▼ Notes 2000.12 12/28 【読書メモ】 ■本はそこそこ読んでいるのになかなか書く時間がとれないので、とりあえず最近出た新刊の分くらいでも軽く感想を記しておきます。 ■『フロリダ殺人紀行』ティム・ドーシー/扶桑社ミステリー文庫 ■『私家版』ジャン=ジャック・フィシュテル/創元推理文庫 ■『穢れしものに祝福を』デニス・レヘイン/角川文庫 ■『祈りの海』グレッグ・イーガン/ハヤカワSF文庫 12/23 【ノワール派宣言】 ■もうすでに話題になっているけれど、『ユリイカ』12月臨時増刊号の「総特集ジェイムズ・エルロイ/ノワールの世界」はなかなか充実した内容。随所でかなり意図的に「ノワール」をジャンル的に規定するような言及がなされているのも興味深い。特集本来の主旨からすると、エルロイ本人のインタヴュー記事とか、各作品解題なんかが載っていてもいいような気もするけれど。 ■いいかげん読まないといかんかな、と思った本。
■ちなみに、なぜか法月綸太郎のロス・マクドナルド試論というのも収録されている。若島正の「明るい館の秘密」を意識したとおぼしき伏線フェアプレイ検証もの。例によって固有名やアイデンティティの問題にこだわった、法月らしい評論だった。 ■ところで、僕がこれらの系統の小説に惹かれるポイントは、暴力や悪徳の疾走感だとかではあまりなくて、既成のモラルを超越した世界観を垣間みられるところにある気がする。それはSFでいう「宇宙人の視点」の興趣に近いのかもしれない。もちろん、宇宙人ではない生身の人間を描いているからこそおもしろいのだけど。 12/17 【バトル・ロワイアル】 ■文部省の宣伝にうかうかと乗せられて、映画版『バトル・ロワイアル』を観てきました。このくらいちゃんとした映画にできるとは思っていなかったので、だいたい満足。ただし良くも悪くも『新世紀エヴァンゲリオン』や『リング』の映画化のときみたいなイベント映画のおもむきが強いので、ちょっと単体では評価しづらい。たぶん原作を読んでいないと「同級生どうしが殺しあう」状況の閉塞感をさほど感じとれないんじゃないかな。まあほかにも、やっぱり若い俳優を多数出しているので台詞が苦しいとか、いくら様式美にしても「末期の台詞が済んでからがくりと力尽きる」死にかたが多すぎるとか、いろいろ気になった点は少なくないけど。 ■奇遇にもNHKの番組で教育改革がうんたらと討議しているのを見た直後だったせいか、「新教育改革法」という冒頭のぶちあげがあんまり洒落になっていないところにやられてしまった。原作から「金八パロディ」と「青春ロックンロール」を抜いて(これはどちらも正解だと思う)、北野映画と『新世紀エヴァンゲリオン』の風味を足し、全体的に虚無感が増しているようなかんじ。特に「宮村優子」「G線上のアリア」「縦書きの字幕」など『エヴァンゲリオン』要素の盛り込みは確信犯的。現代の若者を巻き込めるよう歩み寄ってみたということなんだろうけど、「エヴァンゲリオン」「ドラゴンアッシュ」「渋谷」で現代風、というのも何だかわかりやすいなあ。 ■スタッフロールで、教師「キタノ」の娘の声を誰がやってたかに気づいて苦笑。 12/16 【このミス2001】 ■『このミステリーがすごい!2001年版』は、なんだか結局購入してしまった。というわけで感想など。
12/11 【カルチョ談義】 ■2002 CLUBの「イタリア特派員情報」より、 >>セリエAのビッグクラブたちは個人頼みの戦術に退行している という指摘は、今季これまで観たかぎりだとたしかに当たっている印象。ユヴェントス×ラツィオとか、ビッグクラブ同士の直接対決が全然おもしろい試合にならないみたいだしねえ。12/10 【コーエン兄弟特集】 ■『ブラッド・シンプル』(Blood Simple/1984)が良かったので、ジョエル&イーサン・コーエンの映画を最近まとめて観ている。 ■『赤ちゃん泥棒』(Raising Arizona/1987) ■『ミラーズ・クロッシング』(Miller's Crossing/1990) ■『バートン・フィンク』(Barton Fink/1991) ■『未来は今』(The Hudsucker Proxy/1994) ■『ビッグ・リボウスキ』(The Big Lebowski/1998) ■おそらくいちばん有名だろう『ファーゴ』(Fargo/1996)はむかし観たことがあるのでスキップ。そのうち再見しようと思います。かれらの作品は全体的にクラシックな映画/時代への敬意を感じさせて、それはいささか懐古主義的な印象も与えるけれど、禁酒法時代までさかのぼった『ミラーズ・クロッシング』以降は時代設定が順々に現代へと近づいてきているようで、そのあたりもなかなか興味深いと思う。 12/6 【年の瀬ですね】 ■今年の『このミステリーがすごい!』のランキングがWebで先行発表されているもよう。 ■ベスト10は一応耳にしていたので特にそんな驚きはないんですけど(それにしても『ポップ1280』はぶっちぎりみたいですね)、おフランスのいけいけねえちゃんの殺戮行を活写して一部で話題を呼んだ『バカなヤツらは皆殺し』が、海外の20位に入っているではないですか。まあ票を入れそうな顔ぶれはだいたい思い浮かぶけど。 ■今年は翻訳物がなかなか豊作だったいっぽう、国産物は(あまり読んでないから偉そうなこと言えないけど)あからさまにネタ切れ気味なのかな。 12/1 【最大のハンディキャップ】 ■法月綸太郎の『マザーレス・ブルックリン』評。(ちなみにこれはPな掲示板経由で知りました) ■最終的にカート・ヴォネガットを引き合いに出してみたりと、なかなか興味深い評論だった。まあ明らかにハードボイルド探偵論として読める小説なので、この人みたいな論者の興味を惹くのはある意味で当然という気もする。 ■『マザーレス・ブルックリン』を読んだときに探偵論の文脈でまず考えたのは、「まともにしゃべれない」のは私立探偵(にあこがれる青年)にとってまさに最大のハンディキャップではないだろうか、ということだった。たとえ極貧でもアル中でも身体不満足でも、物語の探偵たちは会話のなかで「気の利いた」皮肉や軽口をくりひろげることで、どんな相手とも対等以上の関係をたもったり、あるいは見返したりすることもできる。ところがこのトゥーレット症候群の青年ライオネル・エスログには、そのような権利さえもあらかじめ与えられていない。ハードボイルド探偵小説の暗黙の約束からもっとも疎外された、そんな主人公に導かれているからこそ、逆説的にこの小説は尖鋭的なハードボイルド探偵論にもなっているのだろう。 |