「好きです、萩原先輩! 付き合ってください!」
武藤から告白されても、俺は驚かなかった。人からの好意に鈍感な宮城や武藤とは俺は違う。熱のこもった視線や、偶然指先が触れただけで染まる頬に、武藤が俺に好意を抱いていることを知っていた。武藤の気持ちには応えられないから、隙を作らないように気をつけていたが、とうとう捉まってしまった。 思い返せば、武藤が俺に惚れるタイミングってのは何度もあったと思う。その中でも一番効いたのは、頬に受けた拳だろうか。 ……武藤、お前、マゾか? ……いやいや。そうじゃなくて……。 武藤のベクトルが俺に向いていると気が付いたとき、世の中はうまくいかないものだと俺は溜息を付いてしまった。 武藤は俺が好き。 宮城は武藤が好き。 そして、俺は宮城を愛している。 一方通行の矢印が作る、なんて見事な三角形。 どう返事をしようか俺は悩んだ。 「NO」以外の答えはあり得ないのだが、心の中で悪い心を持った自分が囁く。ここで返事を引き延ばせば……その間は少なくとも、武藤の視線は絶対に宮城には向かないだろう。もしすぐに武藤を振ったら、それをきっかけに、武藤は宮城の気持ちに気が付いてしまうかもしれない……。 内心で打算的なことを考えたが、結局俺は、自分の気持ちを素直に口にすることにした。 武藤は全力で俺に気持ちをぶつけてきた。俺もそれに応えるべきだろう。 宮城のことを考えると複雑な気持ちだが、誠実でありたいと願うほど、俺は結構、武藤のことを気に入っていた。 「気持ちは嬉しいが、俺には宮城がいるから付き合えない」 相変わらず宮城は俺の想いにこれっぽっちも気付いていないが、それでも俺は、変わらず宮城のことを想い続けていた。何度も諦めようと思ったのに、諦めきれないでいた。 いつになったら宮城への想いを昇華させることが出来るのか、予想も付かない。 もしかしたらこのまま一生、この想いを抱えて生きていくことになるのかもしれない。 だから、武藤とは付き合えない。 武藤の負けず嫌いな性格も素直なところも嫌いじゃないし、頼りにされるのも嬉しかったが、こればかりは仕方ない。 「そう、ですか……。分かりました……」 武藤はきゅっと唇を噛み締め、泣きそうな顔をした。だが泣かなかった。俺が以前、男が軽々しく涙を見せるなと言ったからに違いない。武藤はいつだって健気に俺の言葉を聞いていた。 武藤は可愛い後輩だ。宮城がいなかったら、武藤の気持ちを受け入れる運命もあったかもしれない。意味の無い仮定だが。 「武藤、失恋したときは、男でも泣いていいという決まりになっているんだ」 俺の言葉に武藤はやっと涙を零すことが出来た。武藤の嗚咽が胸に響いて痛かった。 きっと、俺にとって武藤は、弟のようなものなのだろう。武藤にとっては不本意なことだが、愛しいと思う気持ちはあっても、それはけして恋愛感情ではないのだ。 ……いいよ、思う存分泣けよ。俺も宮城に振られたら、間違いなく泣くからさ。 そして、俺に失恋した武藤が、俺の言葉を誤解していたことを知ったのは翌日のことだ。 いつもならとっくに下校している時間に教室にいたことに、あまり深い意味はなかった。窓際に立って窓の外を眺め、俺はぼんやりと考え事をしていた。考えていたのは宮城のことだ。 俺はこのとき、ほんの少しばかり、進歩のない片想いに疲れていた。 あいにく俺は武藤の気持ちに応えることは出来なかったが、堂々と自分の気持ちを打ち明けてきた武藤の態度は立派だった。喧嘩は俺のほうが強くても、精神的な強さで比べてみれば、武藤のほうが上なんじゃないだろうか。 欲しいものを欲しいと言える強さが羨ましい。 俺も武藤を見習って、宮城に告白でもしようか? はっきり想いを伝えなければ、一万年経っても宮城は俺の気持ちに気が付くことなどないに違いない。 だが、告白しても宮城が俺を受け入れる可能性は0に等しい。 宮城は武藤が好きなのだ。 それでも、まったく恋愛の対象としてみてもらえない現状よりはマシかもしれない。俺は宮城の親友でいることに疲れてしまった。 ……告白しよう。 武藤の行動は、俺に勇気を与えてくれた。自分から動かなければこの状況を変えることなど出来ないのだ。このままなにもしないで、宮城を誰かに奪われるのは我慢がならない。 武藤の性格を考えれば、すぐに俺から宮城に乗り換えるということはないだろう。けれどこの先、もし宮城がまた別の誰かに恋をしたら、そのときこそ完全に、宮城は俺の手の届かないところへ行ってしまう……。 …………? なんとなく気配を感じて振り向くと、宮城が教室の入り口に立っていた。俺は内心で驚いた。今日、宮城は、図書の当番になっていたはずだ。それがなぜこんなところにいるのだろう。告白しようと思ったとたんに現れるなんて、タイミングが良過ぎてかえって躊躇してしまう。 「よお。どうした?」 俺は動揺を押し隠し、宮城に声を掛けた。宮城は困ったような怒ったような、複雑な表情をしていた。 「どうした、じゃない! お前、武藤の告白、断ったんだって?」 どうやら宮城は、俺が武藤を振ったという話を知ったらしい。 知らなかった。 武藤と宮城が、そんな話までするほど仲が良かったなんて。 俺は二人の親密さに嫉妬した。 「まーね。その気がないんだから、断るしかないだろ?」 答えた口調は、我ながら素っ気無いものになってしまった。だが宮城は俺の態度は気にならなかったようだ。それよりも武藤に気を取られているのかと思うと、俺は強い寂寥感(せきりょうかん)を覚えた。 「『宮城がいるから付き合えない』って言ったんだって? どうしてそんな言い方するんだよ。おかげで俺、武藤に勘違いされたぞ」 ……武藤め。そんなことまで喋っていたのか。 それにしても、勘違いとはどういうことだろう。 気になったのでなにをどう勘違いしているのか俺は宮城に問いただした。 「ああ。俺とお前が付き合ってるって……」 「あー。そりゃ、完璧に武藤の勘違いだな」 どこをどう曲げて考えたらそんな結論に行き着くのか。武藤の思考は謎である。武藤はしっかりしているように思えて、実はけっこう、うっかりなところもあるのかもしれない。 「だろ? なあ、お前。武藤にちゃんと勘違いだって言ってくれよ。俺が言うよりお前が言ったほうが早いし……」 ……勘違い、ね。 俺は勘違いされたままでも一向に構わないのだが、宮城がそうは思っていないことに、俺は少々腹を立てた。 だんだんと開き直り根性が湧き上がってきた。いや、むしろ、ヤケっぱちになっていると言うべきか? 母親にカミングアウトしたときの気分と似通っていた。 ……隠しておくのももう面倒だ。言っちまえ。 「分かった。武藤には俺とお前は付き合っているわけじゃないってはっきり言っておく。俺が勝手に片想いしているだけだって」 「………………………………………………え?」 宮城は呆けた顔をした。そんな風に口をぽかんと開くな。アホっぽいぞ、宮城。そんな姿も可愛いが。 「なんか、萩原が俺のことを好きって言ってるみたいに聞こえたけど???」 「そう言ってるんだから、そう聞こえるんだろ」 驚きはゆっくり、宮城の中に広がっていった。こんなときにも宮城の反応は鈍かった。俺の言葉が脳に染み渡るまで、かなりの時間を要した。 「え? え? ええー???」 ようやく俺の言葉を理解した宮城は、目いっぱい動揺していた。顔を赤くしてわたわたと手を動かしている。 「え。だって俺、そんなの知らない。なんで? 俺たち親友だろ? どうして???」 「俺、隠していたつもりなかったぜ。お前鈍(にぶ)すぎ。なんで俺が読書好きでもないのにわざわざ図書室通いしてたと思ってんだよ?」 「ええ?? 読書好き、じゃない? えええええ?」 ……ほんっとーにお前、分かっていなかったんだな。知ってはいたけどなんだか虚しいぜ……。 「お前のことが好きだから。お前のことを理解したくて、お前が薦めた本を読んだ。俺って健気だろ? っつーか、女々しいか……」 我ながら自分の健気さに涙が出そうだ。俺は本当に宮城のことが好きなのだ。 「女々しいなんてことないよ! 萩原は男らしくてカッコイイよ! 武藤が惚れちゃう気持ちもよく分かるよ!!」 宮城は慌ててフォローした。 「……じゃあ、宮城。俺と付き合ってくれるか?」 「…………………………………………………え?」 ……困ってる、困ってる。宮城、お前、思ってることが全部顔に出てるぞ。いつもながら、分かりやすいヤツ。素直な反応は可愛いが、今はちょっと傷つくな……。 宮城の言動や態度、表情すべてが、俺のことをまったく今まで恋愛の対象として考えていなかったことを表している。 マジでツライ。 ツライのでごねて、宮城をもっと困らせてみる。 ……ああ、なにやってんだろ。俺ってこんなにガキ臭かったか? 宮城は武藤が好きなのだ。 俺は宮城に振られるのだ。 俺が覚悟を決めたとき、教室に武藤が飛び込んできた。 詳しいことは分からなかったが、誤解が原因で、武藤は宮城にたいして怒っていたらしい。誤解も解けて武藤は宮城に平謝りしていた。 宮城は武藤を簡単に許した。 そりゃそうだろう。武藤は宮城の大切な人なのだから。 「誤解してあんなこと言っちゃったけど、俺、宮城先輩のこと尊敬してるし。やっぱ、失恋は辛いけど、でもちゃんと萩原先輩との仲、応援していますから!」 「…………………………………………………………………………応援?」 宮城は呆然とした表情で、武藤を見詰めていた。 ……応援、ねぇ。 思うに、宮城と武藤の鈍さは、どっこいどっこいじゃないだろうか? 武藤は謎の思考で、宮城は俺のことが好きだと信じきっているようだった。 ……可愛そうに、宮城。お前の気持ちはよく分かる。片想いの相手が鈍いと大変だよな。 と、同情しつつ、俺はちゃっかり武藤の誤解に便乗することにした。 卑怯者と呼びたきゃ呼んでください。 けど、な。 目の前に欲しいものがあったら、つい手を伸ばさずにはいられないと思わないか? 「本当か、宮城! お前も俺に惚れているって!!」 期待に満ちた目というやつで俺は宮城の顔をじっと見つめた。もちろん演技だが、宮城も武藤も気が付いていない。 宮城はうろたえ、顔を引きつらせた。 「本当です! 宮城先輩は萩原先輩のことが好きなんです!」 武藤はダメ押しのように叫んだ。 ……武藤、お前ってほんとーにいいヤツだな。 俺は心の底から、武藤を可愛い後輩だと思った。 「あ、あの、萩原、俺、さ………………」 「お前も俺のことを好きでいてくれたんだな。宮城、好きだ。一年のときから好きだった。絶対に、幸せにする」 宮城の言葉を遮るように俺は言った。押しの弱い宮城は、俺のセリフに圧倒されているようだった。 ……宮城、お前、宗教の勧誘や訪問販売に弱いだろ? 騙されないように気をつけろよ。 もっとも、今、騙そうとしているのは俺だが。 俺は仕上げとばかり、満面に笑みを浮べて宮城の体をきつく抱きしめた。宮城は腕の中で体を硬直させていた。 「じゃ、あの、俺……。邪魔しちゃ悪いんで、これで失礼します」 武藤は赤い顔をして慌てて去って行った。 ……ありがとう、武藤。今度奢ってやるからな。 「好きだ、宮城。愛してる……」 俺は宮城の耳元に愛の言葉を囁いた。 そして、ドサクサに紛れ、俺は宮城の恋人の座に収まったのだった。 ……こんな真似、虚しいだけだって分かってるんだけどな。 恋人同士になってからも、二人でいてすることはあまり変わっていない。映画を見に行ったり水族館に行ったり。互いに予定が合えば週末に会い、二人で出かけていたのは友達だったときと変わらない。 だが、行動が同じでも立場が違うと気分も違う。 偽りの関係であっても長らく片想いしていた相手と恋人同士になれたのは嬉しい。 ……俺もバカだよな。こんなふうに十夜を縛りつけて……。心まで、俺のものになるわけじゃないのにな。 恋人として付き合うようになってから、俺は宮城のことを十夜と姓ではなく名前で呼ぶようにしていた。これも気分の問題なのだが、姓よりも名前で呼んだほうが恋人っぽいと思ったのだ。十夜は相変わらず俺のことを萩原と呼ぶが……。 俺に騙され無理やり俺と付き合うことになった十夜は、不本意な関係だろうに、それでも俺を大切にしてくれた。肉体的接触は拒むが、それ以外は俺という存在を優しく受け止めてくれた。 十夜は優しい。 俺はその優しさに付け込んでいる。 ふいに胸が苦しくなった。 好きな相手を自分の我儘に付き合せて、俺はどうしようもない男だ。最低だ。十夜が俺を選ばないのも当然だ。 俺はそろそろ、十夜を解放してやらなければならない。 もう十分じゃないか。 一時でも夢が叶ったのだから。 理性の声は、自分の気持ちの暴走を止めようとする。 だが、傍にいればいるほど俺はますます十夜への想いを募らせ、十夜を手放せないでいた。 好きだ。 気が狂いそうなほど好きだ。 俺の感情はすべて十夜だけに注がれている。 あの美しい天使を自分だけのものにしたい。 無理だと分かっているのに諦められない。 好きで好きで愛(いと)しすぎて、どうやって十夜を諦めればいいのか、俺にはその方法が分からない。 「十夜、好きだ」 告白すると、十夜は困った顔で微笑む。 答えが返ってこないのが辛い。 キスをしようとすると、するりとかわされてしまう。 愛し過ぎて、たまに憎く感じるときもある。 やはり俺は十夜から離れるべきなのだろう。十夜をめちゃめちゃに傷つけてしまう前に……。 恋人という立場になってから四ヶ月経ったとき、学校の屋上に呼び出され、十夜から別れを切り出された。 当たり前だ。もっと早く言われてもおかしくない言葉だ。十夜は優しいから、俺を傷つけると思ってなかなか言い出せなかったのだろう。 「俺と……。俺と、別れて欲しいんだ!」 十夜は苦しげな顔をして叫んだ。 その言葉に、俺は分かったと答えなければいけなかった。 なのに、俺は未練がましい男で、気が付けば十夜を床に押し倒していた。別れないで欲しいと懇願しながら、涙を流して十夜の体にしがみついていた。 十夜の口から別れの言葉を聞いた瞬間、俺は目の前が真っ暗になった。十夜を失って生きていける自信がなかった。もし十夜がどうしても俺と別れる気なら、俺は十夜を殺して自分も死んでいたかもしれない。 ……いっそこの場で犯してやろうか? こんなに愛してるのに、俺から去ろうとするこいつが憎い。憎くて、そして、愛しい……。 俺は自分の中の凶暴な獣がゆっくりと起き上がってくるのを感じた。自分のものにならないのなら、この愛しくて美しい天使を粉々に壊してしまいたかった。 ……俺以上に、お前を愛している男なんていない。だから誰にも渡さない。 汚してやる。最低の男でも構わない。十夜が手に入らないのなら、もう、どうでもよかった。 十夜を陵辱(りょうじょく)することを想像しただけで、俺の性器は固くなった。残酷な気持ちで俺はソレを十夜の股間に押し付けた。 ……天使の羽をへし折ってやる。もうどこにも行かないように……。 全身に俺の精液をかけて、俺の匂いをたっぷり染みこませてやる。もう二度と他の男のことなど考えないように完全に俺の“オンナ”にしてやる。今この場で、所有の証を刻み付けてやる。泣いても喚いても許してやらない。 俺が十夜の服に手を掛けようとしたとき、十夜は儚く微笑んだ。天使の微笑を浮べて、俺の涙を優しく拭ってくれた。 「ごめん、ね。泣かないで。俺は萩原と別れたりなんかしないから」 十夜の優しい微笑と言葉で、俺の中の凶暴な嵐がすーっと収まっていくのを感じた。 この愛しい相手を傷つけようとした自分が情けなくて惨めで、俺はますます泣いてしまった。涙を流しながら俺は十夜の唇を奪った。 十夜は拒まなかった。俺たちは長いこと、口付けを交わしていた。 ……俺は最低だ。十夜を愛する資格なんかない。なのに、俺は、十夜を諦められない……。 自己嫌悪にとっぷり浸かりながら、俺は十夜の情けに縋り付いた。 ……ごめんな、十夜。俺なんかがお前のこと好きになっちまって。 可哀相な十夜。 こんな気の狂った男に目を付けられたばかりに、意に染まない関係を迫られて。 ……俺たち、出会わなかったほうが良かったのかもしれないな。 そうすれば十夜は、今も穏やかな笑みを浮べていられただろう。俺もこんなにみっともない真似をせずにすんだはずだ。 だが俺たちは出会ってしまったし、今更後戻りできない。 リセットは出来ない。 これはゲームではないのだから。 ……俺は諦められない。だから十夜、お前が諦めて俺のものになってくれ。 自分勝手な想いに我ながら苦笑してしまう。本当に俺は嫌なヤツだ。俺に惚れられた十夜は運が悪かった。 好きな相手にただ暖かい気持ちだけを抱けない自分に失望しながら、俺は十夜を抱きしめ続けたのだった。 屋上で別れを切り出されてから、俺たちの間に変化があった。完全に受身だった十夜が俺たちの関係に積極的になった。 どういった心境の変化だろうか? 俺は単純に喜ぶことにした。恋人としての自覚が出来てきた十夜は、少し色っぽくなった。おかげで俺は、自分の欲望を抑えるのに苦労していた。うっかり十夜に襲い掛からないように、俺は毎日のように自分で自分を慰めていた。オカズはもちろん十夜である。俺の体はすっかり十夜以外では勃たないようになってしまっていた。 「ふっ……くっ……」 今日も十夜の淫らな姿を思い描き、ベッドの上に仰向けに寝そべり、俺は自分の性器を右手で扱いていた。 想像の中の十夜は従順だ。俺の前に素直に尻を差し出し、誘うように腰を揺らしている。自分でアヌスを押し広げ、甘い声で俺を誘う。 「はやくぅ。賢司……入れて……」 もちろん俺はすぐさま十夜の欲しいものを与えてやる。十夜の可憐な蕾に昂ぶりを押し当て、ゆっくりと貫いていく。ずぶずぶと簡単に俺のモノは十夜の中に呑み込まれていく。 「ああんっ。もっと奥まで入れてぇ……」 俺は十夜の腰を掴み、激しく杭を打ちつける。俺の体の下で、十夜は狂ったようによがりまくる。 「くぅっ……十夜……!」 俺は十夜の名前を呼びながら、ティッシュに自分の欲望を吐き出した。 ……虚しい。 「ああ……。早くナマの十夜とやりてぇ……」 本物の十夜は、俺の想像よりも遥かに綺麗で可愛くて色っぽいに違いない。 やりたい。すごくやりたい。めちゃめちゃやりたい。 清らかなイメージの十夜を犯すことに罪悪感はあるのだが、その背徳感すらも俺の性欲を煽っていた。 ……やべぇよ俺。そうとう溜まってる。 十夜とはまだキスしかしていない。俺は自分の唇をなぞりながら、十夜の唇の感触を思い出していた。十夜の唇は柔らかくてしっとりしていて気持ちがイイ。 ……あの口に咥えて貰いてぇな。 ちょっと想像しただけで俺のモノは硬くなった。嫌がる十夜の口に無理やり押し込むシーンを思い描いてみる。今度の妄想は、ややSMちっく調だ。 「やだ……俺、口でなんて出来ない……」 俺の勃起状態のアレを見た瞬間、十夜は泣きそうな顔をした。綺麗な顔にうっすらと涙を浮かべ、怯えた顔で後ずさる。その表情が男を煽るということを分かっていない。 「ふっ……。本当は俺のコレが好きでたまらないんだろう? 素直になれよ」 現実な十夜にこんな下品で乱暴なことが言えるはずがないのだが、想像なのでよしとしよう。 「そ、そんなこと……」 「咥えな。俺のザーメン、飲みてぇんだろ? 大量に飲ませてやるよ」 俺は嫌がる十夜の口に無理やり自分のペニスを押し付ける。最初は固く口を閉じていた十夜も、諦めたようにおずおずと口を開く。わずかに口元が綻んだ瞬間、俺はぐいっと十夜の口中に押し入った。十夜は苦痛に顔を歪める。その顔がまた、色っぽい。 十夜は苦しそうに呻いているが、俺は気にせず腰を乱暴に動かす。 ……想像の中だし、首輪も付けさせてみたり。あ。イイ感じ。……俺は変態かっつーの。 だんだんご主人様と奴隷っぽい展開になってきた。 最初は苦しそうだった十夜も、だんだんと表情が変わり、今は恍惚とした顔で俺のものをしゃぶっている。中で射精すると……実際はティッシュの中なのだが……十夜はそれをおいしそうに飲み込む。 ……すげぇ、えっち。たまんねぇ……。 首輪のほかに、猫耳と尻尾も付けさせてみる。とーぜん、それ以外は身に付けていず、十夜は裸同然の格好だ。 ……やべ。けっこうイケてるかも。これってそうとうマニアックか? でもまた勃ってきちまったぜ。俺って結構、変態かも。 手の中で俺のモノはビンビンに硬くなっていた。間違いなく俺はやりたい盛りの高校生だった。 猫耳の十夜はにゃーんと鳴きながら、無邪気な顔で俺のものをぺろぺろと舐める。 ……やべーっ。超カワイイ。 いいな。猫耳。現実の十夜に付けてくれとは言う勇気は俺にはないが。優しいアイツは怒らないと思うが、変態と思われることは間違いないだろう。だから想像だけで我慢することにする。 舐めさせるだけでは物足りなく、お互いに舐めっこをしているところを想像する。俺のモノを舐めさせながら、俺の口元に性器をもって来させる。 ……あいつのって、どんなんだろうな……。 平常時の十夜のモノならトイレで拝んだことがあるが、勃起状態のモノはさすがに目にしたことはない。だから頑張ってリアルに想像してみる。 ……身長は俺とあいつ変わらないから、大きさも同じぐらいかな。形も、あいつの、完全に剥けてたはずだし、そんなに俺と変わらないかな……。色は違いそうだよな。俺と違って色白だからな。俺よりキレイな色してそうだよな。 俺が捏造(ねつぞう)した十夜の性器は、目の前でとろとろと汁を零している。俺は躊躇いなくそれを口に含んで音を立てて啜(すす)る。 「うにゃーんっ」 色っぽく腰をくねらせながら、十夜は俺の口の中で達する。 ……さっき飲ませたばっかだからな。今度は顔にかけてやろうか。 猫耳の十夜に正座をさせ、俺は十夜の目の前で自分のモノを自分で扱いた。そして十夜の鼻先に思いっきりぶちまける。俺の精液で濡れた十夜の顔は、たまらなくエロティックだ。 顔射されたことが分かっていないようで、猫耳の十夜は不思議そうな顔で目をしばたかせている。拳ですりすりと自分の顔を撫で、ぺろりと手の甲を舐める。猫のようなしぐさだ。 「にゃんにゃんっ」 猫耳十夜は嬉しそうに笑い、俺に頭を擦り付けてくる。 ……うおおおおおおおおっ! たまんねーっ!!! 「……いい加減このへんでやめとかないと、いざってときに枯れちまいそうだぜ」 俺は自分のモノを下着の中にしまおうとする。キリがない。 が、うっかり十夜のえっちな姿を想像してしまい、そのとたん俺のナニはぴくんと反応した。 ……お、俺ってヤツは……。 今度は自分の両膝を自分で抱え、足を広げてM字の格好をした十夜の姿だ。屈辱的な姿に身を震わせ、十夜は羞恥で頬を赤く染めている。 性器も後ろの穴も丸見えの格好だ。 絶景。 そして、十夜は俺と視線を合わせないまま恥ずかしそうな声で呟く。 「好きにして……」 …………………………………………………。 …………………………………………………。 ………………………マジで言われてみてぇ。 「くっそーっ! 早くあいつの中にぶちこみてぇ。ぐちゃぐちゃのめちゃめちゃにしてやりたいぜ!!」 俺はヤケのように、乱暴に自分のモノを扱いた。 想像の中では何度も十夜を犯しているが、現実には情けないことに俺はなかなか十夜に手を出せないでいた。 ……下手に手を出して、嫌われるのがこえぇんだよ。 「信じられない。萩原ってイヤらしい。嫌い!」 …………ざくっ。 俺を拒む十夜の姿を考えたらいきなり萎えた。 俺は痛んだ胸を押さえて低く呻いた。 はたして、俺と十夜が自然な形でセックスできる日が来るのだろうか? それは果てしなく遠い道のりのように思えて、俺は力いっぱいため息をついた。日々、妄想力だけが鍛えられていくのだった……。 |