ボクのヒミツたいけん


Scene.05
Original text:通行人Sさん


「それでね、ヒカリ……聞いてる?」
―― 聞いてるわ」

 実は、あんまり聞いてなかった。
 ヒカリは机に頬杖をつきながら、よそごとを考えている。
 どうせアスカが何を言っているのかということは、今更考えるまでもない。
 シンジのとこと。
 ドイツのこと。
 加持さんのこと。
 大体がその辺りなのだ。
 特に最近になってシンジのことが多くなった。シンジが朝になってどんな顔して起きたとか、何を作ったとか、どんなことを朝食の時に話したとか。
 初々しいな、とは思う。
 自分にもそういう頃はあったのだ。
 ちらり、とトウジの方を見る。
 トウジとは「あの時」から関係を進めた。その日のうちにSEXして、その次の日にもして、その次の日にも、その次も……自分たちはいつの間にか二人で快楽の追究に毎日をいそしむようになっていた。
 最初は何やら抵抗があったトウジなのだが、ある時を境に猿になった。どうしてなのかは考えなくもなかったが、深く考えようとすると胸の辺りが痛くなる。胸が痛むというのは錯覚だとアスカに教えてもらった。それは胃が痛んでいることを勘違いしているのだと。

(私が悪かったのかな……)

 SEXのとき以外は、トウジはそれまでとあんまり変わらない。少しヒカリに馴れ馴れしくなったとか、優しくなったとかはあるが、その程度だ。
 その分、している時の態度のギャップは大きいのだが。

(……でも、最近マンネリなのよね……)

 あまりにもヤリすぎていたというのはあるだろう。
 いい加減、部屋で二人でというのはもうやり尽くした感がある。
 フェラチオなどはもう当たり前だし、体位と言う体位は全て試した。
 雑誌でみたアナルでのSEXに興味を持ち、二十日がかりで慎重にトウジのペニスが入るまでに拡張までもした。
 その都度その都度でヒカリは己の中に火が点るのを感じる。
 自分の中には使われていない幾つもの蝋燭があるのだと、その時にいつも思う。
 そしてそれは、点るたびに新たにまだ点っていない蝋燭の存在を照らすのだ。

(まだ足りないのよ……まだ……)

 それが何か具体的には解らないが、それでも漠然とヒカリは捉えつつあった。
 このまま突き進めば、自分は超えてしまってはいけないところを“突破”してしまうのではないか。
 そう思いさえもして、なお――
 ヒカリは求めるのをやめようとは思わなかった。

「ねぇ、ヒカリってばぁ」
「あ、ごめん、ちょっと考えごとしていた」
「……もう」

 可愛らしげに唇を尖らせる。

(……こんなこと、アスカに相談とかできないものね……)

 それに、アスカは大人びた態度をとろうとはしているが、実は純情で子供っぽい。
 自分の想いが誰に向けられているのかも正視したくないくらいに。
 意地っ張り。

(私は……)

 ヒカリは自分がトウジとしているときのことを思い出す。
 どうしてか口調はアスカみたいになっている。
 トウジに命令し、時には暴力を振るいさえする。
 あれはヒカリが当初もっていたアスカという少女のイメージを反映していたのだと。今は思う。
 強気で男の子にも負けない、従えさえする―― それが、ヒカリにとっての理想だったのだ。
 しかしよくよくつきあってみれば、アスカは実は尽くすタイプだと解った。自分を理解してくれている人、そうでなくてもいい、とにかく何らかの形で支えてくれる人がいたら、その人に全てを任せてしまいたいとすら考えている少女なのだと。
 きっと最愛の人に、その全てを捧げることを夢見ているのだ。

(そうよね……)

 今はキスのことすらもまともに口に出来ないアスカも、いつかSEXするときがくるのだなぁとヒカリは考えた。
 いつかあの可憐な唇で、思い人のアレを咥え込むのだ……。
 
 その時、ヒカリの中で何か小さな火が弾けた。



◆ ◆ ◆



「……あ、ごめんなさい」

 言いながら、ヒカリはつばを飲み込んだ。
 アスカが膝をついて誰かのペニスを舐めしゃぶるのを想像したとき、急に腰が熱くなった。奥底から何かが湧き出てくるような―― いや、滲みだしているのが解る。

(アスカが……フェラチオ……)

 思い浮かべたペニスは、トウジのだった。
 他に直接知っているそれはヒカリにはない。
 また想像が虚像を生み出した。
 立って晒されたトウジのペニスに、両膝をつき、奉仕するアスカ……アスカはまるでアダルトビデオの女優みたいに唇をすぼめて、それを口に含んでいる。

(なんて……)

 刺激的な図式か。
 トウジは自分のモノで、アスカは別に思い人がいるのに、その唇をいつもバカにしていたトウジのペニスに捧げて……。
 ドクン、と心臓が高鳴った。
 それは決して不可能な図式ではない。
 ちょっとしたことでできるようなことのように思えた。

(そうよ……別のだれかを加えるというのがあったんだわ……!)

 ヒカリは興奮した。
 どうしてこんな簡単なことを見逃していたのかとさえ思った。
 こんな刺激的で楽しそうなことが、ちょっとした工夫でできそうになるなんて……!

「どうしたのよ、ヒカリ?」

 心配そうにかけてこられるアスカの声。
 ヒカリにはその声も何処か喘ぐように聞こえた。
 きっとこの声で喘いだなら、どんなに可愛らしいだろう……そんなことを考えていたから。

―― ねえ、アスカ、放課後空いてる?」

 唐突に出された言葉。
 アスカは少し驚いた様子だったが、「うん、空いてる」と答える。
 今日は訓練もないし、予定は何もない。別に問題はないはずだった。

「それじゃあ、放課後に……」

 言いながら、ヒカリは己の中でまた新たな蝋燭が点っているのを自覚していた。
 そして彼女当人も気づいていなかったが、その灯火が照らす光景にはトウジに奉仕するアスカの姿と、それを闇から眺め、どう嬲ろうかとしているヒカリ自身がいたのだった。

 ヒカリは欲望の輝きを瞳に点しながら、言った。

「私のウチに来ない?」



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