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何かを持っていないかという君の質問に対し、浮浪者はポケットの中からいくつもの小物をとりだして床の上に並べた。 錆びたナイフ、ちびた鉛筆、キラキラ光る小石、薄汚れた小銭…。 その中で、一つ君の気を引いた物があった。 君が興味を持ったことに気がついた浮浪者は、薄く愛想笑いを浮かべながらそれを君の方に押し出す。君はそれを手に取ると、しげしげと眺めた。 これは、カードメモリーだ。 君の生きている時代で最も一般的な、コンピュータ用の記憶媒体。ありふれた物だが浮浪者が持っているのは、普通ではない。それとも彼らはこの手の装置を扱うこじゃれた連中なのだろうか。 君の物問いたげな視線の意味に気がついたのか、浮浪者は首を振った。 「ああ、これは俺のじゃない。拾ったんだ」 こういう生活をする以前、この手の機械を多少扱う仕事をしていたと自慢しているように男は言った。君は内心、小馬鹿にしながらも次の言葉を促した。 「あ、ああ。これはあのマンションの住人が落としたのを拾ったんだ。確か、黒い髪の長い綺麗な姉ちゃんの持ち物だったかな」 だいたい、男の言っていることはわかった。もしかしたらこのメモリーは役に立つかも知れない。直接、目標に関係してなくとも何か有益な情報が入っている可能性はある。 君はカードメモリーを手に入れた。 取る物を取った君は、目で素っ気なく男達に立ち去るように促した。これ以上この腐った臭いに包まれているのは耐え難い。 這々の体で仲間の体を引きずりながら浮浪者は君の前から逃げ出した。君は胸がすっとした物を感じる。 この心地よい気持ちを抱きながら、君は奥へと進む。 君は階段に向かった。 |