YOU ARE IN ROCK!
Original text:引き気味
『 女冒険者封じ、強制発情淫獣責め 』
「あのね……?」
油を差さない歯車を回すように、ぎこちなく首の角度を傾げていって。彼女は分からないわと目をぱちくりさせた。
良い感じのほろ酔い気分でご満悦だった――という、彼女としてはつい今し方までのままの、ニコニコとした表情で。
当人としては、豪勢な食事の出る宴席でしこたまタダ酒にありつけていたという、その時点の認識が現在進行形で続いていた筈なのだから。
だから何がなんだか分からない。
分からない内に、全身まるで動かせない。
首だけで壁から生えた格好だ。
正確には、他に右と左の手首から先。グーとパーは出来るし、チョキも握れるが、勿論それで自由にはなれないし、何も出来ない。
壁を通す穴のサイズがどれもぎりぎりであるらしく、引っこ抜くことも出来やしない。
ちょっと警察署のお世話になって牢屋に放り込まれることがあっても、ここまではされたことがないという厳重拘束状態にされていたのを、首だけで壁からきょろきょろ見回し確かめて、『なんでぇ〜!?』と喚くわけだ。
「……あのね」
遅まきながらに笑顔が強張り、顔色も悪くなっていく。
「なんか手首が嵌ってて。首も嵌ってて。それでよく分かんないんだけど、なんかスゥスゥしてる気がするの。身体とか、お尻とか。あとその、お股のあたりとか……」
余計な口を叩かず。言われてもいない行動はせず。要するに、黙って立っているか座っているかだけなら極上の美女。目の保養が出来て皆が幸せ。そういう評判でもっぱらの、アクアという名前の女性冒険者は、今現在レンガ積みの壁からそのお綺麗な顔と、これまた貴族暮らしでもしていたのかというぐらい白くて綺麗なままの手だけが、にょっきり生えた格好なのだった。
それが生きて動いて喚いているのでなければ、悪趣味な生首の壁飾り、生手首の壁飾りだと見間違えられたかもしれない。
いかなる宗派のアークプリーストなのかを聞けば納得の、腰まであった筈の長い青髪が、これまた普段は実に美しいのだが。今はその腰の方が壁の向こう側。一房を頭の天辺で結い上げ、他は川のせせらぎのように自然に背中に流す、自慢の髪であるのに。首の横で壁にもっさり垂れているだけの間抜けな有様とあっては、略式ながら神聖で高貴な作法に則っているのも全て台無しだ。
すぐ目の前にあるのは同じくレンガ造りの壁だった。
どうやらそこはアクアの首から右と左に伸びた幅の狭い通路であるらしい。
通路は緩やかにカーブを描いているようで、あまり先は見通せない。ひょっとすると大きめの円周に沿った周回通路になっている、その一部なのかもしれなかった。
「ねぇ、誰か? 全然見えなくて確かめられないんだけれども、足もこれなにかしら。足首になにか嵌められてて、動かそうとするとすぐ突っ張ってダメな感じで、揺さぶってみたらジャラジャラ言ってる気がするんですけど」
「それは鎖ですね。多分」
横合いから返事が挟まれた。
変声期前の少年のような声は、少し低い位置からだった。
「私の足首でもジャラジャラ言ってますし。これ知ってますよ。鎖の先に鉄球が付いてるんです。簡単には動かせないくらい重いやつが。ご丁寧に両足に繋がれるなんて、さすがに私もはじめてですが」
「めぐみんが何でそんな投獄中の狂暴犯みたいな経験あるのかは、聞かない方がいいのよね?」
パーティー仲間でもある小柄なアークウィザード少女の声である。
少し安心したような顔を見せたアクアだったが、声のする方である右斜めに視線を落とした彼女は、そこに見覚えのあるちんまりとした手のひらと、そして見慣れた顔――ではなく、見慣れた大きなトンガリ帽子が壁に掛かっているのだけを見つけて、緩みかけた口元をまた引き攣らせたのだった。
「仕方ないでしょう!」
トンガリ帽子を揺らし、めぐみんの声が言う。
「すっぽり顔まで被せられてたんですから。それにこんな有様で、禄に身動きなんて出来ません。一度落っことしたら拾えませんよ。……ちょっとアクア、代わりに見てもらえませんか?」
なんだか妙に声が響いてるみたいですが、ここってどんな部屋ですか? 床は、どんな感じになってます? と。
「大事な帽子なんです。汚れた床だったら絶対落とせないですからね」
「…………」
改めて首の生えた下を、足が出ていればこの辺りの筈というぐらいを見下ろしてみたアクアだったのだが、その顔色がますますよろしくなくなっていく。
めぐみんに答えてやるのも後回しで、目にした物に『う、嘘。嫌よ……』と声を震えさせる。
否定するように首を振り、恐る恐るで目を凝らしてみては――いよいよ絶望的に、真っ青に。
「ど、どうしたんですか、アクア!? いったい何が……!」
「大きな声を上げちゃダメよ、めぐみん! あ、あ、あ、あれは……!!」
「そうだ!! あれこそは、かの触手ゲー地獄ネロイドだ!!」
気付かれてはいけないからと言いつつ叫んでいるのも同然になっていたアクアの声に、そこで被せるように、もっとひどい大声が後を続けたのだった。
「だ、ダクネス……? ダクネスなのね?」
それもアクアと同じパーティメンバーの一人だったが、どうやら彼女はめぐみんの更に奥に拘束されていたらしい。遠ざかるごとに湾曲していく壁自体の影に隠れ、アクアの位置からは同じように壁の穴から生える手首ぐらいしか見えない。
なんだかんだ、心細かったのだろう。仲間が二人ともそこに居たと知ってじんわり涙目になってみせるアクアだったが。通路の床をびっしりと埋め尽くしていたそれのことは、このピンチをより深刻にならざるをえない程の脅威なのだった。
「じ、地獄ネロイドなら聞いたことがあります。冗談でしょう? この大陸で最も深いというダンジョンですら出現しないような、超高レベル推奨のモンスターですよ!?」
帽子越しの、『なんでこんな街中で出るんですか!? 駆け出しの街ですよ、ここは!』と、くぐもった悲鳴。アクアの態度の切迫ぶりに、それが冗談で言っていることではないと理解したのだ。
なにしろアクアは冒険者としての登録カードに出ている知力ステータスの値が、仲間内で一番のしょぼさ。根っから呑気なその性格もあって、大抵のピンチには鈍感だ。
それが、いきなり尋常ではない取り乱し方を見せるとあっては――。
「気を失ってる間に遠くまで運ばれてたとかじゃなければですけれど。装備も全部、身ぐるみ奪われているみたいですし。は、裸ですよ、私! アクアもですよね!?」
「わあああーっ! めぐみんが言っちゃったわ!! 麗しの女神として、認めちゃいけないことだったのに!」
「一体……一体どうすれば……」
視界が効いていないだけに余計に気が付いてしまうのに違いない。めぐみんは緊張感を失わせる妙ちくりんな名前をしてはいても、パーティーの中でも一番の知力を誇るアークウィザードの少女だ。慄くような掠れ声は、だからこそ。この万事窮したかの状況が打開困難であることを、ひしひしと噛みしめるものなのだった。
「ダクネス、もっと注意して確かめてもらえませんか? 本当にその、地獄ネロイドがそこに居るのですか?」
「違うぞめぐみん」
一人だけ、やけに声のハリの良い女騎士だった。
「あれは、あれこそは幻のレアモンスター! 触手ゲー地獄ネロイドに違いない!」
どんな冒険者も今まで見たことが無いと伝えられるらしい、その名前を。誇り高きクルセイダー職にある彼女は、望むところだと吠えてみせるのだった。
「なんですか、それは!」
「うむ」
いつもの様子からすると大きく頷いてみせたのだろう。
パーティーの壁役を務める頑丈一徹の女騎士は、モンスターについては一家言があった。なにげに名家の貴族令嬢だ。方向性として偏りがあったにしても、ダクネスは一級の蔵書から得られる知識も豊富なのである。
「触手ゲー地獄ネロイドは、触手ゲー地獄ネロイドだ。ネロイドという有り触れた名前で呼ばれてはいても、地獄にのみ棲息するという特に珍しい種が地獄ネロイドなのだそうだが――」
「あんなモノ!」
キッと顔を険しく、嫌悪を剥き出しにして。アクアが喚いた。
そちらの方は彼女がここまで怯えるような存在ではないのだろう。
「地獄ネロイドなんて、昼でも暗くてジメジメしてて、見渡す限りばっちぃ地の底なんかに好き好んで引っ込んでる、穢らわしい悪魔族の飼うペットじゃないのよ!」
「まぁ、実際に見たという話は聞かないからな。色々な説があるのだろう。これも大変に凶悪なモンスターだとは伝わっているのだが」
しかしと、意気込むかの調子で続ける。
「触手ゲー地獄ネロイドは全くの別物だ! 伝説によればなんでも、魔改造スライムやローパーといった名だたる女の敵、更には女騎士殺し、姫騎士殺しとも呼ばれたかの幻の絶滅危惧種、純血オークのオスよりもおぞましい、忌むべき怪物達がひしめき合うという……触手ゲー地獄!」
世の女性たちにとっての最悪の運命が待ち受ける。そんな脅し文句を枕詞に伝えられる、謎多き煉獄の地を埋め尽くす悪夢の存在。それこそが、今自分たちが囚われる目の前に出現した、謎のモンスターの正体に違いない。
上擦った、心なしかなんだかうっとりとしている風にも聞こえる説明を、そうダクネスは締めくくった。
「なにしろ詳細が記された書物は大人になるまで読んではいけないとのことでな。取り上げようとする屋敷の者達に隠れて調べ上げるのに、あの頃は随分と苦労したのだ……」
「触手、と付くからにはどんなものだか何となく想像出来ますが、ゲーとは一体……? 触手ゲー?」
「それはきっと、めぐみんたちのご先祖様のとこに居たみたいな日本のひとたちが名前を付けたのね」
勿論、状況はなにも変わっていなかったのだから。そんな話を普段のノリで続けている場合ではなかった。
当然のことながら、それだけ騒いでいれば気付かれないわけがないわけで。触手ゲー云々と呼ばれたその名状しがたい外観をしたモンスターたちは、既にアクア達に向かって幾本もの夥しい数の触手を振り上げ、盛んに蠢きながら這い寄り始めていたのである。
「登ってくるんですけど! 登ってきてるんですけど!! 壁を、こっちまで。触手がウジャウジャって……!」
「だ、ダ、ダ、ダ、ダクネス……! もっと何か、何か役に立つ情報は無いのですか!? 対処法とか、弱点とか……!!」
「安心して良いぞ! めぐみん、アクア!」
壁を這い上がり始めた触手の群れから、めぐみんは最も近い場所に首を生やしている。身近に迫った気配に怖気をふるい、本気で慌てだしたところへの、ダクネスの自信ありげな言葉である。
「やつらは一応は同じ種族だとはいえ、街中で見掛ける罪のない野良ネロイドとは違う。不浄の領域を棲家とする、邪悪な生命だ。つまり!」
「アクアの浄化魔法が効く……!」
既にアクアは本格的なパニックに陥りかけていたが、ダクネスの言葉を聞くが早いが『ピュリフィケーション! ピュリフィケーション!』と早口言葉の勢いで魔法を唱えはじめていた。
それで舌を噛んだり、すかさず触手達が距離を詰めてくるのに涙目になったりしながら。
「こ、これで少しは時間が稼げそうですか?」
依然として前が見えていないめぐみんに、ダクネスが微妙に残念そうながら『どうやらそのようだ』と教えてやる。
なにしろアークプリーストとしての能力だけはアクアは一級品だ。共に冒険に出るようになって長いが、一度も魔力切れになったところを見たことのない長期戦向けの頼もしさもある。
「とは言え、いつまでもこのままというわけにはいきません。この隙になんとか脱出の手立てを考えましょう!」
その為にも、もっと情報を。めぐみんに促されたダクネスは覚えている限りだがと断わってから、説明の続きを口にした。
「こいつらの恐ろしさは、どんな種族のメスでも孕ませて一気に増殖することが出来る旺盛な繁殖力と、その為の強力な催淫効果を備えた毒を持つことだ。しかも相当に依存性が高いという」
「ちっとも安心出来ないではないですか!? 乙女の危機ですよ……!」
「だが考えてもみろ。今の我々は……不本意ながら、この分厚い壁の向こう側に体を隔離されている状態だ」
「――っ!? ということは……!」
「そうだ! 仮にアクアの魔法が途絶えたとしても……いや、少々残念ではあるのだが……こいつらに体を穢される心配は無いということだ!」
ダクネスは自信満々に言い切った。
彼女は貴族階級の出身を示す金髪碧眼を備えた、絵に描いたままの「女騎士」だ。力を持つ者も持たぬ者も、あらゆる存在が生き延びることにそれぞれの死力を尽くしているこの世界において、敗北を喫することが何を意味するか。特に、女騎士と呼ばれる者達の場合が語られる上での常套句についても、知らないわけではない。
それどころか、日頃から周囲を困らせる変な被虐願望の持ち主で、しきりに『女騎士としては!』などと、その手の危機を待ち望むかの世迷い言を口にしていたのだが――。
「それにしても」
手が自由に使えたのなら、冷や汗をかいてしまったのを拭っていたところだろう。
ひとまずはと、めぐみんは気を抜いた口調で疑問を口にしたのだった。
「私達を罠に嵌めておいて、一体なにがしたかったのでしょうか? 変態触手をけしかけようにも、こんな壁を立ててしまっては精々、気色悪さと毒を心配しなければいけないぐらいで――」
そこまで言って、『……毒?』と。
めぐみんは顔を引き攣らせていた。
いかにも邪悪な欲望をぶつけてくる準備のように裸にされた体は、壁の向こう側。鎖に繋がれ、足を閉じることも出来ないまま、女性として大事な場所を丸出しで後ろに向かって突き出す格好を取らされている。
そして、女性を強制的に発情させるという触手モンスターだ。アクアが居なければ無防備な顔を毒攻撃から守れないところだった。
「……こ、これは」
――かなり、マズいのでは。
やたら好戦的な性格で『頭のおかしい爆裂娘』だのと悪評ぷんぷんの身ではあるが、一応は想い人もいる年頃相応の少女であるのだ。これは冗談抜きで乙女としての最大級のピンチなのではと、脳裏を過ぎった最悪の想像。それが、その時唐突にアクアが魔法を中断したところから、急展開で現実化していったのだった。
「ピュリフィケーション! ピュリフィケーション! ピュリフィケ――」
効果範囲から不浄の触手達を退け、一種の結界を展開していたアクアが突然声を途切れさせた。
『ンほぉ……!?』などと、美貌に似合わない裏返った呻き。ドタバタ暮らしの中、盛大にお間抜けをやらかして不格好な様を晒している時のような情けなさで、一声啼いて。
「アクア……!?」
「ど、どうしたのだ!」
好機とばかりに殺到してくる触手の群れ。青褪め、声を掛けてくる仲間達に、びっしりと脂汗を浮かべたアークプリーストの美女は、それだけを口にするのも辛そうに訴えた。
「あ、あのね……。なんだか、気のせいだと思いたいんだけど……。壁の向こうで、わた、わたしの……その、おひりっ、おしりに……」
何か、突っ込まれたみたいなの、と。
「……!?」
そこまでを聞くことが出来たのが限界で、彼女たちは一気に顔まで殺到してきた触手怪物達の、粘液にぬめる洗礼を受けたのだった。
不意に開けた視界。触手に跳ね飛ばされた帽子に(ああっ)と、めぐみんは手を伸ばそうとしたのも無意味で、無駄で、
「ンンンンン――!?」
その一瞬にすら押し寄せ、口の中にまで先を何本もねじ込んでこようとする触手たちを、彼女たちは犬歯まで剥き出しにして迎撃せねばならなかった。
「ンホォぉぉ〜! にゅ、ニュルニュルしてりゅ〜!!」
傍らではダクネスが悲鳴とも歓声ともつかない声を。もう一方でもアクアが触手で満たしたバケツに顔を突っ込んだような有様になりながら、青い髪を振り乱して『もががががが……!?』と藻掻いている。
「ペッ、ペッペッペ。にがっ、苦ぁ〜! もう嫌ぁぁぁぁぁ!!」
アクアの泣き言にも心から同意できた。触手を噛みちぎってやると、その体液がやたらになんだか生臭くて苦くてエグみがあって、おまけにヌルヌルしているのだ。
「ねえっ、ねえっ! なんだかコレ、穢れなき女神としては知っちゃいけない味な気がするんですけど!」
「毒に気を付けてください、アクア!」
どうやって!? と涙目になりながら。触手たちから少しでもと顔を背けつつ、浄化の魔法をどうにか再開させようとした彼女だったのだが、
「ピュリっ、ピュリフィケーション! ピュリフィケっ――!?」
詠唱できたのは一回だけ。
「んほぉぉぉ〜!? らめっ、らめぇぇぇ! おひりっ、女神のおひり! 中で掻き回すのらめぇぇぇぇ〜!」
即座に邪魔してきたかのごとく。壁の向こうで何かをされたらしいアクアは、白目を剥きかける勢い顔を仰け反らせた。
あうっ、あおッ、あひぃと、情けない悲鳴を上げて。壁から生えた首と手のひらだけで七転八倒している。
これはいよいよ、よろしくない。
「――ダクネス! 壁を爆破します! 魔力は抑えますが、暫く動けなくなるので後を頼みますからね!」
「にゃにっ!? な、なんだって? そんなことをしたら、全身一気に触手どもにたかられるぞ!」
「どの道一緒ですよ! 壁の向こうには犯人たちがいるんです。そいつらがアクアの体に悪さをしてるんですから……!」
杖が無い分、制御が大雑把になろうとも。自爆覚悟でまず自由を取り戻す。
「いっそ壁ごと、向こうの連中も巻き込んでやりますとも!」
既にこちらは大ピンチだ。それが大々ピンチになろうと大差はないのだから。だったら、犯人共も同じピンチに引きずり込んでやれば良い。
頬までたかってきた触手に気品のある美貌をぬちゃぬちゃと撫ぜ回され、顔を赤らめていたダクネスだったが、それを聞くと即座に頷いてみせた。『分かったッ。やれっ、やってやれっ』とけしかけてくる。
「あひっ、おひりっ。ぉほほぉぉぉ! ンおっ、ぉっ、ッま……まま待ってめぐみん! それは死なば諸共ってやつじゃ」
「その通りですよ! 爆裂道とは、自爆にありと見付けたり! 我が人生に一片の悔い無ぁ〜し……!!」
紅魔族の特徴である赤い瞳が輝き出す。体内魔力を集中させ、ナメクジの肌に似た触手の胴に首を巻かれたまま、爆裂魔法の呪文を唱え始める。
詠唱の途中を端折って、(アクアがされたみたいな邪魔を入れられる前に……!)と急いだものの、しかし。めぐみんの威勢の良さもそこまでだった。
ずぶぅ――。
その感触を我が身で味わって、めぐみんは悟った。あれでアクアは随分と冷静さを保って、控えめに訴えていたのだ、と。
「あぉぉぉ……! おぉ、ぉおぅ!?」
呪文を続けるどころではなく、めぐみんもまた全身を硬直させて戦慄いてしまっていた。
パンツすら奪われ、ひんやりと直に空気に撫でられていた尻たぶを、何者かが鷲掴みにしたと思いきや。突如アヌスの窄まりに押し当てられ、前置きもなくめり込んできた――。
それも束の間。ぬるりと濡れた感触と共に奥まで、一気に押し込まれてしまったのだ。
剛棒を思わせる感触の、肉塊を。
「おぅッ!? ンぉ、ぉぉほぉぉ……!」
ちかちかと火花を散らすようにして瞳孔を縮めてしまっている赤い瞳。種族特性であるそれ以外は髪型もその色も別段派手なところのない、おかしな遊びを覚えている風でもない、普通に可愛らしいだけの女の子なのに。
場末の売春宿でも後がなくなってきた年増酌婦が受けるような、そんな仕打ちでもなければ女の子の口から上げられてはいけない類の、声。
めぐみんは無残に、豚のように啼かされてしまっていた。
あっという間に、深々と。そこまで後肛の狭い中をこじ開けられ、飲み込まされてしまっては――。もはやだった。
「あひっ!? ひぃっ、ぃヒィィィーッ!」
喉奥から突き動かされるままに口を大きく開きながら、めぐみんは理解していた。いくら無様だろうと、おかしな声だろうとも、迸らせてしまうのも仕方がないではないか。
(ぉ、男の人の、アレがっ……!?)
何か、などとアクアは取り繕ってみせていたが、そんなわけがない。経験の無い彼女にだって直ぐにそれは分かった。
めぐみんは今唐突に、乙女の初体験を散らされてしまったのだ。
それも肛門を使ってだなどという、特殊なプレイからで……!
壁の向こうでは、じたばたと暴れてみせる余裕すらなかった小柄な肢体が、ピンッとつま先立ちになるまで素裸の全身を緊張させていた。
そして小さなヒップの真ん中に打ち込まれた、誰とも分からない男の完全勃起のソレが、お子様めいた体型相手でもまったく気に留めない強引なピストンを見舞ってくる。
純潔の喪失に思わず涙が溢れそうになった、その悔しさを味わう暇すら与えられない。
「おふっ!? おぐっ!? おぅっ、おぅっ、おぅぅ……!」
きっと相手は体格の良い男だ。アクアやダクネスのようにはまだ身長が伸びていない彼女では、突き出させているヒップの位置が合わなかったのだろう。鉄球に繋がれた足首の鎖を引きずるようにして、肩幅まで開いていた足を揃えさせられると。その分だけほんの少しだけ持ち上げられたアヌスに向かって、また猛然と腰を振るいだす。
焼け付く程のおぞましい強張りが、喉奥に迫ってと錯覚するぐらいにずぶりと凶暴に潜り込み。逆に帰りは、ずるるるぅ――と、ゆったり噛んで味わせるかの加減で引き抜かれていく。
そして、『はぉォ、ぉ、ぉぉぉ……』と排便のそれにも似た安堵じみた感覚を残していく。
情けない呻き声を、ろくでなしのふざけ半分で蹴り回される子犬のように、ひぃひぃと手もなく上げさせられてしまうのである。
それが勢いよく繰り返される。繰り返され続けるのだった。
「フぅ゛ッ、ふぅぅぅ〜ッ! だめっ、ダメです。こんなのっ、とても……! あああああ、お尻で、おひりでおかしくなる……!!」
罠を力ずくで食い破ろうと戦意を滾らせていた、この爆裂呪文使いの女の子は。ここまでの幾らもしない僅かの内で、今までの人生では全く無縁だったおぞましいアナルセックスの感覚を、急速に覚えさせられているのだ。
その、本来の窄まりを目一杯に拡げさせられている肛門からの責め。顔も姿も見えないレイプ魔による悪夢めいた勃起嵌入を手助けしている、粘液のぬめりが。お尻の深い所をじっくり焼きながら染み込んでくるようで。
全身を鳥肌立たたせるその感覚に見出してしまうのが、嫌悪と不快だけではないのが恐ろしい。
「んぉ゛、おぉぉ゛ぉぉぉ……!? いったい、どうなって……!?」
時追うごと、排泄孔を好き放題出入りしていく動きの中に怯えてしまう瞬間と安堵の瞬間の違いが生まれていき。二つの差が、苦痛と快感として認識出来るように変わっていく。
「あ゛え゛っ、おおっ! おひりっ!? わ、わたひの……おひりっッッ!?」
「めぐみんっ、めぐみんっ! しっかりしろっ。あああっ、アクアもっ……!」
しきりに名前を呼ばれ励まされてはいたが、もはや突然のアナルバージン破瓜に圧倒されるばかりでいるめぐみんには、耳に届いてすらいなかった。
人並み程度、年齢相応にしか性的に成熟していなかった少女に、それは強烈に過ぎる、あまりにおぞましい初体験だったのだから。
「ンぉおおおッ!? おほぉぉぉ……! ぉ、おぅふ。おぅふ! おほぉぉぉ……!!」
グンっ、グンっと一定のリズムで犯してくるそれを覚えさせられ、タイミングを合わせる懊悩の悲鳴で、野太く呻きを上げさせられる。
壁中に蔓植物じみて広がった触手達に首元まで埋もれ、悲鳴の合間にそのちんまりとした唇を犯され、瞼まで覆われ隠されて。顔中を不潔な粘液で穢されて。
ざわめく触手の枝々のうねりの中、同種の揺らぎで首を、ねばつきを毛先から滴らせる黒髪を、彼女はゆらゆらとうねらせる。
愛らしい顔はもうすっかり、赤く火照った扇情的な表情へ変えられてしまっていた。
「だめ……だめです……。こんな風に、こんな風に感じてひまうのはぁぁ……」
アヌスから直腸内に汚染を拡げきった粘液が、触手によって口から含まされた毒液と揃って、抜き差しならぬ効果を発揮しはじめていたのだった。
ぼうっと熱に浮かされたように潤んでいる眼差しに、今やどれ程の理性が残されているのか。
「ぁ、ぁぁぁ! アッ、ああっ。お願いです、アクア! アクア! ひ、ヒールを……。おひりがっ、私のおひりが、や、焼けそうなんです……!」
刹那息を吹き返した危機感が叫ばせたが、返事は無かった。
頼るべき回復職にある優秀なアークプリーストは、既に少女同様、がくんがくんと壁の向こう側からのリズムに合わせて首をうち揺するだけになってしまっていたのだから。
「らめっ、らめっ。ンぁぁぁぁッ、らめぇっ! 女神の……純潔っ、じゅんけつぅッ。こんなにゃ、ばひょで……」
ねっとりと粘液にまみれさせたその青い髪を波打たせて、『おひりッ』と『アソコぉ』と交互に喚いて喘ぎを洩らしているのだ。尻穴と秘裂とを交互に犯されてしまっているのだろう。
「ぁオッ! んぉぉぉンッ! ンンッ、ンンッ! だめっ、だめだわ。天界……追い出されちゃう! 出されちゃうのに! 感じちゃう……!!」
ぐらぐらと揺さぶられ続ける顔には、とっくに普段の輝く美貌も、眩しいぐらいに脳天気な笑顔も、存在してはいなかった。
「なんれぇ……? なんれッ、なんれこんなに、っアアッ! アアアッ! ……っ、っッ。下賤にゃ、クズチンポなんかが。女神の、ぁ、アソコにッ!」
正気を失ってどろりとした瞳は宙をさまよい。舌をはみ出させて悩ましく快楽を叫び続ける口元には、白痴めいてべったりと涎が垂れ落ちていた。
「こんな、こんなぐちゃぐちゃ掻き混ぜて、気持ち良いとほろを……ッ。堪らないわ。堪らないの! わたひ、女神なのに。女神のしちゃいけない、おひりなのに。我慢出来にゃいのぉ――!」
最後まで仲間を励まし続けていた金髪の女騎士もまた、最早見る影もない。
処女膜を貫かれたと思しきあたりで抵抗する気力を失ったらしく、父親とここには居ないパーティーメンバーの男の名を呼んで啜り泣いていたが。男の生殖器と見紛う触手から顔中に毒液を浴びせられた後は、一変してしまっていた。
「もっとぉ、もっとぉ……!」
一塊の群体となった触手の波間に隠れた、そのペニス型器官を余程に求めてなのか。
「りゃっ、りゃりゃてぃーなに。もっと、もっとペロペロさせへぇ……!」
れろれろと卑猥に蠢かす舌先でそこらの触手を舐め回しては、進んで鼻先を群体の中に突っ込み、甘えているとしか聞こえない声でねだり続けているのだった。
「ンはぁぁッ! いい、イイ……! 本物のっ、男も……。こんにゃにイイなんて! 中っ、なかぁっ! ああああ、赤ちゃんが出来てしまうのにっ。抉られりゅぅぅぅ〜!」
「アクア……。ダクネス……」
朦朧とする少女の目尻にまでも触手はたかり、こぼれ落ちたばかりの涙の雫を、あっという間に穢らわしい粘液と見分けが付かないようにしてしまうのだった。
◆ ◆ ◆
――哀れな生贄である彼女たちに窺い知る術は無いが。
壁の向こう側では三人分、壁から生えた裸の女達が汗だらけになって全身をくねらせ、犯されている後ろに、男たちの列が作られているのだった。
なにしろ最後の一枚までも剥ぎ取られている無防備な姿だ。大小、三つのヒップは日に焼けない青白い部分をすべて晒し。床に向かって揺れ弾んで汗を滴らせる、大人の女の豊満な乳房から、青い果実じみた小ぶりの膨らみ。三人三様、ぱくぱくと口を開けている様子まで何も隠さない割れ目の場所まで。美女、美少女の全裸が、ランプの明かりにすっかり薄桃色に染まった官能的な肢体をてらつかせていた。
左右の二人なら、どちらもが見事なプロポーションの持ち主であるのが一目瞭然の上、下の毛の色で見分けは容易。その上で、どれがどの獲物の肉体だと分かるように、尻たぶには一人一人「アークプリースト、アクア」「頭がおかしい方の紅魔族」「ダスティネス家令嬢、ダスティネス・フォード・ララティーナ」などと書き込まれているのだった。
酒だの肉だのを食い散らかしながら順番を待つ彼らがニヤニヤと見守る前で、一番人気の貴族令嬢の尻に取り付き、気持ちよさそうな声を上げていた男が、満足の顔をして離れていく。
途端、金髪の茂みまでどろどろにされた下半身からは、男たちが注ぎ込んだものと女自身の溢れさせたものが混ざりあう粘液が滴り落ちた。
男は使い終わったついでで、ぴしゃりと尻肉を引っ叩いていったが。それすらも、その淫蕩の限りに飲み込まれた貴族令嬢は、快感として受け止めたようだった。
いかにも堪らないとばかりにぶるぶると震えると、膣内を穢されたばかりの秘処からプシッと飛沫が飛ぶのだ。
――潮を吹きやがった。
下卑た声で笑いあった男たちからまた一人が進み出て、その尻穴と膣とを選んで犯していく。
膣の味わいを楽しみながら尻穴を刺激してやると、分かりやすい反応で締め付けてくるアークプリーストの使い心地にも、男たちは満足しているようだった。
やがて周囲から物好きだ何だと囃し立てられながら、見るからにそういった対象にするのは早すぎるだろうという未成熟な肢体の背後にも、また一人が立った。
ズボンを下ろして、自分の持ち物を取り出す。
何か思うところがあってのことなのか、からかわれた通りに幼女趣味だったのか。逸物は完全に勃起し、天井を向かんばかりに興奮を漲らせていた。
いかにも幼げな体つきで尻を差し出す、痛々しいとも映るその後ろ。そこへ先に並んだ男たちは、何人もは居なかった皆が皆、アナルの方を使ったのだが。この男の場合、突っ込み具合もいかにも良くなさそうな、まだまだ固いだけに見えるその膣だろうと寧ろ、構わないというらしい。
屹立をしごきながら準備を進めていく。
無毛のスリットに自身を押し当てようとする前には、希少種ネロイドから絞った秘薬であるという粘液を指に掬い、小さい膣口に潜り込ませていった。
びくりと背を震わせた少女の、未通の証を確認したのだ。
そうして口元を綻ばせんばかりすると、いよいよ男は窮屈なそこへ、膨れ上がった獣の欲望をねじ込んでいったのである。
『っ、っッああ゛あ゛あ゛――ッ!!』
毒の催淫作用に溺れるアークウィザードの少女の叫び声とは、分厚い壁が完全に隔ててしまっている。
だから。華奢な、肉付きの薄い太腿の付け根に、紅い血の筋を垂らしたその少女がどんな貌と叫びで、その破瓜を迎えたのか。それは、奪った当のその男にも皆目見当がつかないのだ。
男に伝わってきたのはただ、狭隘な膣をこじ開けるようにして抽送を打ち込んでいる内に、みるみる間にその未成熟な媚肉が熱を帯びた愛液に満たされていったこと。
細い腰を掴んで、折れても構わないと力いっぱい押し込んでやった突き込み。それに、ぐんっ、ぐんっとそのロリータボディの方から撥条の効いた腰遣いが返されてくるようになったこと。
積極的なそれが更にはすぐに、えも言われぬ二人掛かりの淫らなダンスへと進化していったこと。
たちまち我慢出来なくなって迸らせた膣内射精の滾りを、ちっちゃな膣が進んでのように『きゅぅぅ』と締まって、飲み干した。その満足感だけなのだった。
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