−21(承前)
「でも、リツコさん、アスカがそんな風に傷つけられてしまったのは解ります、けど、何か手だてが有るんでしょう?
だからこうして僕を呼んだんじゃないんですか?」
「……正解よ、シンジ君」
「リツコ?じゃあ……」
ミサトが声を明るくする。
まだ救いがあるという事に――そして、それにシンジが気づけたという事に。
「確かに、アスカは調教――言うなれば洗脳を受けてしまったようなモノだわ。
でもね、所詮は素人が経験則だけでどうこうしようとしたものにすぎないし……使われた薬物にしても、質の悪い――まあ、かえってたちが悪くもあるのだけれど――そんなものにすぎないの。
だから、前後数日分の記憶を余分に潰さなくてはならないとはいえ、それを上書きし直すことは十分可能よ」
「じゃあなおるんですね!!」
「……勘違いしないで、あくまで「上書き」よ」
「上書き?」
ぴんと来ない表情のシンジ。
「アスカの今の状態、調教されてしまった性奴という記憶は変えようがないわ」
「なら、なんで「あなたがするのよ、シンジ君」
「え?」
「今のままではアスカは壊れるわね……セックスできさえすれば後はどうでもいい、どうだって構わないと云う状態になってしまっているわ。
だから、どうしても「ご主人様」が必要なの、アスカを律してあげられる……ある意味、以降の人生を背負う人間がね」
「それを、僕に?」
「……強要はしないわ、シンジ君にも選択の自由はあるもの。
何より、これはアスカ自身の問題よ、あなたが責任を負うべき理由はないわ。
それに、このままアスカを眠らせて死に至らせるのも、起こして果てしない乱交の果てにぼろぼろになるのだって、不幸だと決め付けられはしないもの。
だから、考えて。
「アスカをどうすべきか」ではなく「自分がどうしてあげたいか」を。
時間はまだ少しあるわ。
脳内に残留している薬品が抜けてしまうのが後3日という所かしら、それ以降になると経験が固定されてしまって上書きは不可能になるの。
出来るなら、その間に結論を出して……」
シンジは呆然とした足取りで部屋を出ていった。
だが、その顔には深く考え込んだ表情が。
大切な何かを考え抜いている様子が見て取れた。
「リツコ……充分、脅迫してるじゃないのよ」
「心外ね。
私は、きちんと「その人の人生はその人だけのものであって、誰もそれを肩代わりは出来ない」と教えてあげたもの」
「でも、シンジ君は優しいもの、きっとアスカを受け止めて背お「それは傲慢よね」
「……」
「その理由で出した結論だったら、私は許可しないわよ。
一時の優しさだけで、同情だけで人を背負う事なんて出来ないの。
まして、アスカはシンジ君を支えかえしてくれるかどうかも判らないのに」