「この電車、リリアって言うの? 可愛いね!」
カトーのNゲージ、「TGV Lyria(リリア)」を手に微笑むこの少女、その名はリリア(Lilia)。綴りは違うが日本語で書くと同じ「リリア」。つまり「“自分と同じ名前の電車”を可愛いと言っちゃう天然なリリアたん」がこの写真の趣旨である。
――リリアたんも可愛いよ!
「TGV Lyria」を買うときに「いつの日かリリアさんをお迎えしたらこんな風に撮ろう」とイメージした写真でもある。その後諸々あってそんな日は永久に来ないと思っていたのだが、さらに諸々あるところまでは読めなかった。そして一昨年、その「いつの日か」を迎えることになった。なお、「TGVは“電車”じゃないだろ!」という指摘ないしツッコミは受け付けない。リリアたんは鉄道マニアじゃないからね、機関車も客車もディーゼルカーも貨車もぜーんぶまとめて「電車」なのだよ。
バツイチになる前、正確に言えば結婚前の婚活をしていた時期に遡る。とある趣味系通販サイトのブログをボーっと眺めていた。その日は暇だったのだろう。鉄道模型以外のジャンルも片っ端からリンクを開き、興味のない物でも適当に流し読みしていた。「ドール」カテゴリの記事も例外でなく、そのページが運命の扉であることも知らずに右手はマウスのポインターをセンターに入れてクリックしたのである。ブログ執筆者のやたらテンションの高い書き出しを鼻で笑ったことをよく覚えている。その時点ではドールに興味のなかった私は、無造作にページをスクロールしていく。そして数秒後、私はブログ執筆者のテンションの高さを理解することになったのだった。っていうか、鼻で笑ってゴメンナサイでした。
これが、アゾンインターナショナルの展開する50cmドール「Black Raven」シリーズの「リリア」との出会いだった。次の瞬間、私はお迎えの算段に取り掛かった。しかし「50cmドール(1/3ドール)」の詳細を調べていくうちに冷静になっていく。まず、値段が高い。次に、大きい。3つ目、売ってない。それに、結婚を目論んでいた私が深く考えなくても分かることがあった。ドール趣味は、婚活中の身にはディスアドバンテージでしかない。おそらく大多数の女性は、いい歳した男がお人形さん相手にニヤニヤしていたら引くことだろう。ただの知り合いとか職場の同僚とかならギリギリセーフでも、結婚相手としては「極力避けたい」と言われても仕方がない。これが超絶イケメンとか超絶金持ちとか、他何か超絶な美点があれば大した問題にはならないかもしれない。しかし生憎、私のステータスで超絶が付くのは独自路線のオタク性だけである。ただでさえ苦戦しているというのに、不利な要素を追加で抱え込むのは賢明ではない。隠し持つという手段もそのサイズ故に難しそうである。心を落ち着けて、「今すぐは」やめておこうと諦めた。「あと2年婚活してダメだったら、リリアさんをお迎えして愛でる人生を送ろう」と思ったのである。一字一句同じではないが、この時「愛でる」という単語を思い浮かべたのは本当である。決してライトノベル『魔王の俺が奴隷エルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?』の影響による後付けではない。そして2年が経過した。残念ながらその時点でも婚活は上手く行かず、終わりの見えない独身生活は続いていた。婚活の継続はさておき、とりあえずリリアさんをお迎えしに行こう!という、そういうことになった。だがしかし、「3つ目」の問題が立ち塞がった。売っていなかったのだ。侃侃諤諤本編の「バツイチの俺が(中略)どう愛でればいい?」で同人グッズが手に入れにくい云々を書いたが、ドールも割と厳しめな世界だった。リリアさん自体は、髪や瞳の色、そしてセットされる衣装違いで複数回発売されていた。2021年10月の現在では、やや小さめの48cmモデルを含めれば20近くにもなるバリエーションがある。しかし、それらは基本的に発売後まもなくして売り切れるものであり、再生産などという鉄道模型ならば定番の供給体制も望めない。私が行ったその日は、他のドールはあったもののリリアさんのパッケージはなく、打ちひしがれてアゾンレーベルショップ大阪を後にすることになった。その後、蔵出しセールでリリアさんの2番目のモデルをお迎えするチャンスもあるにはあったのだが、今度はサイズが気になり、あと一歩を踏み出すことができなかった。今度こそ、と思って5万円を握り締めて日本橋のコトブキビルへ赴いたものの、またもや決断が付かず手ぶらで帰りの地下鉄に乗ったのである。その後も幾度となく、日本橋に行けばコトブキビルの4階まで足を伸ばし、「可愛いなー、でもちょっと大きすぎるなー」とウィンドウに飾られたリリアさんを眺めるだけの日々が続いた。そうしているうちに、私にもようやく結婚を承諾してくれる奇特な女性が現れ、めでたしめでたしともならなかった。離婚後少しして「二次元の嫁」を追い求めるようになったが、リリアさんのことも忘れていなかった。
ここで突然『Re:ゼロから始める異世界生活』が出てくる。ドールのことを思い出した当初、「レム」をお迎えする計画が持ち上がった。ちょうどその時に近日発売予定だったから、という安易な理由ではあるが、「よく知らない作品のキャラだけど、今手に入りそうな中では断然可愛い」と思ったのだ。そう、この時点ではまだ私にとって『Re:ゼロ』は「よく知らない作品」だっのだ。その時に発売されるモデルが、ワンサイズ小さな「1/6」サイズだったことも大きかった(小さいか大きいかはっきりしろ)。お値段も、プラ製HO4両分に匹敵する「1/3」とは違い、「1/6」はNゲージのセットを買う感覚でお迎えできる。これぞ運命ってやつなんだろうな、と思ったら違う方向性の運命だった。私は『Re:ゼロ』人気を、レム人気を「よく知らない作品」が故に舐めていた。各種通販サイトで予約完売なのを見ても「なぁに、発売直後に店に行けば1体や2体在庫が残ってるだろう」そう思ってのほほんとしていた。ところがどっこい、本当に予約完売でどこにも売っていない。辛うじてアマ○ンでプレミア価格になったものがあったが、その金額を支払う気にはなれず、縁がなかったと諦めることにした。その暫く後に、甥っ子から小説単行本を借りてごくふつーに『Re:ゼロ』にはまったのはまた別のお話。
縁がなかったと諦めて半年、新しいモデルのリリアさんが発売されることになった。「〜大正浪漫〜K猫」と銘打たれた和装メイドのリリアさんは好みのドストライク。しかし既に諦めモードだった私は、店で実物を見て「大きい」ことを買わない理由とする。やはりドールには手を出さないでおこう、頭の中で念仏のように繰り返し唱えて家に帰った。なのに、通販サイトを覗いては相変わらず「欲しい」の気持ちを抑制できずにいた。「欲しい」と「やめておこう」の間を何度揺れ動いたか分からない。そうするうちに1ヵ月ほど経って、迷ってる時間が勿体ないことに気付いた。5万円近い買い物は決して安くない。が一方で、人生を左右するような取り返しの付かない金額でもない。このまま買わずにいたら商品ページを見ながら悩み続け、売り切れてからは買い逃したことを悔やむ日々を送るだろう。そんな無駄な時間を5万円で買い取ってしまおう、と思ったのである。最後の迷いを振り切り、私は注文確定ボタンを押した。そして運命の日を迎える。今日から遡ることちょうど2年前のことだ。
インターホンが鳴り リリアさんの入った大きな箱が届く
不安と期待の入り混じる開封の儀
ドキドキしながらお衣装を着せて ちょこんと座らせてみた
……あれっ おかしいな
こんな話は聞いてない
私は確かに ドール をお迎えしたはず……
そこには 天使ちゃん がいた!
続く。
白兎「はいはい、もう誰も聞いてないよー」
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