「えっへっへー」
今朝は学校に行く前に、俊介のうちに寄ってえっちをして来た。 今回のことで相談に乗ってもらった酒井先生にダーリンと上手くいったことを報告したら、我がことのように喜んでくれた。 ただし、不純同性行為もほどほどにしなさいと、注意もされちゃったけど。 甲斐にもヨリが戻ったことを伝えたら、複雑な顔をしていた。 「俺、そのまま別れたほうがお前のためだったと思うんだけど……」 「むーっ。なんでそんなこと言うんだよ! 友達の幸せを喜べよなーっ!」 「俺も喜びたいんだけど……。でも話し聞いてるとあんまりいい人そうっぽくないって言うか……」 「人のカレシの悪口言うなよな。見たこともないくせにっ」 「…………見たいとも思わねぇよ」 ぷんぷんっ! なんだよ甲斐のヤツ。まったく、シツレイな男だな! でもまあいいかぁ。俺、幸せだから、お前の無礼な態度は許してやるよ! 「おかーさん、おかーさんっ。週末泊まりに行っていい?」 イイ子な俺は、当然無断外泊なんてしない。ちゃーんと親の許可を得てからお泊りするのだ。 「いいわよ。甲斐くんの家にでも泊まりに行くの?」 「ううん。カレシの家ーっ」 「ぶーっ……! げほっげほっ……!」 「わー。なんだよ、お父さん。お茶吹き出すなんて汚いなぁ」 「み、み、美咲っ。か、か、か、カレシだとぅっ!?」 「あらステキね。金・土と泊まってくるの? ふふ。じゃあ、週末は夫婦水入らずね」 お母さんはにっこり笑ってお父さんにしなだれかかった。お父さんは満更でもない顔をしていた。夫婦の仲が良いってことは、いいことだよね。 金曜日は一度家に帰って準備をしてから俊介の家に向かった。どっちみち俊介、深夜じゃないと仕事終わらないし。俊介のお店は午後六時から午前一時までの営業なんだって。 十時か十一時までは甥っ子にお店手伝ってもらってるみたいだけど、そこそこ繁盛してるからけっこう大変みたい。 合鍵を使って中に入って俊介のことを待ってたけど、眠くなって俺は俊介のベッドで寝入ってしまった。 目が覚めたときは裸に剥かれていて、俊介が俺の体に覆いかぶさってイタズラしていた。 「んーっ。はにゃ?」 「おはよう、美咲」 俊介はにこにこ笑いながら俺の下の毛を……。 「わーっ。な、な、な、何やってんのさっ!」 「美咲、暴れたら危ないよ」 「え。だってだってだって」 たしかに暴れたら危ないので俺は身動きできずにいた。 だって俊介ってば、俺の下の毛を剃刀で剃ってるんだよ! 暴れたら俺の大事なジュニアが傷ついちゃいそうで怖いよぅっ!! 「もう、なんでこんなことするのさーっ」 俺はちょっと涙ぐんでしまった。俊介は俺のつるつるになったアソコを満足そうに見下ろしていた。 「ふふ。まるで子供みたいだね。カワイイ」 「う〜。なんかこれヤだーっ。勝手に剃っちゃうなんてひどいよーっ」 「どうして? いいじゃん。すごく興奮する」 「うわっ」 すごく興奮してるらしい俊介は、いきなりぐいっと腰を押し付けてきた。俊介の先端が俺のアナルにうにゅって入ってきた。ほとんど抵抗なく挿入できたってことは、俊介、俺が寝てる間に後ろの穴もウニウニしてたなー。気付かない俺も俺だけどさ。 「あっ……。ううんっ……」 俊介は先っぽを潜り込ませただけで動きをピタリと止めた。にやにや笑いながら身悶える俺を見下ろしている。 「ああんっ。動いてよ! 奥まで入れてぇっ!」 どうして俊介はこの体勢で余裕でいられるのさっ。超シンジラレナイっ。 俺のアナルなんて、俊介が欲しくてぴくぴくいやらしく痙攣しちゃってるよ。 「俊介ぇ。お願い……」 「うーん。どうしようかな」 「うっ。ひ、ひどい……」 俊介が欲しいのにもらえなくて俺は苦しくて泣いてしまった。俺の涙を見て俊介は嬉しそうな顔をした。 「ふぇっ……ひっ…く……。俊介ぇ……してくれなきゃ……やだぁ……」 「美咲の泣き顔カワイイね」 俺が泣いて頼んでも俊介は動いてくれなかった。俺を焦らすことを思いっきり楽しんでいるようだ。 うぇーんっ。俊介の、意地悪っ! 俺が俊介に焦らされているとき電話が鳴った。誰だよ、こんな夜更けに! あ、しかも俊介、電話に出てるし! 「ん? 賢司か? 別に構わないよ。丁度、今、焦らしている最中なんだ」 むーっ。誰だよ賢司って! 俺とえっちしてる最中に、他の男と電話で話してるんじゃねぇよ。 あっ。 しかも、受話器持ってないほうの手で、俺のちんこに触ってくるし。 そんなふうにされたら……。 「あぁんっ……あああああっ……!」 耐え切れずに、俺の口から大きな喘ぎ声が漏れた。 ひゃーっ! 絶対、俊介の電話の相手にも俺の声が聞こえちゃったよ! あーんっ、恥ずかしい! でも我慢できなかったんだもんっ!! 「慣れないうちは、挿入はバックからのほうが楽だよ。あと、入り口付近の浅い部分で出し入れしてあげると気持ちよくしてあげられる。亀頭の部分で前立腺を擦るようにしてやるんだ。ほら、こんなふうに」 冷静な声で電話の相手と話しながら、俊介は俺の内部を先端で擦り上げてきた。 ……もう、ダメっ……! 声が漏れないように努力しようとは思ったんだけど、やっと俊介が俺の中を突いてくれたので、俺は盛大なよがり声をあげてしまった。 「あっ……イイ……! もっとぉっ! ……あああんっ……」 お願い俊介! もっともっと激しく動いて! お願い! 電話が終わってから、ようやく俊介は俺が望むとおりに動いてくれた。ずんずんと突き上げ、俺の体を乱暴に貪る。 「ああ〜んっ。イイ……イイよぅ……」 「愛してるよ、美咲」 「ああっ……! 俺も、俺も、好きぃっ……!」 ……ああっ、もうダメダメダメダメ! イクぅっ……! 俺が俊介をぎゅーっと締め付けながら達すると、俊介も俺の中をびしょびしょに濡らした。 「美咲は今日もステキだったよ」 俊介は満たされた顔で熱い息を吐き、俺の首筋にキスをした。 セックスが終わると、俺は涼しくなった下半身が気になった。 「俊介のばかぁ。なんで毛、剃っちゃうわけ? 他の人に見られたら恥ずかしいじゃん!」 「美咲は他の人に見せる予定があるわけ?」 「え。ないけど」 「だったらいいでしょ?」 ……う〜ん。いいのかなあ? 納得しかけて俺ははっと我に返った。 ……ううん、やっぱりよくない! そりゃあ浮気する気なんかないし、誰かに見せるわけじゃないけどさー。 でもやっぱ恥ずいじゃんよぅ。 もし今、俺が事故って病院に運ばれたら、お医者さん驚いちゃうよ? そのときなんて言い訳すればいいわけ? 「美咲、大きな赤ちゃんみたいで可愛いよ」 俊介は俺にオムツを替える赤ちゃんみたいなポーズを取らせて、自分が汚した俺の後ろを濡れたタオルで拭いていた。屈辱的な格好だが俺には逆らう気力はない。さんざん焦らされ感じさせられすぎて、俺の体は鉛のように重かった。 俊介に体を拭いてもらいながら、俺はまた眠りの世界に飛び立ってしまった。 起きたらすぐ近くに俊介の寝顔があった。ほっぺをつついても俊介はぴくりとも動かず、深い眠りの中にいるらしかった。 ……きらーんっ。チャンスだ! え? なんのチャンスかって? そりゃあ、俺の剃られちゃった毛の仇を取るチャンスさ! ベッドのそばにあるテーブルに、俊介が昨日使った剃刀とシェービングジェルが置いてあった。 ……ふふん。目には目をだ! 「俊介が寝てる間に剃っちゃうもんねっ!」 布団を剥ぐと、俊介も俺と同様、全裸だった。 好都合。 まずは、下の毛。 じょりじょりじょりじょりじょりじょりじょりじょり。 「完成〜。綺麗に剃れたじゃん!」 成人の男の股間が無毛というのがおかしくて、俺は思わず笑ってしまった。 ……そーだ。アソコも剃っちゃおうかな。ついでだし。 俺は再び剃刀を握り直した。 そして、じょりじょりじょりじょりじょりじょりじょりじょり…… 俺が作業を終えた頃、ちょうど俊介が目を覚ました。 「んっ……。美咲?」 ゆっくり目を開いた恋人の顔を見て、俺はめちゃめちゃ驚いてしまった。 「…………………………………………」 声もなく驚きの表情で自分を見つめる俺に、俊介は不思議そうな眼を向けた。 「あれ? ああ、下の毛、剃ってくれたんだ。これでお揃いだね」 「…………………………………………」 「おや? 下の毛だけじゃなく、髭も剃っちゃったんだ? イメチェンしようと思ってたから、ちょうどいいかな」 「……………ねぇ……俊介って……年……いくつ?」 「年? あれ? 美咲に言ってなかったっけ?」 聞いてない。 聞きたいとは思っていたけど、なんとなく聞きそびれてしまったと言うか。どうせ三十代半ばごろだって思ってたから、別に聞くまでもないって思ってたと言うか……。 はっきり年齢を尋ねなかったことに深い理由はなかったんだけど、とにかく俺は俊介の年齢を知らなかった。 ……なんか……髭を剃ったら……思ったよりも若く見えるんですけど? 「二十七歳だよ」 「…………………………っ!!!」 俊介、そんなに若かったんだ! 若いって言っても、俺より十歳以上は上だけどさ……。それにしても……。 「…………………………俊介、口髭剃ると印象変わるね」 「そう? 似合う?」 「…………………………まあね」 初めて見る髭のない俊介の顔に俺は激しく動揺していた。 何故かというと、カッコよかったのである。とっても。 ……そりゃまあ、カッコイイ人だとは思っていたよ? なんといっても俺のカレシだし! けど俺が俊介のこと『カッコイイ』って思うのは、惚れた欲目ってのも多分にあったと思うんだ。客観的に容姿だけ見たらフツーよりちょっとカッコイイぐらい……って思ってた。 なのに髭を剃った俊介は、ちょっとどころかサイッコーにハンサムな男だった。性格はヘンだけど、外見だけ見れば爽やかな美青年。この顔で迫ればどんな男も女も落ちるだろう。 俺は俊介の髭を剃ったことを、深〜く後悔していた。 ……しまったあああああ! 不必要にライバルを増やしてしまったあああああ! これからは美咲一筋だよって言ってくれたけど、前科がある人だから心配なんだよ。 とりあえず俺は俊介の毛のなくなった股間に顔を埋めた。あんぐりと口を開けて俊介の大きなモノをほお張る。 「美咲、朝から積極的だね」 俊介は嬉しそうな声で言った。 そりゃそーさ。積極的にもなるさ。 外でえっちしてこようなんて気にならないぐらい、しーっかり搾り取っておかなきゃ! …………ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ……。 …………レロレロレロレロレロレロ……。 …………ちゅーっ。ちゅっ。ちゅっ……。 咥えたまま、上目遣いで俊介の顔を見上げることも、もちろん忘れない。 美咲が一番だよってずっと言って貰えるように、俺は念入りに俊介に奉仕したのだった。 タンパク質たっぷりの朝食をとったところで、俺は気になっていた電話の相手について聞いてみた。 賢司って、誰さ? セックスの最中に電話に出るなんて、どーゆーつもりさー? 「例の甥っ子だよ。あの子も同性の恋人がいてね。どうやら昨日が『初夜』だったらしいんだけど、二人とも初心者でやり方が分からないから教えて欲しいって頼まれててね」 「ふうん。そうなんだ。お店手伝って貰ってるって子だよね。俊介と仲いいの?」 なんて、聞くまでもなく、仲がいいんだよね。そうでなきゃえっちの仕方なんて、相談しないよね。 甥っ子とはいえジェラシー感じちゃうなぁ。 「甥っ子っていうより、年の離れた弟って感じかな。姉さんに頼まれて、よくお守りをしたもんだよ。子供のころは女の子みたいにカワイイ子だったのに、今ではすっかりでかくなっちゃってねぇ」 「俊介の甥っ子ってどんな感じかなあ? 年はいくつ?」 「高校二年生。美咲より、一つ上だね。俺よりも賢司はイイ男だから、紹介するのは心配だなあ」 それって俊介も、俺に焼もち焼いてくれてるってことだよね。 なんだか顔がにやけちゃう。 「えー。大丈夫だもん。俺、浮気なんかしないもんね」 こーんなに俊介のこと、愛しちゃってるし。どれだけイイ男なのか知らないけど、絶対に、俊介ほどカッコイイとは思わないもん。 「だったら今度、お店においで。そのとき賢司と会わせてあげる。俺も可愛い恋人を、甥っ子に自慢したくてしょうがなかったんだ」 えへー。 可愛い恋人だってー。 でも、その甥っ子に、俺ってば電話越しに力いっぱい喘ぎ声聞かれちゃってるんだよね〜。会うのちょっとどころかかなり恥ずかしいかも……。 「高校はどこ行ってるの? 俺の先輩だったりしてね」 「美咲は北高校だよね。賢司が行っているのは南高校だよ。残念だったね」 げー。南高校〜? あの、超エリート校かよー。 「俊介の甥っ子って頭イイんだ〜。ガリ勉ってカンジ?」 「いや、そうでもないよ。真面目な子だけどやんちゃなところもあって。そういえば、あまりにも喧嘩が強いから、南高校の『帝王』なんて呼ばれているらしいよ。それを聞いて以来、賢司に逆らうのは止めようって思ったね」 「ええーっ! 俊介の甥って、南高校の『帝王』なの〜?」 うわー。びっくりした。世間って狭いなあ〜。 ……俺ってばその『帝王』と同じぐらい強いって言われてるんだよね。でもそれはヒミツでーすっ。 「美咲、知ってるの?」 「会ったことはないけど、南高校の『帝王』は有名だもん。俺の高校でも噂になってるよ〜」 「へぇ。賢司ってけっこう有名人なんだね。あ。そういえば、北高校にもすっごく喧嘩が強い子がいるんだよね」 「…………え?」 ぎくり。 「今年入学したばかりで……。あ、ということは、美咲と同い年かな? 噂話、聞いたことない?」 「…………へ、へぇー。聞いたことないなあ。丸っきり。ぜんぜん。これっぽっちも!」 俺は力いっぱいしらばっくれた。 それって俺のことかなって気が、限りなくするんだけど。でもさ、俊介の前では無力で可愛い恋人でいたいのさー。 「南高校の『帝王』と張る強さだって言われてて、北高校の『血のアリス』って呼ばれているらしいよ」 ぶーっ。 なんだよその、三流ホラー映画の題名のような、ださださのネーミングはっ! 帝王に比べると、すんごくカッコ悪くないか? 誰だよ、そんな妙なあだ名を付けたやつ!! 「すごく小柄で可愛い子らしいけど、熊を素手で倒せちゃいそうなくらい強いんだって」 く、熊ぁ? そんなものと戦ったことなんてないやいっ! そんなみょーな噂流したやつ、とっちめてやりてぇよ! 「へー。うちの高校にそんな子がいるんだ〜。ちっとも知らなかった!」 「美咲っていいパンチしてたよね。ひょっとして美咲のことだったりしてね!」 「ま、まっさかあ!」 あははははと俺は乾いた笑をたてた。 俺、過去に二度、怒りにまかせて俊介の顔に拳をめり込ませたことがあったなぁ。 ふう、危ない危ない。 バレないように、気をつけなきゃ……。 「ところで俊介、なんでそんな噂に詳しいの?」 俊介はちょっと困った顔をして答えなかった。 ……ふううううん。つまり、俊介のセフレの中に、北高校か南高校、あるいは両方の関係者がいたワケね。 ちょっとむかつくけど、まあいいよ。今はもう切れてるんならさ。 結局、俺は俊介の家に二泊した。 その間これでもかというぐらい、いっぱいえっちをしたのでさすがの俺も腰がだるかった。 「ご両親にいつが暇か聞いてみて貰えるかな? 美咲とはちゃんと付き合いたいから、やはりご両親にきちっと挨拶しておいたほうがいいと思うんだ」 日曜の朝、俺専用のマグカップに紅茶を注いでくれながら俊介は言った。 嬉しいな。 俺の両親にまで挨拶したいってことは、俊介、かなり俺に本気なんだ。 「うん、聞いとく」 「美咲、嬉しそうだね」 「えへへ〜。だって親公認でお付き合いだなんてスゴイじゃん!」 お父さんとお母さんに、俊介を紹介するのかぁ。 うー。胸がどきどきしてきた。 嬉しいけど、自分の親に恋人を紹介するって緊張ーっ。 「可愛いなあ、美咲は。美咲を置いて仕事に行くのがやんなっちゃうよ。でも常連さんもいるし勝手に休むのも悪いしね。日曜の夜はそんなにお客さん入らないんだけどね」 「そっかぁ。ふつーは月曜日は仕事だもんね」 俺も俊介と離れるのはイヤだったけど、仕事じゃ仕方ない。 あーあ。 もっとずっと一緒にいたいんだけどな。 「明日の朝も来てもいい?」 「もちろんだよ。美咲ならいつ来てくれても嬉しいよ」 そーお? 本気で言ってる? 俺、お言葉に甘えちゃうよ? 「それじゃあ俺、帰るね。俊介、仕事頑張ってね」 「美咲、車で送っていくよ」 「そんな。悪いよ。俊介これから仕事なのに、疲れちゃうよ?」 「美咲を一人で帰したら、それこそ心配で仕事に身が入らないよ」 うっわー。甘い言葉オンパレードだ! 俺ってこんなにカッコイイ恋人にこんなに大切にしてもらえて、超シアワセじゃん? 一度は断ったものの、腰もだるかったし俺は俊介に家まで送ってもらうことにした。 家に帰ってすぐ、俺は両親に俊介が挨拶に来たいと言っていたという話をしたら、お母さんは喜んでいたけどお父さんは複雑な顔をしていた。 次の三連休に姉ちゃんも帰ってくるから、そのときにどうだという話になった。 連休初日、俊介はわざわざお店を休みにして俺の家に来てくれることになった。 当日は駅で待ち合わせをした。 俊介はいつも車だから電車でうちに来たことは一度もなく、当然、駅から俺の家までの道を一回も歩いていないはずだ。 俊介は大丈夫だと言っていたが、心配だったので駅まで迎えに行くことにした。 「やめて下さい!」 「そんなこと言わないでさ。俺たちとどっか遊びに行こうよ」 「ひ、人を待っているんです。手を放して下さい!」 駅に着いたところで、美人サンがガラの悪い三人組に絡まれているのに出くわした。 美人サンは本当に美人で、絡みたくなる気持ちも分からないこともない。多分、男の人なんだろうとは思うけど、性別を超越した美しさが美人サンにはあった。 強く抱きしめれば簡単にぺきって折れちゃいそうなほど、ほっそりとした華奢な体。身長は低くないんだけど、それでも小柄っていう印象がある。 顔は、天使と見紛うばかりの清らかな美しさ。こーゆーのを美貌って言うんだろうね。 天使さま〜、天使さま〜と、思わず拝みたくなっちゃうようなカンジ。 いや、別に、クリスチャンじゃないけどさ。 でも天使様に手を出すような悪いやつらは退治しないとね! 「ちょおっと待ったあ、お兄様方。悪いけど、俺たち待ち合わせしているの。遊びに誘うのは、また今度にしてくれないかな?」 俺は天使様を庇うように、男たちの間に割って入った。天使様は俺を見て、目をぱちくりさせていた。 ひゃー。間近で見ても、激しく美人。 「お。こっちの子もカワイイじゃん」 「俺たちと遊ぼうよ。奢ってあげるからさあ」 ……人の話、聞けっつーの。 追い払うどころか、俺の出現でますます男たちは喧しくなった。 あーもー。鬱陶しいなあ。 面倒だから、ぶん殴って、気絶させちゃおうかな。そろそろ俊介が来ちゃうから、さっさと始末しなきゃ……。 と物騒なことを考えていたら、俺が手を出すより早く、男たちはばったばったと地面に倒れていった。 あらら。せっかく戦闘態勢に入ってたのにな〜。 男たちを倒したのは、ワイルドな雰囲気を持ったイイ男。 強い光を湛えた黒い瞳、強靭そうな体つき。 まだ高校生ぐらいだって思うんだけど、すでに成熟した男の色気を自分のものにしつつある。 うーん、残念。あともうちょっと年をとってたら、俺の好みなんだけどな〜。 でもやっぱり、俊介のほうがカッコイイや! イイ線いってるとは思うけどね。 「萩原(はぎわら)!」 天使様は嬉しそうな顔をして、突然現れたイイ男に駆け寄った。 「十夜(とおや)、大丈夫か? 怪我はないか?」 イイ男は心配そうな顔で天使様の頬を軽く撫でた。 ははーん、なるほど。今、男たち三人を軽々倒しちゃったのは、天使様の待ち合わせの相手だな。で、二人の関係は、ずばり恋人同士! うん。いいじゃん。 お似合いの二人じゃん。 お姫様と、騎士って感じでさ。 などと呑気に二人の様子を見守っていたら、イイ男に殴りかかられた。 俺は紙一重でそれを避ける。 わっ。な、何するんだよっ! 危ないじゃんかっ! 「人の『宝』に手を出そうとは、許しがたいな……」 えーっ。ちょっと待てよ! 俺はねぇ、あいつらの仲間じゃないの。助けに入っただけなんだってばぁ! せっかく今日は白いダッフルコートでカワイク決めてるのに、汚れるじゃんよぅっ! 言い訳するより早く、イイ男がどんどん攻撃を仕掛けてくるので俺も応戦せざるを得ない。 う。やっぱこいつ強い……。 なんとか受け止めたけど、蹴りが、重い。油断したら、絶対ヤられる! 逃げ回っているのも性に合わないので、俺も攻撃を数回仕掛けた。かわし切れなかったらしく、俺の攻撃をまともに受けて、イイ男は低く呻いた。 だが、倒れない。 防御が甘い代わりに打たれ強いようだ。 スピードでは俺が上だ。 力では向こうが上。 ゼツリン俊介のえっちに付き合えるぐらいだから持久力には自信が……いや、待てよ。俊介より俺のほうがいつもイク回数多いから、俺のほうがよっぽどゼツリンなのかな? ………………。 ……と、とにかくっ、スタミナには自信あるけど、向こうだって体力ありそうだし! 互角ってトコかな。 あとは、精神力の勝負。 集中力を切らしたほうが、負け。 ……俊介がもうすぐ来ちゃうしね。恨みはないけど、さっさと倒させてもらうよ。 俺は低く腰を落とし、必殺技を繰り出すチャンスを窺った。隙がないから容易に攻撃を仕掛けることが出来ない。 大技は当たればいいが、仕掛けた後に狙われるとヤバイ。とくに目の前の相手は、一瞬の隙を見逃してくれるような甘い相手ではないのだ。 ……今だ! 俺は、動いた。 イイ男の頬に拳がめり込んだ。 ただし、俺のじゃない。 天使様のだ。 「萩原の、バカっ。この子は俺を助けようとしてくれただけなのに、ヒドイよ! こんな小さい子に手を上げようだなんて、どうかしてるよ!」 ……小さい子って……。 そりゃあ、俺は童顔だし背も小さいけど、一応高校生なんだけどな……。 天使様の言葉に、イイ男は眼が覚めたような顔をした。やっと自分の勘違いに気がついてくれたようだ。 でもさあ、考えてみればこのプリティーな俺をナンパヤローと間違えるなんて失礼だよね。ナンパなんてしなくたって、俺にはステキなダーリンがいるんだもんねーだ。 「お待たせ、美咲」 「俊介!」 うわ。もう、待ち合わせの時間だ! 激、危なかった〜。 もうちょっとで喧嘩してるとこ、見られちゃうところだった……。 「あれぇ、賢司に十夜ちゃん。奇遇だね」 「……え?」 賢司? ってことはひょっとして、さっきまで俺が戦ってたのって、俊介の甥っ子? 南高校の『帝王』なわけ? ……どーりで強いはずだよぉ……。 それにしても、こんなところで俊介の甥っ子に会っちゃうなんてびっくり! ってゆーか、マジヤバイ! 俺が喧嘩強いってことがバレちゃうよぅっ! 「叔父さん、どうしてここに……」 「ん? これから恋人の家にご挨拶に伺うところなんだよ。ちょうどいい機会だから、賢司にも紹介しておくね。こちら、俺の恋人の森屋美咲さん。可愛いだろ?」 「……叔父さん、俺の目にはずいぶんと年が離れているように見えるんだが……」 賢司サンは、俺の姿を頭のてっぺんから足のつま先までじろじろと観察しながら言った。 むっかー。なんかヤな視線。 俺と俊介とじゃあ、似合わないって言いたいワケ? 「そうだね。十二も離れているからね。でも十二の歳の差なんて、おじいちゃんになっちゃえば関係ないさ!」 「俊介……」 俊介はおじいちゃんになるまで俺と一緒にいてくれる気なんだ……。 俺は感動して、目が潤んでしまった。 「俊介さんと美咲さん、とってもお似合いだと思います」 天使様はにっこり微笑みながら言った。 ありがたや〜。 なんか、天に祝福されたって感じ。 「……双方合意の上なら、別にいいか」 賢司サンの心の中でいろいろ葛藤があったみたいだけど、最後には納得してくれたらしい。 「ところで、何があったの? なんか人が三人倒れているんだけど……」 ぎくーっ! いや、その三人は、別に俺が倒したわけじゃないけどさあ。その三人を軽々倒した賢司サンと、俺ってば互角だったんだよね……。 が、そんなこと、俊介に知られたくないっ。 「俊介のこと、待ってたら、ヘンな奴らに絡まれて! そしたら賢司サンが助けてくれたの! 賢司サンって強いね! さすが南高校の『帝王』だね!」 俺は先手必勝とばかりに叫んだ。 「そっかぁ。美咲は可愛いから、ヘンな奴らに絡まれちゃったんだね。ゴメンね。俺がもっと早く着いていればよかったね」 「ううんっ! 全然へーきっ! 賢司サンがやっつけてくれたし! ありがとうね、賢司サン!」 「ありがとう、賢司。美咲を守ってくれて」 俊介は俺の肩を抱き寄せ、賢司サンにお礼を言った。 賢司サンは、何か物言いたげな顔をした。 しかし、俺の心の声が届いたらしく、賢司サンは余計なことは何も言わなかった。 ありがとう、賢司サン。 あんたやっぱりイイ男だよ。 誤解が原因で殴りかかられたことはキレイさっぱり水に流して、俺は賢司サンに感謝してしまった。 「それじゃあ叔父さん、俺たち行くから」 そして天使様と帝王様は、仲良く改札口へと消えて行った。 |