肉体決済 〜レイが全てを売り渡した放課後〜



11.レイ、落花零落の運命

黒い遮光布からしなやかに伸びたウェストライン、ヒップラインはレイとさして変わらない少女のもの。
それがパイプオナニーに激しくがくがく揺さぶられ、弓なりに絞りきられた頂上でしばし息を止め、やがて脱力に崩れる。

「あっ……、あっ。くぁ、……ぁ」

暗幕の少女が汗まみれの裸身をのたうたせたアナル絶頂を、レイはケンスケの腕の中で喘ぎ喘ぎ目撃した。

「…………! …………!!」

声は最後まで噛み殺しきったのか、それとも何かで塞がれていたのか。潰れた唸りにしか聞こえなかったものの、ぐがふがと太く獣じみた迫力に満ちていて―― とても女の子が出したと思えなかった半面、オーガズムの深さが思い知らされる。

(こ、このひと……)

あれほど狂ったように悶えるのだから、どれほどだったものか。お尻の穴を模造のペニスでほじくって得た、“気持ちよさ”は。
実に堂に入った悦がり様だった。
この年頃の当たり前の少女なら、今のバイブオナニーからすれば児戯にも等しい一人遊びでさえ、そっと息を潜めて恥じ入るようにアクメを迎えるだろうに。
床に背を踊らせ、すべすべとした下腹をのたうたせ。手は握り締めた暗幕に爪を立て、或いは床を掻きむしり。ばらばらに捩らせた手足の関節を、ギリギリと軋ませるように――
彼女の酷い絶頂ぶりときたら、ケンスケに見せられてきたアダルト動画の出演者とだって張り合える。
ポルノ女優の彼女らはプロとして、観客にわざと見せつけるための淫乱ぶりを誇張して演じているというのにだ。
同じ第一中生徒なのだろうその裸の少女は、レイという同性の相手が見ている前で、相田ケンスケなぞに命じられたまま繰り広げてみせた。
レイはそれをみっともないと蔑み、一方で喉をカラカラにさせて凝視し続けた。

(……どうして)

全てが信じがたいが、察しは付けられる。自分と同じ、なのだろう。
同じように悪辣な契約に縛られて自由を無くし、そして陥穽の中で淫らに作り替えられていったのだ。
(こんな……)と情けなさを感じるほどに、男の卑劣な愛撫にさえ心地良さを得てしまう、淫らな躰に。

(そう、一緒なのね……)

自身と比較する視点に立ったとき、まだしもとさえ言えるとレイは考えた。
暗幕を上半身に巻き付かせただけで床に這う彼女。肛門自慰に狂った後をしどけなく晒し、中学生少女が大人になりかけた証にあった筈を剃り上げられた下腹部には、性交の痕跡も無惨に認められる。
翻ってこの自分。白い埃に汚れたソックスの他はやはり全裸に剥かれ、性器どころか乳房も顔も隠せずにいる。
背中には嫌悪しか抱けない少年がぴったり張り付き、

「綾波ぃ……。な、感じてきただろ? あいつみたいにさ、ケツ穴でイカせてもらいたくなってきたんだろ?」
「うぁっ、あ、ああ……」
「オッパイの先っちょ、こんなにコリコリさせてさぁ。へへ、今日は制服越しじゃなくて直だからよ、誤魔化そうたって無理だぜぇ」
「黙って、いて……」
「黙んないって。こいつは正当な権利の行使だぜ? 俺が、自分の持ちもんいじくって、触り心地をついつい口にしちゃって何が悪いんだよ」
「……ッ、っう……ぅ……。あぁう、ううっ」

まさに好き勝手、きつく唇を噛みしめて耐えようとするレイの無防備な体を弄ぶ。

(……このひとを、わたしは軽蔑できない)

無様な姿ではあろう。しかし、この相田ケンスケの罠に掛かった被害者であるなら、同情されるべきでしかない。
少なくとも、卑劣ではないのだ。自分のように。
綾波レイは、人前で肛門なぞにバイブを突き立てて悦がり狂う様を演じこそしていないが、しかし、

(男の人に触らせて……声を、出したわ)

胸を見せもしたのだったか。自分から誘うようにしたのだったか。
相田ケンスケに連れられて乗ったモノレールの中での、痴女と呼ばれるのが相応しい行いだ。
挙げ句、顔も碌に見なかったほどの行きずりの男性に、処女を奪わせたのである。
もう綾波レイは、自分の恋心に恥じないでいられる躰ではない。
それに、と。

(無関係なひとを、何人も泣かせてしまった……)

相田ケンスケの『手』として、乗り合わせた少女達を痴漢行為に辱めもした。
すすり泣いてか細く、やめてくださいと懇願するのに、レイは黙って相田ケンスケに荷担し、なぶり者にしてしまったのだ。
これを卑劣と言わずして何と言おう。
自分の方こそが、あまりに罪深いではないか――



◆ ◆ ◆



「……ッォ、ぉふ……フ……」

オーガズムに打ち震えていた彼女の裸身は、余韻に尚震えながら沈んでいく。汗汁のしみを黒く変色させた暗幕へと。
黒布を被りきれず、敷物にも出来ていない真っ白の腹部から下は、掃除の足りない床に素肌をそのままだ。
汗ばんだ太腿が埃にまみれもする。
奴隷の忠実さをもって最後までヒップをもたげ見せていた張り詰めが失せると、事後の気だるさに満たされた細腰はぐったりと仰向けに転がった。
それでも菊座に突き立ったままだった杭棒の底が、リノリウム床でカツと固い音を立てる。

「ッ、んぅン……」

絶頂を迎えてまだ貪婪なのか。菊皺がのびきるほど食い締めるそこに響いた振動を、反射的に悦がる切なげな呻き。
レイはぎょっとして、驚くくらいクリアーに聞こえたその『声』に目を見開いた。
見れば、轡代わりに暗幕を噛んでいた口元がするりと解けてしまっている。
知っている声に聞こえた。確かに、どこかで……と、記憶の縁を掠めたように思えたのだ。
別におかしくはない。
顔が分からない彼女だから、同時に誰でだってありえる。
まさかと思うような身近な人間かもしれないだろう。

(洞木、さん……?)

ケンスケを躊躇いながら紹介してくれたクラス委員、第壱中がクラス編成を新たにして再開されるより以前からの級友を思い浮かべる。
彼女も同様に、何事もないかの学校生活を続けている裏で、ケンスケとの取り引きに辛苦を強いられていることをレイは知っていた。

つい先週末のことだ。
命じられ、何事かと疑問に思いつつ暗室に息を押し殺して暫く、部室に姿を見せたのはレイにも見慣れた少女だった。
その洞木ヒカリが『支払い』をと命じられて制服を脱いでみせるのを、そうして持ち出された縄に緊縛されていく様子を、レイは目撃させられたのである。
呼び出した側のケンスケは早朝という時間を詫びるでもなく、取り立ててのことでもないという至って気軽な口調でいきなり促していた。大人でもないが、もう子供でもない女の子に向かって、その場で素肌を晒すようにと。
当然覚悟はしていたのだろう。
レイもそうだ。この部屋に入るときには、なにがしかまた喪わされるのだと、予め諦めが出来てしまっているし、出来ていなくても理解はしている。
生真面目で通るクラス委員。この年代の、学校に通うのに薄くメイクをしてみたりと色気付きだした少女達の中にいて、シンプルなお下げにまとめた髪型もいかにも純朴な彼女は、やはり、

『…………。わかったわ』

と、言われるままにジャンパースカートの肩を滑らせた。
俯いた少女が応えを返すまでにあった、気詰まりのする沈黙。その間が、14歳の少女が同級の男子生徒相手に裸になってみせる葛藤の程なのだろうけれども、果たして長かったと言えたものだったか。
シュル……と首のリボンを抜いてしまえば、次にブラウスのボタンを上から順に外していく手付き。これが殊更に淡々とした風である点が、レイに第三者から見た の自分の表情というものを強く意識させた。

何のことはない。かつてのレイは碌に鏡の中を見詰めたことも無かったのだが、この部室に通うようになって以来、それまでの人生でを全て合わせたより余程多く、映された自分の姿というものを眺める羽目になっていたのだった。
相田ケンスケの『手』として、彼が自ら性欲を発散させようとする行為を する姿。
男子生徒の黒いズボンの前に跪き、膨らんだ股間をまず優しく丁重に撫でさせられる姿。
ベルトをカチャカチャと緩め、下げたファスナーの間から白い繊手を痴女じみて忍ばせ―― 直に触り、握り、屹立を取り出す姿。
そして、亀頭にじゅくり先走りを垂らすいきり立ちを、ケンスケのあれこれの指示に従ってその手のひらに包み、いっそ捻り潰してやりたいのとは裏腹の丁重さでしごいてやる。射精まで。
そんな自分の姿だ。つまり、覗き見た、徐々にオールヌードに近付いていく洞木ヒカリの後ろ姿は。
そしてケンスケが取り出した縄に、前を向き、後を向き、手を上げ、下げ、言われる通りに動いて巻かれていく姿のなんと惨めったらしく映ったことか。
あの後の彼女は、再び着込んだ制服の下に縄を巻き付けたまま、なんとか平静を装って授業を受けていた――

(……いいえ、違う。でも……)

たった一声、呻いただけの響きであったけれど、彼女ではない。
レイはまじまじと、暗幕を被って横たわる目の前の少女を見詰めた。
その気はなくとも脳裏に浮上してきた様々な声が―― 喘ぐ洞木ヒカリの声が、今ほど耳にしたアナルオナニー少女のそれとの照合の俎上に乗せられていく。
女子トイレを盗撮するカメラ越しに聞いた声はどうだったか。
控えめに膨らみだした乳房が縄に絞られていく時に、まっすぐに陰阜を割るスリットに縄が引き絞られた時に、のけぞってしまっていた声はどんなだったか。

(違ったわ、たしかに)

彼女のものというよりも別の、違った誰かの声質に違いないと、はっきり表面に掬い上げきれない記憶がそれだけは断じている。
もう少し努めて探ろうとすれば、意外に簡単に回答を導き出せてしまいそうなその感触に、却ってレイは怯えた。

(……誰だろうと、知る必要のないことだもの)

胸の中で自分自身に言い聞かせる。
はっと気付き、暗幕のほどけた隙間に素顔を求め、まじまじと見詰めかけていた目を引き剥がした。
しかし咄嗟にずらした視線の先は、挿入も受けずに開ききり、ひくひくと息衝いていた秘唇の、ぬかるんだ中心をもろに横切ってしまっていた。

―― ッ」

ヒトの牝としての本能だけが剥き出しになったかの、それ以上にも何か冒涜的な姿。そこから、いやいやと首を振って後退ろうとする。
いくらなんでもの見苦しさだからこそ、見知らぬ誰かであって欲しかったのだ。
ケンスケのような好色な人間が趣味にしている卑猥な雑誌やビデオ。そこに映る別世界ほどに遠く感じられた女性達と同じ、浅ましい獣じみた振る舞いを―― 肛門でバイブオナニーに浸るなどという変態的な真似で目の前に繰り広げてくれた彼女が、レイの直ぐ傍で暮らしている誰かだと突き付けられるのは、耐え難かった。

(そんなこと、いま考える必要無いもの。この人のことなんて、私には……無関係)

しどけなく横たわって余韻を貪る彼女。顔の上に残るベールも頼りないたった一枚、簡単に剥がれていってしまいそうなのに、それでも腰をみっともなくひくつかせるのみで、ただ恍惚としている。
もはや正体を隠すつもりは欠片も窺えない。尻穴を抉って余程良かったのか、意識の上から吹き飛んでいるのだろう。
注がれた牡精の名残ばかりか、真新しい恥蜜を粘膜にテラテラとさせているラヴィアも丸出しで、羞じもしない。
いずれ となる自分に、それしきのことなど些細な問題になるのだと告げているかのようだった。
そんな彼女が、恐ろしくさえある。

「い、いや……」

ふらつく足。
だが、原始的な衝動に駆られたファースト・チルドレン、レイの裸の背中は、『おっと』とやはり塞き止められていた。

「今更、人のマンコも驚くようなもんじゃないだろ? こないだまでは、電車通いの他校の子のマンコも触ってやってたのにさ」
「……な、なにを言って」
「いや、純情無垢ぶりっ子の綾波さんは、この期に及んで他人のヒクヒク汁マンコ見ちゃったくらいで、かぁ〜いい悲鳴なんか上げてと思ってさぁ」
「…………。そんなところ、別に見てなんかいないわ」
「おや、そう? なんか心臓バクバクしてっけど」

レイの裸の胸に、直に手を当てているケンスケである。
鼓動を確かめてやるとばかりに、羽交い絞めにした左手で片胸をぐにと押し潰してくる。
アルビノだからか、平均よりも更に色づきの薄い透明なピンクの乳首と、ちんまりと囲む同じ色の乳輪を指の腹でにじにじとねじ回し嬲って。

「……っ、っあ……」

左右に緩くこねてくる圧迫にヒクンと覚えて、男の指に確かな尖りを主張してしまえば―― してしまう程、発情させられている実態を再認識する。

「へへ、胸がドキドキっつー前に、こんだけ乳首コリコリさせてりゃ世話無いよな」

不利を覚えたレイは、また馬鹿にされると分かっていつつも黙り込むしかなかった。
良く見ている。いや、すっかり見透かされるようになってしまった。

思えば、だ。
潜んでいるよう暗室に押し込められ、覗き知った洞木ヒカリの事情。更にはこの『取り引き』の最初に見せられた盗撮カメラに映っていた友人達の、トイレでの秘められた行い。
いずれもがレイの心に衝撃を与えてきた。
神話の領域からネルフの科学が掠め取ってきたに近い生い立ちを持つ神性の少女は、この歳に至るまで、幻影ならぬ肉を持った身体に過ごしながら、女の性が備える肉欲とは無縁であった。
生殖行為、男女の交接。そう戸板に記した文字を茫洋と佇んで眺めるように、その意識を惑わす熱気も、甘ったるく放つ匂いも、ぬめる感触も、何も知らなかった。
だが、その―― 肉欲を、女の子ならば皆々みんな必ず隠し持っているのだと、戸板の向こうを暴いて教え込んだのが、ケンスケだった。
さんざんに身体をまさぐってきて、ままならず理性を灼き焦がす情動が自身にも眠っていたのだと教え、処女喪失に至る『実体験』へと導いたのが、よりにもよってのこの彼だった。

「声、我慢するなよ」
「……ッ」
「尻いじられるより、こっちの方が綾波も楽しみやすいだろ?」

乳首を優しく摘まれる合間に、また言い当てられる。
あまりに変態的ではないのか。そんな苦悩の付きまとう尻穴を蕩かされていると、まだしも抵抗感の薄い部位に言い訳を求めたくなってしまうのだ。
気持ち良くなっているかもしれない。でもそれは、お尻になんかじゃない、と。

「……っあ、あ、あん……」

ぷくりと充血した乳暈から先の敏感部分、まるごとが発熱しているかのように湧き出でる、愉悦感。
濃密に施される指圧がくれるこの感覚は、ノーマルだ。
誰に報告を求められることでもないが、この区別は重要だとレイは強く結論付ける。
神経の集まっている場所だから、敏感なのは当然だし、

「ぁ、ああぁ……、あはぁ……っ」

相田ケンスケの見せるいかがわしい雑誌だけでなく、自分で調べた分でも乳首は性感帯なのだからと記されていたのだから、何もおかしくは、ない。

「あぁ、ああぅ……、はぁぁ――
「なぁ?」
「……ぁ、ッ、っぁ……あ……?」
「俺は確信したね」

ニヤニヤとケンスケは言った。
桜色の唇を切なく震わせていた少女は、その潤んだ瞳を反応させる。
実を明かせば、唆すような囁きを織り交ぜ、乳首転がしに可愛らしく喘がせてやっている間、レイが一番怯える後孔への指ピストンは手控えにしていたのだった。

「な、綾波。お前、マンコの方も……クリの方もさ、こうなるととっくにカチコチだよな。おっぱいとケツ穴だけでこう泣きそうになっちゃってんだしさぁ」

またアヌスに挿し込まれた指で内側から刺激されて、くうっと悔しく。
力が抜け落ちそうになった膝を叱咤する。白い足がわなないている先で、黒いソックスの爪先に力をこめる。
紅い目の端に浮いた涙を揶揄されても、耐えるのだ。

「っあ、あ、ああう……っ、っッ……」
「堪んないんじゃねぇの? もうさ、ここらで気持ち良ぉ〜く一度、イッちまっとかね? そいつみたいに」

倒れ伏す少女を、ケンスケがレイの肩に乗せた顎をしゃくって示し、言う。

「気持ち悦ぃ〜いぜぇ?」

誘惑だ。たしかにそれは誘惑であると、見知らぬ少女の絶頂ショーに妖しく影響され、アルビノの青白い内股をぬるぬるとさせてしまっている今のレイには、理解出来てしまった。
ニヤニヤと請け合いつつ。突き刺した中指の根本に丸められた人差し指が、折り畳んだ関節の硬さですりすりと、菊花の皺を擽ってくる。
潜り込んだ中では強引にあちこちまさぐっているのに、入り口の方ではぞっとするほど優しくタッチしてくるものだから、堪らずレイは背筋を震わせた。

「っく、く、くぅぅ――

ゾクゾクとしてくる、尾てい骨の辺りに走る電流じみた感覚。
妖しい官能の気配を感じる。それは事実だった。
だが、悟らせてやる気にはなれない。認めるのは嫌だ。

「触ってやろうか? マンコの方もさ」
「馬鹿を、言わないで……っ。ッ、つうっ、ッ……」

直接触られずとも、既に子供と変わらない見かけの花弁はとろとろに蕩けていた。
どうせ悟られていようが、触って確かめられたくはないし、触られでもしたらどうなることか。
どれだけ乱れてしまうか、自分でも空恐ろしい。
ただ、耐える。耐えるしかない。
耳元で卑猥なからかいが続けられるけれども、言葉で嬲られるぐらい、この少年から加えられてきた恥辱の中では軽い方だった。

「強情だねぇ」
「そこは……あ、あなたに……売った覚え、ないもの」
「だから触らせないってか。そりゃ勿論、俺のものになら一々綾波の許可なんか要らないし、聞いたりなんかしないんだけどね」

―― こんな風に。
言葉の裏付けをはっきりさせるように唐突に、ケンスケの指はわざとらしくアヌスの中で『ぐにゅ、ぐにゅり』と、のたくる蛇じみた動きをしてみせた。

「……ッフ! はぁお……!」

刺激された場所は深かった。
それほど奥で 感覚は、まだ知らなかった。

ルビーの瞳は見開かれて丸く、ビクンと飛び上がりそうになった爪先。叫び掛けた口元は硬直し、覗くちんまりとした舌さえ引き攣ったかの哀れぶり。

「くくっ」

そんなレイに、してやったりの含み笑いが耳朶に生温く掛かる。
背中から抱きしめてきているケンスケの、見ずとも分かる勝ち誇りが悔しい。
しかし、あの冷徹空疎な顔に年相応の驚きが―― と表す程度ではいかにも生温い、不意打ちの官能に見舞われた驚愕と、竦みと、悩乱だったのだ。

「……ッハ、ハッ、はぁっ……」

なんとか急いで息を整えようと。レイは喘いだ。
上機嫌そうな少年がここで追い打ちをしてくる気配がないのは幸いだった。
白い胸を揉んでいる手付きも、きゅっとすっかり緊張してしまった尻たぶを撫でている残りの指も、大した脅威になるほどの構えには出ていない。
レイもまだやり過ごせる、慣れてしまっていた内の愛撫だ。
危うく醜態を晒してしまいそうになりかけたのは、先の一撃のみ。

「へへ、やっぱ綾波、ここも素質あるじゃん。前に痴漢の誘い方レッスンしてやった時にも、えらい敏感だと思ってたんだよね」
「な、なにが……」
「立派な、ケツマンコの素質だよ。保証してやるって。綾波、前で二度目するより先に絶対にケツ穴セックスの良さってやつに目覚めるね」
「……そんなことっ」
「へへっ、どうだかなぁ〜」

しかし、この卑屈な笑い方をする少年は、どれだけの悪質な隠し球を用意してきているのだろう。
どんな手管を、籠絡向けの異様に長けた性技を習得してきているのだろう。
歳こそそうだとしても、自分や級友達と同じようなただの中学生徒だとは、とても思えない。
一体彼は、何なのか。何者だというのか。
『あ、ああ……』と、今更ながらにレイは恐怖した。

「なぁ、綾波。綾波もさ、一応貫通済みなわけだしさ、分かると思って親切言ってるんだぜ?」
「な、なにを……」

触って確かめられれば誤魔化しようのないしこり、興奮の証拠を見せる乳首をゆっくりとこねられつつ、見てみろともう一度床を示される。

「……っ」

直視するのは同性だけに堪える。すらっとした長い足と肉付きの薄い中学生のヒップを二人に向けて、狂乱の一時が去った今は、余計に惨めな様を晒す少女だった。
肛門自慰による絶頂を遂げた後は、ぐったり息も絶え絶えに。
突っ伏した尻朶の盛り上がりには、谷間の中心に深くめりこんだバイブを残したまま。
暴れに暴れた淫乱な尻肉は、自分で自分を串刺しにしてかき回していた手さえ、最後の瞬間には弾き飛ばしていた。今は力なく、横倒しの顔のそばに放り出されている。
彼女が被り、ざわざわと波打たせていた暗幕も、頭から胸までを覆った小山の形を残して後は静かに床に広がる。
アクメを迎えた直後、四肢の強ばりが解けると同時に、浅ましく取らされていた犬の小便ポーズも解かれていた。
ただ、まだ収まりきらぬ息遣いに黒い小山がゆるゆると上下し、それに連れて突き立ったままのバイブの柄がまた上下するのみだ。
見るだに悲痛な姿だとしか、言いようがない。
―― 少なくとも、この邪淫の部屋にあってもまだケンスケを憎み通していられる、綾波レイには。

「……こんなことを、させて……」
「なに言ってるんだよ。綾波の為だぜ、これは」

この場において、二人の少女を奴隷のように従えさせている当人が、支配者らしく鷹揚に首を振ってみせた。

「こいつを可哀想だとかさ、そんな目で見てやるなよ。そもそもこいつにゃそんな感想自体勘違いだし。筋から言えば、綾波には言われたくなんかない、ってとこだろうな」
「……どういうこと?」
「ははっ、こいつもあれだけド淫乱なとこ見せてやったのに、報われねぇよな。綾波、意外と馬鹿だったりしない?」

こちらを馬鹿にした態度は終始一貫している。
まともに答える気はないのねと、そう判断したレイは、口を噤んで―― やもすれば菊花から湧き上がりそうな喘ぎを殺しつつ―― 少女をもう一度観察することにした。
何かを見落としているということが、あるというのか。

「…………」

大きすぎる頭巾のように黒布を被った、彼女。
相田ケンスケが目を付けるくらいだから、恐らくは人並み以上に容姿に恵まれた少女なのだろう。
こんな少年に関わりさえしなければ、こんな泥沼のような陵辱連鎖とはまるで関わりのない学校生活を、レイが本で読んだような穏やかな恋なども出来ていたろうに。
見知らぬ少女だ。ただ同じ相田ケンスケの慰み者であるということに、僅かな繋がりを感じないでもない程度の相手だったが、さすがの綾波レイも無感動ではいられなかった。
眉根を顰め、気の毒そうに。
そんなレイの目に、こぷりと白濁した泡を流す少女の後ろ向きのラヴィアが留まった。

―― そこだよ、と言われた気がした。
脳裏に閃くものがあった。理解だった。
そう、たしかに。力みかえっていた太腿が崩れ閉じ、無毛に剃り上げられた付け根が隠される寸前、レイは見た気がしたのだ。
生々しい鮮紅色を見せつける彼女の肉ビラのわずかのはみ出しが、挿入も無しにひくひくと口を開けて―― 濡れそぼつ膣泉からねっとり、白痴の涎汁を垂れ流したのを。
いかにも嬉しそうに。先に男に注がれていた精液に加えて、己の悦びを凝縮させたエキスのような淫蜜を、喘ぎ漏らしたシーンを。

『見とけば分かるって、綾波もさぁ』

拒絶出来る権利を売り渡したレイの後肛に指をくじり入りさせながら、最初からそう自信ありげに、ケンスケはうそぶいていた。
その、意味。

(あ、あ、ああっ……。これ、がっ……)

あまりに近く、目の前で。そしてケンスケに胸と尻を悪戯されるわななきの中、いっそ凄惨な美しささえ醸し出す彼女の迫力に、淫らさに、魅入られずにはいられなかかったから。
努めて無視はしていても、我知らず息が熱く、腰がくねり出しそうなアナル責めで喘がされていたから。
レイはエヴァにシンクロするのと似た錯覚で、無自覚の内に―― 理解、出来ていたのだった。
少女が痙攣する股間から床へ滴らせたイキ汁の熱さを、自分がやはり熱くさせている秘部の感覚として。
たまらないほどの疼きを宿して緊張する秘唇の隙間をとろりと、次から次へ外に滲み出て行く恥ずかしい漏らしぶりを、彼女と同じなのだと。
共感とも呼べる、自己への置き換えによって。

彼女の全身をわななかせた絶息の痙攣は如実に物語っていた。彼女たちには、レイたちには可能なのだ、と。
心から悦ぶことが。
不潔な排泄器官でしかないとレイが考えていたアヌスで、乳房を揉まれ、性器をいじられるのと同様に、快楽を得てしまえるのだと。
呪わしい目の前の悩み全てから逃避してしまえるだけの。何も考えられなくさせてくれ、身を委ねてしまうに実に向いた。快楽を。
肉欲に屈服してしまう情けなさと引き替えにしても、幾ばくか安らぎさえ得ることが出来る―― 深い深い深淵の恍惚を得てしまうことが、可能なのだと。

そんな、知らずにいたかった呪われた性を、この相田ケンスケという少年は引き出すことが出来る。
レイの躰からも、無理矢理にでも。
それは間違いない。この少女だって元々は、あんな変態的な性癖を悦びと共に晒してしまえる女の子ではなかった筈なのだし、そう変えてしまった犯人は他にいやしないのだから。
そして、まんまと尻肉を売り渡してしまった自分には、彼女のように尻穴でイキ狂うようにさせられてしまう運命を、避ける手立てが無い。
レイはそう、悟ったのだった。



◆ ◆ ◆



実際の行為は結局、その日は行われなかった。
気力の萎えてしまったレイであったから、強要されればそのまま虚ろに澱んだ目をしたまま、アナル処女を奪われるに任せもしただろうが。
だが、傷付きやすい器官だ。ケンスケはその意味においては親切であり、慎重だった。
歳と立場不相応の経験が、いっそ薄気味悪いほどの冷静さをも与えていた。
とは言え、第壱中きっての高嶺の花を遂に殆ど手中に収めきり、凝った演出の成功で反抗的な態度をとれる余裕さえ奪ってやったのだから。オールヌードにさせたアルビノ美少女の華奢さ、体温や身じろぎの全てを、腕の中に抱きすくめて味わっていれば、昂ぶりをそのままに済ますことなど、流石に出来なかった。

「……契約の証、なのね……」

半ば投げやりのようにも見える態度で言葉少なく頷いて、レイはデスクに上体を倒し、預けた。
臍の下ほどまでを俯せて乗せ、高さが合わなくなった分はつま先立ちになり、白いヒップを突き出す。
ケンスケは後から覆い被さって、思う存分に腰を振った。

「……っ、っッ、くはっ、あっ」

挿入は行われていない。前にも、後にも。
ただし、丸い尻たぶは鷲掴みにされて割り開かれ、菊の花にも似てすぼまった排泄孔は剥き出しに。
暴かれた尻肉の谷間の底に、ケンスケは勢いよく滑らせ擦りつけ、ペニスを振り立てた。

後背位にしか見えない躰の重ね方をする二人。擬似的なアナルセックス。
それは、すぼまった皺口にケンスケの先端がひっかかる瞬間にこそ最も危うさを覚えさせる、ギリギリのプレイであったのだけれども――
捨て鉢になりすぎていたレイの反応は、苦しげに息を漏らしつつもどこかケンスケには物足りなく、このことがまたその場での猶予を彼に考えさせた一因かもしれなかった。

(ちえっ、お人形さんかよ。脅かしすぎたな……)

幾ばくかの不満を残したまま、故にさっさとラストスパートまで行くと見切りをつけたケンスケは、見てろよと一層堅く心を決めていた。
恥辱の極みでの悔し泣きを堪能しつつ、ヤってやるのだと。
そうして美少女の尻肉のあわいに白濁をしぶかせたケンスケは、そのままデスクの上に用意してあった墨汁を刷毛で塗りたくり、半紙を押し付けたのだった。
形としては魚拓と同じだ。
レイに手で尻たぶを押さえさせていたから、左右に引き延ばして暴かれた谷底まで、菊花さえ歪んだ形の転写で形が写し取られる。
しかも墨に混ざってインクの役を果たした精液は、いずれ黄ばんだシミとなり、和紙に見た者の眉をしかめさせる糊じみた跡となろう。
綾波レイの尻肉は、相田ケンスケの所有し、慰み者にされるところとなった。その事実をこれ以上になく雄弁に物語る証となって、彼の引き出しに仕舞い込まれるのだ。
おそらくは、ただ証として保存されるという以上におぞましい働きもするに違いない。
レイに対して。或いは、洞木ヒカリや他の少女達が諸々奪われていった契約の証が、次の犠牲者たるレイに威力を発揮したのと同じように。

同様の行為はレイの胸にも加えられ、そしてようやく解放の時を迎えたのだった。
既に、中学生の下校と呼ぶには遅すぎる時間となっていた。




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Original text:引き気味
From:エロ文投下用、思いつきネタスレ(4)