続・ヒカリ日記
数週間後、憂鬱な午後に「―― あ、痛ぁッ」
涙の滲んだ瞳で座りこんで、アスカは恨めしく闇を見透かし、床にぶち撒けられた月刊誌の山を睨みつけた。
暗いのがいけないのだ。
部屋の明かりをつけようと手をのばして、宙を探す。
もう片手では、手ひどくぶつけ、爪が剥がれそうな痛みを味わった足の小指を揉んでなだめようと。
「もうっ」
たかがマンガ雑誌といえど、ただ厚みそれ自体を売り物にしようとしている月刊誌が数ヶ月分だった。
自分の部屋のことと、まともに見ずとも何がどこにあるかは承知していたつもりだったが、いつの間にか数ヶ月分、つもりよりも積み上がった高さは成長していたのだろう。
まして、床を乱雑に埋めてしまっているのは漫画雑誌の山だけではない。
目に付くままに買ってきては一度きり眺めて投げたアクション映画のケースが転がっている。
床に直置きしているコンポの周りは、やはり適当に投げたCDアルバムが一山いくらの有様。
踏みつければ容易にフローリングの床上をスリップさせてくれそうなスナック菓子の袋が、コンビニのビニルと一緒になってゴミ箱がある辺りを中心に一定の領土を確保ずみ。
独身者向けとはいえ決して安いわけでもないマンションのリビング。それが随分とせせこましく見えているのだから。
つまりは、床に丸まっていたそのままでぼんやり、夕暮れを飛ばして夜になっていた中をうろつける程、アスカの寝ぼけ眼はあてに出来るものではなかったということか。
(……世話ぁ、ないわね)
ふと浮かんだたわいない思いに、殊更に自嘲してみせる
勝手知ったるつもりが、踏み出した一歩目で蹴躓いて。痛いと腹を立ててみても独り相撲で、相手は自分がためこんでいたマンガ雑誌。
そんな間抜けぶりがいかにもらしいと、お似合いだわと、口の端が引きつり上がった。
(まだこんな時間か……)
目が落ち着いてみれば、開けっ放しのカーテンから差し込む外界の明かりが、それなりに家具類の輪郭を浮かび上がらせてくる。
窓の下を行き交う車のライトや、ベランダ越しに明々とした隣室の気配。それらは、アスカが何をする気も起きないまま捕まえて身を任せた眠気も、そう長く気休めをくれはしなかったことを示していた。
しかし目当てのものは見付けさせてくれる。蛍光灯から短く垂れ下がったスイッチ紐だ。
(あった)
膝建ちになっても、彼女の14の小柄ではうんと背伸びをしなければ手が届かない。
顎を起こして見上げながら、アスカはやっと指に捕まえた。
見た目を意識してのその長さは、取り付けられているのがあまりギラつかないメッキを施した上品なチェーンと同様、装飾としての価値配分が大きい。
スイッチとしての実用性を考えればもっと長い方が良いのに、だ。
―― たとえば、洞木家のもののように。その寝室のもののように。
「…………」
すうっと不愉快さもかえって消えた表情で、アスカは静かに立ち上がってスイッチを引いた。
ぽっ、ぽっと僅かに瞬いて、明かりはアスカの1人だけの部屋を照らし出す。
それから一人暮らしの少女は窓にカーテンを引いていき、キッチンに移って蛇口から注いだコップを一気にあおった。
別に喉が渇いていたわけではない。喉に思い出してしまった生臭さを、気のせいでも水に薄め流したかったのだ。
あれと同じものではないと分かってはいても、眠っている間の乾いた唾(つばき)でさえ、口の中に粘って感じられるのが不快だった。
何よりタイミングが悪かったとしか言いようがない。
膝立ちになって顎を上げて。床から手を掲げるためのその姿勢は、図らずも上向かいに唇を突き出すものと殆ど同じで、
『よし、舌を出せ。入れてやる前にお前の口で丁寧に挨拶するんだ』
そうあの中年男の布団の上で命じられるたび、従順な正座から口答えもせず膝を起こし、毛むくじゃらの股間へと顎を跳ね上げるのと、違いはありはしなかかったから。
だから、膝立ちになった下半身や、うんと反らした背、顎を高く掲げる首にかかった負担のそれぞれが、感触として連想させて―― 生々しく蘇らせるのだった。
『もっとだよ、アスカお姉ちゃん。もっとこうやってう〜んって、首を伸ばしてやらなきゃ。お父さんのおちんちんに届かないよ』
振り返っても、どこからどこまでも滑稽出でしかない話だが。洞木の末妹にさえそんな先輩風を吹かされ、作法としてたたき込まれたポーズが、これである。
所詮は、立てば頭一つ以上の差がある大人と子供。短足気味な典型的日本人体型の男であるが、仁王立ちしたその股間に膝を突いたまま唇を捧げるには、まだ中学生のアスカはうんと背伸びをしなければならなかった。
ぶらりと垂れ下がった「袋」を口に含むか、アスカが親友だと信じていた少女やその姉妹たち相手に何度も射精した後のうなだれたものなら、まだ楽だ。
だが、先に手をつけていた彼女たちとは一線を画し、見た目には紛れもない西洋人の少女であるアスカの金髪碧眼を前に、男はいつもいきり勃っていた。
『ふふ、今晩もお前の金髪マン毛をミルクまみれにしてやりたくって、ぐちゃぐちゃにしてやりたくってな。もう、こんなにガチガチだ』
『あ、ああ……』
ニヤリと見下ろしてくる時、その屹立した影を血色の褪めきった顔に落とされる正座のアスカは、いつも暗澹たる思いに駆られる。
それほどに凶悪に、男の太い屹立は、暴力の気配をまとった槍と化していた。
亀頭に滲む先走りの液か、新妻や実の娘との荒淫の残滓か。黒々としておぞましく血管の浮かんだ幹から伝い流れる粘りが、アスカの白い額にも落ちていく。
ぬらぬらとした汚液によって、彫りの深い鼻筋へ穢れた筋をつけられても、彼女は目を見開いたまま震えるしか出来なかった。
40男がぎらついた欲望を剥き出しにするペニスの怪容に、自分が気圧されていたことを認めるのは苦痛でしかなかったが、それもまた諦めの内にある。
アスカはいつも、黙って舌を差し出してその粘液を舐め取ってから、ちんまりとした唇をいっぱいに開けて押し頂くように、屹立を頬張っているのだから。
『学生の頃でもこれだけ硬くなったことがどれぐらいあったやら。さすがはドイツ支部からすら噂に聞えた美少女パイロット、何度抱いてやっていても武者震いする……』
懸命に首をのばし、無理な背伸び姿勢の少女にじっくり奉仕させるフェラチオを味わいながら、男はいつも満足げだ。
衣服を全て脱がせ、惣流・アスカ・ラングレーという特別な響きの名を持った慰みものの娘に晒させるオールヌード。
真っ白い素肌は、同い年のやはり幼すぎる愛人を務めるヒカリとも、さらに幼い小学生の肌を持つノゾミとも、日本人のものとは明らかに違う輝きである。
薄い色素のピンク色をした乳首や、割れ目の隙間に同じ色をかすかに見せる股間も、どれだけか特別なものとして映っているのだろう。あの中年男の目には。
だが、その賞賛は露ほども嬉しくはない。
(アタシは……こんなやつに、褒められたって……)
ねばついた視線を体の隅々に這わされると、今さらと知っていてもの寒気が襲う。
とうに理不尽な無理強いに体を開かされ、処女だった下肢さえも大きく割り開かれて犯されて、性器の奥底まで暴かれていても。まだ自分の大切な、守るべきものを「侵される」という本能的な恐怖に囚われるのだ。
そうやって、奴隷のように仕えねばならない相手への口舌奉仕に淀みが生まれてしまえば、『もっと、も〜っとだよ』と舌ったらずな叱咤が飛んでくるのである。
『ね、見て、アスカお姉ちゃん』
声は並べて敷かれたもう一組の夜具の上から。
友人の幼い妹、それでありながら友人と同じく実の父親に性のはけ口とされる境遇の、しかし少しばかりも悲しそうには見えないノゾミのものだ。
こうやってと手本を示しているつもりだったのだろう。ノゾミは父親とアスカほどでないにしても、やはり背丈の差がある長姉のすらりと立つ股の間に熱心な口づけを続けていた。
ふっくらと丸みを帯びた、まだ幼い指先は、両手の分が全て姉の腿にしがみつくのに使われている。
『んふ、そうよぉ……。ノゾミみたいに……あン、お父さんの硬ぁくしたの、舐め舐めしなきゃ。んふふ、気持ち良ぉ〜くしてさしあげるのよぉ?』
見詰める瞳にとめどなくこみ上げる欲情をそのまま、コダマの淫らな泉は妹へ舐め取らせる愛蜜を次から次に溢れさせる。
ゆらゆらと嬉しげくねらせる腰遣いは、男と交わりあっている時のそれと大差は無い。
父親によって目覚めさせられた官能を今や充分に成熟させた女子高生は、同じ女である妹の性器接吻にも、なんのためらいも無い陶酔を得る事が出来るのだ。
加えて、妹からはかつて戦乙女かの勇ましさを伝えられていた巨大ロボットパイロットの美少女が、なんの変哲もない公務員勤めをしている父に、屈辱的に従わされている姿。
無体に首をのばして、ごつごつとした牡性器を横咥えで舐めしゃぶらされている哀れぶり。
レスボスの奉仕を妹から受けて滾る子宮を、いっそうの高みへと煮えたぎらせていくにはこの上ないエッセンスだ。
それが、インセストに始まった認められざる種々の姦通に経験を深めてきた女子高校生に、吐息を悩ましくさせる一方の、燃え上がる官能を味わせているのである。
『あはぁ……すっごいよ、アスカちゃん』
ピチャピチャと子猫がミルクを飲むような舌音を立てるノゾミの口元を、舐め取り切れずこぼれた愛液が次から次へとちいさな顎へ流れ落ちていく位だ。
ノゾミも懸命に可憐な唇を寄せていくが、んくんくと喉を鳴らし続けていても追いつかない。
末妹の彼女自身、くりくりとしたお尻の下に、可愛らしい膝立ちになった太股を濡らす幼蜜を滴らせているが、ロゥティーンの歳を思えば驚異的であっても、姉のそれとは比べるべくもなかった。
『凄い、凄いよノゾミ。あふ、うんンン……、ン。ああ、アスカちゃんったら、凄いんだから。ノゾミももっと、もっと……ね。ねぇ、もっと……』
陸上でよく鍛えられた下肢には、舌を使う妹を気遣っての手助けなのか―― 深い快楽を欲する自身の欲望がたださせているだけなのか、己でぬらつく花びらを割り広げて、敏感な秘唇粘膜を露わにさせている。
そうして、見事な胸の先で痛いくらい乳首を硬く。発情のピンクに全裸を染めて、未だぎこちないアスカをも煽り立てる。
もっともっと、もっともっともっと、と。
『うんと丁寧に、うんと心を込めて、おしゃぶりして差し上げるの。……そしたら、倍返し、十倍返しでアスカちゃんのオマンコに……ね? 快感、カ・イ・カ・ン、返してくれるんだから』
『うん……ン、チュッ……そうだよね、良いよねぇ、お姉ちゃん。お父さんのざーめんミルク、いっぱい飲ませて貰えるんだもん』
羨ましいよねとノゾミも。
憧れの「綺麗でカッコイイお姉さん」が鼻を使って苦しげに呼吸するオーラルセックス姿を横目に、姉の媚粘膜に繰り出す接吻攻めにも休む様子が見られない。
『んふっ、うん、んっ、ちゅっ、ちゅっ……』
『うふふ、そうだねぇ……。あうっ、あっ、あはぁ、そ、そそう……そこ、ンッっ……っ、ア、アスカちゃんも、もっと美味しそうにしなくっちゃ』
そうでなければ勿体無いじゃないと声を揃える姉妹のその言い様は、この望んでのものであるはずもない交わりに、あなただって前払いの礼を返すべき―― 素晴らしい快楽を得ているのでしょうと、意地悪に揶揄するものでもあり、
『お父さんったら、アスカお姉ちゃんに夢中なんだもん。きっと今晩もずーっとボクたち放ったらかしにして、アスカお姉ちゃんに……』
『そうだよ。アスカちゃん、きっと何度も何度も気絶するくらいイカせてもらって、アソコがぱっくり開きっぱなしになるくらいお父さんのおちんちんに使って貰えるんだから』
―― 感謝しなくっちゃ。
―― 感謝するよね。
そう、セックスに容易く貞操も心も突き崩される同性の立場、その剛直の荒々しいピストンを知る竿姉妹の立場からの、また外れるべくもない予言でもあった。
『あっ、あん、ノゾミったら素敵。お姉ちゃんの……ああん、おしっこのとこまで虐めるんだから! ヒカリと練習してたのね?』
『んふふ、ふふぅ〜ん♪ うん。上手になったでしょ? アスカお姉ちゃんも喜んでくれるよね。ボク、アスカお姉ちゃんとももっと仲良くなりたいもん』
『うん……ン、ふふ、ノゾミは素直な子ね……。アスカちゃんも、もうちょっとでも素直になれば……ふふふ、楽なのにねぇ』
はぁはぁと、いかにも興奮を隠せない乱れた息遣いで。
実の妹が、花びらに似た性器を舌先でかきわけた膣襞へや、黒い飾り毛の下のクリトリス突起、その下のある意味膣口よりも危うい小穴にさえも『ちゅうっ』と吸い付くクンニ奉仕に、あからさまな悦びで喘ぐ散らす淫蕩な貌で。
『んんン……、ンゥゥ……ンッ、ンア、アアア……ン』といよいよ悩ましさを増し、いっそ清々しいくらいの貪欲さでまっしぐら、率直に性感を極めていくコダマが絶頂の叫びで布団へと崩れ落ちても、アスカにはなお暫くの責め苦が続く。
とびっきり美しい生け贄の奉仕姿に脳髄を焦がす興奮を得て、彼女の技巧がたとえ拙かろうと―― かつてのセカンドチルドレンを従わせているという事実を噛みしめるだけで至福の恍惚を堪能できていてさえ、男の逸物は娘ほど素直には埒を開けないのである。
遅漏気味ですらあった。
だが、それこそが娘達三人を同時に抱き、新しく迎えた妻に、娘の友人であるアスカを加えてなお夜を徹してセックスに興じ続けられる、一つの理由に他ならない。
『早……ふぅ……ぅ、も、ゆるひて……』
続く苦役に顎の疲労を抱え、微妙に不安定な布団の上での膝立ちを強いられた下肢にも辛さを溜めるアスカが、遂には少しでも早くの口内射精を望むように。それが、嘔吐感を必ず伴う拷問なのだと分かっていても―― なお、まだマシかと精飲を選ぶまでになる。
そんな脂汗の浮かぶ段に至って、ようやく男は射精を遂げるのだ。
本来は蒼く理知的に冴えた瞳が朦朧としだしたのを、ぐいと捕まえた親指で現実から瞑られようとしてた目蓋をこじ開け覗き込み、
『そんなに飲ませて欲しいんだな? お前がしゃぶってるコイツに、腹一杯のミルクを』
そう唯一のと思えだした選択肢を突き付けて。
鼻孔一杯これよりはない至近距離から吸い込まされ続け、身の牡臭にのぼせだしたなと見計らったかのタイミングに、
『よし。じゃあ、“お前がそうしたいと選んだ”んだ、最後の一滴までちゃんと喉の奥に飲み干すんだぞ?』
と、念を押されてしまえば。もうアスカには、舌の上を上顎まで占領されたペニスに声をくぐもらせながら、息も絶え絶え伝えるしかないのだった。
そうです、その通りです、そうしてくださいお願いします、と。
『うぉ、おお……っッ』
『ンフゥゥ……ッ、グッ、ンぉぇ……えふ、ふングゥウウ……ッッ!』
刹那膨張、アスカの口の中に占める体積を増すペニス。鈴口から噴出した熱射が喉頭を叩く。
吐き気よりも早く。生臭さの知覚にもまだ先んじて、そのどぷっとした熱さがアスカの意識を痛打するのだ。
一気に、舌上から頬の裏、頬張らされたモノとの“隙間”を満たした奔流が、飛沫じみて口の端を溢れ出す。
鼻孔さえも、喉奥から逆流して危うく。
次いで、覚悟した以上の凶悪さとなって、吐瀉されたてなザーメンの悪臭に、嘔吐感が殺到する。
虚ろな脳裏で備えたつもりになっていた心構えを易々乗り越える、そんなものに、アスカが耐えられるはずがない。
噎せ返り、あえなくもんどりうって。唇を放してしまった噴出口からの白濁乱打でどろどろに染めた顔を、胸元を、アスカは『ひぐ、うぐぅ……っ』と、万年床の布団になすり付けながら、苦悶を浮かべる始末に。
そうやってのたうち回る内に髪も乱れて、おまけに吐いた精液が布団からまたこびりついて、被害が顔だけに留まらない酷い有様になってしまうのである。
それでようよう息を整えられたかと思えば、先ほどの苦し紛れを言質に取った親子が、四方から囲んで精飲を果たせなかったことを責め苛む。
プライドも何も、踏みにじられるだけ踏みにじられてしまえば、徒労感と共に迎える翌朝には、精も根も尽き果てたという以上に何かがごっそりとそぎ落とされている。
図らずも予告されたその通り、膣内射精を繰り返された稚い秘部がスリットをぱっくりと―― 無惨に口を開いたまま。元のぴっちりとした一筋の眺めに戻る気配もなく、ただ奥からたらたらと精液が漏れ出す有様になっているのも、平坦な目で眺められるようになってしまうのだった。
◆ ◆ ◆ 「……気持ち悪い」
空になったコップをシンクに乱暴に置くと、アスカはトイレに駆け込んで、思いっきり吐いた。
口の中に苦さが残るが、再びリビングに座り込んだアスカに、もう一度立ち上がって水を取りに行く気は起きなかった。
壁に掛けた時計の針がそれだけでは意味もなくただ回り続ける下に、何を見詰めるでもない視線を俯かせたままどれだけ経ったか。
部屋の隅に置かれた充電器の上で眠っていた携帯が、不意に液晶を瞬かせた。
音はなにも立てない。
点滅がひとしきり続いて、あきらめたようにまた液晶画面が静かな待機モードに戻って暫く、遅ればせながらのろのろと伸ばされた手が携帯を掴み上げた。
「…………」
けれども、液晶に告知を残す先ほどの発信元を、アスカは確かめようともしなかった。
かちかちと素早いタッチ。今の今までを思えば、そこだけが異様にも思える俊敏な指先が呼び出したのは、音も鳴らすなと彼女が設定したナンバーのものではない。
以前にネルフに与えられたアドレス、セカンドチルドレンとして連絡に使っていたものへの、着信履歴だった。
しかし、そこに刻まれたものは何もなかった。
惰性で買い込んでいるファッション誌に興味も湧かないページをめくり続けて、飽き飽きして結局寝転がった―― その前に確かめた時と同じだ。
さらにその前に、早朝の道を自宅へと帰りながら確かめた時とも同じだ。
もうずっと変わらない。
誰一人として、彼女を呼び出そうとはしていなかったという、それだけが真白く刻まれているのだった。
「結局、アタシには……」
また気鬱な停滞を取り戻した指先が思い出したかのようにまた鈍重に動き出したのは、やはり仕事はないのかと判断した携帯が、液晶の明かりを落としてしまってから。
今度の履歴は、先ほどとはうって変わった夥しい着信の跡に埋め尽くされていた。
宛、セカンドチルドレン、ではない。宛、惣流・アスカ・ラングレー。宛、ただの“アスカ”。宛、アスカちゃん。
送信元のナンバーには、全て同じ二文字の名字が踊る。洞木、洞木、洞木と。
朝も昼もない、かと思えば、その前後からすると綺麗に着信が途絶えた跡がある。例えば土日を跨いでの三泊四日の期間のように。
「…………」
引きつったのと大差のない動きを片頬に浮かべて、アスカが何を呟こうとしたのかには、もう大した意味は無かったのだろう。
それすらルーチンワークとして週毎組み込まれたかの、儀式めいた一連。
立ち上がったアスカは、乱暴にチェストの引き出しを開けて中身から適当に一式、着替えや下着、制服を取り出しすと、バッグに詰め込み始めたのだった。
明日は土曜。帰ってくるのはまた、月曜の授業の後だろう。
「調子に乗って……気安く呼び出してくれるわね……」
そう吐き捨てた顔は鬱屈としていながら、その一方で、こんな時間になって出かける支度をはじめたアスカの手に、惑いは見られないのだった。
◆ ◆ ◆ ―― そしてまた日がめぐる。
その朝、洞木家の次女、ヒカリが眠りの縁から意識を浮上させたのは、すっかり慣れた父親との床の中だった。
「……やだ、月曜日なのに……もうこんな時間……?」
畳敷きの寝室にこもったままの性臭にうんざりしながら、布団の周りそこらに散らばっている筈の下着へ腕をさまよわす。
それだけにも、細いヒカリの腕は気だるい重さを訴えた。
夜通し父親への奉仕を強いられていたのだ。それも、週末から重ねた昼夜を通じて。
仁王立ちした屹立を捧げ持って愛撫し、その目を喜ばせるため姉と互いに乳房を揉みしだきながら抱きあった。獣じみたポーズの後背位で一晩に何度も子宮を突きまくられていれば、最後には四つん這いすら保てず、顔を埋めた格好でピストンに耐えるはめになる。
腕どころか両腿も股間も、アヌスや顎といった全身いたるところが酷使への悲鳴を訴えているのだった。
明け方近くからの短い休息では、疲れも取れるものではない。
「お姉ちゃんやノゾミも……はやく起こさなくっちゃ……」
―― と、伸ばした指先に引っかかった布きれの感触。それは、微妙に違和感のある手触りを返してくるものだった。
寝ぼけ眼のまま指先でたぐって、裸の胸元へ引き寄せてみる。
小さな布きれだとはいえ、羽のような軽さだ。
「……?」
もっとよく確かめようと少し持ち上げたところで、流れ落ちるようにごく自然にするりと、白い細紐が垂れた。
紐は素晴らしく滑らかに、どこにも引っ掛かりを覚えさせはしなかった。
腰の左右で結んでとめるための細紐だなと、そこで瞼が重いままの目にも物が見え出す。そうしてようやく、布きれの正体についても意識がはっきりとしだした。
ああ、そういえば……と。
この頃の父親が好んでヒカリたちに履かせるようなアダルティなものと一見似ているようで、しかし違う。本物のシルクとレースをふんだんに使った洋物のインナー。
細紐が揺れる上にふわと小さく広がっているショーツの本体は、ヒカリなどが普通に履いているものとは構造が異なり、紐が解かれている間はほんとうに只の一枚布でしかない。
が、緻密かつ清楚で、花嫁衣裳にも似たレース細工はたまらなく良い手触りだ。
素敵、と。半ば夢うつつであるからこそ、ヒカリは素直に感嘆する。
そして、裏腹に破廉恥なほど過ぎた足りなさの表面積には、揶揄するように心浮き立つ感情が浮かび上がった。
(……ふふふ、そうだったわね。結局、こんな取って置きの下着も準備してくるんだから……)
傍ら、見慣れた寝顔で低いいびきを立てている父親の向こうに、肘をついて肩を起し、見やる。
その中年男の長身を挟んだ布団の反対側に、ヒカリ同様に一糸まとわぬ全裸を横たえているのは、他でもない親友の少女、アスカだった。
寝苦しそうに眉をしかめているのは、裸の胸に男の手が被せられたままでいるせいだろうか。そうぼんやりヒカリが見ている端から、夢の中でまで盛りのついた牡でいるらしい父親の手がむにむにと、白いむき出しのバストを揉み、まさぐりだす。
やがて気配を感じ、アスカも『ううん……』と薄くサファイアの瞳を瞬かせた。
一瞬自分の居る場所を思い出すかのようにしていたその顔に、自分と同じ『またか』といった疲れた表情が浮かんだのを認めて。何故か、口元にうっすらと綻びを作ったヒカリは、
「―― おはよう、アスカ」
一日のはじまりへのありふれた挨拶と、幾度も同じような朝を洞木家で過ごし、もう分かっているのだろう―― この家の主に対しての“目覚ましの挨拶”を促す目配せを、美しい友人に向けるのだった。
Original text:引き気味@北京之春
From:エロ文投下用、思いつきネタスレ(4)