12月6日の神戸新聞の懸賞詰め将棋を検証してみる

問題図。ヒントには「易しそうに見えて難問。誤答続出?」とある

  12月6日の神戸新聞の朝刊の懸賞詰め将棋。ヒントに難問って書くのはやめてくれよ〜と思うのだが、別にそういう意見を投書したりしていないので、他に投書する人がいない限りきっと今後も載り続けるだろう。ま、それはともかく。初手は▲2三銀しかない。検証は割愛するが、他の王手は有効な手とは言えない。▲2三銀に△同金と応じるのは、▲同金で詰んでしまうので△1三玉と逃げるしかない。そこで▲3一角と離れたところから角を打つ。これに△同金は、▲1二銀成から△同香でも△同玉でも▲2三金まで。よって2二に何か合駒を打って王手を防ぐしかない。そう、今回の問題はこの合駒を考える問題なのだ。

△2二合駒まで(内容については本文で考える)

  2二に打った合駒が何かは順に検討して行く。ここでは仮に「合」と表現しておこう。さて、いきなり結論に近いが、この問題では合駒は3パターンに分けられる。「斜めに動ける駒」「前進できる駒」「それ以外の駒」の3つだ。まず「斜めに動ける駒」とは……もちろん玉も斜めに動けるが、合駒として登場できるわけがないので以降も考えない(当然だ)。金、銀、角の3種類。そして次の「前進できる駒」――のうち、斜めに動ける金銀を除外すると、歩、香、飛の3種類。そして最後に残るのが桂だ。そして、最初の2つのパターンでは……銀で合駒を取ってしまう。5手目、▲2二同銀不成だ。

▲2二同銀不成に対して△1二玉と逃げたところ

  この▲2二同銀不成に対して△同金と取るのはいけない。▲2三金で終わってしまうからだ。玉が角の利き筋に入っているため、2三金を△同金と取ることはできない。よって玉方は△1二玉と逃げるしかない。実はこの詰め将棋、相手の守りの金で取れる場所に攻め方の駒がどんどん行くのだが、最後の最後ギリギリのところになるまで△同金とは取れないのがまた一つ面白いところ。さて、△1二玉と逃げたところで……合駒が「斜めに動ける駒」だった場合、2三の位置にその駒を打つ。以下、△同金、▲同金まで簡単に詰む。「前進できる駒」が長くて、例えば歩だった場合、▲1三歩、△同桂、▲同銀成、△2一玉、▲2二角成(成銀でもほぼ同じ)、△同金、▲同成銀、△同玉と進んで次の図。

お互い駒を取り合っての△2二同玉まで

  実はここから詰まないと早合点して別の手を考えていた。それでちょっと解くのが遅くなって、そして締め切りに間に合わなかった(間に合ってても応募してないけど)。▲2三金に△3一玉と逃げたところで決定打――次の図へ。

持ち駒に桂馬があるので▲4三桂が打てる

  ▲4三桂に△同金は▲3二金の頭金まで。△4一玉と逃げても▲5一金で詰む。△2一玉は説明するまでもなく頭金で詰む。
  さて、最後のパターン、合駒が桂馬だった時の話に移ろう。

△2二桂のときは別の手を考える必要がある。正解は▲同角成

  △2二桂に▲同銀不成、△1二玉と進めると後が続かない。一応▲1一銀成、△同玉、▲2三桂と進んで△同金と取ってくれれば▲1二香以下詰むのだが、▲2三桂には△1二玉とかわされてどうしようもない。さっき言ったように、相手の守備駒の金は最後の最後になるまでじっとしているのが仕事なのだ。というわけで代わりの手を考える必要がある。
  前置きが長かったが、辿り着いた解答は銀ではなく角で合駒を取る手。▲2二同角成だ。これには流石に△同金と取るより他無く、それに対する攻め方の手も▲同銀不成しかない。この▲同銀不成に対して△1二玉と逃げるのは▲2三金までなので、△同玉と取る一手。ここまで進んだ図を次に示すが、見覚えのあるものになっている。

△2二同玉まで。先ほどの図と似ている……

  合駒が「前進できる駒」だった場合の途中図とそっくりなことを確認していただきたい。違いは玉方2一の桂馬だけ。先ほどの同様図からの詰め手順には、この桂馬の利いているマスへの駒の進入はない。そして玉の逃げ道を塞いでいるかというと、塞いでいるけどあまり意味がない場所なので……先ほど同様、▲2三金、△3一玉、▲4三桂以下詰む。

  というわけで正解は、
▲2三銀、△1三玉、▲3一角、△2二桂、▲同角成、△同金、▲同銀不成、△同玉、▲2三金、△3一玉、▲4三桂、△同金、▲3二金 まで十三手詰め

  ――とやってしまうと
「ヒントをよく読め」と言われてしまうだろう。「誤答続出」という行はきっと、この答案を指し示しているに違いない。何故この手順が間違えているのか。それは「合駒が前進できる駒だった場合」の詰め手順を再考察してみると分かる。そのときの手順を書き記す。
▲2三銀、△1三玉、▲3一角、△2二歩、▲同銀不成、△1二玉、▲1三歩、△同桂、▲同銀成、△2一玉、▲2二角成、△同金、▲同成銀、△同玉、▲2三金、△3一玉、▲4三桂、△同金、▲3二金
手数を数えると十九手。玉方は最長手数になるような応手が求められるので、四手目の合駒は△2二桂ではなく手順が長くなる△2二歩が正解。よって桂合の手順は、もちろんそちらでも詰むことは確認しなくてはいけないが、正解手順には入ってこない。

  今まで2年ぐらい?神戸新聞の詰め将棋を解き続けてきた。全部で100問弱といったところだろうか。それまで十五手詰めが最長だと思っていたのだが、あるとき十七手詰めの問題が出て来た。それでも十七手のものはその一問だけで、残りは長くて十五手まで。そして一問だけ七手があって、それ以外では九手が最短。大体は十一手〜十三手ぐらいだったのだが……今回は十七手よりも長い十九手詰め。確かに難しく、しかもうっかり桂合の方を答えに書いてしまいそうになる。
  もう一つ。詰め将棋でこんなに清算手順が入るのも珍しい。清算というのは将棋では、敵味方の駒が密集している箇所に於いて、お互い駒を取り合って盤面上の駒を少なくし、手駒を増やすことを指す。ヘボ将棋だととりあえずややこしくなったら清算手順に入るものだが、上手くなればなるほどややこしい状態のまま厳しい手の応酬が続く。とはいえ、もちろんプロ同士の対局で清算することがないではない。どうにもならなくなってしまった場合には清算して、盤上の駒を手駒に変えて次の着手に臨む。が、詰め将棋ではあまり見ない。そもそも内藤九段の(神戸新聞の懸賞)詰め将棋は、相手の駒を取ることが多いのが独特に感じる。それ以上に今日のは盤上の清算という色が濃い。正解手順も派生手順も2二の地点で駒の取り合いが発生し、そしてその結果駒数が大幅に減少する。はっきりと言ってしまうとちょっと泥臭い。まあでも、実戦的と言えば実戦的でもある。初期配置の桂香なんかが特にそうだ。数多く指していればほとんど同じ局面に遭遇したっておかしくない――と思わせるものがある。盤面は同じでも手駒が足りなくて悔しい思いをしたり、なんてこともありそう???(笑)

(2009.12.12)

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