……とうとう男とヤってしまった……。
亮介の中でイってしまったことに、司郎はショックを受けていた。 狭くて熱く、亮介の中は気持ちが良かった。絵里としたときよりも良かった気がする。快感に喘ぐ亮介の顔を見上げ、色っぽいとさえ思っていた。 途中まで男と裸で触れ合うことに嫌悪感があったが、最後はただ強い快感だけが体の中で渦巻いていた。手足を縛られていたため亮介に思いっきり突き入れることが出来ず残念だと思った。亮介が主導権を握る騎乗位も悪くはなかったが、どうせなら自分で動きたい。 そこまで考え、司郎は愕然とした。 どうやら自分はもっと亮介とヤりたいらしい。 ………………………………………………………………………………やばい。 達したばかりだというのに、司郎の牡は再び力を取り戻していた。 亮介の使った催淫剤は強力だ。抗いがたい衝動に駆られ、司郎は亮介を押し倒した。ひ弱さのかけらもない正真正銘の男である亮介に、司郎は確かに欲情していた。 ………………………………………………………………………………欲しい。 「亮介さん……」 欲望に掠れた声で名を呼ぶと、亮介はすべてを理解してふわりと優しく笑った。さきほどまで、自分の上で淫らに腰を動かしていた人物だとは思えないほどの清楚な微笑だった。 「いい子だね、司郎。大好きだよ」 「亮介さんっ!」 開発されたばかりの亮介の後ろに、司郎は自分の分身を挿入させた。体の下で亮介が、あられもない悲鳴をあげる。自分よりはるかに強い男を組み敷くことに倒錯的な喜びを覚える。司郎は男の本能のままに腰を激しく動かした。内壁に自分の性器を擦りつけ、亮介の中を掻き回す。 「ああっ……あああ……!」 亮介が苦しげな声で喘ぎながら顔を歪ませる。相当、体に負担がかかっているのだろう。 なにせ亮介は『初めて』なのだ。こんなに無茶苦茶な抱き方をしていいはずがない。だが亮介は逃げもせず文句も言わず、司郎に蹂躙(じゅうりん)されている。 亮介が司郎の背中に爪を立てる。背にピリリと痛みが走った。しかしこの痛みは、亮介が感じているほどではないだろう。 罪悪感を覚えつつ、司郎は自分を止めることが出来ない。痺れるような快感に脳が侵される。荒々しい息を吐き、切羽詰った様子で腰を叩きつける自分の姿は、さぞかし浅ましく見えることだろう。 ……くっ……。良すぎるっ!! 亮介の内部がねっとりと司郎に絡みついてくる。 たまらない。 「…………んっ」 辛そうな顔で亮介は涙を零した。どんなに苦しくても従順に自分を受け入れてくれる亮介の健気さに胸を突かれる。 司郎は亮介の最奥まで自身を沈めて、欲望をはじけさせた。 「……すみません」 「なぜ謝るの?」 恐縮する司郎に、亮介はくすりと笑って見せた。亮介はひょっとして、自分に滅茶苦茶甘いのかも知れない。亮介の大きな愛情に胸が苦しくなる。切ない、とはこんな感情のことを言うのだろう。 自分がなにをしても亮介は許してくれるだろうという安心感と優越感。 溺れてしまいそうだった。 「あんなにがっついて。俺、恥ずかしいです……」 欲望のままに体を走らせた自分を司郎は恥じた。頬が燃えるように熱い。亮介は司郎の頬を両手で挟み、許しを与えるように優しく唇にキスをした。 「恥ずかしがることはないよ。俺が望んだことだから。俺の体に欲情してくれて嬉しい。好きだよ、司郎」 「亮介さん……」 優しい言葉に泣きそうになる。 この人は本当に自分のことが好きなのだ。今なら亮介の気持ちを、信じることができた。 ……逃げられない。 ……もう……逃げようとは思わない。 亮介の気持ちに応えたいと司郎は思った。 「司郎、愛してる」 俺もです、とはまだ言えない。司郎はただ黙って亮介の体を抱き寄せた。今度こそ亮介にも気持ち良くなって貰いたくて、優しく指先で亮介の体を撫でた。うっとりと目を瞑って、亮介は司郎に体を預けた。 女とは違う平らな胸や、股間のモノを愛撫したときも抵抗は感じなかった。司郎はすっかり亮介の体に馴染んでいた。 「んっ……ああっ……ん……」 腕の中で亮介がすすり泣く。顕著(けんちょ)な反応が嬉しい。もっと声が聞きたい。 司郎は亮介の性器を口に咥えた。口の中に広がったオスの味に一瞬眉をひそめる。だが、舐めているうちに夢中になった。亮介にされたときのことを思い出しながら、舌を使って亮介のモノを愛撫する。 「ふっ……あっ……司郎……」 亮介の乱れた姿は、色っぽくて愛らしかった。司郎の下半身がどくんと脈打つ。すでに二回も亮介の中でイったのに、司郎のモノは堅く立ち上がっていた。節操のない自分の分身に司郎は舌打ちする。 「なに? 司郎?」 イク寸前で唇を離され、亮介は戸惑った声を上げた。 「すみません、亮介さん。もっとあなたが欲しい……」 亮介の体を反転させ、今度は背後からゆっくりと貫いた。三回目なのでまだ余裕があった。亮介の反応をうかがいながら、小刻みに腰を動かした。 「ああんっ……あっ……」 亮介がびくりと背をしならせた。ここが亮介のイイトコロなのかと、司郎はソコをしつこく責めた。亮介は腰を振って悦びの声を上げた。 「イイ……イイっ……!」 「亮介さんっ!」 司郎は亮介の中にたっぷりと体液を注いだ。亮介も畳の上に、白濁した液を飛ばした。 欲望の波は収まったが、離れがたくて司郎は亮介を抱き締めた。汗に濡れた体はしっとりとしていて心地よかった。 「すごい。噂には聞いていたけど、本当にセックスって気持ちがイイものなんだ」 亮介は無邪気な顔で笑って、司郎の頬に唇を寄せた。お返しとばかりに司郎も亮介の唇に軽くキスをした。 「俺もすげぇ良かったです。最高でした」 唇で亮介の首筋をなぞりながら言うと、亮介はくすぐったそうに笑って肩をすくめた。 「シャワー浴びます?」 「うん。ちょっと勿体ないけど、中、洗い流さないとね」 体が辛そうだったので、司郎は亮介の体を洗ってやった。ついでに自分もシャワーを浴びて、二人分の体液を洗い流す。 タオルで体の水滴を拭ってパジャマを着せ掛けてやると、「司郎はマメだね」と亮介はおかしそうに笑った。 その顔をカワイイと思うあたり、自分はもう完全に亮介に捕まっているのだろう。 「それにしても、あのクスリ、強力でしたね」 おかげで一晩に三回も……映画館での分を合わせれば四回もイってしまった。血気盛んな十代の若者でもあるまいし、年甲斐もなく盛りのついた獣のように欲情してしまった。 「薬? 使ってないよ。やだなぁ、信じてたの? せっかくの『初めて』なのに、薬なんか使うわけないじゃん。あれまだ未開封」 亮介はあっさりと言った。 「………………………………………え?」 司郎は驚き、テーブルの上に置きっぱなしだった薬を確認する。確かに亮介の言うとおり、それは開封されていなかった。 ……ということは、あれほど自分が亮介を求めたのは……。 ………………………………………………。 ………………………………………………。 ………………………………………………。 ………………………………………………。 ………………………………………………。 「司郎、好きだよ」 「…………………………………………………………俺もです」 司郎は観念して答えた。あれほどまで亮介を求めたということは、そういうことなのだろう。 司郎の返事を聞いて、亮介はこれ以上はないというほどの嬉しそうな笑みを見せた。亮介が嬉しそうなので、司郎も嬉しくなった。 だからもう一度、亮介が好きだと告白して亮介を喜ばせた。 ……ホモでもいいや。きっと亮介さんほど自分を愛してくれる人間にはもう巡り会えない……。 司郎は達観した気持ちでそう思った。 「そういえば、紗那教官から貰ったプレゼントって何だったんですか?」 映画の券のほかに紗那が手渡してくれたものがあったことを思い出し、司郎は言った。 「バイブレーター」 「…………………………………………はい?」 「今日は使わなかったけど、今度使おうね」 「……………………………………………はあ」 男のようで女であり、恐ろしく強く綺麗な自分の上司の顔を心の中で思い描く。 ……紗那教官。……やっぱりよくわかんねぇ……。 この部下あってあの上司あり、ということだろうか。 「司郎の家からだと会社遠いし。もう寝よっか」 「はい」 時計を見ると、もう明け方の四時近くだ。家に帰ってきたのが十二時を少し過ぎていたぐらいだったから、三時間は亮介とイタシテいたことになる。 今日は二人とも遅番なので、朝はゆっくりとしていられる。これも紗那教官の計らいかと思うとフクザツだが。 布団は一つしかなかったので、亮介を腕の中に抱き締めて眠った。誰かの体温を感じながら眠りに付くのは、悪くない気分だった。 翌朝、ノックの音で目が覚めた。 「……ん……」 時計を見ると、朝の九時だ。あともう一時間は寝ていられる。司郎は亮介を起こさないように、そっと布団から抜け出した。 こんな朝っぱらから尋ねてくるのは誰かと思いつつ、ドアを開けた。外に立っていたのは借金取り。たしか名前を東上といった。亮介に蹴られ殴られ踏みつけられ、ハンサムな顔に青痣が浮いている。 ……痛そうだ。 司郎は絶対に亮介と喧嘩をするのはやめようと思った。 東上は借用書と赤いバラの花束を持っていた。借用書はともかく、なぜバラの花束を抱えているのかが不思議だった。 「あの?」 「あの人はいるか?」 「あの人??」 顔に目一杯疑問を浮かべた司郎に、東上は舌打ちした。 「亮介さんだ。部下たちに見張らせていたからな。ここに泊まったことは分かっている」 「いますけど、寝ています」 亮介が寝ていると聞いて東上は逡巡(しゅんじゅん)した。どうやら花束は、亮介に渡すためのものらしい。 ………………………………ひょっとして、亮介さんに本気なのか?? 亮介は焦りを感じた。 目の前の男は自分より数段、イイ男である。亮介の気持ちを疑うわけではないが、ずっと亮介の気持ちを引き止めておけるだけの魅力が自分にあるという自信が、司郎にはなかった。絵里と同じように、亮介が自分に飽きて去っていく日が来ないという保証はない。 司郎は東上と亮介を会わせたくないと思った。しかし、布団と玄関までの距離が十メーターと離れていない狭い部屋である。東上と司郎の話し声で亮介は目を覚ましてしまった。 「何? ああ、昨夜の借金取り? 借用書、持ってきたんだね。分かった、今、小切手切るから」 「いや、金は必要ない」 東上は司郎と亮介の目の前で、借用書を躊躇いもなく破いて見せた。 「……なんのつもり?」 冷ややかな眼差しで亮介は東上を見上げた。自分に向ける、とろけるような笑顔とのギャップに司郎は驚く。亮介の東上に対する態度は氷点以下だ。 「あんたに本気で惚れた。恋人に立候補したい」 手に持っていた花束を、東上は亮介のほうに突き出した。亮介はそれを受け取らなかった。 「あいにく間に合ってる。悪いけど、こちらは新婚ラブラブの真っ最中でね。他の人間が割り込めるような余地はないんだ」 にべもない口調で亮介は言った。自分が興味のない人間にはとことん冷ややかな男である。 「ずい分と気が強いな。好みだぜ」 東上は受け取ってもらえなかった花束を、亮介の代わりに司郎に押し付けた。うっかり受け取ってしまい、司郎は慌てた。なにゆえに恋敵からバラの花束を貰わなければいけないのだろうか。ゴミ箱に捨ててしまおうかとも思ったが、花には罪はないと思い直した。 後で花瓶にでも生けておこう。 「こっちはあんたなんか好みじゃない。用が済んだらさっさと帰ってくれないか? 俺たちこれから、出社する準備をしなきゃならないんだ」 「待てよ。話はまだ終わってないぜ」 東上は、部屋の中に入ろうとする亮介の腕を掴んで引き止めた。 「……もう二・三発殴られたい?」 「いや。あんたのパンチは強力だからな。出来れば遠慮したい」 顔の青痣を撫でながら、にやりと東上は笑った。簡単には諦めないと言い置いて、東上は立ち去った。 「亮介さん……」 「借金帳消しになって、ラッキーだったね。さあ、着替えようか」 「……」 「ねぇ、シャツ貸してもらっていいかな? 昨日は汗をかいたから」 「……」 「ん? どうしたの、司郎? 早く支度しないと仕事に遅れちゃうよ」 暗い表情で黙り込んでいる司郎の様子に気が付き、亮介は首をかしげた。 「亮介さん、俺……」 「どうしたの? そんな不安そうな顔をして。ああ、あのバカのことを気にしてるんだね。大丈夫、安心して。俺は司郎一筋だから」 亮介はにっこり微笑み、司郎の唇にそっと唇で触れた。 「亮介さん」 「俺は、絶対に浮気なんかしないよ」 切なくて苦しくて、泣きそうになった。自分程度の人間に、これほどまで一途な想いを寄せてくれることに畏(おそ)れ多いような嬉しいような気持ちになる。 「司郎も浮気しないでね。…………浮気したら…………コロス」 ………………………………………………。 ………………………………………………。 ………………………………………………。 ………………………………………………。 ………………………………………………。 …………こえええええええええっ!!!!!! 司郎は背筋が凍りつくのを感じた。亮介の口元は笑みを形作っていたが、目は笑っていなかった。まさに蛇に睨まれた蛙の気分である。 ……………………………………………………やっぱり早まったかも。めちゃめちゃ怖すぎる…………。 亮介の恋人になったことを、早くも後悔し始める司郎だった。 現在、司郎は亮介と一緒に暮らしている。これはひょっとしなくても、間違いなく、いわゆる同棲というやつである。 田舎の両親と祖母と祖父と曾祖母と姉と兄と妹にはまだこのことを報告していない。自分に男の恋人がいると知ったら、さぞかし驚くことだろう。そのときのことを考えると憂鬱(ゆううつ)になる。 祖母や祖父や曾祖母は高齢だ。驚きのあまり心臓の動きを止めてしまわなければ良いのだが。 しかしそれでも自分は亮介との付き合いを止める気にはならないし、いつまでもそのことを隠しておく気はない。世間的には認められなくても、悪いことをしているわけではない。堂々としていたかった。だから肉親に対しても隠さず打ち明ける気でいた。 問題は、いつ打ち明けるかだ。司郎はタイミングを推し量っている最中だった。 「よう、亮介。相変わらず綺麗だな」 「……またあんたか。懲りないな」 朝っぱらから花束を持ってやって来た東上を見て、亮介は露骨に迷惑そうな顔をした。自分なら亮介にこれほど冷たい眼差しで睨まれたら、きっとそれだけで怯(ひる)んでしまう。敵ながらあっぱれと言ったところか。 あれ以来、東上は亮介と司郎の前にちょくちょく現れた。どれほど亮介から足蹴(あしげ)にされても諦める気はないようだ。かなり本気で亮介に入れ込んでいる。 訪れるときは、必ず花束やブランド物の時計など、亮介へのプレゼントを持ってくる。 亮介はそれを一度も受け取ったことはない。 なぜか代わりにいつも司郎がそれを受け取っていた。 東上から憮然とした表情で「捨てておけ」と手渡されるが、貧乏性の司郎は捨てるに捨てられないでいた。 花や物には罪はない。 「あーもー。朝からバカの顔を見て気分悪い。司郎、口直し!」 亮介はぐいっと司郎の顔を引き寄せ、ディープなキスを仕掛けてきた。 ……ひいいいいいっ。ここ、公道っ! 見てる!! 人がっ!!! 通勤途中の方々がっ!!!!! 人並みに羞恥心のある司郎は固まった。その間に思うがまま、亮介は司郎の口腔を蹂躙した。くちゃりと濡れたいやらしい音が耳に届き、司郎は顔を赤くした。 「公衆の面前で、何するんですかっ!!!」 赤い顔をして、離されたばかりの唇を手の甲でこすり、司郎は亮介に恨めしげな視線を向けた。 「ふふ。照れちゃって、カワイイ…」 ………………………………いや、照れるとか、そういう問題じゃなくて……。 …………………………………………………………………………………………。 「………………………………亮介さんのほうが、可愛いと思います」 ………………………………弱いっ! 弱すぎる、俺っ!! 相変わらず亮介には振り回されっぱなしである。だが、それも悪くないと最近では思っていた。亮介の強引なペースに慣れつつある司郎だった。 もっとも普段と違い、ベッドの上では司郎がリードを取っていた。紗那教官からのプレゼントも、たまには役立っていた。 「あああああああんっ!」 細長い棒状のバイブレーターを亮介のアナルに突っ込み、スイッチを入れると亮介は悲鳴をあげながら勢いよく先端から噴出した。悦楽の涙を流しながら艶かしく体をくねらせる亮介の姿を楽しみながら、司郎は手にした道具で亮介の中を掻き回した。 「いやっ。そんなにしないで……いやっ。いやあっ…!」 「亮介さん、ココは嫌がってない……。すげぇヤラシイ……」 司郎はごくりと生唾を飲み込んだ。バイブレーターを抜き差ししながら亮介の前を弄(いじ)ると、亮介はすぐにイってしまった。亮介の下肢は零した精液や汗などでぐっしょりと濡れていた。 「ああんっ。司郎の、司郎のが欲しいのぉ。ソレはもういいから……司郎のを入れて……」 亮介の後ろの蕾はすっかり熟している。司郎は自分のモノに素早くスキンを被せ、亮介に埋めていた無機物の代わりに一気に挿入させた。 「ああっ! イイ…っ!! 司郎っ」 「俺もイイです! めちゃめちゃ気持ちイイっ! 亮介さんっ!!」 「あっ…! あ―――っ!!」 「そんなに、締めないで! ちぎられそうだ……!」 「あふっ。ううんっ。ソコっ…もっと……もっとぉ…」 「ココ、ですか?」 「ひいぃぃっ。死んじゃう、俺、死んじゃうっ!」 「最高です、亮介さんっ!!」 鍛え抜かれた頑強な体を持つ亮介は、どれほど司郎が激しく責めても翌日に疲労を引きずることはない。司郎は遠慮なくばこばこ自分の腰を亮介に打ちつけた。バックから亮介の奥まで突き入れ、さんざん亮介をよがらせた。一度、亮介の中で達してから、今度は体位を変えて正面から貫く。 「あ、なに? 司郎?」 下半身を繋げたまま司郎が立ち上がったので、亮介は焦った声を出した。両足が完全に浮いている不安定な体勢に亮介は不安そうな顔をして、司郎の腰に足を絡めてきた。 「うおおおおおおおおっ!」 亮介の背を壁に押し付け、立ったままの体勢で司郎はガンガン亮介を責め立てた。司郎の住んでいたボロアパートでは絶対に出来ない体位だ。最初は戸惑っていたようだが、じきに亮介も甘い声で啼き始めた。 「亮介さん、亮介さん、亮介さんっ!」 「あ――んっ。司郎、好き。愛してる……」 その後さらに、浴槽の中でセックスした。亮介の言ったとおり、体の相性は最高だ。キングサイズのベッドに買い替え、二人はいつも一緒に眠っていた。 司郎は紗那教官のお眼鏡に適ったらしく、そのまま研修後も特殊処理班に残ることになった。二人一組で行動することが多い仕事なのだが、司郎は亮介と組まされることが多くて、職場でも二人はともにいることが多かった。恋愛も仕事も順調で、司郎は怖いぐらい幸せだった。 一ヶ月前にあった不幸な出来事は、今日のこの幸せのためにあったのかもしれない。亮介という存在に会うために。 「俺、亮介さんと会えて良かった」 「それは俺も一緒だよ。司郎に出会ってから、今まで欠けていたワンピースが埋まったような、とても満たされた気分なんだ」 亮介は口元に、幸せそうな笑みを浮かべて言った。どれほど亮介が自分を必要としてくれているかが分かって、喉元まで大きな感情の塊が競りあがってきた。胸が苦しくて泣きたくなる、切ない気持ち。 司郎はただ黙って亮介を抱き締めた。 いつか、この恋が終わる日が来るかもしれない。絵里と同じように、亮介に去られる日が来るかもしれない。 それでも亮介と恋愛をしたことを、後悔したくはないと司郎は思ったのだった。 完 |