「アスカ、満たされぬ愛」 #4 前編
LHS廚 (あくまでイメージ)ばーじょん。
幸運だろうと不運だろうと【運命】が関わるものだけは信じない。それが彼と出会うまでのボクのポリシーだった。
◆ ◆ ◆
姉二人より母に似ているのは嬉しい時もあった一方で……絶対的に違う『金髪碧眼』の部分、
ボクが持つ日本人と違うという事実は、圧倒的に悪い意味で目立った。小学校が家の近くに会ったことがそれに拍車をかけ、『小学生の外人』、『被災養子』、『浮気の子』
(これを知ったアスカさんも怒り狂った)など様々なあだ名や理由をつけられて何度もいじめられた。体をつねられる、体育の時に着替えを隠される、お手洗いの個室で頭からバケツごと水をかけられる。
辞書が閉じた状態でしか読めないように卑猥な単語や記号を書き込む。
体が小さい事をいい事に体育のときは着替えが届かない所に移動していたり。
水泳なんかでは金髪を思いっきり引っ張られておぼれかけた事もあった。よくもここまで考えるな、と思う程の嫌がらせのオンパレード。
上履きに画鋲が入っている、なんて簡単な悪戯は毎日のようにされた時もあった。
一方でボクを助ける勇気は無いくせに……容姿でボクを気に入った男子が先生達に報告しに行き、
何度も反省会『だけ』は開かれる。
でも、それで収まるはずもない。
◆ ◆ ◆
「え? 碇君のこと? 何で姉さんが興味を持つのよ」
「いいからいいから」
『碇君』とは……その頃から姉の話に出てくるようになった人、『碇シンジさん』。
最初は『ふうん、姉にも気になる人ができたか』と言う程度だった。ちなみにシンジさんの噂自体はボクがいた小学校にも伝わっていたわ。
『「護りたい」王子様』、それがあの人に付いていたあだ名。でも、その頃のボクは興味をもっていなかった。
良く会う姉の友人、藤原さんから聞いた感想は『ひ弱で少し根暗な男』。
『守ってくれる人』が欲しかったボクはどう転んでも好きになれないタイプだと思っていた。
でも、そんな姉の話にシンジさんの話が出る事がますます多くなっていく。
『あのね、今日碇君がお手製のお弁当を作って来たんだけど、それがとっても美味しそうなの!』『綾波さんが今日私に挨拶して来たの。 あの綾波さんを変えるなんて碇君ってすごいよ』
『碇君のお母さん、綾波さんに似ているんだって。 今日写真を見せてくれたんだけど……』
ボクはヒカリ姉に『碇シンジ限定』の耳年増にされた。
一時が万事、こんな具合だったから、まぁ、当たり前の事かも知れない。
数日後、一番キツイ悪戯をしてくる四人組からコンドームに墨汁を入れたものを投げつけられた
あの時の事だ。うん、今思い出しても『運命の出会い』って言うのはこういうのが相応しいんだと思う。
見ず知らずのボクを自分の体と鞄を盾にしてかばいながら一緒に逃げてくれた人がいた。
体に二つ当たり、墨汁でワイシャツが黒く染まり、三つ目が頭に当たっても、その人は守ってくれた。「最近知り合いの妹を傷つけちゃったんだ。 もう目の前で人が傷つくのを見るのは嫌だったんだ。
だからカッとなって……でも止める勇気なんか無くて。
だから、君を助けた。 ただ、それだけなんだ」走りながらそういったあの人は女の子みたいな細身の人。
彼にそんな意思はなくても……その腕の中は暖くて、それは『始めてボクを助けてくれた』という
事実と一緒にボクを恍惚とさせるのに十分で。少し離れた公園で落ち着いたボクが気付いた時、その人はもういなかった。
『認めたくないけど、運命の人、なのかなぁ……』
◆ ◆ ◆『お?委員長とノゾミちゃんやんか』
『ほんとだ。 ノゾミちゃん、久しぶりだね』
『お久しぶりです』その人こそ『碇シンジ』、姉が気になり始めている人と判ったのは姉のお友達が住むという家に
お見舞いに行って、誤解した姉がボクの前で『不潔ょぉぅ』と叫んだそばで。『誤解も六階もないわぁ!』
横で姉が騒いでいたけど、彼を見つけたボクにはどうでもいい事になっていた。
持たされていたクラスメイトへのお見舞いの品を姉に押し付け返し、一気に彼との距離を詰める。
『………あ!! やっぱり!』
『ああ、君は……大丈夫だった? あれ以来、変な事されてない?』
『いやん…ってノゾミ!? あんたまた何かされたの!?』
『たいした事じ『そうも行かないわ。 『家族』にあんな物投げ付けられて失明でもしたら許せないわ』』
『ミサトはん?!』
水色の髪の少女を連れた人はボクの肩に手を置いて微笑んでくれた。『一体何されたのよこの……!?』
絶句したその人…アスカさんはボクを見て信じられないくらいに真っ青になっている。
(しばらくして、ボクが彼女のお母さんにソックリだという事を知った)『彼女へ避妊具に墨汁詰めたモノを投げた子達がいたの。 それをシンジ君が体でかばったのよ』
『………い、いじめとしても根暗な手段ね。 でもちょっと見直したぞ、シンジ♪』
『碇君、本当にありがとう!』それ以来、ボクはシンジさんの家に何度かお邪魔した。
◆ ◆ ◆
ガラガラと『日常」が崩れていく。
「んふーふふぅ」「あ、姉?」
何かがおかしい。
現実味がまるで無い。
目ノ前ニイルノハダレ?
何度も聞かされた『伝言』では姉はまだ地下施設にいるんじゃなかったの?姉の体中に付いてるの……もしかしなくても精液…だよね?
………ダレノ?
シンジさんを裏切った!…それ付けたの…だれ…っ!
「ひゃぁん!」突然流れた刺激に鳥肌が立つ。 アスカさんがうなじにキスしていた。
そのままボクはアスカさんに、シンジさんは姉に引き剥がされていく。
うまく動かせない手ボクは彼に必死にすがり付こうとした。
アスカさんの体術でそれが実現する事はなかったけど。
「アスカ!僕たちに、ヒカリに何をしたの!」
「何もぉ? 二人にした事って、アタシはお茶を出しただけじゃない」
「ヒカリだけを見ても十分変じゃな?!」その怒声が唐突にやんだ。
そういうことを『不潔』と嫌っていた筈の姉が絡み付いていったからだ。「シンジだぁ……♪」
「いやだよこんなの?! お願いヒカリ! やめて!」シンジさんを後ろから抱き締めて手を体に絡ませてる。
声はまさに『盛りの付いた猫』みたいで、この前窓越しに始めて聞いた『女の姉』の声が頭によぎる。そのまま姉の右手は服越しにシンジさんの股間をなで初めた。
シンジさんは目を閉じて必死に耐えているだけじゃなく、その手を引き剥がそうとする。
でも、力に遠慮があるのか引き剥がせていない。
………いまじゃ姉のほうが力、あるのに。「ふふふっ。 ノゾミぃ…この前…聞いてたでしょう?」
「え?」
「本当にシンジ気付いてなかったんだぁ…、ノゾミね、私達のあえぎ声……聞いてたんだよぉ。
コダマ姉さんと二人でね、私がシンジとシテる所、血眼になってみてたんだよぉ」「えぇ!?」
頭に思い浮かんだのはシンジさんという椅子に座って喘ぐ姉の顔。
窓ガラスごしにコダマ姉と息を呑んでみたヒカリ姉の恍惚とした笑顔。
その笑顔が一瞬、挑戦的な色に染まったときがあった。
やっぱりボク達に気づいていたんだ。
この心の動揺をアスカさんは見逃さなかった。
「あ、やだっ! 見えちゃう!?」
「もうシンジは気づいてるわよ? 『ノゾミちゃんのここが僕を求めてる』ってね」アスカさんが両足をボクの脚に絡ませて閉じれなくする。
その動きに合わせて姉がシンジさんの顔をボクの股間に近づけていく。「ヒカリっ! 何を」
「みんなで気持ち良くなろうよぉ」
「出来ないよヒカリっ!? 僕は誰にでも欲情するような奴じゃ」
「うそ。 アタシをオカズにしてたじゃない」オカズ?
「え?」
「あ、まだノゾミちゃんには判んないか。オナニーっていったら判る? みたいね。
さっきの『オカズ』って言葉の意味はね、ご飯=オナニーって当てはめて考えて」おかずって…ご飯をより『美味しく食べる』…!?
「うぇっ!!」
そ、それってシンジさんがアスカさんに欲情したって事?!
「あは、わかったんだぁ」
「シンジはね、重傷を負ってベッドの上で昏睡に近い状態だった動けないアタシの上で
思いっきりぶちまけるまでやったの。 今のヒカリの体に付いてるのと同じ精液をね。
シンジ、アタシはあの時の事ちゃんと覚えてるわよ」シンジさんの顔が青くなったから、それが事実なのはわかる。
でもそれ自体は姉と関係ないと思うんだけど「シンジサンニ謝って貰うのならともかく、なんで…ボクや姉を巻き込んだんですか……」
「シンジはね、アタシのものなの」
あたしの……もの?
◆ ◆ ◆ボクの胸を揉みながらアスカさんは説明を始める。
「サード・インパクトはね、シンジがアタシを求めたから終わったの。
永遠の安らぎを得られる世界を捨て、傷ついても他人と、アタシと生きる世界をシンジは望んだの。
だからアタシもヒカリもノゾミちゃんもここにいる。 デモね、シンジはアタシの首を絞めたの」話に合わせるように体中弄り回されてボクはもうふらふら。
彼女はそれでも聞いていて欲しいらしくて、時々摘んでいた乳首を強めに抓りあげる。「はぅ?!」
痛みで少し理性が戻った頭で考えれば考える程、彼女が何を言いたいのかよくわからない。
サード・インパクトがどういう物なのか判らないボクにはさっぱりだし、
『アスカさんと生きる』と決めたシンジさんが『アスカさんの首を絞める』のは明らかに矛盾している。
考える事を放棄し始めているボクの頭でもそれくらいは判る。シンジさんは否定も肯定もしない。
「アタシが怖かったシンジはね、『自分に都合のいいアタシ』を求めたの。
でも、コイツの元に還ってきたアタシはシンジにとって『都合が最も悪いアタシ』だったの。
だからアタシの首を絞めて意識を飛ばして、三年も眠らせて、その間に『都合のいい女』として
シンジの事をこっそり見ていたヒカリを選んだの。
ヒカリの………自分にとって都合のいい女の『温もり』が欲しかっただけなのよ」
これも明らかに変だよ。
そんな理由で姉を選んだのなら、シンジさんはアスカさんをドイツに帰そうとする方が自然だと思う。
そうすれば『シンジは自分を捨てた』と見限って二人の関係は彼女の方から切らせる事ができるし、
シンジさんと姉の関係に自分から近づこうともしないだろう。それに本当の家族の傍にいたほうが心の傷は癒えやすいはずだから、シンジさんの口癖だった
『アスカには早く目覚めて欲しいよ』にも話があう。『シンジさんがこっそり姉とアスカさんの二股を考えていた』とか
『好きだった人の傍で姉とHをする』とか、そんな理由でこの街に留め置くようなシンジさんじゃない。
「償いをさせるためにもシンジを取り戻す事にアタシは決めたの。
でもね、アタシはヒカリやノゾミちゃんもほしくなったのよ。
理由なんて無いの。 ただ、欲しいの。 だから手に入れるのよ」
「きゃふぅ!」一人でスルとき、ボクが一番気持ちいいと思うところを揉み解すように親指で押してくるアスカさん。
もうだめ、気持ちをHな事から離れさせようと思っているのに、思考がすべてその方向へ向かっちゃう。
ますます混乱させるものがもう一つ自分の体に届いてしまうのもボクは忘れていた。
◆ ◆ ◆
アスカさんの指が『穴』を見つけ、そこにもぐりこんで行く。
「ちがうよぉ!そこ、お尻ぃ!?」
そこは違うのに。
好きな人を受け入れる場所じゃないのに。
それなのに。何で気持ちいいんだろう。
そのときボクの中で何かがぷつり、と切れた。
◆ ◆ ◆
「アスカ!僕とヒカリは覚悟していたからこうされてもいい。 けどノゾミちゃんだけは離してあげて!」それを拒否したのはアスカさんじゃなくて
「いやです」
ボクだ。
「………ノゾミ……ちゃん………?」
ボクはふらふらとする手をシンジさんに伸ばしていく。
シンジさんの呆然とした顔にボクは頬、額、顎とキスしていく。
「どうして…?」
「誰にも譲れない事があるから」
どこに隠れているのかは知らないけど、姉を精液まみれにさせた、アスカさんと二人で姉の心を
ボロボロにした男の人は必ずこの家の中にいる。
どうしようもなく狂って行くボクらを欲望にぎらついた目で見ている。その人が誰なのか……ボクが知っている人なのかは知らないけど、多分アスカさんとその人に
ボクは犯されちゃう。 それ自体には覚悟ができたけど、一つだけボクにも譲れない一線がある。
「媚薬………薬の効果かもしれないけど、ボク、このままじゃ狂っちゃいます」
軽くのど仏にキスする。
「多分、このままじゃボクはアスカさんと一緒に姉を犯した人に犯されちゃう」
精一杯の微笑みを、作ってない笑顔を彼に。
「でも、最初だけは。初めてだけは」
シンジさんの頭を小さい胸に抱え込んで。
「誰よりも好きな人に、シンジさんに、捧げさせて…下さい」
顔を上げたシンジさんの唇に、同じものを捧げながら。
ボク『が』シンジさんを押し倒した。
本心から愛したい人の罪悪感を少しでも小さくするために。
◆ ◆ ◆
初めてのボクが濡れているかどうかとか、十分に濡れているかとかの『加減』なんて判るはずも無くて。
でも、ボクはいつの間にか姉が取り出していたシンジさんのものにボクのを押し当てて、
一気に腰を下ろそうとした。当然来るのは今までボクが感じた事の無い痛み。
ゴリゴリとした感覚と一緒に、かきわけて入って来るとしか判らなかった。
もちろん気持ちよさなんて無い。
シンジさんのモノ、ただそれだけがボクを突き動かす原動力だった。
少し入ったところで何かに突っかかって止まってしまう。
原因はわかっていても、そこからは必死に力を抜いてもシンジさんのは入っていかない。
早くシンジさんに!
でないと知らない人に犯されちゃう!
焦っていたボクを助けてくれたのはシンジさんだった。
「ノゾミちゃん」そっとシンジさんからキスしてくれた。
さわさわと体をなでてくれる。
胸を揉みしだいてくれる。シンジさんが手を出してくれた事に痛みを忘れて恍惚となったとき。
嘘みたいなスピードですとんと体が一気に落ちた。「かはっ?!」
喉が潰れたと錯覚するほどに声が出ない。
叫んでいると思うのに、耳には何も聞こえない。
体を仰け反らせ、様々な動きをして、痛みから逃げようと体が勝手に動く。
「大丈夫!?」
心配をしてくれるシンジさんの声に自分を取り戻す。そうだ。
何を迷っていたんだろう。
気持ちを切り替えて。痛む腰をそっと動かす。
「痛いけど、嬉しいです! こんな形でも……ボクは嬉しいんです!
あねにはわるいけど、ずっと好きだったんですよぉ…」せっかく叶ったチャンス。
姉とシンジさんを獲り合うつもりは無いから。
全てが終わったら、姉が責める前にこの家を離れよう。
でも、その前に少しだけ……。
「ゆるさないから」
え?アスカさんの声じゃない。
顔を上げたボクの前には氷のように冷たい瞳。
目の前に姉の顔ががあった。