Returner Rei

Original text:引き気味


EPISODE:04 Hedgehog's Dilemma

「結界が解けた時にはもう使徒の姿は消えていたわ」
「そう……。前回と同じね」

「だからと言ってそれで使徒を殲滅したって言っちゃうのもどうなのかしら? 残骸の一欠けらも無い。吹き飛んだというにはそんな痕跡の一つも残っていない。よっぽど、どこかに逃げたと言う方が自然だわ。これで誰が信じるって言うのよ?」

第4の使徒殲滅が宣言され、一帯の封鎖や市民達への避難命令の解除。
各種の細々とした後始末を指示し、零号機に収容された少女への一通りの事情聴取の立会いを済ませたミサトは、漸く一息入れる余裕が出来たのか、病室の親友をその愚痴の相手に付き合わせていた。

ドグマから惨々たる有様で救出されたリツコは、まだ仕事に復帰できる状態ではなかった。
今もベッドの上半分を椅子のように起こして話を聞く姿勢を見せてはいたが、どこか上の空の呆けた空気をまとっている。
それでも、そんな意識とは裏腹に、知識と思索を何より求め続けるその頭脳は健在なのか、ぼんやりとした目を向けては要所要所を尋ね、考えをまとめているようだった。

「その後、使徒がどこかに移動した痕跡は見付かっていないんでしょう?」
「ウチは勿論、強羅の先に陣取っていたUNや戦自の監視網でもね」
「そう。なら……、零号機のATフィールドに取り込まれてそれっきりだったのなら、それは零号機に倒されたという事なのよ」

それで何が問題なのと。

「死骸が無いのなんて、……そうね。零号機が食べてしまったとでも言ってやればどうかしら? だって人造人間ですもの」

ケラケラと笑うリツコは、やはりまだどこかに精神の均衡を置いて来てしまっている様に見えた。
そんな朗らかな顔なんて久しく見ていなかったから、それで異様に思えたのだと言っては怒るかもしれなかったのだが。

「使徒なんて、ワケの分からないことの塊よ。死んだら消えてしまった、それで良いじゃない」
「……そんな使徒もいたわね。MAGIの時のやつとかさ?」
「そうね……。そんな事もあったわね……」

あっさりとリツコは認めた。
そう応じる事で、自分も「還って来た」人間なのだと。

親友はやはり調子を取り戻していないのだろうか?
碌な鎌掛けにもなっていなかったのにと、拍子抜けに感じたミサトだったが、或いはそうかもしれない思い直した。
元からハズレは無いだろうと踏んでいたのだし、ミサトだってその言葉で自分も帰還した人間だと伝えたのと同じなのだ。

考えればお互い、殊更に隠しておく理由も無い。
それに、同じ時間を過ごしてきた相手が居るのなら、それはかえって気が安らぐとも言える。

―― 互いが唯一を争うライバルでなければ、だが。

(或いは共闘出来るかもしれないわね。途中までにせよ……)

仮にも親友なのだ。
殺し合うだの、憎み合うだのは出来れば避けたいとも思う。
可能性を推し量ろうとするように目を細めたミサトだったのだが、その親友はと言えば、

「いい加減止めなさいよ、リツコ。みっともないわよ?」

ぼんやりとした瞳はどこか潤みがちで、熱も無いのにほんのり上気して色めいている。
胸元に当てた手はなにやらマッサージのようにゆるゆると、『はふ』と妙な吐息を漏らしながら、シーツの下でも太腿の間に挟んでいるらしい手でもぞもぞといじくっているのだった。

「そうね……。分かってはいるつもりなんだけど、多分アレに犯された影響なんでしょう。火照ってしょうがないのよ」
「マヤちゃんもね、今はアンタの代わりもしなくちゃならないからって大変なのよ? 見舞いに行く度になんだか生臭くして帰ってくるし……、忙しい時にあの子まで変にしないでちょうだい」

白い目を向けるミサトに、リツコは『それがねぇ』と物憂げに溜息を吐いて見せた。

「あの時の貴方の気持ちがはじめて分かったというか……。ほら、覚え始めの頃が酷かったじゃない。リョウちゃんと一週間も篭って……」

訥々と語りながらも手の動きが止む事はない。
ミサトにすれば同性の自慰―― まして親友のそれなどは気恥ずかしいものでしかなく、次第に妖しい熱をこめ始めたリツコの声に『これはちょっと、当分だめかも……』と、共同戦線のプランを放棄してしまっていた。

「私もね? 経験が無いってわけじゃないのだけど、こんなに好いと思った事は無かったわぁ……。あの子ったら本当にはじめてだったらしくてね。女の私が処女を貰えるなんて思っても見なかったし……。うふふ」
「処女って、ちょっとリツコぉ?」
「こう、指で破ってあげたら可愛い声で鳴くのよ。センパイ、センパイって縋り付いて来て、なんだかこんなに慕ってくれてるんだぁと思ったら、じぃんときちゃって――
「……ダメね、こりゃあ……」

次第に流し目に自分に寄越す視線も怖くなってきたミサトは、そそくさと部屋を辞したのだった。

「問題はレイか。マヤちゃんじゃ不安だし。レイを抑えるとしたら……、やっぱりシンちゃんしかないわよね……」



◆ ◆ ◆



―― おかん。

ワシが悪かったと少年は瞼の母に泣きついた。

(反省しとるから勘弁してぇな〜)

病室が静かなのは結構なことだろうが、おどろおどろと、騒々しい以上にカラダに悪そうな空気を充満させられては堪らない。
只今包帯ぐるぐる巻き状態の鈴原トウジは、いっそ泣き出したいような気分なのだった。

「…………」
「……え、えぇっと……」
「…………」
「……その……」

少年のベッドを挟んで級友の少女が二人。
むむむむっ、と綾波レイが睨み。
あうううーっ、と洞木ヒカリが弱っている。

ベッドに縛り付けられてあくびを堪えるしかなかったトウジの元に、まず訪れてきたのは綾波レイだった。
大した付き合いも無い筈なのに、それどころかまともに口を聞いた覚えすらないこの無口な少女だが、ぼそり『……見舞いだから』と言われた時には、正直悪い気はしなかった。
両腕両脚複雑骨折だとギプスに固められて吊るされて、さらには首もマズいと固定されてしまっている。
それだって奇跡のようなケガの軽さだ、感謝しなければと言い含められてはいても、身動き一つ付かぬ退屈さは少年には辛すぎたのだ。

そこへわざわざ、少々得体の知れないころがあるにせよ、綺麗な女の子が見舞いに来てくれたのだ。
喜びもすれば舞い上がりもする。

『そ、そうか……。わざわざ悪いのぅ』

えへへと、少しは鼻の下も伸びていたかもしれない。
ところがそれでと、傍の椅子に腰掛けたまま、それっきり口を噤んで何をするでもない。
ひたすら「黙って見ているだけ」の綾波レイである。

話しかけても『そう……』だの、『良かったわね』、『分からないわ』の繰り返しで、曲がりなりにもそれを会話と呼べるなら、クラス組み以来の最長記録かもしれなかったが、中身は相変わらずの空っ欠だ。
困惑も極まって、なんやこの女と辟易し出した頃にまたやって来たのが、これまた仲が良い訳でもなかった筈の洞木ヒカリなのだった。
『学級委員だから。その、一応……』と。
こちらは見舞いらしく花束を抱えて入って来たのだが、救いの神やとトウジを喜ばせたこの少女も、ドアを行儀良く静かに閉めて振り返ったところでピシリと固まってしまった。

以来、妙に鬱陶しい世界を作って、この少女二人は睨み合い―― と言うには、ヒカリの方は弱気に目を伏せているのだが―― を続けているのだった。

「……どうしてそういう事をするの?」
「……その、ええっと……痛かったのよね……」
「……どうして?」
「……わ、私、気が動転してて……ご、ごめんなさい……」
「……どうして?」
「……ほ、ほら。怪獣だから……、ね? 虫だったし……」

『怖かったから、良く覚えてないの』と、ただただ逃げを打つばかりのヒカリだったが、それで納得してくれるほどレイは聞き分けの良い性格はしていない。
なにやら恨みがましく、俯き加減の赤い上目遣いで睨まれ続ければ、まだまだ幼い14の女の子としては涙目にもなろうというものだ。
この洞木ヒカリという少女、そこまでレイと遣り合えるほど気は強くない。
それに、日頃この鈴原トウジという少年にして見せているような強気に出るには、後ろめたいところを充分自覚してもいたのだから。

この日三組目の見舞い客が病室を訪れたのは、幾度目かの詰問にヒカリが弱り果てていたその時だったのだ。

「えぇと、トウジ―― くん? 一応お見舞い……」

なんだけどと続けようとして、シンジはじわと目を赤くして俯いてしまっているヒカリを見付けてしまった。
何故かレイが詰め寄っていて、鈴原トウジは不甲斐なくも向こうを向いて知らん振りをしている。
『男らしくない……』と、シンジの後ろから入ってきたマユミは思った。

「委員長? ……なにやってんのさ!」

シンジはレイを睨み付けた。
彼女がヒカリを泣かせていたのだと、そうとしか思えない構図だったからだ。

「なんでそんな事するんだよ! あやな―― 、っと「綾波さん」」

カッとなりながら、それでも言い慣れていたのと同じに呼び捨てにしてしまって良いものかとたたらを踏んだのは、激発し切れないシンジの気の細さだった。
綾波レイが自分たちと同じ様に繰り返しているのだとは、まだ確かめたわけでは無かったのだから。
しかしそこで、綾波「さん」だと、そう呼ぶべきでしょうと誘導したマユミのそれは、単なると言う域を越えた意地の悪さだった。

―― 牽制とも言う。

「……どうして……そういうことを言うの……?」

ここに居ればと、待ち兼ねたシンジは優しくなくて。
それこそ泣けてくるのはレイの方だったのだが……。

いかにもそこが定位置なのだと、シンジの一歩引いた横に寄り添うマユミ。
その余裕綽々に見える微笑みが、無性に癇に障る。
思えば、何かを人に分かって貰いたいと、レイにはこれ程必死になった事は無かった。
それだけにどう話せば良いのか分からず、結局誤解を解く事は出来なかったのだが。

(ケンスケはまだ意識も戻らないって言うし……)

どうして助けてくれなかったのさと、シンジが甘えた事をも思って機嫌を悪くしていたのだとは知る由も無い。
何かと報われない想いは胸にぐるぐると渦巻いて、

―― ガン!

がっくりと肩を落として俯き加減に、休憩所の自販機を蹴飛ばしてしまうレイだ。
敬愛する相手を馬鹿にされればカッとなって平手打ちもするように、見掛けによらず激情の少女なのかもしれない。
通りすがりの看護婦は眉を顰めていたし、そのやさぐれ様には、シンジを目当てにやって来たミサトにも声を掛ける事を躊躇わせるものがあった。

「うっわ……。やけにイライラしてるのね、レイ。……レイぃ、い?」

なにやら影になった目元から、目線だけを上げて赤い瞳がじろりと。
何をしに来たのと篭った声に、ミサトはくるりと道を引き返したくなったのだった。



◆ ◆ ◆



崖っぷちの風がそこらの草をカサカサと言わせながら、荒んだ気持ちのレイを吹き抜けていく。
何処とも知れぬ山道からは、第3新東京市のビル群がやけに遠く見下ろせた。

「どうして……?」

レイは呆然と呟いた。
勿論、応える者はいない。
バサバサと山腹の木を鳴らして鳥も飛び去っていく。
啼き声は何故か、あほーあほーと聞こえた。
まだ時刻は夕方には遠かったのだが。

「どうして……?」

レイはもう一度呟いた。
話が違うわ、と。

シンジに手酷く拒絶されたショックは、一晩明けても尚癒されてはいなかった。
本当ならばと、レイは流離う内に迷い込み込み、翌朝までを過ごしてしまった映画館での目撃を思い出した。
二、三列前の席に座っていたそのカップルは、デートコースの最後まで回りきる前に盛り上がってしまったのか、それともはじめから人気の無さを当て込んでいたのか。
レイにとって貴重な男女の「実例」を披露してくれたのだ。

そう、本来ならば――
感動の再会を果たした二人は「熱い口付け」を交わし、睦言を耳元に「愛の行為」へともつれ込む。
そして翌朝には照れくさそうにコーヒーを淹れてもらい、たくし寄せた白いシーツに胸元を隠しながら『ありがとう』と受け取るものなのだ。
それが好き合う男女の姿なのだと、レイは参考文献で培った理想に小さく拳を握り締めた。

―― 具体的に「愛の行為」とは良く知らなかったのだが。

そうやって学校もサボり、ふらふらと山を街をとさ迷い歩いていたレイは、やはり同じように学校をサボっていたらしいもう一人の少女にばったり出くわしてしまったのだった。

「あ、綾波さん……?」
「山岸……マユミ……!?」

中学生の少女が足を踏み入れるには不似合いな、歓楽街の路地裏。
昼間には普段人気の無いその辺りに、ばたばたと黒服の男達が倒れている。
黒いスーツはボロボロに引き裂かれ、サングラスも吹き飛びヒビが入り、いかにもコテンパンに伸されたという有様で地に伏しているのだが―― ズボンどころかトランクスも腰までずり落ちていて、もぞもぞと不気味に腰を捩じらせているのは何故だろう?

なるべくそんな姿を見ないようにと、赤くなった顔を背けているマユミの前にはまた一人の黒服が吊るされていて、まるで拷問を受けたかの如くに何かのトゲでブスブスと針の山にされていた。
そしてそれを成しているのは――

「使徒……!!」



◆ ◆ ◆



マユミは黒服への「尋問」を中断して振り返り、路地の入り口から睨み付けて来るレイへと向き直った。
何故だか、声を掛けられる前から予感はしていたのだ。
相容れぬ誰かがそこまで来ていると、伝える何かが心に響いていた。
それは再訪の第3新東京市の雑踏の中、彼女をシンジとの再会へと導いた予感と同じ種類の物にも思えた。

親の仇を見るような凄まじい視線。
蒼銀の少女の不快と、それでも抑制された怒りが伝わってくる。
無理は無いとマユミは思う。
彼女にとって、自分はシンジを奪おうという泥棒猫なのだろうから。

―― いや、彼女“たち”にとってと言うべきなのだろう。

小さく溜息をひとつ。
出来ればの穏やかな交流をあらためて無理ですねと諦めて、マユミは自分のしもべに最大限の警戒を促した。
この場はと優先したい事もあったのだし、それはひょっとすればレイにも助力を頼めたかもしれなかったのだが……。

(……面倒くさいから、喋るのは、嫌い)

その思考は、対峙するレイともとても似通った物だったのだけれども。
ただでさえのギスギスとした空気に、内心には気後れを感じていたマユミは説得に費やすだろう労力を嫌ったのだ。

黒と青と。
二人の少女は、今や剣呑極まりない目付きで互いのもう一歩の踏切りを見測っていた。
制服から伸びる手足は14の少女らしく華奢なものだったが、一度振り下ろされればどれ程理不尽な破壊をもたらす事か。
それでも間に分け入って制止を叫ぶような、あの少年も今は居ない。

「……来なさい」

ぽつりと洩らされたレイの召喚に応えて。
陽炎にも似て立ち昇った黒いシルエットが、主人の傍らへと結像した。
張り出した肩からにょっきりと伸びる三本爪の腕に、丸く眼窩をくり抜いた仮面。
第三使徒と呼ばれた異形だ。

対するマユミの使徒は人や獣の形すら外れて、海栗のような棘だらけの体を輪切りに宙へ連ねた姿をしていた。
ふわふわと浮かぶ体節のその隙間からは、赤い肉の色が見える。
そして一番下の体節の先端からは地面に向かって8本ほど、羽虫のそれに近い、ひょろ長い節を持った腕が蠢く。

「水のサキエルですか……。どの道、今の内に潰しておいた方が良さそうですね……」
「……それは、こちらのセリフ」

『ギンッ』と、気合の入った不良少年も真っ青のメンチを切って、二つの鋭い声が響き渡った。

「撃って!」
「……薙ぎ払いなさい!」

閃光と爆風。
二体の使徒が放った怪光線に、辺り一面が一瞬にして粉塵に包まれる。

性質の悪いことに、レイがサキエルに命じたのは、奔流と化した光の柱をそのまま『ぶん!』と横に振ってぶつけろという実に荒っぽいものだった。
躱される躱されないは初めから考慮の外。
アスファルトの舗装を抉り、コンクリートの壁をぶち抜き、道の端に並んだ室外機を一まとめに吹き飛ばし――
展開された二体分のATフィールドによって丸く区切られた閉鎖空間内を、見る見るガレキの山へと変えていく。

それでも、あっさりと初弾で沈むほどマユミも甘くは無かった。
例え互いのATフィールドが打ち消し合ってはいても、強固な殻を回転させて楯と化したしもべが自ら立ち塞がり、主の身を守っていたのだ。

「……負けません!」
「しつこい……」

巻き上げられた粉塵に薄汚れて、制服のところどころには焦げ目、ほつれが出来ている。
可憐な女学生の装いは、一瞬にして埃塗れの世紀末暴力伝説風に変貌していた。
各々の右手に赤くねじれた槍を構え、切っ先は激しく交えられて剣戟の響きを打ち鳴らす。

「……言う割りには迂遠ね。守る一方ではあなたの負けよ?」
「分かっています! だからと言って、プロの貴方とまともに遣り合って勝てるなどとは―― !」

鋭く踏み込むレイの突きを辛くも飛び避け、切り裂かれたスカートの切れ端が穂先から舞い落ちる。
素早く庇うように間に入った使徒にサキエルをぶつけさせて、レイは冷ややかにマユミの顔を眺めた。
余裕の無い表情。
埃を被ったレンズが視界を邪魔しているのか、眉根を顰めて見辛そうにしている。
呼吸も自分に比べれば随分荒い。

―― 分かり切っていたことだ。

ただの女子中学生に過ぎなかった山岸マユミが、長年エヴァパイロットとしての戦闘訓練を受けてきた自分に勝てる筈が無い。
例え使徒を従えネルフの黒服達を圧倒しようとも、同じく使徒との契約を結んだレイとではその時点で前提条件はイーブン。
生身においてのスタートラインの差は、変わらずそのままなのだ。

「……あなたは私には勝てないわ。それは初めから分かっていた筈……」
「だからと言って諦めるつもりはありませんし、負けるつもりでもありませんから」
「使徒と契約したら……もう、後戻りは出来ない」

戦いに敗れてその場で死ぬか。
そうでなくとも、今度は己の使役していた使徒が牙を剥くことになる。
契約がある限り、使徒に「エサ」を与え続けねばならない義務。
敗北して力を失えば、それは飢えた使徒に自らが「喰われてしまう」ことを意味する。

「……ずっと戦い続けるしかないと、覚悟の上なのね?」

返事は聞くまでも無かった。
彼女はレイと同じなのだから。

「勝ちに来るつもりですね……。ですが……!」

マユミは決然として槍を構え直した。
あの内気な表情を振り払って、私にもどうしても欲しい未来があるのだからと。

「あなたが強いのは分かっています。自信があるのも、私が敵でないのも間違いではないのでしょう」

さっと間合いを詰めて振りかぶったレイの一撃を、両手で突き出した柄に必死に受け止めて、『それでも……!』とマユミは叫んだ。

「この子の扱い方なら、私も負けません……!!」



◆ ◆ ◆



もしもこの場に冷静に戦いを眺める第三者が居たのなら、同じ“使徒使い”であっても二人の戦い方に明確な違いがあると見て取ることが出来ただろう。

長い槍を巧みに操り、右に左にと剣風を吹かせるレイ。
スカートの裾を翻し、ほっそりと覗かせる脚も淀みなく流れるままに運び、それはまるで京劇に舞うかのよう。
対するマユミの動きは泥臭く必死さばかりが目立っている。
汗まみれに喘ぎながらレイの攻撃を防いではいるが、既に制服はズタズタ。
危うく袈裟切りにされかけた胸元には、薄黄色のセーターがその下のブラウスごと一筋に切り裂かれて、素肌の膨らみが大きく覗いていた。
だが、致命的な一撃は防ぎ切っている―― それはマユミという少女の以前を思えば、実に驚くべきことだった。

「もう二度と……あんな思いは! 今度こそは……!!」
「……くっ、いちいち邪魔をして……!」

幾度目とも知れぬ打ち込みも弾き返されて、レイは焦れったく唇を噛んだ。
もう一歩に思えるその度に、何かが飛び込んで来て邪魔をする。
マユミの使徒か―― いや、使徒にはやはり使徒をぶつけることで動きを封じている。
がっぷりと組み合った二体に他所へ向ける余裕は無い筈だ。
生身同士でぶつかって、頼りは己の身一つ。
自分とマユミとの技量の差を計算に入れて、だからこその選択だったのだが、

「……これは何? 車輪……?」

そこらの粉塵を渦に巻き込むほど激しく回転して、棘だらけのホイールがマユミの周囲を衛星のようにぐるぐると固めていた。
それはマユミの使徒の、輪切りになった体節の一つ。
レイの操るサキエルと対峙しながらも、部分召喚とも言うべきマユミの声に応え、その体の一部を分離させて主人のサポートをこなしていたのだった。

(私の知らない使い方をしているの……?)

それはマユミが悲鳴を叫べば楯となり、『叩いて……!』と命じれば回転ノコ同然の動きで剣山をレイに向けて、ミサイルさながらの勢いで突っ込んで来る。
いつの間にかの防戦一方。
逆に追い詰められていたのは自分の方だ。
ポーカーフェイスを崩す事の無かったレイの貌に、初めて焦りといって良い表情が浮かんだ。
そう、マユミには見えた。

―― 好機だと感じさせた。

「い、今です……!」
「……なっ!?」

横合いで、サキエル相手にコマの様に回転して戦っていたマユミの使徒。
その体が突然破裂したようにレイには見えた。
しかしそれは、分離とこそ呼ぶべきだったのだ。

「……ッあ!? アアァッ!!」

四方から一斉に飛び掛って来たホイールに咄嗟の反応も間に合わず、悲鳴と共に宙を舞ったレイの躰は地面へと叩き付けられていた。
間を置かず八本の腕を備えた円盤―― 体節の一番下―― が襲い掛かり、細長い腕を檻のようにしてレイの身体を抑え込む。

―― だが、

(……っく、油断したわ………けど!)

「や、やった……。やりました―― っっ!? キャアア〜〜〜ッ!!」

次の瞬間。
サキエルの未だ健在を忘れ隙を見せてしまったマユミもまた、襲い掛かった黒い巨体に一たまりも無く吹き飛ばされていた。
長い髪が尾を引いて、ベコベコに穴の開いたアスファルトへと投げ出される。

「さ、サキエル……っ、ぐっ……やりなさい!」
「ヒッ!? い、いやぁぁ〜〜っ!!」



◆ ◆ ◆



大小のヒビの走ったアスファルトに押し付けられたマユミは、さながら蜘蛛の巣に捕らえられた蝶であった。
圧し掛かるサキエルの腹の下で、長い黒髪を振り乱してもがく様は必死ではあったが、毒蜘蛛の顎に掛けられる確定された運命に抗うには、あまりに非力な様子でしかない。

「こんなっ……嫌ですっ! イヤぁっ……!!」

半狂乱になって何とか押し返そうとするマユミのその華奢な両腕を、黒肌の怪物は全く意に介していなかった。
膝立ちのままにじり寄った脚の間に少女を見据え、表情の伺えぬ虚ろな眼窩を瞬かせる。
大人と子供―― いや、乳児とほどにもその体格の差は大きい。
14の少女に過ぎない、ほっそりとしたマユミの身体は、使徒の四肢の間にすっぽりと囚われてしまっていた。

(ああ……おかっ、犯される……! このままじゃ私、このバケモノに……犯されてしまうの……?)

そんなことは絶対に嫌だと、マユミはガタガタと身を揺さぶって泣き叫んだ。
レイがただ短く『やりなさい』と命じた中身を、マユミは正しく理解していた。
呪わしい事に、マユミの想像力は「どうされてしまうのか」を、まざまざと脳裏に思い描く事が出来てしまう。
使徒もまた命令を正確に受け止め、それどころか喜び勇んでいることは明白だとすら思えた。

―― グルルルル……

「い、嫌……」

おぞましい怪物と、埃に汚れた眼鏡のレンズ越しに顔を間近に。
それだけで耐え難い嫌悪感がこみ上げてくるというのに、自分の身を嘗め回すようにしているその視線を強く感じるのだ。
それはマユミの、女性としての成熟を見せ始めた胸や腰に特に絡み付いてきている。
仮面めいた顔の造作は、一見あらゆる感情や衝動などとは無縁なように無機質めいて。
しかしその真黒な双眸にギラつく輝きは、いやがうえにもこの怪物が紛れも無く一個のケモノなのだとマユミに付き付けてきていた。

「ヒ、ぁ……! あ、あ……やだぁ……」

一瞬目を向けるだけでも精一杯―― それだけで何か穢れてしまうと感じる使徒の股間には、禍々しい生殖器官が槍のように穂先を持ち上げている。
使徒が牡として興奮し、自分を牝だと見なし発情の対象にしているいう、生々しくも疑いようの無い証。
その切っ先で自分は膝をこじ開けられ、ショーツを引き裂かれ、剥き出しにされた乙女の大切な場所、もう一つの唇を貫かれてしまうのだ。
そうやって、純潔を破られて。
下肢に破瓜の血をまとい付かせながらも、やがて自分はあられもない嬌声を上げて、もっともっとと獣との交尾を請い願うことになる。
使徒の発散させる、いっそ破滅的なと言って良い麻薬にも似た力に魅了され、自ら腰を振って、浅ましく。
淫欲に墜ちて、魂を抜かれてしまうのだ。

(それは私がしていたこと……。あの子を使ってさせていたこと……)

それこそが使徒の「食餌」。
そうやって獲物の持つ生命の力そのものを吸収することで、己の糧とするのである。

マユミはこれまで、自分をネルフの重要人物、サードチルドレンに付き纏う不審人物として監視しようとした黒服達を、排除がてらエサとして自分の使徒に襲わせていた。
そうする事で使徒の力が増すと知ってからは、積極的に狩らせてすらいたほどだ。
勝ち残るためと割り切ろうとしながらどうしても拭えなかったその後ろめたさが、今、マユミの怖れおののく心に罪への報いを強く意識させていた。

(天罰だとでも言うの? 私はここで報いを受けてレイプされて……気違いのようにいやらしい事を喜ぶ、ふしだらな女の子になって、それで終わってしまうの?)

「……そんなの、そんなのイヤぁ……ぁ、あああっ!!」

ほろほろと埃に汚れた頬を涙で濡らしながらもがくマユミの腕を、使徒が一振りに払い除けた。
そのまま、服を切り裂かれた事で一層過敏になって警戒していた胸へと手を押し当ててくる。
サキエルの巨体と比べ、あまりにコンパクトで華奢なマユミの身体だ。
上手く玩ぶには器用さに自信が無かったのか、考えあぐねたかのように暫し動きを止めていたサキエルだったが、ついに本格的な魔手を伸ばしてきたのだった。

片手だけでも胸全体を鷲掴みにするように―― それだけで上半身は完全に動きを封じられ、マユミは鉤爪になった指の間から首をよじらせるだけになってしまう。
服を脱がせる事は諦めたのか。
それとも、地面の上にマユミの暴れるまま大きく広がっている襞スカートのあまりの無防備さに、その必要すら無いと判断したのか。
ギリギリと硬く張り詰めた肉杭を、そのままスカートの奥へと突き入れようとする。

「ぅああ! ハッ……!? ああっ、気持ち悪い……ぃヒィっ!?やっ、はっ、 ヒィ―― ッ! 」

のたうつマユミの太腿に直接使徒のペニスが擦り付けられる、その不気味な感触。
ヌルヌルと分泌されているそれが何であるか、考えただけで気が狂いそうだった。

「やだっ! それだけは……それだけは許して! はっ、はぁっ……! ダメぇぇ〜〜っ!!」

固く膝を閉じてガードしようとするマユミだったが、サキエルはスカートの捲り上がった太腿に跨って更ににじり寄り、露になったショーツへと杭棒を突きつけてくる。
狙っているのは、ピッタリと太腿を合わせてはいても隠しようのない白い三角地帯だ。
薄い、本当に薄い布切れ一枚が張り付いただけのその下には、ふっくらと盛り上がった恥丘。
そして処女の狭道を秘めたスリットが走っている。
そんな羞恥の根源を擦ってくる生々しい温みを伴った感触が、マユミの心を冷たく竦み上がらせていた。

―― 自分の性器に、おぞましい人外の生殖器が布一枚を挟んで密着している……!

「やめて、やめて下さい……。ああっ、お願いだから……やめてぇ……!」

使徒の両腿にはパクパクと口を開くエラに似た器官が付いていて、怪物の興奮を表すように生臭い息を吐き出している。
骨に皮が直接突っ張っているだけに見える痩せた腰を丸めて、いきり立った先で位置を探っている。
そうやって何度も股間の優美な膨らみを擦る内にヌラヌラとした粘液がショーツを濡らし、更には布地に染み込んで、直接マユミの素肌をも汚してきていた。

「こんなのって……こんなのって……。酷い。ああ……酷いです。イヤ、嫌なの……。助けて、碇君……」

青ざめた頬に儚く睫毛の影を震わせて、マユミは涙声にすすり上げる。

「……ひああぁっ!」

ぞろりと、クレヴァスのはじまりから会陰までをくじり通ったような刺戟が、マユミの背筋を貫いて仰け反らせた。
人のそれとはかけ離れた長大なペニスが、ショーツの底と腿肉との間に僅か開いた隙間を見付け、一気に潜り込んできていたのだ。

マユミはまだ14歳の幼い少女でしかない。
まだまだ女性としては花開き始めたばかりの、肉付きの薄い太腿。
たとえ閉じ合わせても付け根に残るその三角の隙間には、それこそ少女が密やかに成熟の時を待つ、蕾の如き青い花唇が息を潜めている。
本来ならば、愛しい相手にのみ許す花蜜の園への入り口だ。
その乙女の一番大切な場所に、ついに怪物の邪な欲望そのものが辿り着いてしまったのだった。

「あうっ!? うっ、うぁあ……! あっ、ハッ、ヒィッ!」

サキエルが、そこをと攻略ポイントを定めたとばかりに腰を振り始める。
毒々しい赤紫の発情色に彩られた肉塊が、グニュグニュと白いショーツの膨らみにめり込みまくって責め立てるのだ。
鋼のシャフトさながらに『ズンッ! ズンッ!』と、閉じた合わせられたマユミの腿肉と会陰部の隙間に楔を打つ様に行き来しつつ、そのまま力任せに処女の守りをこじ開けようという勢い。
有無を言わせぬ暴虐的な抽送の乱打。
か弱く無防備に過ぎるその処女肉の丘は、望まずともその柔らかさでもって、優しくクッションのように受け止め続けるしかない。

「あうっ! あぁぁっ!」

あまりに無力な14歳の乙女は、踏み荒らされる花園そのままに長い黒髪をうねらせて悲鳴を上げ続ける。

今はクロッチの底に遮られている淫獣の欲棒だが、じわじわと力に負けて押し広げられつつあるマユミの両肢に充分な隙間が作り上げられたなら、その時は躊躇無く腰を進めて、柔肉に牙を突き立てるのだろう。
いや、それどころか――

(やだやだ、ヤダっ! ショーツが捩れてきて……。ああ、触ってる。触ってるわ……! わ、私のアソコに……。気持ち悪いよぉ……!!)

幾度と無く擦り上げられる内、サキエルの吐き出す先走りでじゅくじゅくに汚されたショーツの股布が、次第に縁から捲れるようにしてマユミのヴィーナスの丘から剥がれてきていたのだった。
暴かれてしまったのは、日に焼けた事のない白磁の素肌。
羞恥のデルタに控えめに芽吹いた恥毛も、ショボショボとショーツの端から姿を見せはじめる。
危うい箇所を守るべき布地が、次第に紐も同然に捩れてゆく。
清楚なクレヴァスに食い込み、その奥の鮮紅色に染まった柔襞をさらけ出す逆の働きを果たしてしまうのも時間の問題に違いない。

「はぁっ! やっ、そんな? は、ああ……ふあぁ、……ああっ!? だっ、だめぇ〜〜!」

その上尚悪い事に、マユミは徐々に染み出すようにして下半身から広がる甘やかな漣が、自分の身体を熱く覆い始めていることに気が付いていた。
寝苦しい夜にシンジの顔を思い浮かべてこっそり指をめぐらせてしまう―― そんな時の、あの疼きだ。

人とは圧倒的な差を持つ、使徒の存在感。
いかにロンギヌスの槍の加護を受けるマユミだとて、サキエルの興奮に引き摺られるようにして強制励起させられる肉体の反応を、押し留める事は出来ない。
だがそれは、望まぬ最悪の恥辱を進んで受け入れる淫らな心にされてしまうという、女として最大の屈辱に他ならなかった。
冷静になれ、私の心よ静まりなさいといくら己を叱咤しようとも、しかし一度自覚してしまった愉悦感はとめどなく溢れ出すばかり。
粘ついた淫らな水音を立てる股間の羞恥も、全てが使徒の分泌させたせいばかりではあるまい。
心を縛ろうとした鎖もみるみる溶け出して、あまりに甘美な絶望感がマユミの涙を頬に伝わせる。

(ああ……。やっぱり、やっぱり私も……! 私も駄目みたい……)

「くっ、うっ、ううっ……。狂って……狂ってしまうの!? ああ、ああ。碇君……!!」

『ぬっ、ぬっ……』と、サキエルの抽送を受けているマユミの股間が立てる淫靡な水音は、最早醜態の度を酷くする一方。
じっとりと体中に浮いた汗と同じほどに、熱を持った肉の隅々にまで行き渡ろうとする陶酔がマユミの中に生まれた「オンナ」を暴走させている。
凌辱に刺激され続ける肉体は愚かしいまでの素直な反応を示して、嫌悪すべき怪物を恋人とも錯誤したかのように、結合器官への歓迎に花蜜をトロトロと溢れさせていた。
処女子宮への受け入れ準備が、マユミの理性に反して着々と整えられていく。
抗いを捨てぬ唇とは裏腹に、肉体は言葉によらずして『さぁ、私をそのペニスで貫いて。どうぞ私を犯して下さい!』と浅ましくねだっているのだ。

「やだ……。やっ、嘘よっ……! ああ、そんなことない……。気持ち良くなんか……はぁ、はふぅッ……!! だっ、だめ! しっかり……しっかりしなきゃ……ぁ、ああ、あぁぁぁ……」

サキエルの爪に拘束されたまま惨めに乱れた姿をさらすマユミは、いやいやと首を振って何とか正気を保とうとしているが、しかしその貌はとても拒絶を浮かべているようには見えないのだった。
切なく喘ぎ喘ぎ、白い肌を艶かしく上気させて。
ゾクゾクと総毛立ったうなじは汗に濡れ、貼り付いた後れ毛の風情が未成熟ながらの何とも悩ましい色気を匂わせている。
全身から立ち上らせているのは、牝としてのアピール。
とっくに身体は陥落してしまっていて、例えケダモノ相手にだってその清らかな身体を捧げ出す気になっている。
マユミはともすればうっとりと顔が緩みがちになるその度に、慌てて唇を結び直しては、襲い来る快楽への抵抗に歯を食い縛ろうとしているのだった。

「クッ! あふっ!? ふぅぅ……ッ!!」

既に隠しようも無くしこり立っていたクリトリスの上を、サキエルが竿が駆け抜けさせた。
一際強く背筋を走った快楽の電流の前に、抗いの徴が紅く一筋、少女の唇の端から流れ落ちる。

しかしそれも一瞬の間。
抑え切れぬ喘ぎが一呼吸の後にはあられもなく溢れ出し、そこに紛れるようにして口元から顎を伝ったはしたない涎の中に、か細くも薄まり消えた。
マユミの必死の抵抗も儚きに過ぎない―― その象徴のように、再び瞳に霞みを掛けてわななき始めた唇に、エロティックな舌舐めずりが這わされたその後には何も残ってはいなかった。

「ふ、ふッ。ふぅッ、ふァ……ッ、ふんン……ンッ、ン……ッ!」

さっきまでの悲鳴も鼻に掛かった甘え声へと変わり、腰もうねうねとくねり出す。
遂に、憚る事の無く快楽に息を荒げはじめたマユミだったが、一方で未だ失われない最後の理性が、その無様な姿を重々に承知してもいた。

―― 私……なんてみっともない格好をしているの?

いやらしい、恥知らずだと、使徒に恥肉を「可愛がって貰って」の自分の嬌声に耳を塞ぐ一方、その醜態を責め立てもしている。
幾人もの犠牲者を使徒に喰わせ、そこまでして勝ち残りたいと決心した筈がこの様は何だと。
自分の望みを叶えるために、例えそれが友人になれたかも知れないと思う彼女達であっても戦って倒すと、そう決めた決意はこの程度で終わるものだったのだろうか。

(所詮はここまでなのが私なの? 自分の勝手で人に迷惑を掛けた、ただそれだけ……。結局何も変わっていない、バカで臆病で……流されただけの私……)

―― ジュプッ。……ちゅ、チュブッ!

しとどに股の間を愛液に濡らし、ショーツも秘裂の半分に食い込んで引っかかっているだけに成り果てて。
潤滑油代わりにサキエルのペニスを処女媚肉がしごき立てる。

「ダメなっ……は、わたしだからっ……ッあぁぁ! 気持ちいいに負けて、る。ッく、ふぅんっッ……負けちゃうの、ぉ……!」

―― チュブ、ジュププッ。……ぶじゅ、じゅ。ジュぷッ!

今のマユミのその場所は、低く喉を鳴らしながらマユミを貪る使徒の快楽にすっかり許してしまっていて、素股と呼ばれる淫戯を奉げているのも同様の有様になっていた。

「……も、負けて。まけて……わたしは、ああっ! やぁはぁっ!?」

ぐっしょりと蜜液に塗れた生地を被っていても、ツンと立ち上がったクリトリスは白いショーツの中心で、綻んだ淫花共々の透けたピンクに目立っていた。
その突起に引っ掛かった格好で留まっているショーツの端が、使徒の動きに合わせ、きりきりと食い込むようにして引っ張っているのだ。
それは突き刺すような愉悦だった。

「ヒッ!? ひ、ヒイィィ……!」

長い睫毛の下、裏返るほどに目を剥いて、日本人形のような佇まいで淑やかに整ったマユミの貌がひしゃげて歪む。

「擦ってる……ッ、ビリビリ……ひはっ! びりびりクるッ……! 熱い、熱ぅいのぉ……!!」

さんざんに苛まれるマユミの肉裂は、おびただしい蜜にヌメ光りながら、ぷっくらと腫れたように膨れ上がっていた。
押し付けられる先端が、ムニュッと肉唇にはまり込んで来る感触。
使徒の亀頭に直接粘膜をくじられて、嫌悪どころか既に歓喜でしかない擬似性交に、性器から灼け焦がされそうなな熱が腰を炙っている。
腰から身体の芯が蕩け出していってしまいそうだ。

(痺れが……止まらない?! 私、感じちゃってるんだ……!!)

思春期を迎えた少女の中でゆっくりと目覚めの時を待っていた快楽器官が強制的に目覚めさせられ、性愛感覚を伝えるための神経回路が次々と開かれていく。

「あうっ! あん、あああ……」

覚えたての未知の感覚がみるみる大きくなっていって、あられもなく乱れながら翻弄されるばかりのマユミ。
真っ赤に潤んだ瞳は揺さぶられるまま宙を彷徨い、清楚な美貌が淫欲に染め上げられていく。
サキエルもいよいよ興奮を増した様子で腰を振りたて、屈服させた少女の柔肉を味わう事に夢中になっているかのようだ。

今や白い腹までもスカートは捲れ上がって露に、すんなりとした脚線もとっくに大胆に広げてしまっている。
普段の彼女であれば耐え難い羞恥である筈だが、もはや気に留めようともしない。
その足と背中で突っ張るように腰を浮かせて、マユミは自ら積極的に愉悦を貪ろうと―― 例え処女を突き破られようとも構わないとまでに、サキエルのペニスを求めていた。
ほんの少し、サキエルが擦り付ける肉槍の切っ先を角度深く打ち込めば、ずぶずぶと愛液を飛び散らせながらそれはマユミの処女肉狭道に潜り込んでいったことだろう。
しかし、それだけのことすら思いも寄らぬかの余裕の無さで、ヌメヌメと両棲類じみた肌を躍動させる怪物は、マユミの陰部で交接の味わいに没頭していた。

レイとの契約以来リツコへの凌辱を皮切りに、やはり幾人モノネルフ関係者を牙に掛けてきたサキエルであったが、そのひたむきさはまるで、いまさら初めての性感に惹き込まれたかのようですらあった。

グルル、ルゥ……、ルォォォ……ォ……!

いよいよ切羽詰ったか様子で両腿のエラが忙しなく、ふいごさながらに熱い息を吐き出している。

「う、うっ……うふンぅ〜〜……」

その昂ぶりに引き摺られるマユミもまた、眉間に深い皴を刻んで、荒い息遣いに喉を喘がせていた。

「良い……気持ちイイの……。はぁぁ! あァ……。負ける、負けちゃうっ!! 気持ち良くて……ヨくって負けるっ、のぉ〜〜!」

『ぐぐ、ぐーっ』と弓のように精一杯反らされた背中。
サキエルに組み敷かれた下、みっともなく膝を揺らしながら曲げ開いた両脚は、敗北の証にと腹を見せたイヌにも似た―― そんなだらしのない格好だ。
淫猥にヒップがうねり狂い、はしたなく淫悦に溺れてしまっている。
ほんの僅かの間に怪物との交合に慣れさせられていく身が悲しかったが、子宮に響いて仕方が無いのだ。
沸々と断続的な爆発が神経のそこらで起きているかのよう。

「負けるからっ、……あ、あっ、んあぁぁンぅ! 犯される、のっ? ……私、わたし……きっとぉ、んぉン、フゥン……!」

しゃくり上げ、咽び泣き、呂律も怪しく、とにかく膨れ上がり弾けそうな何かを叫ばずにいられない。

「……ひ、イっ、あ、あ……イッちゃ……。あ、天罰っ、天罰なのぉ……? わたし、酷い事した……からっ。まけぇ、え、ンんん〜〜ふ! 負けっ……!?」

ルォォ、オォォォ……ォオォオオ……!!

(熱っ、い……!)

遂にサキエルが煮え滾るマグマを爆発させ、したたかにマユミの白い内股に浴びせ掛けた。
敏感な粘膜にびしゃびしゃと白濁を受け止めた瞬間、

「ひあっ、ああふ……イッちゃ―― ッ、ッつうぅ〜〜〜んんん……!!」

なよやかな肩を震わせて、マユミは撃ち落とされた小鳥のように絶息の悲鳴を響かせた。
跳ね上げた頤(おとがい)がギクリと静止し、硬直の果てで小刻みにわなないて、やがて力尽きたように弛緩する。



『ああ……』とか細く呻き、そうやって光を失いかけた視界に、マユミが最後に命じたまま、彼女の使徒にその身を拘束されているレイの姿が映り込んできたのだった。

(あやなみ……、レイ、さん……?)

円盤状に分離した使徒に四方から張り付かれて包み込まれ、同様に自分を見つめている―― 真っ赤に火照った顔。
サキエルを操り、『やりなさい!』と、そう命じた声はまだ耳に残っていた。

(あ……、そうだ……。そうだった……)

ぼやけながらも、余韻の中から急速に浮かび上がろうとする不確かな何か。
はっきりさせようと手を伸ばしかけたマユミの意識だったが――
ガチャンガチャンとけたたましく、路地の壁になっているビルからの突如の騒音がそれを遮ったのだった。



◆ ◆ ◆



マユミの隙をついてサキエルを突進させたレイは、すかさずの止めに入るように命じた。
サキエルに押し倒され圧し掛かられたマユミは、悲鳴を上げながら何とか逃れようとしている。

(……彼女は冷静さを失っているわ)

体当たりを受けた拍子に取り落とした槍に手を伸ばすことも忘れ、盲滅法に暴れている様子からは、彼女が恐慌状態に陥っているのは間違いない。
再度の逆転を用心しながらも、もはや相手にその余裕はあるまいとレイは今度こその勝利を確信していた。
その身を使徒に拘束されているのはレイも同じであり、マユミにもまだ形勢挽回の―― 最悪でも相打ちに持ち込むだけの目は残されていたのだが、その事に意識が及ぶ事は最早ないだろう。
山岸マユミは、所詮はただの中学生に過ぎない。
戦場で容易く冷静さを失う精神を、戦闘向きではないとレイは感じた。

レイもマユミと同じく、うつぶせになった全身を円盤状に分離した使徒のパーツで覆い尽くされて、身動き一つ出来ずにいる。
棘だらけの殻の中身、合体した状態でも体節の隙間から赤く覗いていた「肉」は棘と対になったような触手の集合であったらしく、それらが肌の上で蠢く感触はたしかに不快なものだ。
だが、それしきのことが何なのだろう。

パニックに喚いている状態のマユミは、使徒の制御など完全に忘れてしまっている。
レイが驚くほどにマユミは自分の使徒を完璧に制御してみせていたが、そのコントロールが失われた今、却ってその支配の高さが仇となったかのように、使徒は己のなすべきを見出せずにいる。
これまでの獲物と同様に蹂躙したいのだろうが、主人の最後の許しが出ないではと迷いを見せてに、無為にレイの身に這わせた触手群を蠢かせるだけである。
これがサキエルならば、手綱を解かれたのを幸いと躊躇無く貪りにかかっただろうが。

「私の……勝ちね」

『ふふ……』と、レイの口元に薄っすら笑みが浮かぶ。
例え使徒の触手がお預けを喰らった未練がましさで、ネチネチとレイの躯を撫で回していても、あくまで平然と。
その内に襟元からやスカートの下にまで触手の群れが潜り込んで、下着の上から慎ましげな胸の隆起やヒップを撫でてきたとて、その余裕は崩さない。

「ん……。うん、んっ……」

びっしりとレイの身体に群がったそれぞれのサイズの触手達は、袖口やブラウスの裾、いたるところから侵入し、脇の下やほっそりとしたウェストにも傍若無人に這い回る。
密集して形作った刷毛で雪肌のきめ細かさを撫で上げる細身の一群。
飾り気の無いブラが包んだ谷間、一際太くずるずるとレイの胸に這うそれは山蛇ほどもあろうか。

「あっ、っン、ん……」

服を着たままにして、素肌の上を数多の蛇に埋め尽されたかの有様だったが、身じろぎこそすれ、レイの表情にはやはり何らの不安や危機感も浮かばずにいた。
スカートの中にもモコモコと触手は充満して、ここであるじの許しがあればと、諦めきれぬようにショーツの下―― レイの未通の秘門を窺っている。
双臀の谷間にも彼らは殺到し、遂には秘裂地帯にまでミミズの如き軟体を擦り付けてきていたが、それでも使徒が交接行為に及ぶ事は無いだろう。
獲物を捉えておいて、さっさと食餌に掛からない理由は他に無いだろうからと、それはもう疑いの余地の無い確信である。
なによりマスターであるマユミは、サキエルに犯されてみっともなくも惑乱している最中なのだから。
―― 少なくともレイの目にはそう見えていた。

「……ッあ、あ……なに? これは……っ、はぁ……」

じくん……

胸の先から一瞬の、しかし、これまでのように無視できるものではない、神経を駆け抜けた閃き。
意識から切り離していた筈の皮膚感覚が、改めてレイの意識野に浮上してくる。
全身を緩やかに揉み解され、触手がまといつかせる麻薬性の粘液をもう随分と素肌に塗り込められているのだ。
濃厚な前戯を施されているも同然で、自慰の経験も持たない程に性というものからは隔離されていたレイだとて、当たり前の生理反応が起きないわけがない。

触手はブラのカップの中にまでも入り込み、ヌルヌルと直接に二つの膨らみを這い回って、こね解す動きで蠕動していた。
楚々とした未熟のバストには、彼らが絡めとって楽しむだけの量感はまだ備えられてはいない。
それだけに、触手達の興味を示す先は、薄く胸肉の盛り上がった頂上で尖る小粒の乳首しか無かった。
右に左に転がすように蛇身で踏み潰し、蛇の舌ほどの細い触手でチロチロと巻き取って、乳頭の腺に針を挿すようにすら弄ぶ。

「なに……何なの? っあ、むね、が……。あ……。はぁぁ……」

ぐるぐると巻かれ、絞り上げられた胸肉の頂でしこり勃つまでにされて。
薄桃色の可憐な木の実は、そうとレイが気付かぬ内に甘い疼痛の発生源となっていたのだった。
下着の中にも潜ってきた細い触手の集合にまとめて晒され、ヌルヌルニチュニチュと幾百のミミズの行進に柔らかく踏み付けられているかの如き憂き目に遭っている陰核も、また同様である。

使徒に体を好きにさせながら、それで喰われるわけでなしと、レイはこの惨状でもまだ「安心して」いられた。
それは致命的なダメージ以外はと戦場での苦痛を無視できる戦士の特性と言うよりは、しかし、レイの「女の子」としての致命的な欠陥―― 無知が故であったかもしれない。
マユミなら耐えられない。
そんな女の子が肌を蹂躙されることへの嫌悪も知らない。
羞恥も知らない。
それでも本能は知っているのだ。
快楽というものを。

「うんっ、ん……。ぅぁ? あぁ、変な……感じ……。んんっ……」

自分自身が何を感じているのか分からぬ幼い少女は、ただしきりにと紅玉の瞳を瞬かせる。
知らぬ間に深まった甘やかな官能が、レイの白皙に扇情的な朱を浮かばせていた。
未知の心地良さが、戸惑いのため息を熱っぽくこぼさせる。
か細いながらも『あっ、あっ、あっ……』とさえずり始めたレイは、自分の使徒もまたコントロールを失っている事を知らなかった。
知らず絡めとられていた官能の泥濘に、レイが沈み行こうとしていた時。
そのあるじにシンクロしたかのように、サキエルも童貞の少年なみの堪えの無さで「漏らして」しまった―― そのほぼ同時にして、突然の舞台への闖入者が空気を一変させたのだった。

「あ……、あ? いかり……くん?」



◆ ◆ ◆



「な、なにやってるのさ、二人ともっ!?」

それはこちらのセリフよと、レイとマユミの声が唱和した。

レイ達が妖しくもソドミーな世界に没入しようとしていた真上、薄汚いビルの二階辺り。
戦いの余波で壊れかけていた非常扉を体当たりに突き破ったかのようにして、そのまま安っぽい鉄板の階段から転がり落ちてきたシンジだ。
そもそもマユミはシンジを探してここまで来ていたのであって、黒服達がたむろしていたことからも姿を現して不思議は無いのだが……。

「な、なんですか碇君……! その格好はっ!!」
「……そ、それこそこっちのセリフだよ、二人とも!?」

いつもの学生服姿ながら、半分以上前が開きっぱなしのシャツ。
そもそもその半分以下もボタンを掛け間違っているし、裾もはみ出したまま。
白い襟元にやけに目立つ赤いマークは、どこかの女の付けたルージュの跡としか―― 恐らくは「誤爆」の名残だろうか。
まるで慌てて情事の現場から逃げ出してきたかのよう。
ベルトもろくに締まっていないものだから、手で押さえていないと今にもずり落ちそうで、社会の窓も全開だ。

「み、見えてます! と、とにかくそれを何とかしてください……!!」

それはお互い様だからと、マユミも慌てて足首に引っかかっていたショーツを引き上げて。
乱れた服と髪も手早く出来る限り整え、ついでに『なにしてるんですっ! 早く直して下さい!!』『……どうして?』『恥ずかしくないんで―― っッ、良いですっ、もうっ!』と、彼を誘惑する気かしらコノヤロウなレイの面倒も見てやる。
ともすれば形の良い膨らみが見えてしまいそうになる引き裂かれた胸や、使徒の射精にドロドロに汚れて泣きたくなる下半身などは、そのレイを楯に。
さすがに互いに戦っていたなどと、シンジに見られてマズ過ぎた使徒については、レイも速攻で片付けていた。
慌てふためいてどうにか格好をつけ、言い訳が思いつかない戦いについて誤魔化す意味でも一気に……と、糾弾の口火を切ろうとしたその時に、

「シンちゃぁ〜〜ん。逃げなくても良いのよン? お姉さんがちゃんと手取り足取り気持ち良くしてあげるから、黙っておとなしく―― ぅげ!?」

丁度、追い掛けてきたらしいコトの下手人が顔を覗かせたのである。

「……そう、そうなの。泥棒猫なのね……」
「……そうですか、貴方でしたか。……っとにッ! なにを、しようとっ、……してたんですかぁッ―― !!」
「……

おどろおどろと立ち上る殺気。

「うわっ、マズッ……!」

ミサトが急いで首を引っ込めたその後を、二本の槍が掠るように吹き飛ばす。
怒りに燃えた少女二人の苛烈な追跡に遭って、それこそ命からがら一晩中。
それでもきっちり逃げ延びたミサトは、確かにネルフの戦闘部門を取り仕切るだけのことはあるようであった。

ただ一つ、いよいよレイが命令を聞くどころではなくなってきたのは指揮官として大問題だったのだが。




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次回予告

綾波レイには夢がある。

「それは、とてもとても気持ちの良いこと。勉強したの、碇君」

そこはレイの居室、取り壊し待ちマンション402号室。
覚えているのは愛しい少年の掌の感触。
感触を記憶しているのは彼女の胸の膨らみ。
仮面ライダー帰還者レイ、ついにの待望の刻が今……!

しかし、その記憶を持つのはシンジも同様で、事の次第は彼の行動如何に委ねられていたのだが 。

「あんな人と同居だなんて……。危機感ってものがあるんですか、碇君?」

レイの知らない場所で、また新たな陰謀がシンジを危機に陥れていたりもし。

次回、 仮面ライダーReturner Rei 第伍話「レイ、心の向こうに」
戦わなければ生き残れない!