『月華』
フィルム写真を掘り起こす その1
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 満月を背景にした、まだつぼみが膨らむ前の梅の写真。不確かなメモだが、2002年(平成14年)2月に撮影したらしい。“カメラの教科書”的なものによると、月や太陽がフィルムに写る大きさはだいたい「レンズの焦点距離÷100」ぐらいになるという。当時の私は、これに真っ向対抗すべくこの写真を撮影した。模範解答としては「÷100」が正しいのだろう。しかし常識に捉われていては写真家失格――と鼻息荒く自分の思い付きを実行に移した。ピントを合わせれば小さくしか写らない月や太陽でも、大きくボカせばこの通り「レンズの焦点距離÷100」をはるかに上回る大きさで写せるのである。撮影したレンズは300mm、“本来”なら3mmのところその5倍程度の大きさでフィルム上に記録されている。ボカした状態で勝負するのは反則かもしれないが、ピントを合わせるだけが写真ではない。少しでも大きくボカすため、梅の枝がレンズの最短撮影距離に来るようにカメラをセットし、絞りも開放のF2.8にした。
 もう一つ「技」を使っている。タングステンフィルムというやや特殊なポジフィルムを用い、青みがかった雰囲気にした。デジタルの今ならホワイトバランスを変えるだけ、あるいは撮影後にRAW編集してもいい。便利になったものだ。撮影時、カメラの露出計は全くアテにならず、フィルムであるが故に撮影結果もその場で確認できない。当然ライブビューという便利なものもない。勘を頼りに少しずつ露光時間を変えて撮影し、36枚撮りフィルム1本をこの1枚のために費やした。
 基本的に私は自分の作品に名前を付けないのだが、気が向いたものや自然に浮かんできたものには作品名がある。この1枚が記憶にある中で最初の例外で、かつて自分が使っていたハンドルネームの一部を取って『月華』としている。当時一番のお気に入りだったのだ。

(2023.02.21)
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