Big Ben
01
「んうっ……、えうぅ……」
安っぽいバーの洗面所は安っぽい以上にどこか不潔な感じがして、アタシはそんな蛇口からの水で口を濯ぐ気になれなかった。
「ハッハ! 嬢ちゃんにゃ、ちょいとヘヴィだったかい?」
「バカにすんじゃないわよ……。これ位、どうってコト無いわ。少しヤな感じに入っちゃっただけよ」
―― そうだ。
いつもはこんな安い酒で酔っ払うようなアタシじゃない。
ただ、今日は……楽しくない飲み方をしてしまっただけ。
それもこれもシンジが悪いのよと、アタシは嫌な酸味の残った口元をハンカチで拭った。
「……アリガト、ちょっと楽になったわ」
「OK。なぁに、礼には及ばねぇよ。これでも女の子には優しくってな? ウチの婆ちゃんに口やかましく言われたもんさ」
ニッ、と鏡越しに調子良く、黒い肌のコイツは笑ってみせる。
そう言えば名前も知らなかったっけ。
やけ酒を煽っていて、たまたま隣合わせで気が有っただけのコイツ。
UNの派遣で来ている海兵隊員らしいが……。
「この国でも言うんだろ? ソデ擦り合うも、エンの内”ってな」
普段なら相手にしないようなタイプだったけど、今は何故かその軽薄そうな笑い方がホッとする。
背を擦ってくれる手も大きくて暖かくて……アタシは少しひたってしまった。
「ちっこい背中だな……。ひょっとして嬢ちゃん、酒は早い歳だったか? この国じゃ年齢制限は厳しいって聞くぜ?」
「んっ……。ガキじゃないわよ。こう見えてももうハタチなんだから……。嬢ちゃんなんて言ってると、そのケツを蹴り上げるわよ?」
「オーケイ、ガール」
「んぁ……、ちょっと……」
「ん? 強くしちまったか?」
「いいえ……悪くないわ。そのままもう少し……」
「任せなよ……。ほれ、どうだい?」
筋肉ダルマと言うのが丁度良いような逞しい手なのに、なんて優しいのかしら。
ゆっくり背筋に沿って撫ぜられると、解けるような気持ちの良さが肌に染み込んでくる。
アルコールで重くなった体をやわやわと、肩の間から脇腹の上まで繰り返し繰り返し。
薄手のシャツ一枚でマンションを飛び出して来ちゃってたから、揉みほぐすようにしてくれる太い親指や手のひらまで、まるでアタシの肌を直接撫ぜてくれてるよう。
ホントに気持ち良いわ……。
「いい感じよ。うンんぅ……ホント上手ね……。アンタ、軍隊やってるよりマッサージでも開いた方が良いんじゃないの? なんだったら紹介してあげるわよ」
「ははん? 嬢ちゃんも言うねぇ……。どこかのキャリアみたいな事言うじゃねえか」
「ガキじゃないって言ったでしょ? こう見えてもアタシはねぇ……」
「オーケィ、すまねぇな。気に触ったら謝るぜ。……確かにガキじゃねぇよ」
「んんっ……」
さわさわと背中の終わりから、さらにその下に伸びる手のひら。
アタシが今履いているデニムのホットパンツは部屋着にしていたものだから、ウェストのボタン一つで腰に引っ掛けてるだけ。
別にベルトを通しているわけじゃない腰の後ろは危うくたわんでしまっていて、シャツの裾を少しめくるだけでショーツが見えてしまっていただろう。
本当なら今頃、シンジにビショビショにさせられてから脱がして貰っていた筈の、それなりにお気に入りのピンクのやつだ。
「……あん。ちょっと……どこ触ってるのよ……」
そろそろと撫ぜ下ろす指先をヒップの谷間のはじまりに感じそうになって、アタシは身震いした。
だってその時にはもう―― コイツのタッチは、凄くいやらしいものになっていたから。
「ンもうっ……。ねぇってば……」
軽く身じろぎした程度じゃ気にもしないで、コイツはそのままマッサージ”を続けた。
アタシがむずがるようにすると手を引っ込めて、でもそのつもりは全然残したまま、またそろそろと様子を見るようにちょっかいを掛けて来て……。
アルコールのせいばかりには出来ないかもしれないけれど、アタシはそのいかにも大人の駆け引きって感じを楽しんでしまっていたのだ。
気が付けば、いつの間にか男臭い腕の中にすっぽり後ろから包まれて、ねっちりとお尻を撫でられていたアタシだった。
「小っこいがガキじゃねぇな。柔らけぇ……オンナのヒップだぜ」
「あ、やだン……ん」
―― そう、気付けば、だ。
優しく擦って貰っている内に、アタシはうっとりと目を瞑って身を任せていたらしい。
染みの浮いた鏡に映ったアタシは、肩を馴れ馴れしく抱かれながら、顔を赤く染め上げてしまっていた。
「やん……ンああ……。ちょっと、エッチよぉ……?」
本当に……ゴツイ顔に似合わないオンナに手馴れたタッチ。
警戒心も解れるようにアタシの守るべき場所に忍び込んできていて、その手を引っ叩かなきゃならないアタシと来たら、触られて喜んでお尻を振ってしまっていた。
「ん〜〜、良い香りだ。ガキが背伸びしたような香水なんかじゃねぇな。まるで、アンタのオンナから漂ってるみたいだぜ……」
「あっ……ちょっとぉ……」
「ホント、酔っちまいそうな香りだな。So Sweetってな、ハッハぁ!」
か細い声は媚びているように聞こえただろう。
自分でも良く分からないのだ。
どうしてそれで払い除けもせず、うなじに唇を寄せられるまま、そのまま許してしまったのか。
「あンっ、 やぁぁ……!」
「オーケイ、立派なオンナの味だぜ? 甘くて甘くて、ビンビンくらぁ……」
ふぅっ、と耳に吹きかけられると、一気に膝が砕けそうになった。
「やっ、やめて……! そんな、強く吸ったら跡が……ぁ、はぁぁ〜〜ンン!!」
「気にするなよガール。 大人のオンナなんだろう? 見せびらかす位が良いのさ、そぉら!」
「ひゃン!? んふぅぅンん〜〜!!」
首筋から熱く……吸い尽くされそうな口付け……!
なんて情熱的なのかしら!
(し、信じられない……ゾクゾクしちゃうぅ……!!)
ジンジンと胸の先もアソコも一気に疼き出して、眩暈がしそうなくらいだ。
ショーツに熱い滴が染み出したのが自分で分かってしまう。
「それに柔らかいぜぇ……。嬢ちゃん、クォーターだって言ってたな? 先が楽しみなオッパイしてるぜ」
「あんっ、っや……!きっ、気安く人のムネに……ッ、さわ……触ってっ、はぁん! ああン、ああふ……!」
「おぅ、もう喘ぐので忙しいか? オレのマッサージもなかなかのもんだろう? リズミカルに行こうか!」
ぐにっ、ぐにっ、ぐにっ、ぐにっ……
(ああ……、揉んでる。……揉んでる! お、おっきな手で……アタシのオッパイ! ……そんなに、そんになに強く……! ああ、ああ……、ああ……! )
脇の下から伸びてきた黒い手が、アタシの胸を断りも無しに揉みしだいている。
シャツの生地ごとコイツの手のひらの中で、アタシの自慢のバストは自在に形を変えていて、不覚にもそうやって大きな指の腹でコリコリと固くなった乳首を転がされると、アタシはいやらしい甘え声を止められないのだ。
「ンふぅんん〜〜!! アッ、はっ、はっ、はっ、はっ―― !」
「クック、真っ赤になってよぉ? キュートな声だぜ、嬢ちゃん! 感度も良いみてぇだしな?」
「ハァ、ハァ……こ、こんなの……イヤよ……」
アタシはもう翻弄されるまま。
引っ切り無しの淫らな喘ぎ声がとても自分の声だとは、行きずりの男にカラダを許してしまっているのだとは信じられない。
いやらしい手付きは膨らみの麓からフニフニと揉み込むようにはじめ柔らかく、次いでギュウと音がしそうなほど握り締めて、荒々しく搾り出す。
休むことなく与えられる刺激に、みるみる躰が熱く火照り出した。
(やっ、やだ……。アタシ、か、感じちゃってる……!)
まともに物も考えられない、間髪を入れない巧みな責めがアタシを芯からドロドロに蕩かせていて、
「嫌じゃねえだろ? こんなにしちまってよぅ……。ほぉれ! もうじっとり湿ってるじゃねえか?」
ショートパンツの股からいきなり手を突っ込んで、慌てて腿を閉じる暇も無しにアタシのショーツの底をいじってくる……!
「いやんっ! キャ、ダメぇ―― ッ!? んあああン!」
「へへ、ガール、こんなに熱くしてよ? このコリコリしてんのは、お前さんのクリットだろう?」
「あぅああッ! あ―― ッ いやああッ!」
乳房を揉まれ、うなじに厚ぼったい唇が吸い付いていて、もう、敏感になり過ぎたアタシはビクビクと震えながら、されるがまま……
「あっ、あっ、あっ……あんっ! ああんっ!!」
汚れた洗面台に手を突いて、バックから躰を弄くり回されて喘いでいるアタシは、もうすっかり火が付いてしまっているのだと自分でも分かる。
それは鏡の中、正視に耐えない厭らしい貌に―― 切なく眉根を寄せて、バカみたいにうっとり目元を緩ませた、アタシの知らないどこかの淫売の顔になってしまっているのを見るまでも無い。
閉じることを忘れたような唇からは、快感の証の熱い吐息がとめどなく。
この見も知らぬ黒人男の愛撫に蕩けきって、挿入こそまだされていないけど、間違いなく犯されての快楽に悦びのたうっているアタシ。
今ここで、こんな汚い洗面所でパンツを脱がされても、そのまま罪の意識も欠片も無く、喜んで股を開いてしまうに違いない―― そのまま知らない男のペニスでシンジの為の子宮を串刺しにされて、嬉し泣きしながら悦がり狂うだろうアタシだ。
(そうよ、シンジよ。シンジが悪いのよ!)
アタシの躯をこんなに開発しておいて、もうこんなにセックスが気持ち良いと知ってしまっているアタシの躰だから、こんなに感じやすく―― 『ジュンッ』と、股の付け根が熱く潤んでしまっているのだ。
(もう、もう……墜ちてしまいそう! あ、アタシ、もうダメ。きっと堕ちてしまうわ……!!)
「ヒぁ……! あッ、あッ、あぁっ!!」
「すげぇよ、たまらないカラダしてるぜ。……ヘイ、ガール。アンタの名前は?」
「んっ、ふっ……あ、アスカよ……」
「よぉし、アスカ。折角の俺達の出会いだ。お前さんも燃えきらないバッドな気分のまま『bye!』なんて嫌だろう? ……ん? どうだい?」
グイ……、とショーツの股から差し込まれた太い指先は女の感じる部分なんてとっくに知り尽くしていて、一番敏感な芽を潰すように、熱くぬかるんだワレメをなぞるように、アタシをはしたなく叫ばせる。
「ヒィッ! ……い、イヤ……ぁ、はぅンん! ええっ、そうよ。そうっ! ……あ、アタシもイヤだわ……!」
「オーケイ、アスカ。何処かシャレた場所で、もっと美味い酒を飲もうじゃないか」
「ハッ、ハッ、ハァ……、ハァン……! ……ンっ、んうゥっ……ッ、い、良いわ。つっ、連れて行きなさいよ」
「ああ? 連れて―― 何だって?」
ズブブッ……!
「ひぃぃぃん―― !?」
今度はクリトリスを潰されるのと同時に、残りの指が三本、揃えてアタシの中に押し入ってきた。
一本一本が太くて、まるで丸太のよう。
アタシのヴァギナは力いっぱいに無理矢理引き伸ばされているみたいで、隙間から押し出された、アタシが漏らしてしまっていた愛液が太腿にダラダラと糸を引いてこぼれ出す。
「ああっ、いっ、イタっ……! 痛いわッ! やめて、そんないきなり無理よぉ―― !」
「いけねぇなガール? 折角の夜だぜ。お互い気持ち良く行ける様に、言葉遣いってな大切だぜ?」
この粗野な男は指先一つでアタシを支配して、哀願してみせろと命じているのだ。
この、天才たるアタシに向かって……!
何を思い違いをしているのだろう。
取るに足らない、大した教養もない海兵隊風情が。
本来跪くべきはコイツで、VIPのアタシと比べれば足元にも及ばない、つまらない男なのだ。
ニヤニヤと何を偉そうに、アタシが一声命じれば、この男からその瞬間全てを剥奪してやることだって出来る。
ねえ、アタシはアンタとは住む世界が違う女なのよ……?
アンタが手を触れて良いような、お安い女じゃないの。
そのアタシの躯をこんなに弄んで。
アンタが好き勝手に揉んで、舐めしゃぶって、指を突っ込んでいるのは、アタシが認めた男じゃなければ触らせない磨きぬいた最高のボディーなのに……!
「へへッ……。なんだい、随分イヤらしいじゃねぇか。こんなにヨダレ流してよ? こっちの毛なんかもうベッタリだぜ?」
「ヤッ? あっ、ひ、引っ張らないでぇ……」
「ほれほれ……どうするよ、アスカ?」
許されざる無礼を働いた報いをと、アタシのプライドは叫んでいる。
……ああ、それなのに!
それなのにアタシは―― 。
「あっ、ああ……。連れて行って……。あ、アタシを連れて行ってください……」
無力な小娘のように従順に、震える声を搾り出しているアタシ。
肩越しに振り返って上目遣いに、傲慢な薄ら笑いを浮かべたコイツに、涙の滲んだ目で媚びてみせる卑屈なアタシ。
耐え難い恥辱を覚えていても、それでもどこか、そんな無様な自分自身に、アタシは何故か背筋をゾクゾクと愉悦が這い登ってくるのを感じていた。
鏡に映っている今のアタシがどんなに惨めったらしいかを思う、それだけで脳裏に白く霞掛かっていく。
それは禁忌と言っても良い―― 被虐の悦楽だ。
「んぁ……あ、ああン……。あ、アタシってば……。なんて、い、イヤらしい……」
殆ど正気を失いかけていたのだろう。
気持ちは神経を痺れさせるピンク色の快楽だけになっていて、昂ぶりがどんどん増して行く。
『アハン、ンフゥン……』と、恥ずかしくてたまらない身悶えの中、それでも愛撫が止んでいたわけではない。
太い親指に捕まえられたクリトリスをクネクネとこねられ続けて、尚も容赦なく襲い掛かってくる快美に切なく腰をくねらせ打ち震えていたのだ。
「オーケイ、オーケイ! アスカ、グルーヴィーにキメようぜ、なぁ? そら、景気付けだぜ!」
―― ギリッ!
「いヒぃんッ!?」
固く尖った、感じすぎる部分を上と下と一時に潰されて。
ゴゥと、アタシを内側から灼き焦がす炎が吹き出したかのようだった。
「ひあ……、は、ッハ、はぁぁ……!」
ピンと張りつめたオッパイの先端を弄ばれ、柔肉の中に鷲掴みの指が沈み込む、まろやかな手触りを楽しませてしまっている。
バスト全体が、熟れた果肉がそのまま落ちてしまいそうなくらいに火照って熱い。
ズチュッ、チュッ、ニチッ、ニチュリッ……
「ハァン、はンぅ〜〜……うむっ、んっ、んっ、んっ、ん―― っ、んぶふぁ……!」
股間のスリットも、ショーツの脇から潜り込んだ三本の指先に深くグチャグチャと抜き差しされている。
愛液と過敏になった粘膜とを一緒くたに掻き混ぜられる、気が遠くなりそうな気持ち良さ。
後ろから、もうピッタリと密着してアタシをまさぐっているコイツは、ギンギンに張り詰めたペニスをお尻に押し付けてきている。
ぐいぐいとホットパンツの布地越しにめりこんでくるシャフトの動きは、擬似的なセックスそのもの。
今にも硬い先端がパンツを突き破ってきそうで、そのアヌスの入り口を狙われている危うさが、瀬戸際の恐怖と混じってアタシの子宮を熱くさせる。
つい応えるように、自分からもヒップを振って擦り付けてしまうのだ。
「そんなっ、膣内(なか)で拡げてぇ……。ああっ! こんなっ、うそよっ……やあッ! あっ、あうっ、うふっ、んああン! ひんぅぅ……!!」
一瞬でも気を抜けば、もうそれだけで頂上まで連れて行かれそう。
泥濘にとろけて莢からそそり立ち、指の腹でしごきあげられ電撃のような官能を泣き叫ぶクリトリスはアタシの心に全面降伏を突き付けていて―― でも拷問のようなそれが堪らなくイイ……!。
抑えようとしても甲高くこぼれてしまう嬌声と、ヒクヒクと指を締め付ける膣壁で、アタシがどんなに感じているかは伝わってしまっている筈だ。
「そら、そら…そら! どうだい!? キュートに哭いてくれよ!!」
ジュプッ! ジュッ、ジュプ! チュブブブッ……!!
すすり泣くアタシの膣の奥底へ向かって、コイツの太い指が深々と突っ込まれていた。
そのまま指先でくじるように子宮口を責められる。
「あぅンッ! うっ、ひーっ! やっ、ダメッ! キツ過ぎるの! ああッ、あひッ、ヒィ〜〜……!!」
男がとどめに寄越した責めはどれもこれも苛烈過ぎる暴力そのものだった。
叫ぶような痛みの中に、しかし良く見知った最上の快楽が混在していて、刹那の同時に爆発して湧き上がる。
(ああ……。ゴメン、ゴメンね。アタシ、アタシ……もう、ダメだわ! イッちゃうッ、イッちゃうのォ……ッ!!)
心に叫んで陥落を認めた―― いいえ、受け入れてしまった時。
アタシは髪を振り乱して身を捩じらせ、カッと見開いた目尻から涙を宙に撒き散らしていた。
「ヒッ、ひあっ、あひぃぃぃ〜〜〜〜〜〜ン!!」
―― 瞬きの後、パクパクと凍り付いていた喉は、思い出したようにあられもない悲鳴を張り上げて。
とうとうアタシは仰け反りながら、一番恥ずかしいエクスタシーの啼き声をシンジ以外の男に聞かせてしまったのだ―― 。
そのまま、フニャフニャになった躰を抱えられるようにして夜の歓楽街に連れ出されたアタシは、もう……辺りの景色なんてまるで目に入ってなくて。
それどころか、心配しているだろうシンジ達の事も努めて思い出さないように、胸を揉んだり股間を弄くってきたりと、好き放題に触ってくる腕にしがみつくようにして、熱い息を吐いているだけになってしまっていた。
Original text:引き気味