ヒカリ日記
Original text:引き気味
『 週末の買い出し(上) 』
「あれ?」
と先に気付いたのは、アスカではなく横にいたシンジだった。
同時にヒカリも、真向かいからの週末の人の流れの中、自らの友人達の顔を認めたようで、軽くを目を見開いた後で挨拶を寄越してきた。
「アスカ。それに、碇君も」
「珍しいじゃない、ヒカリ。一人?」
「……え? あ、うん。そう、そうなの。ちょっとその……、こっちのお店で良いセールがあったから」
それだけで、ヒカリと同じくスーパーの袋をぶら下げたシンジが納得の顔で頷く。
一拍遅れで『ああ……』と合点した風に声を出したアスカは、同居人に随分と膨れたビニル袋を両手で四つも運ばせていながら、自分は菓子屋の紙包み一つしか持ってはいない。
一目で分かる、気苦労の多そうなシンジの日常の縮図だ。
「ええっと、アスカ達はどうして……じゃないわね。見れば分かるし、お買い物よね。その、碇君がお買い物袋持ってるし……って、私、何分かりきったこと言ってるのかしら」
らしくなく、ごにょごにょと言い訳めいたことを言って照れ笑いをするヒカリ。活動的なジーンズ姿でいたことも相俟って、普段のしっかりとしたクラス委員長ぶりと接しているシンジには新鮮ですらあった。
「そういえば、ここってアスカ達の家の近くになるのよね。駅のこっち側通ってきたことなかったから、気付かなかったな……」
親しく友人付き合いをしているアスカだけなら別に何ともなかったのだろうが、男子の同級生に学校の外で不意に出くわしたりすると、女の子は慌ててしまうものなのかもしれない。
これが彼女のプライベートの、という程ではなかろうけれど、普段の顔なのだろうかと、軽く得した気分だ。
なにしろ、とにかく生真面目な子だと思っていたら、である。
「……こ、これ? その、お姉ちゃんのお下がりなの。私だと似合わないのは分かってるんだけど」
自分の格好のことだと察したヒカリは、恥ずかしそうに頬を赤らめて言った。釈明するかのような言い方だった。
そうしてしまわざるをえなかったのも、分かるといえば分かる。ヒカリの今日の装いは、いつもの校則から一ミリもはみ出さない制服姿とは雰囲気から違う。
シンジにはロック歌手か何かのものに見える、すり切れた感じをわざとさせるデニムジャケット。揃えて、所々に派手なやぶれ目の入ったデニムパンツ。
そこから覗く健康そうな素肌の色が、なにやら見てはいけないものであるかの如く胸をドギマギとさせる。
特に太腿の付け根に近い破れ目がいけない。
少年の家ではいつも、二人のだらしない同居人がもっとあられもない格好をしていたりするのだが。
「……シンジ?」
シンジは、努めて視線をあまり下に向けないでいようと考えた。
「え? あ、うん、なんでもないよ、アスカ。その、委員長も一人じゃ大変じゃないかなーって思って」
洞木ヒカリの家庭が、姉と妹に父親を入れて四人暮らしであるのは、アスカ伝いにシンジも聞いている。特に働いている大人の男がいるのだから、葛城邸よりも一人多いからという以上に、毎日の買い物は多くなるのだろう。
そして週末なら、翌日の分も一度に済ませようとしていて不思議はない。
ビニール袋は一つではあるものの、中学生の女の子の細腕にはいかにも荷が勝ちすぎていないかといったところ。
「あんた、それって嫌味かしら? 私に対する」
気遣いを口にしてみたシンジだったが、思わぬ不興をアスカから買ったらしく、脇腹を真横から肘で突いてくる。
いや、そんなつもりじゃ。第一買い出しの当番は公平に決めたんだから、付き合ってあげてるアタシに感謝しなさいよ。等々、喧々諤々。
やり合いだした二人の様子は、学校でもお馴染みのものだ。
ヒカリもそれで調子を取り戻したのか、最後には『折角一緒にお買い物に出たのに、あんまり意地悪なこと言っちゃダメよ』などとアスカをからかって去っていった。
「ちょっとヒカリっ。変な事言ってかないでよね、もうっ。来週覚えてなさいよ……。シンジも勘違いしないこと!」
「え? なにがさ」
「だからっ。……あーあ、アンタの場合、いつもいつもトボけてるわよね……」
「だから、何がさ。はっきり言ってくんないと分からないよ」
「そんだけ察しの悪い頭してるんじゃ、将来が心配だわって話。あーあ、お先真っ暗だわね、シンジちゃん」
「煩いな。そりゃアスカに比べりゃだけど、別に僕はこの頭で不便はしてないし。アスカに心配して貰うことじゃないよ」
「おまけに、すーぐふて腐れちゃうしぃ。ま、良いわよ。一つくらい持ってあげるから、寄越しなさい。感謝しなさいよね」
◆ ◆ ◆
アスカとシンジの、同居人同士の二人。巨大ロボットパイロット同士の二人。少し常識とは離れたところで生きている女の子と男の子は、終始賑やかだった。
それは途中振り返って、もう一度だけ友人達の様子を確かめたヒカリの目からも明らかで。本当に楽しそうだった。
「……良かった」
おかしいと思われずに済んだろうか。そういった思いで、はぁっと安堵の溜息をついて。ヒカリは友人達と歩いた道をこっそり引き返した。
思わぬところで知人に出くわしてしまったから、不審がられないように当たり前に家の方へ歩かなければならなかったのだ。
本当はもっと手前で落ち合う予定だった。
「……お父さん」
「見てたよ、ヒカリ。そう言えばお前、セカンドの……、あのドイツ支部の子とは仲が良いんだったな」
路肩に停めた車の中でヒカリを待っていた父親が、娘が助手席に滑り込むのを確かめてハンドブレーキを戻す。
ドアを閉じてしまえば、雑踏の喧噪が嘘のように車内は静かだ。
ガソリンエンジン車を知らないヒカリたちの世代にとっては当たり前のことだが、この時代の車は走り出しても軽い慣性が掛かる他は停車時と何も変らない。
だからなのか、親子の会話は知らない人間が聞いていればよそよそしいと感じただろう程に、抑えられた声で交わされていた。
「ごめんなさい。まさか、アス―― あ、あの子達に、ここで会うなんて思ってなかったから」
一度言いよどんだ後で、そうしたこと自体に引け目を覚えたとでもの早口で、後を続ける。
見ていたと言う以上は、遅れた理由を説明する必要は無かったのかもしれないけれども。行きの車内で父親が、ああしようこうしようと楽しそうに口にして決まった予定、「今日のコース」だったのである。
それを変えてしまった、変えさせてしまったという認識は、ヒカリに恐る恐る機嫌をうかがわせるに充分な理由となっていた。
「だから、遅くなってしまったけど……」
そっと見る限りでは、まっすぐ前を向いて、運転に集中している風の横顔。
一番上に大学を受験しようかという娘を持つ父親に相応の、皺と、日々の疲れが刻まれた横顔だ。
暮らしが困窮しているわけではないが、頬はやや削げ、一方で年齢のせいか、皮膚の弛みも見てとれる。
古い記憶にある今よりは若い頃とは、同じようでいてやはり違う。老いもあろうし、それ以上に変ったと感じる。
―― そう見えてしまうのは、ヒカリ自身が向ける感情の変化の分もあるのだろうが。
しかし、 分かりやすい表情が浮かぶ様子はなかった。
(怒って……ないわよね?)
だからこそ、ヒカリは迷う。
怒ってしまっていたのなら、諦めなければいけないだろう。機嫌をとらなければならない。
そうでないのなら、出来れば今日は、もう。
膝の上においた買い物袋の重さを意識する。抱える形で添えた両手。ヒカリはきゅっと、肩に力を込めた。
「ねぇ、今日はもうお家に帰ろう? ひょっとしたら、まだ暫くこの辺りにいるのかもしれないし」
予定通りにすると、だから見付かってしまうかしれないし、と。
「…………」
暫くの落ち着かない間があって、それから父親は、呟きじみた声を出した。
「……確かにな」
ただそれだけの反応。不機嫌そうにも、その逆であるとも、それだけでは判然としない―― 。
本来、表情をはっきりとさせない相手から考えを読み取ろうという場合は、相応の付き合いが必要になる。
友人同士、家族同士であれば、漂わせる空気からだけでも相当のところまで察しが付くのだろう。
ヒカリにとって、母を早くに亡くし、男手一つで自分たち姉妹を育ててくれた父親だ。関係の深さは、特にあの忌まわしい夜以来余計に不足など無かろうが。
だが、過敏なほど父親が不機嫌になることを恐れている今のヒカリには、どうしてもその判断に怯えのバイアスが掛かってしまう。
今、こんなことを言い出して良かったものだろうか、と。さながら、叱られることにすっかり怯え竦んでしまっている子供のようだ。
幼い頃からのヒカリにとって、男は特に厳格な父親だったというわけではないのに。
むしろ、手の掛からない子供だった彼女には、親から叱られたという記憶が無かった。気まま極まりない性格に育ってしまった姉へのヒカリ自身の憤懣を込みにすれば、行き過ぎな放任主義だったとさえ思い返せる。
ところが、そろそろ躾らしい躾という物も不要になってくるこの歳になって、ヒカリは突如にして、父親のきつい「仕置き」に怯えねばならなくなったのだった。
それが故に。
頷きつつまた返された父親の言葉が『予定通りにするのは、やめておいた方が良いか』と、聞き入れてくれるものだった時には、心底にほっとした息を漏らしてしまっていた。
「確かに、お友達の家の近くだったんじゃ、わざわざこっちまで足を伸ばした意味はなかったな」
「う、うん。ごめんなさい、今度はもっとちゃんと……知り合いのいそうにないお店、探しておくから」
そう安堵させてもらった、その途端にで、
「……じゃあ」
と、もう車を家路に向けてくれるのだなと、そう喜色を浮かばせた声も出きらない内にで、
「―― っ!?」
恥辱の時間のひとまずの先延ばしを喜ぼうとしていたヒカリの身体は、再度の強ばりにびくりと一際大きく、震えてしまっていた。
「お、お父さっ」
予定は取りやめにしようと言ったばかりの父親の手が、ヒカリの膝に伸びてきていた。
右手ではハンドルを握り、休日前の混み合いで普段よりペースの緩やかな車の流れに合わせながら。一方でゆっくりと、ヒカリの膝頭を撫で回す。
それは「その先」へのサインだった。
膝頭の次には、すすっと内腿へ移っていく。
「…………」
手慣れた手付きが、ジーンズ地越しに腿の内側のやわらかい肉づきをまさぐり、付け根へ向かって手のひらを這い上がらせようとする。
それ以上には、膝の上で抱いていた買い物袋が邪魔になる。
だがさすさすと、ヒカリの背筋に鳥肌立つ感覚を与えつつ撫でさすってゆく手付きに引き返す気配はまるで無い。
事ここに及んで、この手のひらの動きに、意図は明白だ。
ヒカリが理解し損ねる筈が無かった。
親子の絆があるという以上に、忌まわしく記憶に刻まれたあの『初夜』を経て、事実上実父の幼妻として日々貪られているこのミドルティーンの肉体には、伝えられた体温だけで充分なほどの判断材料が蓄積されてしまっている。
男が何をするつもりなのか、その相姦の日々による記憶からたちどころに見当が付いてしまう。
「ああっ……」
溜息は、諦め。やっぱりなのねという嘆きの、こぼされた吐息だった。
やっぱり機嫌を損ねてしまっているのなら、その解消を求めているのなら、ヒカリは宥めなければならない。
ご機嫌取りをしなければいけなかった。
わずかにでも後延ばしに出来ると思った、恥辱を受け入れて。父親にその娘がするのとも思えない、破廉恥な媚びへつらいをさえしてみせて。
それが彼女の受け入れた、役割だった。
「…………」
少しだけ待って、とも言わない。
彼女は足の間から邪魔になっていた荷物を床へ下ろし、そのまま、膝を閉じずにおいた。
「お父さん……。家でも、出来るから」
どうせこうなったら何を言っても聞き入れてくれたりはしないのだと、半ば以上諦めていても。それでも、せめてを言下に訴えつつ。
しかし、一度父親が欲望を露わにしたとなれば態度はあくまで従順に、言われる前から先を察して姿勢を変えておきさえして、どこまでもやり易いように。つまりは、父親がその躰を欲望の捌け口に使い易いように。
そういった気の利いた娘ぶりを、異常なかたちで、歪みきった関係の中で、発揮するのだった。
「……あっ」
そう、実の娘でありながら。
ヒカリは拒まない。
自分を襲って女に仕込んだ父親が、ジーンズの太腿に開いた―― ともすれば下着が見えてしまいそうな場所で開いた破れ目から、指を滑り込ませて来ても、既にそこは力を抜いてある。
そして、今日は下着も着けてはいなかった。
多くの買い物客達の中に紛れて、本来ならば下着が覗いてしまってすら恥ずかしい部分のむき出し状態をちらちらと、際どく危うくさせた穴開きジーンズで歩き回る。そうやって、もしもの危機感に耐えて買い物をすませる。
これが今日の「予定」の一つ目だった。
「……ッ、んぅっ」
ダッシュボードの下で、女の子っぽさも控えめな薄ピンク色をしたスニーカーの爪先が、くんっと仰け反る。
生地の内側に差し入れられた中指が、まばらに秘毛のけぶりだした土手肉をさわさわと撫ぜてくればもう、次には人差し指と二本で秘唇を貫いてくる段なのだ。前置きはない。
年頃の少女の一番に秘めておくべき粘膜が直接、早速に辱められたのだった。
「友達と、そのボーイフレンドだったか。たしかセカンドとサードは悪くない付き合い方が出来ているんだったな。その前でどうだった? ヒカリ」
決して無視できないいじわるな指摘も、どこか上の空に。
「んっ……、んっ、んっっ」
反射的にきゅっと引き締めてしまった肉の扉へもぐり込む指先二本に、『トッ、トッ、トッ―― 』とヒカリの鼓動が加速を増す。
濡れた感触で、くちゅりと。まだ前戯も前戯だと分かっているかき混ぜ方で、軽く膣の前庭をほじくられてきても、とうに少女は潤いきっていた。
ヒカリのそこは、同じ屋根の下に暮らす相手と関係を結んでしまったという事情柄、既に歳不相応の経験を重ねている。
ちょっとした時間さえあれば何時でも男は少女を押し倒せるのだから、同棲をはじめた恋人たちや蜜月の新婚夫婦にも引けを取らない頻度。
加えて、家には他に同性同士のセックスを覚えてしまった姉妹もいる。
であっても。いまだ可憐な造形は幼い処女の風情そのままで、肉ビラの露出も見られない一筋のクレヴァス。足を緩めていようと、切れ込みのはじまりに肉芽の鞘がかろうじて確かめられる位。
男はその包皮のすぐ下に、中指の先を押し込んでいた。
「あっ」
小突くように、過敏なクリトリスが包皮ごと圧し揉まれた。
重なった人差し指は、ちんまりとした膣口の位置。すぐにまず爪の分だけ、潜り込む。
いずれの箇所も、少女は敏感な性感帯に開発され済み。露出プレイじみた「買い物」に歩かされて、その間ずっと(この後は、これが終わったら……)と意識していた分、有り体に言ってスイッチも入ってしまっている。
じんわり、甘やかな痺れが触られている場所から広がりだす。
「あっ、はぁっ。くふっ……んんん」
ヒカリの押し殺した呻きが、静かに走る車内を舞台にした淫靡な一時の幕開けだった。
いくら今は堪えてみせようとしていても、すぐに我慢出来ずに可愛らしく喘ぎ出すのだと決まり切っている。
姉のコダマなら誘い返しさえする歓迎の声を上げ、妹のノゾミがわくわくと無邪気に先をねだるのと大して差はない。まずは嫌がってみせて、そこを押し切ってもらいたがるというスタイル。ヒカリのプレイにおける趣味なのだと、父親は捉えていた。
「うあっ、はっ、くぅ……っ、ンンッ」
気乗りしない風を装って、その癖に堪えきれず喘いでしまう度、きゅっと噛みしめ直されている唇。
ならばと、そこから赤裸々な本音を引きずり出すべく、男は愛娘の脆さが集中してツンとしこり出している真珠の粒を、徹底して可愛がってやればいい。
ねっちりと、揉んでやればいい。
「……ッ、んんっ。ンッ、ンッ、ンンゥっ……ンぁうんっ!」
強情な息遣いもすぐに跳ねだして、女の入り口が緩んでいく。
見逃さず、男は人差し指を進めた。少女が最も体温を上げている粘膜の隙間で、更に熱く蜜を湧き出させている小径を遡る。遡っては引き戻し、また侵入を進める。
娘の表情を確かめながら行ういじわるな指ピストンは、とことん残酷にヒカリ好みの愛撫を心がけたものだ。乱暴な刺激は控え、あくまでソフトに。じわじわと、しかし着実に、大人になりかけの官能を着火させていく。
じきにあっさりと、ヒカリは切なく啼かされてしまっていた。
運転席から助手席に伸ばす都合上、それもジーンズの太腿に開いた隙間からこじ入れているという制限下、ハンドルを握りながらではあったが、指先の器用な動きはまるで別の生き物―― 脚を広げた蜘蛛が、狭いそこで蠢いているかともの程。
「ンッ、ン、んぅっ。あうっ」
落ち着きを無くしたヒカリが、シートに沈めるお尻をもぞもぞと悶えさせる。
そこに折々ビクンと混ざる、見え見えの反応。
ほんの14歳の、まだまだ子供でしかない娘の股間を、服越しに指で犯す。そんな父親の歪んだ欲望を迎えているのは、乾いた嫌々の性器ではない。やはり今日も、自ら卑猥に収縮して指先を銜え込む、淫蜜の熱い肉花びらだった。
女にされた夜から繰り返し馴染まされているのだから、そこが特に従順になっているのだった。
誰が自分の主人なのか、誰のために淫らに花咲かすべきであるのかを、よく理解しているのだった。
まして、である。
「学校で一緒に勉強をしている男の子の前でもあったわけだ。お前のことだから、どんな調子で接しているかは想像が付くな。クラス委員として、か? 余計に恥ずかしくって、それで濡らしていたんだろう。もうこんな風だものなぁ」
くちゃくちゃと、恥ずかしい水音の目立つかき混ぜられ方をされてしまう。
「あ、あ……」
顔はさすがに背けてしまっていた。
『あんた、素質があるのよ』といじわるな姉が言う。
妹などは、子供そのものでしかないあどけない顔をしているくせ、『マゾって言うんだよね。お姉ちゃんみたいに、嫌だ嫌だって恥ずかしがってるけど、ほんと凄く興奮しちゃう女の人のこと』などと、どぎつい言葉を使ってみせる。父親達と一緒になって見ている、いやらしいホームページから仕入れた言葉だった。
(ここが、いけないのよ。ここ、お父さんの匂い……いっぱいしてるから……)
車内の狭い空間にしみついた、男親の体臭のせいだとも考える。
しかし、責任転嫁の先を探す少女の思考は、裏返せば、実父にもはや常に「牡」を意識しているのだと認めているも同然のことでしかない。
真っ赤になって窓の方に俯いている様子を、前の車の動きからちらりと横目に離した確認で見て取って、中年男が卑猥な揶揄を続けた。
「普段さんざん堅苦しい事を言っておきながら、ちょっとしゃがんだりして破れた場所がずれれば、ここが丸出しになるような格好でよくもなぁ」
『ここ』と言うのに合わせて、娘の膣口に食ませた指先をくにくにと動かす。
「普通に……歩いてるだけなら見えないからって、お姉ちゃんも、お父さんも」
蚊の鳴くような声だった。
私がいやらしく、おかしくなってしまっているのは、お父さんのせいじゃないのか、と。
羞恥に呻く下からの、いじらしい反駁だ。
だが、言い訳にもならないことはヒカリも承知している。
見えやしないと言って宥める方も宥める方なら、それならと渋々頷く方も頭がおかしいのだ。最初から結局は受け入れると双方分かりきっていれば、渋ろうが嫌がろうがお為ごかしでしかない。
つまりこれも、ヒカリのプレイにおけるスタイルなのだというだけのこと。
元より、ヒカリに父親の求めに対する否やは存在しない。
男やもめの父親の、妻代わり。代役を果たすと誓ったのなら、だ。
だから、信号待ちの時などにはすぐ隣についた車から覗き込まれそうな、こんな中で悪戯をされるのも、我慢せねばと。ただ健気に。
「あっ、あ、ああ……っ」
涙ぐんで嫌々と身を捩らせる一方ではまた確実に、禁じられた関係で性器を愛撫される悦びで、喉を喘がせもしている。
「あくっ、ッ、ンンン。おとうさ、あっ、はひっ」
それは、下の口からひっきりなしに吐き出している蜜と共の、吐露なのであった。
はっきり認めるのを避けたがるヒカリの趣味―― モラルへの最後の未練が邪魔をしているせいで、中々素直に表すことの出来ない、やっと愛撫して貰えたという歓び。
どう言い繕おうと誤魔化せぬ域にまで、はっきり肉の悦びを目覚めさせられた女の子。哀れな牝妻中学生としての、ヒカリの歓喜なのだった。
恥ずかしい格好をさせられての買い物。始終すぅすうと破れ目から入る風にノーパンの股間を吹かれていた時から、子宮が求めてしまってならなかった、ダイレクトの刺激なのだから。
恥ずかしい目に遭わされるのは嫌でも、その後は必ず気絶するまで抱いてくれて、腰も立たないほどに溶かしてくれる。不潔なことだ、許されないことだとは思っていても、実際父親にされるセックスは気持ち悦い。
その禁断の味を、ヒカリは覚えてしまっている。
そして自覚しては、自らの堕落を嘆き悲しむ。
この煩悶ぶりが、男に満足そうな薄笑いを浮かばせるのでだった。
「ひうっ、ッ―― ふ、っふッ、も、もうそんなところ、にっ……ゆびぃぃ」
「我慢できないのはお前の方じゃないのか? いやらしい声を出して。とっくにびちょびちょの、涎塗れみたいだが」
「ひどいわ。っ、あッ、言わないっ、で。……ンああああっ、あぁーっ」
「昨日の夜はノゾミを可愛がってやって、お前には朝にしゃぶらせてやっただけだったからな。早くこいつでずっぽり嵌めてもらいたいんだろう?」
「そんな、ことぉ……っ」
「ほら、こんなに食いしん坊になって、お父さんの指を締め付けて」
「そっ、それは……は、反射的に、からだが……。だからっ」
躰の中に窮屈に侵入した感触が、ゆるりゆるり前後に動かされる。それだけの些細な摩擦が、ヒカリの力みかえった膝をガクガクと震えさせた。
「あっ、あうっ! はひぃっ!? ひっ、あうっ」
「でなきゃ、コダマが着ていけという格好ならもっと嫌がっただろ。前のお前ならそうだった。今はどうだか知らんがな」
「……ひどい。前って……ああっ、お父さんが……わたしに、したのに。こんな風に……したのにぃぃ」
一言返すのにも、声が震え震えに上擦ってしまっていた。
胸の谷間にきているシートベルトの感触にさえ、乱暴に乳房を揉まれる記憶が蘇ってしまう今の状態のヒカリなら、仕方がなかったろうか。
両胸の頂で、乳首もすっかり尖ってしまっていた。
ピンクの無垢な色をしているのに、服の下ではもう欲しくて欲しくて溜まらないといった風情にしこり勃って、いじわるに揉み潰してくれる指を求めている。
吸い付いて熱心にしゃぶってくれるノゾミの唇が、思い出されてならなかった。
昂ぶりきってもう、これよりは無い過敏な状態。
ブラジャーは許されているので、服の内側で直に擦られずに済んでいるものの、それは脱がされた時に父親の目を楽しませるためのコーディネート。ニプルを隠すか隠さないかギリギリの面積のハーフカップを、コダマは選んでいた。
あまり激しく身体を動かしてずれてしまうと、耐え難い刺激に耐えねばならない場所が増えてしまう。
「あ、あっ、はあっ……」
力の入らない肩をくたりとドアに預けて、ふと向けば、外と隔てるガラスにはヒカリが短く吐く息の曇り。そして、うっすら透けて映るヒカリ自身の顔。
とろんと潤んだ目をして、あの淫らな姉が声を高く上げて蕩けている時に似たみっともない表情を、今にもしてしまいそうになっている。
(わ、わたし……)
自分で見ても、まるでぱっとしない地味な女の子だと思うのに。
そばかすだって目立つ。髪型も、中学2年生になっても垢抜けないお下げのままで、冒険できずにいる。
それなのに、こんな「エッチな顔」をしてしまっていると、ドキッとするほど大人びた風に見える時があって。
いつも輝いているあの友人に負けないくらい、自分だってオトナっぽく見せられるのではないか。なんて馬鹿な考えすら浮かんで来そうな―― 。
少し前なら決して直視できなかったろう無様さを受け入れてしまっている自分が、そこにいた。
From: 【近親相姦】ヒカリ日記スレ【爛れた洞木家】