私は、人形。
主(あるじ)の欲望を受け止めるだけに作られた、人形。 そのことを辛いとも屈辱だとも感じたことはなかった。 私は人形なのだから、無駄なことなど考えず、ただ主に尽くすだけなのだ……。 「あ……ああっ……」 主の動きにあわせて腰を振る。 どうすれば主に悦んでもらえるのか、どう動けばよいのか、私の体に染み付いている。 ずっと抱かれ続けてきたのだから。 初めて主に抱かれたときは、自分は上手に仕事をこなすことが出来ず殴られた。あれは何年前のことだったのだろうか。あのときはまだ、自分はほんの小さな子供だった。 小さな体で主のものを受け入れるのが辛く、激痛に泣き叫んだのを覚えている。 あれから何度も主の欲望を受け止め、前に触れられずとも後ろに入れられるだけで達することが出来るまでになっていた。淫乱と、主に蔑むような口調で言われたことがある。反発を覚えることもなく、そうなのかもしれないと自分は素直に思った。 この"仕事"は嫌いじゃない。 同じ男の身でありながら、主に男性器を突き入れられると痺れるような快感に全身が震えた。主の仕事が忙しく、自分の部屋に訪れるまで日が開くと、体が熱く疼いて苦しかった。 主と身の回りの世話をしてくれる老いた侍女以外の者と接触することは許されていなかった。ゆえにどんなに体が飢えていても、自分は大人しく主の来訪を待っているしかなかった。自分で慰めたこともあったが、虚しくて余計体が疼くのでやめた。 例え他の男を誘惑する機会があったとしても、自分の体は慰められはしなかっただろう。主以上に自分を悦ばせることが出来る男はいないに違いない。 自分の体は、主に抱かれるためだけの物に作り変えられてしまったのだ。 自分はそのことを厭(いと)わしいとは思わなかった。 なぜなら自分は一介の人形に過ぎず、自分にとって価値あることは、主を楽しませることだけだった。 「お前は美しいな、リイン」 情事の後で、主は自分の長い青銀の髪に指を絡ませながら言った。自分は主の逞しい裸の胸に頭を擦り付けた。この動作が主を喜ばせると知っているからだ。 「ありがとうございます」 口元を微かに綻ばせ、控えめな笑みを見せて言った。 これも主が気に入ったから身に付けた表情だ。自分の世界は主を中心に廻っている。なにもかもが、自分にとっては主が基準だった。 「ふっ……。美しく、完璧な、虚ろな人形か……」 主は皮肉げに口元を歪めた。そして自分を愛しんでいたその手で、今度は自分の頬を力いっぱい殴った。口から思わず悲鳴が漏れた。どうやら自分は、主の機嫌を損ねてしまったらしい。 打たれた右の頬を押さえている間に、今度は左の頬を打たれた。そして再び乱暴に犯された。 「あ――っ……」 洩れたのは苦痛の悲鳴ではなく歓喜の声だ。 「ひぃっ……イイ……あっ……ああんっ……」 「……この淫乱が」 突き立てた凶器の熱さとは裏腹に、冷ややかな目をして主は言い捨てた。 ずっと前から分かっていたことだ。主は自分のことなど愛していない。主にとって、自分はただの道具にしか過ぎない。 欲望を吐き出すためだけの、存在。 それで構わなかった。 自分もまた、主に愛情を抱いたことなどなかった。抱かれるのは嫌いではないが、たとえ行為を嫌っていても自分は主に抱かれ続けるだろう。 それが自分の務めだから。 辛くはない。 苦しくはない。 自分はただの人形。 心など持っていない。 そのことに、自分は疑問を抱いたことなどなかった。 あの日、あの場所で、あの人に出会うまでは……。 優也が部屋を訪れると、和己は大げさなほど喜んでくれた。 夕飯もごちそうになった。和己の作ってくれた料理はとてもおいしかった。匡いわく、料理は和己の唯一の取り柄なのだそうだ。 唯一かどうかは知らないが、和己の料理の腕前が天才的であるのは確かだ。下手なレストランの食事より格段に旨かった。今度、料理を教えてもらう約束をした。以前に比べればレパートリーは増えてきたものの、誠司においしいご飯を食べてもらいたいので、さらに精進したいと優也は思っていた。 「和己さん。今度、料理、教えてくださいね。今日のご飯、すごくおいしかった」 両手を前で揃えてお願いすると、和己は快(こころよ)く承知してくれた。 「こいつ、頭は信じられないぐらい悪いけど、料理の腕前だけは確かなんだぜ」 匡は尊大な態度で、和己の頭をくしゃくしゃと撫でながら言った。口調もそのセリフの内容も相変わらず嫌味ったらしい。だが和己を見下ろすその瞳は慈愛に満ちていて、優也は少々意外に思った。 ……匡ってひょっとして、和己さんにラブなわけ? だったらもっと優しくしてあげればいいのに。和己さんは気にしてないみたいだけど……。 内心そう思いつつ、他人の恋愛ごとに首を突っ込むのもおせっかいだという気がして、優也は特に何も言わなかった。だが、匡には優也の思考がばれていたようだ。匡は優也に向かってにやりと笑って見せた。 夕飯の後、迎えが遅くなるという電話が誠司から入った。数時間前に別れたばかりなのに、優也は誠司に会いたくてたまらなかった。 早く迎えに来て欲しいと思いつつ、誠司を待ちながら、三人で今のソファーに座って話をしていた。 和己と匡は小学校の同級生で、和己の母親が亡くなって天涯孤独になってからは匡と同居生活を送っているという話をしたのは覚えている。 しかしその後、どうやら自分は眠ってしまったらしい。今日はいろいろなことがあったので、優也は疲れていたのだ。 「……ん……」 いつの間にソファーで寝てしまったらしい。 身じろぎすると、掛けてくれていたタオルケットがはらりと床に落ちる。 優也は目をこすりながら、ソファーから起き上がる。 違和感。 …………………………………………………………………? …………………………………………………………………!!!!! 「な、な、な、なんだこれーっ!!!」 眠気がふっとんだ。 自分の姿を見て優也は叫び声を上げた。 「メイド服。カワイイだろ」 匡はコーヒーを飲みながら、さらりと言った。 ……こ、こいつのイタズラか……。こいつの前で、無防備に眠りこけた自分も悪い。自分も悪いが……。 ソファーに優雅に座っている匡を優也がじっと睨むと、着替えさせたのは和己だから安心しろと言われた。 そんなこと誰も聞いてねぇよと思いつつ、和己さんだったらまぁと、安心したのは確かだ。だって、下着まで着替えさせられている……。 和己だったら、まったく恥ずかしくないわけじゃないけど、性的な意味で警戒する必要がまったくない相手っていうか。 匡もそういう意味で自分に興味を持つことはけっしてないとは思うけど、でもなんか得体が知れないから、油断できない相手だ。 「えへ。優也さん、僕もお揃いなんですよ〜」 何故か和己まで、優也と同じく白いレースをふんだんに使った、激しく可愛らしいデザインのメイド服を着ていた。ご丁寧に、レースで作られたメイド用の髪飾りまでつけられている。スカートは超ミニで、かろうじて下着が隠れているぐらいだ。 和己は優也の前でくるりと一回転してから、レースの前掛けの裾をつまみ上げ、小首を傾げて優也に微笑みかけた。 ……………………………さ、さすが和己さんっ。違和感なくカワイイっ!! ロリ顔の和己に、メイド服は恐ろしく似合っていた。 なんとなく、敗北感を味わう優也だった。 「あのねぇ、これ、僕の力作なんです! 結構うまくできてますよね?」 「え! これ、手作り!?」 優也は驚いた。和己が得意なのは、どうやら料理だけではないようだ。思わず感心してしまう。 「も、もしかして、この前のセーラー服も……」 「はい。そうで〜す。僕が作りました。セーラー服、優也さんによく似合ってて可愛かったです。今日のメイド服もとってもよく似合っています!」 似合うと言われて喜んでいいものなのか謎である。しかし、和己の言葉に邪気がないのは分かっているので、優也は素直に礼を言っておくことにした。 「……アリガトウゴザイマス」 「俺が和己に頼んで作ってもらった。それ着て父さんにサービスでもしてやれよ」 匡は恩着せがましく言い放った。 「ふ・う・ん・だっ! 言っとくけど俺、いつもサービスしてるからねっ!!!」 「だってよ。和己、お前も頑張って俺にサービスしろよ」 「うん。サービスする」 和己は素直に頷き、匡の足の間にぺたりと座り込んだ。 ……ま、まさかっ。 「手を使わずに、口で下げてみろよ」 「はーい」 従順な態度で、和己は匡の股間に顔を埋めた。優也の目の前だというのに、なんの躊躇いもなく。 匡もフツウではないが、それに付き合える和己も間違いなくフツウじゃないっ! …………………………………………………………………!!!!! …………………………………………………………………おいおいおいおいおいおいおいおいおいっ!!!!! 「なにやってんだよ! 人の目の前でっ!!」 優也は立ち上がって叫んだ。頬が火照っているのが分かる。 楚々とした美少女に見える和己が、凶悪なほどカワイイ衣装を着て男に奉仕しようとするさまは、衝撃的な光景だった。 「フェラしてもらうとこ。見て分かんなかった?」 「分かるけど、分かったけど、そうじゃねぇだろっ!!」 顔を真っ赤にして怒鳴る優也を、匡はにやにやしながら見上げた。和己は口だけで匡のズボンのファスナーを下げようと奮闘している。 ……この人たちがそーゆー関係だって気はしてたけど! それについては異議を唱えるつもりもないけどっ!! 人の目の前でヤるのはやめてくれーっ!!! 見なければよいのだが、視線は匡の足の間で揺れる和己の頭に吸い寄せられる。案外慣れていないようで、和己はまだ匡のズボンのファスナーを下げられずにいた。誠司以外の男のアレなどこれっぽっちも見たくない優也は、この場から逃げ出したくなった。 ……ひいいいいいんっ。誠司さん、早く来てっ!!! 「ふむ。滅多に見られない光景だな」 「せ、誠司さんっ!」 いつの間に来ていたのだろう。背後から聞こえた恋人の声に驚き、優也は振り返った。 「他人がセックスしているところをナマで見られる機会などそうそうないからな。後学のためにしっかり観察しておこう」 「ば、ばかっ。なに考えてるんだよ、誠司さんっ。さっさと家に帰ろうよ!」 「なんなら父さんたちも混じって4Pはどう? 二人っきりの性生活にもそろそろ飽きたころじゃねぇの?」 匡はにたりと笑ってとんでもないことを口にした。 和己はまだ、匡のズボンのファスナーと戦っている。 ……わーっ。なんちゅーことを言うんだ、匡っ!! 「せっかくのお誘いだが、俺はこれっぽっちも優也との性生活に飽きていない。それどころか四六時中抱いていたいぐらいだ」 「よんぴい? 匡、それってなに?」 和己は本気でその言葉の意味を知らないようだ。匡の股間から顔を上げ、小首を傾げて匡に問いかけた。 「おいしい食べ物の名前だ」 匡はナチュラルに嘘をついた。 「へー。そうなんだ? じゃあ今度、作ってあげるね」 「おう。よろしく頼むぜ」 ……お、おいしい食べ物って。作るって……。 「匡、嘘をつくのはよくないぞ」 誠司が父親らしく、厳しい声で匡を叱った。 ……そうだ! 誠司さん、もっと言ってやってよ! 「4Pとは、4人で一緒に仲良くセックスすることを言う。ちなみに3Pなら3人でセックスすることを意味する」 ……懇切丁寧に解説するのも、なんかちょっと違う気がする……。 「ええっ! そうなんですか??」 和己は驚いた顔をした。匡はにやにや笑っている。 「えーっ。やだぁ。僕もよんぴいしたくない……」 匡の足の間に座り込んだまま、和己はぐずぐずと泣き出した。和己の泣き顔を、匡は嬉しそうに眺めている。 「安心しなさい。俺のペニスは優也専用だし、優也のアナルも俺専用だ。だから4Pは出来ない」 誠司はよくわからない慰めの言葉を口にした。しかし和己には通じたようだ。瞳を涙で濡らしたまま、安心したように和己はにこりと笑った。 ……うっ。やっぱり和己さん、カワイイ……。 なんかちょっとずれているけど、和己は匡にはもったいないほど愛らしい人だと優也は思った。庇護欲をそそられるっていうか。守ってあげたくなるタイプだ。 「優也の匂いを嗅いでいたら、むらむらしてきた。繊細な優也はギャラリーがいると気にするみたいだからな、家に帰ることにする。世話になったな」 ……繊細なって……フツーは気にするだろうが……。 優也が否といわなければ、本気でこの場で始めてしまいそうな誠司が怖い。 「優也さん、また遊びに来てくださいね」 和己は瞳を潤ませ、帰ろうとする優也を寂しそうな顔で見上げた。優也も和己と別れることを名残惜しく思った。 「また、絶対、遊びに来ます。料理も教えてもらいたいし。うちにも遊びに来てくださいね」 『うち』とは優也が17年間暮らした実家ではなく、誠司と暮らしているあの家を指す。優也にとっての帰る場所とは、誠司のいる場所のことなのだ。 たっぷり和己と別れの挨拶を交わしてから、優也はメイド服を着たまま匡たちの部屋を立ち去った。本当はもとの自分の服に着替えたかったが、誠司がそれを許さなかった。 夜中とはいえ、誰かとすれ違うという可能性はないわけではない。駐車場に付くまでの間、優也は顔を隠すようにぴったりと誠司の背にしがみついた。 「まいったな……。そんなにくっつかれると、今すぐにでも襲いたくなる」 「襲ってもいいけど、今すぐはダメ。おうちに帰るまで我慢してね」 優也は可愛い声を作って誠司にお願いした。こんな場所で誠司に暴走されたくない。 「……分かった」 誠司は欲望を抑えた低い声で頷いた。誠司の声だけで、優也の腰はじんわりと甘く痺れた。 ……うーっ。早く家に帰りたいっ。誠司さんとえっちしたいっ!! スピードメーターを見ると時速200Kmを越えていたが、優也はとくに何も言わなかった。誠司の安定した走りは制限速度をはるかに越えていても、優也に危機感を抱かせなかった。 それに、早く家に帰ってヤりたかったのである。 とっても。 車の中で、二人は無言だった。だが、二人とも互いに互いの体を意識しあっていた。 四六時中抱いていたいと誠司は言った。 四六時中抱かれていたいと、優也もまた思っていたのだった。 「優也、ご主人様と呼んでごらん」 「…………はあああああ?」 誠司の言葉に、優也は力いっぱい呆れた顔をした。 「そのほうが、雰囲気が出ると思うのだが?」 「ふ、雰囲気って、アンタ……」 誠司の腕の中で優也は顔をひきつらせた。 ……い、いくら俺がメイド服着てるからって! はやる気持ちを抑えてやっと寝室に辿り着き、誠司に抱き締められたところでこのセリフである。 ……ご主人様って……誠司さんっ……! 「嫌か?」 誠司は少し残念そうな顔をしながら、優也の唇を優しく吸った。 体を密着させているので、誠司のモノが固く張り詰めていることがはっきりと分かった。優也のモノも誠司に負けないぐらい硬くなっている。 ……あーもーしょーがないなーっ。 これ以上焦らされるのはたまらないし、それで誠司が喜んでくれるならと優也は覚悟を決めた。 「……分かりました、ご主人様。なんなりとご命令を……」 ……ほんと俺って、誠司さんに甘いよねぇ……。 優也は誠司の望みどおり『メイドとご主人様ごっこ』に付き合ってやりながら、しみじみ誠司への愛を自覚していた。 好きでもなきゃ、とてもこんなばかばかしい願い事をきいてやる気になどなれるはずがない。 「ベッドの上で四つん這いになれ」 「はい、ご主人様」 いつも取らされている体勢だ。さほど抵抗なく優也は誠司に言われたとおり、ベッドに登って獣のポーズを取った。 「……むむ。この見えそうで見えない微妙な長さのスカートがなかなか……。興奮するな」 「ご主人様、早くぅ…」 優也は肩越しに誠司を振り返り、誘うように腰を揺らした。誠司からの愛撫を待ち望んで優也のモノは先のほうからぽたりぽたりと涙を流している。 スカートの下はノーパンではなかった。もっと恥ずかしいことに、今日は女物のレースのパンティを身に付けさせられていた。しかし優也の膨れ上がった性器は下着に収まりきれず、横からみっともなくはみ出ていた。誠司に見せつけるようにできる限り色っぽいしぐさで、優也はぐっしょりと濡れているパンティを脱いだ。 そして自分の人差指と薬指をたっぷり唾液で濡らしてから、優也はそれを自分のアヌスに突き入れた。大げさなほど甘い声を漏らしながら、優也は自分の指をぐりぐりと動かした。 「あふぅんっ……。ここ……。ここにご主人様のが欲しいの……。お願い……」 「すっかり男を誘うのが上手くなって……。いけない子だな」 いやらしい手つきで優也の太ももを撫でながら誠司は言った。 「あん。だってぇ……。ご主人様の大きくて熱いので、気持ちよくなりたい……。ねぇ……」 優也は指で押し広げて穴の中を見せた。誠司の前で性器へと変貌を遂げたソコは、ぴくぴくとイヤらしく痙攣している。 「ご主人様をここに下さい。お尻の中が熱くてむずむずするの…」 「くそっ。これ以上我慢できんっ!!」 誠司はいきなり奥まで挿入してきた。やっと望むものを与えられて優也は嬌声を上げた。 「うおおおおお。たまらんっ! この締め付け、この熱さ! ゆるゆるになるどころか優也のココはどんどん具合が良くなってくる」 誠司は感動したように叫び、荒々しく性器を付き立てた。 「ご主人様ぁ……気持ちイイ……スゴイ……」 「俺もだ。死ぬほど気持ちイイぞ」 誠司は張り切って腰を動かした。ベッドが壊れそうなほど軋(きし)んでいる。 ――ばきっ。 壊れそうな、でなく本当に壊れた。 二人の激しい運動に耐え切れなかったようだ。ベッドの足が折れた。 「うわっ。なっ…なに……?」 急に傾いたベッドに優也は驚いた。誠司は何事もなかったかのように優也にのしかかって若い体を貪り続けた。 すぐに優也も快楽の渦に再び飲まれていった。 「ひいいっ。あっ……誠司さんっ!」 『メイドとご主人様ごっこ』は途中から忘れ去られていた。優也は自分の中で誠司がイったのを感じながら、自分も白濁した液をシーツの上に吐き出した。 一回射精すると、冷静さが甦ってきた。 「……誠司さん。ベッド、傾いてるね……」 「うむ。そうだな」 誠司は軽く頷いただけでさっさと続きを始めようとした。 「……誠司さん、俺、ベッドが傾いていると気になるんだけど……」 「そうか? 優也は繊細だな」 ……繊細って……フツーは気にするだろうが……。 「分かった」 誠司は優也から身を離した。引き抜かれる感触に優也は体を震わせた。 ……今日はこれ一回で終わりかな? ちょっと物足りないけど、たまにはいっか……。 しかし優也はともかく、誠司がたった一度で満足できるはずがなかった。 ばきっ。 べきっ。 ぼきっ。 ……………………………………………………………………………………。 ……………………………………………………………………………………まさかっ! 「さあ、優也。これでいいな?」 息も乱さず誠司は言った。 ……分かっていたけど、非常識な人だって! ……知っていたけど、普通の人とは違うって! 誠司は、軽々と、他の三本のベッドの足もへし折ってしまった。 たしかにベッドは傾いていない。 いつもより数十センチ低くはなったけれども。 「さて。続きをするか」 誠司はうきうきしながら、優也の足首を握って自分の肩の上に乗せた。そして今度はゆっくりと優也の中に潜り込んできた。 体の中が誠司でいっぱいになると、優也の体もめろめろになる。 とりあえず、ベッドの足のことは忘れることにする。 細かいことを気にしていたら、誠司の恋人なんてやってられないのだ。 「優也の体は本当に気持ちがいいな。どろどろに解けてしまいそうだ」 「俺も、イイ。解けちゃう……」 二回目で余裕のある誠司は、指や唇を使ってじっくり優也の全身を愛撫した。誠司のモノを中に入れたまま、立て続けに優也は何度も射精した。 「優也、誰よりも愛してる」 「俺も。俺も、誠司さんのこと、誰よりも愛してる!」 あれほど慕っていた天界での父よりも、現世での父よりも、今では誠司により多く心を奪われている。 ……好き。誠司さん、好き。好き。大好きっ! 快感に侵され頭が朦朧としてきたところで誠司がやっと達した。 「次は優也、服を脱いでくれ。俺も服を脱ぐ。やはり最後は生まれたままの姿でイチャイチャしたい」 「……うう。ダメ。マジゴメン、誠司さん。俺眠い」 「優也……」 誠司は悲しそうな顔をした。 「おちんちん、入れっぱなしでいーよ。許す。でも俺は寝る。ゴメン」 「……優也に寝られたら、俺は大変悲しいのだが?」 「うん。だからマジゴメン。でもおやすみ」 眠気に勝てず、優也は唐突に眠りの世界へと旅立っていった。まだまだ元気な王子様を一人残して。 体はゆらゆらと揺れていたけれど。それさえも、優也の眠りを阻むことはできなかったのだった。 城の最上階にある豪奢な一室。 子供の頃から、ここだけが自分の世界だった。 知識として『外』の世界があることは知っていた。しかし自分はここに連れてこられてから、この部屋を出たことがなかった。主がそれを命じたからだ。 特別それを不満に感じたことなどなかった。不満に感じるはずがなかった。 自分は主を満足させるためだけに存在する人形なのだから。 「んっ……。あんっ……あっ……」 主の上に跨(またが)り腰を回すように動かした。この体位も初めてのものではなく、どう動けば自分も主もより快感を得られるのかよく分かっていた。慣れた行為だ。自分は淀(よど)みなく動くことが出来た。 「はうんっ……。ああんっ……」 主は情事の最中だとは思えないほどの冷徹な眼差しで自分の痴態を眺めている。 ……私は、上手く仕事を果たせていないのだろうか? ふと不安に思う。 自分はもう何度も主に貫かれながら達したのに、主はいまだ欲望を弾けさせていない。同じ硬度を保ったまま、自分の中にあり続けている。 「……お気に召しませんか?」 動きを止めておずおずと問うと、主人は短く「動け」とだけ言った。言われるがまま、全身を使って激しく動いた。ようやく主が達したとき、自分は指一本動かす体力さえ残っていなかった。ぐったりと主の裸の胸の上にもたれかかる。主はそれを咎めなかった。 「リイン、外の世界を見たくはないか?」 「外?」 主はどのような答えを望んでいるのだろう。 分からない。 今までにない内容の質問だ。 だから、自分は思ったままの言葉を口にした。 「興味ありません」 「そうか」 自分の答えは、主を怒らせてしまっただろうか? 不安な気持ちで自分は主の顔を見つめた。主は厳しい表情で、どこか遠くを眺めていた。 「リイン、明日、お前に外の世界を見せてやろう」 「明日、ですか?」 あまりにも急だったので驚いた。 主は軽く笑って自分の頭を撫でてくれた。珍しい主の笑顔に自分は安堵した。どうやら主の機嫌は、今日は悪くはないらしい。 外の世界になど微塵も興味はなかったが、どのみち自分に拒否権はない。主の下した結論が、自分のすべてだ。 主に「死ね」と言われれば、自分はなんの躊躇いもなく死ぬだろう。 このとき自分はまったく予想していなかった。明日、久々の外の世界で、自分の存在意義をゆるがすほどの出会いがあるとは。 あの人に出会って、自分は自分という存在のありように、初めて疑問を抱いたのだった……。 |