深宴 第8話
著者.ナーグル
くっくっくっくっ。 気味悪い泡音…笑い声をあげて暖かな羊水の中で彼は手をもみ合わせる。怖い女 ―― アスカ ―― の気配はない。つまり、今この空間を支配する神は自分だと言うことだ。もっと強い体なれば、アスカも放ってはおかないのだが。 支配者『脳』は神としての立場から、毛の一本一本まで見分けられるくらいすぐ側でじっとマユミの寝顔を観察する。仲間の支配者達ほどではないが白く染み一つ無い肌。対照的に黒々と世界を永遠に包む闇よりも黒い髪。こんなにも黒い物が世の中にあるとは思わなかった。艶黒子は清純さを欠けさせるどころか眠り姫の魅力を増し、血で汚れてもなお、ドレスに包まれた肢体は瑞々しい魅力で一杯だ。 何もかもが素晴らしい。 ちょっと前まではアスカのように背が高く気が強そうな女の方が好みだったが、まあ、目先のことで人の気持ちは簡単に変わってしまう。怪物なら尚のこと。 「んっ……んんっ」 見守っていると苦しげに呻いて身じろぎをした。汗で濡れた首筋に張り付いた髪の毛が扇情的だと彼は思った。可哀想に、悪夢を見ている。悪夢を払い脅える姫を慰撫してこその王子だ。 どんな風に愛してやろう。 アスカが戻ってきたら、あっさりと引き裂かれるだろう事も忘れて彼は自らの考えに耽溺した。そして結論はすぐに出た。 どんなやり方で愛すにしても、花嫁が眠ったままというのは物語としての起承転結に欠けている。 ずるり、と本当に音を立てて彼は温かい羊水の海から目を出した。アスカ達には生暖かい空気も、彼にとっては少々冷たい。ぽたぽたと粘液を滴らせながらマユミを直に見つめる。 「うう、ん」 と、その時、小動物じみた臆病さで気配を感じ取ったのか、マユミは身じろぎして鼻をしかめた。腐ったジャガイモに似た『脳』の体臭は眠っていても知覚してしまう強烈さだ。悪臭はマユミの意識を急速に覚醒に促していく…。 「ん、あ。なに、この…」 悪臭の沼に肩まで漬かり、這い出ようとしても這い出られない悪夢。 酸っぱい胃液が込み上げて来るに及び、とうとうマユミの意識は覚醒した。 微かに咳き込みながら目を見開き、首を振って意識の覚醒を促しながら眼鏡を探す。せめて、寝苦しくてもかけたままだったら、すぐに逃げ延びられたかも知れない。 だが、なにもかもが既に遅すぎた。 恐怖の源泉は既に彼女の足下にまで這い寄っていたのだから。 「んん、変な臭い。アスカさん、どこですか?」 ぼやけた視界には底知れぬ闇と、弱い照明のぼんやりとした白い光が見えるだけ。 すぐ側にいるはずの金髪の戦乙女の姿はない。目を覚ますまで、側にいてあげると約束してくれたはずの友達の姿は、どこにも、無かった。 周囲を見渡すと、ずっと遠くで天井が薄ぼんやりと橙色に染まっているのが見えた。アスカ達が捕まっていたという、怪物の本拠地らしい場所。金属の天井からの照り返しがほんのりと赤く、マユミの肌を染め上げている。目を長時間閉じていたことで、ほんの僅かな明かりでも眩く感じる。 そう、眠りにつくほんの一瞬前までは、少し注意力散漫な彼女では気づけなかった物に気づいてしまうほどに。 「ひぃっ!?」 首を引き抜かれた犬のような悲鳴を上げてマユミは跳びすざった。滅多に見られぬ素顔が恐怖と衝撃に見開かれ、白い肌が不健康なまでに青白くなる。 悪臭の源を求めてまだ惚けた目をベッドの下に向けた時、彼女はそれに気がついてしまった。 「な、なにこれ!? なんなの、これ!?」 ベッドの下から、ヌメヌメと濡れ光る二つの触手が伸びて揺れていた。大人の指ほどの太さがある触手は、床屋のねじりん棒の様に赤と青のストライプ模様が内部でうねうねと渦を巻いている。触手の先端についている真っ黒な球体がぐるりと逃げるマユミを追って向きを変える。 「はっ、はあっ、う、うそっ。ば、ばけ、化け物…!」 なんだと失敬な。そう言ってるみたいにずいと怪物が一歩いざりよる。 怪物の接近と共に、マユミの胸の動悸と目眩が痛いほどきつく激しくなった。急に跳ね起きたことで、軽い貧血状態に陥ったのかも知れない。立ち上がろうとしても目眩を感じて体が震えて力が入らない。 そうこうしている間に、『脳』はベッドの下から照明の元へと這い出てきた。 「きゃあああああっ」 甲高いマユミの悲鳴に驚いたのか、のそのそと大仰に脳は這いだし、蠅の群れが飛び立つように悪臭が一面に舞い漂う。 マユミは自分が狂っているのだと思った。眠っている間に、頭がおかしくなったのか、それともいまだ覚めることのない悪夢の中にいるのだと思った。 「なんで、どうしてっ。はっ、はっ、はぁっ、はぁあっ。む、胸が、息が、苦しっ」 それはとても大きく、ぶよぶよと揺れる球体だ。 薄く透き通った灰色の球体は重力で潰され僅かに楕円形になっているが、直径は1.5メートルほどもあり内部でどろどろした濃い黄色の肉塊が窮屈な中を泳ぎ回っているのが見える。ボウフラのような怪異が蠢く。悪夢の怪物が泳ぐ魔界の海だ。 「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ、はぁ、はぁ、あふ、はぁ」 怪物を目の前にして、文字通り指一本動かすことも出来ずマユミは息を整えるので精一杯だった。恐ろしくて、苦しくてどうしたら良いかわからない。 「うう、アスカ、さん…助けて。助けに、来て下さい…」 痛いほど心臓が強く鼓動を打つ。胸に手を当ててマユミは必死になって痛みに耐えた。小学生時代の運動会の時と同じだ。恐怖と緊張を強く感じると、こんな風にとても胸やお腹が痛くなるのだ。緊張に弱くてその所為でいつもみんなの足を引っ張っていた。 その苦しみは競技が始まる寸前に最高潮に達し、スタートの合図がなった瞬間、急速に薄れていく。 つまり、この身を引き裂かんばかりの苦しみは、この怪物に飛びかかられた時、終わりを告げるのだ。 「そんなの、イヤっ。イヤ、イヤぁ…。助けて、お願い、来ないで…」 のそりと怪物は両方の『前足』をベッドの端に引っかけた。洗濯機の排水パイプそっくりな蛇腹状の前足は、その枯れ木のような細さにも関わらず強靱な力で上体を引っ張り上げる。 前足の間には大きく縦に割れた口がついていた。口の上部にはうっすらとよじれた毛が生えていて、大人の頭でも一呑みできそうな口はピッタリと閉ざされているが、隙間から黄ばんだ歯が疎らにのぞいている。うねうねと蠢くカタツムリの目のような触手は、その口の隙間から生え出していた。 (逃げなきゃ、逃げないと…。きっと近くにアスカさんが、いるはず。どこかに、だから、急いで) いないはずがない。マユミを見捨ててしまっただなんて、そんなこと。誰かに裏切られる、そんなことはもう、もう2度と…。 後ずさりするマユミを追って、怪物の前足の短い指がしっかりとベッドのカバーを握りしめる。更に『前足』に比べると随分と細く、短い『後ろ足』を踏ん張り、体を完全にベッドの上に乗り上げさせる。その異様な姿形はたっぷりと血を吸った巨大なダニそっくりだ。死人の屍斑じみた紋様が一面に浮かんでいる。 「どこ、どこですか!? どこに行ったんですかアスカさん、アスカさん、は、ああ、あう。助け、助けて。シンジ、さん。綾波さん、マナ…」 ぺたぺたと奇妙な骨格の足を動かし、怪物は更にマユミにいざりよる。その時になってマユミは怪物には短い毛に覆われた尾が生えていることに気がついた。そう、本当に奇妙な尻尾だ。こんな状況だというのに、目を離すことが出来ないほどに。 毛が生えているのは尾の先端部分だけで、尾の平たくなった上部には白く濁った二つの円模様があり、その間に少しうずたかくなった突起物、そして歯を生やした無音のきしり声をあげ続ける乾涸らびた口…。 「ひ、ひぃぃ――――っ!?」 それは尻尾などではなかった。無惨に引きつり、乾涸らびた女の頭部だ。元は若く美しい女性だったのだろう。だが今は死後の硬直と腐乱による膨張で肉を失い、乾ナマコのような舌をこぼれさせた亡者でしかない。 そうと気づいてよく見ると、その怪物の後ろ足には、いや腕の指には金の指輪が輝いていた。 (だ、ダメ、心臓が、痛い、痛い…。耐えられ、ないわ。あ、ああ、シンジ、さん) 惨劇、恐怖、汚濁、全てがそこに存在していた。 哀れな娘、不幸に愛されたマユミにはもう、耐えられない。 胸と喉を押さえてマユミは呻いた。胸が痛くて息をすることも辛い。 このまま、何もせず蹲っていたい。現実を認めず、子供のように頭を押さえて目をつぶってしまいたい。 そうすれば、痛い思いはするかも知れないけど、怖い物をこれ以上見なくて済むはずだから。それが単なるオーストリッチコンプレックスだってことはわかっている。でも、マユミはそうしていたかった。 「こ、怖い、怖いの…怖いのは、いや。いや、いや、いやなの」 身動き一つしない獲物に、ブリッジで這い進む死者の妊婦の前足…つまりは、爪先が肩に伸ばされ、布地を掴む。 その瞬間、マユミは動いた。ビルの上から飛び降りた時のように、何もかも投げ捨てる覚悟で。 グッと奥歯を強く噛むと、それまで動かなかったのはこのためのバネを溜めるため、と言わんばかりにマユミはヴァギナデンタータ(有歯女陰)を蹴りつけた。 『ぎゅばあああああぁぁぁ』 「あああっ。やだ、いやぁぁ!」 怪物の体を突き破った…と思えたのは一瞬の錯覚だ。踵の折れたヒールごとマユミのほっそりとした左足は左右に割れ開いた口の中に飲み込まれていた。足を伝わる生々しい感触に反射的にマユミは全身を硬直させた。痛くはない、痛くはないがそれ故におぞましい。 (いや、いやぁぁぁぁっ!) 捻挫した足の痛みも忘れ、何度も何度もマユミは右足で蹴りつける。 自分の不幸な生涯を呪うように、何度も何度も。 頭の中で何度も何度もやめて放してと叫びながら。 華奢なマユミの蹴りはダメージとしてはささやかな物だったが、それでも顔(?)を蹴られるのはたまらなかったのだろう。 「気持ち悪い、気持ち悪い、噛まないでよ! あっ」 唐突に、ずるりと音を立ててマユミの足首は解放された。ヒールを怪物の口中に残し、ストッキングで包まれただけの足首は、ぬめぬめした固まりかけの寒天状の粘液で濡れ光っている。 そしてそのまま、支えを失ったマユミの体はベッドから転がり落ちるが、怪物の腕が逃すまいとマユミの肩を掴む。 「くっ、ひぃぃっ」 だが勢いのついたマユミの体は怪物の爪をふりほどき、そのまま受け身も取れずないまま後方に倒れ込んだ。怪物の手に残骸の一部を残し、鋭い音を立ててドレスは引き裂かれる。 『きゅるあああっ』 「うっ、あう、おうっ。ひっぐ」 不幸中の幸いなのは、転がり落ちた先に待ち受けていたのはガラスの破片やブロック塊ではなく、柔らかな砂の地面だったこと。いっそ岩に頭を打ち付けて死んだ方が、ある意味救いがあったのかも知れないけれど。所詮、人生なんてそんなもの。 「やだ、やだ、やだ、やっ…きゃああああっ」 『おおっ、うおおぉぉぉ』 決して振り返ることが出来ない背後で、怪物が砂に着地する鈍い音が聞こえる。 哀れなほどに身をすくませ、必死にマユミは地面を這い進む。だが、ほんの数秒で事態は動いた。 ボロボロと地面が…砂が崩れ、重心が崩れたマユミの体はそのまま流れ落ちる砂の上を滑っていく。 薄明かりのために気づかなかったが、いつのまにか彼女は斜面に向かって這い進んでいたのだ。前も見ず闇雲に坂道を進めば、どんなことになるかは日が東より昇ることより明白だ。 「きゃ……………っ、ぐっ……………うう」 砂煙を巻き上げて、勢いよく美女は転げ落ちていく。 どこに? (たしか、アスカさん、水があるって…) 洗濯機の中の洗濯物のように転がりながらも、どこか冷静にマユミは思い出していた。アスカの言葉を信じるなら、無数の溜池があるはず…そう思い出した瞬間、マユミの天地は消失した。 天使の失墜、万物が砕ける。 冷たい水がマユミの全てを包み込み、背中の痛みに心臓が一瞬停止する。水と空気は囂々と渦を巻き、開いた口からは大量の空気が泡となって漏れる。上下もわからず小刻みに震えながら彼女は必死になって水を掻いた。 闇の中、うっすらと見える揺らぎが、それこそが水上の明かりだと本能的に悟って追い掛ける。水を蹴り、手を振り回し、上へ上へ…。 「…ぷぁっ」 水面に顔を出し、たっぷりと空気を呼吸する。肺が焼け付くように痛み、何分も藻掻いたような気がしたマユミだったが実際は10秒と経っていない。闘牛さながらに暴れ、体内の酸素を使いすぎたからだろう。手足の筋肉は緊張と疲労で萎え、水を掻いても全く前に進まない。水深は深く、水底に足がつかないから底を蹴って進むことも出来ない。 だからといって何もしないでラッコみたいに浮かんでいるわけにはいかなかった。 ドボン 重量と体積のある物がマユミの背後に落水する鈍い音が響いた。振り返ると高く水しぶきが跳ね上がり、ぬめぬめと濡れ光る細長い爪先、つまりは怪物の前足が迫ってきているのが見えた。物理的な圧力さえ感じる明白な悪意。 なんてしつこい。昆虫じみた執念深さだ。 「ひっ、うっ。あぶっ、けほっ、こないで! アスカさんどこ!」 逃げなきゃ、逃げないと。濡れたドレスや髪の毛が全身にまとわりついてくる。 こんなヒラヒラした衣服なんて着なければ良かった、髪型だってもっと短くしていれば! 何度も何度も後悔をした。でもこんな格好をしていたのも髪が長いことも自分で決めたこと。正装をしたのはシンジに出会うことを期待して夜会に出席するため、髪を長くしていたのは短髪にするのは死んだ母のことを思い出すから。それと、シンジに誉められた髪を切ることに躊躇いを覚えるから。 マユミの背後では酸鼻を極める光景が展開していた。 水中で大きく開いた怪物の口中から、半透明の触手が幾本もあふれ出る。マユミには見えなくて(今一時は)幸いだった。 クリオネだってここまでグロテスクではない。まるで内臓を吐き出したかと思うくらい大量の触手は、ゆらゆらと水中で揺れながら獲物に向かって絡みつく。 「ひゃ、あう、ひぃっ」 太股、肩、腕、首…。黒髪を掻き分け肌に張り付くように絡みついてくる触手の感触にマユミは思わず悲鳴を上げた。水の冷たさも忘れるほどの熱を帯びた触手が、男の手のようにズルズルと太股を愛撫してくる。肉の疼きに捕らわれ、たちまちマユミの肌が紅潮した。 「――――っ! い、いや…がぼっ」 自由を求めて天に向かって伸ばした腕に、追い打ちをかけるように触手が絡みつき、ぺったりと柔肌に張り付いた。そしてそのまま水中に引きずり込まれる。そう、水中こそ彼の本当の世界。 (いやああぁぁ、また、また) 折れそうなほどに首を曲げられ、口と鼻が上を向かされたことで大量の水が喉に流れ込み、貴重な酸素が文字通り泡となって消えていく。奇妙に苦い水の味に眉が皺寄る。 蜘蛛が獲物を絡め取るように、粘つく触手と怪物の腕が絡みついてくる。水だけではなぃ、恥辱と快楽、そして恐怖が全てを包み込む。 (はぁう、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。くるし……い、よっ) 浮力を利用し勢いをつけて伸び上がることでかろうじて水面に顔を出し、再び空気を吸うことは出来たが、体はすっかりと触手に絡め取られていた。 嫌悪と恐怖、アスカへの複雑な思い、なぜ私がという渋りでマユミの何もかもがどす黒く陰る。 だが、汗や涙の痕を拭うように触手が体をなぞった瞬間、息が止まるほどの刺激にマユミは体を痺れさせた。 「あ、あああっ。ふ、っ、ああああぁぁぁっ」 気弱でなんにつけ自分に自信のないマユミは、自分を好きになったことはほとんど無い。むしろ嫌っている。呪い抜いている。 だが、今ほど、自分を呪わしいと思ったことはない。 (いや、いや、いやぁ…。ああ、気持ちよく、なんか、感じたり、なんか! なんで、どうして、どうしてなの!?) たとえ望まない愛撫であっても、優しく触れられれば、たちまちの内に反応してしまう受け身の体…。いくら気弱で流されるままの人生だったとしても、こんな敏感な体を持って生まれるのは運命と言うには酷すぎる。 「はぅ、ああぁぁぁ。や、だぁぁ」 我が身を哀れむ涙がこぼれ落ちた。 1年以上に及ぶ肉欲の日々がもたらした淫獄の罠か。いや、違う。早速よがりだしているマユミは必死に否定するけど、心の奥底ではとっくに結論が出ている。 「ひぅっ、や、はぁぁ」 熱くて粘つく薄黄色い触手が、首筋にキスするように粘液を擦り付けた時、たまらずマユミは甲高い悲鳴を上げた。熱と疼きが燎原の火の如く全身を駆け巡る。 濡れた衣服が張り付いたことで存在感を示す乳房に、表面に小さな吸盤が無数に着いた触手がまとわりついてくる。地獄の餓鬼が食物を求めるように執拗に、触手はマユミの体を求めている。 「ううぅ。ひぃぃん。ひぅっ、うっ、はぅ」 やっとの思いで胸に張り付く触手を1本引きはがすも、そのお返しに様々な形状をした触手が全身に張り付いてくる。 どこまでも柔らかいのに、芯には硬い筋を残した触手達。 飢えた触手どもはドレスの上から、胸、腰、尻にまで触手はからみつき、マユミを味わいながらたっぷりと粘液を擦り付ける。 藻掻いても足掻いても獲物の美女を触手は放さない。それは犬に吠えるなと言うのと同じ事だ。一本一本の力は弱くても、これだけ束になれば非力なマユミでは容易に抜け出せない。 「いやぁぁぁ、ああっ、そっ。んんっ」 ドレスを押し上げる胸の膨らみを、下からすくい上げるように触手が絡む。小さく消え入るような呻きを漏らしてマユミは体をびくつかせる。マユミの震えに重ねるように、触手は稜線をなぞって刺激を与えながら、胸元の隙間から大胆に内側に潜り込んでくる。胸の谷間をこじ開けて潜り込み、ブラジャー越しに強く乳房を絞り上げていく。 「ひうぅぅ、ひっ、い、痛いっ。そんな、ああ」 ありとあらゆる触手達がマユミという美酒で喉を潤そうとしている。先に絡みついた同輩を押しのけ、替わって唇状の触手が衣服の上から啄む。 その瞬間、苦痛ではない鋭い刺激に美姫は背筋を仰け反らせて喘いだ。 「うくぁ、あぅ、おおっ。はっ、はぁぁ」 じわりじわりと快楽で全身がほぐされていく。 まるで毛穴一つ一つを凌辱されているような愛撫に、刺激に弱いマユミの体は休む間もなく反応してしまう。 快楽の余韻と継続する刺激に嗚咽と涙を漏らし、粘つく水が口に流れ込むことも構わず必死になってマユミは身をよじった。振り回される手足と触手が水面をかき回してじゃばじゃばと水音を奏でた。 (これ以上は、絶対に。ああ、でも…お、堕ち、堕ちちゃう) 冷たい水の中なのに、暑くて暑くて仕方がない。快楽を焚きつけに皮膚は溶け肉は煮え、芯から疼きが止まらない。 このままだと、快楽に流され、本当に気持ちいいと感じてしまう。 (い、いや。こんな、ことで。人じゃ、無いのに。は…あ、ああぁ。頭がぽーっとして、体がくにゃくにゃで、力が、入らない。なにも、考え、られなく、なっちゃう…) 「は、はふぅ、あふぅ、ああぅ、くひぃ」 水に濡れた衣服はぴったりと形良く丸い乳房に張り付き、一層大きさを際だてている。 羨ましいことに、怪物はそれを独占している。腕のように太く、先端に指状の極小触手をはやした透明触手で容赦なく胸を揉み、その弾力を存分に堪能する。屈託のないレイから、スイカみたいと言われた胸はぐにぐにと面白いように形を変えた。 「あい、ひぅぅ。さ、さわらなっ、揉まな、い、でぇ…」 触手共の醜悪な見た目に反して、魔術師か手品師の手使いのような丁寧さだ。突き出た稜線を崩され、先端の硬い凝りをつままれこねくり回されるたびに、マユミは腰をひくつかせて喘いだ。容赦ない布越しの愛撫は刺激が薄い分だけ、思いも寄らぬ刺激を撃ち込んでくる。 「ひゃう……。あうっ。ふぁ……………あ、ん。いぁ、ああああっ」 醜悪な触手の愛撫に翻弄されて墜とされていく。決して認めはしないだろうが、不幸極まる自分の境遇にマユミはマゾヒスティックな快楽の喘ぎを漏らした。 甘くとろけた喘ぎは聞く者を魅了する淫靡な響きを持ちながらも、どこかもの悲しい。経験者にしかわからないことかもしれないが、堕ちようがないところまで堕ちるということは、存外に刺激的で暗い快感に満ちているのだ。 「ああ、いいぃ。……うっ。……うん、うあ。いやっ。うぶっ…。ぐぅっ! ああ…。あ、あぐっ」 無駄だとわかっていても懇願する絶望の嬌声に刺激されたのか、触手達は一斉に彼女を求めた。後先考えずからみつき、服の隙間から強引に潜り込もうと阿鼻叫喚の様相だ。 「や、いっ、うぅ。はぁぁ…。ああっ」 と、その時マユミを拘束していた触手から力が抜けた。 (ええっ? なんで、どうして) マユミの祈りかあるいは執念が天に通じたのか、虜囚の美姫に自由が取り戻された。触手の海の中で囚われ姫は戸惑う。見ると大きく胸元が裂け、胸の谷間が露わになっている。 水を吸ってゆるんだドレスが、散々に暴れ回ったことで切れ目から裂けだしている。 (い、今よ! ううん、今しかないわ) これこそ天佑だ。快感で溶かしバターのように濁った頭には何が起こったのかすぐにはわからなかったが、マユミはこの機を逃さなかった。いや、これが最後のチャンスだと、本能的に理解していた。ドレスの裂け目は隠しようもなく大きくなり、虫が脱皮するようにマユミの体が隙間から抜け出させる。 切れ目はなおも大きくなり、裂け目と共にドレスがドレスでなくなっていく。 それはまさに羽化。蛹から蝶が羽化するようにマユミが生まれ出ていく…。 逃すまいと絡みついていた触手に力がこもるが、かえって絞り出すようにマユミの体は拘束から抜け出した。 (抜けた! 早く、早く、あがらないと) 「ううう、はぁ、はぁ、ん」 しかし、まったく前に進まないことにマユミは戸惑い、失望の呻きを漏らした。泳ぎは苦手ではない、いやむしろ得意な方なのに、それにしても進まない。 (どういうことなの? なんで、全然進まないのよ!? こんなの、フェアじゃないわ!) 苛立って水面を叩いたとき、温めた牛乳のように薄い膜が出来ている事に気がついた。水も固まりかけのプリンのようにぶよぶよしている。水が、手の平に張り付いてくる…。 「なに、これ。なんなの? 水が」 自ら引き上げた手に、しぶとく水がまとわりついてくる。まるで、固まりかけの寒天かゼリーをかき混ぜているような抵抗が手足を包んだ。 「どうし、て」 明るい光の元で、一人と一匹を俯瞰から見ている者なら何が起こっているかわかっただろう。粘液の申し子である『脳』の体から、固体スープの素が湯で溶け出していくようにドロリとした粘液が水中に広がっていくのを、嫌でも目にしたはずだ。マユミももう少し冷静でいたら、それを我が身で実感しているのだからわかっただろうに。 支配者『脳』、彼はまさに水蜘蛛だ。 怪物の触手と爪がマユミの背中に迫る。様々なカラーをした、腕型、線虫型、サナダムシ型、吸盤のついたイカタコ型、生殖器型、ミミズ型、先端に口吻が付いている物、繊毛が生えた毛虫型、肉ブラシ型、ドリル型、ありとあらゆる触手が用途などを無視して迫ってきている。 熱を帯びた触手には今度は決して逃がさないという覚悟と気合いに満ちていた。 チリチリと産毛が逆立つ焦燥感に身悶えしながらも、必死になってマユミは水を掻く。徐々にだが前に進んでいる。だが彼女の泳ぎよりも怪物の動きの方が速い。触手の先端が剥き出しの背中をなぞった。 (捕まる、捕まっちゃう! だめ、そんなの! これじゃあ、なんのためにいま逃げ出せたのか、わからない! あ、ああっ) 爪先がざらりとしたものに触れる。 すり鉢状の水たまりの、その水底だ。足首から生木を捻るような鈍く軋んだ音が聞こえたが構わずマユミは水底を蹴った。激痛がふやけた意識をたたき上げる。気絶寸前の苦痛に悪寒を覚えながらも、痛みをバネに両手で水を掻き、最後に残った数滴の膂力を振り絞る。肩が、胸が、腰が、太股、そのまま全身から水を滴らせながらマユミは砂の上に這い上がった。 『じゅぶ、びゃあああああ』 背後で獲物を逃した怪物の怒りの叫びが聞こえた。だがもうマユミは振り返らない。 足の激痛で全身を痙攣させながら、必死に安全 ―― と思いたい ―― 所に向かって進んだ。あの、弱々しい明かりの下にアスカが戻ってきているかも知れない。元の木阿弥かも知れないけれど、少なくとも集めたタオルがあるから、それで無防備な体を包むことくらいは…。 「だれか、誰か…。助け、て」 ゆっくりゆっくりと逃げるマユミの後ろ姿を、水面に目だけを出しながら怪物は見送っていた。逃げられたと怒りに駆られはしたが、砂の上に引きずった足の後を付けるほどに歩みは遅く、簡単に追いつける。 意地悪く、怪物はほくそ笑んだ。 こういう趣向も嫌いではない。いや、むしろ好きだ。 趣味思考を直接刺激する状況で色々なことを思い出した。 そう、かつて自分はハイエナと呼ばれた辣腕街金業者だった。獲物は決して逃がさず、囲い込み、しゃぶり尽くす。首を吊った債務者、債権代わりに売りとばした女の数は数え切れない。 あの女も同様だ。じっくり周囲を囲み、逃げ場を断ち、気づいた時には何もかも手遅れにしてしまう。 マユミはどう足掻いても逃げられない。蛇が変わられている水槽に入れられた餌のネズミみたいな物だ。尤も、あの体たらくでは何もしなくても問題はなさそうだが。 子を孕むのに最適な年齢であるマユミはまさに熟れ頃お食べ頃。 株にたとえれば今が買い頃。 つまり、もう二度とはない絶頂期。あっさり終わらせてはつまらない。ゆっくり追いつめてやろう。 その時に備えて大量の水を暴飲しながら、怪物はにんまりと口元を歪めた。 きっかり30秒。吸収した水は300kgを超える。 さて、狩りの時間だ マユミの悲鳴が聞こえた時、アスカは一瞬自分がどこにいるのかわからなかった。 ほとんど暗闇の室内は記憶にない。 悲鳴に背筋を冷たくさせながら、目脂がついた目で周囲を見渡し、ほとんど廃墟のベッドの上で寝こけていることに気がついた。 寝起きで混乱した頭に、また悲鳴が飛び込んでくる。まさに殺されようとしている人間が出す金切り声だ。 (あの、声は…マユミ、マユミ!?) 一瞬で全ての状況を思い出した。 自分とマユミは怪物達に捕まり、地下の地獄に閉じこめられたこと、そこから逃れようと足掻いていたこと、そして自分は食料を探して廃墟内に潜り込み、そして一休みのつもりで腰掛けたベッドの上で、そのまま寝こけていたこと。 (まさかマユミ、怪物に襲われて…) 自分がしたしくじりに吐き気さえする。マユミは心から自分のことを信頼していた、そして眠りに落ちたのだ。それを裏切った。期待を踏みにじり後ろ足で砂をかけるような真似を…。 一体どれくらいの時間眠っていたのだろう。 周囲は既に怪物どもに囲まれているのだろうか。 (たしか、隣の部屋の割れた窓から外の様子を) マユミの悲鳴と怪物の物らしいうなり声に耳を傾けながら、注意深く、静かに隣室に移動する。そして、そっと、気づかれないように外の様子をうかがった。角度が悪くて見づらいが、薄明かりの中、ベッドの上のマユミが這い蹲って逃げ出そうとしているのが見える。そして背後からのし掛かろうとしている、蜘蛛のような怪物の姿もだ。 (なによアレ!? 新種か何か!?) 人とはかくも醜くねじ曲がるのか。怪物達と教祖が行っている恐ろしい所行を思いだし、改めて背筋が凍る。 (あの怪物、マユミを狙って…。でも、他には、他の怪物どもは!?) ざっと見渡してみたが見あたらない。他の怪物達はいないのだろうか。あくまであの怪物の単独の行動か。それとも隠れているのか? 情報が少なすぎて判断がつかない。だが、急いで行動を決める必要はあることだけはわかった。 「きゃああぁぁぁぁぁ」 悲鳴を上げながら暗闇に転げ落ちるマユミを追って、怪物もまたアスカの死角に消えていった。 数秒後、水が砕ける落水音と藻掻いているらしい水音が遠く籠もった遠雷のように聞こえてきた。 (どうする、どうしよう? あの怪物一匹だけなら、勝てるかも知れないわ。柔らかそうだし…。 でも、のこのこ姿を現したところに、また他に怪物が現れたら) 特にマユミはさっきから悲鳴を上げている。聞きつけて他の怪物達がやってくる可能性は高い。 (と、とにかく、場所を変えなくちゃ) そう、マユミ達を追うにしろ逃げるにしても、周囲の状況を掴むことは絶対必要だ。もっと容易に周囲の状況を確かめられる場所に行かなくては。だが事態はアスカが考えていた異常に素早く推移していく。 激しく高ぶる心臓を押さえながら、のろのろとアスカが立ち上がった時、視界にうっすらと人影が映った。弱い照明の下で微かに光っているように見える白い人影は、間違いなく今悲鳴を上げて逃げまどっていた親友だった。 (…あ、あれ、まさか、マユミ!?) 上手く逃げ出せたの? 自分がいることを教えようとして、慌ててアスカは口元を押さえる。 (な、なに、あの娘、追われてるじゃない) よろよろとよろめく下着姿のマユミの背後からは、さっきの怪物がゆっくり静かに後を付けてきていた。そんな恐ろしい事実に気づかないまま、マユミは力尽きるようにベッドの上に倒れ込む。震える指先でタオルとシーツを掴むと、それっきりぐったりとして動こうとしない。 声をかけないと。警告をして、助けに行かないと。 (なんで逃げないの? 諦めた、違うわ。あの子…逃げられ、ない?) ぐったりとしてなぜか声も出せなければ手足も動かない。大きく胸が上下しているから、生きていることは間違いないけれど。 ただ瞬きも出来ずに、このあと起こるだろう事を期待に満ちた眼差しで見つめることだけしかできなかった。 (む、無理よ。助けに行っても、相手は怪物だもん。勝てないで捕まってしまうかも、ううん、仲間を呼ばれたりしたら確実に捕まっちゃうわ。 そんなことになったら、全部終わってしまう。誰か、誰でも良いから一人だけでも地上に逃げて、助けを呼んでくることこそが、私の、私たちの、全員のつとめなのよ) そう、不用意な危険は犯せない。エヴァのパイロットになるに当たって、幾つか受けたサバイバルの訓練でもそう教えられた。 決して単独行動はしない。 決して英雄になろうとしてはいけない。 無謀な行動は暗闇の鉄砲でしかない。 助けるにしても、それは怪物の戦力を充分に見極め、自分でも勝てそうだと判断した時だ。いかに虫じみた姿に変化していても、あの怪物達が女性に行う第一の目標は捕食ではなく、凌辱のはずだ。だからたぶん、マユミは殺されたりすることはないはずだ。 (ごめん、ごめんなさいマユミ。少し、少しだけ、我慢、して) 死ぬより辛い目に遭うだろう事には目をつぶり…。 思いとは裏腹に奇妙に興奮しながら、ごくり、と音を立ててアスカは唾を飲み込んだ。 ベッドの上にぐったりと倒れふすマユミ。 今現在も髪や体を水滴で濡らしたままの美女は、シーツを胸元に引き寄せて小さく呻いた。 「アスカ、さん…どこ、なの? 助け、助けて…」 枕元に置き忘れていた眼鏡をのろのろと震える指で積む。 眼鏡の下の瞳に、音を立てずに近寄ってくる怪物の姿が映っていた。いくらマユミがどこかおっとりしていて暢気だったとしても、つかず離れずの距離で後をつける怪物に気づかないなんて事はない。ここまでたどり着くまでの短い時間、散々に心をすり減らしていた。 (もう、動けない…) もうマユミからは逃げる体力も戦う気力も尽きはてていた。濡れて冷えた体は氷のように震え、捻挫した足首は苦痛の固まりとなって神経を切り刻んでいく。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ、はぁ、ふぅ。 あ、はうぅ。ううっ、どうして、私…もう……もう……ああ…」 寒さ、飢え、恐怖、苦痛、全てが悪い方に流れる。 諦めの混じった目で、にじり寄る怪物を睨み付けることしかマユミには出来なかった。涙目に映る怪物の姿は滲んでぼやけ、殊更恐ろしく見えた。 「アスカさん。行かないって、心配するなって、そう、言って、くれたのに…。アスカさんの、裏切り、ものぉ…」 怪物の腕が再びベッドの端にかかる。だが、今度はマユミは逃げない。逃げられない。 ベッドの上に仰向けになったまま、脅えた体を震わせるだけ。 「い、や…よぉ。来ないで、来ないでよ」 先程より二回りは巨大になった妊婦腹の怪物がベッド上に乗り上げてくる。スプリングがぎぃぎぃと耳障りに軋んだ。 「あああ、神様」 シーツで胴体を隠し仰向けに寝そべっているマユミの上に怪物がのしかかってくる。足が変化した前足がマユミの両腕を掴んで押さえ、彼女の眼前でヴィギナデンタータが大きく左右に開いていく。ピンクと言うよりどす黒い赤い肉華から、すえた体臭…というより精臭がアスカのいるところにまで漂った。 「ああ、いや、いや、いやぁ。見ない、見えない物は、いないんだから…」 どろりとした粘液が溢れ、滴り落ちてもマユミは目を開けようとしない。いや、仮にマユミが目を開けなくても、すぐ側で、興奮して息を荒げたアスカはじっと中から現れるであろうそれを見つめている。 そして悪意は姿を現した。 (な、なによあれ!?) 「ひぃっ、い、きゃぁぁぁぁぁ――――っ!!」 それが姿を現した瞬間、怖い物見たさから結局薄目を開けていたマユミ、アスカは共に大きく目を見開いた。 どろりとした軟体の洪水がマユミの眼前で轟きをあげる。 巨大な男性器にも似たフォルムの巨大な肉塊が、絶対者として君臨する。 マユミの悲鳴を天上の音楽と楽しむ巨大な、ヒトナメクジがねっとりとした廃油状の粘液を滴らせてマユミの上で身をよじる。 これを半人半馬のケンタウロスと呼ぶことはありとあらゆる意味で冒涜めいている。蛞蝓状の頭部の中心にはまだ形を保ったままの人面が張り付き、唇を舐め回している。半透明の体の各所からは触手が無数に生えだしており、胸元だろうか…そこから、祈るように折りたたまれていた人間の腕が、ゆっくりと引き出されていた。人で言えば腹部に当たる箇所は信楽焼の狸のふぐりのように膨れあがり、腸や肝臓、腎臓など内臓が脈打つ様が透けて見える。そしてカラフルな内臓に紛れてよく見えないが、肉の谷間に挟まれて、この怪物の体で唯一堅さを持つアスパラガスに似た肉棒が隆々とそそり立っていた。肉棒の根本で陰毛代わりに生えていた糸ミミズがざわざわと揺れ動く。 「いやっ、いやっ、いやっ、いやぁ―――っ!!」 本体の登場と同時に、ぶつ切りにされた内蔵のような触手の洪水が生贄の上にこぼれ落ちた。 水揚げされるアジ、鯖、サンマなどがこんな風だ。 視覚、聴覚、嗅覚、触覚を圧倒する物量に、背筋が冷たくなるとか震えが走るなんて生やさしい物ではない。水の冷たさで冷えていた体からはさらに冷や汗が流れ出た。 怪物の正体を目の当たりにした瞬間、どこに残っていたのか、今度こそ本当に最後の力を振り絞ってマユミは暴れる。 触手の海を掻き分け跳ね上げようとするが、一瞬露出した足にはむっちりとした太股から足首まで全体に触手が絡んでいて、悠々と海の中に引きずり戻していく。シーツの隙間のみならず、ベッドと背中の隙間にまで入り込んでくる侵食。 溺れる者が掴んだ手の中でゴカイそっくりな触手がぴちぴちと跳ねた。 「ひっ、むし、ミミズ、いやぁぁぁ――――っ! いや、いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」 甲高い叫び声をせせら笑いながら、怪物はマユミのたっぷりとした乳房に触手を沿わせた。 「やっ、ひぃぃっ。どこ触ってるの!? さ、触らないで、触らないでよぉっ! 行って、どこかに、私のいないどこかに消えて!」 泣きじゃくって体をよじるたびに、重量感溢れる乳房の形に盛り上がっていた触手の山がゆさゆさと揺れた。 かいま見えたレースのブラジャーは、ビクビクと引きつるように蠢き、その下に潜り込んだ細い触手達が胎児のように胎動している様がアスカにも見えた。 「ああっ、いやっ、いやぁ。いやです。イヤぁ」 ジュプッ、ニュパッ 真っ白な肌に汗を浮かたマユミはやたら粘ついた音を立てる触手達によって執拗に柔肌を弄ばれる。 嫌悪にもかかわらず、敏感な体は早速愛撫に反応して熱を持ち始めている。首を右に左に激しく振り、二の腕で押さえつけられた腕をなんとかふりほどこうとマユミは身をよじる。 再び、触手の海を掻き分け姿を現したマユミの足は、溺死人のように膨れあがっていた。 「はぅ、あうぅ。うっ、くっ、うぅ」 (うっ、あれは…ストッキングの中にあんなに入り込んでるんだわ) アスカの想像は当たっている。 大小様々な触手…もしかしたら怪物に寄生しているミミズのような別種の生き物かも知れない。 …触手はストッキングを破らないよう、器用に唯一の開口部から中へと侵入を果たしていた。腐肉の中で群れるウジ虫の如く、触手はマユミの足を丁寧に愛撫していく。パンティーストッキングの中で、ショーツの上から下腹部をなぞり、太股からはじまり敏感な膝裏、脹ら脛、ほっそりとした足首、指の股など全てに絡みついて粘液を擦り付けていく。 「はひっ、ああ、あんんっ。あうっぅぅ」 ストッキングから染み出した粘液を梯子のように伝い、数本の触手が外から絡みつくと、再び足を海の中へと引きずり戻す。 絶望の嘆きと共に舞い散る粘液の飛沫。 「あ、ああああっ」 気弱で内気な心とは裏腹に、淫らに成熟した体は快楽を求めてひくつき、ブラジャーの布の下で触手が暴れ回るのを積極的に受け入れている。そう、嫌悪の嘆きに混じってマユミは隠しようのない甘い喘ぎを啼き声をあげるのだった。 全身エステさながらに体中を触手が包み込み、生クリームを攪拌するように美体を擦りあげていく。女の唇より柔らかい肉塊がぐちゅぐちゅねとねとと粘つく水音を響かせる。 その音と喘ぎの和音にアスカは興奮を隠せない。 「あうぅぅん、くぅっ、ううぅぅ。……きゅうぅ………ひぃう、ああぁ…。はあっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ。 ……はあっ…………はっ…はっ…ううっ。はぅ。くっ……うっ…ううっ。あぅ……ひぃっ」 これから自分を待ち受けている運命、それを敏感にマユミは察知している。 ただ食料とするだけなら、先程水の中でしたような行為をするはずがない。 艶っぽい吐息を「ああ、はぁぁ」と口から溢れさせて、マユミは諦めの混じった目をして、貫禄と共にのし掛かる怪物を見つめた。 認めたくはないけれど、この怪物は、人間の男女がそうするようにマユミを犯したがっている。そして自分より怪物はずっと強い。強いと言うことは格が上と言うこと。野生生物は自分より強い相手に押さえられた時、それが明白に自分を害そうとしているのでない場合はどうする? 余計なトラブルを避けるため、無防備な腹や尻を相手に向け、恭順の意を示すのだ。図らずも、マユミがしているのもまさにその服従のポーズだった。 (そんな、の、イヤぁ…。どうして、どうして私、こんな目にばっかり) 中学の時もそうだった。たくさんの人間達の中で、なぜ自分が使徒に選ばれ、その本体を内に秘めることになったのか…。 悔しさと惨めさに涙が流れ落ちる。涙を舐めとるように、口吻触手が目尻をなぞった。 「くぅ、ううっ…や、ああぁ。はなし、て、ください」 焼け付くような視線が、マユミがコンプレックスを抱くたわわに実った両の乳房に注がれているのを感じる。 高校生の頃から急に大きさを増し、同級生の羨望と、あるいは年齢を問わず男性の露骨な視線にさらされ続けた胸はマユミにとって呪わしいと同時に、誇らしさを持つ存在だ。 海外製の特注ブラジャーに包まれた豊かなマユミの胸は、ただ大きいだけでなく、なんとも言えない弾力を有している。もともと母親もかなり胸が大きい人だったようだが、それに加えてマユミは小学校から高校2年まで水泳をたしなみ、適度に胸筋を鍛えていたからかも知れない。 だらしなく柔らかいのではなく、弾力があると言ってもゴム鞠のように無為に固いのでもない。癖になるような柔らかさと弾力。 産毛が生えた柔肌はうっすらと粟立ち、握りしめると表面はつきたて餅のように柔らかい。だが柔らかいのは指が数センチめり込むまでで、そこから先はなんとも言えない心地良い手触りをかえしてくる。 「やめてぇ。お願い、だか、ら」 細い触手は幾本も幾本もブラジャーの上を這いずり、直径を確かめると朝顔の蔓が絡むように巻き付いていく。大きさを強調するように絞り上げられ、ブラジャー越しに何度も執拗に揉まれ、乳房は柔軟に形を変えていく。 (ああぁ。はぁ、そ、そんな風に、なんで胸、ばっかり) また嫌な記憶が蘇る。 高校時代、電車通学をしていたころのマユミは痴漢の格好の標的だった。気が弱く、蚊の鳴くような声で「やめて」と言ったり、鞄でガードするくらいが精一杯の彼女だ。そうなるのも無理はない。それでなくとも敏感な体と巨乳の持ち主なのだ。 女性専用列車を使おうにも、家に最寄りの駅は小さな無人駅でホームが短く、最後尾である女性専用列車から乗り込むことが出来なかったのだ。再び転校するまでの3ヶ月間、彼女は痴漢達のアイドルだった。 今の自分はその時と同じだ。 明るくなろう、前向きになろうと決意しても、そうそう変われるものではないのだから。 「はぁぁ。あっ、あぁぁ。や………や、だぁ。ひ、ひぃう。…ううぅぅ。いや、いやよ、いやぁ。やめて…」 かすれ声で抗議の声を上げるが、淫蕩な体は怪物の愛撫にもたちまち反応してしまう。弱々しい抗議をしても、結局は呻きながらビクビクと美体を震えさせるしかない。 既に執拗な愛撫で白いレースのブラジャーはめくり上がり、怪物の淫猥な触手は直に乳肉を揉みしだいている。ぞわぞわと背筋を走る甘美な疼きにマユミは甘ったるい喘ぎを漏らす。布越しでも意識が焼き切れる寸前になるほどの快楽だが、直に触られると声を出すことも忘れるほどの疼きに襲われてしまう。 (ああ、嫌なのに、吐きたくなるくらい嫌なのに…) 「ひぅ、あぅぅ。…はう、はうんっ。お、おあぅ。はぅ、はぁぁ…………あ、あぅぅ。 ううっ、ひゃぅ…っ」 屹立した敏感な乳首を、こぶりで葡萄の房のような先端をした触手が執拗に擦り立てている。 蛸に酷似した触手が双丘の麓から稜線に沿ってゆっくりと頂点まで指で撫でさすり、毛穴の一つ一つ、細胞の一つ一つに体液を染み込ませるように粘液を擦りつけていく。その度に吸盤がチュパチュパと吸い付き、悩ましい音を奏でた。 (だめ、よぉ。ああ。はぅ、そ、んなこと。あとが………ついちゃう) 『ぐじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅ』 「わらわ、ないで…。なんで、こんな。……いや、ひぃ、いいぁぁ」 じわりじわりと腰がひくつき、啜り泣きと喘ぎを漏らす麗しい楽器。 今のマユミはまさにそれだ。 淡い茂みの恥肉はうっすらと開き、ぬるぬるした愛液がこぼれだしている。熱で体も心もふやけていく…。 (こんなの、ああ、私が、私じゃ、なくなってく…) 「だめ、だめ、だめ、だめ、ダメです。だめ、だめ、だめ、だめ…」 全身を包む熱い感覚に、意識を熔解させた美女は頭頂部がベッドに擦るほど大きく首を仰け反らせる。 その瞬間を感じ取ったのか、一斉に触手は暖かな美肉を求めてマユミの体を這いずった。 「ひぃうぅ! あぅ、あぅ……あうぅ。あっ。あっ、ああっ。ああぁぁ――――っ!」 むしり取られたブラジャーがベッドの下に放り捨てられた。 触手の海を掻き分けてつきでる二つの巨乳、その頂点で処女のようなピンク色をした乳首がぶるっと勢いよく震えた。実際、そこらの10代処女顔負けの清純さだ。 (体中、体中、舐められてる…。) 美乳肉をこそぐり、パンティストッキングの中に止めどなく潜り込む触手の快楽に、マユミは甘い吐息を歯を食いしばってこらえる。髪の毛までも愛撫され、唯一自由になる指先でベッドマットの端を掴み、落ちていきそうな意識を一生懸命に支えるだけで精一杯だ。 「ううっ、くぅ、ううぅぅ」 ブジュリ…と音を立ててとうとうストッキングが内からの圧力で爆ぜた。剥き出しの足は、ほんの一瞬だけ真っ白な肌をさらし、すぐに触手の海に埋没していった。触手の海の中でストッキングと器用に脱がされたショーツの残骸が流され、埋没して消えた。 「あんっ、う……ぅぅっ。く、ぅんっ。あはぁ、あう、いやぁぁ。あっ。あっ。ああっ」 直に全身を愛撫される官能の疼きはいよいよ激しくとても堪えきれない。体の中心が熱を帯びてくる。熱と共に内側からこみ上げてくる刺激に、嬌声と共にマユミは全身をくねらせる。 「んんんっ。あうぅぅ。もう、もういやぁぁぁ」 弱々しく首を左右に振っ嗚咽すると、ビクリと腰が震え始めた。折れそうなほど背筋を反らせ、爪先まで足を突っ張らせ、ヒクヒクと全身を奮わせている。頬は赤く紅潮し、上気した息が止まらない。 「そん、なっ。ああ、ああぁぁぁっ。…か、かゆいっ。あ…あ、あぁ。ああ、助けて。 助けて、おかあ、さ…。あは、やはぁぁぁ…!」 意味不明の絶叫と共に、ベッドが軋ませる勢いでマユミの体が痙攣した。 触手の海の下の濡れた股間の様子はアスカからはうかがい知れない。ただ、マユミの様子と異臭に混じって漂ってくる臭いから、アスカにはマユミが愛液混じりの尿を漏らしたことを悟った。 無理もない、と若い女性が直視するには少々刺激的な光景に顔をしかめながらアスカは思う。自分が期待していたのは、こういう光景ではないのに、と後ろ向きに思いつつも、気弱なマユミがこんな生き地獄を味わうことにサディスティックな興奮を覚えていた。 (漏らすくらい、感じてるのかしら…。ああ、あの触手の下で、体中舐め回されて) ごくり、と音を立ててアスカは唾を飲む。 「はぅぅぅっ、く…、んん、んぅ。あぅぅぅ!」 勢いづいたのか、筋が浮いたマユミの首筋に怪物の触手が這い回って粘液を擦り付けていく。納豆汁のように強い粘性を帯びた粘液が触れた瞬間、ビクビクとマユミは体を震わせる。 首の愛撫に気を取られている間に、怪物の透明な指先が胸の頂点の乳首を捕らえる。ぶよぶよとしたゴム手袋状の指先が、右に左に乳首を揉み転がしていく。10本指の手で愛撫されるというのは、まずあり得ない体験だろう。 連続で体をくねらせ、つっぱらせてマユミは悶えた。 「あああぁ――――っ! あっ、あっ、あっ。ああっ、きゃ、んんっ! ん、あぁ……」 (イってる。イってるのね、何度も、何度もああやって体を愛撫されて…。ああ、マユミ) 相変わらずグロテスクな光景だが、アスカはいつしかシーツの束の上に座り込み、マユミの痴態から目をそらすことも出来ずに自らの股間に手を沿わせていた。今はまだソフトタッチだが、マユミへの行為がエスカレートするに従い、行為は激しくなるだろう。 その時を恐怖しながらもアスカは待ち望んでいる。 レイの絶頂を見た時にも感じた、暗く濁りながらも熱い感覚が自然に股間と背中を疼かせる。 (ああ、マユミ、マユミ…。そう、ずっとその顔が見たかったのよ。あんたが、シンジの恋人の一人だなんて、悪い冗談だって、ああ、あなたなんて、精々が、そこらにごまんといる底辺の男と、ひぅぅ) 底辺どころか、一気に飛び越えて怪物が結婚相手だなんて! アスカの繊細な指先が包皮から剥き出されたクリトリスを優しく触っている。 情欲の熱に翻弄されながらも、アスカは堕ちていく親友の姿に興奮を隠せなかった。 「あ……ぅっ、いぅっ…………はっ…はっ…あっ」 じわじわと快楽が細胞を侵食し、神経を冒していく。全ての神経が快楽しか感じないと錯覚するほどに強烈な官能で全てが支配されてしまう。 (ああ、また。胸は…胸は、いや…。いやなの…に) 「う…うっ、くぅ。んあ……うぅ…ひぅ」 粘土細工のように思うさま揉みしだかれ形を変えながら、ブルブルと乳房が揺れる。締め上げる触手の隙間から乳首の先端を溢れさせ、繊毛を生やした触手がずるずるとマユミの全身を這い回り、白い肌にピンク色の筋を残していく。 ベッドがギシギシと激しく軋み音を立てる。 ハァハァと喘ぎとともに上下するマユミの胸が、差し出すようにつんと突き出される。屹立した乳首がぶるぶると汗の飛沫を飛ばして揺れる。 「はぅ、あぅ、ああ…」 荒い息を吐いていたマユミは涙目をぎょっと見開いた。汗と粘液で濡れ光る乳首を指で揉むだけでは飽きたらず、先端が海ユリ状になった触手がそろそろと差しのばされている。海ユリ触手は点滅するように透明と灰色状態に明滅を繰り返している。 「あっ、くっ、んあああっ」 間近で目にして明滅の原因と目的を知り絶望に呻くマユミ。触手の内側で、長さ1cmにも満たない透明な繊毛が定期的に蠢動を繰り返している。だから動いていない時は透明で、動いている時は灰色になっているのだ。 (はぁぁっ。あっ、ああっ…。いや、いやいやいや…。しないで、そんな、酷いこと、ああ、お願い…) 髪を振り乱す勢いでマユミは首を振った。 だが容赦なく触手はマユミの乳首を包み込むと、強く上に引っ張り上げた。袋の内側で一斉に繊毛は蠢き、吊り上げながら全体をこね上げていく。 「はっ、はひ、はっ、はひっ、ひっ、ひっ、ひぃああぁぁぁ」 (酷い、酷いわ、そん、なっ、ことぉ…! あひぃぃぃっ、吸われ、るっ。揉まれてる――っ!) これは知っている。実物を見たことがあるが、それは人間に対してする行いではない。 これはまさに搾乳だ。いくら牛みたいに大きいと言っても、こんな屈辱的なことをされるなんて、とマユミは屈辱と快楽に震えた。 マユミが睨み付ける視線の先で、膨らんだ先端部がもごもごと牛の反芻みたいに蠢き、赤く充血した乳首が吸い出されていく。 「あああっ、んんあああっ! たすけ、てっ。助け、助けて、アスカさん、綾波さん、マナ!」 ちゅうちゅうちゅくちゅくと音を立て、乳首のみならず、興奮で盛り上がった乳輪や乳首のブツブツまでも左右同時に味わわれていく。 染み一つ、黒子一つ無い白い乳房は粘液で濡れ光り、人の手では再現不可能な形に揉まれ、母乳ならぬ淫乳を絞り上げられて淫蕩な臭いを放っている。 スタイルに自信のあるアスカであっても比べる気を無くす美巨乳が愛撫される光景に、アスカはほぅ…と溜息を漏らした。 (大きい胸に何本も触手が絡みついて、搾乳するみたいに絞り上げてる…。触手がもごもごって動いて、乳首を噛まれてるんだわ。ああ、凄く、エッチよマユミ。あんた、やっぱり、こういう顔してる方が似合ってるわ) 体験するわけにはいかないからマユミの様子から想像するしかないけれど、相当の快楽に翻弄されているのだろう。自分をマユミの立場に一瞬置き換え、ぶるりと体を震わせるアスカ。 最低最悪の相手に犯されるというのに、痛ささえも快楽にすり替えられ、喘ぎ、悶えさせられる…。 本来ならメロンのような球形をしている胸を砲弾のような紡錘形にさせられ、麓から先端部まで細胞をほぐすように全体を愛撫される。 引っ張られる力に比例するようにマユミの背筋は反りかえっていて、きゅっと尻が引き締まっていた。 「いぎぃぃっ。あ、ああっ。はぁ………あぁ…ぁ。あ、はぁ…………はっ…ううっ。あうぅ…んっ。 はぅ。…やっ。ぁぁ、ぁ。…………っあ!?」 やめてと言っても聞き届けてくれるわけがない。かえってマユミの声では嗜虐心を刺激するだけだ。 想像通り勢いを増した触手の愛撫に、細い柳眉を八の字にしかめてマユミは涙をにじませる。止めどなく涙が溢れて止まらない。胸が溶けたような疼きと熱で頭の中が真っ白になっていく。 「あううぅ………ん、あうぅっ。 あんっ、いやぁぁ、やだっ。ああ…いやです。だれか、たすけ、たすけてっ。……お願い、お願い」 紫色の触手の中でマユミの体が大きく上下し、扇形に広がった髪の毛が千々に乱れ、汗の滴が四方に飛び散った。黒い長髪は暗闇の中だというのに、余計に目立って見える。ぐちゃぐちゃじゅぐじゅぐと湿った音が周囲一帯に響く。口の端から艶黒子を濡らす涎を流し、大きな叫び声を上げてマユミの体は痙攣した。 「いやああああぁぁぁ。………ああぁぁぁ。……やだ。そ、んな、や、いやよ。そんな…のっ。いっちゃ、だめっ。 ダメなのに、あ、ああ。そんな、そっ。 やぁぁぁぁ。あっ。ああ、あっ、あっ、あっ、あっ、ああぁ――――っ!」 拷問の末の断末魔といえど、ここまで悲痛な物ではあるまい。 だがその叫びにはどこか退廃的で甘い響きが混じっていたことを、アスカは聞き逃さなかった。 (また、また何度も何度も、連続で絶頂している…。レイと同じ…胸だけをいじられて、イっちゃってる。なんて、なんてはしたないの。そんな様で、シンジのことを好きだなんて、身の程知らずに) 怪物の愛撫でよがるマユミの姿に、アスカの顔が病的な笑みを浮かべる。 心の中で何度も、適格者時代の上司のように罵りながら、マユミに負けないほど全身を奮わせて忙しく股間をいじり回していた。 (無様よマユミ。ああ、もっと、もっと無様な姿を、見せて) もっともっと身分不相応な立場に一時でもいたことを、償ってみせて。 マユミを助けることも忘れ、自慰にふけりながら、アスカは凌辱劇に耽溺していった。そう、まだまだ。まだ足りない。もっと、もっとレイの時と同じくらいに惨めな姿をさらけ出せ。そう何度も呟いた。 (あ、ああ…。つ、次の行動に、移るのね。いよいよ、なのね。レイみたいに、太い、ペニスで犯し…て) 包皮の上から自らのクリトリスをいじりながら、期待を込めた瞳のアスカは腰を浮き上がらせ、喉を鳴らした。 いよいよ、本番だ。 初出2006/07/16
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