「へぇ。司郎って、けっこう会社から離れたところに住んでるんだね」
「会社の近くだなんて、とても借りれませんよ。家賃が高くて……」 「そう? じゃあ、うちで一緒に住む? 部屋、余ってるし。会社からも近いよ。賃貸じゃないから家賃はいらないし」 「…………」 ……それはひょっとして。いや、間違いなく。同棲というやつでわっ。 司郎は冷や汗を流した。 ……男と同棲……。 ……い〜や〜だ〜っ!!!! しかしイヤとは言えない司郎だった。ここでイヤと言えるぐらいなら、最初から窮地に陥っていない。 「あはははははははは」 笑って誤魔化すことを試(こころ)みてみた。 「ふふふふふふふふふ」 だが、この程度で逃れられるほど亮介は甘い男ではなかった。 「じゃ、引越し、来週でいいね。必要なものは買ってあげるから、身一つでおいで」 「……………………………………………………………………………………はい」 ますます深みにはまりつつある自分を、司郎は自覚していた。 司郎はどっと疲労を感じながら、亮介と手を繋ぎ……というか、無理やり繋がされ……駅から家までの道のりを亮介と歩いていた。 すると、自分の家の近くに数人の男がたむろっているのが見えた。 ……げっ。借金取りっ!! すっかり忘れていたもう一つの問題を司郎は思い出した。 司郎には借金があった。といっても、自分が作った借金ではない。以前の恋人の絵里が去り際に残していった置き土産だ。 おそらく彼女が一時でも自分のような野暮ったい男の恋人になってくれたのは、自分の情熱にほだされたわけではなく、最初から金をむしり取ることだけが目的だったのだろう。 二十三歳にもなってまだ童貞の、女性に対して不器用な男を騙すのは、赤子の手を捻るようなものだったに違いない。 実際自分は、彼女からのキス一つで舞い上がっていた。自分の一部を彼女の体に潜り込ませたあの瞬間、強烈な快感と共に泣きそうなほどの感動を覚えた。無事に筆降ろしを済ませ、彼女と一緒に朝を迎えながら、「この女のためなら死んでもいい」と本気で思った。 だが彼女は自分の体の下で甘く喘ぎながら、内心ではバカな男だとせせら笑っていたのだ。彼女の本気を信じて足元にすがりつく男の姿は、道化以外の何者でもなかっただろう。 「飽きたの。バイバイ」 彼女の別れの言葉を思い出し、司郎は胸に痛みを覚えた。 彼女に付けられた傷は、まだ癒(い)えてはいなかった。 「おや。胡散臭(うさんくさ)そうなやつらがいるね」 「…………俺に用なんだと思います。亮介さん、大変申し訳ないんですが、今日は帰ってもらっていいですか?」 自分の問題に亮介を巻き込むわけにはいかない。司郎は亮介の腕を掴んで引き止めた。 「嫌。無粋(ぶすい)なやつらにデートの邪魔をされるのはごめんだね。ご遠慮願うならあちらのほうだ」 亮介は口元に不敵な笑みを浮かべて言った。一歩も引く気はなさそうだった。 「亮介さん! お願いです、今日は帰ってください。あなたに迷惑をかけたくないんです!」 悲鳴のような声を司郎はあげた。自分の行動の責任は自分で取りたい。自分のせいで亮介に不快な思いをさせるのは嫌だった。 自分はゲイではないし、男の亮介から性的な行為を受けることは生理的に嫌悪を覚える。気持ちが悪い。 しかし亮介本人を好きか嫌いかと聞かれれば、恐らく好き……なのだろう。亮介の誘いを断れないのは『怒らせたら怖そうだから』というちょっぴり情けない理由もあるが、基本的に司郎は嫌いな人間と必要もないのに長時間一緒にいられるほど我慢強い性格はしていない。 ということは、あれだけいろんなことをされたのに、司郎は亮介を嫌っていないのだ。思い返してみれば、亮介のそばにいる間は、絵里にされた仕打ちを忘れることが出来た。 「お願いします! 埋め合わせは今度しますから、なんでもしますから、今日だけは……!」 「……なんでも?」 亮介の目が光った。 「……………………………………………………あ」 司郎は自分の失言に気がつき冷や汗を流した。 「うーん、でも、どうやらアノ人たちが帰してくれないみたいだよ?」 「……………………………………………………う」 亮介の説得に手間取っている間に、男たちに気づかれてしまったようだ。借金の取り立て屋は全員で四人いた。暴力的な空気を纏った男たちは、司郎と亮介の周りをぐるりと取り囲んだ。 男たちの後ろに、身なりのいいスーツを着た端正な顔立ちの青年が立っていた。年は若いが、幹部クラスなのだろう。襟には金色のバッチが光っている。ゆったりとタバコを吹かしながら、部下の仕事振りを眺めていた。 「木根さんよお。支払期日は昨日だったはずだぜ? 俺ら心配してわざわざこんな田舎まで来ちまったぜ」 「……すみません」 すっかり忘れていた。 昨日は亮介と飲みに行き、気が付けば翌日の朝だった。亮介も自分も裸で、「いったい何があったんだろう…」という疑惑の一夜だ。とても借金のことなど思い出す余裕がなかった。 もっとも、借金の返済日だと覚えていたとしても払う金などなかったが。 借金全額はとても一度で払えるような額ではないので、分割で返済することになっていた。しかしその分割一回分の金額さえ払えないほど貧窮(ひんきゅう)していた。 「謝ってくれなくてもいいんだぜ? 払うもん払ってくれたらよ」 「司郎、借金してるの?」 亮介は驚いた顔をして、司郎に小声で囁いた。この後に及んで嘘をつくことも出来なかったので、司郎は首を縦に振った。 「なあ、そちらのお兄さんはお友達? 木根さんの代わりにあんたが借金払ってくれてもいいんだぜ?」 「やめろ! この人は関係ない。たんなる仕事の上司だ!」 司郎は亮介を庇うように前に出た。 「……ふうん。俺ってたんなる仕事の上司なんだ……」 背後から不機嫌そうな低い声が聞こえた。司郎は焦った。どうやら亮介を怒らせてしまったようだ。 「いえ、あの、この場合、言葉のアヤというか……」 「……じゃ、俺、たんなる仕事の上司じゃないよね?」 「………………………………………………………はい」 「んだよ、てめぇらなにごちゃごちゃ二人で話してんだよ!」 一番年の若そうな茶髪の男がイライラした口調で言った。年の若さだけでなく、気の短さも一番らしい。 男たちの背後にいる青年は、悠然(ゆうぜん)とした態度でやりとりを見ている。幹部だけあって滲み出る貫禄が違う。そんなことを考えている場合ではないが、さぞかし女にもてるに違いないと羨ましくなった。 ……って、んな場合じゃねぇんだよな。けっこうヤバイかも…。 二・三発殴られるのを覚悟し、なんとか期日を給料日まで延ばして貰おうと思った。だが、司郎が口を開く前に亮介が言った。 「うるさいガキだな。司郎の借金なら俺が今すぐ返す。いくらだ?」 亮介が冷ややかな声と表情を作って言った。自分に向けられたものではないと知りつつヒヤリとする。 冷徹な亮介の眼差しの前で、茶髪の男は言葉をなくして黙り込んだ。 「木根さんはいい友人をお持ちですね。とりあえず今月分ということで二十万ばかり支払っていただければ…」 揉み手をしそうな勢いで、三人のうちで一番年を取っている中年の男は言った。 「今月分? 全部ではいくらなんだ?」 「全部でですか? そうですね。現時点では利子をつけて八百万と言うところでしょうか」 「!!!」 司郎は驚いた。最初に絵里が作った借金は五百万だったはずなのに、今は三百万も増え八百万になってしまった。このままでは利子分を返済するだけで一生が終わってしまうかもしれない。いわゆるアヤシゲな消費者金融にお金を借りると、利率が高く付くというのは本当のことだったらしい。 「分かった。八百万ね。さすがに現金は持ち歩いていないから小切手でいい? それと、借用書は今日持ってきているんだろうね? そうでなきゃ払えないよ」 「あいにく、借用書は今日は持って来ていないな」 整った顔に面白がるような表情を浮かべ、幹部クラスの男は言った。三人の男たちを押しのけ、亮介と司郎の前に立つ。 間近で見ると、男が自分よりも身長が高いことに気が付いた。口元にふてぶてしい笑みを浮かべた男はやけに迫力があった。 ……さ、さすが、ヤクザの幹部クラスは違う…。 平気そうな顔を取り繕いながら、司郎は内心で恐怖に慄(おのの)いていた。ちらりと横目で亮介のようすを伺うと、けっして強がりではなく平然とした顔をしている。修羅場を何度もくぐり抜けた男の強(したた)かさがそこにはあった。 ……亮介さん、格好いいよな。 司郎は毅然(きぜん)とした上司の姿に惚れ惚れした。妙な行動や言動をして司郎を困らせることもあるが、亮介には尊敬すべき点が多々あると司郎は思う。 なんだってこんなスゴイ人が自分のことを好きでいてくれるのか、司郎は不思議でたまらなかった。いくら亮介が金持ちだからといって、遊び相手に800万円も出せないだろう。 亮介はもしかしたら本気で自分のことが好きなのかもしれないと、司郎は思い直し始めていた。 凛々しい亮介に見惚れたのは司郎だけではなかったようだ。 「あんた、名前は?」 「瀬名亮介。言っとくけど、借用書がないんなら、八百万は払えないよ。そこまで世間知らずじゃないんでね」 「俺は東上真人(とうじょうまひと)だ。借用書は明日持ってくる。なあ、俺に乗り換えないか? そっちの男より、俺のほうがいい男だぜ。あんたのこと気に入ったんだ」 聞かれてもいないのに勝手に名乗り、東上はいきなり亮介を口説き始めた。 ……この男もゲイなのかっ!! 司郎は固唾(かたず)を呑んで、東上と司郎のやりとりを見守った。二人の会話に口を挟めるほどの度胸は司郎にはなかった。 「悪いけど、俺には東上さんが司郎よりもいい男だとは思えないんだけど。他をあたってくれる?」 亮介は一秒も迷うことなく東上の誘いを断った。 「俺の良さはベッドの上で証明してやるよ。惚れたんだ。俺のオンナになれよ」 きっぱりと断られたというのに東上は自信満々の笑みを浮かべ、亮介の唇に自分の唇を重ねた。慣れた仕草に東上の華々しい恋愛戦歴が伺える。 目の前で男同士の濃厚なキスシーンを見せ付けられ、司郎は硬直した。 亮介はとくに抵抗はしなかったが、東上が唇を離した途端に酷薄そうな笑みを浮かべた。 そして、なんの予告もなく後ろ回し蹴りを東上の頭に喰らわせた。素早いアクションだった。技は綺麗に決まって東上の体は塀に叩きつけられた。 大技を決めた後も、亮介はバランスを崩すことなく隙なく身構えた。そして、自分たちの親分に狼藉(ろうぜき)を働いた者に仕返しをしようと襲い掛かってきた三人を、あっさりと地面に沈めた。 わずか五分にも満たない間の出来事だった。亮介は正確に急所を突いて一発で相手を倒したのだ。無駄のない見事な動きだ。 ……人間じゃない…。 亮介の非常識な強さに司郎は唖然とした。 蹴られた頭を押さえ、低く唸りながらよろよろと立ち上がった東上に向かって、亮介はにっこり笑って言い放った。 「強引なことをするのは好きだけど、されるのは好きじゃないんだ」 さらに、もう一発東上の腹に拳をめり込ませた。亮介のキスは高く付いたようだ。今度こそ東上は、再び立ち上がることが出来なかった。 「ムカツクから、もうちょっとおまけ」 亮介は冷ややかに言い捨て、東上の頭をぐりぐりと足で踏み潰した。無抵抗の相手に容赦(ようしゃ)がない。 ……ひええええええっ。鬼畜だ、鬼畜っ!!! 「さあて、司郎。邪魔者もいなくなったことだし、部屋に入れてよ。早く、二人っきりになりたいな」 「…………………………………………………………………ははははははははは」 司郎は乾いた笑いを浮かべ、亮介を部屋に招き入れたのだった。 「どうしてあんなところからお金を借りたの?」 亮介は日本茶を飲みながら、静かに尋ねた。司郎は一瞬迷ったが、亮介には迷惑をかけてしまったし、結局包み隠さず借金を作った経緯をすべて話すことにした。 自分があっさりと女に騙され借金を押し付けられた間抜けな男だと分かれば、亮介も呆れて自分を恋人にしようなどという考えを改めてくれるかも知れない。こんなに情けなくてみっともない男に好きだと愛の告白をしたことは、間違いだったと気が付くだろうと、司郎は少々自虐的な気持ちで思った。 司郎の話を聞き終わった後、亮介はしばらく難しい顔をして黙り込んでいた。 「…………絵里ってオンナ。すっげー腹立つ」 眉を寄せたまま、亮介はぼそりと言った。 「絵里だけが悪いんじゃないんです。俺は彼女が何を考えていたか、これっぽっちも分かっていなかった。彼女が俺を振ったのは仕方ないことです」 「司郎ってば、お人良し過ぎる! 借金まで押し付けられて、なんで彼女を責めないでいられるのさ! 司郎が怒らなくても、俺は怒る!」 「呆れましたか? 騙されて捨てられたバカな男だって」 「呆れるぅ? いいや、ますます惚れ直したね。なんか俺、どんどん司郎にはまってるよ」 亮介は悔しそうな顔をして言った。膨れっ面が可愛くて、思わず司郎は笑ってしまった。 「亮介さん、昨夜、何があったんですか?」 このタイミングで聞くのは卑怯だと思った。だが、今なら亮介が嘘を付けないことは分かっていた。 「司郎、ずいぶんと駆け引きが上手くなったじゃないか」 「上司の仕込みがいいもので」 顔を見合わせて、二人同時に噴出した。 「あー、もう。本当は騙して強引に既成事実作って無理やりモノにしちゃうつもりだったのになぁ。俺ってずるいヤツだから、いくらでも汚い手を使えるんだぜ? でも司郎には、正攻法でいきたいんだよね。俺ってばバカ。司郎はストレートだから、それで手に入るはずなんかないのに……」 亮介は唇をきゅっと噛み締めた。強い男が、自分の前で見せる弱い表情に、司郎は庇護欲をそそられた。 自惚れかも知れないが、亮介にこんな表情をさせることが出来るのは、自分だけだと思った。 「俺たち、セックスしていないでしょう?」 「……最後までって意味ならしてないよ。でも俺も男だからね。好きな相手が意識ない状態でいて、手を出さずにいられなかった。一晩中、たーっぷり司郎の体を堪能(たんのう)させて頂きました。ゴチソウサマでした」 「……………………………………………堪能って、何したんです?」 「再現して見せようか?」 亮介は唆(そそのか)すような笑みを浮かべ、じりじりと司郎に近づいてきた。 「い、いえ、結構ですぅ」 「昨夜の司郎、ぐったりしちゃってスッゴク可愛かった。薬が効きやすい体質なんだね」 「薬!? あなた、薬なんて盛ってたんですか!?」 亮介が近づいてきた分、司郎は後ろに下がった。しかし狭い部屋の中ではすぐに壁際に追い詰められ、気が付けばすぐ間近に亮介の顔があった。 「あれ? 気付いてなかったの? そうだよねぇ、気が付いてたら、もっと用心するよね」 にたりと笑って、亮介はポケットから瓶を取り出した。それには見覚えがあった。初めて亮介に襲われたとき、亮介が持っていた瓶だ。 ……さ、催淫剤……!!! 「ま、まさかっ!」 「今日はこっちの薬を使ってみました。さっきのお茶に混ぜといたんだよね。司郎ちゃんは、薬がよく効く体質みたいだから……どう? そろそろカラダ、熱くなってきたでしょ?」 亮介は色っぽい目をして司郎の前を軽く撫でた。そのとたん、体の芯がジンと疼いた。 ……ぎゃあああああっ。 司郎が動揺している間に、亮介は縄を取り出し司郎の両手両足を縛りつけた。 「うわあああああああ。何する気ですか!?」 「ふっふっふ。分かってるくせに。司郎のえっち……」 楽しそうに笑って、亮介は司郎の唇に自分の唇を重ねた。 「せ、正攻法でいきたいって言ったじゃないですか! 縛ったり薬を使ったり、めさめさ卑怯じゃないですかーっ!!!」 「俺的正攻法」 二の句を告げることの出来ない司郎だった。 「男って、即物的な生き物だよね。本当は、司郎の気持ちがこっちに向くまで待とうって思ったんだけど。昨夜の司郎のことを思い出したら耐えられなくなった。やっぱり強引に既成事実作ってモノにすることにした」 「そ、そんな……。お願いです、止めて下さい!」 「うーん。ごめん、止められそうもない。せめて選ばせてあげるね。入れるほうと入れられるほう、どっちがイイ?」 どっちもイヤだ。男同士でセックスなどしたくない。 「俺はどっちでもいいよ。司郎と繋がれるんなら。司郎はどっちがいい?」 究極の選択である。 司郎は頭の中で、どちらのパターンもシミュレーションしてみた。 ……入れるほうが……まだ、マシな気がする……。 「…………入れさせてください」 「了解」 亮介はにっこりと微笑み、いそいそと司郎を受け入れる準備を始めた。司郎の目の前で自分の服をさっさと脱ぎ捨て、惜しみなく裸体を晒す。紛れもない男の体に司郎は顔を引き攣らせる。自分よりも細身であるが、亮介は良く引き締まった逞しい体をしていた。 ……やっぱりいやだああああああっ。 しかし手足を縛られていては逃れることも叶わない。亮介は司郎のシャツのボタンをはずし、裸の胸に愛しげに頬擦りした。その途端、司郎の体にぞわりと悪寒が走り抜けた。肌にはびっしりと鳥肌が立っている。 「緊張してるの? カワイイ……」 恐怖で涙目になっている司郎に、亮介は愛しげにキスをした。密着した下半身に亮介の昂ぶりを感じ、司郎の恐怖は最高潮に達した。 ……うわああああああああああっ!! 「ふふ。司郎の、堅くなってるね」 気持ちはイヤだと思っているのに、催淫剤の威力は絶大だ。司郎のモノはビンビンに立ち上がっていた。 「ふっ……んっ……」 亮介がゆっくりと腰を下ろす。 司郎の先端が、亮介の中に呑み込まれていく。 ……ひいいいいっ。入ってる、入ってる、入ってる〜っ! 司郎は悲痛な思いで亮介の行動を見守っていた。 「んんっ……ああ……」 切なげな声で啼きながら、亮介は司郎のすべてを収めた。 「ぜんぶ、入った……?」 「…………はい」 ………………とうとう男と繋がってしまった……。 亮介の中はきつかった。気持ちいいというよりは、むしろ痛いぐらいだった。 「ごめん……、司郎、ちょっと、待って……」 「…………苦しいんですか?」 亮介は荒い息を吐きながら額にじっとりを汗をにじませ、目尻から涙を流した。苦しげな様子の亮介に司郎は心配になった。 「亮介さん、大丈夫ですか?」 「ん。へーき……。初めてだから、痛いって、覚悟してたし……」 「…………え?」 司郎は驚いた。積極的で手馴れたふうの亮介が、初めてだとは予想も付かなかった。 思いがけず亮介の『初めて』の男になってしまったことに司郎は気後れを感じた。初めての相手がどれほど印象深いのか、司郎は身をもって知っていた。恋人の絵里に裏切られたとき、彼女を憎めなかったのは、生まれて初めての肉体の快楽を教えてくれたのが彼女だったからかも知れない。きっと一生涯、絵里の存在は司郎の中で息づいているのだろう。 「もう、大丈夫……。動くから、気持ち良くなって……」 亮介は司郎の腹に手を付いて、ゆっくりと腰を動かし始めた。最初はおそるおそるだった動きが、だんだんと激しいものになっていく。それと同時に快感も膨れ上がってくる。 「……すごく、イイっ……」 亮介は満足げに呟き、司郎の腹を白濁した液で汚した。亮介の内壁に搾り取られるようにして、司郎もほとんど同時に射精した。 行為が一段落して、やっと司郎は縄を解いてもらえた。 |