堕天使レイ 誕生篇


Original text:FOXさん
Illust:名無さん



 彼女の表情には一点の曇りもなかった。
 まったくの怯えもなく、悲壮感のかけらもなかった。
 傀儡、獣兵、さらに魔導師に何重に包囲された状況にもかかわらず。
 無数の矢が周囲の床に、壁に突き立っている状況にもかかわらず。
 「氷の娘」と呼ばれていた少女の表情には、今まで誰も見たことのない微笑みがあった。
 警備の目をごまかして封鎖エリアに入り込むためにいつもの上級魔導師用ローブではなく、小間使いのお仕着せをまとった愛らしい少女は左手の小剣を……刃先を丸めた、武器としてはまったく役立たずなそれを……軽く振る。
 そこに現れたのは空間の歪み。
 何事かつぶやくとそれはたちまちのうちに真空の鋭利な刃にかわり、包囲を文字通り切り崩す。
 見えない刃が駆けめぐるたびに、鋼が、骨肉が切断され、悲鳴と絶叫と血臭が石造りの講堂に満ちた。
 「あ、あ、たすけてぇぇぇぇ……ッ」奇跡的に無傷ですんだ魔導師が失禁しながら這いずっていくが深追いしない。
 彼女にはその場にとどまらねばならない理由があった。
 「……聖二位魔導師……まだなの?」
 答えは燐光だった。
 少女の背後の扉……複雑な紋章が描かれたそれ……の隙間から青白い光が漏れ、数瞬ののちに闇へと戻る。
 少女の笑みがさらに大きくなった。
 「もう、手遅れ」
 壊滅した部隊と入れ替わりに現れた騎士たちへ冷ややかに言い放つ。
 「『朱の姫君』と『ザ・サード』はこの塔を去ったわ」
 「そのようね」騎士をかきわけて現れた長身の女性も同意する。その瞳にはまぎれもない憎悪があった。
 「転送器も聖二位魔導師が破壊する計画だから、大急ぎで竜の用意をすることを勧めます。マスター・リツコ」
 「もうしているわ、貴女がこの叛乱に加わっていると報告を受けてすぐに。それでも、あと二時間は必要。そして片道だけで八時間以上かかるから……まったく、誰にたぶらかされたの?ミサト?それともあの蛮族の小娘?」
 「自分で決めたの」少女の瞳には強固な意志と誇りがあった。
 「『ザ・サード』ね、気弱な坊やだと思っていたら、とんだ女たらしだったとは」

 ……そう、「彼」がきっかけを与えてくれなければ、わたしは呪文を唱える人形になってしまうところだった。
 《塔》の道具として言われるままに魔力を振るう凶器となってしまうところだった。
 彼はわたしに力と勇気をくれたのだ。だから、後悔なんてしていない。
 少女は金髪の錬金術師を正面から見据える。可愛らしい小間使い姿にもかかわらず、その身体から放射されるオーラは包囲するものたちを圧倒していた。
 「まだ《計画》を続けるつもりでしょうか?マスター・リツコ」
 「当然でしょう。多少の遅延は想定済みよ。これは悲願であり、運命なのだから」
 「マスター・リツコ、あなたはいつからそんなに愚かになったのでしょう?」
 「愚かなのは貴女よ。でもいいわ、最初っから躾け直してあげるから。とても素直な人形に作り直してあげる」
 少女はきっぱりと首を振り、聖刀を構える。
 「戦って死にます」
 「やっぱり愚かね、貴女は。《霊脈》はとうに切断されているのよ。もうじき活動限界」
 じり、とふたたび包囲が縮まる。しかし少女は術を完成させた。轟々と鳴り響く黒い塊、空間の歪みそのものを雷に変えて、リツコへと投射した。
 悲鳴と怒号が堂内に反響する。
 だが……。
 その雷には少女の思い描いたほどの破壊力を維持していなかった。
 それはリツコが空間に描いた《式》によってねじ曲げられ、少女へと跳ね返った。
 とっさに印を結んで《障壁》を形成する。少女とリツコのあいだに眩しい白熱の橋が架かった。
 が、少女の形成した八角形のそれは唐突に消滅し、雷撃が彼女の全身を輝かせてしまう。
 悲鳴とともに背後の扉に叩きつけられ、少女は意識を失う。
 「……ほら、いったでしょ」リツコはさっと表情を切り替えて騎士に指示を出す。「全兵力を転送室へ。相手は聖二位魔導師よ。生け捕りなど考えないように」
 さきほどまで少女が死守していた扉の残骸をくぐり、騎士が渡り廊下へと突入した。
 先頭の騎士に正面から光矢が殺到する。鎧だけを残して蒸発した先鋒を目の当たりにした後続が絶叫する。

 「【塔】の欺瞞に気付こうともしない愚か者!命が惜しくなければ来なさい!」凛とした声にどよめく騎士達。
 百人隊長の叱咤する声、自暴自棄な吶喊のおたけび、そして断末魔の声。
 わずか百歩足らずの回廊は激戦の場と化した。
 だが、リツコはその騒ぎを気にもしない。うっすらと微笑んだまま膝をついて、意識を失っている少女の乱れたスカートを直してやる。
 「楽しみだわ……とっても。どんなに素敵な人形になるのかしら。約束するわ。大事に大事に可愛がってあげるからね、レイ」
 すぐそばで行われている死闘に目もくれずに、レイのプラチナブロンドを玩びつつリツコはくすくす笑っていた。



◆ ◆ ◆



 「あ、あの、こんにちは」と彼は言った。
 わたしとおなじくらいのこどもだわ。だけどなんだか気がよわそう。
 「わたしのこどもなの。仲良くしてくれる?レイちゃん」
 優しい声で、微笑みで頼まれる。とってもやさしそうで、きれいで、どこかこの男の子ににていた。
 「はい」
 わたしはこたえる。彼がぱっと笑った。
 とてもうれしそう、わたしのことばが、そんなにうれしいんだ。
 わたしの心も、どこか明るくなった。



 「ね、おいで」
 なんのためらいもなく差し出される手。かなり、いや、とても意外だった。

 おずおずとそれを握ったとたん、わたしは力強く引き上げられてたちまち馬上の人になる。
 身体をひねって「彼」の腰に手をまわす。上目遣いに見上げる。どきりとした。
 その横顔はいつもの「彼」とは違っていた。
 「いくよ」耳元にささやかれる。はっとする。
 次の瞬間、わたしたちは風になっていた。
 信じられない速度で、考えられないほど滑らかに、わたしたちは丘を登っていた。
 誰にも心を許さず、その背に誰も乗ることを許さなかった野生馬だったはずのそれが、比類なき駿馬になっていることにわたしは気付いた。
 でも、でも。
 まったく恐怖を感じない。それどころかわたしは微笑んでいた。
 彼にしがみついたままそっと後ろを振り返る。
 お付きの騎士たちはたちまちのうちに引き離され、ちっぽけな点になっていた。

 「まぁ……ここまで乗りこなすなんて」マスター・リツコは口を小さく開けていた。「大の大人が三人、振り落とされたあげく背骨を折ったのよ。まさに狂った獣だったのに。伝説の乗り手の再来って大げさでもなんでもないのね」
 「そんなことありません。リツコさん」彼はきっぱりと言った。「敬意を持って接すれば、とてもいい子なんですよ」
 「ふーん。そうなんだぁ」肩までつややかな黒髪を伸ばしたマスター・ミサトが意味ありげに笑う。彼女はなぜかわたしを見ていた。「『とってもいいコ』ってそれ、どっちのことなのかしらん?シンジ殿ってずいぶん大胆な物言いをされるんだからぁ」
 あ、と彼がつぶやいた。わたしと目が合う。みるみるうちに真っ赤になった。
 「あらあら、いつものオクテにもどっちゃった」マスター・ミサトはとても楽しそうだった。「普段でもそれくらい積極的ならモテモテなのにねぇ」
 「……ミサト」いつも真面目なマスター・リツコがため息をついた。でもその表情がふと柔らかになり、微笑みへと変わった。
 人差し指と中指をそっと動かして秘密の……師弟だけの……合図を送る。
 彼と同じくらい真っ赤になって、彼にぎゅっとしがみついているわたしに。
  ……せっかくだから、もう一周していらっしゃい。



 「……なにしてるの?実習にも出ずに」彼の背中に呼びかけたわたしの声は、我ながら不機嫌なものだった。
 「あー、その、買い物に」
 「見れば分かるわ」彼が両手いっぱいに抱えた包みは高級な仕立屋のものだった。それも女性を専門とする。「このお店、バックオーダーがすごいことで有名だわ」
 「詳しいね……レイ」ひどく困ったような笑みを浮かべた彼に、どこか歪んだ喜びを得てしまう。
 「レディのたしなみ」ひょっとして彼って、わたしにその手の知識欲がないとでも思っていたのだろうか?それに、いつか、その、わたしだって……。
 「なーにが『レディのたしなみ』よぉ、官給品で頭のてっぺんから足の先まで固めてる魔女見習いのくせにぃ」
 突然目の前に赤毛の少女が立ちふさがっていた。腰に手を当てて、攻撃的な口調でかみつく。
 不覚にもいささかたじろいでしまう。
 もちろん、その口調に。
 断じてその美貌にではない。断じて……違う。
 「いい、コイツはアタシの護衛なの。だから今日は一日、アタシの買い物に付き合わせているのよ、文句ある?」
 「あ、アスカ……姫」絶句する彼。
 ああ、そういうことか。わたしは納得した。
 【塔】が講和を結んだ氏族から「客人」として族長の娘を預かったと聞いていたが、それが彼女だったとは。
 「分かった?分かったらアンタは学校に戻る。いい?」
 「あの、ひとつ言いたいことがあるの」
 「……なに?」
 「これ、あなたに似合わないと思うの」
 「う、ううう……うるさーい!アンタみたいな朴念仁オンナに言われたかないわぁーっ」



 「ハンカチ、使う?」膝を抱えている彼女にできるだけいつもの口調で呼びかけた。同情や哀れみを彼女が一番嫌うことをわたしはいつの間にか理解していた。
 彼女は黙ったままだった。
 彼女から少し離れて城壁に腰を下ろす。星がきれいだった。
 「……どうしてなの?」ぽつりとアスカ……西方の都市国家の人質である「朱の姫」は言った。「もう、戦争はしないって、平和が一番だって、誰も戦いなんて望んでいないって……」
 そのはずだった。
 だが、【塔】は条約を一方的に破棄した。
 【塔】は、わたしの属する偉大な……はずの……組織はアスカの故郷を踏みにじり、その国土を不毛の地に変えてしまった。
 「マスター・リツコに訊ねてみるわ」ある日を境にすっかり疎遠になってしまった女性の名をわたしは挙げた。「彼女ならきっと答えてくれる。この悲劇を避けられなかった理由を」
 実のところ、彼女が教えてくれるとは思えなかった。あの日、五週間前の長老会議から帰ってきたマスター・リツコはそれ以前の彼女とは別人になっていたのだから。それに気付いたのはごくわずか。わたしと、マスター・ミサトのふたりだけ。
 彼女は変わってしまったのだ。あの日以来、魂の芯をなす部分が甘く腐敗していたのだ。
 「理由なんて!理由なんて!そんなものあったって!」わたしの内心のつぶやきをアスカは気付くはずもなかった。彼女は涙をこぼして叫ぶ。「どんな立派な理由があっても、アタシの友達や、知り合いや、家族が犠牲になるいわれなんてない!返してよぉ!レイ、パパを、ママを返してよ!」
 なぜそうしたのかは分からないが、わたしは彼女の肩を抱いていた。
 「ママ、ママ、ママぁ……」聡明で、好奇心旺盛で、口げんかではわたしが絶対にかなわない彼女の涙が枯れるまで、わたしはその背中をそっと撫でていた。
 涙をぽろぽろとこぼしながら。



◆ ◆ ◆



 「ようやくお目覚め?とても楽しそうな夢を見てたようね」
 皮肉な声にレイは顔をしかめる。
 「お休みのあいだに身なりを整えてあげたわ」
 小間使い姿のまま……破れたストッキングも元通りにされ、カチューシャまで丁寧に頭に乗せられていた……手枷に足枷、さらに鎖付きの首輪まではめられて魔法陣の上に横たわる彼女にリツコは笑顔で呼びかける。
 レイはぎゅっと目をつぶって顔をそむける。魔法陣に固定された鎖がじゃらりと鳴った。
 「この《式》がなにをするものか分かるわよね?百年に一人の逸材なら」
 「何を呼び出すのか知らないけれど、無駄だと思います」
 「そんな風に考えてしまうのは、貴女がこどもだからよ」くすりと笑ってリツコは陣を起動する。「貴女が愉しむ様子をじっくり鑑賞させていただくわ」
 「……負けないわ」
 「今言ったこと、忘れないでね、レイ」
 紋章が輝き、同時に少女の肉体の下に無限の闇が広がる。
 そして「それ」が現れた。
 横たわる少女の顔のすぐ目の前に、ついと一本の触手が生える。どこかユーモラスに先端を曲げてレイの方を向いた。
 彼女は悲鳴を上げる。その触手の先端には眼球があったのだ。
 ぱちりぱちりと瞬きをしたのち、それは少女の表情をじっくりと観察する。
 たまらずレイは顔をそむけるがそれは執拗に身をくねらせて、彼女の怜悧な美貌のすぐそばまで近寄ってきた。
 ぎゅっと歯を噛みしめる。ぎゅっと目をつぶる。無意識のうちに胎児のように身を縮めてしまう。
 そのまま数分が過ぎた。
 そのときだった。
 足枷で固定された足首にそれが触れたのは。

 少女の唇から悲鳴が漏れた。
 それはぬるりとした粘液に包まれた触手だった。それは彼女のほっそりとした両足首に巻き付き、今まで彼女の自由を奪っていた足枷を難なく外す。
 「……っ!」
 ぐるりと身体を巡らされ、うつぶせにされた。
 それだけではなかった。足首に巻き付いた触手はレイに一八〇度ちかい大開脚の姿勢を強いたのだ。
 「ずいぶん柔らかい身体なのねぇ」リツコの声には相変わらずの嘲笑があった。「おかげで下着が丸見えよ。【塔】の若い小間使いの履くスカートはずいぶん短いから」
 レイは黙ったままだった。しかしなにかの気配を感じて振り返えったとき、そのけなげな努力は水泡に帰した。
 「いや、いや、いや……」がたがたと震えてなんとか逃れようとする。
 彼女が目にしたのはいくつもの「眼」。
 さっきから彼女の表情を観察し続けているそれと同一の触手眼が四つほど、背後から好奇心いっぱいの無慈悲な視線を、愛らしい小間使いのお仕着せからすらりとした脚を開き、ショーツにかろうじて護られているお尻を露わにしてしまっているレイの下半身に浴びせかけていたのだった。
 原始的な恐怖と嫌悪感におそわれ、全身をバネにして暴れる少女。
 しかし、それは狡猾だった。
 ひゅん、と風がうなる。
 そして、打撃音。
 次の瞬間、レイは声にならない悲鳴を上げた。
 さらに二度三度、打撃音とレイの悲鳴が続いた。
 「鞭打ちなんて、いままで受けたこともなかったのにね」リツコが嗤う。
 そうなのだ。
 紋章から生えた触手がまさしく鞭となって、瑞々しい少女の美尻を打擲したのだった。それも一本ではない。三本の触手がまるで勝ち誇ったかのように先端をふらふらとゆすりながら機会を待ち受けていた。
 「この……下劣な……」リツコを見上げる少女の紅の瞳には怒りと侮蔑に染まっていた。

 「元気でいいわ。でも、それもいつまで続くかしら?」
 「黙って、この……ひぁッ!ひ、ひ、い、いやぁ!」
 リツコの声に呼応するように、触手たちによるスパンキングが再開されたのだった。
 リズミカルに残酷に、レイの臀部に勢いよく触手鞭が叩きつけられた。
 歯を食いしばって打撃の苦痛をやり過ごした瞬間に、隙を狙ってつぎの触手が襲いかかる。
 悲鳴を押し殺そうと息を吸ったところを狙いすましてぶたれる。
 じんじんと熱を持った肌を波状攻撃される。
 優等生で大人しく、暴力も体罰も無縁だった少女が耐えられるはずなどない。
 たちまちのうちにレイの食いしばった歯のあいだから泣き声が漏れはじめる。
 無意識のうちに「やめて、やめて、ゆるして、ゆるして」とつぶやきはじめる。
 その澄んだ泣き声を伴奏に、三本の鞭は容赦なくリズミカルに打擲を浴びせかける。
 【塔】の手のものに包囲されていたときにはまったく動じる気配すらなかった少女が、桜色の唇から涙混じりの慈悲を乞う声が溢れ出すまで触手たちはスパンキングを続けたのだった。

 やがて常に冷静であり続けていたはずの少女が躰を震わせて泣きじゃくるようになると、「責め」は新たな段階に突入する。
 大開脚を強いられた太股の付け根、かろうじてまだコットンの下着に護られている乙女の部分に一本の触手が近づき、その柔らかな膨らみの部分を軽く突いて悪戯する。
 思わず挙げた嫌悪の声は、次の瞬間に勢いよく振り下ろされた触手鞭による悲鳴で消えた。
 ふたたび触手がレイの秘園にぴたぴたと馴れ馴れしく触れる。
 「く、やめ……て、やめ……ひぃぃぃッ!」
 抗議の声はさっきよりも激しい打擲で打ち消された。
 よこしまで卑猥な意志でもあるかのような下半身への悪戯、レイの抵抗、そして問答無用の鞭打ち。
 それが十数回続き、少女は理解させられてしまう。
 触手がコットン越しにレイの花弁の「かたち」を確かめるかのようにさわさわと動き始めても、少女はもう怒りの声を上げなかった。
 ぽろぽろと泣きながらぎゅっとこぶしを握り、下半身への淫らな悪戯を許してしまう。

 「あ……あ……いやぁ……」
 ぬらぬらと濡れた先端が触れるか触れないかのタッチでおんなの部分を弄られる少女。彼女ができることは全身をこわばらせて耐えることのみ。
 しかし、その邪悪な指を無視することはもはやできない。
 彼女の秘花は彼女の意志とは関係なく熱を帯び始めてしまったのだ。
 「ひ、ひ、ああ、あ、あ、はい、はい、はいってぇ……きゃぁあぁ!」
 ふたたび「お仕置き」が与えられた。
 だから彼女は泣きながら受け入れざるを得ない。
 レースのガーターベルトにつられた真っ白なストッキングの根元から、粘液まみれの触手がぬるりぬるりと侵入するのを。
 それは内腿を螺旋を描きそろそろと下っていく。ストッキングの薄い生地と肌のあいだに入り込むおぞましいそれに、少女は総毛だった。
 ゆるゆると進んだそれは膝のところでいったんとまり、膝裏をくすぐってレイに悲鳴を上げさせる。さらにさらに下っていってほっそりとした足首にからまった。。
 それと同時にいままで彼女に開脚を強いていた触手がしゅるりと解かれた。
 ほっとため息をついて恥ずかしい姿勢から逃れようとするレイ。
 だが、その脚を閉じることはできないのだ。
 まだ肉付きの薄い太股に、ふくらはぎにからまった触手は彼女の意志通りに脚を動かすことを許さない。
 「あ、あ、なに……」
 レイの意志とは裏腹に彼女の姿勢が変えられていく。
 渾身の力で抵抗しても勝てず、さらにはまた「お仕置き」を受けた少女は触手の操り人形にならざるを得ない。
 唇を噛みしめながら、お尻を高く突きだした恥ずかしいポーズを受け入れざるを得ない。
 「……!」
 くるりとショーツが剥かれ、まだ幼いカーブのヒップが外気にさらされる。
 鞭打たれて腫れ上がり、秘肉の淡いから蜜をにじませたお尻を剥き出しにされる。
 「可愛いお尻ね。レイ」リツコに揶揄されて少女はむせび泣く。

 その紅玉の瞳が大きく見開かれた。
 下着越しにおぞましい物体に嬲られて、意図せぬまま熱を持ってしまった乙女の淡いに触手の一本が……食虫植物を思わせるかのようにぱっくりと開いた先端を持ち、粘液にまみれた肉突起を持ったそれが……レイの花園にぴたりと触れたのだ。
 冷静で怜悧なはずの少女が絶叫した。「いや!いや!いやぁ!」と声を枯らして泣き叫ぶ。あまつさえリツコに助けを求めてしまう。
 なんとか触手から逃れようとする動きが、交尾をねだる牝犬のそれと同一であることなど気づきもせずに。
 しかし秀才少女の悲鳴はしだいにその音色が変わっていく。
 どこか甘く、媚びを売り、艶やかなものに。
 全身を使っての抵抗も、ため息とともに腰を振る動きへと変わっていく。
 それは無慈悲な触手鞭の「おしおき」に少女が屈服してしまったため。
 触手のぱっくり開いた先端に、幼い肉芽を転がされ、肉突起でちくちくと刺激され、別世界の快楽を教えられてしまったため。
 「は……ぁ……ぉ……ぁ……」
 がっくりと頭を床に落とし、半開きになった唇からとろとろ唾液をこぼすようになる。
 そのすぐ目の前にまた触手が現れる。
 今度のそれは指三本ほどの太さで甲殻類のような節を持っていた。ただしその先端にはみっしりとイトミミズ状の繊毛がうごめいている。
 それは迷いもせずにレイの唇へ入り込む。
 「む、む、むぅぅぅうッ」我に返った少女はそれをなんとか吐き出そうと、それが無理なら歯を立てて撃退しようと試みる。
 できるわけなどない。
 硬い甲羅を持ったそれは彼女の儚い抵抗などかなうはずもない。
 それは勝手気ままにさらに奥へ進み、微細な繊毛で少女の桜色の舌を捕らえてしまう。
 レイの全身が痙攣し、両脚の付け根から透明な液体を迸しった。
 ……柔らかくって、ざらざらしてて、ちくちくしてて、くすぐったくて、ねばねばしていて、いっぺんに、全部が、先も、奥も、吸われて、クチのナカもくすぐられて……あ、ああ、あ、あ、あ、あ、あ、ああ、あ、あ、あ、あ。
 「レイったら、キスに夢中ね」もはや少女は憎むべき敵の声も聞こえない。
 口腔内をおぞおぞと動き回り、歯茎から口蓋を同時に舐め回した上に、柔らかな舌を玩ぶ繊毛群との口唇性交に溺れていた。

 唇を貫いた触手がゆっくりとピストンしはじめると、それにうっとりと唾液をまぶしてしまう。
 それがすぽん、と口の外に出てしまうと、鼻を鳴らして抗議の声を上げ、積極的に舌を伸ばしてうごめく繊毛と舌を絡めてしまう。
 エプロンドレスの裾から、襟から、袖口から無数の触手が入り込み、その処女肌に粘液を擦りつけはじめてもまったく抵抗しなかった。
 「朱の姫」よりも成長していると少女のひそかな優越感の元になっていた、まだ硬いバストを触手が絞り出しても、はぁっと虚ろに吐息を漏らしてしまう。
 ぷっくりと持ち上がった乳首を先割れ触手でぱっくり銜えられるとふたたび失禁しながらとても幸福な笑みを浮かべてしまう。
 だからそれはリツコには意外だった。
 ぱちんと指を鳴らして少女に口唇奉仕を強いていた触手を元に戻し「ね、レイ、反省してるかしら?」と訊ねたときに、彼女がゆっくりと首を横に振ったことに。
 同時にリツコは歪んだ喜びを感じてしまう。
 この知性的で無垢な少女の精神をどろどろに淫靡なものに変えてしまえば、彼女はどんな言葉で隷従を誓うのだろう。
 どんな風にこの異界の魔物との交接をねだるのだろう?
 だからリツコは鷹揚に微笑むと、レイのプラチナブロンドを撫でてやる。
 「処女のまま堕落させればおもしろかったんだけど。強情なのね」肩をすくめる。「だからこれはちょっとした罰。『心を入れ替えた貴女』がどうなるかを今教えてあげるわ」
 リツコはレイの耳元に唇を近づけて囁く。
 「貴女はね、異界の存在の母になるのよ」
 はっと目を見開いた少女にリツコは説明する。

 彼女は憑代となるのだ。【塔】が発掘し契約した【使徒】のための。
 おそらく異界の神であろうそれらに実体を与えるための苗床となるのだ。
 十分な魔法の素養を持ち、すばらしい感受性を持ったレイや「朱の姫」アスカは、そもそもそのために集められたもののひとりなのだから。
 だからまず、彼女の「すべての純潔」は異界のものへ捧げられる。

 子宮につながる女の部分も、唇も、さらに後ろの排泄口まで。
 人外の快楽を全ての穴で覚え込まされたのち、女の道具を細胞の一片から造り替えられるのだ。
 そうして苗を植え付けられ、数年に渡る妊娠期間を経て「それ」を生み出すのだと。

 「大丈夫よ。大丈夫。【使徒】を身ごもっている間、貴女は常にその力に護られるのよ。魔力も増加するし。それに、彼らはママにとっても優しいの。ご褒美に気が狂うほどの快楽もくれるらしいわ」
 青ざめ、かちかちと歯を鳴らすレイに微笑む。
 ……そう言えば、ユイもあんな顔をしていたっけ。植え付けるときに『ザ・サードの弟になるのかしら、これは』と言ったのを今でも覚えている。
 純潔の条件について知らなかったばかりに、最後の最後で失敗はしたが、その経過については貴重な資料を得ることができた。
 それにしても、あの理知的なユイが「幼子」が子宮から与える快楽でどろどろになるのだから……この娘はどうなるのかしら?
 「大丈夫よ。とっても楽しみにしていてね」

 ぱちんと指を鳴らしてふたたび触手に美少女の唇を犯させてやる。
 小間使いの衣装は触手にあっさりと剥ぎ取られ、雪のような裸身を隠すものはすべて奪われた。
 そうして、第一段階へと彼女は進まされる。
 恐怖に震えていたはずなのに一心不乱に触手とのディープキッスに没頭してしまった彼女はほおを軽くぶたれ、あえて正気にされたところでその純潔を触手に奪われる。
 ぐるりと表に返されて、二つ折りにされてしまう。全身をねろねろと嬲られた甘い快楽に逆らえず、白濁液をとろとろとこぼす自身の処女口が見える姿勢を強いられる。
 クリトリスを転がされる快楽に悩乱しつつ、未通の部分におぞましい物体……先端にびっしりと繊毛が生え、うねうねとうごめく瘤つきの触手……に破瓜されるさまを見せつけられる。
 だが、レイは抵抗できない。
 後ろ手に縛られ、両脚は自分の意志とは関わりなく開かされ、クリトリスと乳首を肉突起で玩ばれ、繊毛とのディープキスとの甘い快楽に酔わされた少女は、純潔「だった」証の鮮血をにじませながら触手が胎内に埋まっていくさまを涙をこぼしつつ見ていることしかできない。

 胸が張り裂けそうな思いを無表情に押し殺して「朱の姫」と同行するよう勧めた少年の名前を呼ぶことさえできない。
 彼女の口は言葉を発することよりも虚ろな吐息を漏らしながら舌を吸われる悦楽にひたることを望んでいた。
 そして彼女は「変化」を強いられる。
 ぬるりぬるりと奥まで到達した触手はさらに先端の繊毛をうごめかし、レイのまだ未発達の子宮口を刺激する。
 幹のあちこちに付いた瘤がうぞうぞと動いて、狭い肉襞を掻き回す。Gスポットを虐められ、裏側からクリトリスを擦られた。
 たった半時間で勇敢で聡明だったレイは、セックスの快感で絶頂を迎えられるようになっていた。
 たった二時間足らずで【塔】始まっていらいの天才と呼ばれた少女は、内腿に破瓜の血をこびりつかせたまま腰を振って「ああ、ああ、とても……とても……この交わりはとても……すばらしいもの……です……ぅ」と感謝の声を上げるようになっていた。

 半日たった。
 膝立ちの姿勢に変えられて、下から触手にずんずん突き上げられながら腰を振っている少女は子宮からの快感に涙し、Gスポットの快楽に思考をとろかせ、ごりごりとピストンされる喜びに「あ、お、おおお、あは、お、ひ、ひぃぃん」とケダモノのような声しか上げられなくなっていた。
 その間、哀れな犠牲者をずっと観察していたリツコは、ひとつため息をついてから少女に近づいた。
 軽く頬を叩き、髪を掴んでなんども揺すって、夢の世界から少女を呼び戻す。
 にっこり笑ってリツコは訊ねた。
 「魔女見習いレイ、もう一度聞くわ」
 「本当に貴女は、【塔】が悪の存在だと信じているの?貴女にこんなすばらしい快楽を与えてくれる【塔】が本当に敵だと思っているの?」
 そう、「さっきの」レイは敗れはしなかった。リツコの言葉にも、いやらしい責め苦にも耐え抜くことができた。
 でもそれは、彼女が「乙女」だったから。「おんな」にされたレイはそれが教えてくれる快楽に勝つことができなかった。
 女にされてしまった、異界のセックスの悦びを魂の奥底まで刻み込まれたレイはかぶりを振った。なんどもなんども振った。
 「【塔】に逆らった貴女は愚かだった?」
 触手を銜えたままこくこくとうなずく。その瞳はどんより呆け、とても素直だった。

 リツコは指を鳴らす。少女の唇を犯していた触手が引き抜かれる。
 「では、自分の言葉でお詫びなさい。自分がどんなに愚かであったかを述べるのよ」
 魔女見習いレイは泣きながら、心の底から謝罪の言葉を紡いでゆく。
 いかに自分が愚かで、真実を見る目がなかったかを涙ながらに口にする。
 「分かったわ。レイ、貴女は愚かな振る舞いをしたけれど、今は反省しているのね」
 「は、はい!わたしは、わたしは、愚かでした……はあああぁッ!」さらにずん、と突き上げられた少女は悔悟の涙と絶頂の涙を同時にこぼす。
 「じゃぁ、レイ、貴女は償いをするのね?」
 「……償……い」幼女のように不安な表情となるレイにリツコは微笑む。
 「『ママ』になることよ。【使徒】の苗床になること」
 ふたたび震える少女。しかし、子宮口をこつこつと突かれ、その奥をざわざわとこすり立てられると正常な意識はあっという間に蒸発してしまった。
 「大丈夫よ。貴女にとってはとってもいいこと。この快楽がいつまでも続くのよ。そうよ、【塔】はとても寛大なのだから」
 レイの表情が喜色に輝き、美しい涙がこぼれる。
 「償ってくれるわね。レイ」
 「ああ、ああ、ああ……」すすり泣くレイ。もう運命から逃れられないことを彼女は理解していた。
 「大丈夫よ。とても素敵なことなのよ」
 優しく髪を撫でられて、美しい少女は泣きじゃくる。
 触手に全身を玩ばれながら、ずぶずぶと幼膣を犯されながら。



 そうしてレイは「繭」に閉じこめられる。
 紋章の外周に沿って生えた繊毛は少女を覆い尽くし、血管の浮いた半透明の膜を形成した。
 やがてじくじくと浸みだしてきた粘液がその「繭」を満たしてゆく。

 だが、頭のてっぺんまで粘液に浸されても彼女は溺れることはない。彼女は触手に口と女陰を犯されたまま、胎児の姿勢で夢うつつとなってその繭のなかを漂うのだ。
 やがて粘液は毛穴から侵入し、全身に染み通っていく。
 少女の肌を這い回っていた触手が極細の根をレイの体内に植え込み始める。
 特に首筋からちくりと侵入したらしいそれは深く深く根を伸ばし脊髄にまで達した。レイは一瞬玩具のように全身を痙攣させ、そのあとぐったりと動かなくなった。
 もちろん死んだわけではない。脊髄まで到達した「根」は一時的に彼女の自由を奪い、彼女の心を化学的・生物学的に書き直していくのだ。
 「苗床」としてふさわしい、従順で淫らな思考から逃れられない存在に造り替えていく。
 その間にも肉体の改変は進んでゆく。
 きつく窄まった括約筋は柔らかで十分な締まりを持つものにと変えられ、括約筋付近にもびっしりと神経感覚器を増やされて立派な性感帯とされた。
 だから尻穴をぶっとい触手に貫かれても苦痛などはまったくなかった。あるのは天まで昇るほどの快楽だった。
 これも母胎を仮の宿とする【使徒】がその「ママ】に与えるご褒美のひとつだった。
 さらに子宮口をくすぐっていた繊毛が子宮内部までびっしりと伸び、彼女の器官を異界の存在を生み出すものへと変換してゆく。
 もちろんそのプロセスも少女にとっては眩しいばかりの快楽となる。


イラスト:名無さん「、、、洗脳中?」


 魔女見習いの美少女は、うっとりとした表情で繭のなかを漂っている。
 とても素敵な夢を見ながら。
 彼女にとって、確実な未来と思われる夢を見ながら。



◆ ◆ ◆



 「……ね、気持ちいい?」
 「……」
 「わたしはすごく気持ちいいの」
 わたしのすぐ目の前で「朱の姫」が眉根を寄せてあえいでいる。涙をこぼして震えている。
 「いとしいひと」にうしろから貫かれて揺すられるたびに触れ合う彼女の肌は、とてもすべすべして気持ちよかった。尖った胸の先がスラストされるたびに擦れあうのも良かった。
 だが、彼女は不満足なようだった。ぽろぽろと泣いていた。
 「どうしたの?」わたしは囁く。「わたしはすごく気持ちいいわ。『サード』ったらわたしの中にぴゅるぴゅるって出してくれたまま、すごい勢いで掻き回しているのよ」
 「……いれ……て」しゃくり上げながら「朱の姫」は言った。
 「なに?どうしたの}
 「……いれてよ。アタシにもシンジと愛させてよ!」ついに姫のプライドもかなぐり捨てて彼女は叫んだ。「ペニス、ペニスがほしいの!アタシ、アタシ、三日前からずっとセックスさせてもらってないのよ!オチンチンを入れてもらってないのよ!お願い、おねがいだからアタシにもちょうだい!」
 「駄目よ。貴女はただの『抱き枕』なんですもの」わたしはくすくす笑ってぎゅっとしがみつく。手枷で後ろ手に固定され、さらにそれに足首をつながれた美しい赤毛の、人肌の抱き枕に。
 そう、この叛乱の最大の戦犯を慈悲深くも【塔】は助命したのだった。
 寛大な【塔】は「朱の姫」に贖罪の機会を与えたのだ。
 彼女の世話をするよう言いつかったのはわたし。
 だから、わたしは彼女に愛情を持って接している。
 運動不足にならないように散歩にも連れていく。衣服をつけることは許さないが、「朱の姫」としての髪飾りはきちんとつけさせている。それが彼女の誇りの源であることは、わたしだってきちんと分かっているのだ。
 食事もわたしと同じものだ。ただし、彼女は床で手を使わずに食べなければならないのはある意味当然だが。
 「彼」と愛を交わすときも排斥したりしない。
 今日のように抱き枕として使ってあげるときもあれば、貞操帯に口枷をつけて、手を使っての愛撫や素股をさせてあげることもある。

 ああ、「終わったあと」に彼のペニスを清めさせてあげるときもある。その日とってもいい子にしていたときなんて。
 だが、ここ数日は「いい子」ではない。だからわたしは彼女にその事実を話してからおあずけしている。
 それなのに……。
 「欲求不満なのね。貴女は」
 わたしの表情に気付いたのだろうか。「朱の姫」の紺碧の瞳がさっと曇った。たちまち唇を震わせて弁解をはじめる。
 「あ、あ、ご、ごめんなさい……レイさま。アスカは悪い子でした。だから、だから、アレはやめて。アレ、あれはいやなの」
 「いいえ、決めたわ」わたしは静かに言った。いい飼い主は決して感情を大きく起伏させたりはしない。「ワームたちに貴女を慰めさせてあげる。お尻と、お口を好きなだけ犯してもらいなさい」
 「いやぁ!」アスカはこどものように泣きだした。「ワームは、ワームはいやなの、あれに犯されたらアタシ、狂っちゃうよぉ、それに前はずっとこのままだなんて、やだよ、やだよ、アスカ、アスカおちんちんが欲しいの!ふつうにせっくすしてほしいんだもん!」
 泣きじゃくる彼女を見て『サード』はさらに高まったらしい。わたしを貫くものが一回り太くなり、腰の動きも激しくなった。
 「ほしいの、ほしいの、オチンチンがあそこにほしいのぉ、入れてほしいのぉ」
 ああ、なんて愛らしいのかしら。彼女は。
 わたしはぎゅっと抱きしめてから彼女の涙をそっと舌ですくう。

 ……こんなに欲しがっているのなら、明日の散歩のときに市場まで脚を伸ばそう。
 確かあそこには下賤(げせん)な男たちが女を買う場所があるはずだ。聞いた話ではそこで女を売るものたちは壁に手をついたり、背中をもたれかけて「立ったまま」するらしい。
 そこに「朱の姫」を連れていって、最低料金で男どもに提供してあげよう。
 最初は恥ずかしがるだろうが、なに、すぐに没頭してしまうに違いない。
 彼女はいつもそうなのだ。
 ワームとの交わりも、裸のままのお散歩も、嫌がるのは最初のうちだけなのだから。

 わたしは彼女ににっこりと微笑む。
 背後からのしかかっていた『サード』がうめき声とともに放出したのはちょうどそのときだった。
 ……あ、一緒に行きたかったのに。
 拗ねた表情で振り向くわたしに、彼はにっこりと微笑んでくれる。

 わたしはとても感謝している。
 この幸せに。
 この幸せを与えてくれた『塔』に。



◆ ◆ ◆



 魔女見習いの美少女は、うっとりとした表情で繭のなかを漂っている。
 とても素敵な夢を見ながら。
 彼女にとって、確実な未来と思われる夢を見ながら。


 ……それは「彼」と「朱の姫」がその塔に帰還する四年前の出来事だった。




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