Back Seat

Original text:引き気味


14

無為の時間は長く、苦痛であり、充実した日々ほど疾風のように駆け抜けて行くという。
胸躍らせる映画が終わってみればあっという間のことであったと感じるように。

―― ならば、あたしのこの今はどうだろう?

悪夢の只中に在るかの如く身と心を苛んで。しかし、苦痛の終わりは何時かと待ち望んでいられる余裕は常に無い。そんな日々。
瞼の裏を飛び散る極彩色の稲妻に弄ばれ、涙と悲鳴を叫び続けるだけ。蹂躙されるセックス。
かつて自分がそうであると認識していた自分のかたちを、ドロドロに熔かされ、組み替えられる調教。
麻薬のように理性を蝕んで、あたしは何をされているかもはっきりとはしていられないまま―― のたうち狂う。
それでいて、夢見の悪さに跳ね起きた時ほどにはあやふやともしない、鮮明な、淫らがましい記憶。忘却の祝福にすら預かることが出来ない。

『あはっ、あはぁん! あっ、アタシにっ、アタシのいやらしい穴に……ご褒美をォ……!』

主と呼ぶ年寄りの足元に全裸で這い、その汚らわしい足指をしゃぶりながら、自分の唇で犯してくれと請い願う。もう片足に奉仕する親友と競うように。
そういった醜悪なビジュアルからも、決して目を背けることは出来ないのだ。
例えそれが、どんなに理性を飛ばし狂ってしまっている間にしでかしたことでも。あたしとヒカリという二人の奴隷の全てを蒐集家の目付きで記録した、あの老人のビデオライブラリィがそれを許してはくれない。事あるごとに三人での鑑賞を強いられている。

『どうだいアスカ君? たいした絵だとは思わないかね』

―― 壁一面のスクリーン。残酷な臨場感を整える音響システム。
映し出されるのは常に、設備の豪華さを滑稽にさせるポルノムービーだ。
シーツにあちこちと塗れた染みが見える布団の、真上からのアングル。むきだしの胸を喘がせ横たわる赤毛の少女が、白い太股の下に入れた手で両脚を開げている。
膝を体の両脇に引き上げるようにしているそのお陰で、天井のカメラには彼女の股間がくっきりと捉えられていた。
横に寝そべるもう一人の黒髪の女の子が手を伸ばして、握ったバイブレーターでぐちゃぐちゃとそこをかき回しているのが良く分かる。
髪と同じ色の薄い恥毛は既にしっとりと蜜を帯びている。疎らな毛筋の上に張り付いた白い濁りは、男の精なのだろう。
照明を浴びててらてらとぬめっている陰唇のヒダは、あどけなさを残す顔と見比べるには誰しもが意外の筈の―― くすんだ色。それは、黒髪の少女がもじもじとさせる足の間に覗く色付きが鮮やかなピンクであるだけに、より鮮明に彼女の男性経験を物語っていた。
言うまでもなくアスカとヒカリ自身の姿だ。
愛撫し、愛撫されつつ。同性の親友同士で潤んだ視線を絡ませる二人は、切なく眉根を寄せた顔でキスを交わし、小さな唇から突き出させた舌と舌とに粘ついた音を立てている。
ああんと声も甘く濡れさせて、お互いの名を呼んでいる。

『…………』

声も無く映写される照り返しを浴びるスクリーンのこちら側のアスカとヒカリには、生々しく耳元に聞こえる音声の一つ一つが、カッとうなじを熱くさせる羞恥の鞭音だった。
やはり全裸の姿で、黒革のソファに座る老人の足にそれぞれ横座りの背を持たせ掛けている。その股間にもついぞの洪水の名残が粘ついていては、身じろぎ一つでくちゃりと同じ浅ましさが聞こえてしまうだろう。
だが、体を強張らせる二人に、老人が終わるまでをそっとやり過ごさせてくれる筈も無い。
その具合はどうだったかねと感想を尋ね、だらしない顔で悦がっている映像に自ら解説を付けさせる。

『気持ち……良かったです』
『友達の持った玩具で犯してもらうのがかね? 随分と大きく股を開いて、ねだっていたからねぇ』
『は、はい……』

背もたれ深くから見下ろす老人にも、アスカ達が耳までを赤くしているのは、たとえ部屋を暗くしていても容易に窺い知れる事だ。
くっくっくと喉を鳴らす。

スクリーンではやがて、少女たちのディープキスの間に老人の黒ずんだ陽物が割り込んでいた。
躾けられた反射で舌を伸ばすアスカ。けれども奉仕をというそれを無視するようにして、老人はヒカリの口にペニスを飲み込ませる。
『あ……』と物寂しそうな声が小さく―― しかしはっきりとスピーカーから響いて、眺めさせられているアスカの肩を震わせた。
映し出される中では、不意のイラマチオに呻いたヒカリが、もう以前の初心な女の子ではない事をはっきりと示していた。
小さな唇で老人の性器を精一杯に受け入れると、もごもごと口元を蠢かせ始める。細い首をもたげて顔を傾け、また傾け、老人の快楽を心得て刺激している。
咥内の様子を伝える頬のすぼみ、膨らみ。
左右のお下げに髪を分けたうなじは汗ばみ、ほつれ毛が張り付いてる。
同じ中学高校と通っている親友の眼前で唇を犯された恥じらいにか、はじめ赤らんだ目元を伏せるようにしていたが、次第にそれも忘れのめり込んでいっている様子だった。

『ヒカリ君は上手になったと思うかね?』

老人の股間を挟んだ少女達の顔を拡大させて、老人が聞く。
ヒクンとアスカはまた肩を震わせたが、応えをあまり返さずにいてはと恐れるように、間を置かずその答え難い首肯を言葉に乗せた。

『それはワシの奴隷として、先輩から見てのところなのだね? そう、ヒカリ君も良い奴隷になってきたと』
『……はい。ひかっ、ヒカリも……ご主人様の、……っ、ペット奴隷として……。その、立派に……立派にお仕え出来るように……』

傍らのヒカリが顔を背けているのは分かっていたから、言葉尻も震えての搾り出した声だった。
それでも彼女たちの眼前には、純朴な顔立ちでありながら眉間の悩ましい皺を一層深くさせ、熱っぽい鼻息を漏らして老人のペニスをしゃぶり続けるヒカリが居たのである。

『ふん……ム……、ンン……』

クラスの真面目な委員長で、恋を打ち明けるのに恥ずかしげに声を潜めていた―― そんな洞木ヒカリという少女も、アスカと同じ肉の地獄に沈もうとしている。
それはどうせ、見紛うことの無い事実だった。

『ヒカリ……』

―― そしてまた、嬉しそうに口一杯に、陵辱者であった筈の老人の肉槍を頬張っている友を見て、(あたしにシてくれるのも忘れて……)と、あの時の自分が蒼い瞳に何を浮かべて見詰めていたか。はっきりと思い出せるその感情。

(あたしは羨んでいたわ。ヒカリがうらやましいって、あんな真似をさせられているヒカリに……。あたしは、あたしは自分がしたいって……!)

仕方なく自分の手で寂しくバイブレーターを操る心は、確かに嫉妬のそれであったと思い出すことが出来る。
それも同じく、アスカには否定の出来ない事実だった。



◆ ◆ ◆

(あたし達は狂って行くわ……)

日々、老人の手で肉体をいじくられ続け、泥沼のような肉の感覚に溺れている内に。刻々と。

(もう、昔のあたしに戻ることは出来ない。……ヒカリも、もうだめ。きっとダメだわ……)

さんざんに犯され続けた自分たちは、麻薬患者が薬物への欲求にだらしなくなるのと同じく、老人の前に立つだけで股を濡らしてしまう淫らな心と体にされてしまっている。

(こんな無様なあたしに……。あ、アタシはっ……!)

―― 変わってしまったのだ。

正直、これ以上耐えてなどいられないと思う。
死にたい。全てを投げ捨ててしまいたい。何もかも忘れて、自分を―― 真っ白にしてしまいたい。汚れてしまった全部を消し去ってしまいたい。
いっそ……と、それはタナトスへの囁きだ。

しかし、そうしてでも、そうやってでも、アスカがその躯一つで買い支えねばならなかったシンジの命は―― いつかと同じに逃げ出してしまうには、あまりに重かった。
加えて今は、ヒカリにも責任を果たさねばならない身であることを、アスカの負い目は決して忘れさせてはくれない。
大切な友を、地獄に引きずり込んだ責任だ。何時かは清算するか、叶わぬのならどこまでも付き合うしかない。
一人で逃げ出せるわけがなかった。

「んぁ、……っハ! ッぁはあっ! あっ、ああ……。気持ち、良いん……ですぅ……ぅ」

昏い空の色を映すリムジンのフロントガラス。思索を沈み込ませるまま、逃げ場の無い絶望を覗き込んでいたアスカの背後からは、いつもと同じくヒカリの嬌声が耳に響いている。
バックミラーで見返さずとも分かる、愉悦に顔を綻ばせた悦がり声だ。

「あっ、あっ、だめ……もっと……」
「ほうほう……ワシの指では不足かな? ヒカリ君。こんなに深く飲み込んでなぁ」

ちゅぐちゅぐと卑猥な水音が聞こえた。
ヒカリの声が跳ね上がる。
膝の上に乗せられてしまっているのだろう。それでスカートの下に入ってきた手で、下着の中をまさぐられているのだ。

「指だけじゃ……指だけじゃいやぁ……。んっ、くぅん……嫌なんです。もっとぉ……」

あのヒカリが、なんて艶かしい声を出すのだろう。ドライバーを務める男が、保安諜報部の人間だというのに耐え切れず生唾に喉を鳴らしたほどだ。

「何が欲しいのだね?」
「……あ、おじいさまの……その、逞しいものを……。わ、私のお腹の中に、入れさせて下さい……」
「よかろう……自分で入れたまえ」
「はい……あ、ああぁぁ!」

もぞとヒカリが腰を持ち上げた気配があって、すぐにあられもない声が車内を満たした。
アスカの席にまでバックシートからギシギシと軋んでいる。

(おじいさま、か……)

いつからか、老人はヒカリにそう呼ばせるようになっていた。
二人の調教は常に一緒にというわけではなく、片方の都合によっては―― 主に、ネルフの顔としてアイドルじみた仕事をアスカがさせられている時などだったが―― 一人だけがあの部屋に呼び出され、相手をさせられるということも多い。
そうした時は、いつもは二人で分担して受け止めている老人の性欲の前に、ぐったりと気力の底までを吸い取られてしまうのだが、恐らくはそんな機会に言い含めたのだろう。
アスカにはご主人様と呼ばせ、ヒカリにはおじいさまと。その思惑の指すところを推察出来ぬアスカではない。

(あたし達の嫉妬を煽って、それでまた恥知らずな真似をさせるつもりなんだわ)

折に付け扱いに差を設け、競わせようという考えだと伺えた。
二匹の飢えたメスとして自分達を扱い、その性欲を満たすただ一人の牡として、相手よりも自分をと媚びて来るのを楽しもうという、そういったところか。

(悔しい……。だけど……!)

学校帰りに校門前からリムジンに連れ込まれ、かれこれ30分。ヒカリが蕩かされている間、あんあんと気持ち良さそうな耳からの蠱惑に晒されたままのアスカに与えられた快楽は、ドライバーシートの黒服を伺いながらの自慰に拠るものだけ。
膝に置いた通学カバンの下に隠した手で、スカート越しに掻いている程度では全然足りなかった。
『ハン!』と、バカにしないでよと、老人のいやらしい狙いを鼻で笑い飛ばせてしまえた、穢れ知らずの自分ではもう無いのだ。

(もうっ、我慢できない……)

自分の女が疼いている。

(欲しいのよ……!)

飢えて飢えて、唾を垂れ流さんばかりになって。そんな女を可愛がらないで、どうかあたしを見て、あたしを犯して下さい……! と。

―― ならば分かっているだろう?

バックミラーを隔てて老人の目が語っていた。言われずとも分かっていることだった。
たった一つしか与えられていない選択肢は、アスカのその明晰な頭脳がひねり出すことの出来る、一番淫らで情けない哀訴の言葉を紡ぐことだけ。
そうして最悪の色気違いを演じて―― いいや、最早それそのものになった本性を晒して、頭の悪いおねだりをする。することになるのだ。

「ひんっ、ぅぃひい……ぃ、イイ……っッ!」
「おやおや、もう満足かね? 君らしくも無く淡白な話だな」
「あっ、あっ……だめぇ……! まだなのっ、私っ、あっ、まだぁあ!」

早くも絶頂を予感させる乱れようのヒカリに対して、老人はその兆しすら見せていない。
奴隷としての奉仕の義務は、老人を満足に導くまでだ。でなければと言下に仄めかせてセーラー服の少女を嬲っている年寄りは、実はアスカにこそ囁いているのである。

(…………! そ、そうよ……ヒカリさえイってしまえば……)

次はあたしの番だわと、喜色の欠片が表情に漏れ出てしまう。
一瞬の後には屈辱と後ろめたさとで二重に後悔する感情でしかないが、

(あ、ああ……)

彼女の底を透かして見る老獪な目に、視線をもう捕らえれてしまっているアスカだった。

「ひゃうっ、いっ……っンんッ! ……っ、だっだめぇぇ! イっちゃだめぇぇ……!」

お下げを振り乱して叫ぶ親友。

「わたしっ、私……まだ! まだ欲しいのっ、だから……っく、くぅぅ……ぅ、まだイッちゃ……あ、あーっ!」

悲鳴はむしろ、目覚めも著しい女としての貪欲さが叱咤する、自分自身の一層への欲深さだ。

「どうしたねヒカリ君。急に締め付けが良くなったが……。それともやはり、もうお終いかな?」
「まだ……です、っ。……うっ、んーっ! まだぁ……!」

老人の手にセーラー服の胸の先を摘まれて、クンッとヒカリは背を仰け反らせた。
涙目で、決壊の縁を掠ったアクメを堪えている。

ハッ、ハッ、ハッ ―― !

どうしようもなく上がる一方に違いない呼吸。抑えるためか、口元にあてた手。
そばかすの残る顔は上気しきって、辛そうにも見える表情だが、それがアスカには羨ましくて堪らなく映る。

「まだ……ぁ、イッちゃ……あ、らめぇぇ……」

目付きは朦朧と宙を彷徨っているし、呂律もすっかり怪しくなってきている。
控えめな胸の、老人の手にすっぽりと収まる果実は後ろからいやらしく揉みしだかれていて、ヒカリが真上から跨った肉柱の存在感と相俟つ官能に、厳しく責め立てているのだろう。
ポロポロと零しながら、それでもまだヒカリは、子供のままの華奢な体で耐え凌ごうとしている。

「ご奉仕……しまふからぁぁ……」

懸命に腰を使うことを止めない。
制服のスカートを、教え込まれたまま円を描くように揺さぶる。

「私っ、にっ……ふぁァ……ハ、は……! おじいさまの……おちんちんを……」

『下さい、下さいと……』とうわ言のように繰り返し、真面目な顔で学業に勤しんでいた装いもまだ脱がされていないのに、ヒィヒィと垂れ流す悦がり声だ。
無理強いされる陵辱でありながら、少女の側に交合の意識を求める騎上位。犯されている筈が、犯している。犯してもらっているという倒錯した歓びにスイッチして、ヒカリの脳髄に甘い痺れを呼ぶ。

「くぅん……ン! あひっ、ひぃぃい……い、イーっ……ッっ!」

皺くちゃになったプリーツスカートは、高校に上がったばかりの下ろしたてだったのに。老人の屹立を根元近くまでズチュジュプと咥え込む秘裂部分を中心に、じっとりと愛液の染みが広がっていた。
真っ白なブラウスにも、くっきりとブラジャーが浮かび上がるほどの汗が滲んでいる。

(そんな……そんな気持ち良さそうな貌をしないでよ、ヒカリ……)

アスカの欲求は、狂おしく高まる一方。指で慰めるだけでは満たされないのだ。

「あんっ、ああんっ」
「我慢を続ける方が感じるだろう? そうやって尻に力を入れて、下の口で頬張るのだよ」
「はいっ、はいいっ……! 感じますッ、おじいさまの……仰る通りに……!!」

大した成長振りだと老人が目を細めたのに、アスカの危機感が『そんな……』と募らされたのだった。

「あっ、あ、あたしも……。ご主人様―― !」

どうせ今日もそろそろだなと、横のドライバーも期待していた。
高嶺の花と、年下でありながら憧れた世紀のアイドル少女―― 惣流・アスカ・ラングレーが、愛らしい顔をセックス奴隷のそれに乱れさせて、音を上げるのを。

「あたしもっ……あたしのカラダも使って下さい……! きっと、きっとご主人様に満足して頂けるよう務めますからァ……!」

アスカはどこまでも浅ましく、口を極めて自らの肉体の性玩具としての性能の良さを、そしてどれほど老人のペニスに貫かれるのを望んでいるのかを言い募った。

「セカンドチルドレン様が、なんてまぁ……」

例え保安部の男が冷やかしの口笛を吹こうとも、一度とば口を開けてしまえば、もう止められるものではなかった。
睫毛を震わせ、涙さえ浮かべて、

「あたしのおマ×コっ、冬月さまに犯して欲しくって……もう、ヌルヌルなんです! それに、おっ、オッパイも……!」

見て下さいと、胸もはだけてみせる。
後部座席との間に振り返って、乗り出すようにブラジャーを除けた乳房を差し出しもする。

「こんなにいやらしく、かたくしちゃってるんですっ!」

お願いです。どうか、どうか私を犯して。この躰に燃え盛る欲情の焔を、鎮めて下さい。
それが出来るのは―― あなた様だけなのですから。

「だめぇ! おじいさまは私に……! 私に、して下さってるんだから!」
「ひっ、ヒカリ……」
「アスカは後よっ。ね、そうでしょう? おじいさまぁ」

ヒカリもこの享受する快楽を横取りされたくは無いのだと顔色を変えて、常の彼女からは思いもよらぬ媚態を見せるのだった。

「どうですか……? 私のオマ×コ……アスカにだって負けてないんです」

皺だらけの襟元に、首をよじってチュッチュッと口付けを見舞う。

「だって私はおじいさまだけですもの。おじいさまに女にして頂いて……まだおじいさまだけ。おじいさまの専用なんです」

ほらと胸元までスカートの裾を手繰り上げると、やっと飾り毛の生え始めた下腹部を曝し出した。
粘り気のある蜜を溢れさせる少女の器官。ずっぷりと刺さる寵愛にくぅんと鼻で啼いて、中学校を卒業したばかりの初々しいラヴィアを開いてみせる。
指で左右を摘んで引っ張って―― まだ小さな膣口にペニスが太く打ち込まれている隙間を、その黒ずんだ老人の性器に穢されるのはあまりに冒涜的な、美しいピンクの粘膜を示して、

「どうですか……? ねっ、私の……綺麗ですよね? みんなおじいさまの物なんです。おじいさまだけが、好きにして良いんです」

無意識に出たのだろうが、言葉の裏にあるものは、酷使を受けて鴇色へと変化してしまったアスカのそれに対する嘲笑にも等しい。
老人が見やれば、アスカもまた親友に受けた一言に顔を歪めていた。
それでも、放すまいと腰を深く弾ませるヒカリには、まるで気付いた様子は無い。
ただ夢中になって、蜜壷の中に老人の欲望を納めることに息を切らせていた。

「うんっ、んっ、ふぁああ……」

胸をそらせて持ち上げたウェスト。シートのクッションをバネに利用する動きで情熱的に、グッチュ、グッチュと食い締めている。

「いい……。感じちゃうのよ……アスカぁ」
「ヒカリ……」

床に伝うほどの愛液。自らが分泌して老人のものと混ざったそれを指に掬って、ヒカリは口へ運ぶ。
お預けを食らうアスカに見せ付けるように、恍惚と舌なめずり。
歳には似合わぬ婀娜っぽさだった。

「クックック……。ヒカリ君もまぁ……飼ってやるに申し分の無い牝になったという事だな」

対照的な二人の顔に面白いと気分を良くして、老人はリムジンの行く先を変えさせ、いつかと同じ河原に向かわせたのだった。



◆ ◆ ◆

とっぷりと陽も沈んだ時分になって、リムジンから二人の少女が吐き出された。
バタンと音高く機械操作で閉じるドア。マンションの地下駐車場に残されたのは、今しがたの狂熱の欠片も見えはしない、冷たい響きだった。

「うっ、うっ、うっ……」
「さ、しっかりして。もう帰ってきたのよ、ヒカリ」

嗚咽を零すだけのヒカリを支えて、キーの開いたドアの中に入るアスカ。
疲れきった足取りの二人は、何一つ身に付けてはいなかった。
新調してあっという間にボロ雑巾も同然になったセーラー服は、リムジンのトランクに放り込まれている。本部に付けば、扱いはセカンドチルドレン関連の極秘に指定された―― ただのゴミとして処分されるだろう。
通学カバンは駐車場に残したまま。裸で持って運ぶ気力はさすがに残っていなかったのだ。
どうせこのマンションは、建物自体がアスカ達が飼われている鳥篭のようなもの。他に住民の一人も居ないのだから、後で拾いに行けば済むことだし、ひょっとすれば監視役の黒服達によって明日の朝、嫌みったらしくドアの前に揃えてあるのかもしれない。

「ううっ、うっ、ううう……」
「ヒカリ……立って。体を洗ってあげるから、一緒にシャワーに入りましょう?」
「ううっ、アスカ! アスカぁぁ!!」

アスカの部屋―― 隣り合ったヒカリの為に用意された部屋は殆ど使っていない。実際のところは、少女二人、奴隷暮らしの辛さに身を寄せ合って共同生活をしている―― のバスルームで暖かいシャワーを浴びるヒカリは、今日はじめて老人とはまた別の男に犯された身を清めてもらう間中、アスカに縋り付いて泣いていた。

「ごめん、ごめんなさい……! アスカにあんな酷いこと言って……。わたし、わたし……!」
「良いのよ。分かっているから……ヒカリは何も悪くないの」
「でも……!」
「謝らなくっちゃいけないのはあたしの方よ。あたしと友達でいてくれたばっかりに、ヒカリまでこんなことに……」
「でも、アスカだって辛いのに……。私、親友なのに全然気付いて上げられなかった―― そんな前から酷い目に遭わされてて、それでも頑張ってるのに……!」

くちゃくちゃの萎れた顔で、ごめんなさいと繰り返す。
抱き締めた体はちっぽけだった。

「ごめんアスカ……。私もうダメよぉ……」
「そんな事言わないで、二人で頑張りましょう。きっと……きっと、どうにかしてみせるから」
「だめ……。私にはとても無理……」
「ヒカリ……」
「お姉ちゃんもノゾミも……みんな私のこと変に思ってる。何で一人暮らしなんかするのって……言えるわけないじゃない! お金とかこのマンションのことだって……」

家はネルフといっても下っ端だし、そんなにお金持ちってわけじゃなかったのに、と。その不自然さに口添えしてくれる父親もまた、ヒカリの絶望だった。

「お父さん急に出世したわ……。だからだ―― って、お姉ちゃんは単純に喜んでるし、ノゾミなんて自分も一人暮らしするだなんて言うのよ? わたしだけズルイって……ズルイ、って……」

うっうっと、アスカの胸に顔を伏せる。

「……お父さん、私の顔を見ようとしないの。電話掛けてもいつもすぐお姉ちゃんに替わって……たまに何か話そうとすると、元気かって……それだけで……」

―― 元気なわけないじゃない!

ばっと顔を上げたヒカリが叫んだ。
あまりに感情が強過ぎて、どんな顔をすれば良いのか分からないような歪んだ表情で。瞳には黒々と、奈落の底が覗けるほどの深い穴が開いていた。

「こんなこと誰にも言えやしない。鈴原にも……鈴原にも変だって言われて……いつもどこに行ってるんだって。……何でもないのって答えるしか無いのに……! 鈴原に……鈴原にだけは死んだって……。なのに……! うっ、ううう―― ……!」

アスカの肩に食い込む指が、激情のやり場の無さに震えている。
痛い……とは、アスカは言えなかった。

(痛いのはヒカリの心よ……)

ヒカリの気持ちを思えば、自分を守ってくれる身の回りの全てを失い、さながら世界中が敵であるに等しいのだと分かる。
敵とはネルフであり、サードインパクトの後の今、ネルフとは世界全てと同義だった。
使徒なる怪物が襲来して来てはいても、それ以外はまったく普通の―― 穏やかな学生生活を過ごしていたヒカリにとって、それがどれほどの恐怖だったことか。

「頭が……変になりそう……」
「ヒカリ―― !?」

身を折ってうずくまったヒカリは、搾り出すような声で泣きながら、胃の中身を吐き出していた。

「気持ち悪い……気持ち悪いの。あんなやつらのを飲まされて……それなのに気持ちが良いだなんて……。わたしっ、わたし……っ!」
「しっかりするのよ。ヒカリ……!」

弱々しい少女の背中。
憐憫を向けることの出来る資格は自分には無いだろうと、アスカは自嘲した。
何もかも全ては自分のせいだと考えるからだ。
それに――

(本当は嫌で嫌でたまらないのに、犯されるのが嬉しいと感じてしまう。そのギャップに苦しんでいるのね……)

それは通過儀礼に過ぎないのだと、心のどこか、醒めた目で見ている自分をアスカは感じてもいた。
憎い相手に蹂躙される苦痛に、しばしば勝ってしまう女としての快楽。それを、ヒカリの肉体も調教され続けたことによって覚え始めている。
今は快楽に酔った分、正気に返れば苦しまねばならないが、やがては肉体に続いて心も狂い始めることだろう。

(嫌だという感覚、それ自体が嬉しさに置き換わっていくのよ)

憎めば憎むほど、その相手に躰を開くことが堪えられない愉悦に思えるよう変わって行く。
それどころか、自分から跪いてでも求めたいと考え始めるのだ。
無様だ、おぞましい……と自覚する事は出来ても、そんな自分を嘲ることでさらに歪んだ快感を覚え出す。嫌悪感と被虐官能の悪循環の粋にまで堕ちてしまえば、もうお終いなのである。
マゾヒズムの洗礼に生まれ変わって、最早、セックス奴隷の生き方を止められない女にと成り果てる。

(ああ――

この前までのあたしが居るわ……と、アスカの目には、タイル張りの床に苦しそうに背を丸めた友が見えていた。

(あたしがああやって泣きながら吐いていたのも、丁度一ヶ月かそこらだったかしら……)

ならばと、分かっていた。

「大丈夫だから。ね、ヒカリ……。今は辛いでしょうけど、いつまでも続くことじゃないわ」
「うそ……嘘よ。わたし、もう……このままずっと、酷い目に遭って生きていくのよ……!」
「信じて。きっと楽になれる日が来るから」
「アスカ……」
「あたしが側に居るわ。何があっても、ずっとヒカリと一緒よ」

約束するから。その言葉は果たして真にヒカリの救いたり得たのか。
後にはもう、シャワーが温かに降らせる雨音にも似た合間、アスカとヒカリが吐息を熱くさせている―― それだけだった。



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