【恋ってね! 萩原編  -07-】
 
十夜と知り合ってからもう二年九ヶ月。本当の意味で十夜と恋人同士になってからは十ヶ月経った。
俺たちはもう三年生だ。あと半年で卒業である。
卒業後は十夜と同じ大学に進み、二人で一緒に暮らすつもりだ。そのために、俺は必死で勉強している最中である。十夜はああ見えても頭がいい。おかげで、十夜と同じレベルの大学に行こうとする俺は、多大な苦労を強いられていた。この苦労も十夜との甘い同棲生活のためだと思えば耐えて見せるが。
「見て見て〜。萩原っ。どう? 似合う?」
「ああ、よく似合っている。いつも十夜は綺麗だが、今日も格別に十夜は綺麗だな」
「……嬉しい」
俺の言葉に十夜はぽっと頬を染めた。
ちなみに今日は学園祭で、教室にはクラスメートたちがわんさかいる。十夜と俺の会話に数十名が凍りついたが知ったことか。俺は十夜以外は基本的にどーでもいいのである。
一年生、二年生と違って俺たち三年は舞台に上がることはないが、十夜はお姫様の格好をして俺は王子の格好をしている。去年も身に付けた衣装だ。「あの感動をもう一度」というわけで、一年前に舞台の上で演じたシンデレラをそのまま再現して喫茶店をしようという話になった。
十夜のドレス姿は惚れた欲目を差し引いても華やかで美しく、一目で十夜を男と見抜ける人間は滅多にいないだろう。十夜の身長は175cmを超えているのでそうとう背の高いオンナになってしまうが、美貌がすべての難を覆い隠してくれる。
今日は他校の生徒も訪れるので、十夜に妙なちょっかいをかけてくる男がいないか心配だ。きっちり見張っておかなければならない。
「萩原もカッコイイよ。本物の王子様みたい……」
はにかんだ笑みを見せ、潤んだ瞳で十夜が言った。俺はほとんど無意識のうちに十夜の顎に手を掛けていた。
去年の今頃は同じぐらいの身長だったが、嬉しいことに今では俺のほうが5cmぐらい高い。ちょっとだけ十夜の顔を上向かせて唇を重ねようとする。
そのとたん、数名の男子と十数名の女子の泣き声が聞こえた。
「萩原、宮城っ! ここは教室!! それにお前ら、自分たちがどれだけ人気者か自覚してろよ!!!」
俺と十夜の間に体を割り込ませてきたのは春日だ。邪魔をするなと睨みつけたら春日は十夜の後ろに隠れた。
……春日。生き残る術(すべ)を知っているようだな?
「んな見せつけるような真似をしたら、諦めたくても諦めきれない人間が可哀相だろうがっ!!!!」
十夜の陰に隠れたまま春日は吼(ほ)えた。
春日が言うには、泣き出した数名の男子が十夜のファンで、十数名の女子は俺に惚れているらしい。
……んなこと知るかっつーの。
「春日ぁ。お前まさか、諦めたくても諦めきれない十夜ファンじゃねぇだろうなあ?」
俺が凄(すご)んで見せると春日は目に涙を浮べて怯えた。
「ま、ま、ま、まさかっ! 違う!! 絶対違うっ!!! お、俺は一年の頃から、お前らの仲を応援してやっていたじゃねぇかっ!!!!」
もちろん俺は、春日が十夜に片想いしているなどとは思っていない。たんにからかっただけである。
……こうも素直に反応するとは単純な男だ。
「あ〜。もうこんな時間! あともう少しで始まっちゃうよ」
十夜の時計を指差しながらのこのセリフに、泣いていたやつらは涙を拭いて開店の準備をし始めた。立ち直りの早いやつらである。
「宮城と萩原は、入り口に立ってて。お前らが立ってるだけで客は寄ってくるから」
「分かった」
俺は頷き、十夜とともに扉の近くに立った。十夜の傍にいられるなら好都合。これでナンパヤローが十夜に声を掛けるのを防ぐことが出来る。
「いらっしゃいませ」
近くを通りかかった大学生ぐらいの男ににっこりと十夜が微笑みかけると、男は顔を赤くしてふらふらと十夜に近づいてきた。
……こら、十夜! 他の人間にそんなに愛想を振りまくんじゃないっ! お前は俺にだけその笑顔を見せてくれればいいんだ!
なんてことは、思ってはいても口には出さない。十夜に了見の狭い男と思われたくないからな。代わりに俺は、その男が十夜の笑顔に見とれている間にさっさと男を教室に押し込んだ。
「いらっしゃいませ。すぐに係りのものが案内します。おい、春日! 一名様ご案内だ!」
「OK! いらっしゃいませー」
「え? ええ? えええ??」
おそらくお茶を飲む気など微塵もなかった男は動揺していた。俺は男を春日に押し付け、またもとの位置に戻った。すると、十夜はまた別の男にちょっかいをかけられそうになっていた。
内心は怒りまくっていたが、接客業で鍛えられた俺の顔の筋肉はなんとか笑顔を保っていた。俺はにっこり微笑みながら、さきほどと同じように十夜にまとわりついている男を春日に引き渡した。
「ねぇ、あの人、超カッコよくない?」
「うんうん、超いけてる。ちょっと寄ってこうか?」
「うん。寄ってこ! すみませ〜ん。二名、お願いします!」
今度の客は他校の女子高生らしき二人だった。始まってから10分も経っていないのに、もう三組目の客である。なかなかの繁盛ぶりだ。
「いらっしゃいませ。すぐにご案内いたします」
「あの、その衣装、よく似合っていますね」
「ありがとうございます」
俺は顔に笑みを浮べて礼を言った。褒められて嬉しかったと言うわけではなく、ほとんど条件反射である。
「写真、一緒に撮っていただけませんか?」
別に構わないと頷きかけて、ふと十夜のほうに視線を向けると、不機嫌そうな顔をしてこちらを見ている十夜と目が合った。
……まさか……十夜が……嫉妬してくれている?
俺の顔に接客用ではない本物の笑みが浮かんでくる。十夜に焼もちを焼いて貰えるなんて幸せすぎる。
「申し訳ございません、お客様。写真撮影はご遠慮いただいております」
笑顔できっぱりと断ると、女の子たちは大人しく諦めてくれた。女の子たちが俺から離れ、教室内に入ったとたんに十夜が近寄ってきた。
「めちゃめちゃ愛想よくなかった? 俺、すっごくイヤだった……」
拗ねた十夜の姿はほんとーに愛らしくて、このまま保健室かどこかに連れ込んで抱き合いたいと思った。思って、実行しようとした。
しかしまたもや春日に邪魔をされてしまった。
「萩原〜……。お前……いっつも協調性ないんだから……今日ぐらいはクラスに貢献しろよ……」
俺の思考を見透かした春日が、据わった目で俺を見ながら言った。俺は軽く肩をすくめ、もちろん貢献させていただくつもりだと言葉を返した。
仕方がない。
十夜を喘がせるのは、一仕事終えてからだ。
俺は早く学園祭が終わることを祈った。
やっとあと30分で終わるというときに、あの女が現れた。
俺は驚きに目を見張った。
まさかこんなところに乗り込んでくるとは……。一体何を考えているんだ?
「久しぶりね、賢司。元気そうじゃない」
「……何の用で来た?」
女はひじょーに派手な格好をしていた。
黒いミニスカートに素足にサンダル。花柄のキャミソールの上に黒いレースのカーディガンを羽織っている。髪はほとんど金色に近い茶色に染め、頭の高いところで一つに結わいている。長さは腰のあたりまであり、ゆるやかなウェーブを描いて女が動くたびにそれに合わせて揺れている。
性格はともかく華やかな美人なので、壊滅的に似合わないわけではないが、もっと年齢を考えろと言いたい。
……もっとも、十夜のほうが一億倍は美人だけどな。
「萩原。誰……?」
俺と女との仲を誤解したらしく、十夜が不安そうな顔で問いかけてきた。俺の服の裾を控えめに摘んでいるところが可愛らしい。
隠すようなことでもないので俺は正直に答えた。
「勘当されたので今は他人だが、かつては母親だった女だ」
「え? えええ??? 萩原のお母さんっ!? ウソっ。マジで? だって美人だよ? 若いよ??」
十夜は心底驚いたようだ。俺とあの女の顔を、きょろきょろと見比べている。
「まあ。ひょっとしてあなた、男の子? ごめんなさいね。綺麗で可愛いから、おばさん、てっきり女の子かと思ったわ」
綺麗な子が大好き! という元・俺の母、現・赤の他人である女はきらきらと顔を輝かせて十夜に声を掛けた。
「あ、いえ、ぜんぜん構わないです。あの、俺、いつもはぎ……賢司……くんにはお世話になってて……」
十夜はすっかり動揺していた。その気持ちも分からなくはない。俺だって十夜の母親が突然現れたら慌てふためくに違いない。
「もしかして……あなた、宮城十夜くん?」
きらりと女の目が光った。
「は、はい。そうですけど……」
「でかした賢司!」
女は顔に満面の笑みを浮かべ、ガッツポーズをとった。
「賢司が男に走ったと知ったとき、私の夢を壊してくれたバカ息子をコンクリ詰めにして東京湾に沈めてやろうかと思ったけど、十夜ちゃんぐらい綺麗だったら許すわぁ。けんちゃん、エライ! さすが私の息子だわっ!!」
そして、満面の笑顔を浮かべながら、俺の背中をバシバシと力いっぱい叩いた。
どうやら勘当は解けたらしい。
しかし東京湾……。アンタ、ほんとに俺の母親なのか?
「十夜ちゃんがお嫁に来てくれるなんて、おばさん嬉しい。十夜ちゃん、私の不肖の息子をよろしくね」
「え? お嫁にって? え?」
母の言葉に十夜は目を白黒させていた。どうやら母は十夜のことをそうとう気に入ったらしい。
「十夜ちゃん、今度ぜひうちに遊びに来てね! けんちゃん、絶対に十夜ちゃんをうちに連れて来るのよ?」
「ああ、分かった」
言い返しても無駄なことは分かっているし、母を味方につけておけばこの先いろいろと便利だと考えた俺は素直に頷いた。「十夜を嫁に迎える」という新しい夢を見つけた母は、十夜のご両親を説得するときにもいろいろとバックアップしてくれるだろう。
十夜と共に生きることが出来るように、着実に足場を固めていきたいと俺は考えていたのだった。





「今日は萩原のお母さんが突然来るんだもん。びっくりしちゃった! 萩原のお母さん、キレイだったよね〜。とても高校生の息子がいるなんて信じられないよ!」
「十夜はだいぶ気に入られていたな」
「そう、かな?」
学園祭が終わったあと、クラスの打ち上げには一次会だけ参加して、俺は十夜を自分の部屋に連れてきた。二次会への参加を断ったら、春日に「協調性が無い!」と文句を言われたが、拳で黙らせた。一次会へは一応顔を出したのだし、それで十分義理は果たせたはずだ。
床の上に座って俺は十夜を背後から抱きしめる。俺の腕の中に大人しく収まっている十夜は可愛い。目の前にある桜色の耳たぶを甘噛みすると、十夜は身を震わせてせつなげな息を吐いた。
「でも萩原のお嫁さんになれるのは嬉しいな。萩原のお母さんがお姑(しゅうとめ)さんになるんだね〜」
十夜はほやほやと嬉しそうに笑った。可愛い十夜の笑顔にくらくらしながら、俺は我慢しきれず十夜の制服の胸元を緩めた。シャツの中に手を入れ十夜の肌に直接触れる。胸の突起を指で弄ると十夜は頬を染めて少し困った顔をした。
「あ……んっ。萩原……ダメ……勉強、しなきゃ……」
「勉強なら後でやる。今は十夜を抱きたい。イヤか?」
「……イヤ、じゃない」
十夜の目はすでに期待で潤んでいる。俺だけでなく、十夜もまた抱き合いたいと望んでくれているのだ。
「……一緒にシャワーを浴びたい。いいか?」
自分の声が欲望で掠れているのが分かる。実は、一緒にシャワーを浴びる=ナマで入れさせて欲しい、という意味を含んでいる。
コンドームをつけずセックスして中で射精した場合、入れたほうも入れられたほうもすぐさま洗浄したほうがよいという叔父の言葉を守り、どうしても中出ししたいときはバスルームでヤルことが多かった。そうすればすぐに洗えるからだ。
ゴムを付けたままでも十分気持ちイイのだが、何の隔(へだ)たりもなく十夜と繋がるのは、肉体的な快楽にプラスして精神的な満足感がある。
「……ん。……俺がいいっていったら……キテ」
「……分かった」
セックスの前に十夜は必ず体をキレイに洗う。とくに、肛門や直腸を念入りに洗浄するのだが、その姿は絶対に俺に見せてはくれない。「恥ずかしいから……。お願い……」と言われれば無理強いすることも出来ず、俺は十夜が作業を終わるまでじっと我慢して待っているのが常だった。そんなところも初々しくて可愛いのだが、一度ぐらいは洗わせて貰いたいものだ。
「萩原、いいよ」
十夜の言葉に俺は服を脱ぎ捨てすぐさまバスルームに飛び込んだ。性急に十夜の後ろを探るとすでに自分で解したらしく、オイルでたっぷりと濡れていた。
「今日は自分で準備したんだ……」
「うん。だって俺……早く、萩原が欲しい……」
十夜は俺に口付けながら、すでに熱を持った俺の中心にそっと指を絡めてきた。十夜の愛撫に俺のモノは簡単に反応する。
「十夜、壁に手を付いて後ろを向いてくれ。バックから入れる」
「……うん」
十夜は俺に背中を向け、俺を受け入れるための体勢をとった。俺は十夜の腰をしっかりと掴んですぐに合体した。亀頭で十夜の感じる箇所を責めると、十夜は腰を振って善(よ)がった。
「あああっ……イイ……もっと……」
十夜は先端からぼたぼたと白濁した液を零した。キツク締め付けられて堪えきれず、俺も十夜の中に精液を注ぎこんだ。
「ダメ……萩原……もっと……もっとして……終わっちゃイヤ……」
「……分かってる」
俺は萎えたペニスを引き抜き、代わりに指で十夜の中を愛撫した。少々乱暴にすばやく指を出し入れさせる。唇では十夜の背中をなぞり、残っているほうの手で十夜の前を扱いた。三箇所からの責めに十夜はすすり泣きながら乱れた。
「ヤっ……あっ……あっ……。ヤ、ヤダ……。萩原、ちょうだい……萩原ぁ……」
十夜が何を欲しがっているかは分かっていたが、俺はあえて知らんぷりをした。一度十夜の中で達したばかりだったから余裕があったのだ。泣きながら俺を求める十夜をもっと見ていたくて十夜を焦らした。
「ヤダっ……萩原……どうして……?」
十夜は目に涙を溜め俺を詰(なじ)った。十夜の泣き顔は、俺の嗜虐心(しぎゃくしん)を煽った。優しくしたいのに、めちゃめちゃにしてやりたいという凶暴な想いが体の奥で息づく。
「……どうして貰いたいか、はっきり口で言ってみろよ……」
俺の言葉に十夜が信じられないという顔をした。
「い、意地悪……。俺、言ってる……萩原が……欲しいって……」
「……俺ならもう十分あげてるだろ? 俺の全部は十夜のなんだからさ」
ぐりぐりと十夜の中を指でかき混ぜながら言った。十夜はもの欲しそうに、ぎゅっと俺の指を締め付けてきた。
「ああんっ……。バカっ……。萩原の、バカァっ……!」
焦らし過ぎたようだ。十夜は俺の指を咥えたままぼろぼろと泣き始めてしまった。だがそれでも俺は、許してやらなかった。十夜の涙はむしろ俺の中の獣を喜ばせた。
「十夜、どこにナニが欲しいか言ってみろよ。俺……十夜の口からヤラシー言葉、聞きたい」
「〜〜〜っ。萩原の、ヘンタイっ!!」
「十夜はその変態に弄られて悦んでいるんだよな」
俺はわざと冷たく笑い、指で十夜の内壁を擦(こす)った。
俺のペニスはすでに復活していて先端から先走りの汁を垂らしている。血管は浮き出て今すぐ破裂しそうになっているが、ここは十夜との我慢比べだ。本当はすぐに突っ込みたくてたまらないが、十夜にえっちなセリフを言わせたくて俺は耐えた。
「言えよ、十夜。ちゃんと言えればおりこうさんの十夜にご褒美をやるぜ?」
ご褒美という言葉に反応して十夜の内部が期待で蠢(うごめ)いた。俺もキてるが十夜もそうとうキているのだろう。
十夜は顔を真っ赤にして視線を辺りに彷徨(さまよ)わせていた。何度も口を開きかけては閉じ、俺の言葉に従うかどうか迷っている。
俺は指を引き抜いて、代わりに性器の先端を十夜の後ろに擦(こす)りつけた。十夜の蕾は俺のペニスを欲しがって淫らに収縮していたが、俺は中には入れてやらなかった。
「何が欲しい? どうして欲しい? なあ、言ってくれよ。そうしたら欲しいものを好きなだけやるからさ」
十夜は羞恥のため涙を零しながら、小さな声で俺の要求に応えた。
「は、萩原の……硬くなった……おちんちんが欲しいの……」
「どこに?」
「お尻の……中……。萩原のおちんちんを……お尻の穴に入れて欲しいの……」
俺はすぐに十夜の言葉どおり、十夜のお尻の穴の中にペニスを入れた。最奥まで一気に貫くと、十夜は悲鳴を上げて先端から白濁した液を飛ばした。
「入れてやったぜ。これで満足か、お姫さま?」
「あ……。や……。う、動いて。いっぱい動いて……。おちんちんで……中を掻きまわして……」
清純そうな顔で卑猥なことを口にする十夜に、俺はますます興奮した。
もっとやらしーことを言わせたい気もしたが、やり過ぎて嫌われると怖いのでこれで満足することにする。意地悪してゴメンね、という意味を込めて十夜の頬にキスをしてから、俺は激しく腰を使い始めた。
「ああっ……! イイ……イイ……ああんっ……」
俺の動きに合わせて腰を振りながら、十夜はペニスからひっきりなしに精液を漏らしていた。髪を振り乱して貪欲に快楽を求める十夜は淫らで可愛い。あまりにも可愛いので俺は何度も十夜の中で射精した。ようやく満足して十夜を離すと、十夜はペタリとその場でしゃがみこんだ。
「……すっごく疲れた……」
「十夜、洗ってやるからケツの穴を見せてくれ」
俺の言葉に十夜は心底嫌そうな顔をした。
「恥ずかしいから、ヤダ〜」
「……今更だな。俺は何度もお前の中でイった男だぞ?」
「それでもイヤ〜。萩原、お願い〜」
セックスの最中はさんざん十夜に意地悪をしてしまったので、今度は十夜の願いを素直に聞き届けることにした。かなり残念ではあるが。
内心で舌打ちしつつ、十夜が自分の穴の中に指を突っ込み、真面目な顔で俺が放ったものを掻き出す姿をたっぷり堪能させていただいた。
「萩原のは俺が洗ってあげるね!」
自分の後ろを洗浄し終えた十夜は嬉々としたようすで、泡の付いた手で俺のモノに触れてきた。タイルの上に座り込んだまま俺のモノを洗っているので、十夜の顔の近くで俺のモノはぶらぶらと揺れていた。括れた部分を丁寧に指でなぞられ、俺のモノは反応し始めた。
「あ……。ヤダ。萩原……スゴイ……」
さんざん十夜の中でイったのにもかかわらず、俺のムスコは十夜に握られ元気になってきてしまった。臍(へそ)に付きそうなほど反り返った俺のイチモツを見て、十夜は顔を赤くした。
俺は泡を洗い流し、自分で自分のペニスを掴んだ。そして亀頭で十夜の頬を撫でるように動かす。十夜はますます頬を染めた。
「は、萩原……? はぎ………っ!」
強引に十夜の唇を割り開き、俺は十夜の口の中に自分の欲望を突き立てた。喉の奥まで入れられ苦しげに十夜は俺のモノを吐き出そうとした。
だが、十夜の後頭部をがっしりと掴み、俺は十夜が逃げるのを許さなかった。俺はそのまま乱暴に腰を動かし始めた。口中を蹂躙(じゅうりん)され十夜は眦から涙を零した。それでも俺のモノに健気に舌を絡めてくる。
「んーっ……んん……」
「可愛いぜ、十夜……」
十夜の苦しそうな声を聞いて心が痛んだが、それでも俺は体の暴走を止めることができない。醜い欲望をむき出しに、十夜の口腔を犯し続ける。
「…………出すぜ」
そのまま十夜に飲んでもらおうかと思ったが、射精する寸前、俺は十夜の口の中から自身を引き抜いた。そして十夜の鼻先で欲望をぶちまける。十夜の顔は俺の精液まみれになった。
「………………」
顔射されて、十夜は呆然とした顔をしていた。以前も十夜の顔にかけたことがあったが、あのときは故意ではなかった。しかし今回は狙ってヤったのだ。俺はエロティックな十夜の顔に、うっとりと口付けた。
「〜〜〜萩原〜」
十夜は泣きそうな顔をした。欲望の波が引き冷静になった俺は、自分のしでかしたことに慌てた。
「………………ごめん」
せめてものお詫びに俺は十夜の顔を綺麗に洗ってやった。
「もうっ! 今日の萩原、変だよっ!! え、えっちなこと言わせるし、顔にかけたりするし……」
一緒にベッドの中に入っても、十夜はまだ怒っていた。温厚な十夜がここまで怒りを持続させるのは珍しい。俺は本能のまま突っ走ってしまったことを、深く反省した。
「悪かった。……だが、俺の腕の中で身悶える十夜は、最高に可愛かった……」
愛していると囁きながら、俺はあやすように十夜の顔中に何度もキスをした。
「俺、十夜のことが滅茶苦茶好きだ。だから、どれだけ抱いても、抱き足りないんだ」
「むー。もう、しょうがないなあ」
ようやく怒りは解けたようで、十夜は俺の首に腕を回してきた。俺はほっとして十夜の体を抱きしめた。
「……でも、乱暴な萩原も……ちょっと怖かったけど……カッコよくてどきどきした……」
十夜は頬を染め、小さな声で告白した。……どうやらあれぐらいはOKらしい。
「萩原、好き」
「俺も好きだ。愛してる」
ベッドの中で、俺と十夜は何度もキスをした。また体が熱くなりかけたが抑えが効かなくなる前に、十夜が眠りこけてしまった。
俺は十夜を起こさないようにそっとベッドから抜け出し、問題集に向き合った。一問目からいきなり躓(つまづ)き、俺はイライラしながら問題集を解いていった。さきほどの十夜とのセックスが激しくなってしまったのは、受験でストレスを溜め込んでいることも原因の一つかもしれない。
十夜のレベルに追いつくのはかなりツライ。しかし今を耐えれば、春からは十夜との新婚生活が待っているのだ。愛する十夜と自分のために、俺は集中して問題集に取り組んだのだった。




とうとう今日は大学の合格発表の日である。十夜はよほどのことがない限り、受かっているだろう。試験の出来も悪くなかったと言っていた。
危ないのは俺だ。
時間が足りなくて、最後まで問題を解けなかった科目もあった。平均三回は見直ししたという十夜とは大違いである。
受けた大学は同じでもさすがに学部は違うので、俺たちは合格者番号一覧表が張り出されている掲示板の前で一度別れた。
「萩原〜」
自分の番号を確認し終えた十夜が俺のもとに駆け寄ってきた。結果を聞かなくても十夜が合格したことは、その表情から分かった。
「あの、俺、合格したけど……」
「…………」
俺の暗い表情を見て、十夜は言葉を止めた。
なんと言ったらいいのか分からず、俺たちは二人ともしばらく沈黙していた。十夜は俺よりも辛そうな顔をして唇を噛み締めている。
やがて、十夜が意を決したように口を開いた。
「俺も、来年もう一度受験するから!」
「十夜…………」
「だって俺、萩原と一緒に四年間過ごしたいよ」
「その必要はない、十夜」
「止めないで! 萩原のためじゃなくて、俺が萩原とずっと一緒にいたいんだ。だから……」
「本当に、必要ないんだ。俺も合格したからな」
「来年こそ頑張ろ…………合格?」
「ああ。心配したけどな。一応、俺の番号あったぜ」
「〜〜〜〜っ!」
十夜は口をあんぐりと開けて、俺の顔を見つめた。ちょっとバカっぽい表情だが十夜がすると愛嬌があって可愛い。
「じゃ、じゃあ、さっきの、あの意味深な表情はなんだったんだよ!! 萩原ーっ!!!」
顔を怒りの表情に変え、十夜は絶叫した。
「おちゃめな悪戯(いたずら)のつもりだったんだが……。思いがけず十夜の俺への愛情の深さを知ることが出来たな。十夜は俺のために、一年浪人してくれるつもりだったんだな」
いざというときにどういう行動を取るかで、その人間の価値が分かるというものだ。俺が落ちていたら、十夜も来年また受け直すと、瞬時に覚悟を決めてくれた。その十夜の気持ちが嬉しいと思う。
「十夜、好きだよ」
俺はにっこり微笑み、十夜の頬を右手で撫でた。抱きしめてキスしたかったが、人の目があるので我慢する。
「〜〜〜俺だって、好きだよ!」
十夜は顔を赤くして、悔しそうな表情で言った。
一度は我慢したものの、そんな十夜が可愛くて、気が付けば俺は十夜の唇に唇で触れていた。……相変わらず十夜以外は目に入っていない俺だった。
……まあいいか。どっちみち周囲には、十夜には俺がいるってことを知っておいて貰わないといけないからな。
なにせ俺の恋人は、あらゆる人間の心を惹き付ける天使なのだ。用心してし過ぎるということはない。
これは恋のライバルたちへの牽制(けんせい)なのだと大義名分を掲げ、俺はたっぷり十夜の甘い唇を吸った。最初は俺の腕の中で暴れていた十夜もだんだんと大人しくなる。俺のキスで感じ始めているのだろう。
「十夜、ホテルに行こう。すぐに抱きたい」
耳元で囁くと、十夜はこくりと頷いた。今日、この日を迎えるまでは落ち着かず、年が明けてからは両手で足りるぐらいしか十夜とセックスしていない。それも十夜の体調を気遣って極めて淡白なものだった。大切な十夜に無茶をさせて、この大事な時期に体調を崩させるわけにもいかないので仕方ないのだが、俺は欲求不満気味だった。
「今日は俺、スゴイから。覚悟しとけよ」
「やだぁ、萩原ったら…………は、萩原っ! ここ、人前っ!!」
ようやく十夜はここがどこであるか思い出したようだ。相変わらず、鈍くさくて可愛いやつめ。
慌てて十夜は俺から離れようとするが、俺は十夜の肩にかけた手に力を入れ、それを許さなかった。
「大丈夫だ。誰も俺たちの事なんか気にしちゃいない」
「そ、そうかな?」
「そうだ。みんな自分の結果に夢中になってる」
「そ、そうだよね……」
自分の持つ影響力というものを、まるっきり分かっていない十夜は納得した。十夜ほどの美貌であれば、どこにいても注目される。今も俺たちのキスシーンを目撃した数人が、青い顔をして凍り付いている。恋に落ちた瞬間に失恋したというわけだ。
……ざまーみやがれ。俺は、ライバルには容赦しない男だからな。
俺は内心でにやりと笑った。
十夜はまだ気が付いていない。これが、俺が大学で築くであろう、『帝王伝説』の第一幕であるということに……。

萩原編 終わり
 
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