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「じゃあ、今日は口でしてもらおうか」
アイツがそう言った。
一瞬何のことかわからなかったが、あちこちで知った断片的な情報が言わんとする事をアタシに気づかせた。
「そ、そんなの、絶対嫌!!」
「嫌なんだ?」
「当たり前じゃない!無理矢理セックスされたけど、だからって……」
「あれだけよがっていたのに?お返ししてくれないんだ?」
「っ……ふ、ふざけない、で」
怒りの為?それとも羞恥のせいなのか。
アタシは顔に血が上り吃るのを制御できなかった。
アイツはそんな様子に肩をすくめると、戸棚から何か取り出した。
……轡、かしら?
どうも顎を覆うようなマスクみたいで……全部黒いラバー製の、ちょっとごつい造り。
その中央にはこれもごつい造りの……
「……栓?」
アタシには、それがどういう目的で付けられているのか、そもそもこれがどういうものなのかが理解できなかった。
その何かまがまがしく感じられる道具を手にに近づいてくるアイツから逃れようと身を捩る、けど、棒に括り付けられた両足の黒皮の枷が、後ろ手にアタシを縛る同じ手枷がアタシの行動を阻害する。
アタシの胴を締め付ける革のコルセットがきしきしと擦れあい音を立てた。
「さ、口を開けて」
「……」
もちろん歯を噛み締めてアイツを睨みつける。
一つ頷くと、アイツはアタシの鼻を摘み上げた。
「んん……っ!」
「無駄だよ……どうせ、口は開かなくちゃならなくなるんだから」
アタシは必死で抵抗した。
目の前がちらつき、酸欠で気絶しそうになるまで。
でもそうしたせいで、口を開けた時にその道具を突っ込まれ、固定されるのを防ぐ力が残らなかった。
「ふむぉ……んむ、んんんっ!!」
噛み締め閉じようとする歯が、金具にはばまれ開きっぱなしになる。
どうにか緩めようにも、がっちり固定されたこの頑丈な作りの轡はびくともしない。
と、アイツは中央のつまみを引っ張り
キュ……ポ
お風呂の栓を抜くようにして栓を引き抜いた。
「……!か、は……っ!」
その時理解した。
この道具の目的……アタシの口を、アタシの意に添わぬままに開きっぱなしにして、流し込まれるあらゆる物を受け入れさせる為の道具。
あまりの事に身を捩り抵抗する、道具に貶められた事に涙が滲む。
けど、アイツはそんなアタシを逃さず固定するとその穴にいきり立ったペニスを挿し込んできた。
「!んごぉっ!ん、ぐんぅ!んんんっ!!」
せめてもの抵抗にと舌でそれを押し返そうとする。
舌に感じる固く熱い、でも血の通った不思議な弾力。
でもその感触は一瞬の事、無理矢理使われているという意識が激しい抵抗を選ばせる。
「う……激し……っ!」
アタシの抵抗はアイツの快感に繋がるだけみたい。
それに気づく前に、アイツは目的を達成した。
「くぁ……イくよ、アスカ……っ!」
ドクンッ!
「んぉ?!んん〜!ぐぅ、んぐぅぅっ!!」
苦い。
変なにおい。
口中に振りまかれるその味とにおいに内臓がひっくり返る。
ジュポ
あいつのペニスが引き抜かれた瞬間、アタシは必死でえずいた。
「うげぇ……げへ、げっ!がほっ、げほっ、けほっ……うぅ……」
アタシの息も絶え絶えな……もしかすると窒息しそうな状況に気づいたのか、轡が外されていた。
それに気づく余裕も無く吐き出すだけ吐き出すと、息も絶え絶えに呟く。
「キモチ、ワルイ……」
グイッ
顔が仰向けられる。
「?」
ぱぁんっ!
「ひぅ!」
頬をはたかれた。
ショックの後、怒りが湧き起こる。
「ちょ パァンッ!
怒鳴りかかるアタシの頬をなおも張る。
「なに」
パンッ、バシィッ!
立て続けに頬を張られた。
打たれた部分が赤く腫れ、そこを繰り返し叩かれるたびに痛みが大きくなる。
けど、それ以上にこうして頬を叩かれるという初めての経験に巨大なショックを受ける。
頭を支配する痛みと衝撃に、いつしかアタシはすすり泣きながら許しを請いはじめていた。
「や……ひやぁ……おねがい、も、やめてよぉ……ゆるしてぇ……」
まだ続けられるそれに、アタシはとうとう完全に泣き出してしまっていた。
「ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……」
そう呟き続けながら。
気づくと、アタシは頭を抱きしめられながら頭を撫でられていた。
その感触に暖かさを感じながら、しゃくりあげ泣き続ける。
思えば、前にこうして激しく泣いたのはいつの事だったろう?
もしかしたら、一人で生きると誓ったあの時以来なのかも。
深いカタルシスの後で、こうして撫でられているとココロが幸せを感じてしまう……理不尽な暴力を与えられたのというのに。
やがて、身を放してアタシを見つめるあいつ。
「じゃあ、もう一度だよ」
ビク!
その言葉であの味とにおいがフラッシュバックする。
気持ち悪さがぶりかえし、いやいやをするアタシをアイツが酷薄な視線で見据える。
手を構え……ふと、アタシの頬を見つめて思い直したように膝にうつぶせにする。
もしかして、頬が腫れていたから?
そんな考えは、お尻に叩き付けられた痛みで消し飛んだ。
パァンッ!
「ひいぃっ!!」
悲鳴の後、少し間が開く。
身を捩って見ると、アイツは掌を痛みをこらえるように眉を寄せて見つめ、ボードの上にあるゴム製のラケットのようなものに目を向け……思い直したように手を振り上げ、アタシのお尻に掌を叩きつけた。
何度も、何度も。
アイツの手がアタシのお尻の膨らみに叩き付けられる。
ジンジンする痛みが引きかかる間もなく次の打撃が加えられる。
「やぁ……ゴメンナサイ……ゆるしてぇ……」
一度堤防が決壊してしまったアタシの涙腺はいともたやすく次の涙を溢れさせてしまう。
しゃくりあげ、泣きじゃくるアタシに更に打擲が加えられる。
そうやって何度も叩かれるうちに……感覚がずれはじめる。
「ごめん……ひっく、なさぃ……ひ……」
痛みが痺れに変わり、ジンジンした痺れが熱いもやになる。
そして、いつしか叩かれる衝撃が腰の奥の何かを揺さぶるようになる。
アタシがそれに気づくのに合わせるように、アイツは叩くのをやめてアタシのお尻を揉んだ。
「はんっ!あ……ひっ、いぃ……!」
走ったのはあからさまな快感。
苦痛混じりだったけど、ううん、それだからこそ抵抗のしようも無く甘い声をあげさせるような。
クス
「叩かれて、感じちゃったんだ?」
「あ……あぁ……そんな、ちがうのぉ……」
「そう?」
今度は優しく撫でられる。
「はぅ……ん」
ピリピリ痺れる腫れた部分が撫で回されると、形容し難い感覚が這い上ってくる。
「凄いね、ほら」
クチャ、クチュ
酷く湿った音が股間から聞こえる。
目の前に示された掌には、掬い取れるほどに溜まったアタシの愛液。
「あぁ……嘘、うそよぉ……」
「そう……こんなに(チュル)濃いのに?」
「!」
目の前で楽しげにそれを啜りとって見せる。
自分の出したものをそうやって飲まれる事にショックと嬉しさに似た何か。
もしかして、こいつもこんな風に感じてたの……?
「まあ、いいよ……今日のところはいいや」
アタシの心の中の動揺には気づかない風にそう言うと、アイツは頭を足の間に入れるようにしてアタシの腰を自分の肩に担ぎ上げた。
ソファが深く沈み込む。
そのままアイツはアタシの股間にペッティングを始めた。
腫れて痺れるお尻を揉み込みながら。
「くぁ……は、やぁ……なんでぇ?こんな、こんなに……や、あはぁっ!」
コイツの愛撫が……舌で襞を舐め上げられ、唇でクリトリスを弾かれ吸われ、掌がお尻を撫で揉み上げるのが、たまらなくキモチイイ。
子宮が快感に泣き出し、熔け落ちたヴァギナからとろとろと濃い愛液がコイツの顔にしたたる。
それを全て実感しながら、同時にアタシは目の前の股間のものを凝視していた。
「(ぴくぴくなってる……あ、なんか、おツユ……男の子のも、濡れるの……?)」
おっきな物……でも、意外に綺麗なピンク色。
アタシが身を捩るのにあわせる様に震え、アタシのよがり声に反応してピクンってなる。
至近距離、アタシの息が掛かるくらいで、きっとアタシの吐息がまとわりついて刺激してるんだと思う……こうして、はぁっ、てするたびにアイツの舌の動きが引きつるから。
「(あぁ……アタシ、なんで……?)」
立ち込める匂い……それが、嫌悪を呼ばなくなってる。
ううん、こんなことをした覚えがあるはず無いのに、何故か懐かしいような、ほっとするような匂い。
それを自覚して、たちまち跳ね上がる快楽曲線にさらわれながら、アタシはある予感を感じていた。