……ちくしょう! ちくしょう! セックスフレンドだとぉ〜〜〜っ!?
腹が立った。 そしてたまらなく惨めだった。 オッサンにとって俺はただの遊びの相手で、その他大勢の一人に過ぎなかった。 俺にとってオッサンはただ一人の相手だったけど、オッサンにとってはそうじゃなかった。 俺だけが特別じゃなかった。 オッサンは俺とセックスしながら他の男も抱いていた。 オッサンのテクは最高だ。抱かれたがる男は大勢いることだろう。 オッサンはあのぶっとくて猛々しい肉棒を、俺以外の誰かにも与えていたのだ。 能天気なことに俺は考えもしなかった。 俺が愛の行為だと思って夢中でオッサンを感じている間、オッサンが他の誰かと俺の体を比べていたなんて。 オッサンの本気はどこにもなかった。 あったのは肉欲だけだった。 「うっ……くぅっ……」 惨めで悔しくて哀しくて、涙が出た。こんなことで傷つけられたくないのに俺は深く傷ついていた。 始まりは欲望だけだったけど、今では愛もあると信じていた自分がばかみたいだった。 オッサンの優しさに深い意味などなかったのだ。 俺はオッサンのことが好きだった。本当に好きだった。大好きだった。愛してた。 だからすごく胸が痛かった。 俺の恋心はくしゃくしゃに踏み潰され、ビリビリに破られてゴミ箱に捨てられた。 家に帰って、俺は携帯からオッサンの電話番号を消去した。 ベッドの上にうつ伏せになって大声で泣きながら、俺はもう二度と恋なんてするものかと思った。 あれからオッサンから何度か電話があったけど、俺は出なかった。面倒だから携帯の電源を切ってしまった。 どうせ俺は『その他大勢のうちの一人』なのだ。オッサンも連絡が取れなければ、そのうち俺のことなんて忘れてしまうだろう。 「……うぅっ……」 オッサンが簡単に俺のことを過去の存在にしてしまうと思ったら、不覚にもまた涙が出そうになった。 俺も忘れなければいけない。 あんなヒドイ男のことなんか。 ……くそぅっ。俺だって俺だって俺だって、男漁ってばりばりえっちしてヤりまくってとっととオッサンのことなんか過去の遺物にしてやるぅっ!!! 幸いにして俺は男子校に通っている。俺は早速、セックスの相手を物色することにした。 惨めな自分を憐れんで泣くのは、もう最後にしたい。 きっと当分の間、俺は他の誰かを好きになることは出来ないだろう。それだけ、俺にとって本気の恋だった。オッサンと出会う前にしたきた恋とは違って、憧れただけでなく、実際に手に入れたと思っていただけに、余計に気持ちが沈む。損失感できしむ胸の痛みは、しばらくなくなる事はないだろう。 心は満たされなくても、せめて身体だけでも慰められたかった。 ……うーん。なっかなっか好みのタイプ、いないよな〜。 人が集まる学食で網を張っていてもなかなか好みのタイプが見つからない。 ……そらそーだよな。俺、年上好みだもん。最低六つは年上じゃないと。 学生はやめて教師にターゲットを絞ることにした。 選考の結果、候補は三人あがった。体育教師の熊谷、国語教師の酒井、数学教師の工藤。 イケ面で体もヨくてという基準で選んでいたら、この三人になった。 どうせヤるならイイ男とヤりたいもんね。 オッサン以外の男とヤるの、初めてなんだよな。期待でケツの穴が疼くぜぃ。 あ。言っとくけどこれ、強がりじゃないからなっ! ……なんてね。ほんとはかなり強がりなんだけど……。 でも、しょうがないじゃん。強いフリでもしなきゃやってられないよ。辛すぎてさ。 「あーもー、落ち込むな、俺っ! いっちょ頑張ってユーワクしてやろうじゃないかっ!」 熊谷は俺と同じゲイでカワイイ顔の生徒を食い荒らしてるって噂だし、簡単に引っかかってきそう。俺ってわりと可愛い顔してるし。 まずは熊谷からかる〜くオとしてみるかな。 俺はうきうきした足取りで、体育教官室に向かった。 ノックしてドアを開けると丁度イイ具合に、部屋の中には熊谷しかいなかった。俺はしめしめと思って、邪魔されないようにさりげなーく部屋のドアに鍵をかけた。 「お。どうしたんだ? 森屋」 熊谷は好意的な笑顔で俺を迎えてくれた。 ふふ。なんかちょろそーじゃん? 俺のカラダの虜にしてやるぜ。 なにせオッサンはしっかりと俺の体に、エロのテクを伝授してくれたからな。まさか他の男相手に使う日がこようとは思っていなかったけど。 「えーっと、ちょっと相談事。先生、今へーき?」 「ああ。大丈夫だ」 熊谷はなにか書類を書いていたようだがその手を止めて、俺に椅子を勧めてくれた。 ……いかにも遊び人っぽい感じだけどイケ面だからまあいっかー。 「なんかこの部屋暑いね」 作戦その1。 俺は熊谷をその気にさせるため、暑いと言いながら上着を脱ぎ、シャツのボタンを上から三つほどはずした。ちなみにシャツの下はそのまま素肌である。 熊谷の視線が俺の胸元に吸い寄せられるのを確認して俺はほくそ笑んだ。 「……あ、その、森屋、相談事って……」 「ん。たいしたことないんだけど、ほら、俺って背、小さいじゃん? どうしたらセンセーみたいなカッコイイ体になれんのかなーって」 作戦その2。 俺はさりげなく、熊谷の逞しい腕を触りながら言った。 ……おお。マジで筋肉むきむきでイイ感じじゃん。 俺はわざと前かがみになった。こうすると熊谷からは、俺のピンク色のキュートな乳首がちょうど目に入るはずだ。 「い、いや、そ、それはだな、やっぱり毎日運動することだな!」 熊谷は赤い顔をして上ずった声で言った。股間はもっこりと膨らんでいて、熊谷が俺に欲情していることが分かった。 ……ひひひひひ。いいぞ、いいぞぉ。このまま俺を押し倒せ! その逞しい腕で俺を押さえつけてバコバコに犯してくれぇ! 「運動なら毎日してるよぉ」 自分でも気持ち悪くなるぐらいカワイコぶって俺は言った。熊谷の鼻息はますます荒くなる。俺のアナルもむずむずしてきた。 ……さあ、こい! 前からでも後ろからでも! フェラだってたっぷりしてやるぜ!! 俺はヤル気満々だった。向こうだってけっこうソノ気になっているはずだった。 ところがだ、股間をぱんぱんにさせているくせに、熊谷は俺に襲いかかろうとしない。ねちっこく俺の太ももや肩の辺りに触れてくるが、それだけだ。 ……なんでだよー。俺、超オッケーなんだけど? 「も、森屋。すまないが、トイレに行って来てもいいか? あ、朝から、腹の具合が悪くて!!」 熊谷がトイレで何をするのかは明白だった。 ……こんちきしょー。一人でヌいてんじゃねぇよ、アホンだらっ。この甲斐性なしがあっ!!! 俺は内心で罵倒しまくった。 「そ。俺、じゃあ、帰るね。ばいばい、先生」 「あ、ああ……」 熊谷はもの欲しそうな目で俺を見送った。 ……んな目で見るなら、とっとと俺を犯せよな。 俺は自分のユーワク計画が失敗したのを悟りながら、とぼとぼと体育教官室を後にした。 「……ってことがあったんだよ! 据え膳を前にして手をださねぇなんて、超シンジられねーよ!」 俺は親友の甲斐典人(かい のりと)に不満をぶちまけた。甲斐は俺がゲイであることを知った後も、知る前と同じように接してくれるという公平かつ寛大な男である。 俺がこいつにカミングアウトしたのは中学生のころだ。 今では自分がゲイであることに開き直っちゃっている俺だが、当時は自分の性癖に俺はかなり悩んでいた。で、思い余ってこいつにショーゲキの告白をしたわけだ。 親友の甲斐に、隠し事をしていることが心苦しかったっつーこともある。 その時点で絶交されてしまう危険性もあったわけだが、甲斐は甲斐なりに悩んだ末、「美咲とは親友でいたい」と言ってくれた。 甲斐は正真正銘ノン気の男だが、俺を理解しようと努力してくれた。甲斐のような親友がいて本当に良かったと思う。 あいにく、高校は同じ学校に進んだもののクラスは違ってしまったが、それでも俺たちは変わらず仲がいい。 今では俺は、ベッドの上での詳細はともかく、甲斐には全てを話していた。 オッサンとのことも甲斐はもちろん知っていた。「そんな男、とっとと忘れちまえ」と俺以上に憤慨し、俺を必死で慰めてくれた。 「でも俺、熊谷がお前を襲わなかった理由ってよく分かるぜ」 「なんでだよ?」 ばりばりにおっ立てておきながら、俺を襲わなかった理由なんてちっともわかんねぇよ。 あんだけあからさまに誘ってやったっつーのに、なんでノってこないわけ? 「お前、顔はカワイイのに凶暴なんだもん。入学後、一月目にして、お前をマワそうとした三年の不良グループを一人でノしたのは誰だよ?」 「俺」 そーいやそんなこともあったな。 だってさぁ、マワされそうになった日って、丁度オッサンと約束してた日だったんだもん。 五人も相手にしてたら、オッサンとの濃厚なえっちが楽しめなくなるじゃんよぅ。五人とも俺のタイプじゃなかったしぃ。 俺はねぇ、大人の男がイイの。 高校生なんて、まるっきり子供じゃん? 「お前、影では、南高校の『帝王』に張る強さだって囁かれてるんだぜ」 南高校の『帝王』の噂は俺も聞いたことがある。 南高校ってのはここいらじゃ一番の進学校で、エリートが通う学校だ。 よわっちそーなやつらばかりだと思っていたがそうでもなく、南高校には人間離れした強さを持つ『帝王』がいるんだそうだ。 俺をマワそうとしたやつらも『帝王』にこてんぱにされたことが何度もあるとか。 ……っつーか、三年の不良グループ、ほんとは弱いんじゃねぇか? 不良グループの名が泣くぞ? 『帝王』は喧嘩が強いだけじゃなく、えらく男前らしい。南高校に通ってるっつーことは頭もイイんだろうな。年は俺より一っこ上だったと思う。 でもどんなにイイ男でも、高校生じゃな〜。 それにしても『帝王』と並び称されちゃうなんて、俺ってめちゃめちゃヤばそーじゃん? どうりであれ以来、不良グループも俺に付きまとわないはずだよ。 今だったら好みじゃなくても、思いっきりケツ掘らしてやんのによ。五人ぐらいなら軽いぜぇ。あっちがネをあげるぐらい搾り取ってやる。 「熊谷も本能に負けて襲ったら殺されるって思ったんじゃねぇの?」 「いいよもう、熊谷なんて。次は国語の酒井をオトしてやるぅ!」 「……お前、まだ諦めてなかったのか?」 「おうよ! ……だって、早く忘れたいんだもん……」 でないと毎日が苦しくてたまらないから。 他の人といっぱい関係を持ったら、唯一人俺の体を知っている人のことを、忘れられるような気がするから……。 「んー、まあ、お前の気の済むようにしろよ。でもさ、あんまり無茶すんなよ?」 オッサンとのことを思い出して、泣きそうな顔になった俺の頭を、甲斐は優しく撫でてくれた。 「……うん」 親友の言葉に、俺は神妙な顔で頷いた。 俺は、もう随分と、この優しい親友に心配をかけている。 でも、ゴメン。 立ち直るのに俺、もう少し時間がかかりそう……。 国語教師の酒井のことも、熊谷と同じ手順でユーワクした。 酒井は熊谷ほど愚鈍ではなく、すぐに俺が誘っているということに気が付いた。 「森屋、悪いけど、僕はキミのことを抱けないよ」 「え。なんで? 俺って可愛くない? 色気ない?? それとも男抱くのなんて、気持ち悪い?」 「森屋は可愛いと思うし、ノン気の男でもソノ気にしちゃいそうなほど色っぽいと思うよ」 「じゃあどうして?」 「僕も抱かれる側の人間だから」 「えー? マジで???」 そうか。酒井もネコだったのか……。 俺が驚きまじまじと酒井の顔を見つめていたら、酒井はちょっと照れたように笑った。眼鏡の奥の優しい瞳は、ほんとうに俺の好みだったので残念だと思った。 ……酒井の目は、ちょっとオッサンの目に似ている気がする。 「あーあ。そっかぁ。先生も俺と同じなんだ。ちぇーっ」 「ご期待に添えなくてゴメンね。でもね、森屋、別に僕のことが好きなわけじゃないでしょ? 高校生ぐらいの年頃なら興味持つ気持ちも分かるけど、こういうことは出来れば好きな人としたほうがいいと思うよ?」 優しく諭されてしまった。 好きな人と言われて俺はオッサンの顔を思い浮かべ、ぜんぜん忘れることに成功していない自分が惨めで目に涙が浮かんだ。 「俺、好きな人がいたけど振られちゃったの……」 「そうなの?」 「そう。俺は恋人だと思っていたのに、向こうはそうじゃなかったの。ただのセックスフレンドだって言われちゃった……。カラダだけの関係だって……」 あのときの悲しみが蘇ってきて、俺はぼろぼろと涙を零した。酒井は慰めるように俺を優しく抱き寄せ、頭をそっと撫でてくれた。 「そっかぁ。それは辛かったね」 そうなんだ。 俺は辛いんだ。 辛くて辛くて、こんなバカやっちゃうぐらい。 先生、俺だって、好きな人とだけえっちしたいよ。 でもさ、あっちは違うんだ。あっちは俺に恋なんてしていないんだ。 抱くぐらいだから少しぐらいは、俺に好意を持ってくれていたと思うよ。 でも俺の好きが100なら、あっちの好きはせいぜい0.1ぐらい。 気持ちの大きさが違いすぎてバランスが悪い。 そーゆーのって、めちゃめちゃツライ。 俺一人だけ重い気持ち引きずってるなんて、バカバカし過ぎて泣けてきちゃう。 「新しい恋をすれば古い恋なんてすぐに忘れられるよ。新しい恋の相手のために、森屋は自分を大切にしなきゃいけないよ」 「ほんとに? ほんとに忘れられるのかなあ? だって俺、こんなに辛い……」 好きでいたって無駄だって分かっているのに、好きって気持ちを止められないんだ。 「大丈夫、大丈夫だから。僕でよかったら、いくらでも森屋の話を聞いてあげるからね」 「うん。センセー……ありがとう……」 酒井の胸に縋りついて、いっぱい泣いたら少しすっきりした。最近の俺は泣いてばかりいる。 俺ってこんなに泣き虫だったっけ? 「先生、遅くまでごめんね。でも相談に乗ってくれてありがとう」 「どういたしまして。辛くなったらまたおいで。待っているから」 酒井は優しい微笑を浮べながらそう言った。社交辞令じゃないのが分かって俺は嬉しかった。 ドアを開けると、外に人が立っていて俺はビビった。立っていたのは俺のターゲットの一人でもある数学の工藤だった。工藤は不機嫌そうな顔をしていた。 「何をしている。下校時間は過ぎているぞ」 「あ、はい。すみません、すぐに帰ります」 俺は殊勝な態度を作り、頭を下げて工藤の前を通り過ぎた。工藤は大きな足取りで国語科の教官室に入っていき、ドアをぴしゃりと閉めた。 俺はくるりと向きを変え、玄関に向かう代わりにドアに耳を近づけた。 ある種の予感を持って、俺は酒井と工藤の会話を盗聴する気だった。 『おい、森屋と二人っきりで、いったい何をしていたんだ?』 怒りを含んだ工藤の声が聞こえた。 『何って……。相談に乗っていただけだよ。やましいことなんて何もない』 『森屋の目、赤かったぞ? 泣かせるような真似、したんじゃないのか? 俺がいつもお前にしているみたいな……』 『ば、ばかっ! どうして信じてくれないんだよ……』 『証拠を見せたら信じてやるさ。服を脱げ』 『こんなところで、何考えているのさ!』 『見せられないのか? やっぱり浮気してたんだな……』 『あのねぇ……。もう、分かったよ。下だけでいい? ……はい。いくらでも好きなだけ見てよね』 ……これってばりばりの痴話げんか……。この先を聞いちゃいけないような気もするけど、好奇心が疼くぜ……。 結局俺は、盗み聞きを続行することにした。 『どう? 納得した? もういいでしょ?』 『……まだだ。中までちゃんと調べないとな』 『え? あっ……あんっ! やあっ……!』 ……ひぇーっ。他人のナマの喘ぎ声聞くのなんて、初めてだぜ……。 『あっ……あっ……ダメぇ……これ以上は……。ね、部屋行こう。俺の部屋……』 『ここをこんなにぬるぬるにして、部屋まで我慢できるのかよ?』 『なん……だよ。……我慢……出来ないのは……慎一…の……ほうだろ?』 『ご名答』 『あーっ……!!』 酒井の甲高い悲鳴があたりに響いた。察するに、工藤が酒井の肛門にちんこを挿入させたのだろう。 これ以上聞いているのも腰の辺りがやばくなりそうだったので、俺は音を立てないように気をつけて立ち去った。 「あ〜あ。いいな、酒井先生は。工藤とラブラブだしさ」 えっちは好きな人としたほうがいいといった酒井は、当然工藤のことが好きなんだろうし。工藤のほうも、あの嫉妬っぷりをみれば酒井にご執心なのは明白だ。 思わず愛し合っている二人を羨んでしまう。 俺だってあんなふうに愛し合いたかった。 体だけじゃなくて、心でも繋がっていたかった。 酒井は新しい恋をすれば忘れられると言ったけど、どうやれば新しい恋が出来るのだろう。 だってまだこんなに俺はあの人のことが好きだ。オッサン以外の人間を好きになれる自信が俺にはなかった。 「あ〜あ。オッサンも、俺のことを好きになってくれたらよかったのにな。俺と同じぐらいに……」 セックスフレンドの一人でもいいって納得して、オッサンが他の子抱くのに我慢できてたら、今も一緒にいられたのかな? ……でも、そんなの我慢できるわけねぇよ。 だって、好きなんだもん。 愛してたんだもん。 好きな人を誰かと共有するなんて、俺には無理だ。 俺だけのあの人でいて欲しい。 ……だから、やっぱり、俺とオッサンは別れるしかなかったんだ……。 泣きたくなんかないのに、また目に涙が溜まってきた。 このごろ涙もろくて困る。 俺は奥歯をぐっとかみ締め、涙を堪えた。 早く忘れたい。 あの人のことを。 出会わなければ良かった。 好きにならなければ良かった。 そう考えてしまう弱い自分が、自分でイヤになる。 自分の選択を、後悔なんてしたくないのに。 「……なんだこうなっちゃったのかなぁ……」 俺は幸せな恋を手に入れたかった。 それがどんなに難しいことか、子供な俺は、分かっているようで分かっていなかった。 ……俺、本当に、幸せになれるの? 不安で寂しくて、俺は自分で自分の身体を両腕で抱きしめたのだった。 オッサンにもう二度と会わないと、一方的な別れを告げてから二週間たった。 結局、俺はまだオッサン以外の人間に抱かれていない。 好きな相手としたほうがいいという酒井の言葉が引っかかっていたことと、単純に相手が見つからなかったためだ。好みに煩い俺は、自分のタイプとは違う男と寝る気にはなれなかった。 ……欲求不満気味で体が重いぜ……。 失恋のショックから脱け出せずにいる俺は、うな垂れながら学校から家への帰り道を歩いていた。 ……会いたい、な。 自分がこんなに未練がましい人間だなんて思いもしなかった。 会わなければこの辛さは薄れていくものだと思っていたのに、ますますひどくなっていく。 会わないほうがいいと分かっているのに会いたいと思ってしまう。 あの優しい瞳で見つめられたいと願ってしまう。 あの逞しい腕に抱かれることを望んでしまう。 バカみたいだ。 向こうはとっくに俺のことを忘れて、欲望と快楽の日々を送っているというのに。 ……でも、会いたい会いたい会いたい。 体だけでもいい。 どうせ抱かれるならあの人がいい。 心だって欲しいけど、手に入らないならせめて体だけでも欲しい。 これって堕落かな? 俺ってそんな曖昧な関係を許せるような性格だっけ? セックスフレンドのままでいいの? ……ヤだ。ちゃんと恋人同士になりたい……。 でも仕方ない。オッサンは俺と同じようには思っていない。 俺が勘違いしていただけで、俺たちの間には最初からセックスしかなかったのだ。 ……そっ……かぁ。俺が……勝手に好きになっただけだったんだ……。 オッサンは優しかったけど、初めからなんの約束も俺にしなかった。 裏切りなんかどこにもなかった。 オッサンは別に悪くない。 俺の望みどおり、いつだって俺に快感をくれた。 勝手に泣いて勝手に責めて勝手に恨んで、オッサンもいい迷惑だっただろう。 悪いのは、欲張りすぎた俺だ。与えてくれるものだけで満足していればよかった。体だけの関係だと割り切っていればよかった。 「会いたい……。会いたいよぉ……」 俺はずっと切っていた携帯の電源を入れた。すぐに電話が鳴った。 オッサンからのような気がした。 通話ボタンを押した。声を聞いてすぐに誰だか分かった。俺の期待したとおりの相手だ。 これが賢い選択じゃないことは分かっている。それでも俺は、会いたいという気持ちに抗えなかった。 こうなったらとことんまで堕ちていってやろうと腹を据えた。 「……会いたい」 俺は素直な気持ちで携帯に向かって囁いた。 会えばますます自分はあの人に嵌ってしまうだろう。会うべきじゃない。冷静な自分が止めておけと叫んでる。 だが、理屈で割り切れるようなら、それは恋とは呼ばないのだ。 |