海で触手(2)
Original text:なーぐる
悪夢に満ちた初夜は終わった。
「はあ…ひぃぃっ!」
仰向けに寝そべっていた背筋が仰け反り、哀切な泣き声をあげている口の端にはとろりとした唾液が垂れる。
日本人形のように整った顔は、内からわき上がる熱い熱でとろけている。熱く焼け付くような毒液が膣口から溢れるほど大量に注ぎ込まれ、ビクン、ビクンと女の体が痙攣する。
「は、は、はぁ…、ふあぁ」
生物の逞しい四本の腕に抱かれて、この地の海を統べる海神の花嫁たるマユミは快感の余韻に浸っていた。彼女の荒い息に合わせて豊かな胸は揺れ動き、流れる汗は全身を濡れ光らせる。
(も、もう、なにも…考えられない)
息をする僅かな動きでも、ずきずきと傷が疼くように体が痺れる。
未だ挿入されたままのペニスは全身を溶かす快感を染み渡らせる。普段の楚々たる姿から想像もつかない顔のマユミは、慈しむように下腹に力を込め、きつく緩くペニスを絞り上げて樹液を最後の一滴まで迸らせるのだった。
「あ、あんんっ。まだ、出てる。で、出てきてます。熱いのが一杯…いっぱい」
月は高く昇り、満ちた潮が二人の眠る岩室に寄せては返す。波が砕ける音を子守歌に、マユミはゆっくりと意識を失った。
「やめて、来ないでっ! いや、こんなのいやっ!」
夢の中でマユミは逃げまどっていた。
濃密な黒い海の中で、白い裸体をさらけ出しながら。
「いやぁぁぁっ! 私は、そんなこと望んでないっ! 望んでいません!
だから、見せないで下さいっ! 助けて、助けてシンジさん!」
心細さを誤魔化すように、自らの肩を抱いてマユミはうずくまる。体を丸めて小さくしたマユミは、きつく目を閉じ、必死になって周囲の悪夢から逃れようとした。
【認めろ、現実を…】
大地の底から響いてくるような声が聞こえる。耳を押さえてもその声は直接骨を振るわせているのか頭蓋に響く。
【認めてしまえ】
「いやぁっ! あんなの嘘です! 何かの間違いです!」
だが声は容赦なく、先程までのマユミの狂態を映し出す。
快楽で焦点の定まらない目をし、海神のグロテスクな愛撫に恍惚の表情を浮かべる姿。
別人のような喘ぎ声…いや、叫びをあげて獣のように髪を振り乱す姿。
愛しく思っていた男の事も、異形の嫌悪も忘れて全身で夫の体にしがみつく姿。
結合部からは処女を散らされた証である破瓜の血が、愛液に混ざって流れ落ちる…。
「ちがぁうっ! 違う、違います…。こんなの、わ、わたし、認めません。
みとめたく…うっ、ううっ。
誰か、誰か助けて下さぁい…。嘘です、こんなの全部、全部悪い嘘なんです。私は、そんな淫らじゃ…。
壊れる、壊れちゃう…お願い、誰か私をこの地獄から連れだして…」
かつて使徒に寄生され、死を願ったときでもこれほどの絶望ではなかった。
シンジがあの時はそばにいてくれたから。頼ることができたから。その手の温もりと優しさを感じられたから。
だが、シンジはこの場にいない。
(シンジさん…シンジさん、助けて)
シクシクと幼子のように泣きながらマユミは何もかも消え去ることを願う。
夫である海神との初夜も、人外の器官で処女を奪われたことも、快楽に何もかも忘れてしまった事実。
なにより、自分自身が消えることを願った。
マユミの血を吐くような慟哭を聞き入れてくれたわけではないだろうが。
声は聞こえなくなった。
でも、目が覚めれば?
「はぐぅっ!?」
唐突にマユミは悲鳴を上げた。
内蔵が喉にまで突き出るような激しい圧迫感を下腹部に感じる。圧倒的な存在感は夢の世界から一瞬で彼女の意識を現実に引き戻した。見開かれた目には戸惑いが浮かび、条件反射で華奢な体を縮ませる。
「ああ、あああっ!? な、なに…がっ!? ああ、あう! あはぁ」
涙の跡の残る顔には戸惑いと、突然わきあがった快感への喜悦が浮かぶ。
のろのろと圧迫感の源に目を向けたマユミは、直後ぎょっと目を見開いた。
「なっ!?」
大きく開かれた股の間、淡く陰りがはえる秘所に赤黒い物が見える。
きつい締め付けを押し開きながら、じゅぷじゅぷと水音を立てて何かが出入りしている。
「あああ、ああっ。入ってる…はいって。いや、いやぁ―――!
私犯されてるっ! 痛い! 痛いわ!
こんな、こんなの、誰か、助け…て」
グロテスクなペニスが容赦なく控えめな秘唇を割り開き、膣の全てを蹂躙しているところだった。長大なペニスはマユミの胎内を隙間なく擦り、えぐる。いきなりの挿入で感じていた痛みがたちまちの内に消え去った。昨晩の愛液がまだ内に残るマユミの体は、たちまちの内に反応した。
「はぁっ…あっ!
あ…あ、ああ。奥に…い…いやあっ、いやっ、いやっ! お願い、助けて! シンジさん!
い、やぁ…」
叫び声に驚いたように海神の動きが一瞬止まった。
彼からしたら新妻への朝の挨拶代わりのつもりなのだろう。ただし、普通の新婚がする恥じらいのこもったキスではなく、獣欲に濡れたペニスがプレゼントなのだが。
「だ…だめ。やぁ、や…だぁ」
気が遠くなりそうな恐怖から新妻であるマユミはなぜかほとんど力の入らない足を閉じ、肉の凶器から逃れようとする。だが、丸太のように太く逞しい生物の腕が膝を押さえ込んでいては、文字通り無駄な足掻きという物だ。
「はなして、はなしてぇ……ああ、お願い…しま……。ああ、こんな、こんな惨いこと、見せない、で下さ…い。
んあぁ、やめて、そんな」
徐々にマユミの叫び声は小さく密やかな呻きと替わり、海神の体を殴打していた手は押しのけようとするように彼の腕に添えられる。
同時に彼の律動も再開される。再び甘いマユミの声が響き始めた。
もっとも、彼女が抵抗をしてもやめても余り関係はなかっただろう。海草のベッドに横臥した彼女の体は、背中から生物に抱きすくめられてまったく自由が利かないのだから。
「はぁ、はぁ、はぁはぁ、あ、だめ……う、ううんっ…」
背中に吸い付くように押しつけられる生物の胸板は堅く逞しい。女ならそれだけでウットリしそうな雄の臭いを感じさせる。一方でヌルヌルとした胸毛のような触手が一面に密生し、舐めるようにマユミの背中を陵辱する。
脇の下から回された手が、飽きもせず揺れる乳房を弄ぶ。大柄の海神の腕から見てもおおきな胸は素晴らしい弾力だ。ナマコやクラゲ、イルカの生肉などに似ているが…そのいずれとも違う。ただ揉み続けるだけで気持ちが高ぶる。
「はぁ、んあぁ、んっ……くぅ……」
そして愛撫にあわせて漏れるマユミの啼き声が耳をくすぐる。
妻の喜びに彼はますますいきり立ち、執拗に愛撫を続けるのだった。
「はっ、はっ、はぁ。あんっ、あんっ……はぁ、はぁ、うっ、あぁ、くぅっ」
じわじわと広がる甘かゆい刺激に、醜悪な海神の美しき花嫁は遂に抗議と拒絶の言葉を忘れた。
「ああ…こ、こんな! いやっ…そんな、だめで、すっ」
(い、いやぁぁぁ、え、エッチすぎます)
快楽に惚けた意識は、古いビデオテープのように途切れ途切れになりながらも現実を拒絶しようとするが、目を開ければ異形の太く長大なペニスが、昨日まで処女だった秘所に淫らな水音を立てて出入りする様が嫌でも飛び込んでくる。今まで、性知識はあってもろくに自慰もしたことのなかったマユミは、まさか自分がそんなはしたない音を立てている…信じがたい事実をどうしても受け入れることができなかった。
ぐちゅぐちゅ、ぐっちゅぐっちゅ。
辛そうに眉根を寄せてくねくねと体をくねらせながら、マユミは意識がなくなることを願った。だが、意識が遠くなった瞬間突きいられるペニスの刺激が、じわり…と広がる乳首を愛撫される刺激が気絶することを許さない。
「はぁ、ああん、ううっ、ひんっ、ひああっっ……ああぁぁぁぁっ」
見たくない。こんな辛い現実は見たくない。こんなことあるはずがない。
そう思っても、どうしても目を離すことができないマユミがいた。
「あっ、あんっ、あんっ、はぁっ」
人間とは違いすぎるペニスが貪るように蠢くたびに、官能が全身を刺し貫く。たまらず『くっ』と呻きを飲み込みながら、かろうじてマユミは首をのけぞらせた。その動作は快楽に打ちのめされていた彼女に多大な努力を強いたが、少なくともこれで、犯されている自分を見なくてすむ。
にゅる、くちゅぐちゅ、ぐちゅぐちゅ…じゅる。
音ばかりはどうにもならないが。
「ああ、あああ、あはぁぁ。汚され…る。犯されてる。
ああ、私、私、や、めて…お願い、あああぁぁぁ」
小柄な体がゆさゆさと揺さぶられ、ぐっちゅぐちゅと粘つく水音が響く。
「あああっ! あっ、あっ、あっ、あっ、ああんっ!」
真っ赤になったマユミの顔が悲しみと羞恥、快楽に歪む。堅く閉じられた瞼からもう出ないと思っていた涙がまたこぼれた。それは羞恥と悲しさ、悔しさの涙だったのか。
「許して、あああああ…。死んじゃう」
肩越しに縋るような目。愛撫されるままに堅くとがり、自己主張する乳首。
汗はシャワーを浴びたように全身を流れ、懇願するように力無い喘ぎがマユミの口から漏れる。
声、潤んだ瞳、柔らかな髪の毛、白く艶めかしい肌…海神は妻の全てが誇らしかった。愛おしかった。
速く自分と彼女の子供が欲しい!
慈しむように生物はマユミの胸をぎゅ、ぎゅっと何度も揉みその柔らかさとゴムのような弾力を堪能する。そのじわんと痺れるような手応えは、彼に妻がもう絶頂を迎えそうになっていることを伝える。
彼はこの素晴らしい一時が終わることを悲しんだ。
その一方、全身が砕け散ったかと錯覚するような射精の瞬間を思い出し、唾を飲み込んだ。知らず知らずに喉のエラが開き赤い肉をのぞかせた。
予想を遙かに超えた快楽の奔流。それはマユミあっての物だと言うことを彼は理解している。
故にこそ、彼はマユミのことを何にもまして愛おしく思っている。
だからこそ、彼女に余り無理をさせられない。
気がつけば目が覚めてから半刻(1時間)近くも愛し合っていた。頃合いでやめるつもりだったが、奥へ奥へ引き込もうとするような妻の肉壺は極上だ。どうしてもやめる踏ん切りがつかなかった。だが、そろそろ食事をとらないと妻も彼も体力が持たないだろう。
名残惜しいけれど。
それまで円を描くように動いていた彼の腰の動きが直線的になり、ペニスの先端が執拗にマユミの膣の一点を責め立てる。ブダイが岩海苔をこそぐように幾度も幾度も。
そこを突かれた瞬間、マユミの脱力していた体が荒馬のように跳ね上がった。そここそ彼女の特に敏感な部分…Gスポットだ。
「んっ、はっ、あぁ! ひいっ、あっ、だ、めぇ」
突きこまれ、かき回されてだらだらと蜜がしたたり落ち、比例するようにマユミの嬌声が一層熱を帯びた。
糸の切れた人形のようになすがままだったマユミの体に力が入り、頭から爪先にかけてブルブルと痙攣しはじめる。
「ああ、あはぁぁぁ」
ビクン、ビクンとマユミの体が疼く。ぞくぞくとするような痺れが腰に抜ける。
同時にくぐもった呻きが溢れた。
「ふぅっ、う、ううぅっ!
ダ、だめぇええ……、で、す…ぅ。本当に、もうっ……いっ、イき、そう……っ」
せっぱ詰まった表情のマユミは「はぁはぁ、ふぁ」と特徴的な鼻に抜ける息を吐く。彼女の膝と乳房をつかむ生物の指先に力がこもる。
「ん……んんっ、やぁああ、んん……ま、待って、あ………」
ビクンと大きくマユミの体が震え、どろりとした青白い液体が二人の結合部からあふれ出た。人の精液とは明らかに違うヘドロのような液体は、異様に粘つきながらも重力にひかれてこぼれ落ちていく。
「ああ、熱い…」
夢でも見ているようにマユミは呻き、力無く海草のクッションに顔を埋めた。
妻の紅潮した寝顔を見つめ、海神は満足そうにペニスを引き抜いた。「あん」と可愛らしい声を漏らし、マユミは震える。だが起きる気力もないようだ。
そんな彼女の髪の毛を優しくなでつけ、眼鏡のずれを直してやった後、彼は身を翻してプールに飛び込んだ。愛しい妻のために、たくさんの獲物を捕ってこなくては。
そのころ、シンジは四苦八苦しながら船を操っていた。
漁師は1日がかりの距離と言ったが、それは熟練した人間が操縦しての話だ。素人の操縦ではどうしても余計な手間をとってしまう。
幸い、彼はエヴァンゲリオンの操縦を修得する際、色々なサバイバル知識を学んだため海図の見方や羅針盤と六分儀を使った位置と方角の確認方法を知っている。少々の遅れはあった物の、彼は確実に、マユミがいると思われる黒い岩礁に向かって近づいていた。
(山岸さん、山岸さん…。きっと、きっと助ける)
生きていれば、明日はきっと来る。その明日を、シンジは彼女と一緒に迎えたかった。
「あぁああ〜〜〜あああぁぁぁあああああっ」
長く間延びした悲鳴が空を裂く。その声は木霊となって、そう広いとは言えない岩室の中に響き渡る。
言うまでもなく、声の主はマユミだ。先程まで枯れるほど声を出したが、無理矢理唾液を飲まされて今はかすれのない良く通る声だ。爽やかな初夏の風のような美しい声。ただその声はどうにもイヤらしい響きに満ち満ちていた。
「はぁ、はぅっ、はうぅぅぅううぅ」
今にも力つきそうになりながら、彼女は自分がこんな声を出せるなんて…と場違いなことを考えていた。
ずりゅり
「はぐぅっ!」
刹那、余計なことを考えるなと言わんばかりに力強く突き込まれたペニスが、子宮の入り口を擦りたてる。
その行為に込められた意志を感じ取り、石柱にしがみつく腕に力を込めると、マユミは崩れ落ちそうになる上半身を必死になって支えた。
「はぁ、ああっ、も、申し訳…ありません。ふっ、ううぅ。がんばり…ます。
ん、やっ、ふ、ぎっ。あはぁぁ…」
律儀な彼女はどうしてもそう言ってしまう。
本当は口を開くと、むせるほど飲まされた唾液を吐き出してしまいそうになる。だがそれはできない。なぜなら、海神の飲ませる唾液だけが…彼の世界で彼女が口にすることのできる唯一の物だからだ。
恨みがましくマユミは体を揺らす。
マユミの喘ぎという美歌に、大きな乳肉が揺れてぶつかり合う奇妙な伴奏が重なる。
「あうっ……! あんっ、はぁっ、はあんっ」
より一層甲高くも甘いマユミの声が響き、大きな尻がブルブルと揺れる。
ある意味、マユミが秘所以上に恥ずかしく思っている部分を露骨に見ながら、彼はまた根本までペニスを挿入する。押しつけられたマユミの背中がまた一段と反り、体を支えている腕に力がこもる。
後ろを見返す目は、抗議するように恨めしげだ。
「き、きつい…。そんな、無理に…。あん……っく、うんっ!」
しかし、抗議はとても弱々しい。
海神に尻を向けて犬のように背後から犯されることは、彼女にとってどんなに屈辱的なことか。 本当にけだものに堕ちてしまったみたいで、それがより一層彼女を悲しませる。
「あ、あうう……」
狂いたい…。心に反して嬉々として凶器を受け入れる自分の体が呪わしかった。
愛してもいない相手の、人間でない相手のペニスがもたらす快感に酔い、高みに持ち上げられることを体は望んでいる。今もペニスが漏らす精液とは別の分泌液を甘い蜜のように求めている。
こんな犬が交尾するような格好で…。
尻を突きだし、ちょうど爪先が届くか届かないかの辺りにまで抱え上げられた腰に、尻肉が赤くなる勢いで何度も何度も打ち付ける。
ぐちゅりぐちゅりと淫靡な水音が響く。ボタボタと音を立てて二人の愛の結晶たる蜜液は結合部からこぼれ落ち、溢れた白濁の滝が内股を伝い、ふくらはぎを流れ、踵まで濡らして岩棚に粘つく水たまりを作っていた。ほとんどは海神が分泌した液体とは言え、マユミが溢れさせた愛液も決して少なくはない。
「あん、あん、ああっ、やっ、やっ、やっ、やっ、やぁっ! んっ、ふぅっ!
…うっ、うっ、うううぁぁ。ああ、あ、あん! くるし…いっ。
ふぅ、んんっ。きもち…………いい……けど、いや…ですぅ」
そして足下の水たまりが大きくなればなるほど、マユミは恐怖した。
太股から爪先までの全てがこの蜜液で濡れたとき、自分は壊れてしまうのではないか…と。
その証拠に、ぬらぬらと濡れれば濡れるほどに足は痺れ、力が入らなくなっていく。単に無理な姿勢と激しい性行為に疲れ果てた訳ではない。感覚はあるのに、力だけが入らなくなっていく…。まるで内側から何か別の物に作り変えられているような。
(ああ、いやっ。わたし、いったいどうなっちゃうの?)
その時、彼女は…人でなくなるのかも知れない。
「いや、いや……っ!」
恐怖する妻をなだめるように彼は重たく揺れる乳房を揉みしだいた。こね上げながら彼は目を細める…ことは物理的に無理だが、とにかく目を細めた。
上を向いていても形良く盛り上がっていたが、こうして重力に引かれて揺れている状態だとより一層その大きさが感じられる。Fカップ90オーバーの胸は、海神にとっても驚きのようだ。
執拗な愛撫で僅かに肥大し、完全に手に余る大きさとなった乳肉を手の平全体でも見ながら、ピンク色の乳首を指の間に挟んでほぐすように転がす。
「ひいっ、そんなに、つ、強く、いじらない、でぇ……っ」
左右の乳首を同時に愛撫されるのに弱いのか、快楽に飲まれまいとする毅然とした顔をしても、こうするだけで簡単にその顔も覚悟も何もかもがとろけてしまう。そのまま、良いだろう?良いだろう? と言わんばかりに海神はゆっくりとした間隔で腰を前後させる。
「あ、うう……やめて。ああぁぁあ、そんなことぉ。
あああぁ〜〜〜」
妻は子づくり以外に、この膨らみを触られると大変喜ぶ。
「うう、乳首がすれて………変に、変になっちゃう。ああ、やだ。感じたくないのに、感じるなんて…。こんな…の、嫌です。助けて、シンジさん……助けて」
彼は嬉しかった。こうやって胸の膨らみをいじると妻がとても喜んでくれるから。
そして妻を喜ばせると、とても嬉しくなる歌を歌い、綺麗な滴を目からこぼす。そして彼のペニスをきゅうきゅうと締め付けて、子供の源になる精液を吸い取るのだ。
とても嬉しい。一刻も早く子供の顔を見たいと思うのは、彼もまた同じだから。
さて、次はどうしたらもっと喜んでくれるだろう。
ふと、反り返ったマユミの背中を見つめる。乱れた黒髪が汗と粘液で濡れて張り付き、肌はピンク色に紅潮していた。
視線を感じたのか、悪寒が皮膚全体を駆け巡るのがわかる。皮膚の表面は恐怖が走っているのに、内側は肉欲で満たされてはじけそうだ。
このアンビバレントな状態を解決すれば、もっともっと妻は喜んでくれるだろう。
そのためには、これを使うのが一番良い。
彼は胸元で蠢くモズク状の触手を見つめた。
ボトリ、ボト………ボトボトッ。べちょっ
「な、なに!?」
いきなり耳に飛び込んできた奇怪な音と、背中の窪みに感じた生ぬるい熱にマユミはうなだれていた頭をもたげた。
この感じはまるで、まるで……。
マユミは混乱した。
この背中をはいずる気味の悪い感触に喩えられるような何かを、彼女は全く知らない。近い何かに喩えることもできない。ただそれがもたらすほのかに心地よい刺激に、小さくマユミの体は揺らめいた。強引に突き狂わされるのとは違う、控えめな高ぶり。
その不意打ちのような刺激に、はっきりとマユミは悶えた。ぶるっと体が震え、右に左に豊かな尻をくねらせてしまう。
「あ、あ……っ、な、なにっ……が」
戸惑っている間にも、その気味の悪い感触は背中一面に広がっていく。
ぞわぞわぞわぞわ。
強ばった背筋をほぐすようにぞわぞわぞわぞわ。
潮を流すこともできず、赤くなった皮膚を労るようにぞわぞわぞわぞわ。
背中から尻に、尻を乗り越えて太股に、膝に、ふくらはぎに。
横腹を通って胸に、腹に、肩に、髪の毛の間に、うなじに。
(なに、なんなの? ああ、そう…なにか…小さな虫みたいなのが)
もう耐えられない!
見たくはない。確認したくはない。
きっとろくな事はないから。
しかし、何も知らないままこの新たな刺激に晒されたままでいるのも我慢ならなかった。突き入れられるペニスの堅い感触を一瞬忘れ、マユミは首をいっぱいに回して背中を見た。
「ひっ……い」
見開かれる瞳に恐怖が浮かぶ。
吐き気を催す嫌悪が全身を貫く。
「いやぁぁぁ――――――っ!」
マユミの体中に、赤く小さな…ナメクジのような生き物が無数に張り付いていた。
「いやっ、いやっ! はなして、取って! やだ、やだ、いやですっ!」
瘧のようにマユミの体が震え、必死に海神から逃れようと必死になって暴れた。数時間前の愛の儀式ですっかり刈り取られていたと思っていた抵抗。文字通り、彼女に残された最後の力だった。
力の入らなくなった足を動かそうと意識を振り絞り、胸をつかむ腕を剥がそうと必死に爪を立てる。そして手の届くところにいた紫色の唇を引き剥がし、叩きつけるように遠くへ投げ捨てる。
ぎゅり…っ
「ひっ、ぐぅっ!?」
鉄串を刺されたような激痛が走り、マユミの抵抗は終わった。胸を揉んでいた指先が、寸前までの優しさをかなぐり捨てて胸の双丘を握りしめたのだ。愛撫の繰り返しですっかりとろけていても、内に芯を残した乳房だ。指の痕がつくほど強く握られたら、その苦痛はいかばかりか。
「はっ……あっ、あっ……ああっ」
苦痛による嘔吐感、それに伴って口の中に溢れる唾液がだらしなく開いた口からぽたぽたと零れる。
息をすることもままならず、マユミは喘ぐように空気を求めた。
マユミの動きが止まったことを確認すると、不愉快な気持ちを隠そうともせず、ゆっくりゆっくり…おいたの過ぎる妻が恐怖に脅えるくらいゆっくりとペニスを引き抜き…カリ首が覗いた刹那、突き刺すように根本まで挿入した。
「うあぅっ!」
内蔵が喉に出そうな凄まじさ。
衝撃でマユミの背骨は折れそうなほどに反り返り、柱をつかんでいた指先は痙攣したように震えた。
それで完全にマユミの動きは止まった。
海神の…夫の意志は明確だ。大人しく、この気味の悪いナメクジに体を舐めさせろと言いたいのだ。
「うっ、うううぅっ。いやぁ、虫…いやぁ、ナメクジなんて…見るのも嫌なのに」
海神の分身であるナメクジが体中をはい回る。
汗を、飛び散った蜜液を舐め取りながらじゅりじゅりと粘液の跡を付けながら。
「ひぅっ、ひっ、ひぃ」
ビクリと体がすくんだ。
幾匹かのナメクジが、恐怖に堅く閉ざされている尻穴に興味を示したのだ。尻たぶの間に溜まった蜜液を吸い取りながら、勃起した性器のように固くなった頭で強引にこじ開けようとする。
「いや、そこ、そこダメ! ひぁっ……!?」
うなじに達したナメクジが、鎖骨に沿って汗を舐め取り始めている。そして大小さまざまなナメクジは乳肉を縦横無尽にはい回り、特に大きな個体がぶよぶよと大きな口を開けて乳首に食らいつく。ちゅうちゅうと母乳を吸い出そうとするようにナメクジは何匹も乳首に集まり始める。
それを援護するように海神の指がマユミの胸をぐにゅぐにゅと音がするほど弄ぶ。先程のような苦痛でなく、じわりと広がる甘く熱い快感がマユミの意識を溶かす。
「はぁぁん、お願い、そんなにしないで……胸は感じすぎて、ダメ…なっ」
マユミの体が弛緩した瞬間、肛門をほじっていたナメクジは遂に進入を果たした。マユミが息を吐く間も与えず、ずるりずるりと体を半ば潜り込ませる。ぎゅっとマユミの菊座がすぼまった。
「ひぃぃぃっ! い、いああっ!?」
胴体の半ばを締め付けられ、ナメクジは腸の中で暴れる。体を千切られそうなのだから、その抵抗も当然なのだがその動きはマユミに別のことを意識させる。
薄い肉を通して、ナメクジとペニスの感触を痛いほどに。
「あ………ああ、あ」
犯されている…!
絶え間ない注挿で痺れ、麻痺していた膣の感覚が一瞬で蘇った。改めて犯されていると言うことがマユミの意識を焼く。
火がついたように彼女の全身は熱くなり、性の悦びを感じて愛蜜を滴らせてしまう。
「ああ、あぁぁ。助け…たすけて、シンジさ…ん」
改めて愛液が膣を濡らす。本能的に愛しい男の名前を呟くが、それは何の助けにもならなかった。
「あ、あ……っだ、め」
呵責な動きで海神のペニスが出入りする。歪んだ楕円を描き、蜜液をこそぎ出すように鋭く深くえぐる。
パンパン…と腰のぶつかる音が「にちゅにちゅ」と淫らな水音に負けないほど響く。嬲られ弄ばれる啼き声が切なくも美しい。
もういつまでも体を支えてはいられない。柱をつかむ腕は痙攣を起こす寸前だ。潤んだ瞳で夫を見上げるマユミ。彼の答えは雄弁だった。
もうすぐだから、一緒に行こう…。
言葉でなく行動でそう言いながら、恐怖と恥辱に慄くマユミを見つめていた。
「……あ、あっ」
その事実はマユミにどう受け取られたのだろう。
彼女の口から、せっぱ詰まった途切れ途切れの喘ぎが聞こえた。今までの物とは明らかに違う、処女や童貞なら聞いただけで達してしまいそうな声。ずり落ちそうな体を必死になって支えながら、マユミの口から諦めにも似た吐息が漏れる。
(あ、ああ…また、またぁ)
皮膚を剥がされ神経が剥き出しになったような快感に、マユミは当惑し始めていた。明らかに性感帯とは違うところにまで、熱いざわめきが生まれている。そのざわめきは滴をこぼすようにある一点に集まっていく。
花芯の奥、ペニスが出入りを繰り返す快感の源…。
「ああ……ゆ、許して」
ビクン、と体が震える。
燃えるような熱さが子宮を焼く。
「もう、もう! 本当に、もうっ!」
チカチカと瞼の奥で光が瞬き始める。
(ああ、来る…)
今までの愛の儀式で2度見た、あの形容不能の光が意識の闇から…。
どうせ逃れられないのなら…。少しでも早く終わりにしたい…。
そう覚悟した瞬間、またマユミの秘所が熱く濡れた。
淫乱な肢体をくねらせ、快感を貪るために密着するほどきつく尻肉を押しつける。
マユミは自分が誰かを忘れた。考えることができなかった。
猛々しく粘膜を擦りあげるペニスの動きに、双丘を弄ぶ中年男のイヤらしさを持った指先の愛撫に、全身を舐め回すナメクジのために。特に全身を舐め回すナメクジの感触は耐え難い。
獣のような姿勢は今の彼女になんと相応しいことか。海神は全てを忘れたがっている妻の望み通り、心も体も全てを飲み込むように激しく突き始めた。
「あ、あひ……んっ、ん。あ、い……イっ! イきそう、ですっ!」
白い腹が波打つように蠢き、伴侶である牡を決して逃さないよう淫らな膣は強く締め上げる。
「ああっ」
夢見るような顔をしてマユミは淫らに腰を振った。もっともっと強く海神を…夫の存在を感じるために。もっともっと気持ちよくして貰うために。
「んくっ、んっ、ひ、ひぃ! ああ、気持ち良い…良すぎる…。ああ、いっちゃう」
全身の細胞がとけていく…。
そう彼女が思った瞬間、内側で痛いほどに膨らんだペニスから熱い命の固まりが迸った。精液の奔流は膣を激しく刺激し、この世の物とは思えないほどの衝撃がマユミを更なる高みへと持ち上げる。
「はあ……あ、あ―――っ! ああっ! 凄い、ああ、この感じ、ふか…いっ! 奥に、あたって!」
マユミの腰が淫らに震え、その震えが止まらない。ビクン、ビクンと淫らに踊る。
そして海神の精液とマユミの愛液が、彼女の体の最も奥底で混じり合う。
奇妙な幻視を見たような気がした。まったく違う二つの光が混じり合い、一つに解け合って…。
「……あ、あう、はう」
先の二回の性行為も凄まじかったが、これはそれを遙かに越える絶頂だった。
遂に支えきれなくなった腕から力が抜け、ずるずると前のめりに体が崩れ落ちる。
再び意識が闇の中に沈んでいく。
(あ…嘘)
その時、彼女はどこか遠くで自分の名前を呼ぶ声を聞いたと思った。
波の音に混じって、山岸さんと呼ぶ声が…。
(シンジさん。夢でも、幻でも…良いです。今だけ、今だけあなたを…感じさせて)
意識を失ったマユミの寝顔は、不思議なことにとても穏やかに見えた。まるで母親に守られて眠る赤子のように安心しきった顔をしていた。
一方、海神は露骨に怒りの表情を浮かべていた。
誰かが彼の縄張りに入ってきたのだ。
そう、マユミの聞いた声が幻聴ではなかった。
それだけでも万死に値するというのに、この侵入者が大声で呼んでいるのは明らかに彼の妻だ。言葉の意味は分からないが、本能的に彼はそのことを悟った。
許し難い行いだ。
彼は決意した。この不埒者にはただ普通に死を与えるだけではすまされない。
考え得る限り最も残酷で苦痛に満ちた死をくれてやらなくては!
そして…。
妻にも罰を与えなくては。
今まで全身全霊で愛してやったというのに、まだどこかで妻は自分を拒絶している。これから先、何回も何十回も愛して子供を作っても、妻は全て彼に捧げたわけではないのだ。
心をどこかに残している。
ならば…。
陰惨に海神は笑った。妻が自分から奉仕するようにするために、精々この不埒者を利用してやろう。
From:触手のある風景