-MODEL- Ver.A
Original text:FOXさん「ちょっと、まだ終わらないのぉ?」
惣流・アスカ・ラングレーは形のよい唇を尖らせる。
さんざん考え抜いたあげく(だってだって、できあがった絵はユイおばさまにぜーったい見てほしいし、それから「バカシンジ」をも感心させるようなものでないといけないのだから)のポーズ……美術室の大きな机に片頬をついて、正面少し上のカヲルを見上げるものになった……を十五分近く取り続けていた彼女はすっかり退屈していた。
「まだだね。短気は悪徳だよ。惣流さん」
「だって、首が痛くなってきたんだもん」
横顔をのぞかせ、少し上目遣いの姿勢のままで少女は頬をふくらませる。その表情さえもとても魅力的に見えるにちがいないことをアスカは無意識のうちに理解していた。
「嫌ならやめてもいいんだよ」スケッチブックに鉛筆を走らせていた美貌の少年、渚カヲルは笑顔を浮かべたまま言った。「僕がモデルを頼んだのではないのだから」
「分かったわよ。我慢する」アスカはつぶやいた。
しかし、
「ねぇ、渚カヲル。どれくらい進んだのか見せてよ」
アスカが呼びかけたのはそれからわずかに三分後だった。上半身は完璧なポーズを保ったままで、カヲルから見えないことをいいことに駄々っ子のように足を踏みならす。
「ね、見せてってば。……っぅ。痛ぁぁ」
あげくにすねを机の脚にぶつけて涙目になる。
「……碇シンジ君の忍耐力はまさしく称賛に値することがよく分かる」
「なんでここでバカシンジの名前が出てくるのよ。ね、見せて?」
盛大にため息をついたのち、カヲルはスケッチブックをぐるりと回す。
「!」アスカは息を呑む。
そこには美しい少女が微笑んでいた。
少し悪戯っぽく、しかし清楚に、誰もがはっとするような笑みを浮かべたアスカがそこにいた。
まだ陰影が付け加えられていない輪郭だけの線画であったが、それはアスカが鏡越しに毎日見つめ合った自分自身よりもはるかに魅力的な表情をしていた。
大きな作業机の上で伸びをするようなそのポーズは、その下半身が隠されていてもすらりとしたプロポーションを想像させるには十分だった。
「これが……アタシ……」
「気に入ったかい?」
……相当気にくわないヤツだけど、私をモデルにした絵を描くよう頼んだのは正解ね。きっとこの絵も、あのユイおばさまをモデルにしたポートレイト……そう、あの絵のおばさま、とても綺麗で、でもなぜか見ているとどきどきしてしまう……みたいに素敵な絵になるわ。そうしたら、おばさまと、バカシンジに見せてあげて、それから……。
アスカは口元を少し緩めた。
……きっと、きっとシンジだってびっくりするに決まってる。それから、うん、シンジに額を買わせるのもいいな。一緒にデパートに行って。それを額に入れたら……。
「そうね、あと三十分くらいなら我慢してもいいかも」少しだけ頬を染めて少女は言った。
「やはりシンジ君は称賛に値するよ」カヲルは苦笑する。
「やっぱりアスカちゃんって、人に見られることに慣れているね」
いままで自分からは一言も発することの無かったカヲルが不意にそう尋ねたのは、それから数分後だった。
「『惣流さん』って呼んでくれる?」アスカはにべもない。さきほどまでの親しげな口調は消え失せていた。まだこの少年に彼女はまったく心を許していないのだった。
「これは失礼。で、さっきの質問だけど」
「そんなこと、分かるわけないじゃない」
「いや、慣れているね」カヲルは断言した。「自分が美しいことを自覚しているオンナノコは皆そうだよ」
「なにソレ、気味の悪いことを言うんじゃないわよ」
「おやおや」
……そうね。ちゃーんと分かってるわ。
オトコがどんな目で自分を見ているかは。
アスカは心の中でつぶやく。
いやらしい目で見ている時なんて特にね。
だけど、睨みつけてやればそんなのはあっというまに消えちゃうんだから。どうってことないもん。
……アタシのひと睨みで消えちゃうんだから。
……そうよ。気になるもんですか!
週初めの電車、あのフラチな三人組のサラリーマン。
奴らはアスカの歳について勝手なことを囁きあい、それからプロポーションについて憶測を述べ、さらにその血統や経験まで自分勝手なストーリィ……そこではアスカはヨーロッパからやってきた、中学生だけれども経験豊富で好奇心旺盛な交換留学生だった……を下卑た笑みを浮かべつつ語りながら、アスカの全身を舐めるように鑑賞していたのだ。
そんな下劣な妄想も少女がつかつかと歩み寄り「じろじろいやらしい目で見るのはやめてくれません?」とひとこと言っただけでいっぺんに消失し、三人はそさくさと電車から降りてしまったのだから。
体育の時間に男子たちが交わす無遠慮で勝手な「品評」だって問題ない。賞賛と欲情がない交ぜになった視線で彼女を追い、野卑と男らしさを混同したコメントだって、まっすぐ見つめて叫べば消えるのだから。
ま、それくらいの「女の子」でなければこの少年、渚カヲルの謎めいた視線に耐えられるはずがないわね。
アスカは胸の内でつぶやいた。
この「見かけだけは」完璧な少年の視線ときたら、質量さえ感じられるほどなのだ。
普通のコならなんかどぎまぎしはじめて、勝手に何か罪悪感に囚われるような視線でしょうね。
ただ奇妙なのは彼の視線にはいままで異性から感じたような欲望が感じられないのだった。
あるのはただ好奇心、何か興味深い観察対象を見つめる傍観者の視線だった。
……けれど、なにか変。どこかがおかしい。
少女は自分の身体が熱を持っていることに気がつく。
カヲルの視線について考えるうちに、いままで感じた欲情にまみれた誰かのそれのことを思い出してしまう。
(おい、見たか?惣流のセ・ナ・カ。ブラジャーの柄が汗で透けてるよ……)
(惣流のヤツ、碇とじゃれてるときはパンチラしてても気づかないもんなぁ)
(ほら、コピーしてきたぞ!惣流・アスカ・ラングレーのブリッジ姿の映像!)
(うぉおぉぉ!この姿勢!コカン突きだしちゃって!太股もイイよなぁ)
「……あっ」
「どうしたんだい?惣流さん」
「な、なんでもないわよ」だが、アスカの声はうわずっている。
「そうかい。それならいいけれど」
しかしスケッチを再開するカヲルを見つめる少女の瞳は揺れている。
(柔らかそうで、つんと尖ったオッパイさせて……。制服の上からでもはっきり分かる……)
声が聞こえてくる。少女を欲情の対象とした声が。
……うそ……なに……なんなの……。
(すらりとした躰。きゅっと締まったお尻、最近の中学生は発育がいいねぇ)
惣流・アスカ・ラングレーをただのモノとしてしか見ていない声が。
……やだ、いままでこんなこと……なかったのに。
(き、き、綺麗な脚をしているじゃないか。撫で回して、キスをして、匂いを嗅いで……)
いつもなら断片で、それもかすかにしか聞こえてこないその声は、彼女の耳の中でわんわんと鳴り響く。
……どうして……どうして……。
(ずいぶん騒がしい娘だが、「あれ」のときはいい声で鳴くんだろうな。ぎゅっとオトコにしがみついて、鼻にかかった甘え声で絶叫するに違いないぜ)
その声は圧倒的なまでの質量を持っていた。
……うそ、こんなのうそよ。
惣流・アスカ・ラングレーは細心の注意を払いながら、ゆっくりと膝を緩めていく。目の前の少年に気づかれないように、ポーズを崩さぬようゆっくりと。そして少しだけ。
それでも少女にはその音が聞こえた。
肌に張り付いていた濡れた下着の音が。
ぐちゃりという粘液の音が。
……濡れて……る。アタシの……濡れてい……る……わ。
「顔が赤いよ。惣流さん」渚カヲルが相変わらずの微笑を浮かべたまま彼女を見つめていた。
「な、なんでもないわ。はぁっ!」
どれくらい濡れているか知ろうとそろそろと伸ばした指、それが与えた刺激は信じられないものだった。
……どうして!どうして濡れてくるのよ!こんなときに!
自分の身体が「おんな」として反応していることにアスカは驚愕する。そもそもなぜこんな反応を示している理由が分からないのだ。
……あ、まだ出てくる。とまらない。とまらない。とまらないよ……どんどん、どんどんぬるぬるしてくるよ……やだ、やだぁ。
ぎゅっと膝を閉めた。
びくん。と少女は痙攣する。
全くの逆効果。
火照った秘所からはもじもじと太股を擦りあわせるだけで、いままで感じたこともないような快楽が押し寄せてくるのだ。
……だめ、これじゃだめ。きもちよくなって、だめになる。こんなのやだ。
それでも彼女はなんとかこの異常事態に対応しようとする。
平静を保ったまま。少女としての威厳と虚勢を保ったまま、もちろんポーズは崩さないで。
しかし、
少女の右手がそろそろとスカートに伸び、裾をまくり上げていく。
……す、すかーとシミになっちゃうからよ。制服のまえのトコロにシミなんてつけているのをみられたら……ヘンタイだっておもわれちゃうからよ。だから、だから、こんなカッコウするの。
それどころか、惣流・アスカ・ラングレーは机の下で大きく脚を拡げてゆく。
……こ、こうすればすかーとはよごれないもん。だいじょうぶ。渚カヲルからはみえてない。机がじゃまでみえるわけないもん。だいじょうぶ。
ミルクを溶かし込んだような太股が剥き出しになり、スポーティなショーツが無防備にさらされる。
……だいじょうぶ。みえてないもん。ほら、カヲルはぜんぜんきがついていないわ。こうすればぬるぬるがひろがらないわ。
ショーツをこれ以上汚さぬよう、まくり上げた裾が落ちないよう、右手でスカートを押さえて少女は腰を押し出した。
熱気と湿り気を帯びた乙女の下着が剥き出しになった。
しかし、アスカは逆に安堵してしまっているのだ。
……これでだいじょうぶ。これですかーとよごさないですむし。もうヘンタイだなんてよばれない。
少女はため息をつく。
しかし、アスカは分かっていない。自分が取っている姿勢が途方もなく恥知らずなものであることを。
それどころか、熱を持った下半身が知らず知らずのうちに位置を変え、こともあろうに脚の付け根を太く固い机の脚に押しつけてしまっていることに。
いつしかポーズは崩れ、半開きになった唇から熱い吐息を漏らしながら、輝くように白い太股を机の脚に絡めて未通の秘所をぐりぐりと押しつけていることに。
そのさまを渚カヲルが笑みを浮かべたまま眺めていることに。
「惣流さん」カヲルは穏やかに呼びかける。
「……ん?……な……に?」視線をどこか違うところへ漂わせていたアスカが彼を見上げる。
定まらなかった視線が美少年の瞳に重なり、そしてぴくりとも動かない……外せなくなる。
「もう少し我慢できるよね」
「う……ん」彼女は微笑む。「そんなの……あたりまえ……じゃない……。さっきから、うごいてない……でしょぉ?」
テーブルに汗ばんだ上半身を投げ出し、下半身をもぞもぞと、ひくひく動かしつつ、惣流・アスカ・ラングレーは自慢げに微笑む。
もちろんその姿勢は、スケッチ開始のものとはまったく異なっていた。
少女の浮かべる表情も、まったく違うものだった。
「惣流さん」再び呼びかけるカヲル。
「な……に……」応えるアスカの瞳にいつもの輝きはない。幕がかかったような硬質で鈍い光が宿っている。
「気持ちいいいかい?」
「うん」こくりとうなずく少女。口元からひとしずく涎が落ちるが、それに気づく様子もない。
「ぐりぐりするだけじゃなくって、開いている右手を使ったら?」
「う、うん」ぱっとアスカの美貌が喜色に輝いた。制服のスカートを押さえていた右手が机の脚と下着のあいだに入り込み、リズミカルに動きはじめる。
「ん……んんっ!あ……」
甘く鼻を鳴らしつつ、少女は快楽をむさぼってしまっていた。
渚カヲルから視線を逸らすことができない紺碧の瞳は、その年代の少女にはあり得ない情欲にまみれていた。
「惣流さんは」にこにこと笑いながらカヲルは言った。「いつも下着の上からこすってるんだね?」
「……ん……うん……そう……よ」そのあいだも少女の指は止まらない。
「直接触って慰めるのは怖い?」
少女は幼児のようにうなずく。
「みたいだね。『いつもは』大きなお猿のぬいぐるみを抱きしめて、おマタのあいだをぐりぐり擦りつけてるだけで気持ちよくなれるからね。違うかい?」
「そ、そうよ……そう……」
「『彼』の名前をつぶやいているだけで、目の前が真っ白になるんだよね」
「う、うん、そう……なのぉ、ひんじぃ、シンジのなまえをよんでると、きもちよくなるんだもん!」
惣流・アスカ・ラングレーは快楽に押し流されていて気づくことができない。
少女しか知るはずのない淫らな秘密がやすやすと暴露されてしまっていることにも、乙女のココロの奥底に秘められた大事な秘密さえ簡単に口にされてしまっていることにも。
「だよね。惣流・アスカ・ラングレーはエッチな娘だもの」
「ち、ちがうもん……ちがう……わ……」
彼女は啼きそうな表情で首を振る。カヲルは笑顔で続ける。
「だよね。エッチなヘンタイオンナじゃ碇シンジ君に嫌われてしまうからね」
こくりとうなずくアスカ。しかし、カヲルはそんな少女をさらにいたぶるのだ。
「でも、僕は知っているよ。その惣流さんはたたき起こしたシンジ君がシャワーを浴びているあいだ、彼のベッドにうつぶせになって匂いを嗅ぎながらオナニーしてることを」
「してない!してないよ!しないわよ!」アスカは蒼白になった。何度も首を振る。
……そんなこと、するわけないわよ。おばさまだって、おじさまだっているのに、そんなこと、するわけないじゃない!アタシ、そんなヘンタイじゃないもの。
欲望でよどんでしまった頭脳でも、そのあまりの破廉恥さは理解できた。
「そうかな」カヲルの笑みが大きくなった。しかし、その紅い瞳はひとかけらの笑みも含んでいない。「僕は『知っている』んだよ。惣流さんが制服を着た自分の躯をぎゅっと抱きしめて、シンジ君のベッドに横になっていたことも」
……してない!してないもん!
「絨毯に膝をついて、ベッドに顔を埋めて深呼吸しながら、お尻をもじもじさせてたことも」
……うそ!うそ!うそ!そんなこと、してないもの!そんなこと、できるわけないもの!そんなことをしているときにシンジがもどってきちゃったら!
……見つかったら、シンジに、シンジにきらわれちゃう……。
「そんなことはないよ」彼女の内心のつぶやきに応えるカヲルの声は低く穏やかで、アスカの精神の奥深いところに作用してしまう。
「そんな惣流さんを見たら、シンジ君は君を襲っちゃうだろうね」
「あ……あはぁぁぁっ……」
アスカはぶるぶると全身をふるわせる。それは恐怖によるものではなかった。快楽の予兆に突き動かされた雌の本能だった。
「オナニーに夢中になった惣流さんを後ろから。ユイおばさまやゲンドウおじさまを壁の向こうに感じながら、制服のスカートをまくり上げられて、パンツを剥ぎ取られて押さえつけられちゃうんだ」
「あ……あ……」
「だけど、イったばかりの惣流さんは抵抗できない。泣きながら処女を捧げてしまうことになるんだろうね」
「あ、あはぁっ!んくぅぅっ!」
……う、うしろから……シンジに、シンジに抱きつかれて、アタシは抵抗できないまま……。
鮮烈なイメージはそれだけで少女を絶頂に押しやってしまう。
がくがくと震える彼女にカヲルは囁く。
「そんな風にバージンをあげたくないだろ?」
こくり。赤みがかった栗色の髪を頬に張り付かせ、少女はうなずいた。
「なら、『これからは』シンジ君の部屋でオナニーなんかしちゃだめだよ」
「う、うん……」目に涙をためてうなずく。そのような処女喪失は彼女が望んでいるものではなかった。
彼女には彼女だけが考えているストーリーがあったから。
それは子供っぽくて無邪気でそして、その行為の本質とはかけ離れているものであったが、それでもそれは護っていたかったのだ。
捧げる相手が同じでも、カヲルが語るようなシチュエーションは絶対に避けたいと彼女は思う。
「もう、もうしない……わ。もう、もう……」
アスカは涙を流しながら誓う。いままで決してしたことのない行為を二度と行わないと、何度も何度も約束する。
やがて彼女の心は、虚構を「事実」として定着させてしまう。自分が恥知らずな行為に浸っていたことを記憶として認識してしまう。
彼女の秘密や、その秘めた願望すら知り尽くしている目の前の美少年の言葉に、がんじがらめに囚われてしまったことを知る。
「だからね。欲求不満はちゃんと解消するんだよ」カヲルはひどく優しく言った。
「直接いじってごらん。信じられないくらい気持ちよくなれるよ。ああ、両手を使ってね。ほら、いまやってごらん」
「でも、でもぉ。ぽーず、かわっちゃう。りょうてをおろしてぐりぐりしたら、ぽーずかわっちゃうもん」
アスカはとろんとした表情のままつぶやく。状況がいかに異常で淫靡であるかなど、快楽で飽和してしまった彼女の精神は理解できない。
「大丈夫。もうだいたいできあがったから。あとは仕上げをするだけだよ。ほら」
カヲルがスケッチブックを向ける。
そこには美しい少女が微笑んでいた。
誰もがはっとするような笑みを浮かべたアスカがそこにいた。
それはアスカが鏡越しに毎日見つめ合った自分自身よりもはるかに魅力的な表情をしていた。
だが、
スケッチブックからこちらを見つめるその瞳はどこか虚ろで濁っていて、そしてその口元の笑みはどこか物欲しげだった。
「ね。もうポーズを崩しても大丈夫だよ」
「う、うん!あ……あひぃぃっ!」
「お赦し」が出たとたん、惣流・アスカ・ラングレーの細く整った指はどろどろに湿ったショーツの中へ潜り込み、彼女を何度目かの絶頂へ突き上げた。
「はっ!あはぁっ!くぅぅ……んっ……ん」
アスカは机に上半身を突っ伏したまま自慰に耽溺していた。
天板に熱を持った頬を押しつけ、桜色の唇から涎をこぼしながらオナニーに夢中になっていた。
自由に両手で慰めるにはただ邪魔な存在となってしまった下着は脱ぎ落とされ、快楽に耐えて震える足首に絡まっていた。
最初は稚拙で臆病だった指使いも、「芸術家の指」で髪を撫でられつつ耳元でやさしく囁かれる「アドバイス」に従って、しだいに貪欲になっていく。
生まれて初めて女の肉芽を剥き出しにしての刺激は、少女の脳を白熱させていた。
きつい蜜壺へ指を挿入し、カヲルに教わったとおりにゆるゆると動かしたときの感覚は、彼女を夢見心地にする。
「あ……っッぅ。ここ、このいりぐちのなかのうえ……ざらざらするところ、コスると、コスるとすごくいいの……」
クリトリスとGスポットから得る快楽を同時に教えられたアスカは、乙女として一番大事なものを失ってしまったことさえ知らずに、一心不乱に快楽をむさぼってしまっていた。
そのさまを渚カヲルは穏やかな表情で見つめている。
やがてにこりと微笑むとスケッチブックをめくり、「二枚目」に取りかかるのだった……。
◆ ◆ ◆ 「シーンジっ!そんなジャンクフード、食べるのやめなさいよ」
親友のヒカリと一緒のお弁当を済ませたヨーロッパの血を引く幼なじみが溌剌と現れたとき、碇シンジはひどくどぎまぎしている自分に気がつく。
ここは昼休みの教室。育ち盛りの少年達が家から持ってきた弁当だけでは足りずに、購買部から買いあさってきた菓子を拡げての栄養補給の真っ最中だった。
「ア、アスカ……」シンジは少女を見つめてしまう。
……彼女はもう、あの渚カヲルに捧げられてしまったのだろうか。あのスケッチに描かれていたように首輪をはめられ、一足先に奴隷となった碇シンジの母親である碇ユイに導かれて、快楽と魔法のようなカヲルの力に縛られて。
……彼の母親の碇ユイがそうであるように、アスカもカヲルが定めたその時間だけは完璧な奴隷として振る舞うようにされてしまっているのだろうか。
……ユイがそうであるように、屈辱的で淫靡な時間についての記憶をまったく持たないように、術を掛けられてしまっているのだろうか。
自分をうしろから貫く息子の同級生に精を放ってほしいがために、教わった口唇奉仕のテクニックすべてを息子である碇シンジへ披露していたくせに、その翌朝には涼やかに微笑んでいつもの「母」となっていた彼女のように。
「……し、シンジ、そ、その……ちょ、ちょっとアンタ!どうしたのよ」
幼なじみにじっと見つめられるという慣れない状況にアスカは狼狽し、頬を紅潮させた。
「そ、その……どうしたのよ!」
「だって、アスカ……」碇シンジはそのあとの言葉を続けることができない。ただ美しい幼なじみを見上げるだけだった。
「ちょっともう!アンタどこか変でしょ!そんなものを食べてるからじゃないの?」
身体を伸ばして少年の握っていたポテトチップの袋をさっと奪い、少女はシンジの座っている椅子の縁にあえて腰掛けた。ぎゅっと背中で少年の肩に押して居場所を確保する。
オトコノコのように。性別を超えた幼なじみのように。
「あ、アスカぁ」動揺するシンジの声を心地よく感じつつ彼女は、チップスを勝手にもぐもぐやり始める。
「もう。せっかく買ったのに」背中から感じる体温と、他人には情けないといわれる声がアスカにはなぜか心地いい。
いや、どういうわけか泣きたいくらいに心地いいのだ。
「なんや。シンジには食うなって言っといて、自分ではバリバリ食うてるやないか」トウジがぶつぶつ言っているが気にしない。
「うるさいわねぇ」ぐるりと振り向く。「だって好きなんだもん。そ、れ、に、アタシは大丈夫なの。アタシのこの美貌が揚げたジャガイモごときで崩れるはずなんかないでしょ!」
「な、なにが美貌やねん!」とトウジ。
「自分で言うかね……それにしても」ケンスケも頭を抱える。
だが、
「あっ!」
アスカの手からひょいとお菓子の袋が奪われる。
「だめだよ。僕のモデルをやってもらうからにはコンディションに注意してくれないと」
「渚カヲル……くん」
「やぁ」カヲルは屈託なくシンジに笑ってみせる。
「ユイさんは元気かい」
「……う、うん」
「それはよかった。昨日はちょっと無理なポーズをお願いしたからね。君も見ていたように」
無言になったシンジをアスカは心配そうに見つめた。
「きょ、今日は」言葉を詰まらせるシンジに対し、カヲルは落ち着いていた。
「今日はユイさんの番じゃないよ。惣流さんの番」
シンジがさらに身体を硬くしたのがアスカにもはっきりと分かった。
「シンジ?」少女は幼なじみを見上げる。彼の瞳は動揺し、震えていた。
「来てくれるよね。惣流さん」シンジの変化に気がつかないのか渚カヲルはアスカにたずねた。見上げた彼女の視線がカヲルに絡め取られる。
「えっと……」
……なんだかシンジがおかしい。ユイおばさまをモデルにしていたときに何かあったのかしら。「彼」の描く絵は素晴らしいけど、彼自身にはどこか気になるところはあるし……。
アスカはつばを飲み込んだ。
「きょ、今日は……やめておくわ」
「どうして?」カヲルが首をかしげた。天使のような笑みのままで。アスカの瞳をのぞき込んだままで。
「……あっ」アスカは一瞬目眩に襲われる。
「約束してくれていたのに」
……してたっけ?制服と、ワンピ姿で三枚描いてもらったから、もういいと思ってたんだけど……。
「今日はスポーティな装いで描いてほしいって」
……そ……う……だったかし……ら?
「覚えていないの?」
……あ……あ……。
少女の耳にはクラスの喧噪はもはや聞こえていなかった。シンジの声も届かなかった。
「忘れちゃったんだ。惣流さん」
渚カヲルの声だけが圧倒的な質量をもって鳴り響いていた。
「ごめん」アスカは微笑んだ。「すっかり忘れてた。アタシ」
惣流・アスカ・ラングレーはにっこりと虚ろに微笑んだ。
……どうしてこんな大事なことを覚えていなかったんだろう。この天才少女アスカさまが。
心の底から彼女は不思議に思っていた。
……お気に入りのタンクトップとショートパンツで、「躍動的な」ものを描いてもらうと決めていたのに。
「ごめん。渚カヲル。すっかり忘れてた」くすくすと笑う彼女は、すぐ近くにいる幼なじみがはっと息を呑んだことさえ気がつかない。
「思い出してくれてありがとう」渚カヲルはクラス中の女子生徒達が今晩の夢で再び見てしまうような笑みを浮かべ、「じゃ、ご褒美」と右手を突き出した。
そこには「芸術家の指」でつままれたチップスがあった。
アスカはなんの迷いもなかった。
伸び上がって唇を開き、指につままれたそれを直接口に含んだ。
夢中で嚥下し、塩味の残っている指を唇に含み音を立てて舐めた。
それはいままで口にしたことがないほどに美味であった。
涙をこぼしてしまいそうなほど芳潤な風味を持っていた。
「アスカ!アスカったら!」緊迫したヒカルの声にアスカは我に返った。
「どうしたのよ!変だよ!」
「……え?」
アスカは親友の視線を追い、蒼白になった。
なぜなら惣流・アスカ・ラングレーは同級生男子の指を音を立てて舐めていたから。
なぜなら惣流・アスカ・ラングレーは幼なじみの太股にまたがり、太股を大きく露わにしたカッコウでゆっくりと腰を前後させ、下着の奥を押しつけていたから。
◆ ◆ ◆ 「アタシ、変だわ」自宅でアスカはつぶやいていた。
昼休みに彼女が起こした「事件」それはクラス中に衝撃をあたえていた。
もっともショックを受けていたのはシンジ、そしてアスカ自身だった。
とてつもなく嫌らしく、恥ずかしい行為を(無意識に)行ってしまった自分自身にアスカはひどく腹を立てていた。
同時に、なんとかその原因を突き止めようと決意していた。
「やっぱり、これかな……」
「ASKAの記録」と書かれたスケッチブックを彼女は開く。
そこには麗しいアスカが制服姿で、そしてお気に入りの黄色のワンピースで描かれていた。
どれも息を呑むほどの輝きに満ちた少女画だった。
だが、アスカは事実に直面しなければならないことに気がついていた。
これらのスケッチのモデルになったときの記憶、それがひどく曖昧で、時間の感覚がおかしくなっていることに。
モデルを終えたあと、ひどく疲れてしまっているくせに、心の昏い部分は熱を持ってしまったままであることに。
少女はぎゅっと奥歯を噛みしめてから鞄に小さな電子デバイスを忍ばせる。
それはケンスケから強引に借り出した録音機だった。
高感度マイクを内蔵し、最大で一六時間もの録音が可能、さらに「パスワード」を告げることで録音を開始できるものだった。
これがあれば、なにが起こっているか分かるだろう。
これがあれば、幼なじみがなぜあんなに心配そうに自分を見つめているのかが分かるだろう。
これがあれば、謎を解くことができるにちがいない。
タンクトップとショートパンツ姿で少女はスケッチブックを手に取ると、渚カヲルの「アトリエ」へと向かうためにソファーから立ち上がる。
惣流・アスカ・ラングレーは罠に自ら落ちていく。
その聡明さゆえに、その勇敢さゆえに。その高潔なプライドゆえに。
もし、彼女がごく普通の心弱い少女であれば、誰か大人に相談することができただろう。
だが、そうしなかった。
だから、気がつかない。知るよしもない。
アスカが手に取ったそのスケッチブック。
それには彼女が何度も目にしていても、そう命じられるまで、許可をもらうまで認識することすらできないページがあることに。
そこには黄色いワンピースを着たアスカの後ろ姿が描かれていた。
裾を両手でしっかり掴み、日本人には決して得られない長くしなやかな下半身があらわになるよう持ち上げた姿で振り返るアスカが描かれていた。
まだ半熟の堅さの残る双丘には「躾」のあとが、白磁の肌にはいくつもの腫れが残されていた。
年齢の割にはお洒落な光沢を持った白い下着は、肩幅に開くよう命じられた膝のところまで下ろされ、若い泉から糸を引いてしたたる淫滴を受け止めていた……。
振り向いてこちらを見つける可憐な表情には、恐怖と赦しを請う表情と、陶然とした快楽がはっきりと読み取れる。
あるいは、
制服のままの上半身像。きっちりとリボンまで止めた姿のまま、アスカは両手をお椀のかたちにくぼませて、一心不乱に舌でそれに溜まったものを舐めていた。
手のひらにためられているのは粘度を持った白い液体。それを一四歳の少女は陶然とした表情でむさぼっているのだ。
さらに誰もが振り返るその面立ちは、粘度を持った液体で化粧を施されてしまっているさまが、完璧に美しく無惨に描かれていた……。
惣流・アスカ・ラングレーは罠に自ら落ちていく。
その聡明さゆえに、その勇敢さゆえに。その高潔なプライドゆえに。
From:【妄想炸裂】思いつきネタスレ2nd【猥文投下】