Beautiful Party

第1話



著者.ナーグル














 彼女達は有名な冒険者だ。

 年齢はヤングとは言え、生贄を要求して近隣の村々を荒らしていたドラゴンを倒し、邪悪な計画を練っていた巨人達を討ち滅ぼした。それらの功績を持って、彼女達はまだ18歳という若さにも関わらず、多大な恩賞でもって報いられた。
 リーダーである惣流アスカ・ラングレーはかつて名家と讃えられながらも反逆の疑いから没落した家を再興し、准男爵位を授与され、将来、どこか地方都市の領主となる権利を約束された。その勇名は増す一方だ。
 綾波レイは滅多に歌わないことと、その美声と踊りで知られる吟遊詩人だ。神秘的な雰囲気か陰口をたたく者もいるが、彼女が歌えばヘルハウンドも彼女の足下で頭を垂れて眠りにつき、吸血鬼は違う意味で頭を垂れて永遠の眠りにつくと言われる。その歌唱と踊りは100年に一人、エルフの女王に匹敵すると讃えられている。
 一行の知恵袋である魔法使いの山岸マユミは、大いなる力の素質を持った魔法使いのみしか受けられない『審問』試験を受け、見事に最年少合格記録を塗り替えた。いずれは大魔法使いとして、その名を魔導書に刻むことになるだろう。
 サブリーダーである洞木ヒカリは、とある街を呪っていたリッチを(皆の協力もあったが)調伏し、その不死の秘密であるフィラクタリーを破壊して数千の民を救った。その功績を持って正式に僧正の地位を与えられている。もっとも邪悪は子供であろうと善良であろうと問答無用で皆殺し、という過激な教義故に信者がなかなか集まらず苦労はしているが。
 元盗賊の霧島マナは忍者となって以後、彼女を倒そうと送られたギルドの数十の刺客を全て退け、逆に勢力が減少したギルドを壊滅させた。

 そんな「竜を挫く者」とまで呼ばれた彼女達一行が、どうしてそんな簡単な依頼を…という謎は残るが、ともかく彼女達は旅の途中、とある村を荒らしていたゴブリン退治を依頼された。

 本来、彼女達が相手するのもばからしいような小妖魔たちであったが、どうせそんなに急ぐ旅ではないし、行きがけの駄賃くらいのつもりで彼女達は引き受けた。彼女達は問題なく罠を突破し、怪物達を倒して遺跡を制圧した。
 ただ…村人はゴブリンと思っていたようだが、実際にそこに住んでいたのは、緑の肌をしたゴブリンではなく、まったく別種のヒューマノイド、オーク達だった。

 しかしながら竜を倒す程の力を秘めた彼女達にとって、数十のオーク達など問題にはならない。
 アスカ達の10倍以上の数がいるにも関わらず戦いは一方的だった。アスカが剣を閃かせ、ヒカリが聖なる光と音で撃ち、レイの歌声と踊りに呆然と立ちつくした所をマナの刃で首を飛ばされ、マユミの少々常軌を逸した攻撃魔法の乱射で蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。

「うわっ、弱ッ」
「待ちなさい邪悪な怪物共! アスカ、霧島さん、綾波さん、山岸さん! 追うわよ!
 邪悪で不潔な生物は皆殺しよ!」
「…命令ならそうするわ」
「相変わらずヒカリちゃんは過激よねぇ。ねぇ、マユミ…って、マユミもなんか怖いし。呪文保つの? やたら乱射してたけど」
「……別に、私は、普通です。いつもと、同じ、ですから」

 想像以上の情けなさといつもと違う仲間の姿に苦笑しつつ、後を追った冒険者達は、遺跡の中枢に到達していた。

 そこは壺の内側のようなのっぺりとした、天井がやたらと高いドーム上の部屋だった。オーク達が部屋の反対側の通路から逃げ出そうとしているのが見える。最短距離を突っ走って捕まえる! アスカの号令に一同が部屋の中に飛び込んだ。常に冷静に、状況の変化に即応できるよう最後尾を行くべきヒカリやマユミも飛び込んだ。
 何もない、ただの空間。なにも罠の反応も敵の気配もない。
 あるいはそれは、彼女達の油断だったのかも知れない。一同が部屋の中に飛び込んだ瞬間、悲劇は起こった。

 何の前触れもなく、空間が呻き、歪む。
 罠…いや、まだ生きていた古代文明遺跡の仕掛けが発動したのだ。そう悟る間もなく、アスカ達の視界は真っ白な光に包まれていた。逃げ去ったと思っていたオーク達が、大喜びで嘲り笑う声が聞こえた。

『ヤークシュ!(かかったぞ!) バカな、人間共がオーク!』
『ウルラ・ヤシュ。ヤシュカン、シャグ、ハーック!(人間、雌。雌穴、全力、やってやる!)』











「あつつ、ここは、一体…」

 強引なテレポート直後の意識喪失から目覚めたアスカは、まだ朦朧とする意識に吐き気を覚えながら、目を数回瞬かせた。タチの悪い便秘のような腹の重さと足下の頼りなさに気分が滅入る。羽のように軽いミスラル製のティアラですら、鉄ゴーレムのストンピングのような重さに感じる。息苦しさに吐き気を覚える。

「なにが、どうなって」

 閃光の残像が焼き付いていた視界が徐々にハッキリすると共に、アスカは自分が先程の部屋とは全く違う別の場所にいることに気がついた。顔を動かすと前髪が顔にかかって鬱陶しい。北方人種と東方人の混血である彼女はどこかエキゾチックな面立ちをしている。その整った顔をしかめ、指で梳いて癖のない蜂蜜色の髪を整え、ずれていたサークレットをかぶり直す。髪の隙間からのぞく赤い角のようにも見えるティアラは、とある冒険で戦女神ワルキューレより直に授けられた、装着者に強い意志力を与える神器だ。神力が効果を発揮すると共に急速に意識が覚醒していく。
 アクアブルーの瞳が周囲を見渡した。円形をした広間に、本来ここにあった物ではない無数の建材やガレキが放置してある奇妙な部屋…。

(ここは、確か、オークを追い掛けてるときに通った部屋だわ)

 なんで折れた柱や薄い石壁などが無造作に、乱雑に放置されているのだろうと、最初足を踏み入れたときは思ったが、理由がわかってみれば単純なことだ。先程の部屋の仕掛けは古代魔法王国の魔法が使えない人間達が使っていた、転送装置だったのだ。本来なら二つの地点にあった物質を移動させるだけだった転送装置だが、あらかじめ移動先にこんな風に様々なガレキを配置することで、それはただの転送装置以上の物となりうる。
 すなわち、転送した者を罠に近寄る鳥のように捕らえてしまう。

「くっ、この私が、オークなんかに…」

 不自由な自分の姿勢に歯がみしながら、アスカは思いっきり壁を殴りつけた。黒狼の皮革製グローブと鋼鉄のブレイサーを通して重い衝撃が骨を震わせる。アスカの腕力は並の男が裸足で逃げる程強いが、それでも石壁を砕く程の膂力はない。
 壁の大きさは幅が3フィート(90cm)、高さが5フィート(1.5m)、厚みが半フィート(15cm)程度だが、とても頑丈だ。
 漆黒の壁にかろうじて爪先が地面に着く程度の高さでアスカの腹部は、臍の部分を中心に固定されている。
 母猫に運ばれる猫の子のような姿勢で宙づりにされ、胴体で寸断されたような違和感ともどかしさ、なにより無様な自分の姿にアスカは熾火のような怒りを覚えた。思い出したように、じたばたと足を振り、何か触れる物は足がかりになる物はないかと捜すが、太股と膝が自分を捕らえている石壁に触れるだけだ。必死に手を突っ張って、抜け出そうと満身の力を込めるが、固定された彼女の体は1ミリだって動かない。

 30秒間、呻き声を上げつつアスカは藻掻いたが、どうやっても自力では抜け出せないと悟り、ぐったりと力尽きた。疲労と無理な姿勢に荒い息を吐きつつ、いくらなんでも今の行動は愚かすぎると自省しながら、何か助けになる物はないかと周囲を見渡した。





「………………」
「……うわぁっ!?」

 ふと右手の方に目を向けたとき、瞬きをしない冷たい目でじーっと、戦乙女の孤軍奮闘を見ている悪友の姿に気がついた。紅玉のような赤い瞳には、アスカのジタバタはさぞや滑稽な物に見えたことだろう。口元を歪めてるとか、笑ってるとかならまだしも完全な無表情であるところがなお腹立たしい。
 最も見られたくなかった相手に恥ずかしいところを見られた、という羞恥がアスカの全身を石炭のように染めるが、すぐに彼女は手を口元にやって噴き出す息を堪えなければならなかった。

「ぶはははは。なによあんた。その、格好は…」
「あなたにだけは言われたくないわ」

 アスカの仲間でありライバルである吟遊詩人は、アスカに負けず劣らずの姿勢で無機物に囚われていた。そんな状態になりながらも、オークに対する怒りと屈辱を石像じみた無表情で押し隠し、決して氷点下の美貌を失わない。仰向けになったことで、銀のセミショートをシャギーに刈った前髪が乱れて目にかかっているが、アスカと異なりそれを直そうとすらしない。
 床に転がった直径2フィート、長さ10フィート程の折れた石柱に、仰向けの姿勢でアスカ同様に腹部をくわえ込まれ、綾波レイは無防備な姿をさらしていた。更に左腕は床に肘までくわえ込まれ、上体を起こすことも反らすことも出来ずにいる。少し離れたところに、レイの相棒である、いや体の一部でもあるリュートが転がっていた。
 吟遊詩人は時として踊りを交えて呪歌を歌う必要上、あまり重装備でないレイは一般的な布の服しか着ていない。革製のベストの下には、一般人が着る衣服以上に、ある意味扇情的で無防備な衣服を着ている。上着以上に刺激的なのはスカートだ。布丈は足首の所まであるが、太股の付け根近くにまでスリットがあり、隙間から形の良くスラリとした足が見える。染み一つ黒子一つ無い、やや病的なまでに白く艶めかしい太股に、幻惑(ファシネイト)されたかのようにアスカは頬を赤らめてたじろいだ。

「どうしたの? 急に顔を背けて」

 無意識の動作で周囲を魅了する、少なくとも無視させえないオーラを持った吟遊詩人の力の片鱗だろうか。それともほとんど完璧に左右対称なレイの面立ちに困惑したのか。美しいが、いや美しいからこそ余り注視できない。レイの美貌はまさにそれだ。

(だからこいつ苦手なのよ)

「なんでもないわよ! そ、それより! 他のみんなは!?」

 動揺を悟られまいと、アスカは誤魔化すようにきつく尋ねる。すると、レイは窮屈そうに首を曲げてアスカには見えない方向に視線を向けた。

「あっちにマナ…霧島さんがいるわ」
「本当!?」
「ええ。でも、意識を失ってるみたい」
「あんたの声で起こせない? なんとかこの状況を打破しないと」

 ふぅ。重く小さく歎息するとレイはマナの状態をアスカに伝えるべきかどうか迷った。マナはアスカを捕らえているのと同じ様な壁に、やはりアスカ同様に囚われていたからだ。レイから見えるのは、壁の中心から栗色のキノコのように突き出たマナの頭と両手首だけ。さながら断頭台を落とされる寸前の虜囚だ。いや、これはアスカ同様どころの話ではない。
 レイからでは、マナの首から下がどんな状況なのかはわからない。ただ彼女が生きていることだけはわかった。ショートボブの栗毛の髪が微妙に揺れているのが見えるが、それは風の所為ではなく、暢気なことにマナが眠りこけているから。

「起こしても良いけど、たぶんあまり助けにはならないわ」
「………ああ、あの馬鹿も石に挟まってるのね。まったく、あいつが罠に気づきさえすれば、こんな事にはならなかったのに」
「そうかもしれない。でも、彼女に全部を背負わせるのはフェアじゃないわ。この仕掛けは、多分、元々罠ではなかったと思うから」
「わかってるわよ。それくらい…ちょっと言ってみただけよ。
 それより、他の誰かは見えない? マユミとヒカリは?」

 レイは見渡せる限りに視線を向けてみるが、マユミとヒカリはどこにも見えない。ここにはいないのか、それとも単に見えない場所にいるのか…。





「こ、ここです〜。アスカさん、綾波さん…私は、こっちに、アスカさんの左後方にいます」

 仲間の安否を気に掛けて押し黙ったアスカとレイの耳に、微妙に緊張感を削ぐ、おっとりとした声が届いた。妙にくぐもって聞こえるのは、ドーム上の室内で反響しているからだろう。

「山岸さん」
「マユミ、無事だったのね!」
「あんまり無事じゃありませんけど、とりあえず生きてます」
「無事じゃない、ってことはもしかしてあんたも?」
「ええーーーっ! マユミちゃん、魔法使えないのー!? 私、かなりきつい姿勢で苦しいのに」
「って、また五月蠅いのが目を覚ましたわね。マナ、あんたちょっと黙ってなさいよ! 今私がマユミと話してるのよ!」
「ぶー」

 マナの減らず口に内心助かったと思いつつ、マユミの謝罪に大樹の如き希望が一気に萎え萎んでいくのをアスカは感じる。マユミは魔法使いだ。口さえ利ければその大いなる魔力でこの状況から抜け出すことだって出来るはずだ。だからこそ、魔法使いは魔法を使うことの出来ない大怪我でも負ってない限り、無事ではないなんて口が裂けても言いはしない。
 そんなアスカの期待を如実に感じ取ったからだろうか。見えない位置にいるというのに、飼い主に怒られた飼い犬のように顔を伏せてマユミはうなだれた。アスカ以上に長く艶やかな黒髪と黒一色のローブの所為で、さながら黒い子犬が体を丸めるようにも見えた。

「ご、ごめんなさい。私、その、折れた柱に両手を捕らわれているんです」

 まじまじと、何度も手枷よろしくくわえこんだ石柱を見つめる。目を閉じ、10秒待って目を開ければ、手品のように手首が自由に…なっているわけがなかった。
 高さ3フィートの所で折れた石柱に両手首を捕らわれ、更に左足首だけを床にくわえ込まれたマユミは、両足を真っ直ぐに伸ばしたまま前傾姿勢を保つことを強要される苦しい姿勢を取っていた。
 そんな姿勢だと、ピッタリとしたローブに包まれた体のラインが、特に胸と臀部の形が丸わかりで、魔法使いというよりモデルか娼婦のようにグラマーな体つきが強調される。だが、絶望的に体力に劣っているマユミにはいつまでも耐えられない。せめて多少なりとも左足首を曲げられれば、座り込むことも出来たのだが硬い石に固定された足首はピクリとも動かない。
 魔法を増幅する機能を持つアーケインスタッフは手首同様柱に飲み込まれ、漆黒のアイアンウィーブで編み込まれたローブは敵の攻撃を跳ね返す効果はあっても、こういう状況を改善する手助けにはならない。勿論、魔女のシンボルであるマントと尖り帽もだ。縁のない眼鏡は魔法の力を秘めているわけではなく、単純に遠視の補正器具。
 更に魔法を使うための触媒 ――― マテリアル ――― は背中に背負った魔法のポータブルバッグの中だ。魔法は言霊だけ扱えれば使える物ばかりではなく、この苦しい状況を抜け出せるような強力な魔法を使うためには、触媒と複雑な手の操作も必要不可欠なのだ。
 申し訳なさで今にも泣きそうなマユミの言葉に、アスカは重々しく呻き声をあげた。喉に粘つく唾液を苦しげに飲み下すと、反芻するようにマユミの言葉を確認する。

「つまり、あんたの今使える魔法では抜け出せない…そういうことね」
「は、はい。フォースショットやヒプノティックミストとかじゃ、どうしようもありません。かといって酸の雨とか火炎球とかは触媒と手の動きが必要です。
 あ、でも希望がないワケじゃありませんよ。さっき、すぐそこを飛んでいた蝙蝠さんと、急いで使い魔契約を結びました。今一生懸命、村まで助けを呼びに行ってもらってます。それでなんとか助けに来てくれれば…」

 マユミとしては精一杯の明るさで言ったつもりなのだろうけれど、それがどれくらい小さな可能性であるか、それはアスカにもわかっていた。小さな蝙蝠が、朝昼と休まず飛んだとしても村に着くまで丸1日はかかるだろう。その間、天敵の鳥に襲われないとも限らないし、しかも途中でマユミの魔力の補給…つまりは意識が失われたら制御は失われてしまう。それでなくとも体力のないマユミが、その時まで眠らずにいるというのはかなり大変なことだ。
 それに、運良く村に着いたとしても人語を語る蝙蝠の言うことを聞いてくれるとは限らない。聞いてくれたとしても、助けになんて来てくれるだろうか。

「ありがとう、マユミ。元気が出てきたわ」
「マユミちゃん、グッジョブ!」
「山岸さん、頑張って」

 にっこりと満面の笑みを、マユミからは見えないけれどアスカは浮かべた。つられたようにレイも目を閉じ、小さく控えめな笑みを浮かべる。マナの視線の先で、マナもまた小さく笑みを浮かべた。





「ありがとうございます、みんな…」

 アスカの甲冑に包まれたお尻 ――― それしか見えないから仕方がないが ――― を見ながら、マユミはそっと涙ぐむ。みんなの期待と励ましは想像以上に彼女を奮い立たせた。なんとしても、みんなを救わなければ。
 アスカを、レイを、マナを、そしてヒカリを。って、ヒカリ?

「あ、そうだわ。ヒカリさんはどこですか?」
「うあ、そうだった。ヒカリのこと忘れてた。ちょっと、どこかにヒカリいないの?」

 慌ててキョロキョロと首を振って周囲を見渡すアスカの姿に、じーっと赤い瞳を半目にして見入るレイ。やれやれと首を振りつつ、マナが呆れる。忘れていたのはお互い様なのに、だ。

「忘れてたって、アスカさん本当にヒカリちゃんの親友なのかしら?」
「ちょっと、マナさん。そんな言いにくいことをハッキリと…」
「私がまだ友達と思って無くて、初めて喧嘩したとき、彼女、私のこと友達だって思ってたそうだから、きっと彼女の一方的な思いこみ」

 悪意のユーモアに満ちたグレムリンだって、ここまで皮肉なことを言ったりはしまい。やな奴だ、とアスカは思う。

「うっさい! マユミ、あんたヒカリの姿が見える?」
「いえ、私の所からは見えません。マナさんはどうですか?」
「うーん、私からも見えないよ。この部屋の中にいるのかな? 運良く、ヒカリちゃんだけ飛ばされなかったって事はないかな? マユミちゃん、魔法の目は使えないの?」
「触媒と手が…」
「ああ、そうだったわね。うーん、どうしよう。ヒカリちゃん、無事だよね」

 あるいは運悪く彼女だけ壁の中に全身飛ばされてしまったか。
 そうなると待っているのは石と混ざり合い、魂を消失してしまうか、あるいは石の中で窒息してしまうか。

「そんな、ヒカリ…ヒカリッ!」

 全身をはいずり回る虫のような悪寒に一同は吐き気を覚えた。友を失ったかも知れない、それも永遠に。
 大切な物を目の前でなくしてしまったかもしれない可能性は、アスカやマユミのトラウマを刺激する。
 そう、もはや彼女達は家族なのだ。大切な、世界と引き替えにすることも辞さない、大切な仲間達。
 消失感が全身を包み、指先は震えに憑かれ、カタカタと奥歯がぶつかり合って不揃いなスタッカートを奏でる。不用意に突撃した自分たちの愚かさ。呵責と後悔という蛇に全身を絡め取られる。

「そんな、嘘でしょ。返事してよ。お願い、ヒカリ、ヒカリ! 誰か、嘘だと言って! 私が、私ならどうなっても良いから、だから、ヒカリを殺さないで!」

 蒼白のアスカの血を吐く叫びが虚しく室内に響いた。マユミとマナは啜り泣き、あのレイでさえ畏怖と慚愧で顔を強ばらせている。神はいないのか…。自虐的な思いで全員が打ちのめされたとき、唐突に、奇跡のように返事が返ってきた。

「う…あぅ。うぅ…こ、ここよ」

 弱々しいがたしかにその声は、彼女達の仲間である洞木ヒカリのものだった。マユミより更に後方、マナからもレイからも見えない完全な死角の位置から、弱々しい声が聞こえてきた。

「頭、痛い。飛ばされたとき、頭をぶつけて、意識が…なくなって、たみたい」
「だ、大丈夫なの?」
「血が、出てる。けど、大丈夫。もう、止まってる…わ。それに、まだキュアを使うくらいの力は、残ってるから」

 虚ろな目をしながらヒカリはのろのろと頭をまさぐる。かぶっていた兜はどこかに消えていた。
 ヒカリがおっかなびっくり触ると、血を吸い込んで固まった髪の毛が、ゴワゴワバリバリとした手触りを返してきて、胃の腑が捻れるような吐き気が込み上げてくる。だが、ヒカリは鈍く断続的な疼きを繰り返している頭部裂傷に手の平を添えると、小さく祈りの言葉を唱えた。一瞬、痛みが鋭く頭蓋を貫くが、たちまちの内に手の平が優しく柔らかいオレンジ色の光で満たされ、それと共にパックリと割れていた頭部裂傷が塞がっていく。
 ほどなく、まだ頭は鈍く疼いているが、回復したヒカリはふぅと重く長い溜息をついて脱力した。
 無事に帰還できたら、左右のお下げにしてる髪の毛をほどき、綺麗に洗って血の塊を洗い落とさないと…。





「ふぅ、なんとかなったわ。ごめんなさい、心配かけて。アスカ、綾波さん、山岸さん、霧島さん。みんなは大丈夫?」
「ヒカリは大丈夫なの?」

 その時になってようやく、自分の状況に気を回す余裕が出来たのだが、ヒカリはだらしのない弟をたしなめる姉のように溜息をついた。

「……あんまり、大丈夫じゃないかも」

 身動き一つ出来ない自分の状況に、ヒカリはもう一度、大きく長い溜息をついた。やや幼さの残るソバカス顔が消沈する。うっすらと紫色を帯びた髪の毛、お下げの先端が子犬の尻尾のように揺れた。
 腹部が石にはまりこんでいるのはアスカやレイと同様だが、はまりこんでいるのは壁や石柱ではなく、床そのもの。腰から下は床下の未知の空間に存在していた。ただ、石の中で身動き一つ出来ないというわけではなく、自由に動かすことが出来ることから、床下はそのまま地面というわけではなく、なにがしかの空間になっていることはわかった。文字通り、地に足が着かない頼りなさにヒカリは再び、年寄り臭い溜息を吐いた。



 そのことを皆に告げると、返ってきたのは落胆の呻きだったが、ヒカリには余裕があった。かなり苦しい体勢だが、休憩できないこともない。これから瞑想をし直し、オーク…いや、ゴブリン退治のつもりで心に刻んでいた低レベルの法術を除去し、より強力な術を覚え直してそれを使えばいいのだ。
 ヒカリの必殺の術、ホーリースマッシュ。理力の固まりであるそれは、仲間には傷一つつけずに無機物のみを打ち砕く。それで床を打ち砕けばいい。
 休憩に加えて魔導書を読んで使用する術を覚え直さないといけないマユミと異なり、ヒカリの力は心の内に宿っている。

(あと2〜3時間の辛抱よ)

 そう、あと2〜3時間、何事もなく休憩して術を覚え直すことさえ出来れば…。

 だが、ヒカリは忘れていた。オークはまだ、倒しきってはいないと言うことを。そして彼らが彼女達を見逃しているまま、と言うことはないのだ。
 ヒタヒタ、ヒタヒタ、と秘密の通路を通ってオーク達が囚われの美女達に近づいてくる。

 1,2,3。 鼻をひくつかせる。

 彼女達はまだ知らない。

 1,2,3。 涎を滴らせる。

 そのオークが、ただのオークではないことを。

 1,2,3。 目の前の肢体に腕を這わせる。

 もう彼女達は逃げられない。



 ヒカリが唐突に、だが必然の悲鳴を上げるのは、それからわずか5分後のことだった。











 何の前触れもなく、ヒカリは内蔵を鷲掴みにされるような言いしれぬ不安と嫌悪を覚えた。
 長い間思い出すことも忘れていた、姉と父のことが閃光となって心に浮き上がる。
 姉と父の行為をまざまざと思い出し、それを嫌悪と言うには生温い憎悪。ぞくり、と背筋に怖気が走り、粘ついた喉の渇きにヒカリはえずいた。

(な、なに? この、嫌な感じは…)

「ひっ、きゃあああっ!?」

 唐突な心の乱れに戸惑っているとろを、突然、何者かに尻をまさぐられて、ヒカリは大仰な程に甲高い悲鳴を上げた。なにかが、手とも蛇ともつかない何かゴワゴワした物が、執拗に足に絡みまとわりついてきている。

「どうしたのよ!? ヒカリ、何かあったの!?」
「足に、足を何かが触ってるの! いやぁ、なに、やだ、はなしてッ!」

 突き抜ける嫌悪と拒絶。
 必死にヒカリは足をばたつかせ、正体不明の何かから逃れようと暴れる。だが、束縛された彼女はどうやっても逃れられない。数回、硬い何かに膝頭を叩きつけ、踵で踏みつける手応えこそあったものの、初めから勝負は決まっていた。

「やだっ、いやっ! 放してよ!」

 力強い何かが、足首をもの凄い力で掴んだ。続いて、ヒカリに聞こえた音、いや振動は、目に見えない床下で起こっていることを想像させる。恐怖というエッセンスで、初な処女の心が満たされる。

 パチリ、カチ、ズシュ

「うそ…。ああ、そんな」

 金具、留め具が何かに外されていく。ヒカリは革製のズボンの上に、鋼鉄製のレギングなど装甲をつけていたのだが、それを固定していた留め具や革帯が、丁寧にほどかれていく。当初脳裏をよぎった、鮫のような怪物が足を突いているという予想は外れた。しかし、だとしたらこれは…。

「いや、いやぁぁ…っ」

「ヒカリ、どうしたのよ!? ねぇ、大丈夫なの!? 返事をして!」
「ヒカリさん! ヒカリさん!」
「落ち着いて! ヒカリさん、落ち着いて状況を教えて!」

 誰何する声にヒカリは息を詰まらせる。
 壁の向こうにいるだろう、アスカ達の頼もしい顔を考えながら、ヒカリは目に一杯の涙を溜めてしゃくりあげながら答えた。

「誰かが、触ってるのよ! 足に、触って、鎧を、外してるの! 嫌ぁ、いやっ、誰か、助けてっ!」

 最後の革帯が外されると同時に、鎧が固い地面にぶつかるゴン、という鈍い音が床下から聞こえた。同時に、正体不明だった何者かがより大胆に、ズボンの上から撫でさすってくる。固さと柔らかさを内包し、器用に、だが規則正しく動くこの感触を、ヒカリは知っている。

(これ、タイチュートの街の、司教が触ってきたときの…)

 かつて立ち寄ったタイチュートという街に、信仰心を利用して教団の女司祭や入信者、信者に不埒な行為を働いていた司教がいた。彼の邪な欲望により、妻や恋人、娘を無理矢理凌辱された者は100人を下らない。そして当然だが、自我と欲望が肥大しきった彼のような人間にとっては、街の人間ではない、旅の途中で立ち寄っただけの人間でも欲望の対象だ。
 見目麗しいヒカリに魔女裁判さえも臭わせ難癖をつけ、教会奥の告白の部屋に連れ込み、邪悪な欲望を満たそうとした彼はその場で嫌がるヒカリを押し倒し、巡礼衣の上から太股や胸を撫でまわしてきた。
 そこにアスカ達が街の人間達を伴って飛び込み、悪司教は成敗された。全ては婚約者を自殺に追い込まれた上、街から追い出されて泣いて悔しがる少女の依頼を受けた、彼女達の策略だったわけだが、今、ヒカリの足を触っている何者かは、程度の差こそあれ、あの時の司教の愛撫と全く同じだった。

「うそ、嘘よ。なんで、なんでこんなところで…こんな、ことする…はぅ」

 形良い丸みを帯びた臀部を撫で回され、ぞわり、とした悪寒にヒカリは体を強ばらせる。必死になって唇を噛みしめ、不安がるアスカ達に悲鳴を聞かせまいとする。

「ヒカリ。ねぇ、返事して。…大丈夫、よね?」
「だ、大丈夫よ…い、今のところ、は。い、いきなり…あぁ、噛みつかれるって、事は、無い…みたい」

 息を詰まらせ、途切れ途切れに呻くヒカリにアスカ達は戸惑い、質問の声も途切れがちになる。苦痛を堪えて、あるいは声も出なくなっていると言うより、まるで、「あの時」の行為を堪えているような…。
 一体、ヒカリは何に襲われているのだろう? そして一体どうすれば、ヒカリを救えるのだろう?

 とりあえず下にいる何者かは、いきなり食らいつき血肉を貪るつもりはないようだ。今のところは…。
 だが、なんと自分は無力なのか。ヒカリは情けなさと屈辱に震えた。神聖なる神の戦士が一方的に弄ばれる恥辱に涙がにじむ。だが、どんなに拒絶しようとしても、微妙に震えを帯びたハァハァと深く長く息を吐き、一方的な蹂躙に身を任せるしかない。

「はぅっ、くっ」

 異様に長く感じる時間の中、ヒカリの重い長靴が脱がされる。もぞもそと蠢きながら、バックルの金具が外され、しゅる…と腹部を擦る感触を残して防毒の呪力が込められた革ベルトが取り外された。いまヒカリの下半身を守っているのは、締め付けのゆるんだ革のズボンと、その下につけた木綿の下帯だけだ。

「ヒカリ…。本当に、何が、何されてるの?」
「ヒカリさん…」
「だ、だいじょう…ぶ、よ。い、今のところ…でも、でも、早く、助け、てっ」

 聞き覚えのある愁いを帯び始めたヒカリの悲鳴に、ゾクリ、とマユミは背筋を凍らせる。これは、まさか…。心の奥底に封印していた記憶が、徐々に彼女の内に蘇り彼女は戦慄した。

(でも、まさか…)

「ううっ」

 最近の女性の流行である、シルク製だったりレースの刺繍がしてあるような、高価な『ショーツ』と呼ばれるものではない。彼女が身につけているのは、本当に質素で肌触りも悪い、だが神に仕える者には相応しい清貧の下着だ。東方の国では褌とも下帯とも言われている。それも紐をほどかれ、引きはがされる。
 泣き声の代わりに、思いっきりヒカリは床に拳をたたきつけた。彼女の心の結晶のような、銀の滴がぽろぽろと床石に滴り落ちる。

「ひぅっ、ぐっ、ううっ、うっ、ううっ、うううぅぅ〜〜〜〜っ」

 最後までヒカリを励ましていたアスカも、とうとう言葉を失った。
 無力に啜り泣きながらも、アスカ達に心配を掛けまいと必死に泣き声を飲み込もうとするヒカリに、どんな慰めや励ましが掛けられるというのだろう。

「…くっ、いやっ」

 両足首を掴まれ、真っ直ぐ揃えて伸ばした状態で固定されてしまう。ベルトを外され緩んだバンドの部分に、更に何者かの指が伸ばされる。まるで蜘蛛が一歩一歩確かめるような指の動き。

(なに? 下にいるのは、一人じゃないの? それとも、手が、二つ以上あるの?)

 黒くモヤモヤした何かがたくさん蠢いているイメージと、手が四本と頭が二つある双頭巨人のイメージがヒカリの脳裏によぎる。でも、どっちだったとしても、床下の何かが考えていることは一つだ。

「あうっ、ううっ…!」

 臀部に感じる衣擦れの感触と、ひやりとした外気が直接肌に触れる峻烈な感覚にたまらず声を漏らす。
 裏返しになるのも構わずズボンは完全に脱がされ、神以外は不可侵の女司祭の白いヒップが、床下の何者かの眼前に晒された。ブルブルと瘧にかかったように震えながらも、必死にヒカリは声を出すのを堪えた。微かなどよめきが床下から聞こえる。
 今のどよめきはアスカ達にも聞こえたのだろう。一言も声を発しなかったが、確かにその時空気が強ばった。地下にいる何かの存在を、アスカ達もまた認知したのだ。

「な、なに。なにが、いるのよ…。ああ、神よ。秩序と光の神、ジーディ様…あなたの娘をお救い下さい」

 祈りが聞き届けられないまま、下帯の紐がほどかれ、なにがゴツゴツしたものが、剥き出しにされたいまだ男を知らぬ秘所と、淡い陰毛をこそぐる。

「ぐぅ……っ!! んっ、くっ…そ、んな」

 強い力で足が左右に広げられていく。一人でいるときは勿論、信仰の道に生きることを決める以前にもしたことの無いような大胆な格好をさせられる。M字型に押し開かれ、何もかも全てが晒される。晒されているのに、それをヒカリは確認することも出来ない。

「やめて、やめて…なんで、こんなこと…ああ、神様…」

 今、ヒカリのもっとも恥ずかしい場所はどんなことになっているのだろう? 赤い淫らな花弁を何者かに晒しているのだろうか。微かに疼くこの感触は、何者かが息を吹きかけていて、それに反応してクリトリスやラヴィアがヒクヒクと息づいてしまっているのだろうか。
 自分が淫らな姿をさらしていることを思うと、心にノミで穿たれたような痛みが走る。

「ひあ、ああ…いやっ」

 徐々に熱と吹き付けられる息吹の感触が強くなる。気のせいか、ハァハァと荒い呼吸音が床下から聞こえてきているような気さえする。いや、それはヒカリの気のせいではないようだ。シュゴー、フゴーと鞴を踏むような音が、確かに床下から聞こえてきている。安否を尋ね、励まし続けるアスカ達の声も耳に入らない。

(助けて、助けて! 神様、神様、神様、神様! これからはもっと喜捨します! 人生の全てをあなたに捧げます! だから、お願いです、助けて、この悪夢から解放して下さい!)

 じゅく…

「…………っっっ! ぐぅっ!!」

 熱さを伴った粘つきが秘所に吸い付いた瞬間、ヒカリの覚悟は打ち砕かれた。反射的に両腕で口を押さえて悲鳴を飲み込み、折れそうな勢いで大きく首を仰け反らせる。左右にお下げで結ばれた髪の毛の先までもぷるぷると痙攣させ、右に左に、螺旋を描くように蠢く感触に我を忘れた。

「ひぅぐ、ふぐっ、うううぅぅ〜〜〜〜〜っ!!」

 緊急事態に顔を蒼白にしつつも、初めて聞くヒカリの艶声に、アスカ達は体の奥底がじわりと熱を持ち始める。
 情報収集のため酒場などでの異性との会話は勿論、行水時の仲間同士によるスキンシップすら、「不潔!」と断じる潔癖の権化たるヒカリが、あんな声を…。その事実は、恐怖を伴いながらもどこか背徳的に感じられた。
 瞬きを忘れ、見開かれたヒカリの目からぼろぼろと涙がこぼれ落ちていく。限界以上の力を出して、必死に足を閉じようとするが、何本もの手は、そう…複数の腕は決してヒカリを放さない。

 じゅる、じゅる、じゅく、ぶぢゅぢゅぢゅぢゅ…。

「あうああ、あう、うああぁぁ! ガミ、ざまぁ…! あうぐぅぅぅ…」

 極太のミミズのように柔軟に動く何かが、大量の粘液を異様に昂ぶったヒカリの秘所に擦り付けていく。粘液はぼとぼとと長い糸を引いて滴り落ち、その度にヒカリは自分で自分の思うようにならない体に翻弄されていった。ほそい縦の割れ筋に過ぎなかった淫裂は、いつしかぷっくりと内側からの赤く開き、執拗に丁寧に全てが刮ぎ取られていく。
 自分の中に、制御不能の獣がいる。今まで考えまいとしていた好色な、奔放な姉と同じ獣がいる。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、ああぁぁ…。あぁ、うん、んぁぁ」

 恋心を抱いていた同級生の男子と、情をかわしている姉を目撃した日から考えまいとしていた、忘れようとしていた光景が脳裏でフラッシュバックする。その日の夜、屈辱と姉の裏切りに泣きじゃくりながらも、姉が自分だったらと妄想し、自室に閉じこもり、生まれて初めての自慰行為をしてしまった。そしてそれを当の姉に知られてしまった…。あの姉の全てを見透かす目…耐えきれず家を飛び出した。

「はぁ、あん、ああん、んんっ…くっ、あ……いやぁ、熱い…」

(ああ、なに、体が熱くて、痺れが…気持ち、イイ)

 徐々に、身を引き裂かれる悲鳴のようだったヒカリの呻き声が、蜜のように甘くとろけた声音に変わっていく。奥底から込み上げる熱い物で呼気が途切れ途切れになり、声だけで様子をうかがうしかないアスカ達に、恐怖さえ抱かせるような甘い嬌声が、石の部屋の中に満ちていった。

「んんぅ、うぅん、ふっ、ううぅ………そんな…ううぅ、さわら、ないでぇ。さ、触っちゃ、嫌よぉ」

 足を閉じることを忘れ、為すがままになったヒカリはそのまま、穢されていく背徳に身を委ねようとした。もう何をしたって無駄だ、と言う諦めが彼女の無抵抗を後押しする。アスカ達だって助けにはならない。こうなってしまったのは、運命なのだ。禁欲的な修道院の暮らしなどでは決して見出せない、肉の救い。疼き、熱、欲望、雄…。

「お、あ…うう」






 とある街の大商人の娘であったヒカリは、救いようのない悪徳を見つめて育ってきた。父は商売敵をごろつきを使って容赦なくたたきのめし、役人に鼻薬を効かせる悪人だった。一財産を築くと、若く美しい女性ばかりを使用人に雇い、彼女達の大半が生活に困窮している足元を見て、半ば強引に関係を持つことを趣味としていた。
 熱病に罹り、一時生死の境をさまよって以後は吝嗇に歯止めが利かなくなった。昼日中、娘が近くにいることを知っていても、いや知っているからこそ、見せつけるようにヒカリとその姉妹の前で、泣きじゃくるメイドの娘を凌辱する。多くのメイド達は事の直前になって、やはり泣きじゃくり嫌がった。そしてそう言う娘を選んで父は脅迫していた。8人目の妻にされた元メイドが耐えきれず逃げ出した後、父は逃げる心配のない実の娘である姉とも関係を結んだ。そして、娘であり孫である子供を身籠もらせ、姉の婚約者の子供と言うことにして産ませた。






(だ、ダメ…負けちゃ、ダメ…。流されたら、このままじゃ、お父さんと…同じに、なっちゃう)

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…。そん、な、こと…………ま、負けない…わ」

 信仰、その言葉だけを拠り所にヒカリは必死になって跳ね上がる体を押さえつけた。蔑んでいた姉から向けられる、蔑みの瞳。

(私、は、お父さん達とは、姉とは…違うッ)

 懊悩に乱されていた意識が奈落の底に落ちていく寸前、すんでの所で踏みとどまる。ともすれば気を失いそうな官能に体を震わせながら、自分自身をきつく抱きしめてヒカリは意識を保とうとした。かき抱く肩に食い込む指先の痛みとあの日の悔しさで、清き柔肌を蹂躙する律動から逃れようと戦う。

「う……ううっ………あぅ…くっ」

 だが、太股をまさぐられ、ぬるりと大きく秘所をまさぐる異物が螺旋を描いた瞬間、堪えきれずに朱色の唇から吐息を漏らした。気持ちいいわけがない…。今自分を触っているのは、大嫌いな父親の手。最も嫌悪する男という生き物の中で最悪の存在に触られてるのに…。

「ふぁぁ…あぅ、あっ、んあぁ…だめ、ああ、お父さん…ああ…あぁ………あぅ…くっ」

 思考の螺旋に捕らわれたヒカリ。その顔は男女の営み憎悪する潔癖な少女ではなかった。最も唾棄する行為に晒され、快楽に惚けている女の顔だった。

「ヒカリ…どうしちゃたのよ?」

 声だけで推測するしかないアスカ達には、ヒカリがどんなことになっているのか想像もつかない。いずれもそれぞれの想像力の最悪の状態に陥ったヒカリを想像し、顔を赤らめたり青くしたりするので精一杯だ。ヒカリの快美な呻きに困惑と恐怖を隠せない。なにがどうやって、ヒカリにこんな声を出させているのか。マミーは絶望で人を縛るが、今アスカ達を縛っているのはそれ以上の恐怖だ。
 いずれ、その魔手はヒカリに飽き、自分たちに向けられるかも知れない。

「はぁ、あぁ、うくぅ……くぅ……う…うう。ひぁ、あぁぁ…」

 ジュル

「ヒ、あッ!」

 遂に充血した聖処女のラヴィアを押し開き、灼熱の固まりがヒカリの内側を舐め回す。今までの肌を舐め回されるのとは段違いな、胎内から刺激に腰が跳ね上がる。指ではない、柔らかいが固さと弾力を秘めたゴムのような異物との摩擦感に、ヒカリは半ば沈み込みながらも必死になって拒絶していた。

「あ、あああっ、あおおっ、ああっ、ああううぅ、あああああっっ!」

 神よ、お許しを…そう口にしたつもりだったが、意味を成さない呻きだけが溢れる。
 ガクガク、ブルブルと熱病患者のように首を仰け反らせ、全身を震わせながらヒカリは嗚咽と言うよりも悲鳴を上げる。靄で濁った脳裏でヒカリはそれの正体を悟った。
 男を知らない楚々とした淫靡な入り口は、控えめに押し返そうとするが、それは構わず強盗のように押し入ってくる。
 これは、舌だ。いや、舌と言うより、自在に蠢く蛇だ。神話時代、楽園に住んでいた人間の先祖を堕落させた、ブツブツしたミカンの粒のような突起が一面を覆い、常に粘液を漏らし続ける蛇だ。

「ひんっ! ひ、ひぃん! ん、くぅぅぅ!」

(これ、が、肉の穢れ…! か、神様…わたし、耐えられそうに、ありま…せん)

「神様、神さまっ! ああ、ああ、あお、あうああぁぁぁぁ―――っ!」

 これは、罰?
 それとも試練なの?

 ヒカリの喉から狼のような呻きが途切れることなく溢れ、唐突に途絶えた。折れそうな程に上体を仰け反らせ、甘美なる肉の疼きにヒカリは翻弄され、そして、生まれて初めての絶頂に全身を震わせるのだった。
 親友の絶頂の啼き声に、アスカ達はヒカリに起こったことと、更にこれから起こるだろう事を悟った。それは、女性に起こる災厄としては最悪のものであり、そして無力な自分たちではどうにもできない最悪の事態だ。

(ヒカリ…。嘘、よね…)
(まさか、ヒカリさんを、苛んでいたのは…まさか、あいつらなの?)
(ヒカリちゃん、えっと、いまの声って、やっぱり)
(……洞木、さん。この、声の感じ、響き)

 光のない床下の暗闇の中で、彼らはほくそ笑んだ。痙攣の直後、ぐったりと弛緩したヒカリの下半身の様子だけで、彼女がどんなに悶え、苦しみ、そして無駄な抵抗をし続けたのかはわかった。ぽたぽたと小水のように滴る薄く白濁した愛液を舐め取りながら、意外に長持ちした方だな、と妙な関心をする。
 オークの族長がヒカリの下半身から口を離し、場所を移したことで順番が回ってきた一部を除き、彼ら…オーク達は秘密通路の隠し扉を押し開ける。そう、お楽しみはこれからなのだ。
 開口部から顔だけだし、ぐったりと突っ伏しているヒカリの上半身を確認すると、オークの族長は唇を舐め回した。性器にそっくりな異様な長さを持った舌は、蛇のように縦横に蠢く。

『ハッシュ、ネリウ・ブリシャ!(さあ、次はおっぱいだオーク!)』

 族長以下、23名のオーク達はどよめくような歓声を上げ、アスカ達の心臓を凍り付かせた。











「あ、はぁ、はぁ、はぁ…あうぅ」

 熱に茹だったヒカリの鼻孔に、生臭い魚が腐ったような臭いが侵入してくる。
 目の前に立った人影に、官能の疼きに惚けていたヒカリは、のろのろと顔を上げた。そこに立っていたのは、ヒカリが初めて見るうす桃色の肌をした異形の人型生物…その群れだ。

『シャル!(見ろ!) 鎧の上からでもわかる、ダバブリシャ!(極上おっぱいだ!)』
「え…あ………。オーク、なの?」

 まだ混乱していたが、それがオークではないことはヒカリにわかった。先程、追い掛けられていたときのように兜を深くかぶり、顔を隠していれば普通のオークのようにも見えるし、共通語とゴブリン達の使うグリーンスキン語混じりの、いい加減な言語はオークの特徴だ。だが、彼らは今までヒカリが見知ったオークとはまるで違って見えた。

 この生き物は…。

 ヒカリが今まで見たことのあるオークは、灰色の肌をして、類人猿のように発達した下顎と極端なまでに扁平で分厚い額が特徴のヒューマノイドだ。鼻梁はほとんど無く、大きな黄色い瞳と口を閉じても隠しきれない発達した下顎の犬歯さえなければ、荒野に住む人間の蛮人と言っても通じるような生き物のはずだ。乱暴で粗野、脳まで筋肉で、乱闘と酒をこよなく愛する野蛮な種族。
 特に女性のオークはやや狐っぽい面長な顔と極端に吊り上がった目をしているが、人間の基準からでも美しい容姿をしている者もいて、どこが豚顔の生き物なんだろうと思っていた。

 目の前にいるのは、低いが扁平に広がった豚そっくりな濡れた鼻を持ち、顎こそ突き出ていないが豚にそっくりな頭部を持つ、でっぷりと太ったヒューマノイドだ。
 ピンク色の肌は家畜の豚そっくりの色と質感で、丸まると太った体つきも含めて、本当に豚が立って動き出したような印象を感じる。そう、ステレオタイプな、オークは豚にそっくりな種族という噂が具現化したような…。

(え、オーク? でも、ちがうの?)

 マユミになら彼らの正体はわかっただろうが、あいにく彼らは彼女の視界の外だ。

 世間一般に、オーク族は3種類に大別される。最も多く、一般的なのは灰色の肌をしたヒカリの知っているグレイオーク族だ。俗に言うハーフオークは彼らと人間の混血であり、彼らだけでオーク族全体の7割に達する。
 そして、もう一つのオーク族が、オーガとオークの混血であるブラックハート族。人間をまるで朝食のサラダくらいにしか考えず、オーガ程頑健ではないがオーガ程愚かではない。彼らが2割。
 最後に…殺戮と姦淫の神が、兄である調停の神が作った人間を真似て、汚物をこねて作り上げた種族がいる。今となっては神話時代の能力をほとんど失いつつも、その見目形はいまだ留める最低最悪の種族、ピンクオーク族だ。

 人間達が、オークと言えば豚顔でありとあらゆる種族と雑婚する種族、という最悪な印象を持つのは、かつて幾度も大戦争を起こしたことと、最小勢力ながらも彼らの印象があまりにも強いからである。
 他種族にオークの代名詞の座を奪われていることにグレイオーク族は始終憤激し、機会あればピンクオーク族を残忍に狩たてているが、彼らの怒りもそう長くは続かないだろう。ほどなくピンクオーク族は絶滅するはずだから。そう、あと2世代もすればオークと言えば豚顔のピンクオーク族ではなく、グレイオーク族のことになる。

 だが少なくとも今はまだ、彼らは最悪の印象と共に人々の心の中に君臨し続けるだろう。
 その、もはや絶滅の際に瀕し、冒険者であっても滅多に見ることはなくなった幻の種族が、今ヒカリの目の前に立っていた。

「はっ、あっ、あ。なに…なんなの?」

 顔に似合わず小さな目が、貪欲にヒカリの上半身を舐め回すように見つめた。
 リーダーらしい、スペード型の耳が半ばから千切れた片目のオークが、窮屈な鎧越しでもわかる美味しそうなヒカリの体に舌なめずりをする。さながらヒカリは林檎だ。一見お堅く見える信仰という殻で覆われているが、実は大変に薄い皮の下には、瑞々しい果汁で満ちあふれている。先程堪能した、淫蕩な血を隠しようもない下半身だけでも極上の女だと言うことはわかっていたが、こうして改めて確認するとその認識の正しさに自分で自分を誉めてやりたい。
 それにしてもだ。女に鎧は似合わない。

『ヤルク、ベッツェ!(邪魔、脱がせろ!)』

 族長の雄叫びに、ヒカリは身をすくませる。オーク語を解するマユミとレイは、その意味することとこれからヒカリに起こる運命を悟って顔を蒼白にし、アスカとマナ、そしてヒカリは言葉はわからなくても、それが彼女にとって嬉しくない号令であることくらいは察しがついた。

(ヒカリ、ヒカリ…そんな、私が、私の所為で…私が考え無しに突撃したから、ヒカリが)
(ヒカリさん…。ああ、私の、友達まで、あいつらに…。イヤぁ)
(洞木さんが、オークに。どうすれば、あいつらを。ダメ、今の、私では…。でも)
(ヒカリちゃん…、どうすれば、良いの?)

「いや、いやよぉ…! やだ、はなして、やめてぇ!」

 より一層の恐怖と嫌悪に苛まされヒカリは泣き叫ぶ。その声が一層、周囲の仲間達を苦しませた。無力で仲間を助けることも出来ず、それどころか見つかることを恐れて励ますことも出来ない仲間達を…。

 手、手、手、手、手。

 薄汚れた無数の手が彼女の体を撫で回し、鎧の上に着ていた法衣を引き裂いていく。この法衣に包まれる物、それは全てが神の供物。たとえ親兄弟でも、肌を見せることは禁じられている。ヒカリの血も肉も何もかも。それなのに、無惨にもゲスなオークの前に全てが晒されていく。
 飾りのほとんど無い質素な法衣は、信仰の家の戸を叩いた折、授けられた彼女の心の拠り所だ。ただの衣服が引き裂かれているのではない、文字通りヒカリの心が裂かれていく。

「やめてぇー!」

 法衣の残骸の下から現れた鎧も同様だ。オークの、バターでも塗ったように粘つく手は、留め具をまさぐり、革帯をゆるめていく。両手を後ろにねじ上げられ、抵抗は無意味だということを思い知らされる。
 エプロンのように上半身を前後で覆っていたラメラーアーマーが引きはがされ、下に着ていた簡素なチュニックが引きちぎられる。籠手も手袋も何もかもむしり取られる。
 不潔なオークの爪の蹂躙はそれで収まらず、衣服の下で下着代わりに胸を押さえていたサラシ布もむしり取られる。潔癖なヒカリが殊更窮屈に押さえ込んでいた豊かな乳房が、勢いよく、弾けるように窮屈さから解放され、同時に外気の冷たさに総毛立った。

「い、やぁ!」

 顔に似合わぬ豊かな乳房のダンスに、オーク達は一斉に歓声を上げた。
 やや赤みが強い乳首はまさに林檎だな、と族長のチレドは思った。

(イイ体つきだ)

 屈辱にヒカリは顔をしかめている。田舎の農夫の娘のように、野暮ったく髪をお下げにまとめ、ややソバカスの残った幼さを感じさせる顔をしているが、顔に比べてこの成熟した体つきはどうだ。両手で隠しているが、腕の隙間から見えるあの柔肉。神もなかなか皮肉なことをする。
 身なりやその独特の仕草から、彼女が神官であろう事は彼にも察しが付いている。普通、神官は体を磨くと言うことに頓着をしないと思っていたが、ヒカリはその例外らしい。
 本来ならば神に捧げられた女神官の身体を奪い、穢す。別段、神など信仰してはいないが禁忌を犯す行為には背徳的な喜びを覚える。

『んーふふー。モト・トィリ(我が弟)、チンベ。二つの林檎、任せるオーク』
『ダク、チレド!(おぅ、兄貴ぃ!)』

 ヒカリの姉のそれと瓜二つな大きさに育った乳肉を、彼女の背後に回ったチンベと呼ばれた痩せた背の低いオークが、同時に掴み、器用にこねくり回す。存分に重みを手の平全体で受け止め、おもむろに絞り出すように柔らかな肉に指を沈める。ぎゅ…っと先端に向かって絞り上げながら、ヒカリの意に反して硬くなった乳首を摘んでコリコリとこね上げる。

「あうっ、あぁぁ…は、はなし、て…。やめて、ううぅ…汚い」
『ふごっ、ふごっ。ダシュ(すげぇ)、手に余る、でけぇブリシャ!(おっぱいだ!)』
「あぅ…。あぁぁ…………ふぁぁ。だめ、男が、触ったら…穢れる」
『たっぷり、可愛がってやれオーク!』

 予想外なことに、ヒカリの体は嫌悪に冷めるどころか瞬時に熱く燃え上がった。オークの指先が想像以上に熱いのだ。
 脳天を突き抜けるような電流に息もできず、自分の胸はこんなにも柔らかく、こんなにも形を変える物だったのかと、ヒカリは混乱する。火照った肌に困惑しつつ、ヒカリはたまらず首を仰け反らせて喘いだ。

「ひあああぁぁぁ」

 初めて聞く色っぽいヒカリの喘ぎ声に、アスカ達は危急の事態だというのに、我知らず息を呑んだ。彼女が、こんな声を出す日が来るなんて、想像したこともなかった。
 いや、いつかヒカリがこんな声を出す日が来ると良いな、そう思ってはいた。ただし、それは彼女が本当に好きな相手が出来て、その人と添い遂げた末に、と思っていた。それなのに…。

(ヒカリ。嘘、なんで、あんな声で)
(ヒカリさん…。酷い、酷すぎる…)
(この声の響き、震え。洞木さん、本当に、感じてるわ。何を、どんなことされているの?)
(や、やだよぉ。ヒカリちゃん、いやぁ)

 (いると仮定して)恋人からの愛撫以上に反応するヒカリに、気をよくした族長の年の離れた弟であるチンベは、ヒカリの口元を伝う涎を舐め取り、うなじに舌を這わせて執拗に、手の平全体で若さと弾力に溢れた乳の感触を堪能する。

「いやぁ…いやぁ…。こんなの、ダメ…ああ、ううっ、くぅ」

(やめてぇ。そんな風に、触らないで。不潔、不潔よ、男…男なんて…みんな)

 僧侶には不釣り合いな程に成熟した自分の体を自覚していた。いつも、それを自分の中の悪心が故にそうなったと考えていた。嫌悪する姉同然に、淫らになっていく自分自身の心の弱さ。

(コダマ、姉さん、とは…違う、はず、なのに)

 汗ばんだ乳房が執拗に揉まれ、悲痛な呻きと一緒に、匂い立つような雌の臭いが漂い始める。

『ブグッ! グーデンヤシュ・メメトス!(見ろよ! 人間のメスめ、喜んでやがる!)』
『チンベに触られて感じない、グーデンヤシュ(人間メス)いないオーク!』
『ペナ・イルソ・タン!(肌がピンクに染まってきたぞ!)』

 オークによる乳房への愛撫に反応して、ビク、ビクっと小刻みに体を震わせるヒカリを指さして周囲のオーク達はあざけり笑う。人間というのは、本当にどうしようもない生き物だ。不倶戴天の敵であるオークからレイプされているというのに、喜び悶えているのだから。

「んっ、あっ、ああっ、うっ……んんっ」

(どうして、こんな、私、反応して…いやぁ、不潔、不潔よぉ)

 ヒィヒィとしゃくりあげるように息をし、胸を掴む腕を振り払おうと、オークの腕に爪を立てようとする。だが、ブルブルと震える指先には力がまるで入らない。ヌルヌルした腕を掴み損ねては、また掴み直す作業を幾度も繰り返し、ヒカリはただ屈辱の涙を流した。

「んふぅぅ―――っ! ふぅ、あん、あぅん」
『感じて、息荒げて、メメトス!(喜んでやがる!) トンだ雌犬だなオーク!』
「くぅ、うっ、あはぁぁ…。いやぁ、やめて、あぁぁ、はぁぁ…。そんなコト、しないでよぉ」

 野次るオーク達と行為に反応する自分自身を嫌悪しながらも、いつしかヒカリはうっとりと執拗な愛撫に耽溺していった。吐き気を催す程の嫌悪感にも関わらず、この世界には、こんなにも刺激的で心と体を騒がせる物があったなんて、信じられなかった。修道院での暮らしや、アスカ達との冒険でも知ることの出来なかった、甘美で呪わしい快楽という罠。

「嘘、嘘ぉ。私、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はっ、はっ、はぁ。嘘、違う…」

 否定していた姉と父の行為は正しかったのだろうか? 素直に正直に、欲望の命じるまま生きる…。
 身を任せ始めたヒカリの様子に、口元を歪め、族長は床下の同胞に向かって叫んだ。

『アバッド・ダンジー!(下はどんな感じだ!)』
『デンヌデンヌ、シュルブ・ダバ! ダバワブ! チレド・バウ、ルガンタ、エグン!(ヌルヌル、準備万全だ! 極上マ○コだぜ! 親分、我慢、出来ない!)』

 オーク達がどんなに恐ろしい会話をしているのか理解も出来ず、愛撫に体を揺するように悶えるヒカリ。床下の子分共の血を吐くような訴えに、族長チレドは上機嫌で吠えた。

『とくしん、デヌ・ダンッ!(トクシン、犯してやれ!)』

 喜悦に床下のトクシンという名前の特にでっぷりと太った黒桃まだらのオークは顔を歪ませた。お預けを食らった犬のように、この僅か数分の時間が永遠にも感じていた。だが、族長が言うとおり、我慢すればする程、楽しく刺激的だ! 彼が前族長を殺してトップに立つまで、我慢という物を知らなかったが、今はそれ無しの快楽は味塩のない塩漬け肉のような物だ。

『んばぁ…』

 耳元まで裂けた口を大きく開き、長さが40センチほどもある、長く独特な形をした舌を鳩尾まで伸ばした。ゆらゆらと揺れる膨らんだ舌先に十字型の亀裂が走ると、中から灰色の柔突起が一面に生えたナマコのような器官があふれ出る。コフコフとオークが咳き込むように笑う。それが外に出るに伴い、長く伸びていた舌は逆に短くなっていく。だが、体積が減っていくに従い、柔らかな外見はそのままに、謎の器官は内側を血流で満たされ焼けた鉄の固さと熱を帯びはじめる。

 ヒカリにはそれが見えなくて幸せだったかも知れない。余計な恐怖を覚えなくて済んだのだから。
 オークの口から飛び出したそれは、ただの舌ではなかった。

『グーデンヤシュ、コウペ(人間雌、クチンポで)、かき回してやるオーク!』

 異形のペニスと化した舌が、トロトロと愛液を漏らすヒカリの淫唇に押し当てられる。

「あ、はぅ…んんっ」

 熱さと疼きに大きく体を仰け反らせてヒカリは呻いた。上のオーク達も下で行われていることを悟り、歓声を上げる。
 再び心の内にわき上がる凄まじい嫌悪と屈辱によって、愛撫に我を忘れかけていたヒカリの意識が一瞬で引き戻された。

「うそ、これ、まさか…ダメ、やめて…やめ……あぅ」

 先程舐め回されたときとはまるで違う、凶悪な硬度と熱さはヒカリに全てを雄弁に物語っていた。これから、この熱さの固まりがヒカリの胎内に侵攻してくる。止める術はない。

「あ、やっ、ひぁっ」

 いきなり飛び込んでくることなく、紳士的に舌はヒカリを突いてくる。
 うねり、くねり、処女地の扉をこじ開け、先端部分が潜り込む。唯一自由になる首をヒカリはがむしゃらに振る。抵抗にもなっていないが、もう、そんなことしかできない。

「ああ…」

 逃れられない恐怖に、きつく瞼を閉じ、さめざめと涙を流しながらヒカリは呻いた。くっと仰け反った首筋の艶は、観戦していたオーク達全てが息を呑むほどの色気に満ちていた。本人が望むと望むまいとに関わらず…。

「神よ…………この、哀れな、子羊を、お救い下さい。この愚かで矮小な、邪悪に天罰、を…」

 最後に残った彼女の拠り所。もう何の奇跡も起こさない神の御名を彼女は小さく呟く。

 ズグ……ゥッ

「くぅぅ………。あ、痛いぃ、裂ける……だめぇ」

 祈ってばかりでなく、少しは自分の力で戦え。そう言わんばかりの天罰が、ヒカリの秘所に加えられる。
 先端部分が最初の空間に潜り込む。押し広げられる軽い痛みにビクリと背筋が震える。そのまま、数秒間、熱と柔らかさ、進む方向を確かめるようにペニスは静止する。

「あ、う……んっ、ふっ……いたっ、やだ、いや…止まって、止まって。んん、なに? どうして」

 タイミングを計れず、戸惑い顔でヒカリが目を見開き、下半身があるだろう方向に目を向けた。硬い、石の床を透視しようとするように。異物の侵入が停止した状態のまま、ヒカリの心臓が数回鼓動を刻む。息を止め、ヒカリは床を凝視し続けた。ヒカリの認識からオークのことも胸の愛撫も存在がなくなる、永遠と思えるほんの僅かな時間。

「はぁ…」

 息苦しさに、ヒカリが大きく息を吸い込んだその瞬間、
 極太のペニスがヒカリの秘所を貫いた。

「ひぁ、うぐぅぅぅっ!」

 一瞬あった抵抗をプチプチと糊付けされた布を裂くような音と共に貫き、さらにメリメリと音を立てて肉は蜜壺を満たしていく。

「ああああぁぁぁぁ―――っ!」

 嵐に翻弄される木のようにヒカリは大きく体を揺さぶって叫んだ。今まで感じたことのない鋭い痛みに胎内を蹂躙される。胎内をほじくられ、存在すら知らなかった内蔵の形を知覚する。大切な物を無くしてしまったという喪失感。嫌悪して止まない性行為を自分がしてしまった、それも考えられる限り最低最悪の生き物であるオークを相手にという絶望感。

「うっ…ひっ、ひんっ、ひっ、いたっ…裂け、熱っ。ひっ、ひっ、ひぃっ。痛い、痛い、痛い!
 いやぁ、いやぁ、いやぁ…やっ……やだっ…いやっ。こんな、犯され、オークに、いたい、いたい、いたい。神、さま、私は何か、過ちを、犯したのですか…」

 躊躇も情け容赦もなく、男を知らない恥肉を貪る肉の蹂躙。ぬるりと鮮烈な赤がペニスを伝い、トクシンの口に流れ落ちる。口中に広がる甘酸っぱい鉄の味に、ますます勢いづいたペニスが駿馬の如く律動した。

 ジュグ、ジュグ、ズグズグ…。

 血と愛液と唾液の混じり合った泡を撒き散らしながら、ただ一方的に突き上げ、かき回す。異形のペニスが襞を掻き分け、敏感な膣肉を執拗に突き回した。

『おぅ、ブリッシャト、ディボ・ルト・ウシャス(お、こっちも、良い感じに解れてきたオーク)』
「いやぁ、そんな、いやぁ。痛いのよ、お願い、こんなの、こんなのぉ…神さまぁ」

 荒い息で全身を戦慄かせるヒカリの胸を揉み続けていたチンベが、微妙に弾力と手触りが変わった乳房の感触に奇声をあげる。拒絶するばかりの紙粘土のようだった弾力が、柔らかな水風船のような弾力に変わる。まさに、処女が処女でなくなった瞬間を堪能しているのだ。それも、オーク族にとって至高の獲物である人間の美女を相手にだ。

『お、オオオォォ!』

 股間と手の平を貫く痺れるような快感に打ち震えながらも、彼もまた愛撫の手つきを女からメスへと変わったヒカリに合わせて変化させる。親指で乳房の稜線をなぞりつつ、残りの指で柔らかく全体をこねくり回す。

「うっ……くっ、んはぁ…あっ、くぅ、そんな、やさし…く、いや」

 身をよじるだけだったヒカリの動きの変化を、文字通り味わった舌ペニスも、ただ貪り食らうケダモノの動きから、ゆっくりと強情な心の奥底から官能をほじくり出すような動きに変化する。ゆっくり、ゆっくり、気が狂いそうな程ゆっくりと奥底からにじみ出るヒカリの蜜を味わうように。

「神、よ。お、お恨み、します。どうして、こんな、過酷な運命を、あ…………はぁ……んんっ」

 徐々にヒカリの様子にも変化が現れ始めた。処女を奪われた痛みに泣きじゃくり、神への祈りと恨み言を呟くだけだった口から、徐々に甘くとろけるような断続的な声が漏れ始める。

「んっ、くっ、んっ…………うん………んっ、くっ……あっ…はっ、ひぃ、ひはっ……はっ、う、なに、はっ」

 もはや隠しようもない快楽の呻きを漏らすヒカリ。苦痛はなく、細胞の核にまで染み込むような疼きにただただ、荒いと息を漏らし続ける。ゲスなオークの一方的な蹂躙に抵抗も拒絶もすることも出来ず、ただされるがまま、快楽に翻弄される自分に涙を流す。その間にも右に左に、大胆に魅せつけるようにヒカリの乳房はこね回される。

「んく、ん、くっ……ひーぅ、うはぁ、はぁ、んんっ。はぁ、はぁ、はぁ」

 乳首を摘んで引っ張りながら、くにくにと指の腹で転がされる。まるで母乳でも絞りだそうとしているかのような、見ているだけで気持ちが良くなってくる指使いだ。

「うくぅ…ひぅ、ん、んん、ひっ、はひっ、ひぃー、ひぃー、う、ひぃー。
 ああ、ううぅぅ…痛い、熱い、んんっ!」

 ぎゅう…っと強く、痛い程に乳首を摘みながら大きく左右に引っ張られた瞬間、ヒカリの膣の最奥に舌ペニスが突き入れられた。最も敏感なところを突き抜かれ、ヒカリの膣がぎゅう…とすぼまると同時に、舌ペニスの先端は逆に大きく膨れた。

「あうあうあう、あぐ…っ! う、あううぅぅ〜〜〜っ!」

 哀切な悲鳴の直後の一瞬の静寂。
 ビクビクと大きくヒカリの全身が震えた。大きく開かれた口から、快楽という短剣に刺された断末魔の叫びが長く尾を引いて流れた。大量の精液?が重力に逆らって間欠泉のように噴き上がり、子宮口にぶつかる勢いで胎内を一杯に満たし、それでも収まりきれず泡を吹いてこぼれ出すのを感じる。

 ぶじゅっ、じゅっ、じゅじゅっ。

「はぁ、はっ、はっ、はっ、はぁっ! あ、ああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っ!」

 爪先を痙りそうなくらいに反らし、ヒクヒクと痙攣させながら、ヒカリは初めて味わう男の性器に我を忘れていた。
 処女をなくした直後の膣に、僅かに精液が染みて疼く。だが、それも圧倒的な官能の波に呑まれ、心地よい快楽に熔けていった。

「んっ、んくっ……ん、あ、ひっ、ああ、はぁ…んんっ」

 胸と膣、両方から感じる熱い痺れが、嫌悪と屈辱とない交ぜになる。男という生き物と性行為を絶対的に拒絶する気持ちと、もっともっとこの感覚に浸り、行き着くところまで連れて行って欲しいというメスの感情が、ヒカリをアンビバレンツな困惑に陥れていた。

「あ、ふぅ、ひぅ、ひは、はぁ、はふ…やめ、もう、やめ、てぇ。不潔、よぉ。はぁ、はぁ、はぁ」

 上下同時責めに息も絶え絶えなヒカリに、ニヤリと族長は口元を歪めた。無造作にベルトをほどき、下帯を脱ぎ捨てると、大きさは人間の性器とほぼ同じだが、色と亀頭部分の形が大違いのペニスを見せつけた。三つの蔦が螺旋を描いて絡み合ったような、異形のペニスにヒカリはヒィと小さく息を呑む。性知識がまるでなくとも、それが人間の男とはまるで異なる器官であることを悟った。
 しかし、ペニス以上にヒカリの目を奪ったのは、足の間にぶらさがる、ダイマオウイカの眼球程もある異様な膨らみだ、椅子にだって出来そうな重しを下げてとても歩きにくそうだが、器用に彼はヒカリに近寄っていく。

 ヒカリの全てを白濁で染めてやろう…。

 隆々とそそり立つ、『二本』のペニスは既に先端から滑付いた先走りをこぼれさせていた。

『うむ、ドルク・アン、ブリシャ(どれ、そろそろおっぱい)、参加するかオーク』

 おもむろに族長はヒカリの胸の間にペニスを挟み込む。あらかじめ打ち合わせでもしていたのか、阿吽の呼吸でチンベはヒカリの乳房諸共に族長のペニスを愛撫し始めた。胸の間に感じる熱く硬い雄そのものの存在が、ヒカリの沈み掛けた意識を再び持ち上げ始める。

「あう…うっ、んんっ。熱い…のが、く、臭い…」

 指の動きと共に形を変え、柔らかな肌は吸い付くように族長のペニスにまとわりつく。胸の谷間のきつきつの隙間をこじ開け、出たり入ったりする亀頭の先端からはヌルヌルとした先走りが漏れだし、潤滑剤となってますまる亀頭の出入りは激しさを増していく。

『グッシュ(口が)、開いてるオーク』
「うあ、や、うぶっ、いや……うぶぁ」

 天を衝くように屹立していたもう一本のペニスが顔に、ヒカリの口に押しつけられる。
 拒絶してもこじ開けられ、濃い紫色のペニスがこじいれられる。息の詰まる初めて感じる異臭と、むわっとする体臭が混じって腹の底から吐き気が込み上げる。

「うぶうぅ、ぐぅ、ふぐぅぅ…おぐっ、うぐっ、ぐぅぅ」

 顔を背けて拒絶したヒカリに、無理矢理くわえさせる。吐き気と共にだらだらと涎が溢れ、口腔内のペニスをぬるぬるにしていく。さらに滴った涎は胸の谷間に溜まり、ペニスの先走りと混じり合ってぐちゅぐちゅと淫靡な音を立て始める。

『ルグ(下手)、舌だオーク。メア・デッシュ(もっと上手く)、奉仕するオーク』
「ん…むぐっ、じゅっ、ちゅっ………ぷはぁ。はぁ、奉仕、なんて、違う。こんなの、奉仕じゃ、ないっ」
『口答え、だめオーク!』
「いやぁあっ! もう、いや…! 嫌よぉ! 臭い、苦いッ! んぶっ、うぶぅぅ」

 経験のないヒカリの舌使いはオークの気に召さなかったらしい。両手で頭を押さえると、無理矢理前後左右に揺さぶる。

「んんぐぅぅぅ…っ。うぶ、れろ、ひゅぶぅぅ! んっ、んっ、んっ、ちゅ、ひゃぅ。ちゅっ、ん、ふひゅうぅ」

(いやぁぁぁぁ。口に、こんな、オシッコ出す物くわえさせられるなんて。不潔、不潔よぉ。変なカスみたいなのついてるし、臭いし、苦い…。気持ち、悪い。早く、終わらせて、こんなの、こんなの)

『やれば、できるじゃないかオーク。ほれ、もっとだオーク』
「はぁ、はぁ、おえぐっ、ぐっ。ううぅ…うっ、うっ、あむ。はぁ、はぁ、ああ。ひゅく、んくっ、んく、んっ、んっ」

 喉の奥を衝くペニスの息苦しさに、必死になって舌で奉仕せざるを得ない。息苦しさに涙ぐみ、それを少しでも早く終わらせようと、必死になってヒカリはつたない動きで亀頭に舌を絡める。こびりついた恥垢の苦さと感触に生理的な嫌悪を覚える。
 人間の神官が、涙目になってオークのペニスをしゃぶって奉仕している。それはオーク達にこの上ない達成感を与えると同時に、ヒカリに最低最悪の敗北感を与えた。これでは、自分は姉以下ではないか。

「っ、うっ、うっ、うううぅ」

 サディスティックな笑みを浮かべて、二人のオークが左右から泣きじゃくるヒカリに近寄った。

『ヤッ、ディ・ズム・タミル!(おら、手が空いてるぜ!)』
『こっちもオーク!』

 まだ胸を愛撫する腕を剥がそうと無駄な抵抗をするヒカリに、無理矢理ペニスを掴ませると激しくしごかせる。
 階下では舌ペニスの注挿がアコーデオンを奏でるようにリズミカルに、深く長いストロークに変化し、順番待ちをしていた別のオークが待ちきれず、ヒカリの足を抱き枕のように抱きしめる、脹ら脛や、足の親指と人差し指のペニスをはさんで自らしごき始めた。

「んぶうぅぅっ! んんんっ、ん…っ。ふっ、ふっ、ちゅ、んん…っ……んっ」

 息苦しさと嫌悪が熱となり、さらにオークの粘膜が触れた部分が熱に茹だりヒカリの意識を朦朧とさせる。催眠術の振り子のようなリズムで三方向から水音が聞こえ、それが殊更ヒカリを戸惑わせる。ふと気づくと、ヒカリはイヤでイヤでたまらないはずのペニスを自分からしゃぶり、しごいていた。

(ふあぁぁ、なに、私、どうして、こんな事…、不潔な、事…)

 口と胸、今もなお犯され続けている膣の疼きはヒカリの意識を狂わせていく。ぞわんぞわん、ぞくぞくと膣を前後するペニスの摩擦感に、気を抜けば意識が途切れそうになり、それを快楽が強引に繋ぎ直す、気絶と覚醒を交互に繰り返させるような乱暴すぎるセックス。
 男の裸を見るのも、素肌を触られるのもなにもかも全てが初めてのヒカリには刺激が強すぎる。
 強すぎる電流にフィラメントが焼け付くように、ヒカリの意識が融かされていく。

(なに、ふわふわして、ジンジンして、ふああぁぁ、なに、これぇ。手も、胸も、口も、あそこも何もかも…痺れて、熱くて、凄い、わ。オークに、オークに、犯されてるのに…いやぁ。私、どうなってるの?)

 ヒカリが短く、切ない息の感覚を早めると共に、ペニスを擦られているオーク達の目がうっとりとしはじめる。目はぼやけているのに、苦痛を堪えるように顔をしかめ、骨のように硬くなったペニスをより一層膨らませた。

『おぅ、ヤーム、ヤーム(そのまま、そのまま)』
『チレド(親分)、でそう、だオーク!』
『口、ブリッシュ(おっぱい)、かけてやるオーク!』

(…かける、え?)

 オーク達が漏らした不吉な言葉の中の、かろうじてわかる共通語に戸惑うヒカリ。推測する間もなく、彼女の手の中のペニスと口中と胸の間、そして膣を蹂躙しているペニスが膨れあがった。顎と股の関節が内側から圧迫される鈍い痛みに、一瞬ヒカリは正気付く。

「ひゅぶ、ちゅく、んっ、んっ、や、まさか、やっ…んんっ、んむぅっ! うん、ううん、ううっ」

 ぶびゅっ、びゅるっ、びゅくっ…。

「んっ、んんんっ、んんんん〜〜〜〜っ!」

 一瞬逃れた口中に再びペニスが突き入れられた瞬間、それは大きく跳ね上がった。糊のようにねばっとした薄黄色い精液が、ヒカリの体中に吹きかけた。口、胸、両手、髪、背中、膣…。それも射精は1回や2回では終わらない。何度も何度も痙攣して、一度に何百CCもの精液をヒカリに吐きかけていく。

「―――っ! ぷはぁ、あ、あ、いやあああぁぁぁぁっ!」

 反射的に嚥下したヒカリだが、飲みきれずに逆流した大量の精液を鼻や口からこぼれる。嘔吐を催す不愉快な味と臭いだというのに、奇妙にももっともっと味わいたいという、肉体の不可解な要求に美貌の神官戦士は混乱する。

「あっ、ああ、あああっ!」

 胎内で飛沫を上げる精液の熱と感触に、ヒカリの全身はガクガクと痙攣する。
 それが絶頂という物だと理解することも出来ず、呆然と、初めて目の当たりにする精液とその量にヒカリは圧倒された。さらに胎内に注ぎ込まれる精液と、トドメとばかりに最奥に突き込まれた舌ペニスの圧迫感に、両足を太股から爪先まで真っ直ぐ伸ばしてビクビクブルブルと痙攣させる。

「ひぅぅぅ、うん、ううぅ、うん、うん、ううぅぅ……っ、んっ」

 犯され、再び胎内に注ぎ込まれたと言うこともショックだったが、それ以上に初めて目にする精液にヒカリはショックを感じていた。オーク達がヒカリを解放して離れても、拭うことも吐き出すことも出来ず、ぽとぽとと粘つく糸を引いて床に滴る精液を呆然と見つめる。臭い、味、粘つき、色、全てが想像を超えていた。オークに限らず、男という生物は体内でこんな物を作り続けている…。

「なに、嘘、こんな…なに、これ」
『精液も知らないのかオーク。馬鹿なヤシュ(メス)だオーク』

 固まった血さえも洗い流す程大量の精液で黒髪を白黒のまだらに染め、全身を白濁で飾ったヒカリを族長はせせら笑った。

(お、男なんかに、オークなんかに、犯されて、精液をかけられて、我を、忘れるなんて…)

 嫌―――。首を左右に振り、全身全霊で現実を否定するヒカリ。

「はぁ、はぁ…うっ、うっ、うっ…。精液、私、犯され…中で、出され、て」
『メスよがりっぷりオーク』
「よ…っ、私、そんなこと」

 必死になって否定しようとするヒカリに向かって族長はケケケと底意地悪く笑う。言葉でどう取り繕おうと、現実はヒカリ自身がよくわかっているだろう。今はそうやって強情を張れたとしても、すぐに彼女も素直になるに違いない。
 大きく肩を上下させ、静かにむせび泣くヒカリから族長は離れた。

 歓声を上げて、別のオークが族長が今まで占めていた場所を占有する。「もういや」という弱々しい獲物の悲鳴は音楽にしかならない。
 階下でも選手交代が行われ、別のオークが舌ペニスを淫唇とひめやかな菊門に押し当てていた。柔らかく解れた両方の穴に、一息に押し込まれる。

「そんな、またっ、やっ、私、もう、嫌っ。誰か、誰かぁ! え、あ、そっちは、不潔すぎるぅ―――ッ!
 ひぃ、ああぁ―――っ!」

 絶望と享楽の悲鳴を上げるヒカリから離れる族長を、一人のオークが不思議そうに見つめた。これからが本番なのではないのか。すぐに場所を譲ってくれたのは嬉しいが、なぜそんなにも気前が良いのだろう? 族長のふぐりはいまもまだ巨大な膨らみのままで、到底満足したとは思えないのに。

『族長は、もう、良いんでオーク?』
『ふん、忘れたのかオーク。他にも、グーデンヤシュ(人間メス)、いただろオーク』
『おお、なるほどオーク!』
『…本気でおまえらバカオーク。探せオーク。まだあと4匹、いるはず! 探せオーク!』

 ヒカリに群がる20人のオーク以外 ――― 族長を含めて3人 ――― は一斉に、他の獲物を求めて室内に散っていった。
 彼らの次なる標的は…。







初出2007/06/02 改訂2007/10/26

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