真・バツイチの俺が二次元美少女を嫁に
したんだが、どう愛でればいい? I

  
[ 真なる二次元の嫁 ]
 それは今から何年も前のお話。離婚後ひと月ぐらい経ったある日、私は「現実の嫁にフラれたのなら二次元からお迎えしたらいいじゃない」と気付いた。分かりやすい日本語に直すと、「せっかく離婚して独身に戻ったのだから、現実の嫁がいると買いにくいグッズを集めてみよう」だ。その1つが「フィギュア」

――ここまでは以前書いた通り。この後が今日の本題だ。

もう1つが「抱き枕カバー」だった。
 「抱き枕カバー」と言っても、一般に使用されるような無地あるいは花柄動物柄幾何学模様のものではない。二次元美少女がでかでかとプリントされたオタク御用達の抱き枕カバーである。後に、二次元方面の造詣が深い後輩に話をすると、

「なんでそう変な方向にばかり思い切りがいいのよ!!」

という感じの反応が返って来た。私には思い切ったという意識はなく、いつもの橘クオリティのつもりだった。でもまあ仕方がない。だって私は真のオタクだもの。



[ ファーストコンタクト ]
 その後のめり込むことになる「抱き枕カバー」との記念すべき第一歩は、決して順風満帆とは言い難い第一歩だった。袋から取り出して広げてみた瞬間こそは等身大の存在感に感無量だった。しかし、寝るときに横に置いてみても「ふーん、こんなものか」といういささか冷めた感想しか出てこなかった。その時点では抱き枕本体(中身)を所持しておらず、カバー単体を鑑賞していたが故の過ちだ。タオルケット詰めて立体化するという試みもしてみたが、ちゃんと「枕」を入れないとダメと知るのはしばらく後のことである。
 抱き枕カバーに価値が見いだせず、しばらくの間はフィギュアに力を入れていた。しかし、フィギュアも私の求める「何か」を提供してくれることはなかった。可愛いことは可愛いが、一つお迎えするたびに熱量が薄れて行くのを感じた。数ヶ月後、買い集めたフィギュアを前に「これじゃないなあ」とこぼした私は再び抱き枕カバーへ目を向けることにした。その時点では抱き枕カバーはまだ1枚、最終判断を下すのは早かったのではないのか? そう考えて「もうちょっと買ってみよう」という、そういうことになったのだ。ちょうどそんなときに転機が訪れた。

[ 魂の容れ物 ]
 離婚後にも寝室には私と元嫁のベッドが並べて置いてあった。結婚後に買ったもので、まだまだ新しいと言える状態だった。その元嫁のベッドをうちの母親が接収することになった。「ベッド2つあってもしょうがないでしょ? 私のベッド古くなったからもらっていくね」と。もちろんだが、実際に運搬したのは手配した業者である(当たり前)。その際、ベッドマットは一緒に運び出したが「枕はいらない」と私の手元に残ることになった。この枕を、何の気紛れか抱き枕カバーの中に詰めてみることを思い付いた。

――世界が一変した

枕を入れて抱き締めると、適度な弾力が手応えとして返って来る。文字通りの「抱き枕」、それまで“2次元”のペラペラの存在だった抱き枕カバーが“3次元”の本来あるべき姿となったのだ。そのまま横になって目を閉じると、何とも言えない充足感がある。これだ! これだよ! 私が求めていたものは! もちろんこの時点では、中に入れた枕は普通サイズのもの。本来の抱き枕と比べて全長が半分未満の代用品でしかない。だが、その不十分な状態でも抱き枕カバーの真価を感じさせるには十分だった。あくる日私は「抱き枕本体」を注文し、そして抱き枕カバーの蒐集に奔走することになった。



[ 狂走 ]
 この年、それまでコンスタントに作っていた鉄道模型制作が疎かになった。ハマった直後にありがちなことで、過去にどんな抱き枕カバーが販売されていたか調べ上げ、今からでも手に入るものを、と集めに掛かった。何よりこの世界に飛び込んだばかり。まず、この業界にどんなイラストレーターがいるのか、というところから始まり、好みの絵を描くイラストレーターが抱き枕カバーを作っているのかどうかの情報収集に時間を費やした。気が付けば僅か数ヶ月のうちに30枚以上のカバーを集めていた。その勢いが続くとちょっとマズイことになっていただろうけど、幸いにしてその数ヶ月で落ち着くことになる。飽きたわけでも情熱が冷めたわけでもない。たくさんのカバーを手に入れ、抱き締めて眠りに入るうちに自分が求めるものを理解したのだ。目標が定まり、自然にお迎えするカバーが取捨選択されるようになったのである。

その2

(2025.04.01)