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今日のご主人様は態度が妙だ。
いつも優しい……けど、それ以上にアタシを慈しもうとしている。
まるで、別れを惜しむかのように。
「……どうしたんですか?ご主人様」
「いきなり、どうしたの?アスカ」
「だって、今日のご主人様、何だか変なんですもの」
「……そっか、わかっちゃったか……」
アタシはその、どこか影のある言い方に不安を感じる。
「あの……どうか、なさったんですか……まさか……」
不安の正体。
捨てられるかも知れないと云うこと。
アタシは、こうなる前まで酷く孤独を恐れていたような感じがする。
今、こうしてご主人様に包まれる幸せを知った時点ではその恐怖は過去のものになっている――そう、遠いモノになっている。
けど、この言葉でそれがもぞりと心の底でうごめいた。
震えが始まる。
最初から盲いていたのなら、闇に耐えることもできる……けど、一度光を知って闇に引き戻されたとしたら?
その震えを、ご主人様の手が止める。
そっと頬を包まれ。同時に頭を撫でられる――まるで幼子のように。
そうされることでアタシの心はたちまちのうちに静かになる。
そのまま頬をすり寄せるように抱きしめられて耳元にささやかれた。
「心配しなくても良いよ。
ただ、僕は、今日アスカを解放するつもりだから」
「?!」
やはり捨てられてしまうの。
そう言いいそうになったアタシの唇を、ご主人様の唇がそっと塞ぐ。
ご主人様と今までしてきたような淫らな、技巧を凝らしたモノではなく、そっと唇の柔らかさを伝え合うような初々しい、対等の恋人同士のするようなキス。
少しして離され、じっと瞳をのぞき込まれながら語りかけられる。
「……選択するのは、アスカだよ。
この部屋を出て、そのまま自由になるか、それでもまだ僕の側にいてくれるのか」
今のアタシにはその選択は無意味だ。
「……アタシは、離れません……ずっと、ずっとおそばにいます」
すがりつくように?それとも包み込むように?
あたしの、その言葉と抱擁に、ご主人様は同じ行動で答える。
行為の後のけだるさの中、アタシはその幸せな空気を心と体の全てで味わっていた。
「……じゃあ、いこう」
「はい、ご主人様」
戸口の敷居の向こうで手をさし伸ばしたご主人様はその言葉にふと表情を固くした。
「アスカ、出来るなら、これからは名前で呼んでくれないかな?」
少し恥ずかしげな命令……ううん、お願いに、アタシは嬉しさが心に湧き立つのを感じていた。
だから、答える。
「はい……