「それは、遠い日」

446 名前: 通行人S 投稿日: 2002/09/09(月) 01:43
 仮題「それは、遠い日」


「――ねえ、本当に行かないと駄目?」
「お前も往生際が悪いのぉ」
「だって……」
「あの頃からのツレやろ?」
「けど、綾波さんって、噂だとあっちこっちで……」
「そんなん関係あるんか?」
「ない……けど、私、アスカがいなくなってから、あの人とはあんまり話すこともなくなったし……」
「惣流とシンジか――葬式の後、よう慰めてやっとたと思たが」
「あの後はね……けど、直に会わなくなったから……」
「あれから五年か」
「もう、五年たつのね」
「……まだ五年や」
「……解ったわ」
「そうか」
「――じゃあ、行ってくる」



『もう……いつまで二人でやってるのさ』

 ……その声は懐かしかった。

『ゴメン、シンジ』
『怒らないで、碇くん』

 手を合わせて謝るアスカに、私は言い添える。

『アスカに……して欲しいと言ったのは、私なの……』
『そうなの?』

 意外そうな、碇くんの声。

『レイったら、すっかりキスにハマっちゃってて――今じゃアタシなんかよりずっと上手いわよ』
『綾波、そりゃ気持ちいいってのは確かだけど、ところ構わずってのは……』
『どうして? ここには誰もいないわ?』
『なーんか、日本の墓地って変なのねー』
『そりゃ、ここはセカンドインパクトの……あ』
『――司令』
『え?』
『父さん……』

 ユイさんの墓前で、たった一人で立っていたのは、碇司令……碇くんのお父さんで、私の……。

『何故だ! 何故帰ってこない!」
 
 Tayp−1に向かい、拳を叩きつける司令。

『こんなの……こんなのってないわよ……』

 震える声の、葛城――三佐。
 
 時間が混じっていてる。これは――

『……アタシ、ママとシンジ以外の人間と、初めてキスしちゃった……』

『……綾波って……その……可愛いね』

『――好きよ。愛してる。シンジと同じくらい。それ以外の誰よりも、アンタのことを愛してる――』

『大好きだよ、綾波。アスカと同じくらい。この世界の誰よりもキミ達を愛せて――』

『……ごめんなさいって言ったら、優しいアンタは、アタシ達を許してしまうかもね……』

『ああ……綾波、僕をアスカを、恨んでていいから、だから……』

『『さよなら』』

 重なる、声。

『碇くん! アスカ!』

447 名前: 通行人S 投稿日: 2002/09/09(月) 01:43
……目覚めた時、レイは自らが頭を寄せる胸板の感触に気づき、どうしてか安堵する。
「目覚めたかい、お姫さま」
「……最悪の気分」
 かけられた声にそう返し、レイはベットから滑り落ちるように這い出る。
 白い裸身を窓から差し込む光にさらし、彼女はバスローブを拾い上げた。
「最悪ってのは、ひどいな……こっちは結構必死にご奉仕したつもりなんだけど」
「……………いつまでもそこにいないでください」
「解った。解りましたお姫さま」
 ベットの上で上半身を起こした男――加持リョウジは、大袈裟に、芝居がかった風に肩をすくめてみせた。
 かつては葛城ミサトの恋人として知られていたこの男とは、もう随分と以前からの「関係」だ。
 五年前のあの事件の後、レイはシンジとアスカ以外の人間に初めて抱かれた。
 その相手が彼だった。
 別に加持が浮気してレイに手を出したのではない。その時にはミサトと彼の関係は終わっていた。どちらからどうと言う訳でもなく、ただ終わった。そうとしか言いようがなかった。
 レイが選んだのだ。
『無茶苦茶に……犯して』
 そう言って。
 ……シンジとアスカのサルベージが失敗した後のネルフは、もうその直前までの組織ではなくなっていた。
 二人を飲み込んだTayp-1の前で一人号泣した碇ゲンドウは、その後で必要最低限の残務処理をしてネルフから去った。
 E計画総責任者であり、碇の愛人であった赤木リツコは、その跡を追ってやはりネルフから野に下った。
 冬月コウゾウも「碇がおらんとなぁ…」と言い残し、副司令の職を辞した。 
 幹部で居残った葛城ミサトは、数日間の心労からくる入院の後、何かにとり憑かれたかのように仕事に没頭しだし、数ヶ月のブランクを経て司令に就任……。
 レイは、
 唯一のチルドレンとして残された綾波レイは、魂の抜けた人形のようになってから、それからしばらくひきこもり、ようやく起きだしてきた時、加持に迫ったのだった。

(……あの人のSEXは、イヤ……)
 レイはシャワーを浴びながら、昨夜のことを思い返す。
 色事師というイメージは加持が身につけていた擬態だが、それでも女性の体を奏でる技巧に於いて、彼はまさしく一流であった。
 綾波レイというよらも美しい女性を手に、加持は誰よりも巧みに喘ぎ声を引き出し、絶頂の叫びをあげさせた。

『入れて! 入れて! もっともっともっともっと! 奥に!』

 ……昨晩の、身も世もなく求める声を上げた自分の姿を脳裏に浮かべ、レイは微かに柳眉を曲げた。
 加持はそれは確かに上手い。
 この五年間で、加持は一番自分を抱いた男だろう。
 ともすれば、あの二人よりも強烈な快楽を与えられるかも知れない。
 しかし――
 レイは加持とのSEXが嫌いだった。
 加持は自分に対して求めようとするところがない。ただ、レイの身体を技巧に任せて弄くるだけだ。
 SEXは相手の求めに応じるところにその意味があるのだと、レイはなんとなく思っている。
 それはあの二人との深い愛の交歓の日々がそう思わせているのかも知れない。
 加持の心は閉じこもっている。
 自分の心と同様に。
 ただ仕事として、レイを抱く。
 その跡には何も残らない。
 自慰をした後のような虚しさが残るだけだ。
 まだゆきずりにひっかけた男と寝た方が、はるかにマシだと思う。
 自分の肉体を求めて、行きずりの男は欲望を――想いをぶつける。
 それに自分は応える。
 愛なんかない、それはただのコミュニケーション。
 寂しさを埋めるための行為。
 だけど、加持とのSEXはそれですらない。
(だからきっと――)
 いつも、その後では、夢を見る。
 過ぎ去った、戻ることのない、遠い日の夢を。
 ……それで、レイはいつも外に男をひっかけにいくのだった。
 昨晩はさすがにミサトから釘を刺されたばかりということで久々に加持をひっぱりこんだが――案の定、見たくもないことを夢に見てしまった。
「今日は……」
 呟き、シャーから出たレイは、今が昼過ぎだということに気づいた。
 今朝方までしていたのを、なくとなく思いだす。

 来客は、その時あった。


 つづく。



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