棚のリミット

  
 鉄道模型を始めて30年余り。とうとうこの日がやってきた……いや、まだ一応は来てないのだが“終端レール”が見えてきた。買った模型で棚が満杯に近付き、“辞め時”を考える段階に入った。辞めると言ってももちろん、鉄道模型趣味自体を辞めるわけではない。「新しく買う」のを辞めるという意味だ。既に数年前ぐらいからブレーキは掛けていたものの、ちょっとそのタイミングが遅かったかもしれない。減速した今のペースでさえ、あと2、3年ぐらいが限界になりそうだ。
 振り返ると20年ぐらい前までは、新製品の数が少なかった。細かい作り込みは甘く、言い換えれば大らかな時代で、その代わりお値段も今と比べると安く気軽に買えた。全国津々浦々の列車を新製品が登場するたび集めていく、というプランが無理のない範囲で実行できて、それが故に今振り返るとそこまで欲しくない車両にも手を出していた。流れが変わるのはマイクロエースの“新規参入”後しばらくしてからだろうか。少しずつ細密化と差別化が進み、製品の数が増えていく。同時に高価格帯へとシフトしていく。かつては考えられないようなニッチな形式や形態差の模型が製品として売り出されることに手放しで喜んでいたら、いつの間にか収拾が付かなくなっていたというわけである。
 そんなわけで、対策としては「新しく買わない」以外に「買ったけどそんなに気に入っていない車両の放出」がある。「はなてん」じゃないよ「ほうしゅつ」だよ(大阪ギャグ)。買った時を思えば二束三文レベルで手放さなくてはならないが、今はスペースの方が大切である。新たな場所を確保しようとするとより大きな出費になることが予想されるので、買った金額と売った金額の差額ぐらいは甘受しなくてはならない。ちなみに放出リストをメーカー別にすると、某M社が圧倒的多数となる(爆) 買ったはいいものの満足度が低いなあ、ということはちょっと前から認識していて、それが故にここ数年買ってないメーカーだ。値段の高騰も激しいしね。同じくお値段がヤバくなってきたGM完成品もやはり同様に満足度がやや低めなんだけど、そちらは母数が小さいからね!
 もう一つの有力手段が「一つのケースに収容できる車両数を増やす」である。昔からちょっとはやっていたことだが、最近はあまり頓着してなかった部分である。今回改めて、圧縮できる部分は極力圧縮していこうと思う。そのためにこれまでの拘りもある程度は捨てる覚悟だ。その拘りは「車両を立てて収納しない」こと。サードパーティーから出ているブック型ケース用の中敷きには、車両を立てて入れるようになっているものがある。横向きに入れると8両か9両が限界のところ、縦向きにすれば最大12両が入るようになる(20m級車両の場合)。その分中敷きの仕切りが薄くなり、車両の保護性が落ちるのが心配だ。しかし幸いにして私は、例えばレンタルレイアウトへ車両を持って出掛けるなんて機会がほぼない。模型遊びは家の中で完結しているので保管性だけを考えれば良く、仕切りの薄さは許容できる。もう一つ気にしていたのが、「縦」という向き。横向きであれば、模型を飾ったり走らせる際と同じ状態であるため、保管時でも無理な力が掛かっているとは考えにくい。ところが縦向きにすると車両の自重が妻面にかかり、強度的に大丈夫なのか?という心配が発生する。ただ、プラスチック製のNゲージに限れは重量はそこまでのものでもなく、妻面に壊れやすいパーツが付いていることも稀である。自重で傷むことを心配するのは過剰な心配かもしれない。それに横向き収納の場合、仕切りがたわんで下に入れた車両に上の車両の重みがある程度かかってしまう。縦収納の場合は上下間の仕切りが短く、たわんで上の重みが下にかかることがほとんど考えられない。もしかすると却っていい保管方法なのかもしれない。
 縦収納については、完成品メーカーで始めて採用したのがマイクロエースだったように記憶している。何系かは分からないが、横向きに8両、縦向きに1両がケースに入っていた車両セットがあったはず。トミックスやカトーはずっと横向きオンリーだったのだが、どちらの会社も「増結セットを基本セットに収納する場合」にのみ縦に収納するスペースを設け始めた。それでもやはり縦入れは美しくないと考えているのか、カトーは去年発売した「683系4000番台」で、リニューアル編成の基本セットのケースに増結セットを収納する場合の縦位置を用意していたが、フル編成9両セット売りとなる旧塗装に関しては2ケースをワンパッケージとして全車を横向き収納にしていた。
 放出と収納による圧縮でどれだけ“寿命”が伸ばせるか。基本的に私は一度手に入れたものを売りに出すというのが好きでなく(後々売ったことを悔やみそうだから)、前者は極力数を抑えたい。そんなわけで圧縮にかかっているわけだが、圧縮とてそんなに万能な方法ではない。全ての拘りを捨て去るのであれば、最も数多く収容できる中敷きを買って来て、端から順に目いっぱい詰めて行けばかなり棚が空くことになる。ただしその場合、一つの箱に複数種類の車両が混じり、編成が分割されて収納される場合も出てくる。美学云々の前のレベルで、整理整頓の面で大いにマイナス。従って、フル編成が3〜4両の車両セットは空きがあってもそのままにせざるを得ない。それから16両の新幹線もこれ以上どうしようもない(そもそも車体長の都合で1ケースに9両以上入れることも困難だ)。基本セットと増結セットで2ケースに分かれていてかつ9〜12両ぐらいの編成がターゲットになる。その数は……少なくはないがあまり多くもないか。気持ち的にはあまりやりたくないのだが、2編成持っている153系と117系の新快速を1ケースにまとめることも視野に入れなくてはならない。
 あと、重要なのが新しく買う模型の吟味だ。私の場合、新しく買わなくても毎年キットを組んで増えて行くので、完成品を買わずとも収納スペースがちょっとずつ圧迫されていく、という至極当然な現象を考慮に入れておかなくてはいけない。現時点でも、新製品発表を見て衝動的に「欲しい!」と思っても、予約を入れる前に「それ本当に欲しいやつか?」としっかり考えることにしている。結果まあそれなりに減らせているのだが、しかし一方で発売後ぐらいのタイミングで「やっぱり欲しいなあ」と買っている車両もあるので、本当に減っているのかどうか疑わしい部分もある。そもそも論で、メーカーの新製品発表を見て欲しくなるのが間違いではないか。「〇〇の模型が出るから欲しい」ではなく、「〇〇の模型が欲しいので製品化が発表されたら嬉しい」という姿勢で待つのが本来ではないだろうか。言ってみれば、釣り糸を垂らしておいて食い付いたら引き上げるのが王道。水面を覗き込んで、泳いでいる魚をタモですくい上げに行くコレクショニングは美しくない。ということで、「これが出たら買おう!」という車両のリストを作ってみたのだが……結構多かった! 詳しく書かないけど、全部製品化されて全部買ったとしたら今度こそ本当に棚が満杯になりそう。つまり、もう余分な物を買ってる余裕はない、ということだ。今後、物欲を刺激してくるメーカーにどれだけ打ち勝つことができるか。これまでも熾烈だった戦いがより激しさを増していく!

(2023.05.22)
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