「和己様は?」
「お疲れのようだったので、眠っていただきました」 「そうか」 バルヌスは納得顔で頷いた。バルヌスもまた、和己の体に起きた変化を知っていた。 キースダリアに命じられ、和己の護衛及び世話役として、バルヌスとシアは部屋の前に控えていた。 和己はこの世界では、なんの力ももたない無力な存在だ。キースダリアが傍にいない間は、我々が守り抜かなければならないと、責任感だけでなく和己に好意を抱いているバルヌスとシアは思っていた。 「それにしても、キースダリア様の力は底知れないな。人間をあんな方法で……変化させてしまうとは……」 シアのときは、激しい憎悪がシアという『人間』としての有り方を歪ませた。キースダリアが傍にいたことで影響を受け、歪みは増幅し、とうとう『人間』であり続けることが出来なくなった。 しかし、和己は憎しみや恨みなど、負の感情を一切持たない。それゆえに、別の方法で匡は和己を作り変えた。 「一度、人間としての和己様を『殺して』から、瞬間的に肉体を作り変えて魂を戻すとは、キアセルカ様でさえ真似できまい」 「ええ、そうですね。いつの間に、あんな技を身につけていたのか……」 恐ろしい方だと心底思う。 天才とは、あの方のことを言うのだろう。 『人間』を変化させてこちらの世界の住人にしてしまうことは、簡単にできることではない。複雑な術を制御しうるだけの膨大な知識と経験が必要だ。『力』の強さより、繊細で緻密な力加減を行えるか否かが要求される。理論的には『可能』であると分かっていても、実際に力を発動させ成功させたのはキースダリアぐらいだろう。あまりにも成功率が低く難度の高い術なのだ。 キースダリアはその技を、和己相手に躊躇いもなくかけたのだから、成功する自信があったに違いない。キースダリアが和己を危険な目に合わせるはずがないのだ。 「それにしても、戻り次第すぐにキアセルカ様に会いに行かれるとは、お二人は仲が良いのだな」 ほんの少しばかり羨望の想いをまじえて呟くバルヌスに、シアは苦笑した。 「仲は悪くはないとは思いますが……。キースダリア様、怒っていらっしゃいましたから。仲が良いから会いに行った……というのは、ちょっと違うようですよ?」 「……怒っていた? 機嫌は悪くないどころか……上機嫌に見えたぞ?」 仕えてから日が浅いバルヌスは、キースダリアの複雑な性格を、完全には理解しきれていなかった。 しかし、シアには分かった。 にこにこと表面上は笑っていたが、内心、あれはかなり怒っている。そしてそれは、きっと和己がこの世界の住人になったことと関係することなのだ。 長引きそうだと思いつつ、和己が次に目を覚ます前には戻ってきてあげて欲しいと思った。見知らぬ場所で、キースダリア様の姿を求めてさ迷う不安げな瞳は、迷子になった幼子のもののようで、庇護欲をかきたてられる。 「キースダリア様は、本当に難儀な方だな」 「後悔なさってます? キースダリア様に忠誠を誓ったことを」 「いや。妹のことでは恩義を感じているし、あの方の実力は身をもって体験したしな。これから王となるあの方に仕えるのは面白そうだ。それに……、その、シアもいるしな」 バルヌスは照れくさいのか、頬がうっすらと染まっていた。 そんなバルヌスが可愛くて愛しくて、人目がないことを確認してから、シアはバルヌスの頬にちゅっとキスをした。 「私もキースダリア様には返しきれないほどの恩があります。忠誠心の全てはあの方のために。けれど、恋人としてずっと傍にいたいのは、あなただけです……」 バルヌスと想いが通じてから、シアは『幸福』がどういうものか、ことあるごとに実感していた。 妹が無残に殺されてから、シアは誰かに心を移すことなどなかった。妹を理不尽に殺されたことへの怒りと、たった一人で逝かせてしまったことへの罪悪感に縛られ、誰かを愛する余裕などなかった。 いまだに自責の念は消えない。 それでもバルヌスの腕の中にいるときは、心が慰められた。 キースダリアには妹のことだけでなく、バルヌスのことでも感謝していた。一度は和己に殺意を向けたバルヌスを許したのが何故か、分からないほど愚鈍ではない。 キースダリアは、当の本人が気づくより前に、シアがバルヌスに惹かれていることを分かっていたのだろう。 それゆえに、心の底から思う。 ……どうか主が、幸せになりますように。 これから続いていく悠久にも近い時を、大切な人とともに生きられますように……。 「ただ今戻りました、母上」 人間としての肉体を捨て、本来の姿を取り戻した息子は、親の欲目を差し引いても美しかった。まさに『悪魔的な美貌』。けして女性的ではないが、艶めいた眼差しは、男女問わず魅了する。確かに血のつながりはあるはずなのだが、美人とも呼べない顔立ちの自分とはあまり似ていない。美貌は父親譲りなのだろう。黒い髪と黒い瞳のその色彩は、どちらにも似なかったが。 息子が人間であったころと顔立ちや雰囲気は似ていたが、その美しさは比べるべくもない。あちらの世界に溶け込むために、『人間に紛れることができる平凡な容姿』が必要だったのだろう。 息子に内緒でこっそりと、あちらでの様子を何度か垣間見たことがある。……長時間だと気がつかれる恐れがあるので、ほんの数分、しかも数年に一度のことだったが。 こちらの世界の住人は、人間と違って、成人してしまえば肉体の時間の流れは緩やかになる。魔力が強ければなおさらだ。息子の子供のころの姿を思い出せといわれても、昔過ぎて難しい。 だから、あちらの世界で成長していく息子の姿を見るのは、なかなか新鮮で面白かった。最近、覗き見たときは、あちらの世界では成人したばかりらしくまだ顔立ちに幼さを残していた。背は低くもなく高くもなく。体はそれなりに鍛えていたようだが、それでもグレスファディル……あちらの世界では天城誠司と名乗っているようだが……天界の跡継ぎに比べると華奢に見えた。 しかし、今は成熟した『男』の立派な体躯を誇っている。 年齢は、あちらの世界で言えば20代半ばといったところか。 「母上のご要望どおり、『和己』も連れてきました。わが妃として」 息子はにこにこと満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに報告した。 ……怒っているな。相当。 キアセルカは玉座で頬杖をつき、そっと溜息をついた。 ひねくれた息子は、感情の表し方もひねくれていた。 さて、どのように返事をすべきか。 徹底的にシラをきるか。 ここは素直に謝るべきか。 息子と違って腹芸が得意ではない自分は、自分の行動を認めつつも謝りもせず、言い訳すると言う最悪なパターンの答えを返してしまった。 ……こんなとき『夫』なら、堂々と渡り合えるに違いない。 『夫』は息子以上にひねくれ者で、根性が曲がっている。そういうところが厄介だと思いつつ、可愛いなんぞ思っている自分は、かなり頭が腐っているのだろう。 「……私が落としたのは、ほんの小さな石だったと思うが」 「川の流れを変えるのに、十分な小石でした」 息子のキースダリアは、さらににっこりと微笑んだ。 本性を知らなければ、上機嫌だと思うだろう。 しかし、母親である自分には分かる。最高級に不機嫌だということが。 ……やはりバレたか。 自分がしたことといえば、グレスファディルに働きかけて、天城紗那をあの日あのタイミングで『仕事』を理由に呼び寄せただけだ。 優也……ユリナに作意はなかった。 和己の言葉も気持ちも真実のものだ。 それでもキースダリアは、少しでも誰かの介入があったことが、許せないのだろう。それほどまで、和己を想っているのだ。 ……厄介だ。 今まで何者にも関心を持たなかったくせに。 愛する相手が見つかった途端、異常なほど執着する。 父親そっくりだ。 しばらく、重苦しい沈黙が、母と子の間に流れた。 「私の可愛い人を、苛めないで貰おうか?」 突如、二人しかいないはずの空間に、割り込む声があった。 ……『夫』だ。 どこからか二人の様子を見ていて、声だけを送ってきているのだろう。厳重に防御の呪文がかけられている玉座の間に声だけとはいえやすやすと侵入できるのだから、さすがというべきか。 「キースダリア。お母様を困らせるものではないよ? お前がお母様を苦しめるのなら、私も、お前の大切な者を壊さなきゃならなくなるだろう?」 ほがらかな声で『夫』は息子を脅した。そしてそれがただの脅しではないことを、自分も息子も理解していた。 キースダリアはわずかに不愉快そうに眉を顰めた。けれどそれはほんの一瞬のことで、すぐに表情を取り繕った。 「いやだなぁ、お父様。家業を継ぐためにお母様の言いつけどおりに実家へ戻った孝行息子の私が、お母様を困らせるわけなんかないじゃないですかぁ〜」 キースダリアはにっこりと微笑みながら答えた。 ようするに、面倒だと思ったのだろう。 キースダリアは『夫』の狂気をよく理解していた。異常なまでに『妻』に執着し、『妻』のためであれば息子の一人や二人、やすやすと葬れる苛烈な性格を。 狂った相手との会話は疲れるだけだ。……余程の愛情がなければ。 「……その、心配しなくても大丈夫だぞ? キースダリアは戻ったことを報告しにきてくれただけだし……。それに『恋人』がもうすぐ目を覚ますだろうから、もう部屋に戻るところだし……」 キアセルカは視線で息子に、部屋を立ち去るように懇願した。『夫』の性格はよく分かっているので、これ以上面倒なことになる前に、ここは引いて欲しい。 「母上のおっしゃるとおり、そろそろ失礼させていただきます。……ですが、元人間の『王妃』ともなれば周囲が喧しいでしょうし、母上の手助けが必要なときがくるかもしれません。そのさいには、どうかお力添えをお願いします」 「無論。私にできることなら、精一杯の手助けをしよう」 実際には、母親の手助けなどなくても、キースダリアは問題を解決できるだけの能力はある。そうでなければ跡継ぎになど選ばない。つまりこれは、『力を貸してくれれば、今回の件は水に流す』という、キースダリアなりの譲歩というわけだ。 ならば応じるのが得策だろう。 キースダリアが部屋から出たのを見届けてから、溜息をついた。 『夫』も息子も、どうしてあれほど厄介な性格をしているのだろう。 ……精神的にどっと疲れた。 シアの話によると、『和己』はとても素直な性格なのだそうだ。せめて『嫁』は愛らしい性格で良かったと心底思う。 これ以上、心労を増やしたくなり。 ……たまには癒されたい。 キアセルカは心底思った。 「キアセルカ。聞こえていますか?」 「あ、ああ。……キースダリアは恋人の元へ戻ったから、この部屋には私しかいないぞ?」 「そうですか」 邪魔者がいなくなったと知ると、『夫』はあからさまに嬉しそうな声をした。昔から『夫』は長男とはそりが合わなかった。自分にとっては二人とも、愛する家族なのだが……。国を治めるよりあの二人の関係を改善することのほうがよっぽど難しい。 『夫』と久しぶりに声だけの会話を交わしつつ、『家庭不和』について悩んでしまうのだった。 「……っ!!!」 目を開けたらすぐ近くに人の顔があって驚いた。 ベッドに横たわる自分の顔を、その人は覆いかぶさるように覗き込んでいた。 ……誰!? 和己は驚きのあまり硬直してした。結果的に和己は自分の上にいるその人の顔をまじまじと見つめてしまった。 宝石のように黒い瞳。肩に掛からない程度の長さのすっきりと梳かれた黒いつややかな髪。整った鼻梁。肌は女性のように白く滑らかそうだけど、貧弱な印象はない。とてもカッコいい、大人の男の人だ。 これほど目立つ人なら、以前会っていたら、絶対に忘れることはないだろう。だが、目の前の男の顔には、まったく覚えがなかった。 「……えっと、あの……」 和己は見知らぬ場所で、見知らぬ男に無言のまま見つめられて戸惑った。しかも相手は無表情なので、何を考えているのか察することもできない。この距離の近さが和己の恐怖を一層煽る。 ……怖い。 逃げようにも男の腕が邪魔で身動きできない。ふかふかの広いベッドの上で、和己は往生した。 「……あ、あの、誰……ですか?」 やっとの思いでおそるおそる尋ねたら、頭をはたかれた。強い力ではなかったが、和己はびっくりして、怖くて、半泣きになってしまった。 ……こ、怖いっ。 がくがくと震えながら、目に涙を溜めて男を見上げると、男はニヤリと笑った。 「冷たい飼い犬だな。ご主人様を、忘れたか?」 ……え? ……ご主人様? ……まさか……。 姿が違う。 声が違う。 けれど、その言い方には覚えがある。 男は和己の考えを裏づけするように、背の黒い翼を大きく広げた。バサリと羽音がして、黒い羽があたりに散った。 見覚えのある翼だった。 「……匡?」 「そ。こっちじゃキースダリアと呼ばれているけどな」 「…きーす……だりあ……」 「地獄へようこそ、我が妃」 匡はくすくすと笑いながら、和己の頬を指先で撫でた。 「顔色も悪くない。失敗するとは思っていなかったが、大丈夫そうだな。さすが俺」 自画自賛しながら、匡は和己が身にまとっていた布を奪おうとした。突然のことに和己は慌てた。 「……っ! え……!?」 和己は肌触りのよい白い布で作られている、バスローブのようなものをまとっていただけだったから、すぐに全裸にさせられた。下着は最初から身につけていなかったようだ。 和己は着替えた覚えはないから、誰かが和己が寝ている間に衣服を交換したのだろう。 ……は、恥ずかしいっ! 「あ、あのっ。匡……っ!」 匡の行動に抗いはしなかったものの、和己は羞恥で顔を真っ赤にした。体を隠すものがなくなり、とても心もとない。 動揺する和己の頬に笑いながらちゅっと音を立てて口付けると、匡もさっさと自分が着ていた服を脱いだ。ほどよく筋肉のついた逞しい体が露になり、和己は胸がどきどきした。ちらりと相手の下半身を確認すると、すでに大きくなりかけている。 直視できず、和己は視線をさ迷わせた。 「あ、あ、あ、あのっ。だからっ……ええと……」 恥ずかしくて気が遠くなりそうだった。 和己だって、匡に抱かれたいとずっと願っていた。 愛されたいと思っていた。 だから拒む気などない。 けれど、こんな急な展開は予想していなかった。 それに相手が匡だと分かっていても、外見は見知ったものと違っているから、少しだけ不安だ。 「あ、あのっ。ま、待って……」 「待てだと? そんなふざけたことをこの期に及んで言い出すのはこの口かぁ? 俺がどれだけ待ったと思っていやがる」 匡は荒々しく和己の首筋に口付けをした。 ……痛いっ。 和己はちくりと首筋に痛みを感じた。 「あっ。ま、待って、だ、ダメ……」 「お前ね、往生際が悪いぜ? まさかこの期に及んで怖気づいてあっちの世界に戻りたいとか言うんじゃないだろうな」 「言わないよっ。お、俺、匡と一緒にいたいしっ。……ただ……恥ずかしくて……」 心の準備が済むまで待って欲しいと、和己は目に羞恥の涙を浮かべながら思った。 「じゃあ、目を閉じて数でも数えてろ。すぐに恥ずかしいと思う余裕もなくなる」 恥らう和己の膝に手を掛け、匡は強引に足を開かせた。とっさに和己は足を閉じようとするがそれを許さず、匡は大胆に和己の足の間をまさぐった。和己のカタチを確かめるように、匡は繊細な手つきで和己を撫でた。 匡のモノと比べてしまうと貧相としかいいようがない自分のモノが、宝物のように匡に扱われ、可愛がられているところを視覚にとらえ、和己は性的興奮を覚えた。匡の手の中で、和己のモノは容易く反応を示した。 「んっ……。あっ……あっ……」 「イイ声。もっとカワイク啼いてみな」 「ああっ。そんなトコ……あっ……」 匡が言ったとおり、すぐに余裕などなくなった。 好きな人が相手だから気が遠くなるほど恥ずかしくて……気持ちいい。肉体的な快楽だけでなく、幸せすぎて息が止まってしまいそうだ。 外見の違いに最初は戸惑いこそしたものの、いつもと同じ仕草と言動に、徐々に違和感は薄れていった。 体中を優しく手や唇で触れられ、和己の体は蕩けていく。快感に身を震わせながら、和己は眦から涙を零した。経験の浅い和己にとって、匡から与えられる快楽は受け止めるのが苦しいほどだった。 匡の愛撫の巧みさと、好きな相手から触れられているという事実が、和己を深い快楽へと堕とした。 「ご、ごめ……ん。お、俺も……」 自分だけでなく、匡にも気持ちよくなって欲しい。 和己がおそるおそる匡の雄のシンボルに触れると、匡は誉めるように和己の耳たぶを甘く噛んだ。 「ばぁか。処女なんだから無理すんなよ。お前は可愛く感じてくれてりゃいいの」 積極的な和己の行動に上機嫌になりながら、匡は後ろの蕾に指を差し込んだ。 「あっ……」 オイルかなにかだろうか。滑りのよい液体をたっぷりと中に塗られ、何度も指を出し入れされて、奇妙な感覚が沸きあがってくる。前と後ろを同時に責められて、和己は喘ぎ続けた。 匡は指で慎重に和己の体を開きつつ、和己の唇を甘く吸った。 和己は無我夢中で匡にしがみつきながら、匡の舌にたどたどしく自分の舌を絡めた。 男同士でどのように繋がるのかは、和己も知識としては知っていた。恥ずかしがる和己の姿が面白いと、匡が細々と男同士のセックスの仕方を教えてくれたのだ。だから後ろを触られたときも、驚きはなかった。 もしかして、今日このときのために、匡は和己にやり方を吹き込んだのだろうか……。 だが、大人しく匡の指を受け入れ、未知の快感に喘ぎながら、先ほど手で触れて確認した匡の大きさを考え、本当にアレが入るのだろうかと心配になった。 「匡……」 指の代わりに匡の熱い欲望を押し当てられ、匡が自分を欲してくれていることが分かって嬉しくもあったけど、あれほど大きな塊を入れようとしているのだから痛くはないのかと、和己は不安な気持ちで匡を見上げた。 「心配するな。気持ちよくしてやる。俺なしで生きられない体になるようにな」 「んっ……もう……とっくになってる……」 和己は素直な気持ちで匡に告げた。 匡なしでは生きられない。 匡のいない世界など必要ない。 だから……全部捨てて、ここにいる。 元々、自分の手の中に持っていたものなどそう多くはなかったけれど。 「もっとだ。……もっと、俺に惚れろよ」 衝撃を和らげるように、和己の前を刺激しながら、匡は和己の中に欲望の証を埋めた。 たっぷり時間を掛けて慣らしたおかげか、あれほど大きなモノが抵抗なく飲み込まれていく。圧迫感はあったが、思ったほどの痛みはなかった。 匡は和己の前を弄り反応を見ながら、ゆっくりと体を進めた。そして半分ほど入ると、一気に奥まで貫いた。 「ああっ……!」 内部を擦られ、和己は奥を突かれた衝撃でイってしまった。 そして泣きながら匡の背中に腕を回して縋りついた。 いつの間にか、黒い翼はしまわれていた。しかしそんなところまで気を舞わず余裕は和己にはない。 匡の情熱を体で受け止めて、和己はぐずぐずと泣いた。 「ふぇっ……っううっ……嬉しい……よぉ……」 ずっとずっと匡とこうなることを夢見ていた。 身も心も愛されたいと願ってだ。 だからその望みが叶い、嬉しくて嬉しくて涙が止まらなかった。 「俺、嬉しくて……匡が……ナカに入っているのが分かって……。ぜ、全部、入った……?」 「ああ。全部入ってるぜ。……お前の中は気持ちがいいな」 今まで聞いたことのないほどの甘い声で囁き、和己の顔中にキスをした。匡は、和己が匡の大きさに慣れるのを待ってから、腰を動かし始めた。匡の行為はどこまでも優しくて、情熱的だった。 「ああっ……。匡っ……好きっ……あっ……あっ……」 激しく揺さぶられ、何度も突き上げられた。 和己がいきそうになると動きを緩め、先端で内部を探るように腰を回す。緩急つけた責めに、和己は気が狂いそうになる。 「んっ……もっと……お願い……俺、もう……」 「可愛くおねだりできたご褒美だ。イカせてやるよ」 匡は和己の額にキスを落としてから、腰の動きを徐々に早めていった。匡も余裕がないのか、荒い息を吐きながら無言で腰を打ち付けている。一心不乱に和己を求めるさまが、たまらなく愛しい。 「あっ、あっ、あーっ!」 自分の中でどくんと匡の分身が強く脈打ち、体内に熱いモノが注がれるのを感じながら、和己も再び先端から白濁した液を散らした。 そして、和己は幸福感の中で意識を飛ばした。 |