【恋ってね! 飛鳥編  -03-】
 
「あれ? 渚からメールが入ってる……」
珍しい。
いつもは俺が10回メール送って、ようやく1回返事が戻ってくるぐらいなのに。渚のほうからメールしてくれることなんて、ほとんどない。
何の用かと思ってメールを開けると、「まだ学校にいるよね。一緒に帰らない?」と、お誘いのメッセージ。
……嬉しい。
1年の頃はクラスも同じだったし渚も予備校に通ってなかったから一緒にいられる時間も今より多かった。でも、二年になってバリバリの進学狙いの渚とはクラスも分かれてしまい、さらに渚が予備校に通い始めてから、一緒にいられる時間は激減した。予備校があるときとか、合気道の稽古の日とか、渚はさっさと帰っちゃうから、一緒に帰れるなんて滅多にない。
いつもは家が近所の夕貴や翔太と帰ることが多かったけど、今日は渚と約束があるからと先に帰ってもらった。
「どこにいるの?」とメールを送ると、昇降口で待っていると返信がきた。俺は待たせるのが悪くて……というより、一刻も早く渚に会いたくて、先生に怒られない程度に小走りに、昇降口へ向かった。渚の姿が視界に入ると、それだけでもう頬がゆるんでくる。
……渚……。今日もキレイでカッコいい!!
週末に会ったっきりだから、3日ぶりだ。勉強の邪魔をしたくないから電話も我慢しているので、話すのも久しぶり。ちょっと緊張してしまう。
「ごめん、お待たせ!」
「じゃあ、帰ろうか」
渚は俺の顔を見て、にこっと笑った。
品のある華やかな顔立ちだから、微笑むと周囲が明るくなるような感じがする。
きれいな笑顔に見惚れつつ、渚の表情に違和感があった。
……あれ? ……笑ってるけど……もしかして渚……機嫌、悪い……?
毎日毎日勉強ばかりで、疲れてしまったんだろうか?
口元は笑っているけど……目が……笑ってない。
俺が渚の表情を伺っていると、急にぎゅって手を握られてびっくりした。
「え?」
「イヤなの?」
「……ううん。ヤじゃ、ない」
それどころか嬉しい。俺はぎゅぅっと渚の手を握り返した。
まだ校門をくぐる前で、しかも丁度下校時刻だから他の生徒だって周りにいっぱいいるというのに、渚のこの行動は珍しかった。学校では恋人同士独特の、甘ったるい態度なんてとったことないのに。俺がなつこうとしても、人前ではみっともないって邪険に扱われることが多かったのに。
俺は学校中に「俺たち付き合ってます!!」って公言したいくらいだけど、渚はそういうのイヤみたいだって分かって、仕方ないので我慢するようにしていた。近頃では人前では友達の範疇をはみ出さないようにって、細心の注意を払ってた。
なので、公衆の面前で堂々と渚と手を繋ぐなんて、初めてだ。
……手を繋いで下校だなんて、フツーの高校生カップルみたいじゃない!?
……公認! これって、公認ってヤツじゃない!? 渚のほうから手を繋いでくれるなんて……信じられないっ。
……あーもう幸せーっ。
……もしかして今なら……イケちゃうんじゃないのっ!?
手を繋いだままそぉっと俺は渚に近づき、思い切って腕にしがみついてみた。
……密着度アップ! これはどうだっ!
さすがに振り解かれるかなって思って、恐々と渚の顔を覗き込むけど、軽く苦笑いされただけで黙認してくれたから、俺はほっとした。
……周囲の視線が、めっちゃ気持ちいいんですけどっ!
……へっへーん。学園の王子様は、俺のものさ!! ざまーみろっ!!!
嬉しくて嬉しくて嬉しくて、俺は満面の笑顔で遠慮なく渚にベタベタくっつきながら歩いた。
「飛鳥、そんなにくっついたら歩きづらいよ?」
「……ダメ?」
「ダメじゃないけど。飛鳥は甘えん坊だね」
……だって、こんな機会、滅多にないんだもんっ!
渚は本気で嫌がっていたら、実力行使に出るタイプだ。見た目よりも恋人は短気なのだ。そして翔太が評したように、容赦ない。
その渚が俺の好きにさせてくれているから、俺は気にせず渚にくっつき続けることにした。
さすがに電車の中では、しぶしぶ手を繋ぐだけに留めておいたけど。
「渚、今日、俺の部屋寄ってけるの?」
「うん」
「予備校は?」
「今日は休むことにしたから」
「ふうん?」
渚が予備校を休むだなんて、珍しい。
やっぱり勉強で疲れてるのかな〜。
……それで恋人の俺の顔を見て癒されたかったとか!?
……ぎゃーっ。それってすごくねぇ? なんかもー俺ってば、渚に愛されている!!??
……もう、どうしようっ。すっごく嬉しいんですけどっ。
「えへへ」
「飛鳥、そんなに嬉しい?」
「えー。だって今日、渚と一緒に過ごせるとは思ってなかったんだもん。すげぇ嬉しい」
渚は出迎えてくれたお手伝いの佐東さんに丁寧に挨拶をし、俺の後をついてきた。そして部屋に入るなり、いきなりちゅーされた。
もちろん、大好きな渚からキスされて嫌なわけがないから、俺は渚の肩に縋りつき、甘いキスを受け入れた。
渚は俺を抱きしめたまま、耳元で囁いた。
「飛鳥。俺が何で今日、予備校休んだか、分かってる?」
「えーと。勉強に疲れたから?」
……そんでもって、俺の顔見て癒されたかったからとか。
俺はこの答えにかなりの自信を持っていたのだけれど、違うといわれ、頭を軽くはたかれた。
「あのね、自分の恋人に他の男が言い寄っているって知ったら、心穏やかでいられないってこと分かってくれる?」
「えー?」
……他の男って……誰のことだっけ?
渚とのちゅーにうっとりしてしまって、頭がぼんやりしていた俺は、渚が誰のことを指しているのかさっぱり思い出せなかった。
「……他の男って……誰だっけ???」
「……若年健忘症?」
渚は呆れた顔をして、俺の額にデコピンをくらわせた。
……かなり痛い……。
……ヒドイ……。
「草壁のこと。デートに誘われたんでしょ?」
「あー。うーん、そぉいうことになるのかなぁ……」
昨日の出来事を渚まで知っていて、驚いた。
「あいつが飛鳥に惚れてるのは、知っていたけどね」
「ええー?」
「……飛鳥がなにも気がついていないってことも、分かっていたけど。無防備過ぎ」
渚は小さく溜息を吐きながら、俺の制服を脱がしていった。
……やった。今日もえっちして貰えるんだ……。
渚とえっちなことをするのは大好き。
逞しいオスに貫かれると、自分が渚のものなんだって実感できるから。
渚がまだ俺を欲しがってくれていると信じられるから。
それに、今日は手を繋いで歩けたし、嫉妬してるっぽいことも言って貰えたし。
なんかもう幸せすぎて、夢みたいだ。
俺を全裸にさせると、渚は制服を着たまま、俺の体に触れてきた。
「渚も脱いでよっ。俺だけって恥ずかしいじゃん」
「じゃあ脱がせてよ」
専制君主の言うことに逆らえないし、逆らう気もない。俺はいそいそと渚の制服のボタンを外していった。
上を脱がせただけで、ほどよく筋肉の発達した上半身に、俺はめろめろになってしまった。
……カッコイイ……。
「飛鳥、もう勃ってるね」
「……だって、渚がカッコイイんだもん」
……それに渚のアレだって、もう元気になってるじゃん。
どきどきしながらズボンと一緒に下着も降ろすと、渚の欲望の証は、凛々しく立ち上がっている。渚は俺をベッドに誘い、ベッドの端に座らせた。
下半身は欲情していても冷静さを残している渚は、シワにならないように二人分の制服を手早くハンガーに掛けた。こんなときにもクールさを失わない恋人が、憎らしくも頼もしい。
一糸纏わぬ姿の恋人を眺めながら、奇跡のようだと思う。
美しい顔立ち、美しい肢体。
全てが俺の理想どおりで完璧すぎる。
まるで神が創った彫刻みたいだ。
まだソコには触れられていないのに、恋人の所作の一つ一つを見つめているだけで、俺の中心はジンと熱くなった。先端からはとろりと透明な液がにじんでいる。
「飛鳥、足開いて。舐めてあげる」
「……うん」
俺は羞恥に頬を染めながら、渚に促されるまま足を開いた。渚は俺の太ももに手を添え、ペロリと俺の先っぽを舐めた。
「……っ」
キレイな渚が、躊躇いもなく口で俺のモノを愛撫している。
それだけでかなりクる。
「あっ……イイっ……」
たまらなくなって声を上げると、渚は俺を含んだまま笑った。
そしてさらに俺を追い上げるために、俺の足を肩に乗せ、舐めながら後ろの穴に指を入れてきた。いきなり3本の指で中を掻き回されるけど、潤滑剤をたっぷり使ってくれているから痛くない。
下半身からくちゃくちゃとえっちな音が聞こえて、触覚、視覚だけでなく、聴覚でも刺激を受けた。
「……んっ……ああんっ……もぅ……イっちゃう……」
後ろに手を付いて、体を支えているけど、崩れ落ちてしまいそう。
「まだダメ。飛鳥、早すぎ」
塞き止めるように中心をぎゅっと握られ、閉じ込められた熱が俺の中で騒ぎ、極まって瞳が潤んだ。
「うっ……ううっ……だってぇ……気持ちイイんだもん……」
「そんな顔で、そんなことを言って、男を煽るんじゃないよ。……滅茶苦茶にしたくなる」
「……滅茶苦茶にして……」
俺の言葉に渚は愉しそうに笑い、俺を押し倒した。逞しい腕に抱きすくめられてうっとりとしてしまう。
足を大きく開かされ、先端で後ろをつつかれ、乳首を指で弄られながら首筋を舐められた。
滅茶苦茶にするといいながら、渚はゆっくりと丁寧に、俺の快感を引き出していった。
「あ……んっ……」
気持ちいい。
でも、物足りない……。
もっと強烈な刺激が欲しくて、俺は渚の足の間に手を伸ばし、ソレに触れた。俺が指を絡めると、渚は色っぽい息を吐いた。そして目が合うとキスをされた。舌と舌を絡ませ、互いの唾液を交換する。
「渚ぁ……早く……キテ……」
たまらなくなって半泣きで懇願するけど、渚は先の部分を入れただけで、奥に進もうとしなかった。
……っ!! なんでそんなに余裕あるわけっ!?
……俺は、欲しくて欲しくてたまらないのにっ!!
浅い部分で出し入れしながら、渚は冷静な目で、俺のことを観察している。
「〜〜〜っ。渚、焦らさないで……。奥まで……入れて……」
「ダメだよ。これは罰だからね」
渚だって限界まできているはずなのに、余裕の笑みさえ浮かべて囁いた。
「………罰……?」
「そう。他の男に言い寄られた罰」
「っ………!?」
……もしかして渚……。
……ものすごく……怒ってる……?
「だ、だって……。俺には渚だけだもんっ。ほ、他の男なんて……関係ないもんっ……」
延々と焦らされて、俺は辛くてぼろぼろと泣いてしまった。耐え切れずに自分の下半身に手を伸ばすが、渚に阻止される。
「ふえぇんっ……やだぁ……意地悪しないで……」
「浮気は、絶対に、許さないからね?」
「し、しないっ! 絶対、しないから……。だから……」
「約束する?」
「するっ! だから、もうっ。お願い……
「いいよ。飛鳥の望みどおりにしてあげる。どうして欲しい」
「……っ……中、いっぱい、擦ってっ。渚ので……奥まで……お願いっ」
「……飛鳥、すげぇエロくて可愛い」
いつになく乱暴な口調で囁くと、渚は一気に奥まで体を進めた。実際は、渚だって余裕はなかったのだろう。切羽詰ったような激しい動きに、一気に高みへと向かわされる。
「あっ……!」
俺はのけぞり、勢い良く放出してしまった。頬にまで自分の精液が飛び散った。
俺がイっても渚の動きは止まらず、俺の先端からはとろとろと液が零れ続けた。
「あんっ……イイっ……! もっと……あっ……あっ……!」
渚の動きが止まり、強く抱きしめられると、体の中でどくんと脈打つのを感じた。なま温かい体液が、たっぷりと注がれる。
その感触に陶然としながら、俺もまた達してしまった。
俺の体で渚がイってくれたことがすごく嬉しい。
射精してからも渚は抜こうとせず、俺の顔中にキスを降らせたり、髪の毛を優しく撫でてくれたりした。
セックス後の甘ったるい雰囲気が、気恥ずかしいけど、幸せを実感してしまう。
渚の回復は早くて、すぐにまた俺の中で育っていった。抜かずに渚は腰を使い始める。今度は焦らさず、最初から俺の望むような快感を与えてくれた。
その日、今日は俺の両親もいるというのに、渚は泊まっていってくれた。
たっぷりエッチしてから、たまたま仕事が早く終わって家に帰ってきた父親と母親と俺と渚の四人で夕飯を食べ、お風呂に入ってからまたエッチした。
俺は一年生の頃から渚との関係を母親に打ち明けていたし、父親にも二年生の頃に打ち明けた……というか、バレちゃったんだけど……一応は二人とも認めてくれているので、親公認だ。でも渚はそれがイやみたいで、母親だけなら兎に角、父親がいる日は絶対に泊まっていったりしなかったのに。
……お父さんはお母さんと違って、手放しでってわけじゃなかったからかなぁ……。
母親は俺の恋が実ったことを祝福してくれた。
けれど父親は、相手が男だと知ると激怒した。包丁を首筋に当て、別れるぐらいなら死んでやると俺が泣きながら暴れると、父親はしぶしぶ俺たちの関係を認めた。
条件としては「その男に会わせること」と言われて、俺はひやひやしながら渚に父親に会って貰いたいと懇願した。「面倒だから別れる」と言われそうで怖かったけど、渚は溜息一つつき、思ったよりもあっさりと父親と会うことを了承してくれた。
そのとき、どのような話しを二人でしたのか、俺は知らない。「飛鳥は部屋に戻っていなさい」と父親に言われ、同席させて貰えなかったからだ。
けれど「どっちかが女の子だったら、もっと良かったんだが……」と父親が惜しそうに呟いていたから、どうやら父親も渚のことを気に入ったらしい。
兄と姉にはまだ内緒だけど、いずれ二人にも渚を紹介できたらなぁって思っていた。
「……っあ!」
翌朝、衝撃で目が覚めた。
「おはよう、飛鳥」
「あ……おは……よう……」
爽やかに朝の挨拶をされても、やってることはエロい。
上半身はパジャマを着たままで、下半身だけ脱がされて、渚のイチモツを後ろの口に銜えさせられていた。昨日もあんなにいっぱいしたのに。渚のアレは、朝から元気一杯だ。
品があり清潔そうで、禁欲的な美しい顔立ちなのに、渚はしっかり健康的な高校生男児だった。
「学校に遅刻しないように、すぐ終わらせるから」
渚はにこっと微笑み、優雅な笑顔とは裏腹に、がしがしと俺に腰を打ちつけた。
さすがに中出しはせず、外で出してくれたけど、激しく抱かれて腰に力が入らなかった。
昨日も明け方近くまでセックスしていたからヨロヨロのボロボロだったけど、それでも俺は幸せだった。大好きな渚の腕の中にいるときが、一番幸せだと思える時間だから。
「ごめん、無茶させ過ぎたかな。大丈夫?」
「うん。へーき……」
本当は立って歩くのも辛かったけど、俺はなんとか笑顔を作って見せた。
体は辛くても、心は満たされたから。いつだって、思いっきり、渚の欲望を受け止めたいって思うから。だから渚の前で弱音なんて吐きたくなかった。
時間をずらして登校するように言われるかと思ったけど、今朝は一緒に登校してくれた。
……隠そうと思っても……俺の体調なんて、渚は分かっちゃってるよね……。
ラッシュで混み合った電車の中では、渚は俺を庇い、力の入らない俺の腰を支えてくれた。周囲からぎゅうぎゅうと押され、自然と抱き合うような格好になってしまったけど、渚は俺が渚の胸にもたれかかるのを許してくれた。
……守られてるみたい。
俺は渚に寄りかかりながら、ちょっと眠ってしまった。
「飛鳥、降りるよ」
「……うん」
渚に子供のように手を引かれて電車を降りた。学校が近くなっても、渚は俺の手を離そうとしなかった。昨日も下校の時間だったから人が多かったけど、登校時間はその比ではない。周囲からの視線は渚も感じているはずだけど、しれっとした顔で受け流し、見せ付けるように俺を甘やかした。渚の教室は校舎が違うのに、わざわざ俺を教室まで送ってくれた。
「お昼、迎えに来るから教室にいて」
「……うん」
「体、ツライ? 昨日、ヤり過ぎちゃったね。ごめん」
渚は俺の髪を撫でながら、耳元で甘く囁いた。
「大丈夫、へーき……」
『公衆の面前で甘ったるく優しい武藤渚』が珍しくって、嬉しくって、俺はふわふわした気持ちでいた。昨日、そして今朝の激しいエッチを思い出すと、自然と頬が弛んだ。
……渚……。ステキだった……。
足の間にはまだ、ナニかを挟みこんでいるような気がする。覚束ない足取りで席に着くと、翔太と夕貴が寄ってきた。
「おはよう、飛鳥」
「ん……。はよぉ……」
ぼんやりとした顔で二人を見上げると、「そんな眼で俺を見て誘惑するんじゃねぇよ。王子に殺されるだろうが」と、翔太に頭をはたかれた。
「それにしても……。王子って、本当に飛鳥のことが好きだったんだね」
夕貴は感心したような口調で言った。
「予想以上の嫉妬深さ。昨日今日と、アレって牽制だよね。今までは騒がれるのが面倒っつって、公にしていなかったのに……」
「飛鳥のこの様子みりゃ、昨夜ヤりましたって公表しているようなもんだしな。足元よろよろだぜ? 一体、昨日から何発ヤったんだよ」
「ええー」
……えーと。ご飯食べる前に2回、ご飯食べてお風呂入った後に……3回ぐらい……かな。途中で意識飛んじゃったからはっきり覚えてないけど……。で、朝、1回したし……。
「……多分、6回?」
「まともに答えるなよっ!」
翔太は顔を赤くして、俺の頭をぐーで殴った。
……だったら最初から訊かなきゃいいじゃん。
「そうなんだ……。一晩で……。武藤ってあんな顔して……スゴイんだね……。絶倫……?」
夕貴は驚いたように呟き、そして自分のセリフに羞恥を覚えたのか顔を真っ赤にして俯いてしまった。
……今まで訊いたこともなかったけど、翔太も夕貴も未経験なのかな。
普段は同級生なのにお兄さんみたな二人だけど、この手の話題になると、俺よりも奥手なぐらいだった。
赤い顔をごまかすように翔太は咳払いをし、話を続けた。
「っ……。で、それでだな、『王子』がとうとう『姫』の誘惑に陥落したとか、『姫』の想いが成就したとか噂されているらしいぞ。昨日も見せ付けながら帰ったらしいじゃん。実際は一年生んときからお前らデキてんのに、武藤の飛鳥への対応があまりにも冷ややかだから、『姫』の片想い説が今までは最有力だったんだよな〜」
「これで飛鳥と武藤は『公認カップル』だね」
「マジでっ! ほんとにそう思うっ!?」
……『公認カップル』!! なんてステキな響なんだっ!!!
「ほんとに俺ら、『公認カップル』!!??」
「う、うん……」
俺の勢いに気圧されたように、夕貴は後ずさった。
「まあ、そうだよな。『公認カップル』ってことになるよな。あの武藤渚に文句言うヤツもいないだろうしさ」
「!!!!!!!!!」
……『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』『公認カップル』………………。
頭の中でぐるぐるとその単語が踊っている。
……すげぇ俺、幸せなんですけどっ!!!!!!!
嬉しくて嬉しくて嬉しくて、授業中もにへにへと笑い、翔太に「不気味だから顔に気をつけろ!」と言われた。
……でも、しょうがないじゃんっ。
だってだってだって、本当に本当に本当に、幸せなんだから。
少し前までは渚との想いの温度差に落ち込んでいたけど、俺はもうちょっと自信をもっていいのかもしれない。
……もしかしたら……俺が思っていたよりも長く……ずっと渚と一緒にいられるかもしれない。
期待し過ぎるのは怖い。
それが叶えられなかったとき、果てしなく落ち込んでしまいそうだから。
……でも、少しだけなら……。
嫉妬していることを隠しもせず、俺の体を荒々しく貪った恋人の熱い眼差しを思い出し、少しぐらいなら自惚れてもいいのかもしれないと俺は思ったのだった。

 
 
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