漫画は読むけどアニメは見ない
ときどき「アニメ好きなんだよね?」と聞かれる。そういうとき私は「漫画はよく読むけど、アニメはほとんど見ない」と答える。これ、私としてはフツーな会話のつもりなのだが……もしかして、鉄道マニアが一般の人に「あれは電車じゃなくてディーゼルカーです」って言うようなもん?
念のため説明しておく。現在の日本ではよく、鉄道のことを「電車」と呼ぶ。「電車」とは、厳密に言うと「電気で走る鉄道車両」のことを指す(今ハイブリッドカーとかあるけど、あれはどうなるんだろう……私はよく分からない)。そして鉄道車両の中には、「電気以外の動力源で走る車両」も存在する。それがディーゼルエンジンで走る「ディーゼルカー」であり、「ディーゼルカー」は電気で走るわけではないので「電車ではない」のである。以上極めてざっくばらんな説明。
一般の人にとっては鉄道車両が「電車」なのか「ディーゼルカー」なのかは大した問題ではない。そんなことより、どこへ向かう列車なのか、時間がどの程度かかるのか(少し待って後発の快速や急行に乗った方が早く目的地に着くのか)、運賃以外の料金が発生するのか、といったあたりが大切なわけ。鉄道マニアが「あれはパンタグラフが付いてないからディーゼルカー!」なんてことを言うと「そんなことはどうでもいい!」となるわけだ。
ところでこれ、「鉄道オタクの習性」として定番ネタであるが、実際に見聞きしたことのある人はどれだけいるだろうか? 私は「ある」。大学一年生の鉄研の合宿でのことだった。ユースホステルで一緒になった一行と会話していたのだが、向こうの人が「明日は朝〇時の電車で◇◇へ向かう予定で」なんてことを言ったときに、こっちのツレが「あれは電車じゃなく〜」と言ったのである。慌てて他のメンバーでそやつの口を塞いで誤魔化したのだが時すでに遅し。向こうの人たちは不思議そうな表情をしていたので、こっちの誰かが「こうこうこういうことで……」と説明して「すみません」という雰囲気に。今思えば貴重な体験かもしれない(苦笑)
話を戻そう。そんなわけで「アニメみーひんけど漫画は好きやねん」って言ってる私はこれと同類? いや、がっつり鉄道オタクなので同類で間違いないのだが、一応私も最低限まあまあの大人になった。普通の人がディーゼルカーを指して「電車!」と言ってもいちいち指摘したりしない。何なら鉄道模型のことを自分で「電車の玩具」と呼称したりするぐらいだ(当然だが鉄道模型には「ディーゼルカー」や「蒸気機関車」や「ガスタービン車」の模型もある)。そのくせ漫画とアニメの話になったら「違うんだぁぁぁぁぁ!」と叫んでるわけで、コイツもしかすると――いや、もしかしなくてもうるさくて面倒なやつである。何を今更言ってんですかー?
この際だからオタク全開で解説しておく。一言で言えば漫画は静止画、アニメは動画。ほら、別物だろ?――ってドヤるあたりやはり橘雪翼は厄介オタク。しかしこうして冷静になってみると、世間の認識は「漫画≒アニメ」なのかもしれない。もしかすると多くの人はアニメは見ることはあっても漫画は読まないのかもしれなくて、「アニメは漫画の動くやつ」ぐらいに思われていても不思議ではない。どっちがどっちを包含するか分からないが、「漫画⊃アニメ」(アニメは漫画の一部)あるいは「アニメ⊃漫画」(漫画はアニメの一部)ぐらいの認識を持ってる人がいても私は驚かないぞ。そういう人が私の「漫画は読むけどアニメは見ない」という発言を聞いたら、「え? 何? どゆこと?」と混乱すること間違いなし。そう、鉄道オタクに「電車じゃなくてディーゼルカー!」って言われたときのように。ちなみに、仮に「漫画⊃アニメ」だった場合「アニメはすべて漫画」だが「アニメでない漫画」が存在する余地があり、私の言う「漫画は読むけどアニメは見ない」が成立する可能性が出てくる……うーん、返す返すもこいつ面倒くさい。
とは言えどうなんだろう。売り上げが落ちているとは言え漫画雑誌はたくさんコンビニに並んでいるし、電車で読んでいる人……をそういや最近見かけないな! みんなスマホだもんな! でもスマホに漫画アプリあるよな! でもスマホでアニメ見てる人もいるか? アニメはカラーで動いて音声が出る! 漫画は自分でページめくって字は自分で読まなきゃいけない! 普段「アニメ=漫画」と認識している人がいても、私がそう答えれば「言われてみればアニメと漫画って違う……ものかな?」ぐらいには思ってくれないかな? 思ってくれると嬉しいな! これを読んでいるあなたはどうですか? 実際問題、「漫画読むけどアニメ見ない!」って言ってもその発言に疑問を呈されたことはないので大丈夫だとは思う。けど、「何言ってるのかちょっと分からないけど面倒くさそうだから適当に相槌打っとくか」と思われてる可能性は否定できない!
行数が余ったので、余談になるが私がアニメを見ない理由を300字以上でまとめてみよう。「原作漫画とそのアニメ化作品」を対象に話をする。
■理由その1:ペースが遅い
当たり前だがアニメは漫画より先の話を流すことはできない。必ず漫画の後追いになり、かつ漫画から何年単位で遅れる。気に入った作品ほど続きを早く知りたいのに、何年も待たされたのではたまったものではない。最悪の場合、漫画は続いていてもアニメの評判が芳しくなければアニメ化が途中でストップしてしまう。だったら漫画読んだ方が話が早いし、漫画を読んでしまえばわざわざ同じストーリーのアニメを見る必要もない。
■理由その2:リズムが合わない
多分アニメーション制作の手間とか放送時間とか決められた話数があってとかのことだと思うのだが、漫画で読めば十数秒で終わるようなシーンをだらだらと1分2分かけてやってることが多いような気がする(もちろん全ての作品でそういうわけではないが)。演出で間合いを取ることもあるだろうけど、そういったアニメ監督の考えるリズムが自分と合わないことが多い。漫画であればページを繰るスピードでリズムを自分の好みに合わせられるが、アニメではそうならずストレスに感じたりするのだ。
■理由その3:作画が嫌い
アニメは毎週放送する関係か制作時間が十分に取れないと聞く。仕方がないのだろうけど、それが理由で漫画に比べて絵が簡略化されているような気がする。色の塗り方についても、漫画のカラーページ版と比べて「アニメ感」が強く、私の中では「漫画>アニメ」。おまけにアニメスタジオが外れだとそもそもの作画が安定してない。スタッフが数組に分かれていて、話数ごとにキャラの顔が変わったりするケースも。漫画も絵が下手な作者がいたりするけど、気に入った漫画はそれが「味」になる。長期連載になると最初と最後で雰囲気が違うのもザラにあるけど、それも連載中に徐々に変わっていくから気にならない。
■理由その4:アニメーションがチープ
アニメファンの間でも時々「なんやこれ……」となる作品があるそうだが、アニメのくせにあまり動かなかったり、動きが拙かったりするものがある。静止画で口パクだけで物語が進む場面とかね。アニメは動くのがいいのに、動きがこれじゃあ漫画でいいじゃん、って思ってしまう。これも制作時間やスタッフの人員確保(つまりは予算)とかが影響してそう。
■理由その5:声優が合わない
非常に多くの場合、アニメ化されると声が「イメージと違う……」になる。特に女性キャラの萌え声が私にとってはキツい。「お前最近二次元の嫁が〜とか言ってるだろ!」と突っ込まれそうだが、私の脳内イメージでは二次元の嫁はあんな声ではしゃべっていない。「元作品を知らないキャラのグッズを買う」は私の場合、声優が合わないリスクを回避するという意味を含んでいる。
■理由その6:毎週チェックして追い掛けるのが面倒くさい
漫画の単行本発売を逐一チェックして数ヶ月おきに買ってる人間が言うと何だか矛盾しているようだが、漫画は大体いつでも買える。アニメは見ようと思ったら何年何月何日何時何分にテレビの前にいなければいけない……とは言え最近配信とかもあるんだよなあ。ただ、無料配信は放映後一週間のうちにアクセスしないといけないし、見返しもできない。もちろん有料会員になったりテレビを録画しておけば話は違うが、ここまで「好きじゃない」理由を列挙した私にそこまでの手間暇をかけろと言うのか?
■理由その7:漫画の方が作品数が多い
きっちり調べたわけじゃないのではっきりとは言えないんだけど、おそらく漫画の方が圧倒的に多い……はず。毎月全数チェックが大変なぐらい大量の漫画が発売される一方で、アニメは有志が作った一覧画像を見る限りそこまでの数ではない。母数が多い漫画をチェックしていた方が好みの作品に出合える可能性が高いわけで、事実私の観察範囲内でもアニメ化された漫画よりアニメ化されていない漫画の方が多い。アニメばかりに目を向けていたら出合っていなかった作品が大量にあると考えると、漫画好きで良かったと思う。
気が付くと「アニメを見ない理由」というよりはアニメをこき下ろしてるだけのような気がしてきたが、あまり気にせずさらに余談を連ねていく。
世には「小説原作の漫画」もある。その場合「漫画のアニメ化」の関係が「小説の漫画化」となり、「理由その1」が漫画に適用されたりする。こういう時は概ね「先に漫画を読んだか小説を読んだか」で明暗が分かれ、小説から入った場合は漫画版を読まないことが多い。いや実を言うと、昔は読んでる小説が漫画化されたら欠かさずチェック入れて買ってたんだけどね。ところが小説を気に入った作品は小説という形式が好みだったようで、漫画版はイマイチに感じられることが多かった。そうした経験を何度も繰り返すうちに学習し、最近は小説で気に入った作品の場合はコミカライズにはほとんど手を出さなくなった。「昔」の話をすると、以前は好きな漫画がアニメ化されたら見てたんだよ。でもやはり小説の漫画化と同じく、「何か違うな」となっていつしか見なくなったというわけ。アニメを見ないのは決してエアプではなく、「見た」経験から上に挙げた理由が発生したのだ。
話を戻して――漫画版から先に入った場合、先が気になると小説版も読み、両者並行することが多い。漫画で入って小説に進み、結果漫画は読まなくなった――というパターンは今のところないような気がする。漫画版から入って小説には手を出さず漫画版オンリーというパターンはまあまあ多い。あと、「小説→漫画化→アニメ化」という作品も多数あるわけだが、『吸血鬼ハンターD』シリーズに関してはアニメ(2000年頃に公開された映画)が私の中での最高評価となっている珍しい例だ。
さらなる余談その2。ここまで漫画原作のアニメの話をしてきたが、逆にアニメが原作な作品もあるわけで。『エヴァ』がそうだし、漫画化はされてないけど『ウサビッチ』、このあたりはがっつりアニメを見ている。特に『ウサビッチ』は上に挙げた理由が全て問題ない作品だ。CGアニメであるが故に作画は安定し、アニメーションは極めてコミカルで見ていて飽きない。声優という概念はほぼなく、強いて挙げれば話が中途半端なところで終わってしまって続きが作られてないのが惜しいところか。アニメ原作で漫画を酷評したものと言えば、比較的記憶に新しい『宇宙よりも遠い場所』。アニメが面白かったので漫画版も買ったのだが、とりあえず1巻読んでブチ切れレベルに憤慨。当然2巻以降は買わなかった(かといって円盤買ったわけでもないんだけど)。一方でアニメが先でありながら『魔法少女まどか☆マギカ』や『コードギアス 反逆のルルーシュ』に関しては漫画版しか見ていない。例えアニメが原作であっても、漫画版が出ていれば基本的にそちらを優先するスタイルをとっている。その場合「理由その1」が逆転するわけだけど、それでもアニメを見る理由にはなかなかならない。
さらなる余談その3。超例外的に(漫画原作であっても)「アニメから入った作品」に関してはこれらの理由がすべて吹っ飛んだりする。『天体戦士サンレッド』が該当し、特に「理由その6」は完全にどこへやら。最初にアニメを見たから、サンレッドやヴァンプ、かよ子さんの声はあの声でインプットされているのだ。
さらなる余談その4。そのくせアニメ化されるとちょっと嬉しいのはグッズ展開が望めるから。とは言え、アニメの絵は原作の雰囲気と変わってしまうことが多く(理由その3)ほとんどのグッズはストライクゾーン外となる。といわけで注目するのはフィギュア。スケールフィギュアは場所を取るから、ねんどろいどが出てくれると嬉しいなあ。特に『魔奴愛』は超超超超超期待しているよ! 『まちカドまぞく』はどうして出ないのかなあ?
さらなる余談その5。一方でアニメ化されることの懸念は、知名度が上がるとよろしくない類のイラストがネットに流れてきたりするところ。そういうインターネットを見なければいいだけの話なのだが、二次元の嫁がらみで情報収集を――具体的に言うとツイッターで追っていると、どうしてもリツイートで目に入っちゃうんだよなあ。直近だと『SPY×FAMILY』でそういうことがあったなあ。その前の『Dr.STONE』は大丈夫だったかな? 今後で警戒しているのは『イケナイ教』と『魔奴愛』。多分『デキ猫』は大丈夫……とも言い切れんか? そんなわけで今のうちから心のATフィールドを展開する練習をしている。
ま、そんなわけで橘雪翼は「漫画は読むけどアニメは見ない」んです。
ん? 本編より余談の方が長くないかって? 何を今更、いつものことじゃないですか!
(2023.04.07)
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