモノをコントロールできない。 呆れられただろうか? 俺は心配になった。 「萩原、俺、背中ながしてあげるね」 にっこり笑って、十夜は俺の体を洗い始めた。愛しそうに丁寧に体を清められ、十夜の愛情が尽きていないことを知って俺はほっとした。 「すっごーい。萩原って体、鍛えてるよね」 感心したような口調で十夜は俺の体を褒めてくれた。十夜は背中だけでなく手や足も洗ってくれた。 「……十夜、前も洗ってくれないか?」 下心ありありのセリフを断られるかなと思いつつ、思い切って言ってみた。 ……十夜〜。お前の可愛いお手てで、俺のちんこも洗ってくれ〜。 「あ、うん」 俺の正面に回った十夜は、股間で屹立している俺のモノを見て顔を赤くした。そして慌てて目線を逸らし、ソレ以外の部分を磨き始めた。 ……おいおい十夜、肝心なところは洗わない気か? 頼む〜。触ってくれ〜。 欲望をむき出しにしてまた泣かれるのが怖くて、俺は心の中だけで訴える。 ……頼む、十夜ーっ。 俺の心の声が聞こえたのかどうかは知らないが、ソコ以外のすべてを洗い終えた十夜は、恥ずかしそうな顔をしながらそうっとソレを握ってきた。そのとたん、俺のモノはしっかりと反応する。 ただでさえ大きかったのが、さらに大きく成長して十夜の手に懐いた。 「んっ……」 ……十夜が俺のを握っちゃってるよ……。 待ち望んだ愛撫に俺はうっとりと目を細めて喉を鳴らした。 「萩原、気持ちイイの?」 「うん。気持ちイイ」 俺は素直に頷いた。だってものすごく気持ちイイ。十夜の繊細な指が俺のモノに絡まっている。視覚的にもかなりくる。 十夜は俺の唇を唇で塞ぎながら、俺のモノを丁寧に扱き始めた。 ……すげぇ、イイ。もう……出る……。 大好きな十夜に触れられて、俺はそう長くは持たなかった。 「十夜、もう……」 「うん。イっていいよ……」 十夜の許可を得て、俺は十夜の手の中に欲望をぶちまけた。手のひらの精液を、十夜はもの珍しそうな顔でしげしげと眺めている。つんつんと指でつつき俺の精子を弄(もてあそ)んでいる。 「と、十夜っ。んなもん、じっと眺めてるんじゃない。さっさと洗い流せよ!」 俺は顔を赤くして叫んだ。十夜はちょっと拗ねたような顔で、それでも手のひらのものをお湯で洗い流した。さらに十夜はもう一度俺の萎えたペニスを洗い直してくれた。 「今度は俺がお前の体、洗ってやるよ」 「うん」 十夜は素直に俺に体を預けてきた。俺はスポンジを使わず、直接手のひらに石鹸をつけて十夜の体の表面を洗った。 ……い、いいよな? 十夜だってヤってくれたんだし、いいよな? 俺は緊張しながら十夜のモノに手を伸ばした。 「あっ……」 十夜が色っぽい声を上げる。拒否する気配がないことに安心して、俺は十夜の性器を刺激した。二・三回大きく扱くと、十夜のモノは簡単に大きくなった。 俺の愛撫で感じてくれているかと思うと嬉しくて、俺は夢中になって十夜のペニスを愛撫した。 「んっ……あっ……」 十夜は軽く眉根を寄せ、恐ろしく艶やかな顔で甘い声を上げる。 ……やっぱりナマ十夜は違うぜ……。 「十夜、今、お前、すごく色っぽい顔してる……」 「そんな……こと……ああっ……!」 十夜も俺と同じように、すぐに頂上に達した。それが十夜が慣れていない証拠のように思えて俺は嬉しかった。 俺の腕の中で頬を染めて快感の余韻に浸っている十夜が可愛くて、俺は何度もついばむように十夜にキスをした。 可愛い。好きだ。愛してる。 キスの合間に囁くと、十夜は嬉しそうに笑った。 十夜の笑顔に胸はどきんとして下半身はずきんとした。 もっとゆっくりしっかりいちゃつきたくて、俺は十夜をベッドに誘った。いつまでもバスルームにいたらのぼせてしまいそうだ。 「好きだ、十夜。誰よりも愛してる……」 俺は惜しげもなく自分の想いを口にしながら、十夜をベッドに押し倒した。 綺麗で可愛くて大好きな十夜。 いよいよ俺は、十夜の中に入ることが出来るのだ。 「奇跡みたいだ。信じられない。夢じゃないだろうな? お前が、裸になって、俺のベッドの上に寝そべって。……この俺に抱かれてもいいなんて……」 俺の言葉にくすりと笑い、十夜は優しい手つきで俺の頭を撫でてくれた。こんなときも十夜は優しい。男でも女でも、これほど優しくて清らかな存在はいない。十夜を恋人に出来てよかった。この瞬間、この世の中で、俺は一番幸福な男だと断言できる。 「……十夜……膝曲げて、足、広げてくれないか?」 十夜の中に挿入するため、俺は十夜に恥ずかしい体勢を要求した。十夜は真面目な顔で頷き、俺の言葉に従った。 ……いよいよだ。 そういった知識は乏しい俺だが、男同士で繋がりたい場合、アナルを使うことぐらいは知っている。俺は心臓をばくばくさせながら、慎重に俺の先端を十夜の後ろに押し当てた。 十夜の後ろの蕾は慎ましやかに閉じられている。 ……ほんとーに入るのか? 俺は心配だった。十夜のお尻の穴は、想像以上に小さい。 だが世の中には男同士だけとは限らず、実際にアナルを使ってセックスしている人たちがいるわけだから大丈夫だろうと結論付けて、十夜の中に挿入しようとした。 十夜の細い腰を片手で掴み、無理やり俺は先の部分を押し入れた。 ――メリメリメリ……。 「痛いっ! 萩原、痛いっ!! ダメ! 無理! 抜いてっ!! 痛いーっ!!!」 やっと3cmほど入っただけだというのに、十夜は悲痛な声を上げて足をばたつかせた。俺は驚き、十夜の中から慌てて引き抜いた。 「………………………………………………………」 「………………………………………………………」 気まずい沈黙が二人の間に降りる。 十夜との初めてが失敗したことを悟った俺の頭の中には、不吉な四文字がぐるぐるしていた。 ………………………………………………………。 ………………………………………………………。 ………………………………………………………。 ………………………………………………………。 …………………………………………俺って……。 ……………………………………………ヘタクソ? 「………………………………………………………」 ショックのあまり、俺はなんと言ったらいいのか分からないでいた。 今度こそ十夜に愛想を尽かされてしまうかもしれない。せっかく十夜が俺に抱かれてもいいと言ってくれたのに、俺はとんでもない失態をしてしまった。貴重なチャンスを俺は自らの手で潰してしまったのだ。 自分の愚かさに眩暈がしそうだ。 俺は十夜の反応に怯えた。 痛い思いをした十夜が、もう二度と俺に抱かれたくないと思っても不思議ではない。 乱暴に体を繋げようとした俺を、十夜はどう思っただろう? 「萩原、ゴメン……」 だが予想に反して、十夜は怒っていなかった。それどころか失敗したのが自分の責任だとばかりに謝ってくる。 俺は驚いた。そしてこの場面で俺を責めない十夜を、心底愛しく思った。 十夜はいつだって、他人を責める前にまず自分を責める。他人にはあれほど優しいのに自分には妥協を許さない。十夜はそれをさらりと、当たり前のように実践している。これほど潔(いさぎよ)く清らかな人間が他にいるだろうか? 俺が褒めると「そんなことないよ。俺、自分にけっこう甘いよ?」と謙遜する。 十夜は分かっていないのだ。自分がどれほどすごい男なのか。 俺は知っている。十夜がどれほどすごい人間なのか。 容姿が綺麗なだけの男ならこんなに夢中にならなかった。すべての罪を許せる強さと、柔らかで暖かな心に惹かれた。 俺が好きになったのはこんなにも美しくて素敵な人なのだ。 十夜と出会えて、そして恋人になれた幸運を、いったい誰に感謝すればいいのだろう? 俺の体の下で、泣きながら十夜は俺を受け入れられなかったことを謝罪する。 ばかだな、十夜。 そんなに泣く必要なんかないのに。 そんなに哀しむ必要なんかないのに。 俺だって男だ。セックスはしたい。今だって体の奥で、果たせなかった欲望が渦巻いている。 だけど十夜。 一番大切なのは、お前が俺のことを好きだと思っていてくれることなんだ。 「……俺、きっと、萩原に相応(ふさわ)しくない……。……やっぱ、別れたほうがいいかもしれない……」 十夜は枕に顔を埋め、泣きながら言った。 俺を思っての言葉だろうが、別れるなんて簡単に口にして欲しくない。 十夜、俺がどれほどお前を深く愛しているか、いまだに理解していないんだな。自惚れのないところも十夜の美点だが、俺に愛されているという点ではもっと自惚れていて欲しいと思う。 俺、お前と別れたら、きっと一生独り身だ。誰のことも愛さない。お前以外の人間を愛せない。最初に最高の人間に出会ってしまったから。 「なんでこんなことでお前と別れなきゃなんねぇんだよ!」 怒ってはいなかったが、俺はわざときつめの口調で十夜に言った。十夜と別れる気などまったくないことを、俺は十夜にしっかり理解して貰いたかったのだ。 「……だって萩原……」 「体だけが目当てだったらとっくの昔にお前を押し倒して犯してた。そりゃ俺も男だし、ヤりてぇよ」 「…………」 「でもな、お前のこと傷つけてまでなんて、絶対に思えない。俺、お前に、めちゃめちゃ惚れてるんだ。お前が俺の傍にいてくれるなら一生童貞でも構わない。一生キヨラカに生きてやるよ」 十夜の体も心も両方欲しいさ。だがどちらかを選べというなら俺は心を選ぶ。心がないまま欲望を満たすより、「愛している」と囁かれたほうが俺は嬉しい。 体だけ手に入れてその一瞬だけ満足しても、俺の心が潤うことはないだろう。 だから十夜を今すぐ抱けなくても……。抱け…………あれ? ……………………………………………………。 ……………………………………………………。 ……………………………………………………。 ……………………………………タイヘンデス。 ……………………………………俺は唐突に今、大変なことに気が付いてしまったぞ。 なんで突然こんなことを思いついてしまったかは謎だが別に………………………………十夜が下じゃなくてもいいんだよな。俺たち男同士だし。 今まで十夜を抱くことしか考えていなかったから当然のように十夜を押し倒したけど、十夜が俺を抱くことも不可能ではない。俺が十夜を受け入れれば十夜が痛い思いをすることなく俺たち今すぐ繋がることが出来るんだ。 ……でもさ、それってビジュアル的にキビシーよな……。俺抱かれるより抱きたいし。……どうして俺、今この場面でこんなこと思いついちゃってるんだよ……。いや、でも、十夜は「抱いて」って言ったわけだし……。……でもそれは失敗したわけで……。そもそも十夜が自分を抱かれる側だと思い込んでいるのって、俺が抱きたいオーラをばりばり放っていたせいだと思うしそれはある意味洗脳なわけで公平じゃないし。例えてみれば饅頭とケーキがあって最初に俺が勝手にケーキを食べて仕方なく十夜は残りの饅頭を食べているのと同じ状況というか……。 ………………………………………………………………。 ………………………………………………………………。 ………………………………………………………………。 ………………………………………………………………。 ……………………………………………………忘れよう。 ……………………………………………………十夜がどうしても抱く側がいいと言われれば俺は応じるしかないわけだが、幸い十夜は気がついていないし、忘れよう。 俺は記憶から速攻この不吉な考えを消去することにした。 俺の頭の中で、どんな思考がめまぐるしく流れているか知らない十夜は、俺の言葉に感動してぎゅうぎゅうと抱きついてきた。おかげで一度は萎えかけた俺のムスコはまたもや元気になってしまった。 「と、十夜っ。その、入れなくてもいいから……口でしてくれないか?」 好きな人間に裸で抱きつかれるという拷問に耐えられなくなった俺は、思い切って十夜にお願いしてみた。俺の言葉に十夜は戸惑った顔をした。 ……あ〜あ。こりゃ、ダメかな。 俺は内心でがっかりした。しかし仕方ないと思った。いきなり男のモノを咥えろと言って、あっさりとそれが出来るようならそれは俺の十夜じゃない。 トイレにでも行って一人で始末を付けてこようと俺が諦めかけたころ、ようやく十夜が口を開いた。 「……俺、上手くないと思うよ。やったことないし……」 十夜は控えめな口調で言った。 「お前がばりばり経験豊富でソープ嬢並のテクニックを持っているほうが俺はイヤだ」 テクニックなんか必要ない。お前が俺のモノを愛してくれるだけで、俺はもう満足なんだ。どんなにテクニックがあっても十夜じゃなくちゃ意味がない。 「……俺、こーゆーえっちなことするの、萩原が初めてなんだけど……萩原は……?」 十夜が未経験なのは知っていたが、はっきりとこんなことをするのは初めてだと聞かされ、俺はますます嬉しくなった。 俺は正直に自分も経験がまったくないことを伝えた。 「……俺も、十夜が初めてだよ。だからめちゃめちゃ余裕ない。……入れたとき十夜が痛かったの、俺のやり方が悪かったのかもしれない。今度、叔父さんにちゃんと聞いとくから……」 失敗した瞬間のことを思い出し、俺は顔を赤くした。 ……悪かったかもしれないっつーか、悪かったんだよなぁ。 相手が十夜じゃなかったら、目一杯罵倒されてもおかしくないところだ。反省した俺は、きちんと方法を学んでからコトに及ぶことを誓った。 「……その、俺、どっちみち長く持ちそうにないし……。ダメか?」 「ううん、ダメじゃない」 十夜はにっこり笑い、口での愛撫を承知してくれた。さらに頬にキスをしてくれて、俺はめちゃめちゃ幸せな気持ちになった。十夜からの愛情をしっかりと感じた。 ………………………………嬉しい。 最初に言ったとおり、俺は長くは持たなかった。念願の初フェラチオに興奮して、俺はすぐにイってしまった。しかも引き抜くタイミングを間違えて、十夜の顔にぶっかけてしまった。 「ゴメン、十夜!」 俺は慌てて十夜の顔をタオルで拭った。自分の精液まみれになった十夜はたまらなくエロティックだったが、それよりも申し訳なさのほうが勝った。十夜は俺を喜ばせてくれたのに、恩を仇で返してしまったような気がする。 「わりぃ。へーきか? 目に入らなかったか?」 「あ、うん。へーき。びっくりしただけだから……」 十夜が小さく微笑んでくれたので、俺はほっとした。 今度は俺が十夜のモノを舐めさせてもらった。さきほどバスルームで舐めたときは怯えさせてしまったので、俺は優しく十夜を愛撫した。十夜もすぐに弾けた。俺は十夜の体液を口中で受け止め、そのまま飲み下した。十夜は驚いた顔をしていた。 「……おいしいのか?」 「おいしくはないけど……十夜のだから……」 夢が一つ叶って、俺は思わず笑ってしまった。 「今日は生きてきた中で一番幸せな日かも。十夜が初めて好きだといってくれて、こんな風に抱き合えて」 十夜の中に挿入するのは失敗してそれはショックだったけど、考えてみれば今日は一番の夢が叶ったんだ。十夜が俺に好きだと言ってくれた。ずっと渇望していた言葉をくれた。だから、今まで生きてきた中で、今日は最高に幸せな日だと俺は思う。 口でやりあっこした後も、俺たちは二人とも裸でベッドの中で抱き合っていた。素肌に直接十夜を感じて幸せだと思った。こんなに近い場所に十夜がいることが信じられない。幸せすぎて嘘のようだ。 ベッドでいちゃついているうちにまた興奮してきてしまった。無理もない。魅力的な十夜のボディを前にして、たったあれだけで満足できるはずがない。 今度は一緒に気持ちよくなりたくて、俺は考え、十夜のモノと自分のモノを擦り合わせるように動いてみた。 「どうだ? 十夜。これなら気持ちいいか?」 俺は気持ちいい。 でも、十夜も気持ちよくないと意味がない。俺は一緒に快感を追いかけたい。 「うん。イイ……気持ち、イイよ……」 言葉が嘘でないことを十夜はその表情で教えてくれた。うっとりとした顔で、俺が動くたびに甘い声で鳴いてくれる。しばらくすると十夜も俺の動きに合わせて、自分から腰を揺らしてくれるようになった。 「ん……。あんっ……」 「十夜……お前、すげぇ、キレイだ……」 俺の下で艶かしく喘ぎ身悶える十夜は色っぽくてキレイで、俺はバカみたいに感動してしまった。頬を紅潮させて潤んだ目で俺を見上げる十夜が可愛い。 「ああんっ……あっ……あっ……。萩原っ……イイ……」 「くっ……。可愛すぎるっ……」 俺は十夜の白く平らな腹の上に白濁した液を飛ばしながら、十夜の可憐な唇を奪った。十夜も俺のキスに応えながら欲望を解放した。射精した後も俺は十夜が愛しくて、しっかりと抱き合っていた。濡れた下半身が気持ち悪かったが無視した。十夜とくっついていたいという思いのほうが強かったのだ。 腹の間で俺の精液と十夜のものが混ざり合う。二人の精子が絡み合っているところを想像して、滑稽なんだけどなんだかエロイなと思った。 十夜とエロイことを今日はいっぱいしたんだと思うと、俺はまた幸せな気分になった。 「十夜、好きだ」 「俺も好き」 当たり前に返ってくる十夜からの言葉が嬉しい。 「俺、萩原以外とはえっちしないから、萩原もしちゃダメだからね」 さらに十夜はこんな可愛いことを言って、俺を喜ばせてくれる。 「ああ、しない。俺は十夜がいればそれで幸せだから」 俺、今、すんげぇ幸せな顔してるだろうな。 十夜も俺に負けないぐらい幸せそうな顔をしているので良かったと思った。 |