続(いてない)ヒカリ日記
Original text:引き気味
『惣流家合流ルート 』
「ふぅん?」
「ほほう、これはこれは……」
出来すぎのような偶然ですなと、男達はもう気を取り直していた。
奇縁、というのか。
しかしそれもこの火遊びにとっては良いスパイスとなってくれるだろうと考え、そして同じ考えでいることを察し合って、鏡に映したような薄ら笑いをそれぞれの顔に浮かび上がらせていた。
そして二人の大人達の間では、彼らの娘らが真っ青になって互いを見詰めていたのである。
「アスカ……」
「ヒカリも、なの……?」
洞木ヒカリと父親。そしてもう一組の親子、惣流・アスカ・ラングレーとその父。今日、このホテルまでやって来て、約束のラウンジでソファ席に向かい合うまで、連絡を取り合っていた相手の素性が何者かであるかなど、知りもしなかったお互い同士。
ヒカリはここにアスカがやって来るなどと想像だにしていなかったし、アスカもそうだった筈だ。
少女たちはなんでどうしてと頭の中を真っ白にし、そして学校で最も親しくしている友人について知りたくもなかったことを知り、知られたくはなかった秘密を友人に知られてしまった恥ずかしさ、いたたまれなさに、ガチガチを歯を鳴らして震えていたのだった。
◆ ◆ ◆ 近親相姦。これは万国共通のタブー、禁じられた行いである。
世の全て、隅々までもとまではいかないだろう価値観であるが、少なくとも先進諸国と自らを称する国家、社会においては固く禁忌として戒められていた。
しかしわざわざ禁止されているということは行う者達がいるということであり、世間に隠れて自分たちだけの密かな愉しみに浸っていた彼らは、現代になってインターネットという画期的なツールを手に入れていた。
一つの家の中で完結していた行いが、世界中からほんの少数を抜き出して結び付けることのできるネットという場を得たことで、横の繋がりというものを構築するに至っていたのだ。
◆ ◆ ◆ 「キエン、お分かりになりますかね?」
「ええ、ええ、大丈夫ですとも。わたしはこれでも日本人の妻を迎えた男ですからね。まぁ、あれにはドイツの血も混じっていたわけですが。それに娘はこちらの学校に通わせている。学校生活で言葉に不自由をしているとは聞いておりませんからな。なにも問題はありませんとも」
―― そうだろう?
そう言って、友人の肩を叩く四十がらみの長身の男。外人の男の人。
ヒカリの目から見たアスカの父親は、やはりあのアスカ父親であるだけあって伊達男と呼ぶのが相応しい整った容貌の持ち主だった。
自分の父親とは違い、上等そうなスーツをごく自然に着こなしてみせている。
金髪碧眼。絵に描いたような白人の紳士然としたこの男性が、自分の父親と同じようにどうしようもない変態で、あのアスカを―― 自分の実の娘を女として扱ってセックスをしているのだとは、とても信じられなかった。
(でも、そういうことなのよね)
この約束の待ち合わせ場所にやってきたということは、だった。
「いやぁ……。しかしまさか、お宅の娘さんとうちのこれがねぇ」
いかにも嬉しそうな声を出して父親が言う。
無意識の内になのか、その手はソファの隣に腰掛けるヒカリの太腿をしきりに撫でさすっていた。
舞い上がっているのがよく分かる。こんな人の目のあるところで、親子のスキンシップで説明できる範囲を越えた真似をしでかしてくるなんて。
(お父さん……)
やめて欲しいという一言が、どうしても口に出せない。
どんなに小さな声で言ったとしても、真向かいに座るアスカには自分の声を聞かれてしまうと思うと、俯いてぎゅっと唇を噛みしめることしかできなかった。
アスカにしても、最初に顔を合わせた瞬間、思わず洩らしてしまった一言を除いてずっと、沈黙を守り続けている。
きっと、かける言葉を見付けられずにいるのはお互い様なのだろう。
「ラングレーさんが私らと同じで、第3新東京市から繋いでいると知った時も驚きでしたけどね」
「いや、まったく。お互い、こんな趣味ですからな。身近なところではとてもとても同士を得ることなど叶わないものと諦めておりましたが」
「はは、てっきりお住まいはどこか海の向こうだと思っていましたよ」
親たちの方は自分の娘の葛藤などまるで気にしたそぶりもなく、盛り上がっているのだった。
「偶然という言葉なぞでは、なんだか勿体無い巡り合わせではありませんかな。秘密を分かち合うに足る同士を同じ街で得て、しかもこんなに……素敵なお嬢さんをお持ちだとは」
「ふふ、自慢の娘ですとも。私のアスカは」
中年っぽさがそこら中から滲み出しているヒカリの父親からすると、随分若々しいアスカの父親。彼ははそう言ってにやりと唇の端を吊り上げていた。
そして娘を腰に回した手で抱き寄せると、そのままその手でほっそりとしたウェストラインを脇腹へさっと撫で上げていって、手の甲―― 親指の側を彼女の乳房の直ぐ下の位置に。そして、ヒカリよりもいくらか大人の方へ先んじた発育の膨らみを、くいくいと持ち上げくすぐる悪戯に出たのだった。
初々しいミドルティーンの乳房が弾む感触を乗せている甲とはまた別にも、伸ばされた人差し指と中指がアスカのお腹にするりするり、文字にならない筆致を描く。
一目瞭然。親子の関係を逸脱して、一線を越えた男女の間柄を匂わせる、だからこその愛戯。
「あっ……」
こぼれ落ちた羞じらいの吐息の一瞬に紛れて、微かに『パパ……』と。
ヒカリはたしかにそれを聞いた。
「おお……ぉ。はははは、見せつけてくれますなぁ。こんなに魅力的な、美しい娘さんをお持ちとはほんとうに羨ましい」
「なんの、あなたのお嬢さんの楚々とした佇まいも素敵じゃあありませんか」
笑い合い軽口を叩き合う。その間にも父親がどんどんと興奮していくのが、ヒカリには手に取るように分かった。
それも無理はないのだと思う。
アスカは―― 。今日ここに、つまり、暫く前からネットで連絡を取り合って、お互いに娘とどんなセックスをしているのだと、どんなプレイを教え込んで
いて、どんな破廉恥な真似をさせるのが好きなのだとか、近親相姦愛好者同士のコミュニティで語り合い、自慢し合い、とうとう実際に会って一緒に楽しんでみませんか等という約束をするに至った、待ち合わせの相手に連れられてやって来た「娘」なのであるから。
だから、父親は今日、アスカを抱くことが出来るのだ。
―― ヒカリを相手に差し出すのと引き替えに。
そういう理由で、今から召し上がれと差し出されることになる極上の料理と捉えて、有頂天になっているのだろう。
ネット越しではただLと名乗っていた男が見せつけてくれるこのサービス、或いは自分は娘をここまで―― 学校の友人とその父親の目の前であっても、相姦の愛撫に逆らおうとはしない程に―― 仕込んでやったのですよという自慢を受けて、今更になって自分が手を娘のどこに置いていたのか気付いた様子。
「お?」
そうして今度は無意識にではなく、はっきりと自慢し返す意志を込めてヒカリのスカートの下に手を潜らせてくる。
「……っ」
ぐいぐいと、ヒカリが両脚を閉じ合わせようとしている隙間に指先を押し込んでくる。
やめてと力を込めるヒカリに対し、それで許してはやらないという明確な意志が、余所行きの洋服に合わせたレース仕立てのショーツまで道を開けと促していた。こちらもすっかり躾けられてしまった娘であるヒカリには、抵抗をし通す意気地は湧き出てくるはずがなかった。
「ンゥぅ―― !」
無言のまま刹那に行われた押し問答の一部始終は、指し示す背徳的な事実も含め、すべて低いテーブルを挟んだ向こうの二人にも掴まれていたに違いない。
なにしろ、自分が全部、アスカの次第に荒くしていっている呼吸だとかを聞き取れてしまっているのである。
―― こんな所なのに。アスカ、お父さんにおっぱい揉まれて喜んでる……。
逆らえないようにされてしまっているんだ。胸をいじられて感じてしまう、いやらしい女の子になってしまっているんだ。そう感じとってしまったのと同様に、アスカの方も察知しているのだ。学校では不潔不潔とことあるごとに言っていた自分が、実の父親に股を撫ぜられトントンと入り口をノックされて、いかにも嫌だと顔を顰めてみせつつ―― その実じんわり下着のクロッチに染みを作り出してしまっていることを。
喉はからから。血の気が引いて、いたたまれなさでガタガタ体の震えがまるで止まらないのに。なのに同時に、ヒカリはどうしようもなく躯が火照りだしてしまっているのを感じていた。
この躯の反応は、ヒカリが毎夜のごとく味わっているものだった。許されないことだと気を重くしながら、けれど父親の寝床に連れ込まれることを期待して、気の早い下腹部が秘唇の潤みを支度しはじめてしまっている時のそれと同じ。
(アスカも、そうなの……?)
ショーツ越しの秘部に加えられる父親の的確な愛撫。漏れ出そうな声を堪えつつ俯かせていた顔を起こして、確かめてみる度胸は持てそうになかった。
けれど、いかにも血の繋がっていると分かる男性と連れだって、このロビーラウンジに入ってきたアスカに目を丸くしてしまっていた時の、その彼女の姿を思い返してみれば。
アスカは今日、ヒカリが見たこともないくらい大人びたメイクをして、真珠をあしらった金の耳飾りを付けていた。
耳たぶの殆どを包むような大きなものだ。
ルージュの色も鮮やかすぎるぐらいで、くっきりと入ったアイシャドウが普段の美少女ぶりをアダルトな雰囲気に変えている。
黒のショールで肩から首元を隠してはいるが、今日のコーディネイト自体はそうでもしないと十四の女の子には不釣り合いなくらい肩も胸元もさらけ出した組み合わせ。
大胆さは、いつかヒカリが頼んだデートにも着てきていたという緑のワンピースとは比べるべくもない。
(雑誌とかで見る外国の女の子って、同い年でも全然違うくらい大人っぽいとは思ってたけど。いつものアスカだったら、まだ私たちとそんなに変わらないくらいに見えてたのに)
騙されてたわ、とヒカリは恨み言のように考えさえしていたのだった。
頻度は月に一、二度くらい。ノートパソコンを布団の中に持ち込んできてご機嫌の父親に見せられた画像に写っていたベッドの上の素っ裸の女の子は、くちゃくちゃになったシーツの中に顔を突っ込んでいたり、首から上自体が映っていなかったり。
そんなやり取りから暫くして、ヒカリが父親のペニスを膣に埋められながら相席させられたビデオチャットでは、相手の男性の膝の上でやっぱり抱かれながら映っていた彼女は、赤っぽい金髪ではなく黒い色の髪をしていていた。
きっとあれはウイッグだったのだ。
そしてチャット撮影用のカメラそのものをガタガタと揺らしながらの激しい突き上げで犯され、涎を飛ばしながら喘がされていた時はずっと、英語を使っていた。
『オゥ、ンォオオゥ!』と、まるで父親に見せられた海外ポルノとそっくりに喘いでおっぱいをぶるぶると振り乱していた。
そのせいで、ヒカリは気付けずにいたのだった。
(つまり、あれも……あの送られてきた画像で目隠しをさせられていた女の子も、あのビデオチャットの時の激しくしていた女の子も、アスカだったってことになるんだわ)
まさか友人が、アスカが自分と同じようにだなんてという先入観があったのも事実だろう。
最初、海外の女の子なのだと思い込んでいたその白人の少女が、実は第3新東京市に住んでいる子なのだと聞かされても、まだヒカリは友人を疑う発想すら持たずにいた。
てっきり、相手は自分たちとは縁もゆかりも無かった男の人と女の子で、会うと言ってもその間だけちょっと気まずい思いを我慢すれば後は―― と考えていたのに。
むしろ、父親以外の男性に抱かれねばならないことの方を心配しながら連れられてきた今日なのに。
それなのにと、ヒカリはもうこれで一変してしまって二度と元には戻らないだろうアスカとの関係、学校でのことに、目も眩むような思いをさせられていたのだった。
そろそろ部屋に行きましょうか。
どちらともなく応じ合い、立ち上がったそれぞれの父親達に促されて、ふらふらと膝に力が入らないのを堪えてソファーから離れる時。ヒカリは誘惑に抗しきれず、そうっとそうっとさり気なさを装った上目遣いで、友人の方を窺ったのだった。
そこに、男の背後に従えられた格好で歩き出そうとしていた彼女の、伏し目がちにちらちらと向けられていた青い瞳を見付けて、ヒカリは不意に胸が詰まるような思いに駆られた。
(ああ、アスカ……!)
あなたも……同じなのね?
From: 【近親相姦】ヒカリ日記スレ【爛れた洞木家】