「好きです! 俺と、付き合ってください!」
「お、お。おおっ。べ、別にいいぜ。お、俺も、お前のこと、す、す、好き……だし……」 ……あ〜あ……。翔太ってばめちゃめちゃテンパってる……。棒読みだし……。 「……大根役者」 俺と一緒に翔太たちのことを物陰から見ていた渚は、ぼそりと毒づいた。 無理やり協力させておきながらの酷いセリフに、思わず苦笑してしまった。相変わらず渚は翔太に厳しい。 ……翔太にも、草壁にも……なんか、悪いことしちゃったな……。 多数の生徒たちの前で『愛の告白』を演じる二人を眺めていると、思わず溜息が出てしまう。本当にこれで、良かったのだろうか……? 俺は二人に対し、罪悪感を抱いていた。 作戦を練るために渚に連れてこられた草壁は、俺の顔を見るなり顔を青くして何度も頭を下げた。自分の軽率な行動で俺に迷惑を掛けたと謝り、心から悔やんでいるようだった。 そして、渚から協力を求められたときも、自分に出来ることなら何でもやると悲痛な顔をしていた。 けれど、草壁のファンから嫌がらせを受けることになったのは、俺に隙があったせいかもしれないし。俺がもっとしっかりしてれば、こんなことにはならなかったのかも……。草壁は自分のことを責めているけど、草壁本人が俺に嫌がらせしてきたわけでもないし。草壁のせいとは俺は思っていない。 草壁は、当分の間“身代わり”を引き受けた翔太にも、しきりに申し訳ないのと謝っていた。長身を縮めて謝罪する姿は、見ていてなんだか切ない。 「ばぁかっ! 謝ってんじゃねぇよ。草壁、お前が悪いわけじゃねぇ。こそこそ飛鳥に嫌がらせするヒキョーモノが全部いけないんだろ!」 翔太はきっぱりと草壁に、謝る必要はないと断言した。 「飛鳥、お前も気にすんじゃねぇぞ? 俺はお前みたいにドンくさくねぇから、怪我なんてしねぇよ」 そして、少々乱暴な手つきで俺の頭を撫でた。 ……俺、小さい子供じゃないんだよ? 子供のように扱われて面映くなったけど、気が楽になったのも確かだ。 そういえば小学生の頃、上級生にからかわれて困っていた俺を、翔太が庇ってくれたことがあった。 昔から変わらない。翔太は頼りがいのある“お兄さん”だ。 「翔太、ありがとね」 謝る代わりにお礼を言うと、翔太は少し照れたように笑った。 「じゃあさっそく二人とも、今日の放課後からこの設定で頼むよ」 いつの間に作成したのか、パソコンで作成したらしきびっしりと字が詰まっているA4のプリント数枚を、渚は草壁と翔太に手渡した。その紙を翔太はうなりながら、草壁は神妙な顔をして読んでいた。 「……ホントにこれで騙されてくれんのかよ……」 「真野の演技力次第ってとこかな」 「ムカつく言い方だな」 「草壁は、心配する必要はないからね。せいぜい、草壁の足をひっぱらないように頑張ってよ」 「お前、ホントに、ムカつくヤツだな」 「それは良かった。真野に好かれたって困るし」 「〜〜〜っ」 コブラ対マングース。 いわゆる犬猿の仲。 俺は二人とも大好きだから仲良くして欲しいのに、渚と翔太は仲が悪い。 一緒に遊んだり出来ないから、ちょっとつまらないかも……。 翔太と草壁は渚のシナリオ通りに、人目の多い昇降口で告白大会を行った。そして表向きは草壁の想いを受け入れたことになっている翔太は、周囲にアピールするため、その日からほぼ毎日、草壁の部活が終わるのをわざわざ待ち、一緒に帰っているらしい。 朝は朝で草壁の朝練に付き合って、普段の登校時間よりもはるかに早い時間に学校に来ているのだとか。受験生だというのに、休みの日も草壁の剣道の試合があれば、見に行くという徹底ぶり。 昼も一緒に食堂で仲良くご飯を食べている。 渚のシナリオ通りの動きだけど、おかげでここ最近、翔太とあまり話しをしていない。 ……俺のためにフリをしているんだから、こんなこと考えちゃいけないんだろうけど……。翔太を取られたみたいで……ちょっと寂しい……。 『いやがらせ』は渚の目論見どおり、ピタリと止んだ。驚くほどの効果だった。 翔太と草壁が一緒に行動し始めた頃、「草壁駿は最初から真野翔太に興味があった。東雲飛鳥は真野翔太と仲が良いので、真野の情報を知りたいがために近づいただけ」……という噂が校内に流れた。 いや、流れたと言うより、渚が故意に流したらしい。 ……渚ってば……。そぉいうの、本当に得意なんだから……。翔太に腹黒って言われるのも、無理ないかも。そこも好きだけど。ってゆーか、渚のことは全部好きだけど……。 傍から見れば特別に親密な様子の草壁と翔太の姿に、周りもその噂を鵜呑みにした。あの草壁駿が振られるはずがないという思い込みや願望もあいまって、今のところその噂が偽りだと疑う生徒はいないみたいだ。翔太が草壁と付き合っているフリをしてから、もう一ヶ月以上経つ。すっかり『公認』になってしまった二人だ。 俺のせいで翔太も草壁も不便を強いられているから、申し訳ないって思う。 もともと翔太は草壁に好意的だったから、二人が一緒にいて楽しそうなのは、まるっきり演技ってわけでもないとは思うけど。 ……嫌がらせの犯人、まだ捕まえられないのかな? 犯人が捕まらない限り、二人はこの芝居を止めることが出来ない。 この状況に縛られたままだ。 翔太に危険が及んでいないかも、心配だし。 ……俺の代わりに翔太が怪我でもしたら……そんなのヤだよ……。 「俺への嫌がらせは止んだけど……。翔太は大丈夫なの??」 俺がおそるおそる尋ねると、翔太は微妙な顔をした。 「……翔太?」 「あ、ああ。だ、大丈夫だ」 「……ふぅん? ホントにぃ?」 ……俺に気遣って、言わないだけじゃないの? 俺は翔太の言葉が本当かどうか疑って、思わずじぃっと翔太の表情を観察した。 「……本当に、大丈夫だから。飛鳥は心配する必要はねぇよ」 俺の視線から逃れるように、翔太は目を逸らしながら答えた。なんとなく気まずそうな素振りだから、それ以上は追求できなかった。 けど、疑問は残る。 ……翔太らしくないなぁ……。 翔太ははっきりとした気性だ。曖昧な態度が珍しく、ふに落ちない。 何かを隠しているみたい。 本当は嫌がらせを受けているのに、俺に気遣って言わないだけじゃないだろうか。 釈然としない気持ちで、渚に翔太のことを話したら、渚は声を立てて笑った。渚のこういう笑い方は、ちょっと珍しい。 「……渚ぁ?」 「いや、真野は飛鳥に伝えてないんだなぁって思って……」 「? ……何を?」 「そのうち分かるよ。……それより、こっちに集中して。久々なんだし」 「んっ……あっ……」 ……えっちするの、一ヶ月ぶりだから、なんか恥ずかしい……。 場所は渚の部屋で、部屋に入ってすぐ服を脱ぎ捨て、ベッドの上で二人でじゃれ合っていた。 手を繋いだりとかキスしたりとか少しぐらいは触れ合う機会はあったけど、受験勉強で忙しい渚の邪魔をしたくなくて。もっと二人きりの時間が欲しいだなんて我儘は言えなかった。だからこうして抱き合うのは久しぶり。 今日、土曜日の夕方に渚に誘われて、嬉しくて嬉しくて、俺は母親に泊まって来るからと断って、家を出てきた。遅い時間だからと母親は心配したけど、いつもどおり渚が最寄り駅の改札口まで迎えにきてくれた。 「今日は親がいないから」と、渚の部屋に連れてこられ、部屋に入った途端、キスされた。キスだけで体がメロメロになって、渚に支えてもらわなきゃ、立っていることさえできなくなった。 力強い腕と、体臭と熱に、くらりとする。 ……渚……またカッコよくなった気がする……。 いつだって、もうこれ以上好きになれないと思うのに、ときが経つほどますます惹かれていく。愛しいこの人を、失いたくないと心から願う。 放してあげることが、渚のためだって分かっているのに。 渚から離れて、生きていける自信が俺にはない。 出会った日から、ずっと渚のことが好きだった。 好きになったことを、後悔したことは一度もなかった。 でも、渚に気持ちが届かなくて、悔しくて哀しくて、眠れない夜は何度もあった。 けれどこうして想いを返してもらえて。 今、渚が、ここにいる。 宝物を慈しむように、俺を優しく抱きしめてくれている。 ……なんか、スゴイ……。世界で一番好きな人と、こうして抱き合えるなんて……。 幸せすぎて、胸が苦しくて、なんだか自然に涙が溢れ出てきた。 「……まだ入れてもなければ舐めてもないんだけど?」 呆れた口調とは裏腹に、優しく指先で俺の頬に触れるから、ますます涙が止まらなくなる。 「〜〜〜〜〜〜〜っ。だってぇ……。……幸せ、なんだもん……」 これほど好きになれる人と出会えた奇跡。 好きな人に好きといってもらえる奇跡。 好きな人と一緒にいられる奇跡。 好きな人と抱き合える奇跡。 この奇跡を、誰に感謝すればいいのだろう。 ……神様ってホントにいるのかな。 今なら俺、信じちゃうかも。 ……だって、渚と出会うことができた……。 この地球上で、たった一人の特別な人を、抱きしめることの出来る幸福。 「幸せだと、泣くの?」 「ふぇぇっ。ご、ごめんっ……俺っ……」 「なんなんだろうね、この可愛い生き物は」 何故か渚は声に悔しさを滲ませ、軽く俺の鼻を摘んだ。 「ねぇ、予告しといてあげるけど、今から滅茶苦茶に犯すから。男の前で、そんな泣き顔見せちゃいけないって、いい加減、学習しなよ?」 そして、強い力で俺の足を割り開く。全てが渚に晒されて、俺は恥ずかしくて身を捩るが、逃げようとは思わない。だって、触れているのは渚だし。 「ああっ……」 唇から、自分でも恥ずかしくなるような、甘い声が漏れる。 渚は俺の胸の突起を舌先で刺激しながら、後ろを念入りに指でほぐしている。 「っ!」 指を奥まで突き入れられた瞬間、俺は堪えきれずにイってしまった。 まさかこれぐらいで、俺がイクとは思っていなかったのだろう。渚は驚き、動きを止めた。 「〜〜〜〜っ」 俺は恥ずかしくて恥ずかしくて、顔が赤くなっているのが自分でも分かる。 いくら久しぶりとはいえ、早過ぎる。 肉体的に与えられた刺激でというより、渚とえっちなことをしているという精神的な昂ぶりで、達してしまったのだけど。 「俺、は、早くて、ゴメンっ」 「別にいいよ。我慢できないところも可愛いし」 渚はくすりと笑って、ちゅっと俺の頬にキスをした。指はまだ俺の中に入れたままだ。 俺ばかりというのも申し訳ないというか、悔しくて、俺は渚のモノに手を伸ばした。渚のもすごく硬く熱くなってて、欲情してくれていることが分かって嬉しかった。愛撫しづらい体勢だったけど、渚にももっと感じて欲しくて指を使っていたら、気持ち良いと誉められた。 「あの、俺、口でしたい……」 渚に組み敷かれている状態だと、思ったように動けない。 もっともっと渚に気持ち良くなって貰いたいのに。 「それはダメ」 「え、な、なんで……」 「俺も、限界だから」 「っ……ああっ!」 指が抜かれたと思ったら、すぐに渚のモノが入ってきた。そして容赦なく俺を突き上げる。 十分慣らしてくれたから痛くはなかったけど、大きくて、ちょっと苦しい。だんだん気持ち良くなってくることは分かっているから、俺は息を吐き、渚を受け入れた。 限界だと言っていたくせに、渚には俺が乱れる姿を眺めて楽しむ余裕があった。俺の反応を観察しながら、渚は腰を動かしている。激しい動きに、ベッドがギシギシと音を立てた。 「あっ! ヤ……っ! また、イっちゃう……」 内部を擦られるたびに、体が熱で蕩けていく。 俺ばかりと思うと悔しくて。 でも、強く揺すられるとそんなことも考えていられなくて。 ただ、熱に溺れる。 俺は助けを求めるように、渚の背中に腕を回して縋りついた。 何度も射精させられて、先端からはもう透明な液がとろりと溢れるだけになる。気持ちいいけど……良すぎて苦しい。気が狂いそう。 「あんっ……」 渚の欲望の証が、俺の中でどくんと脈打ったのを感じる。散々俺を追い上げた後、ようやく達したみたい。俺は少しの寂しさと大きな安堵を感じてほっと息をついたが、渚は俺を手放そうとしなかった。俺の中に放出した後も、繋がったままの状態で俺を強く抱きしめた。 「ま、まだ、するのぉ?」 俺が半泣きで聞くと、渚はにこっと笑った。 「うん、まだするの。……まだまだ、足りないよ」 「無理ぃ〜。し、死んじゃう……」 「そう? コッチのほうは、まだ欲しがってるみたいだけど?」 渚は指先で、結合部分を撫でた。渚の言うとおり、ソコはひくひくとイヤらしく痙攣し、渚が再び育つのを期待しているようだった。 思わずぎゅぅっと中の渚を締め付けてしまうと、ソレは徐々に大きくなっていった。 「飛鳥、締め過ぎ」 渚は優雅に微笑み、また俺を追い詰めるために動き始めた。 「あっ……やっ……」 「……一ヶ月も禁欲してたからね。今日は、たくさん抱かせて?」 欲望に掠れる甘い声で、渚は耳元で囁いた。 「んっ……」 「ずっと、飛鳥のこと抱きたかった……」 そんな風に言われたら、逆らえない。俺が渚を求めていたように、渚も俺を欲しいと思ってくれていたんだ。抱き合いたいと思ってくれていたんだ。 ……嬉しい。俺だって……ずっと渚とこうしたかった……。 渚は前からだけじゃなく、いろいろな体勢で俺を抱いた。渚と会えない間、渚とのエッチを思い出しながら自分でもシてたけど、やっぱり生身で抱き合うほうが、超気持ちイイ。体も、心も。 結局、渚が満足したのは日付が変わった深夜だった。 濡れたタオルで体を拭き、ベッドのシーツを変えてから、えっちした後も二人とも裸のままでいちゃついていた。 渚が俺を甘やかすから、夢心地な気分で俺は渚に擦り寄った。 「飛鳥、進路どうすることにした?」 渚は俺の頭を撫でながら、初めて進路のことを口にした。 俺は、渚から進路の話題を持ち出してきたことにも驚いたし、俺の進路を問う声音が、思いのほか真剣だったことにも驚いた。 「……えっと、まだどの専門学校にするかはっきり決めてないけど、インテリアコーディネーターに興味あって、資格の取れる学校を選ぶつもりなんだ」 何十校から資料を取り寄せ読み比べ中で、まだ確定してはいないものの、ある程度絞ることは出来ていた。体験入学にでも申し込み、実際に学校を巡ってみようと考えていた。 「そう。……飛鳥が、迷っていることは分かっていたよ。けど、飛鳥の意志で、きちんと考えて決めてもらいたかったから、余計な口は挟まないようにしていた」 「……うん。ありがとう……」 ……そっか。 渚は俺の進路に興味がなかったわけじゃなかった。俺が迷っていることを知っていて、待っていてくれたんだ。渚に依存しないように、俺が一人で決められるように。 俺はバカだ。 渚のことを信じないで、勝手に不安に思ってた。 渚はちゃんと、俺のことを考えてくれているのに。 ……だから、なのかな。 俺の様子を見て、もう大丈夫だと思ったからこそ、渚は今日、進路のことを訊いてきたのだ。 なんだか、また泣きたくなった。 嬉しくて。 でも渚と話を続けたくて、頑張って耐えた。 「……渚の進路も、訊いていい?」 「大学進学だよ。第一志望の大学は、一応、家から通える距離。先月受けた模試でやっとA判定が取れたところ。このままペース落とさず勉強続けたら、受かると思う」 「そうなんだ……」 家から通える距離と聞いて、俺はほっとした。遠距離になったら、渚の心を繋ぎとめておく自信がない。今だっていっぱいいっぱいなのに。 「どこの大学か、訊いていい?」 「飛鳥のお父さんと同じ大学。……それが条件の一つだったからね」 「……条件?」 俺の父さんと同じってことは、超難関大学ってことだ。父さんは自分の出身校を自慢するような人じゃないから本人から聞いたことはないけど、父さん宛に大学の同窓会のお知らせが届いていて、俺でも知っている有名大学だから記憶に残っていた。 ……さすが渚。やっぱ、頭イイんだ……。 ……でも、条件って……? 「飛鳥のお父さんと同じ大学へ行き、院まで進んで一級建築士の資格をとり、ゆくゆくは飛鳥のお父さんの事務所を継ぐ予定」 「……ええっ?」 「社会人になるまでは同棲は認めないって言ってたけど、まあそれは仕方ないよね。可愛い末息子を嫁に貰うんだから、それぐらいの譲歩はしないと。けど、社会人になったら一緒に暮らすから」 「…………え?」 一緒に暮らすって……俺と……? 「将来的には飛鳥のご両親と同居もアリだけど、しばらくは新婚生活を二人で楽しみたいよね」 「…………」 「飛鳥の志望がインテリアコーディネーターだったのは、正直、嬉しいよ。飛鳥が自分で考えて決めたことなら……俺から離れることを除いて…・…なんでも応援する気だったけど。俺の志望とまったく無関係じゃないから、良かった」 「…………」 「将来は一緒に働こうか。俺が建てた家を、飛鳥が彩る。悪くないね」 …………えーっと……。 ……もしかして……入り婿ってこと……? ……いつの間に……父さんとそんな話をしたんだろう…………? いつの間にか渚が、自分の父親と約束を取り付けていたことには驚いたけど、渚が先々まで俺と一緒にいられるために、考えてくれていたことが嬉しかった。 俺との交際を父さんに認めてもらうために、これほどがむしゃらに勉強してくれていたのかと思うと、渚のことが愛しくてたまらなくなった。 ずっと渚の傍にいて、将来は渚と一緒に暮らして、一緒に仕事して。 それってものすごく幸福な未来だと思う。 「えへへ。もしかしたらこれって……プロポーズ……みたいな?」 「ばかだなぁ、飛鳥。プロポーズなわけ、ないだろ?」 力いっぱい呆れた口調で言い返された。 「うう……」 ……そ、そりゃ、俺と渚は男同士で……結婚なんて、出来るわけないけど。 ……でも渚だって、『新婚生活』って言ってたしぃ。 ……なにもそんなにきっぱり否定しなくてもいいのに……。 俺は軽く落ち込んでしまった。 「あのね、プロポーズって言うのは、結婚を申込むことだよね」 「……うん」 「ってことは、申込まれたほうは、断ることもできるよね」 「……う、うん……?」 「拒否権、あると思ってるの?」 「えっ!?」 ……プロポーズじゃないって……そういう意味!? 渚は微笑んでいたけど目がマジだったから、俺はちょっと怖くなって胸がどきどきした。 「あ、あの、えっと……」 「これだけ人のこと夢中にさせておいて、裏切ったら殺すよ?」 「えっ」 「飛鳥は、一生、俺の傍にいるんだよ。浮気も許さないからね」 物騒なセリフを吐きながら、にっこり微笑み王子様は俺に甘いキスをした。 舌を絡ませて口付けに応えながら、俺は色々と思い違いをしていたことを実感した。 最初から、俺に権利なんかなかったんだ。 渚の傍を離れる権利なんて。 今までうだうだ悩んでいたことがアホみたいだ。 渚は俺とともに生きる未来しか、考えていなかったのに。 「浮気なんか、絶対、しない。俺だってずっと、渚の傍にいたい」 浮気なんて、するはずがない。 渚以上に愛しいと思える人なんて、この地上のどこを探してもきっといない。 裸で抱き合って何度もキスを交わしているうちに、腰の辺りに熱くなった渚の欲望を感じた。俺は進んで足を開き、受け入れる準備をした。 「すごい、ね。飛鳥のここ、ぐしょぐしょに濡れて、女の子みたい」 「んっ……」 渚の体液が溢れて出ているアソコの入口を、渚は嬉しそうに指で撫でた。タオルで軽く表面を拭いただけだったから、指で弄られて渚にたっぷり注がれたものが零れてしまった。 指を動かすたびに響く濡れた音が恥ずかしい。 「あ……んっ……。渚ぁ……」 先を促すように名前を呼ぶと、渚は膝立ちになり、俺の口元に俺が欲しがっているモノを近づけてきた。 「舐めてよ。上手に出来たら、入れてあげる」 「……うん」 目の前のソレを、俺は嬉々として口に含んだ。 ……もっともっと、夢中にさせちゃうんだから! 俺はいつも以上に気合を入れて、口の中に含んだものに、舌を絡めた。一度、先端にキスしてから、力いっぱい頬張ってみる。入りきらない部分は、指で愛撫した。 ちゅうちゅう夢中になって吸っていたら、頭を撫でられた。 「よく出来ました。ご褒美をあげるよ」 「うん」 そのまま口の中で果ててもらい気もしたけど、それよりも体の中が疼いて、渚が欲しくてたまらなかった。 渚に促されるまま、お尻を突き出すようなポーズをとる。超やらしぃ格好だし、恥ずかしいけど、渚にもっとその気になってもらいたくて、我慢した。 渚はゆっくりと、中の熱さを確かめるように侵入してきた。 「んっ……ああっ……」 背後から俺を抱き締め、渚は全てを俺の中に収めた。すぐに動き始めず、渚は俺の耳に軽く噛み付いた。 「ごめん、飛鳥の中がヨすぎていっちゃいそうだから、ちょっと待ってて?」 「……ウン」 中が疼いて仕方なかったけど、体の一部で繋がって、ぺったりとくっついているのが気持ちよくて、俺は大人しく渚が動き始めるのを待った。 そして、最初は軽く揺するだけだったけど、渚はだんだんと動きを激しくしていった。 「……っ……あっ……ああっ……」 俺がイきそうになる寸前、一旦引き抜いて俺を仰向けにすると、今度は正面から深く突き入れてきた。 後ろからのほうが奥まで入る気がするけど、渚の顔が見られるから、こっちの体勢のほうが俺は好き。 「〜〜〜〜っ!」 噛み付くようなちゅーをされながら、内部を激しく描き回され、俺は渚の腹を汚してしまった。少し遅れて、渚も俺の中でイったみたい。体の中で大きく脈打つのを感じた。 「……はぁっ……はぁ……」 頂上を極めた後もしばらくは、荒い呼吸のまま二人で抱き合っていた。密着した下半身はどろどろに濡れていて、気持ち悪いけど気持ちいい。好きな男と抱き合った証だから。 ……ああそうだ。これだけは言っとかないと! 「渚も、浮気は、しちゃヤだからね?」 「浮気したら殺す?」 「ううん」 渚が浮気したとしても、俺は渚を傷つけることは絶対に出来ない。 それは愛情の差ではなくて、俺と渚では、愛情表現が違うんだ。 「浮気したら、泣くからね!!」 大真面目に言い切ると、渚はくすくすと笑って、俺の額にキスをした。 「飛鳥らしい。泣き顔も好きだけど、笑った顔のほうが好きだから、浮気しないようにするよ」 渚の言葉にほっとしたのもつかの間、意地悪な恋人は「極力ね」と、余計な一言を付け加えたのだった。 |