Doll Girl Night




そよと涼しい風に慰められて、夏陽に炙られた大地が眠りに付く――

月の明るい夜だった。
皓々とした青い光は、地上のそこかしこに長く影を生み出している。
地を這う者達が石の裏に目を醒まし、樹上に夜羽の眷属が踊り舞う。

この静かな世界の片隅に、二足の群が無粋な白熱をかざして行く様を、しなやかな生き物達は瞳を針にして窺い見ていた。
昼の喧騒を持ち込むことまでは懼れたのだろう。夜霊の群にも似た一列は、静々と獣道を踏み渡る。
蔦の絡まる木々の間、彼らが遠く捨て去っていた筈だとばかり思っていた四角いねぐらに潜り込んでゆくのを見届けると、また生き物達は四方へと散っていった。



◆ ◆ ◆




「アスカ」―― とだけ紹介される。表面のあらかた剥がれ落ちた壁を背に飾られた、碧眼の小さな人影に、低いどよめきが上がった。
投光機に照らされても、尚闇に溶け込むような黒絹の衣装。そこから浮かび上がる白い肌と金糸の髪、なだらかに少女を主張する胸の膨らみ。
今宵の面々が機会を得て集まったのは床も壁もひびに覆われた廃墟に過ぎないが、それだけに、豪奢に装われた彼女の美しさが際立って見える。
うらぶれたエントランスの所々に、崩れ残ったかつての絢爛さの名残が物悲しい。そんな瓦礫の散らばる暗灰色のステージに、彼女は、惣流・アスカ・ラングレーは引き出されていた。

日頃は控えめな口紅も赤く、耳には金細工のハート型ピアス。トップスの大きく開いた胸元から半袖に膨らんだパフスリーブの縁、首元を飾るチョーカーにまでもふんだんに白いフリルがあしらわれている。
ミニスカートはそれ自体が何重にもフリルを重ねたもので、太腿も半ば以上の高さまでを覆うサイハイや、揃いの長手袋さえもフリルで柔らかに縁取る徹底のされよう。
人数は20を数えるかそこら。集った秘密クラブのメンバーに彼女が披露しているのは、普段の彼女とも思えぬ少女趣味―― 退廃的なゴシックロリータファッションだった。
傍らには、マナやマユミも同様に飾り付けられた姿で並んでいる。

アスカの青い瞳は取り囲む人垣を通り越した先へと据えられていて、ためすがめつ検分の眼差しを向ける大人達には、何ほどの意識も向けてはいないようだった。
周囲の壁際からは、バルーンライトが強すぎない程度に抑えられた光を投げ掛けてくる。
切り取ったかのように闇から浮かび、長い睫毛がしとやかに輝く横顔は幻想的ですらあったが、その美はどこか硬質に人形めいてもいた。
ストラップパンプスの足下は揃えられたまま、身じろぎの一つもしない。
四方からの無遠慮な視線を浴びながら、まるで意に介さず沈黙を守り続ける様子は、あれほど嫌っていたレイと瓜二つにも見えるほどだ。
辺りには、口々にアスカの美しさ、可憐さに感じ入った声が囁かれている。であれば、得意げにも嬉しそうにしてみせるのがアスカを知る者の当然と予想するところなのだが、今はその素振りも無い。

マナもまた、アスカと並んでそんな押し固められたような静寂からは程遠い、律動感を溢れせる活発さが持ち前の少女なのだが、今はただ、瞬きすら忘れて佇むばかり。
数週間に渡る徹底的な「躾」を受けた少女たちは、完璧な淑女となったと太鼓判を押された上で、お揃いのアンティークドールさながらにあつらえられて披露されているのだ。
鑑賞するメンバー達のさざめきが、どんなにあけすけな言葉を運んでこようとも、あの内気なマユミでさえ瞳を揺らしもしない。
この舞台に立つに足る、完璧な調律を施された片鱗が、そこには垣間見えていた。



◆ ◆ ◆




短い紹介が終わると、スーツ姿の紳士が、和装の老人が、いずれいずこかの名士と思しきメンバー達が、陳列された少女達の間に歩を進める。
彼らの最高のライバルであり、目指す頂点でもある至高の人形師―― 碇ユイが、今宵のため最高級の素材を用いて完成させた“作品”を、さらに近くで見るためにだ。

アスカの整った白皙に顔を寄せ、微かに振り撒かれた柑橘の香がかぐわしいほどに、そのチョーカーの首筋を覗き込む。
透明感すら感じられる、若々しい素肌。熟れ初めたばかりの生硬なラインの胸元は、切れ込んだ谷間の入り口までが露と開かれていた。
きめ細かな白さに誘われる幾本もの視線を、あやうい桜色の頂の手前で、あまりに儚いフリルがふわりと覆うだけ。
夜風に揺れるだけで白磁の果実が全てを露にしそうな、そんな小憎らしいばかりの計算が全身の隅々に行き渡っている。

彼らはもう、ユイの意図したまま、レースとフリルの包装に包まれた下への高まった関心を隠せずにいたが、己を紳士であると誰からにも認められていたいという―― 性根の髄にまでこびり付いた見栄っ張りが、それを遮ってもいた。
そう。繊細極まりないこの生ける芸術品たちに触れることは許されていない。
彼らが、人目からの完全な自由を得たそれぞれの場所でのように、もしもここで振舞ったなら―― 願うままにアスカから黒衣装を剥ぎ取り、こじ開けた太腿の付け根に漲りを突き入れようとしたならば、富と権力を兼ね備えた者だけがメンバーとなれるその会の力を、身を持って知ることになるだろう。
それが彼らの定めたルールなのだ。

その代わり、彼らが望む時は、ユイの差し向けたアシスタントが手助けとなる。
彼女―― 青い髪にカチューシャを付け、やはり時代めいたメイド衣装に身を包んだ綾波レイが、彼らの手となり指となって、アスカ達の全てをつまびらかにする役を担うのだ。

―― まずは「アスカ」を。

レイは頷いて歩み寄ると、彼女の後ろから手を回して、しずしずとフリルスカートを捲り上げる。
演出を心得た手付きは、暫し、薄いペチコートごしにアスカの白いショーツを透かし見せて場の興奮を高めさせると、その薄衣も徐々に摘み上げていく。
精緻なレース細工の施されたショーツが包む、少女のふっくらとした恥丘が晒されると、メンバー達は遠慮なく身を屈めて眺め入った。

おお……、と。息を圧し殺しての待望の空気が、その途端、歪んだ笑いの粒子を帯びた。
そこにはアスカの形をはっきりと。薄く張り付いたショーツには、金の恥毛を透けさせるほどに湿りが浮いていたのだ。
観客を焦らせる演出は、また少女自身にもたっぷりと強まる視線を意識させていたのだから、羞恥に伴う火照りが生まれていない筈がない。
何も知らぬ童女ならばいざ知らず。その技を、音に知られたユイの手で仕立てられた人形達である。
可憐な乙女の顔立ちの裡にも、恥じらいと屈辱をも愉悦に繋げることが出来る倒錯の経絡が、間違いなく刻まれている。

濡らしておりますな? と、前を見据えたままのアスカを見上げ嬲る下卑た確認に、レイが言葉少なくもあからさまに言う肯定。
そこに、かねてより親しく机を並べる友人への配慮は微塵も見られなかった。
さもありなんと、どこか侮蔑を含んで囁き合う声は嗜虐を習性にまでした彼らの常だ。
だが、耳朶を打つ嘲りの鞭に対し、アスカという名の人形少女は、頬を赤く染めはしても身じろぎの一つも見せず、見事に湧き上がるべき感情のわななきを押さえ込んで見せていた。
まるで真正のマネキンであるかのように―― 美しき一個の生き人形を演じきっているのだ。

続けての、胸をとの要求に応じてレイはアスカの背中を解き、緩んだドレスの胸を引き下げた。
ふる……、と下着を付けずにいた乳房がこぼれ出す。
片手でスカートを押さえたまま、レイの繊手が代わる代わるに、その幼くも形の良い膨らみを下からすくって揉み転がした。
見る見る控え目な乳頭がしこり立ち、剥き出しのままのショーツの縁からは、こんこんと湧き出た少女の蜜が下肢に伝い落ちた。
間近に見詰める面々は、汗ばみ始めた肌と夜気にも仄か伝わる体温の上昇にその興奮を悟ったが、アスカはやはり、決して声を洩らそうとはしない。
人形であり続ける事を貫く―― その完成度に、改めて彼らは感嘆の声を上げた。

彼らはその授けられた躾の見事さを思って唸り、更に同じくレイの手によってマナのロリータ衣装が解かれた時、つるりと剥き下ろされたマナの秘裂の際に隠されていた挑発的なハート型のピアッシングに、その無毛の幼さとは裏腹の大胆なコーディネイトを知って、少年のように声を上ずらせた。

メンバー達の目は一点の曇りも見逃すまいと。しかし、一様にこぼす溜息は、各々それなりの自負を持った人形師や蒐集家であっても認めざるを得ない、完璧な美への賞賛だった。
隣り合うアスカとマナ、二人を左右に置いて。レイは捲り上げたスカートをそれぞれの下腹部に当てた掌に押さえると、そのまま白魚の指先を伸ばし、一流のピアニストを思わせるかろやかなタッチでもって二つの肉花を弄び始めた。
噤んだ唇が声を切なくさせる代わりに、剥き出しの腿の付け根のそこ―― 淡雪の肌が紅潮し、かき回されてぬめる部分が一層の紅に色づいていく眺めは、衆目揃って引き込まれるほどに素晴らしい。
膝上にまで引き下げられたショーツが布の橋となって、そこにポタポタと滴が落ち、染みを集めてまた床へと落ちる様も、少女達が一切の動きを押さえ込んでいるがために、艶かしく際立ってやはり素晴らしいものだ。
マナの幼い恥丘が汗露に濡れてピアスから滴るのも、アスカの櫛を通したように真っ直ぐと生え揃った恥毛が、恥蜜に濡れそぼって滴らせるのも、並び映えて感嘆を呼ぶばかり。
誰もが、これまでの定例で披露したそれぞれの人形達では及ばぬと、そう思い知らされていた。

最後に、リボン付きの包装を解くように、レイの丁重な手付きでマユミのドレスが広げられると、そこに秘められていたユイの意匠に気付かされた彼らは、最早信奉者の顔つきで言葉を呑むしかなかった。
晒し出された蒼い乳房は、三体の生き人形達の中でも一際豊かな曲線を描いていたが、そのラインの色づく先端には、珊瑚色の木の実を貫いて吊るされたハ−トのイヤリングが輝いていたのだ。
予め指示されていたのだろう。彼らが目を見開いて振り返ると、微かに首を傾けて耳のピアスを示すアスカに並んで、レイがマナのスカートを掲げ、揃いの金細工をどこか誇らしげに披露していた。
目を集めたのはマナの秘裂をくつろげる左手の薬指。そこにレイも同じく、ハートを象った指輪を身に付けている。
それはレイさえもセットに、彼女達が一連のシリーズとして仕上げられているというユイの署名であり、さらにそこに刻まれたSの一文字は人形達の所有印に違いなかった。

元よりレイも人並みはずれた美しい少女である。
今宵もいつもと変わらず、いかなる感情も浮かべぬ立ち姿ではあるが、整った容貌にどこか嗜虐心を誘う古風な侍女のコスチュームは決してアスカ達に劣るものではない。
そのアルビノの特異性をも幻想の住人にも似た美しさと取らせるレイの静謐な雰囲気。短めのスカートにちらちらと純白のパンティが覗く様は、充分以上に官能的だ。
それでも周囲の大人達が、時折ちらちらと興味を示しながらも、その粘ついた視線で食い入るようにしないでいたのは、今宵の主役が紛れも無くアスカ達である印ともう一つ。既にレイに向けられるべきメンバー達の関心が、一通り満たされてしまっていた証左でもあった。

碇ユイとの間柄は明かされてはいないが、疑うべくも無くその血脈を伝える美貌。
今はアシスタントとしてユイに仕えるレイは、いずれ彼女の跡を継ぐものと目されている。
その上でレイがまず学ばされたのは、人形師を志すものは人形の心を知らねばならぬという、決して避けえぬ日々だったのだ。
「アスカ」達と同じく、人形師・碇ユイの数年の沈黙を破る久々の新作として、「レイ」が皆の前に披露された記憶はそう遠いものではない。
紺地の染物に山吹色の帯を締め、幽玄の儚さを湛えたその命ある日本人形を、ユイは自らの広大な館の片隅、庭園の東屋を舞台に、やはり一糸纏わぬまでに剥いていった。
揺らめく松明の灯が、レイの雪白の素肌を闇に明々と浮かび上がらせ、そこへユイが飾り付けを一枚剥がすたびに与えた口付けの軌跡をぬらぬらと輝かせていた。
その鮮烈なデビューは一同垂涎の名品と讃えられ、これまでに幾つもの買取の申し出が伝えられていはいたが、その尽くは叶えられずにいた―― そのレイを譲り受けた幸運な者が居るというのだ。
羨望と嫉妬、絶ち難い執着をまぶしたどよめきが、廃墟に篭る熱気を揺るがせた。



◆ ◆ ◆




興奮しきった声に応じて、レイが忙しく人形少女達の間を飛び回る。

時に指を沈ませるほど強く揉みしだいてマユミの乳房の柔らかさを示し、クリトリスをくすぐられてしとどに濡らすアスカが、それでもどこまでも声を殺そうと耐えてみせる事を証明する。
とある妙齢の女性のリクエストを受けてマナの飾り輪に胸元を解いたリボンが通され、強く秘腔の奥までを露呈して花唇が左右に引き伸ばされもしたが、マナはその苦痛さえ鳶色の目を恍惚と潤ませながら飲み込んでみせた。
ならばと同じようにマユミのイヤリングにもリボンを掛けられ、膨らんだ乳首を一頻り苛まれても、やはりその紅い唇が喘ぎに割れることはなかった。
眼鏡を掛けた奥の瞳は、アスカやマナと同じく、純情さを感じさせる容貌には意外なほどの闇が垣間見えて、深い。
被虐の愉悦を知る者の、貪欲な目だ。
少女の躯に取り付けられた装飾達―― 同時に責め具の要素も兼ね備えているそれらは、恐らくは躾の過程における何らかのペナルティなのであろう。
しかし、同業者の中では甘いと評され、それでも誰も比肩し得ぬ仕事を成して来たユイのことだ。
もはや一生拭えぬ身分の証明ともなるピアッシングを無慈悲に穿ちながら、同時にその苦哀を入り口に、底知れぬ快楽の世界に導く慈悲を与えたに違いない。
最早、少女達がそれまでへと帰ろうとは思わなくなるほどに、深い、深い―― 歓喜の歌声に満たされた闇へ。
息を浅く、荒く、見守るメンバー達の前で、物言わぬ人形の快楽を演じる少女達の、それは紛れも無い狂気。
次第に甘やかな香りの漂いはじめた中に、彼らは思い巡らせずにはいられなかった。
いずれのハート細工にも刻まれていたSの刻印。それは人形少女たちをユイから譲り受けることが出来た、幸運な誰かの名なのだろう。

その、なんと羨ましい事か……!

人形師ユイは、なによりも素材を重んじる。
隠れた素養の一片さえもたちまち宝玉の耀きに磨き上げる、その眼鏡に叶うのは、自らの裡に愛玩人形として生きる憧れを宿した者だけ。
歳幼くして甘美な狂気に身を委ねた少女達は、誰かに所有される事を願ってユイの調律を受け入れたのである。

可愛らしくも妖しい美しさを持った人形達が、次々にと巡って来てはしなかやな指を躍らせるメイド少女の前に、許されぬ快感を堪えている。
ただ静かに蕩けゆくその様のいかにも官能的に映ることと言ったら、喩えようも無く息を飲まされるばかりだ。
各々、これはという人形の前に魅入られながら、彼らはその誰かを心底に羨んでいた。

名人形師碇ユイ手ずからの、最高の少女人形達。
幾ら積んででも譲って欲しいものだと願いながら、それでもそれが決して容れられることはあるまいと、彼ら自身が自らを省みて知るが為に。焦がれる視線が果てしなく熱を帯びる。

闇夜の下につまびらかに陳列される、アスカ、マナ、マユミの三体のアンティークドール達は、黒衣から覗く白い素肌も幻想的な美しさだ。
そこにちろちろと浮かび上がる、内に封じようとしながらも身を焦がし続ける焔の色。
どれほどレイの緻密なタッチに燃え上がろうとも、あけすけな場所に注がれる視線に妖しくざわめくものが生まれていようとも、決してこの場で解き放つことは許されていない。
最後になろうとも解かれる事は無い首筋のチョーカーが、その下に隠された“跡”と共に人形達の身を戒めているのだから。

そもそも―― 。人としての生を自ら捨て、愛玩人形への門を叩く。その人形にもなり切れぬまで、少女達は人形師の館でただの素材―― モノとして扱われる。
昨日までの服を焼かれ、モノに羞恥は要らぬからと一日を裸で。ただ一つ与えられるのは、首に硬く巻かれる首輪だけ。
人形師のやり方はそれぞれで、秘術と隠すその技を他人に明かす事は無いが、大本の基本が変わることは滅多に無い。
この場に集う誰もが、もう何度も繰り返している手順。苦痛と快楽の鉄則だ。
獣を躾けるのと同じやり方で、余分なものを削ぎ落とし、主人に愛でられる人形としての生きる術を深層にまで焼き付ける。
その人形師としてのユイの調律は、羨望の高みにあるという他に、ユイ自身を理由として同業他者から常に興味を惹いて来たものだった。
若きより異能の天才として知られたユイは、その美貌と才能ゆえに幾度と無く他の人形師に素材として狙われてきた。
それら全てを退けてきたからこそ、何者からも畏怖される、絶大な地位に上り詰めることになったのだが。
その今だ容色衰えぬ女王人形師の、少女達に快楽を仕込む様は―― 。 男は勿論、女だとて一度はと垣間見るを願うものだ。

―― それは焦がれる誰かの瞳に映る幻影。

修道女にも似たシックなドレスをまとったユイが教鞭を振るう。
時に荒々しく床に這わせられる少女達は、ユイの握った引き綱に首輪を締め上げられて慈悲を請う。
ならばとユイがロングスカートを捲り上げて促すと、涙ながらに這い寄った少女は、熟れた女の部分に唇を差し出して、許しが得られるまで舌を遣うのだ。
アシスタントを脇に従えて、女王然と奉仕を受けるその時、あのユイはどんな表情を浮かべるのか――
ああ……、と堪えきれぬように零すのか。満足げに細めた目で、それでも冷たく素材の熟成を測るのか。
ユイの勘気を解き、甘い口付けを授かって喉を鳴らすことが出来たのはアスカかもしれないし、容れられずユイの張型に背後から貫かれ、追い詰められた壁際で獣じみた悦がり声にのた打ち回っていたのはマナかもしれない。
更に厳しい懲罰を受けてユイの使う従僕に取り囲まれ、振り乱す長い黒髪としなやかな身体の全ての穴とを白濁に塗れさせて泣き叫んでいたのは、マユミだったかもしれない。
そう、この今は取り澄ました顔のレイも。涙と涎と鼻水と、そして失禁の代わりに、石畳に溜まるほどの喜蜜を垂れ流す肉体へと生まれ変わるまで、腕を一括りに吊るされてユイに鞭打たれた―― その時にも冷たく首を巻く感触があった筈だ。
例えるなら、マユミがその眼鏡を第二の素肌としたよりも、深く、確かに、それでも表面上は違和感を覚えさせること無く。支配の象徴として精神の根底に刻み込まれているのが、その締め付けだ。
調律の完了した彼女達は、もはやこれこそが甘やかな記憶を目覚めさせる、キィとまで成り果てている。

だからこそ、やっと解かれた時は必死にせがむのだ。
一時の披露からまた主の家の深く、棚の中にしまいこまれてしまうその前に、どうか鎮めて下さいと。

三体の少女人形たちの、ひとまずは下ろされたミニスカートからは幾筋も。太腿も半ばまでを覆うサイハイの、フリルもレースも濡らしてしまって、溶け落ちる寸前。
そんな切羽詰って引き締められた唇に、許しを切望する悲鳴が浮かんで見える。
きっと―― 間違いなく、返されてゆくその場所には、見知らぬ主がそれを待っている。その足下に縋りつく一瞬をこそ、彼女達は硬く装った仮面の下で切望しているに違いない。

―― ああ、なんて羨ましい……。

今は、せめてこの目に焼き付けておこう。決して手には入らぬ逸品なのだから、せめてせめてと。
たった一人のレイに次々と上がる注文の声は、やがて品評会の域を越えてどこまでも過激に。
人形少女達の許されぬ悲鳴を、いや増しにさせていくのだった。





[fin]



 
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Original text:引き気味
From:ヱロ文やヱロ画像への感想をカキコするスレ