そうして彼女は嘘をついた5
- 211 名前: 1−4 投稿日: 2003/03/13(木) 20:39
- 「……また君か」
彼はアスカの足音を聞き、振り返る。
「――どうも」
アスカは強張った笑みを浮かべ、ゲンドウの視線を受けとめる。
花園への二度目の訪問は、七日ほどたってからだった。予定が合わなかったということもあるが、リツコとの一件を目撃したということが大きかった。
女性関係など別に大した問題ではない――というような考え方をアスカはできなかった。
特にユイの方向から彼の真意を確かめようとしていたのだから、それはなおさらだ。
(碇ユイという、最高の女性を得て、それでもやはり女は欲しいのかしら?)
アスカも男性の生理については、それなりに知っているつもりだった。
一般的に男性は、性欲を一定に処理しないと苛ついたりとかするように言われている。無論、それは純粋に医学的な意味においては迷信もいいところで、精巣に溜まった精子は一定量を超えるとさっさと尿などに混じって流出される。いわゆる「溜まってる」とかいうのは、あくまで精神的なものだ。だから。
(……我慢しようと思えば、我慢できるはずよ)
もしもユイという女性に心を深く捧げているのだと言うのなら、ほかの女性に対して性欲を抱くなんて……抱いても、実際に情交を重ねるなどしようとは思わないはずだ、と。
人間は誰しもが寂しがりやで、やさしくしてくれる人に飢えている……ということを理解してはいながらも、アスカはそう思わずにはいられない。
それでも。
「今日は、南極でのことを……」
微笑んだ。
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