深宴 第9.1話
著者.ナーグル
ポチャポチャ、シトシト、トトトトッ。 間延びしたリズム、きついスタッカート、予想がつかないランダム。色々なリズムの音がする。 (い、痛い…。寒い…。なに、が、どうして…?) 目を開けて最初に思ったことは、とても寒くて頭が痛いと言うことだった。カーボンフレームの眼鏡でさえ重いと思うくらいこめかみが激しく痛む。 「はぁ、はぁ、はぁ…。なに、ここ」 たがで締め付けられたような痛みに目眩を覚えつつマユミは周囲を見渡した。マユミが寝ていた場所のほぼ真上に、ほとんど線が切れてはいたが生きている蛍光灯が2本、点滅しながら室内を照らしている。カゲロウの命のように弱々しい光。 どこかの廃工場か倉庫なのだろう。とても広いが寒々しい場所で、セメントで固めた床が冷たい。地上にあった頃の名残か、薄汚れた椅子やテーブル、ソファーが転がっており、ボロボロになった旋盤やボール盤などが放置されている。 そこら中で音がし、光を反射して煌めく物が落ちているのが見える。雨漏りだ。だから周囲で自然のドラミングが行われているのだろう。 雨漏り…この地下世界でも雨が降る。おそらく、地上で雨が降るとしみ込んだ雨水は土を抜け、装甲版の隙間を抜けて、この地か世界に降り注ぐのだ。そしてこの廃墟は装甲の継ぎ目の真下にあって、まとめて水をかぶせられている。 そういえば、あの地下鉄に乗った夜の翌日は、午後から強い雨が降ると予報されていた。 (…だとすると、わたし、どれくらい意識を無くしていたの?) 腕をついて上体を起こすと、肩に掛かっていた毛布がずり落ちた。艶めかしい肩を擦る繊維の感覚にマユミは戸惑った。かびくさいが真新しい毛布が全裸の自分の上にかぶせてある。凍えさせないための用心なのだろうか。 この異常な空間で、マユミを助けてくれそうな心当たりはほとんどない。 アスカ、レイ、マナ…。だが彼女たちではない。もし彼女達なら、凍えそうに寒いところに全裸のマユミを一人でほったらかしにしてはいまい。 (じゃあ、誰が…?) 疑問はあるが寒さに震えて混乱したマユミはまともに物を考えられないでいる。今は何よりも、渇いた喉を潤す水が欲しい。止まらない寒さと喉の渇きに苛立ちを覚えながら周囲を見渡した。 「あ、水…」 少し離れたところに、雨漏りの水を受け止めているへこみだらけのアルミの鍋があった。一見、透き通っているがどんな菌がいるかわからない不潔な水。 だがそうとわかっていても、躊躇うことなくマユミは鍋を取ると口に付けた。一瞬、飲んだら体を壊す…と押しとどめる理性の声があったが、それよりも水に対する欲求の方が強かった。震える腕で鍋を傾ける。あふれかえった水が口元を濡らし、首を伝って胸を濡らすが構うことなくがぶがぶと飲み干していく。 「うぐっ…うぐっ…んぐっ、ごくっ。ん……ん、ぐぶっ!」 ほとんど空になった鍋を投げ捨てると、体を二つに折ってむせ咳き込むマユミ。急激に内側を冷やされた体が痙攣し、胃がでんぐり返っている。 「げはっ、ごふっ、う………うげぇぇ。おぅ、げぇぇぇ。うおぇぇぇ。げぇぇぇ、げぇぇ…うっ、おぐぅ……」 四つん這いになって体を痙攣させ、飲んだ以上にマユミは吐き戻した。先程飲んだ雨水は勿論、それより前に飲まされた大量の粘液や精液もなにもかも。 胃液と精液が入り交じった得も言われぬえぐみが喉を焦がす。胃液と共に吐き出された精液は耳たぶほどの硬さのゼリー状に固まっていて、黄色がかったヘドと一緒に床に刻まれた溝をに沿ってどこかに流れていった。 「ごふっ、げふ、げふ、げふっ。うぐっ、うっ、うっ、うううっ。う、あうぅ。うっ、うっ、うっ、うっ。 ………ゆめ、じゃ…なかった…」 吐瀉物に混じった精液ゼリーを見た時、マユミは意識を失う前にあった出来事を思い出した。 地下鉄のこと、怪物を産んだ妊婦とその死、アスカとの再会、そしてアスカの消失。 蛞蝓のような怪物に襲われたこと、そして為す術もなく犯され、何度も何度も膣内に射精されて、ついには精液に溺れる喜びに体を震わせ、意識を失ったこと…。 「違う、あんなの私じゃない。私じゃないもの…。違う、もの」 (あんな、あんなの、本当の私じゃない!) 夢遊病者のような焦点を結ばない目をして立ち上がると、ふらふらとマユミは周囲を徘徊する。一度意識するともう我慢が出来ない。体に張り付く怪物の体液の痕、股間に感じる違和感、引きつる髪の毛の感覚…。ふと、見下ろすと太股から爪先まで薄茶色い汚れがこびりついていた。 一瞬、血かと思ったがすぐに正体がわかった。意識を失ってる間に大も小もまとめて漏らしてしまったのだ。この場所に運ばれてくる途中で漏らしたのだろうが、それでも小便と水状になった便の悪臭が雲となって周囲に漂っていた。 「洗わなきゃ、洗わないと…臭いが染みついちゃう。取れなくなっちゃう」 鍋のあったところから少し離れたところに、なぜかピンク色をしたバスタブが置いてあった。どこかの廃墟から持ってきた物なのだろうが、中には一面うす緑色の苔と黴が生えていて縁ギリギリにまで水が溜まっている。そして、バスタブの脇にはビニールの包装に入ったままで封を切ってないポリエチレンの垢擦りと、何年も前に生産停止しているシャンプーのボトルが置いてあった。誰かがわざわざ用意したみたいに。 「洗わなきゃ…洗わなきゃ…」 不自然さに意識を向ける余裕もないのか、憑かれた目でブツブツと呟きながら、マユミは鍋を洗面器代わりに水をくみ上げて頭からかぶる。身を切るような冷たい水に一瞬身震いするが、なおもマユミは水をかぶる。眼鏡をかけたまま大量にシャンプーの中身をぶちまけ、がむしゃらに髪をかきむしった。 「ううっ、ううううっ、うっ、うっ、ううっ」 痛々しいほど赤くなっても強く何度も垢擦りで体中を擦る。 「とれない、とれない…。洗わないと、汚れが、取れないわ…。汚れたままだと、シンジさん、私のこと、嫌いに、なっちゃう。いや、いやいやいやっ。やっと、やっと……私のこと、必要としてくれる人が見つかったのに。捨てられるのは、裏切られるのは嫌…。 また、誰も私のこと必要としてくれなくなっちゃう。そんなの、そんなこと、死んでも嫌…」 泣きじゃくりながら、なんどもなんども体を擦り水をかぶる。皮が破け肉が削げ、骨だけにしてしまうことも厭わない。 その狂乱も、バスタブの中の水がほとんど無くなるまで使い切った頃、力尽きたのかようやく落ち着きを取り戻した。 裸の胸を隠すこともせず力なく座り込んだままピクリとも動かない。ぶつぶつと繰り言を呟き、真っ赤に腫らした目で虚空を見つめている。瞳にはただ暗い闇だけが映りこんでいる。明らかに、狂気の入り口に足をかけている状態だった。 「捨てないで、捨てないで、捨てないで、捨てない…え?」 肩に触れる柔らかい物の気配にマユミの瞳に焦点が戻り、意識が覚醒した。崖っぷちにいた意識が正気の世界に引き戻される。 肩に続いて背中に触れる柔らかな布の感触。微かに黴と埃の臭いがするが、乾いたバスタオルは体についた水滴を吸い取り、冷えきった体に温もりを思い出させる。思いがけない出来事に硬直している間に、更に、1枚、2枚とタオルがマユミに掛けられる。 「だ、だれ…。誰なの?」 慌てて振り返り、何者かの姿を求めて周囲を見渡すが、既に何者も存在していなかった。ただ、乾いたベーコンのようなにおいが残り、闇のカーテンが微かに揺らいでいるような気がする。 (誰か、いる。この、暗闇の奥の、どこかに…誰か。それとも、何かが…いる) アスカ達ではない。それはわかっている。一度意識すると、勘の良いマユミにはそれの視線を感じ取ることが出来た。正体がわからない何かの視線が、じっと、さほど遠くないところからマユミを見つめている。 他人の目の存在に羞恥を覚え、裸であることに心細さを感じる。大きく、だが短く体を震わせると、マユミはタオルを体に巻き付け、端を強く押さえた。 ドキリと大きく心臓が脈打ち、恐怖と不安にマユミは脅えた。 でも正体不明の誰かは、少なくとも、敵………じゃない気がする。かつて痴漢に襲われる寸前に感じた、背筋に張り付く汗のような不快感と露骨な悪意は…感じられないから。 (でも、なんで隠れてるの? こっちから、会いに行った方が良いのかしら。でも、裸のままじゃ) ふと気がつくと、すぐ横に転がされていたソファーの上に、たくさんの布きれが置いてあることに気がついた。文字通り、用途も何もかもがバラバラ。いずれもビニールの包装に入ったままで、幼児用の衣服があるかと思えば、お徳用雑巾、トランクス、タオル、ブラウス、カーペットの一部、足拭きマット、枕カバーなんてものまである。 どこかの衣料倉庫から、でたらめに集めてきたとしか思えない選択だ。 (これを、着ろ…ってことなのかしら? でも、サイズが合いそうなのは…) ともあれ、裸のままでは何も出来ないのは間違いない。適当な物を見繕うしかなさそうだ。最悪の記憶を強引に飲み込むと、マユミは衣服の山を掻き分けた。なんとか着られそうなのは、サイズが合ってるとは言えない男性用のワイシャツくらいだ。 (これしか着るものないのね) 謎の人物の気配に注意を向けながら、急いでワイシャツを羽織り、第1ボタン以外のボタンを留めて長すぎる袖をまくる。最後に髪の毛をかき上げて背中に流した。 裸にワイシャツだけというのは気のせいか全裸でいる時より恥ずかしい格好な気もするが、裸でないという事実に多少は気が楽になる。覚悟を決めたマユミは大きく息を吸って、そして、吐き出した。 風がすり抜ける感触に戸惑いながらマユミは闇を見つめた。 (あそこで見ている…) 暗闇の中で動いているのを感じる。マユミがすることにいちいち反応している。あの怪物ではない…根拠無くそう考えると、眼鏡の下の瞳に少しだけ光が強くなる。もしかしたら、他に捕まったけど逃げ出した人とかがいたのかも知れない。 「誰、誰なの?」 おずおずと尋ね、足を引きずりながら影の方に近寄るマユミだったが、思わぬ一言に彼女の歩みは止まった。 『ま………まゆ、まゆみ?』 うなじはおろか頭頂部の毛まで逆立たせ、マユミは顔を引きつらせた。瞬きを忘れた瞳は凍り付き、緩く開いた口元から歯がカチカチとぶつかる音が響く。 「な…ぜ……」 私の名前を知っているの? 『あううう……まゆ、まゆみ…。まゆみ、だあぁ。あい、あいいぃ。まゆみ、まゆみ』 なんで、覚えのある声をしているの? 『ううう、ああ、おおおぉぉぉ。まゆみ、なんでぇ』 よろめく彼女の眼前に、闇の奥からのそりと白い影が姿を現した。空気がかき乱され、動物園に似た臭いがうっすらと漂ってくる。両手で口元を押さえ、瘧のようにマユミは体を震わせた。動きを止めたマユミに、ゆっくりと怪物が手を伸ばしてくる。 『まゆみ、まゆみぃ。マユミ、マユミぃ…』 色素を失った白い肌。猿のように体に比べると長い腕、血に染まりし紅き瞳、欠け落ちた鼻、口を開けるたびに見える歯は黄ばみ、所々抜け落ちている。腹は地獄に住む餓鬼のようにぽっこりと膨れあがり、腹以外の全てがほっそりとしているが、強靱な筋肉を持っていることがわかった。 貧相な体をどこかな病院跡地ででも拾ってきたのか、丈の合ってない白衣を纏っていた。その所為だろうか、どう見ても他の怪物と同じなのに、どこか理性的に感じられるのは。 『あああ、マユミ、か、かわい、そう…。かわいそうだ、よぉ…』 姿を現した怪物は、恐ろしいことにマユミの名前を呼びながらわんわんと泣きじゃくっている。涙を拭おうと顔を擦ろうとするが、体中にあるデコボコした瘤の所為でなかなか上手くいっていない。皮膚の下であり得ない形に骨が変形しているのだろう、体中瘤だらけ、所々は角になって皮膚まで突き破っていて苦しんでいる。 『い、いたい、いたいいぃ。マユミ、くる、くるしい。いたい…よぉぉ』 変形による痛みだけでなく、文字通り体が焼ける痛みに悶えている。体中の至る所が焼けこげ、ケロイド状になっているのは『脳』から強力な胃液を吐きかけられたから。 よろよろとよろめき、怪物はソファーベッドの上に倒れ込んだ。 焼けた白衣の隙間から、酸の火傷とは違う特徴的な痣がマユミには見えた。10歳になるまで、一緒にお風呂に入っていたから、だからよく覚えている。搾ったように大量の汗が流れ、濡れたワイシャツが素肌に張り付いて素肌が透ける。 「や、やっぱり、でも、そんな、まさか」 『うう、マユミ、あいたか』 「お、お父…さま」 体中から血を滲ませた異形の怪物は、クゥ、クゥと子犬のような声で啜り泣いた。化膿した傷口から悪臭を臭わせ、ソファーに手をつき、苦痛にブルブルと震えながら哀れっぽくマユミを見つめている。頭のてっぺんから、爪先まで舐めるように輪郭をなぞりながら。 『ああ、いたいぃ。く、くるしい、よぉ。たすけ、て、たすけて。マユミ』 「ああ、酷い…。どうしてこんなことに…。なにが、なにがあったんですか?」 あまりの悲しさ、苦しさに涙が止まらない。数年前に蒸発し消息の知れなかった父親の変わり果てた姿は、恐ろしいと言うよりも惨めだった。 変わり果てた父の姿は、考えることを意図的にやめていたことを意識させる。 アスカも考えるなと言葉ではなく背中で言っていた。 だからマユミも考えなかった。自分たちをさらった怪物達の大半は、初めから怪物だったのではなく、名前のある誰かが変わってしまったんじゃないかと言うことを。 だけど、今はもう…。 「苦しいんですか? どこか、痛いんですか?」 半分条件反射で状態を尋ねながらマユミは怪物に近寄った。彼の前身を知ってしまった以上、マユミにとって彼は怪物ではなくなったから。そう、彼は重い病に犯され、変わってしまった哀れな患者なのだ…。元とはいえ看護婦だったマユミには、救いを求める者を見捨てることは出来ない。 たとえ人食いの怪物に変じていたとしても…。 『たすけてぇ。いたいぃ、いたいぃ…。ほね、ううう。かわい、そぅ…。かわいそうだ、よぉ。 あああぁあぁぁぁぁああおあああ』 幼児のように泣きじゃくった父親が助けを求めて手を伸ばすと、一瞬の躊躇いの後マユミも手を伸ばした。 マユミの涙でぼやけた瞳には、体中疥癬や化膿した傷だらけの父の姿は、如何にも哀れで弱々しく見える。 (お父さま、お父さま、ああ…今まで、どんな生活を) あまりに悲惨な姿にマユミは更に一歩近寄った。本能ではわかっている。脳裏のアスカやレイ達が油断するな、不用意に近寄ったらダメ、と叫んでいる。でも、目の前の怪物が父親だとわかってしまった以上、最低限の警戒心さえも無くしてしまった。 手を伸ばせば触れあえる程近くに駆け寄ると、涙声で励ました。 『うう、いたぁ…いたぁ……。いた、いたい、くるしい』 「どうすれば、どうして欲しいんですか? なにか私に出来ることは、きゃああっ!」 突然、ゴツゴツと骨張った腕がマユミの腕を握りしめると、乱暴に体ごと引き寄せ、正面から向き合った格好で抱きすくめた。胸がぎゅっと押しつけられて痛みを覚えたが、間近で見る父親の顔にマユミは言いかけた抗議の言葉を飲み込んだ。 赤い瞳、蒼白の皮膚、骨が皮膚を突き破った頬、まばらな無精髭、薄くなった唇など、人間らしさを無くしていたけれど、間違いなく記憶に残る父の面影があった。 「お、お父さま…?」 しばし見つめ合っている2人だったが、やおら怪物は顔ごと目を背けると、マユミの肩を掴んでぐるりと一回転させた。 意図をつかめずマユミは戸惑うが、怪物と化した父親だったよくわかってはいないだろう。もしかしたら、彼に残った人間として最後の心なのかもしれない。たとえどんなに相手のことを思っていても、正面から相手のことを見ていられない後ろ向きな性格の発露。 「お、お父さま……なにを。……あっ」 背後から覆い被さるように抱きつくと、やせ細った指先が豊かな双丘の表面を撫でさすった。ワイシャツを引っ掻くシュリシュリという音と、衣服の上から指が這いずる感触にマユミは体をすくませた。柔肌を蟻が這いずるような怖気に震えながら振り返ると、肩越しに胸の谷間を食い入るように覗き込む父親の顔があった。暗く深い胸の谷間に今にも飛び込みそうな飢えた目がランランと輝く。 全身を引き裂く苦痛に涙を流しながらも、父は欲望に口元を歪めていた。 「お、お父さま…なに、その目は…。どこを、見てるの? やめ、ああっ。あ…。なんで、こんな……こと」 不躾な視線にマユミは震え声で抗議するが、怪物は視線を反らそうとすらしない。それどころか、何度も何度も娘の成長を確かめるように怪物の指先が乳房を愛撫を繰り返した。ぎゅ、ぎゅっと衣擦れの音をさせながら、形と大きさを堪能するように揉みしだき、薄布の上から指を這わせて湧き疼く刺激でマユミを小さく啼かせる。 「ひっ、ひぃっ。ひっ…いっ。お、お父さま…。やめて、こんな……こと。だ、ダメです」 ビクビクと背中を震わせながら困惑した顔をするマユミ。 こんな、情け容赦のない凌辱行為を父親がするはずがない。でも、胸の傷跡は間違いなく生き別れた父親だ。父親とは、娘を全身全霊で守り、慈しみ送り出す存在のはずなのに。 今自分を抱きしめているのは父親? それとも怪物? わからない。 『ああ、おおぉぉ。マユミ…やわら、か。あたた…かい。ひひひ、いいいぃ。きもち、いいぃ』 「あ、あう。そん、な。お父、さま…ああ。あう、くっ、くぅ。や、やめ、て。お願い、します。…だめ、触っちゃ。 ………あ。あぁ。あぁ、あぁ、あ、ああ」 『あおおぉぉ…。いたい、の。きえて、く。きもち、いい。マユミ、さわる、きもち、いい』 「気持ち、良いって、馬鹿なこと、あうぅ、こんなこと、してっ。お、親子…なのに。ああぁぁ。ダメぇ…」 愛娘が戸惑ってる間に指の間に硬くなった乳首を挟み込み、指を交互に上下させて乳首を転がし弄ぶ。敏感なマユミの胸の中でも、特に敏感な乳首をもみほぐされて、もじもじと太股を擦り合わせてマユミは体をくねらせた。 「は、はぅ…くぅぅ。お父さ…ま、く、苦しいんじゃ、ないんですか? それなのに、さ、触って…ばかり。あおぅ、うう、ああ、こ、擦らないで…ください。 うう、あ、あぁ。いやぁ、お父さま、正気に…戻って…」 艶やかな黒髪を振り乱し、喉元から込み上げる涎を飲み込んで必死になってそれ以上大きな声を出さないように堪える。本音を語れば、ワケのわからないことを喚いてしまいたいくらいなのに、それすらもできない内気なマユミ。 だが、性に弱いマユミの体はたちまち愛撫に反応し、全身に汗を浮かべ、舌先を震わせて喘ぎ声を漏らすのだった。 「ああぅぅ、はぅ…はっ、はっ、は、ああっ。…っ…ぁ……あ、ひっ………………あっ…あっ。 う、くっ。はぁ、はぁ、はぁ………あぁ。どうして、こんな、ああ…。 はぅぅ、だめ。触っちゃ……おっぱい、揉んじゃ……きゃぅぅ」 『ああ、きもち…いいぃ。ひいぃぃ、いいい、やわらか、ああ。おお、きい。いたくない、いたくなくなる、よぉ」 「ん、んんんぅ〜〜〜っ。うあっ」 物悲しくも色っぽい声で喘ぎ、呻き、マユミは必死になって父親の腕を押さえる。ともすれば意識を持って行かれそうなほど強烈な快楽から逃れようと、無意識のうちに爪を父の腕に突き立てるが、父親の愛撫はまるで収まる気配がない。 痛みを感じていないのか、それ以上にマユミの体に夢中なのか。舌先から涎をタラタラと溢し、憑かれたように怪物はマユミの胸を愛撫し続ける。 「あううぅぅ、はぅ、はぁ、はっ、はっ、ああっ。あぐぅぅぅ。 い、いき、苦し…い。はぁ、はぁ、はぁ」 早く忙しない呼吸に過呼吸状態に陥ったマユミは、ぐったりとしながらじわりと全身に広がっていく快楽に翻弄された。何を言っても、どんな抵抗をしても無駄だ…父親が満足するまでこの拷問が終わることはない。諦めと共にマユミは眼鏡の下の瞳を閉じた。 (だめだわ、お父さま、何を言っても聞いてくれそうにない。それなら、それならいっそ、早く終わらせて…) 苦痛混じりの、まともな呼吸と鼓動が出来なくなるほどの刺激だが、まだこのくらいなら耐えられる。 痛みを覚える程強く、奥歯を噛みしめて呼吸を止めれば、しばらくは耐えられる。それよりも、マユミは互いにほとんど全裸という姿で父親に胸を愛撫されているという異常な状況に、気が狂いそうな焦燥感を感じていた。 「あ、あうぅ。…………くはっ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。はぅ、はっ、はあぁぁぁ…。 うぅっ、も、揉むと、触ってると…痛く、無くなるの? う、ううっ」 (ずっと、何も出来なかったから。何一つ、恩を返すことも出来なかった。だから、だから…) 「はぅぅ。き、気持ち…良いんですか? ああ、お、お父、さ、ま…。私の、体を触ると…ひゃぅ、ん、くぅ」 諦めはいつしか受容に転化していく。どうせ抵抗したって無駄だから、父親がそれを望むのなら…と、甘んじてマユミは父親の愛撫を受け入れた。 「は、ぐぅぅ…っ」 受け入れた瞬間、数倍増しになった快楽が背骨から脳まで突き抜ける。 甘がゆい疼きに芯から痺れた。 美女の嬌声が切々と響く。砂糖菓子より蜂蜜よりも甘くとろけた表情で、マユミは大きく首を仰け反らせた。咽せる程濃い淫靡な気配が、寒々とした廃墟内に充ち満ちていく。 「はうぅぅ、あうぅぅ、あう、あっ、あん、あ、ああっ。 ひ……ひぅぅ、ぐぁ、あああぁぁ、なん、でっ。どうして…。 こんな激しい…よ。耐えられ、ない…わ。ああ、た、耐えられ…ない、です、お、お父さま。ふわふわ、してく…っ」 『いい、いい、いい? マユミ、いい? さわっ、も、もと。さわ、やさし。さわっる。さわ』 「あうううぅ…。お父さま、お父さま…。はぁ。はっ、はっ、はっ、はぁ、はぁ、はぁ、はっ、はぅ。 も、もっと…お父さま、触るだけ、なら…。あぅ。ああ、あはぁ」 言った直後、羞恥にマユミは全身を紅潮させた。 (わ、わたし、何を…言って。でも、でも) こんな事を言うなんていくらなんでも普通ではない。本心のはずがない、衝動的に喉を突いて出ただけ…の、はず。極限状況に置かれ、怪物とはいえ身内に出会ったことで緊張の糸が切れてしまった。 (そうよ。本心のはずが…ない。ああ、でも…) マユミの許可があったからと言うわけではないだろうが、怪物の愛撫から遠慮が無くなった。ぎゅっと強く抱きしめ、より体を密着させる。身をすくませるマユミの乳房を、下から手の平ですくい上げるようにして持ち上げ、弾力を利用してゆさゆさと揉みしだく。柔らかでありながらほどよい弾力をもったマユミの胸は、下賤な指で変形させられるたびに、蹂躙から逃れようとブルブルと揺れる。 「くぅぅ、やっ、あぐ、ひぁぁぁっ。お父さま、お父さまっ、ひぅぅ、ああ、あ」 あまりに激しい動きにワイシャツを留めていたボタンが耐えきれずにはじけ飛び、綺麗な稜線を描く豊かな乳房が剥き出しになる。まろび出た豊満な乳房がより大胆に揺れ弾んだ。 『おおう、おう、おおう! さわっ、もっと、さわ、る!』 「ああん。こんな、激しく…」 こんなに激しい、痛いくらいの愛撫は生まれて初めてだ。頬を赤く染め、断続的な喘ぎを漏らすマユミはこんなにも自分の胸は柔らかく、形を変えるとは思いも寄らなかった。 (こんなに、こんなに胸が気持ちいいだなんて…、ああ、死にそうなくらい、気持ちいい…) これが本当の愛撫なのかもしれない。シンジのも激しかったが労うような愛撫で、どこか物足りなさがあった。脳の愛撫は、人外の器官で無理矢理官能をほじくり出そうとする化学反応のような愛撫だった。だけど、今の愛撫はマユミの限界をきちんと見定めた上で、的確な刺激で悶え狂わせてくる…。 ちゅぶっ 『ひぃ、ひぃぃ。ああ、マユミ…いい、いいにおいだぁ…』 「あ、く、うぅぅ。……………ああ。やぁぁぁぁ……んんっ。 首、首は、だめ、です。……そ、そんなに、いじめないでぇ」 首を仰け反らせて喘ぐマユミの首筋に、怪物は音を立てて口を付けた。ちゃぷちゃぷと淫らな水音を立てて首筋とうなじを舌が舐め回すと、大量の涎が鎖骨の窪みに溜まり、溢れて胸元へと流れ落ちる。乳房に濡れて張り付くワイシャツの感触にマユミは体をすくませる。 「うっ…あううぅ。あ、ああ、ああ………………やぁぁぁ」 涎をローション代わりに塗りたくられ、無骨な指で思う様に揉みしだかれ、ぎゅっぎゅっ、ずちゅずちゅ、ぬちゅぬちゅと淫らな音をたてて乳房が形を変えていく。怪物は手に余るサイズのマユミの胸の中心に指を沿わせ、押しつぶすように上下から力を加える。指で押さえられた部分だけへこみ、その周辺はプクリと盛り上がった。 『ひ、ひぃ、ひぃ、ひひひぃ。やわら、やわらかぁ』 「ひゃ、ひゃぐぅぅ…。お、お父さま…」 柔らかなマユミの胸は、餡の詰まった餅のようにぐにゃりと形を変え、苦痛ギリギリの刺激にマユミはかすれ声を漏らした。 「い、いい、いいいいっ…。あああ、あん、そん、なっ。 …っ……あう…………………はぅ。胸が……あぁ、あぅ。溶け、る、溶けちゃう。 ……………はぅぅ。そんな、シンジ、さん、より、ひうっ。 …うっ、う、う。ああ、あ、あ、そんな、ああっ」 マユミの嬌声を楽しみつつ、そのまま指を前へと滑らせていく。指の通り過ぎたところは即座にぷくっと張りを取り戻していくが、指が触れているところは圧迫されたまま。徐々に指先が乳首に向かっていくことにマユミは戦慄した。 「あううぅ、ぅ、ひぃ…ああ………あ、はぁ。……くぅぅっ」 そしてとうとう、赤みを強めた両乳首を怪物の指が押しつぶすように転がしてくる。そのまま粘液で濡れた乳首を指先で押し出すように摘んでは転がし、摘んでは転がして、その度に強い刺激でマユミを狂わせた。 「ひぃっ、くぅぅ…うん、うん、うぁん…あん……あっ…あっ…あっ…。あっ…………あ、あ、あ、ああああっ」 受け入れなければ良かったかも…。ぞっとしながらそう後悔しても後の祭り。 父親からの愛撫によるアクメの高波に、マユミは翻弄されていた。淫虐の胸愛撫によってもたらされた快楽で、精神も肉体もねじ伏せられていく。今更、腕から逃れようと身をよじって足掻くが、父親の手は愛娘の身体を離さない。 「あう、あ、ああ、ふ、ふあぁ…。うぐぅぅぅ、いうぅぅぅ…!」 きつさに息も絶え絶えになってマユミは身をよじった。その度に形の良い胸乳が、骨張った指の中でグニグニと形を変えてこね回される。 「あう、ああ、いやぁ。………あ、ああぁ。だめ、だめ、だめ………。お、とうさま、あ。…あ、ああぁぁぁ」 …溜息のような息を吐き、目を見開いたマユミは、足を真っ直ぐに伸ばして突っ張らせ、爪先から太股まで小刻みに痙攣させた。痙攣するように震えるマユミを逃すまいと、強く怪物は抱きしめる。 逃れようのない父親の抱擁の中で、およそ10秒の痙攣の後…。 「は、はぅ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…。ああ、あ、わたし…」 ぐったりと全身を弛緩させると、ハァハァと肩で荒い息を吐きながらマユミは羞恥に顔を歪ませた。ジンジンと焼けるような感覚に胸全体が疼かせ、指の隙間から粘液で濡れ光る乳首が屹立するのを、他人事みたいにマユミは見つめた。 (い、イっちゃった…) 『いひひいひぃひぃ、いい、にお。マユミ、きれぇ』 視線をさらに下げてもう一つのもどかしい疼きの中心をマユミは見つめた。体に鳥肌が立つ程大量の汗を滲ませ、跨らされていた父の太股にぬるりとした愛液を小水のように漏らしている。腰を動かすたびに、小さくニチャ…と音を立てる淫裂と、僅かに顔を覗かせる真珠のようなクリトリスがうずいた。 (クリトリス…おっきく、なってる。お漏らしもしてる。わたし、お父さまに、触られて、イっちゃうだなんて。なんて、はしたないの…) 慕っていた父親にコンプレックスを持つ胸を愛撫され、そのままアクメに達してしまう。それは脳に強姦された時以上に、マユミの精神に負担をかけさせていた。 「ふぅ、はぁ、ふぅ、はぁ、ふぅ…。うううぅ、うぐ。……うっ、うっ、うっ、うっ、うっ、ううっ。 こんなの、酷い、酷すぎる…酷いわ」 泣き出すマユミにどうすればいいのかわからないのか、おろおろしながら怪物はマユミの髪の毛を撫でる。慰めているつもりだったのかも知れないが、その行為はさらにマユミを追いつめていく。長く癖毛一つ無い黒髪は、触っているだけで官能的な快楽をもたらすのだ。 「くっ、う、うう」 (や、だぁ。髪、触っちゃ…力が、抜けちゃう) 『おううぅ。まゆ、マユミぃ…。ああ。やさしく、やさし』 マユミは解放して欲しいと願っていたが、子の心親知らずとはこのことか、彼には開放の気配は微塵も見られない。尤も、自分が絶頂を迎えるまで触らせていれば、父親が満足すると根拠なく思っていたのはマユミなのだが…。 娘の思惑とは裏腹に、怪物の父は耳元で甘い言葉を囁き、赤く染まった耳たぶをペロペロと音を立てて舐めしゃぶりながら、臍をなぞり、脇腹をくすぐりながら股間の濡れた茂みへと右手を伸ばしていく。 「あう、だめ。お父さま、そこは……変に、なっちゃう…。ううぅ、ダメなのに、感じちゃ、ダメなのに、も、もう、だめっ」 『ひっ、ううぅぅ。マユミぃ…いたいぃ』 マユミの抗議の言葉はあっけなくねじ伏せられた。遠慮無く父親の指先は濡れた茂みを掻き分け、淫唇に指を這わせ、小指の先程のクリトリスを人差し指でつつき回す。父親に愛撫されている事実に倒錯的な思いを抱き、マユミは長く尾を引く哀切な喘ぎを漏らし、下半身を大きく震わせる。 「ああ………あっ、あぁ。やめ、ああ……うう、おねが、触らないでって、言った、のに。…はぅぅぅ」 硬く勃起したクリトリスを指でつままれ、コロコロと転がされる快感はマユミの意識は一瞬途切れさせた。意識を回復させた後、官能の喜びに身を震わせて咎めるような抗議を漏らすマユミ。 しかし明らかに目と声音は怒っているが、どこか甘ったるい。 「うう、うぅぅ。ひぃっ……いい、ううぅ。……ん、んんぅぅ」 『んんぅぅ、マユミ、ひぃひぃ、きもち、いい』 左手は胸を搾るように揉み、右手は中指を器用に動かし、淫裂の中に差し込んでかき混ぜてくる。そして舌と唇で首筋を責めたててくる。 「あうぅ、うん、うぁっ。中、ダメ。 …変、変よぉ。ああ、おああぁぁ…はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はっ、はっ、はっ、あああぅ。 んんっ、…っ……はぅ。は………はぁ、はぁ。ああぁぁぁ…」 『じゅぶ、うぶ、ちゅぶ、ぶあぁ、マユミ、いい、おい…おい、ひぃぃ。まゆ、おいしぃ』 「あううぅ、お、お願い、せめて、もっと優しく、してぇ…」 途切れ途切れにそれだけ呟くと、マユミは肩を大きく上下させ、熱を帯びた吐息を漏らした。 涙で滲んだ瞳で振り返ると父親が苦しんでいる姿を直視した。つい今し方、獣の所行をしたとはとても思えない程哀れっぽく泣きじゃくり、変形の痛みと狂気に苦しんでいる。父親の苦痛を感じ取り、マユミは苦しみに呻いた。 父親…愛し、尊敬する父親…。 4歳の時、孤児になった自分を引き取って育ててくれた。 自分という普通ではない女の子を相手に、必死になって父親になろうとした。そして幸せの門出に送り出そうとしてその為だけに人生を生きてきた。 転校が多いことに悩んでいる彼女のため転職し、そして彼女のために大金を残してやろうと無理をした結果破産し、失意の内に姿を消してしまった。 自分の所為だ。ずっと悔やんでいた。転校したくないって言わなければ、父親は転職することもなく落伍者になることもなかった…。 (ずっと、ずっとお礼を言いたかった。私のために、自分の人生も夢も何もかも犠牲にして…。私は何も出来なかった。なにか、少しでも娘らしいことをして上げたかった…) だから…触るくらいなら。それで痛みを忘れられるならいくらでも触ってかまわない。 私のことを、必要としてくれるなら、守ってくれるのなら。 『いたい、いたいぃ…だから、マユミ、さわら、せ。かわいそ、だ』 「ううぅ、ああ……お父さま…」 マユミの抵抗がないのを良いことに、大胆に指を二本差し入れてかき回してくる。襞をこそぐられ、愛液まみれのクリトリスを指でもみほぐされる強烈な刺激に、マユミは折れそうなくらいに背筋を仰け反らせた。天を仰いで啼くマユミの口から甘やかで蠱惑的な嬌声が漏れる。 「あうぅ…。ひっ、あひっ、ひぁ、はぁ、はぁ。……あ、ううぅ。はぁ、ああ。ああ、う。………はっ、ああぁぁぁっ。きゃう、ひゃうっ」 快楽の余りマユミは涙さえ流して余韻に全身を震わせる。絶頂に達したことで匂うような色気を放ち濡れ咲く一輪の華となった。 マユミはうっすらと濁った愛液を股間から迸らせ、内股と太股を淫らに濡れ光っている。 ぐったりとしたマユミの耳元に、甘える幼児のような馴れ馴れしさで怪物は饒舌に囁いた。 『いい、いい、かわ、い…マユミ、かわい。だいす、き。だぁ』 他の怪物に比べて明らかに高い知能は、彼だけの特質なのか、それとも久しぶりに人の言葉を使ったことで一時的に脳の言語野が活性化したのか。 ともかく、少なくともとある一部はより激しく活性化しているようだ。性を司る部分は脳内物質を溢れんばかりに分泌し、怪物の瞳を不気味な蜘蛛の巣状に血走らせていた。 『おうぅ、マユミ、マユミ…。も、もっと……もっと。ほしい…よぉ!』 「え…。はぁ、はぁ、はぁ……これ以上は」 左足を膝裏から抱え上げられ、腰を浮かせられた時マユミは股間に触れてくる存在に気がついた。硬く熱を持っていながら、表面には柔らかくヌルリとしたものをまとわりつかせた棒状の器官だ。目にしなくても、明らかに人とは違う触覚に戸惑っていても、それがなにかマユミにはわかった。 (こ、これ…お、お父さんの。うそ、まさか) ちらりとホラー映画のショックシーンを見る気持ちで視線を下げる。直後、マユミは口元を引きつらせて呻き声を漏らした。 父の股間から生えているのは、普通の…少なくともシンジのとは似ても似つかぬグロテスクな器官だった。それが本当に生殖器官なのかどうか、マユミには確信が持てない。 (あ、ああぁぁ。うそ、なに、これ…) 太さと大きさはシンジよりも二回り大きい。だが、異様なのは大きさなどでは勿論無い。 生殖器は、一面にモズクのようなヌルヌルした突起物をはやしていたのだ。紫色の繊毛はざわざわと蠢きながら、ぬるぬるとした液体を滲ませている。まるでナマコか毛虫、あるいは蓑虫のような形状だ。そして、棒状部分の先端は僅かにめくれあがり、ピンク色をした女性器のような一部を露出させていた。 普通の人間の男性器だって、直視することが難しいくらいにグロテスクと思ってるのに、この生殖器はマユミの理解と限界を超えていた。淫欲にとろけつつあったマユミの淫唇に、それを味合わせようと押しつけてきている。 「あ、ああっ。だめ、それだけは、絶対に、だめっ! だって、だって私たち…」 本当の親子だから…。 初出2006/07/31 改訂2006/11/18
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